著者
浦 達也 長谷部 真 吉崎 真司 北村 亘
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1925, (Released:2021-04-20)
参考文献数
34

風力発電の導入が進むにつれ、日本でも風力発電施設の存在がバードストライクや生息地放棄など鳥類へ影響を与えることが注目されている。欧州では風力発電施設の建設により影響を受ける鳥類の生息地が示された脆弱性マップが自然保護団体を中心に作成され、その活用により計画段階において影響が回避されるようになってきた。日本では風力発電施設の建設が集中する地域があらかじめ分かっているため、まずはそういった場所で地域的な脆弱性マップの作成が試みられるべきである。そこで(公財)日本野鳥の会は、風力発電の建設計画が集中し、かつ希少鳥類の生息地や渡り鳥が多い北海道の宗谷振興局西部地域で脆弱性マップの作成を試みた。脆弱性マップの作成方法について、まずは国内外の情報を収集し、次いで検討会を開催して作成方法等を決定し、検討会での決定事項に現地鳥類調査の結果を当てはめる形で作成した。脆弱性マップの作成開始時点では国内情報はなかったが、海外事例ではイングランド、スコットランド、アイルランド、ギリシャ、スロベニアのものを参考にして、作成方法を検討した。検討会では、脆弱性マップのあり方、衝突確率・回避率の取り扱い、鳥獣保護区等の取り扱い、渡り経路の取り扱い、作成対象となる鳥の種の選定方法、マップ上での脆弱性の表現、バッファーゾーンの取り扱い、脆弱性マップの更新などについて議論した。脆弱性マップ作成の対象となった鳥類は種脆弱性指標が高い種や地域重要種を中心に 23種となった。脆弱性マップは 84個の 5 kmメッシュ(面積約 2100 km2)で表現することとなり、対象鳥類の分布と一つのメッシュ上での重なり具合を考慮して脆弱性を 10段階に分け、それを 4色で表現した。その結果、希少な鳥類の生息地およびガン・ハクチョウ類の渡りが多い対象地域の西部、ハクチョウ類や海ワシ類の渡りが多い対象地域の北部が、風力発電施設による鳥類への脆弱性の高い場所であることが分かった。
著者
長池 卓男
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.103-109, 2016 (Released:2016-10-03)
参考文献数
15

要旨 高山帯・亜高山帯での文化的な生態系サービスの主な享受者である登山者に注目し、ニホンジカの植生への影響の認識を明らかにするために、のべ299人を対象としたアンケート調査を行った。「南アルプスでニホンジカの影響があることについて、ご存じでしたか?」という設問に対しては、「知っていた」が37%、「知らなかった」が62%であった。また、登山歴が長いほど「知っていた」割合が高くなり、各設問での「わからない」という回答が少ない傾向があった。ニホンジカの影響を「知っていた」人の方が、今回登山した際に「見た」割合が高かった。今後、柵の設置などニホンジカ対策を進めるためには、登山者によるニホンジカ問題への理解が重要である。したがって、理解を進めるための普及・広報を広く実施するとともに、登山経験の浅い人をターゲットにすることが有効であることが示唆された。
著者
小柳 知代 富松 裕
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.245-255, 2012-11-30 (Released:2017-10-01)
参考文献数
73
被引用文献数
1

人間活動が引き起こす景観の変化と生物多様性の応答との間には、長いタイムラグが存在する場合がある。これは、種の絶滅や移入が、景観の変化に対して遅れて生じるためであり、このような多様性の応答のタイムラグは"extinction debt"や"colonization (immigration) credit"と呼ばれる。近年、欧米を中心とした研究事例から、絶滅や移入の遅れにともなう生物多様性の応答のタイムラグが、数十年から数百年にも及ぶことが明らかになってきた。タイムラグの長さは、種の生活史形質(移動分散能力や世代時間)によって、また、対象地の景観の履歴(変化速度や変化量)によって異なると考えられる。過去から現在にかけての生物多様性の動態を正しく理解し、将来の生物多様性変化を的確に予測していくためには、現在だけでなく過去の人間活動による影響を考慮する必要がある。景観変化と種の応答の間にある長いタイムラグの存在を認識することは、地域の生物多様性と生態系機能を長期的に維持していくために欠かせない視点であり、日本国内においても、多様な分類群を対象とした研究の蓄積が急務である。
著者
渡部 晃平
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.227-235, 2016 (Released:2017-07-17)
参考文献数
31

水田に生息する水生昆虫の保全のための基礎知見を得ることを目的として、愛媛県の南予地域において野外実験を行い、水田の水利構造上の違い(明渠の有無)とコウチュウ目およびカメムシ目の水生昆虫の群集組成の関係を調査した。田植直後から稲刈り前までの期間に採集された水生昆虫の平均個体数の比較により、明渠では水田の中の本田部分に比べて水生昆虫の個体数が多く、明渠の有無により水田における水生昆虫の群集組成は異なることが示唆された。本田部分で多い種は、ヒメゲンゴロウ、コシマゲンゴロウ、キイロヒラタガムシ、ヒメガムシ、ゴマフガムシであった。これらは、水田で繁殖を行う種が大半を占めており、繁殖環境として明渠よりも本田が適しているものと考えられた。明渠で多い種は、コガシラミズムシ、マダラコガシラミズムシ、コツブゲンゴロウであった。コガシラミズムシとマダラコガシラミズムシは、藻類を食べることが知られていることから、植生が豊富な明渠に集まったものと考えられた。コツブゲンゴロウは、乾期の少ない水域を繁殖環境としており、ため池や湿地の代替的な環境として明渠が選択されたものと考えられた。
著者
宮崎 佑介
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.167-176, 2018 (Released:2018-07-23)
参考文献数
44

今後の市民科学の在り方を議論する上での意見として、科学、研究、市民の概念を整理し、論考した。日本語の「研究」は新規性を重視しない定義づけがなされている一方で、英語の「research」には新規性の有ることがその定義となっている点についての差異が認められた。また、東アジア(日本を含む)では成人のみを市民と捉えることが一般的である可能性がある一方で、西洋では乳幼児から市民として捉え始める場合が多いことを指摘した。次に、佐々木ほか(2016)によって定義された市民科学の概念を、魚類に関する事例にあてはめ、科学への貢献の可能性と課題の抽出を試みた。以上の検討を踏まえ、今後の日本の市民科学が欧米のcitizen science に近いものを目指す必要があることと、同時に日本の独自性を追及していくことの価値を述べた。
著者
諸住 健 小池 文人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1907, (Released:2021-04-20)
参考文献数
27

自然に接することを求める需要に応えるため様々なツーリズムが発達している。日本では海に接する大都市が多く、海岸の生態系は都市生活者にとって身近な自然となり得る。都市において、現在は市民によるアクセスが制限されている護岸などを適切に開発、開放することができれば都市住民の生活の質の向上が見込まれる。本研究では、東京都市圏の都心から郊外を経て農村に至る景観傾度に沿った海岸で、砂浜海岸や岩場海岸、コンクリート護岸、親水石積み護岸などの様々な海岸生態系に対する市民の利用の状況をルートセンサスによる直接観察で調査し、利用人数に影響する要因を統計的に検出した。調査の結果から、利用者数は魚釣り、遊び(砂遊びや水遊び)、生物採集の順に多く、魚釣りと生物採集の利用者数は全体の 53%と半数を超えることがわかった。このことから、市民による海岸生態系の利用には生態系の直接的な利用と関わりが深い需要が多いことが示唆された。最も利用者の多かった魚釣りは、秋にコンクリート護岸で利用者密度が高く成人男性の利用が多かった。遊びでは、初夏に砂浜海岸で利用者密度が高く、性比に偏りは見られなかったが、他の海岸利用と比較して子どもが多かった。生物採集は、初夏に岩場海岸が利用され、遊びについで女性や子どもの利用も多かった。今回の結果から、未開放のコンクリート護岸に対しては魚釣りの潜在的な需要があることや、親水石積み護岸の造成は垂直護岸よりも生物採集が行いやすいため、都市の子どもに自然と接する機会を提供しうることが示された。今回の結果は、都市の人工護岸を未利用の自然資源として開発する際に目的とする利用タイプと利用者属性を定めた計画策定が可能であることを示唆している。
著者
角野 康郎
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.2004, 2020 (Released:2020-12-31)
参考文献数
64

湧水域は特有の環境と生物相を有し、生物多様性保全の観点からも重要な湿地である。近年、外来水生植物の湧水域への侵入と分布拡大の事例が報告され、生態系被害が危惧されている。本調査では、日本の湧水域における外来水生植物の侵入と定着の実態を明らかにすることを目的に、北海道、東北地方南部、南九州をのぞく全国 26都府県の湧水河川ならびに湧泉 201カ所を調査した。そのうち維管束植物が生育していたのは 165地点で、沈水形で生育していた陸生植物も含め 69種が記録された。この結果に基づき、在来種も含め、湧水域における水生植物相の特徴を考察した。外来種は 20種が 114地点から確認され、我が国の湧水域に広く侵入・定着している実態が明らかになった。オランダガラシ(広義)、オオカワヂシャ、コカナダモが多くの地点で確認されたほか、イケノミズハコベ、オオカナダモ、キショウブが 10カ所以上の地点で確認された。これら外来水生植物の生態リスクには湧水特有の環境が関係していることを論じるとともに、今後の課題について考察した。
著者
照井 滋晴 太田 宏 石川 博規 郷田 智章
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.67-73, 2018 (Released:2018-07-23)
参考文献数
17

冬期にまとまった積雪のある北海道・東北地方において、道路への融雪剤の散布は交通の安全性の確保の面からは不可欠であるが、一方で、動植物に悪影響を及ぼすことが懸念されている。そこで本研究では、融雪剤として利用されるCaCl2 が、どの程度の濃度でサンショウウオの卵や幼生の生存に影響を与えるのかを把握することを目的とし、エゾサンショウウオとトウホクサンショウウオの卵嚢と幼生を用いてCaCl2 曝露実験を行った。卵嚢を用いた実験の結果、エゾサンショウウオの半数致死濃度(以下、LC50 と表記)の推定値(CaCl2 換算)は316.6 mg/L、トウホクサンショウウオでは234.4 mg/L であった。幼生を用いた実験では、エゾサンショウウオのLC50 の推定値(CaCl2換算)は271.1 mg/L、トウホクサンショウウオでは519.0 mg/L であった。加えて、エゾサンショウウオの卵嚢を用いた実験では、400 mg/L 以上の濃度の水溶液中で孵化した幼生の17.9%は外鰓が委縮しており、たとえ孵化することができたとしてもCaCl2 の影響により形態的な異常が生じる可能性が示唆された。これらの結果は、残留するCaCl2 の濃度次第では自然条件下の繁殖水域においても、融雪剤の散布がエゾサンショウウオ及びトウホクサンショウウオの卵や幼生に対して孵化率や生存率の低下をもたらしうることを示唆している。
著者
森田 理仁
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.549-560, 2016 (Released:2016-12-28)
参考文献数
32

本論文は生態学の分野の中でも、ヒトの行動の進化に関する研究の事例に注目して、科学と社会の関係を考察したものである。科学コミュニケーションの課題が顕著に表れるヒトを対象とした事例をおもに取り上げるが、背景に存在する科学の性質や問題意識は、程度に違いはあるものの他の生物における研究とも広く共通している。ヒトの行動について生物学的な説明を与えることに対しては、これまでに多くの批判がなされてきた。その最も顕著な例が、社会生物学論争である。E・O・ウィルソンは1975年に『社会生物学』を出版し、ヒトの行動を生物学の理論をもとに説明することを試みた。これに対して、R・C・ルウォンティンやS・J・グールドらは、ウィルソンの試みは社会にとってのさまざまな危険をはらむと痛烈に批判し、その批判は大規模な論争に発展した。ここでルウォンティンらは、社会生物学を生物学的決定論や適応主義などの点から批判し、研究がもつ「社会的・倫理的リスク」を危惧した。彼らの批判において指摘された重要な問題は、社会生物学は現代社会の価値観や先入観が反映されたものであり、それがさらに社会の現状の正当化や変更不可能であるといった考え方をもたらすという「二重の過程」と、研究者の意図に関わらず成果が誤解されてしまうという「意図せずに起こる誤解」の二つである。J・オルコックは2001年に『社会生物学の勝利』を出版し、社会生物学に対する批判を退けたかのように見えるが、実際にはオルコックと批判者たちの主張にはかみ合っていない部分も存在する。本論文では、社会生物学論争の要点をまとめ、その現代的意義を明らかにする。そして論争に関連して、進化生物学の研究成果が社会的・政治的に誤解・誤用された近年の事例、および、著者自身の少子化についての研究例を踏まえた上で、現代におけるヒトの行動に関する進化生物学的研究をどのように進めていけばよいか、そして、研究成果をどのように発信していけばよいかについて考察する。具体的には、(1)仮説を検証するために十分な証拠を集めること、(2)主張の誤用ができる限り起こらないように注意して発表すること、(3)誤用が起きた場合にはそれを公に指摘すること、という三点(Alcock 2001, pp. 194-195, 邦訳pp. 298-300)の重要性を改めて指摘するとともに、学会が担う社会的役割にも言及する。
著者
鬼頭 健介
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2125, (Released:2022-08-03)
参考文献数
41

生態系サービスを持続的に享受するためには、その定量的評価が重要であるが、文化的サービスの評価は他の生態系サービスと比べて進んでいない。文化的サービスの 1つである、芸術にインスピレーションを与えるサービスは、生態系を対象にした芸術作品の数を用いて評価されつつある。しかし、一般市民が作った現代の芸術作品を評価した国内の事例はない。そこで本研究では、鳥類を対象にした現代俳句を題材に、本サービスの定量的な評価を試みた。朝日新聞の投句欄である朝日俳壇に掲載された俳句の中から、鳥類を対象にした俳句を収集し、 2014 -2019年に掲載された鳥類の各科の俳句数と生息環境の関係を調べた。さらに、 1996 -2019年に掲載された鳥類を対象にした俳句数の年変化を調べ、本サービスの増減傾向を調べた。解析の結果、農地、湖沼河川に生息している鳥類の科の俳句数が多いことが分かった。両環境では人と鳥類が生活空間を共有しているため、本サービスが提供されやすいと考えられた。俳句数の変化を調べた結果、鳥類を対象にした俳句の総数は変化していなかった。しかしその内訳を調べると、特定の科に限定されない鳥綱全体を対象とした俳句は増加しており、特定の各科を対象とした俳句は減少していた。この傾向の理由として、特定の科を対象とする俳句を詠むのに必要な、種の識別や生態に関する知識レベルや、詳細な観察意欲が低下していることが影響している可能性が考えられた。これらの結果を踏まえて、農地と湖沼河川を中心とした生態系の保全や、生態に関する知識の教育などが、本サービスの維持にとって重要である可能性が考えられた。本研究は、日本の現代の芸術を対象にインスピレーションサービスを定量的に評価した貴重な事例である。この結果を他の生態系サービスの定量的評価に統合することで、よりバランスの取れた保全に関わる意思決定につながるだろう。
著者
高槻 成紀
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.101-106, 2005
参考文献数
16
被引用文献数
1

"Sika deer problems" in Japan are primarily thought of as pest problems affecting agriculture and forestry, although attention has recently been given to their effects on natural vegetation. In decision making regarding deer problems, the opinions of urban residents have relatively little influence. A problem that must be taken into account when planning deer management programs is the concern that sika deer are destroying natural habitats in Japan and therefore cannot be allowed to increase in number. There is also conflict between agriculture-oriented offices, which target damage control, and conservation-oriented offices, which target biodiversity conservation. Local officers are often influenced by mass communication, which may oversimplify the issue as one of deer population problems. Important information needed for effective deer management includes the proper evaluation of damage, vegetation, and deer habitats. Deer population assessment is of low priority. It is necessary to avoid repeating previous mistakes that considered deer population to be a high priority issue. Continuous monitoring by wildlife specialists for at least five years is essential.
著者
奥田 圭 藤間 理央 根岸 優希 ヒントン トーマス G. スマイサー ティモシー J. 玉手 英利 兼子 伸吾
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.137-144, 2018 (Released:2018-07-23)
参考文献数
27

2011 年の東北地方太平洋沖地震は、福島県の一部地域における人間活動を大きく変えた。福島第一原子力発電所の津波被害やその後に生じた放射能汚染は、結果的に放棄耕作地や住民の避難に伴う空き家を増加させ、避難区域内における家畜の逸出を招き、野生の哺乳動物の個体群も拡大させた。本研究では、福島県におけるニホンイノシシと逸出したブタとの交雑の可能性を検証した。2014 年から2016 年の間に福島県内の個体群から集められた75 頭のニホンイノシシのミトコンドリアDNA 配列を分析した結果、71 個体からはニホンイノシシ固有の既知の配列が得られたが、それらから著しく分化したブタに該当する配列が4 個体から得られた。この結果は、野生化したブタからニホンイノシシ個体群への遺伝子汚染を示唆している。また、今回の知見は、当該地域における核DNA マーカーを用いた詳細な遺伝解析とモニタリングに基づく個体群管理の必要性を示唆している。
著者
中山 新一朗 阿部 真人 岡村 寛
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.241-253, 2015-11-30 (Released:2017-05-23)
参考文献数
26
被引用文献数
2

生態学者はしばしば、複数の時系列データからそれらの間に存在する因果関係を推定する必要に迫られる。しかし、生物学的事象は決定論的かつ非線形で複雑な過程を背景に持つのが一般的であり、そのような応答から生じた時系列データ間の因果関係を推定するのは非常に困難である。本稿では、このような状況において有効である因果関係推定法であるConvergent cross mappingについて、その仕組み、使い方、将来の課題等を解説する。
著者
土居 秀幸 岡村 寛
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.3-20, 2011-03-30 (Released:2017-04-21)
参考文献数
49
被引用文献数
18

群集生態学では、古くから類似度指数を用いた解析が頻繁に用いられてきた。しかし近年、汎用性の高い新たな類似度や検定手法が提案されているにもかかわらず、それらが十分に普及し利用されているとは言い難い。そこで、本総説では、現在までに発表されている代表的で有用な類似度、それを使ったグラフ表示、統計的検定について解説を行う。各類似度の成り立ち、指数ごとの特性、利用方法について初学者向けの説明を試みる。各種手法の理解の助けのため、統計ソフトRのveganパッケージを用いた分析を取り上げ、例題や付録のRコードを用いてveganによる解析手順を紹介する。利用実態としては、Jaccard指数など古くから提案されている指数が近年でも多く用いられているが、Chaoによって近年開発された指数は希少種を考慮した汎用性の高い類似度指数として優れており、Chao指数の利用が促進されることが望ましい。また、類似度を用いた検定についてもPERMANOVAなどの新しい統計手法の利用が図られるべきである。今後の群集解析において、これらの手法が取り入れられることにより、より適切な生態系の評価が行われ、新たな発見につながることが期待される。
著者
伊東 宏樹
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.361-374, 2016 (Released:2016-08-24)
参考文献数
25
被引用文献数
6

状態空間モデルを使用した統計解析をおこなうためのソフトウェア環境として、dlm・KFAS・BUGS言語・Stanを紹介する。dlmおよびKFASはRパッケージであり、比較的簡単に利用可能である。dlmは誤差分布に正規分布のみ利用可能であるが、KFASではポアソン分布なども利用可能である。一方、パラメーター推定に関してはdlmでは最尤推定のほか、マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)によるベイズ推定が可能である。BUGS言語は、MCMCによるベイズ推定のためのモデリング言語であり、実行処理系としてはWinBUGS、OpenBUGS、JAGSがある。柔軟なモデリングが可能であり、状態空間モデルを記述することもできる。Stanは比較的新しいソフトウェアであるが、ハミルトニアンモンテカルロ法を使ってベイズ推定をおこなえる。Stanにはgaussian_dlm_obsという分布が用意されており、この分布を使用して、誤差分布が正規分布の状態空間モデルのパラメーター推定がおこなえる。また、gaussian_dlm_obs分布を使用せずに、状態空間モデルを記述することも可能である。複雑なモデルのパラメーター推定は、BUGS言語またはStanによりベイズ推定でおこなうことになるだろうが、dlmやKFASで最尤推定が可能なモデルであればそれらを使用する方が実用的であろう。
著者
岡本 八寿祐 中村 雅彦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.193-202, 2009-11-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
21
被引用文献数
1

毎年、大量の外国産クワガタムシ・カブトムシが日本に輸入されている。このような現状の中、在来種との競合、交雑など様々な問題点が指摘され、それに関わる検証実験等が報告されている。しかし、その報告の多くは外国産クワガタムシの例であり、外国産カブトムシの例はほとんどない。外国産カブトムシも外国産クワガタムシと同様、定着、競合など生態系や在来種への影響等のリスク評価を行なう必要がある。本研究では、コーカサスオオカブトムシが、成虫期・幼虫期で日本の野外で定着することができるのか、また、日本本土産カブトムシと競合し、その採餌行動等に影響を与えるのかを調べた。野外観察と飼育実験の結果、コーカサスオオカブトムシの成虫は、日本本土産カブトムシと同等に生存し、産卵した。また、野外でコナラの樹液を吸った。しかし、幼虫は、冬に野外で生存できなかった。これらのことから、コーカサスオオカブトムシの日本への定着は、困難であることが示唆された。成虫の活動に関しては、コーカサスオオカブトムシの雄の活動時間帯は、日本本土産カブトムシの雄と重なる時間帯があり、餌場で闘争した場合、コーカサスオオカブトムシが勝つことが多かった。これらのことから、コーカサスオオカブトムシは、逃げ出したり放虫された成虫が、野外で活動する際、日本本土産カブトムシと競合し、その採餌行動に影響を及ぼす可能性が高いと考えられた。
著者
諸澤 崇裕 萩原 富司 熊谷 正裕 荒井 聡 奥井 登美子 岩崎 淳子 三浦 一輝
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2213, (Released:2023-04-30)
参考文献数
39

霞ケ浦において、定置網で漁獲された魚類を参加者が回収、種同定、重量の計測を行い、最後に漁獲物の一部を試食し、群集調査を行う一日漁師体験というイベント型の市民参加型モニタリングを 2006 年 4 月から 2020 年 1 月までの期間、月に 1 回程度の頻度で実施した。計 142 回のイベントを実施し、参加者数はのべ 2177 人、1 回あたりの参加者数は約 20 名であった。モニタリングの結果、在来種については、シラウオ Salangichthys microdon、オイカワ Opsariichthys platypus、クルメサヨリ Hyporhamphus intermedius、アシシロハゼ Acanthogobius lactipes、マハゼ Acanthogobius flavimanus、ジュズカケハゼ Gymnogobius castaneus などが一時的に減少したのち再び増加傾向に転じたこと、タナゴ類は 2009 年ごろを境に確認されなくなったことが明らかとなった。また、外来種については、国外外来種のダントウボウ Megalobrama amblycephala が 2018 年から確認され始めたほか、国内外来種のゼゼラ Biwia zezera が 2013 年から確認され始めるなど新規定着、もしくは増加傾向の種が確認できた。さらに、国外外来種のアオウオ Mylopharyngodon piceus やペヘレイ Odontesthes bonariensis については、2010 年以降確認されなくなり、外来種の減少傾向も捉えることができた。以上の結果から市民参加型モニタリングが在来種や絶滅危惧種の増減、外来種の定着や増減を把握するために有効であることが示唆された。一方で、15 年間継続したモニタリングも新型コロナウィルスの流行等により継続できなくなり、継続性という観点からイベント型の市民参加型モニタリングの課題も明らかとなった。
著者
林 岳彦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.289-299, 2009 (Released:2017-04-20)
参考文献数
59
被引用文献数
4

性的対立とは、繁殖にかかわる事象を巡るオスメス間での利害の対立を指す。性的対立は繁殖形質における軍拡競争の原因となり、その結果として集団間の急激な繁殖隔離(種分化)を引き起こす可能性が示唆されている。本総説では、まず性的対立説についての概説を行い、次いで性選択理論としての性的対立説の特徴について古典的性選択理論(ランナウェイ説、優良遺伝子説)との比較をしながら整理を行う。さらに、性的対立説が引き起こす進化的帰結について理論的な観点から整理し、性的対立説と種分化の関係について議論する。
著者
京極 大助 川津 一隆
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.1-7, 2023 (Released:2023-04-21)
参考文献数
15

博士課程学生と教員の関係には独特の難しさ-科学研究に不慣れな学生は様々なサポートを必要とする一方で、教員の多くはそのための教育を受けていない-がある。そのため学生・教員ともにどのように振る舞えば良いか悩むことも多いのではないだろうか。より良い博士課程の実現には、現状にある課題を整理し議論することから始めなければならない。こうした問題意識から、筆者らは2017 年3 月の日本生態学会において自由集会「Ph.D の育ちかた、育て方。」を主催した。本稿では自由集会の企画趣旨説明をベースに、学生と教員の関係を考えるためのヒントを提示する。具体的には、1)生態学という分野の特殊性と時代の変化のため、他分野や過去の事例が必ずしも現代生態学の博士課程に適用可能とは限らない;2)「より良い博士課程」は多義的であり、唯一の正解は存在しないだろう;3)学生と教員の関係に影響する要因は多岐にわたり、最低限満たされるべき条件と理想的な状態という少なくとも2 つの異なる視点が存在する、という三点を明確にする。こうした事実を認めたうえで、学生と教員の相性と、双方の資質について考えるための簡単なフレームワークを提示する。本稿の目的は博士課程のあり方に関する議論を喚起することにあるが、こうした議論を行う上での注意点も指摘する。自由集会の準備過程、自由集会で語られたこと、自由集会後に報告された調査結果についても紹介する。