著者
新開 省二 渡辺 修一郎 渡辺 孟
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.30, no.7, pp.577-581, 1993-07-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
10

基礎代謝量と関連が深い除脂肪量 (LBM) は加齢とともに減少する. しかし, 40歳代から60歳代の中高年者の基礎代謝量とその関連要因についての重回帰分析の結果からは, LBMの減少のみで加齢による基礎代謝量の減少は説明できなかった. そこで, 除脂肪組織成分 (EBM) と脂肪組織成分 (FTM) ごとの基礎代謝産熱量を性別, 年代別に推定した結果, 男女とも40歳代から60歳代にかけ, EBM単位重量当たりの基礎代謝産熱量が漸次減少していることが判明した. すなわち, 加齢に伴う基礎代謝量の低下には, 活性組織量の減少とともに活性組織単位重量当たりの基礎代謝量が減少していることも関与していることが示唆された.中高年肥満女性に15週間の有酸素運動トレーニングを処方した結果, 全身持久力が向上し, 体構成でEBMが増加し, さらにEBM単位重量当たりの基礎代謝産熱量が21%増加した. 他方, FTMの基礎代謝産熱量には変化を生じなかった. このことから, 中高年者の活性組織の代謝活性ひいては全身の基礎代謝を向上する上で, 有酸素運動トレーニングが有効であることが示された.さらに, 70歳代および80歳代の高齢者では個人差が大きいものの, 日常生活活動レベルが高いほど基礎代謝量が高く維持されているようであった. 身体的運動を継続する, あるいは活動的な生活を送ることによって加齢に伴う基礎代謝の低下を抑制し, 老人のエネルギー代謝を改善することが期待できる.
著者
冲永 壯治 古川 勝敏 石木 愛子 冨田 尚希 荒井 啓行
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.136-142, 2017
被引用文献数
1

<p>東日本大震災のような超大型災害では被害の規模が大きく,復興に時間がかかる.しかし5年や10年といったスパンは高齢者にとって未来に希望を持ちにくい長さである.従ってその復興の過程において高齢者の生活の質を保つ努力が必要になる.はたして東日本大震災後はどうであったか,今後どうなるのか,そして新たな大規模災害に対して高齢者を守る手立ては講じられているのか.その問に対して東日本大震災の経過を4期に分け,それぞれの時期に特有な高齢者の健康問題を提示して解決策を模索したい.</p>
著者
金森 雅夫 鈴木 みずえ 山本 清美 神田 政宏 松井 由美 小嶋 永実 竹内 志保美 大城 一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.659-664, 2001-09-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
17
被引用文献数
12 14

デイケアに通所する痴呆性老人のうち, 事前に動物の嗜好, 飼育体験, 動物のアレルギーを聞き, 本研究に関する本人と家族の同意・承諾を得られた7名 (男性2名, 女性5名: 年齢69~88歳, 平均年齢79.43歳 (±6.06) に対し動物介在療法 (Animal Assisted Therapy: AAT) を実施した. 期間は平成11年7月27日から10月12日までの隔週計6回, 場所は対象者が普段利用するデイケア施設にて行ない, 以下の結果を得た.(1) MMSの平均値を比較すると11.43 (±9.00) から12.29 (±9.69) と僅かに上昇した. コントロール群では10.20 (±7.04) から9.50 (±6.26) と僅かに低下が認められた.(2) N-ADLでは, 28.43 (±14.00) から29.57 (±14.47) とわずかに上昇したが, コントロール群では29.70 (±11.02) から28.95 (±10.92) とわずかに変化した.(3) Bhave-ADではAAT群の合計は11.14 (±4.85) から7.29 (±7.11) と有意な下降を示していた (p<0.05). コントロール群は5.45 (±3.27) から5.63 (±3.59) と僅かに上昇していた. AAT群は「D. 攻撃性」,「G. 不安および恐怖」,「全体評価 (介護負担)」において3カ月後は有意に下降していた (p<0.05).(4) 表情分析によるコミュニケーション行動評価では, AAT群は28.71 (±2.87) から28.14 (±3.76) とわずかに下降していたが, コントロール群では, 26.55 (±4.95) から25.35 (±5.58) と有意に下降していた(p<0.05). コントロール群では「うなずき」,「会話量」,「会話内容の適切性」,「接近行動」の4項目においてコントロール群が有意に下降していた (p<0.05).(5) 精神ストレス指標であるクロモグラニンA (CgA) の評価ではAAT群の平均値は0.327 (±0.043) から0.141 (±0.115) とt検定によりやや差のある傾向が認められた (p=0.084). コントロール群において平均値は0.316 (±0.145) から0.377 (±0.153) と有意ではないが, 僅かに上昇していた.本研究は, AATの評価手法を検討することを目的に既存の評価尺度とCgAの測定を用いた. 既存の評価方法を組み合わせることにより患者の変化の側面を捉える可能性が示唆された.
著者
武原 格
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.197-201, 2018-04-25 (Released:2018-05-18)
参考文献数
17

加齢にともなう認知機能の低下が,高齢者の自動車運転に影響を及ぼすことは,広く知られている.しかし,加齢に伴う身体機能の変化が安全運転に及ぼす影響については知られていない.近年眼科領域にて緑内障による視野欠損と運転に関する報告が相次いでいる.変形性関節症や椎間板ヘルニア,それらの手術後影響,難聴なども安全運転に関わってくる.本稿では,これら疾患の安全運転への影響と対応について解説した.
著者
森本 茂人 今中 俊爾 荻原 俊男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.395-400, 1989-07-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

副甲状腺ホルモン(以下PTHと略す)の血圧に与える影響について若年者及び高齢者において比較検討した. 健常若年者15例 (平均年齢±標準偏差: 20.9±1.7歳, 男性7例, 女性8例) および健常高齢者11例 (78.1±5.9歳, 男性4例, 女性7例) に対して合成ヒトPTH (1-34) の100単位を急速静注負荷すると, これら全ての例において, 一過性の降圧効果を認めた. 血圧の基礎値からの最大降下度は, 収縮期血圧において高齢者群(42.5±13.9mmHg)が若年者群 (8.0±8.9mmHg) よりも有意 (p<0.01) に大きかったが, 拡張期血圧においては高齢者群 (25.5±9.4mmHg) と若年者群 (27.3±10.9mmHg) との間に有意差は認められなかった. 平均血圧における最大降下度は高齢者群 (31.9±8.7mmHg) が若年者群 (20.6±7.6mmHg) よりも有意 (p<0.01) に大きかった. 一方, 血清補正カルシウム値は高齢者群 (9.6±0.2mg/dl) において若年者群 (10.0±0.3mg/dl) よりも有意 (p<0.01) に低下しており, またC端に特異性を有する抗体を用いたRIAにより測定した血清中の内因性PTH値は高齢者群 (270±80pg/ml) において若年者群 (150±80pg/ml) よりも有意の高値を示した. 若年者及び高齢者を合わせた全体例において血清補正Ca値は収縮期血圧の最大降圧値と有意の負の相関 (r=-0.52, p<0.01) を示し, また血清の内因性PTH値は収縮期血圧の最大降圧値 (r=0.61, p<0.01) および平均血圧の最大降圧値 (r=0.42, p<0.05) と有意の正の相関を示した. 高齢者においては外因性PTHは血管拡張作用のみならず, 心機能抑制作用をも有し, これらの作用は高齢者におけるカルシウム代謝異常と関係していることが示唆された.
著者
横手 幸太郎 山之内 博 水谷 俊雄 嶋田 裕之
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.35-40, 1992-01-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
18
被引用文献数
3 4

今回我々は, 最近18年間の東京都老人医療センターにおける連続剖検例のうち, 脳の病理学的所見からウェルニッケ脳症と診断された5症例を対象に, その臨床像の特徴を検討した. すなわち, 病理所見上1) 肉眼的に両側乳頭体の点状出血または褐色を帯びた萎縮がみられる. 2) 組織学的に, 乳頭体, 第3脳室周囲, 中脳中心灰白質に出血, 毛細血管の増生, マクロファージの動員がみられるが, これに比して, 神経細胞の脱落は比較的軽度である. 等の特徴を持つものをウェルニッケ脳症とした.年齢は63歳から74歳 (平均年齢67±4歳), 5例とも女性であった. 基礎疾患は神経疾患, 代謝性疾患, 悪性腫瘍, 消化器系疾患と多岐にわたっていた. 生前にウェルニッケ脳症と診断されたものは5症例中1例のみであった. 臨床症状としては, 意識障害が5症例中4例で確認され, うち2例は,「昏睡状態」を呈していた. また, 眼球運動障害と, 不安定歩行・運動失調がそれぞれ5例中2例にみられた. いわゆる3主徴 (ataxia, confusion, ophthalmoplegia) を揃えていたのは5例中2例であった. 臨床検査所見では, 白血球増多, 貧血が5例中3例, 低蛋白血症が5例中4例にみられた. 生前に血中 thiamine 値の測定された2症例では, いずれも正常値を示していた. 生前, アルコール常用者だったものは1例のみであり, 他はいずれも低栄養に関連して発症していた. 5例中4例までは, 発症時, ビタミンの不足した補液を受けていた.比較的容易に低栄養状態に陥り易い老年者において原因不明の意識障害を見た場合, 鑑別診断の1つにウェルニッケ脳症を加えて対処すべきであり, たとえ典型的な症状がなくとも直ちに thiamine の経静脈的投与を開始すべきである.
著者
武田 正中 立花 久大 奥田 文悟 川端 啓太 杉田 實
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.363-368, 1993-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
20
被引用文献数
6 9

パーキンソン病 (PD) 患者を痴呆群と非痴呆群とに分け, 事象関連電位 (ERP) と視覚誘発電位 (VEP) を測定し, それぞれ比較検討した. 対象はPD痴呆群9例, 非痴呆群19例, 正常対照群28例である. ERPは聴覚刺激の oddball 課題を用い, VEPは図形反転刺激を用いた. その結果PD痴呆群ではERPのN200, P300潜時およびVEPのP100潜時は正常者群およびPD非痴呆群に比し有意に延長していた. 正常者群とPD非痴呆群との間にはERP, VEPともに有意な差は認めなかった. またPD痴呆群でERPのN200潜時とVEPのP100潜時の間に有意な相関関係が認められた. P300潜時とVEPのP100潜時との間にもその傾向が見られた. 以上の結果より, PD患者においてはERPのP300潜時のみでなくN200潜時も認知機能障害の指標となりうることが示唆された. またVEPのP100潜時の延長は, 網膜レベルよりも中枢の視覚伝導路での障害を示唆するものと考えられた. さらにPD痴呆群では視覚刺激に対する大脳反応性の低下は認知機能や情報処理機能の低下とある程度並行して起こっていくことが示唆された.
著者
荒井 啓行 鈴木 朋子 佐々木 英忠 花輪 壽彦 鳥居塚 和生 山田 陽城
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.212-215, 2000-03-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
10
被引用文献数
5 10

Choline acetyltransferase 活性増強作用と神経栄養因子様作用を有する漢方処方の加味温胆湯 (KUT) を用いて, Alzheimer 病 (AD) への治療介入を試みた. 認知機能は, Folstein らの Mini-Mental State Examination (MMSE) スコアで評価し, その年変化を指標とした. Baseline MMSEは, KUT群 (20例) で18.6±6.8, コントロール群 (32例) で20.8±5.6であった. KUTは北里研究所東洋医学研究所薬局処方集第3版に基づき, 煎出し, 平均約1年間服用した. 悪心, 嘔吐, 下痢などのコリン作動性神経刺激症状は認められなかった. コントロール群では, MMSE年変化は4.1ポイントの悪化であったのに対して, KUT群では1.4ポイントの悪化であった (p=0.04). KUTの効果は漢方医学的ないわゆる証やApoE遺伝子型に依存しなかった. KUT投与前後で脳脊髄液tau値やAβ1-42値に有意な変動は見られなかった. KUTは, 少なくとも初期から中期にかけてのADにおいて進行抑制効果を有するものと考えられた.
著者
櫻井 孝 楊 波 高田 俊宏 横野 浩一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.12, pp.962-965, 2000-12-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
4
被引用文献数
4 5

アルツハイマー病脳ではグルコース代謝率の低下, 乳酸代謝率の上昇が知られている. そこで細胞外液のグルコース濃度を調節し, 或いは乳酸に置換した時の神経活動, シナプスの可塑性および神経の生存について検討を行なった. 神経活動は海馬の貫通線維を刺激して歯状回で記録される集合電位の振幅で評価した. 細胞外液のグルコースを除くと神経活動は非可逆性に抑制されたが, グルコースを乳酸に置換すると神経活動は一過性に抑制されたが自然に回復した. 一旦無グルコースから回復した海馬切片では乳酸による神経活動の抑制は見られなかった. シナプスの可塑性は長期増強現象の発現について検討した. 細胞外液に10mMグルコースが存在する時は高頻度刺激により約140%の長期増強現象を誘発したが, 乳酸では神経活動の増強は約110%に留まった. 次に海馬スライス培養系を用いて乳酸の神経生存に及ぼす作用を検討した. 培養24~48時間では Propidium iodide の取り込み, LDHの分泌は乳酸栄養での培養ではグルコース栄養での培養と同程度に抑制した. 以上の結果より神経細胞でグルコースの利用が障害された時, 乳酸は神経活動の維持に利用され, 神経細胞の生存にも寄与するが, シナプス可塑的現象 (長期増強現象) の発現には十分でないことが示された.
著者
並木 正義
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.85-95, 1994-02-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

老年者とストレスについて, 基礎的および臨床的立場から, これまでわれわれが行ってきた研究を中心に述べた.基礎的研究として加齢とストレスに関する免疫神経内泌学的研究の一端を示した.ストレスに関連して副腎皮質から cortisol と dehydroepiandrosterone-sulfate (DHEA-S) が分泌され, 尿中の17-OHCSおよび17-KS-Sとして測定される. この両者の分泌動態を分析することによって, ストレスと加齢の病態生理を客観的に評価することができること, また両者のアンバランスによって, ストレス関連疾患や老化現象が引き起こされることなど具体的データを示しながら述べた.臨床的研究としては, その発症や経過にストレスが密接に関係するストレス関連疾患 (心身症, 神経症, うつなど) につき, 参考事例をあげ, 老年者ゆえに留意しなければならない点を指摘した. 心身症の代表的疾患としての消化性潰瘍, 特に老年者の潰瘍症について多くの資料をもとに述べた. そのほか過敏性腸症候群, 呑気症, 神経性腹部膨満症, さらにうつ (うつ病およびうつ状態) について老年者として考慮を要する点をあげた. また膵癌にうつの合併が何故目立って頻度が高いかについて, われわれの研究結果を示した.最後に老年者のストレス関連疾患の治療にあたっては, 心身両面からの的確な全人的アプローチがきわめて重要であることを強調した.
著者
福島 秀樹 吉冨 隆二 山出 渉 杉本 忠彦 足達 綱三郎 西 重敬 大鶴 昇
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.228-233, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
4

目的:心不全・腎不全の終末期に全身浮腫をきたすことは通常よくみられる.その中で,全身から大量の浸出液を認める症例が散見され,今回我々は,このような症例について検討を行った.方法:対象は,終末期に低栄養,心・腎不全から乏尿をきたして死亡された患者のうち,全身浮腫をきたし,1日に3,000 ml 以上の浸出液を認めた3例(いずれも男性,81,89,97歳)である.同様に死亡された患者で,浸出液が1日に1,000 ml 以下であった比較患者20例(男10,女10,平均82歳)との間で,一般血液検査値,乏尿に陥ってからの生存期間を比較した.また対象において,同時に採取した浸出液と血清との生化学検査の比較を行った.結果:対象と比較患者の間では,対象の血清BUNが高値傾向(平均138 vs 81 mg/dl )である以外には血液検査値に差を認めず,また対象では乏尿に陥ってからの生存期間が比較患者様より長い傾向(平均14 vs 7日)を認めた.また対象における浸出液と血清の生化学検査の比較では,蛋白,脂質,AST,ALT,γ-GTP,Ca,CRPは浸出液が血清より低値であったが,BUN,Cr,UA,K,Clは浸出液と血清でほぼ同値であった.結論:大量浸出液をきたす原因は,血管透過性を亢進するさまざまな要因の複合が示唆されるが,浸出液中には血清とほぼ同濃度のBUN,UA,Kが含まれる.大量浸出液をきたした患者様では,特にKが体外に排出されることにより,乏尿に陥ってからの生存期間が長くなった可能性も考えられた.また大量浸出液をきたした患者様では,そうでなかった患者様との間で,一般血液検査には明確な差異を認めず,どのような患者様が大量浸出液をきたすかについては,今後の検討を要する.
著者
高井 逸史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.220-225, 2010 (Released:2010-07-05)
参考文献数
23
被引用文献数
2 3

目的:転倒恐怖感は様々な活動制限を来たし,転倒そのものよりも深刻な問題として近年注目されている.転倒経験者は転倒恐怖感のほか注意能力低下も報告されている.そこで転倒歴のある要介護高齢者を対象に注意課題を伴うバランス練習が転倒恐怖感に影響を及ぼすか検討した.対象:転倒を経験した施設要介護高齢者22名(男性3名,女性19名,平均年齢83.1±5.2歳)とした.方法:被験者をバランス練習のみの運動群と,口頭指示と内省報告による注意課題を伴うバランス練習を注意運動群の2群に分け週3回の5分間,10週間実施した.転倒恐怖感(Fall Efficacy Scale;FES),Functional Reach Test(FRT),Timed Up & Go Test(TUG),10 m歩行時間を介入前後に計測した.結果:両群ともFRTは向上したが(p<0.05),注意運動群のみTUGが向上し(p<0.05)転倒恐怖感が減少した(p<0.05).結語:転倒歴のある要介護高齢者の転倒恐怖感軽減には,バランス能力向上のほか,注意機能向上も必要と考える.
著者
服部 孝道
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.477-478, 2008 (Released:2008-12-05)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1
著者
斎藤 拓朗 添田 暢俊 樋口 光徳 押部 郁朗 渡部 晶之 根本 鉄太郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.299-313, 2017-07-25 (Released:2017-08-29)
参考文献数
123

わが国は,2035年には3人に1人が65歳以上という超高齢化社会を迎える.高齢者の周術期管理では術前,すでに複数の慢性疾患を有する場合が多く,特に糖尿病に対する対策は重要である.血糖コントロールの目標は日本糖尿病学会と日本老年医学会合同委員会の目標設定に準じる.周術期における具体的な血糖値は強化インスリン療法ではなく血糖180 mg/dlを目安とし,インスリンを併用する管理が推奨されている.手術に伴うリスク評価では,フレイル,サルコペニアなどに留意し,さらに社会的背景も考慮した高齢者総合的機能評価(CGA)に基づく総合的評価を要する.フレイル,サルコペニアは栄養障害と密接な関係にあり,感染症をはじめとする術後合併症を回避するという観点から,術前および術後における適切な栄養管理とリハビリテーションを行う必要がある.術後は術後回復力強化プログラムが注目されており,高齢者を対象とした研究でも一定の成果を認めている.しかし,高齢者では,術式によりその優位性が明らかとならない場合もあり,対象者の選択基準を詳細に検討するなどの慎重な適用が望まれる.術後せん妄は,多くの高齢者にみられ,また制御に難渋する合併症である.せん妄の治療には,まず原因の除去と環境調整を行い,適切な評価ツールにより鎮静レベルを評価しつつ薬物療法を併用する.周術期感染症管理では栄養状態の維持・改善につとめ,各種ガイドラインを遵守し適切な管理を行う.高齢であることはすでに手術部位感染(SSI)の高リスクであることを念頭におき,手術侵襲に応じた抗菌薬の選択と投与期間を設定する必要がある.
著者
西野 英男 井手 宏 栗原 教光 丹野 宗彦 千葉 一夫 笠原 洋勇 柄澤 昭秀 長谷川 和夫 山田 英夫
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.138-146, 1988-03-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
21
被引用文献数
1

正常例と痴呆例の脳のCT所見を比較する場合, 老年者においては脳血管障害 (CVD) の有無により, 分けて検討しなければならない, そこで痴呆を主症状とする100名の老年痴呆患者と, 139名の健常老人ボランティアに対し, それぞれCVDの有無により二群に分類し, 年齢構成別に頭部CT所見の比較検討を行った結果, 以下のような結論が得られた.1. 健常老人ボランティアにおいても silent stroke をしめすものが約20%に見られ, これらを除くCVD (-) の健常老人のCT像を, 狭義の健常老人として, 痴呆脳のCT像の検討に際して対比することが必要と思われる.2. 狭義の健常老人においては側脳室拡大, 脳溝拡大, シルビウス溝の拡大の出現頻度は, 加齢と共に増大するが, PVL, 第三脳室拡大の頻度は加齢とともに増加せず, 80歳でも低値であった.3. 老人脳におけるPVLの出現頻度は血管障害の有無と関係が深いが, CVD (-) の痴呆患者においても, 加齢とともに増加した.4. 痴呆患者では側脳室拡大, 脳溝拡大, シルビウス溝拡大, 第三脳室拡大の頻度は, 年齢と関係なく, 脳溝拡大, 第三脳室拡大を除き一般にCVDを伴うものに高い傾向がみられた. これらの変化を健常老人と比較すると, 一般に80歳老人のそれにほぼ近かった.5. medial temporal lobe の萎縮を示す所見は50歳代のCVD (-) の痴呆例に最も高頻度に見られた. 60歳代以上の痴呆例においてはCVDの有無による差はなかった.6. 痴呆患者のCT像においては, PVL, 第三脳室拡大を除き, 加齢に伴う変化が早期より出現したり, より著明な変化を示すものが多いと言えるが, ほぼ年齢相応の変化を示すものも認められた.
著者
武内 透 杉田 幸二郎 佐藤 温 鈴木 義夫 福井 俊哉
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.362-369, 1995-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
20
被引用文献数
4 6

本邦では, 高齢発症の重症筋無力症 (以下MG) は最近, 増加傾向にあるが, 臨床的に検討した報告は極めて少ない. 我々は60歳以上で発症した高齢者全身型MG 11例の臨床像, 誘発・増悪因子, 合併症, 治療上の問題, 予後などを検討した. 初発症状は眼瞼下垂, 複視などの眼症状, 球症状が高率で, これら所見は非高齢者MGと同様であるが, 他覚的所見に対する訴えの乏しさが特徴的であった. 11例の内訳は, 当科初診時にMGと診断された2例のほかは, 6例 (54.5%) は脳血管障害, 1例は頭蓋底腫瘍疑いと診断されていた. MGの誘発・増悪因子では, 嫁姑関係, 夫の死亡, 老人ホームへの入所, 農作業の高齢化などの家庭内のトラブル5例 (45.5%) と高齢者MG例に特有な要因が認められた. 抗Ach-R抗体は, 11例中10例 (90.9%) に明らかな上昇を認めた. 頭部CTでは全例とも加齢による萎縮所見のみで, 知的機能は, 11例中1例に軽度の低下を認めるのみであった. 合併症では, 胸腺腫4例 (36.4%) のほか甲状腺疾患の合併が5例 (45.5%) と多く, その内訳は, 橋本病は3例, バセドウ病に伴う甲状腺眼症, 単純甲状腺腫がそれぞれ1例認められた. その他, 陳旧性心筋梗塞, 消化管潰瘍, 高度な変形性脊椎症, 前立腺肥大などの合併を認めた. 治療としては抗ChE剤に加えて, 副腎皮質ホルモンを5例 (うちパルス療法2例), ガンマグロブリン療法を1例, 胸腺腫に対する放射線療法を3例, 胸腺摘出術を1例に施行した. 10年間の経過追跡では, 11例中7例 (63.6%) が死亡し, その内訳は, 肺炎・気道閉塞が4例, うっ血性肺水腫, 胸腺摘出術後十二指腸穿孔, 胃癌の全身転移がそれぞれ1例であった. 非高齢者MGと異なり, 高齢者MGでは老人一般の管理に加えて, 環境因子にも充分に注意し, 治療法の選択においても, 非高齢者MGとは異なった観点から検討すべきと思われた.
著者
松井 敏史 海老原 孝枝 大類 孝 山谷 睦雄 荒井 啓行 佐々木 英忠
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.325-328, 2003-07-25 (Released:2011-02-24)
参考文献数
20
被引用文献数
2 3

高齢者肺炎は, 嚥下機能・免疫生体防御機能・上部消化管機能の低下などが関与した誤嚥性肺炎が特徴であり, 再発 ―ADLの低下―死への転帰をたどる. その病態は生命維持の根幹である‘食すること’が一転して今度は病因となったもので, 根本治療は抗生物質投与でなく‘食すること’の機能改善である. 嚥下・咳反射に重要な大脳基底核領域から咽・喉頭, 気管に投射するドパミン―サブスタンスP系ニューロンは日本人の脳血管障害に多い基底核梗塞で破錠し, 誤嚥性肺炎の発症へとつながる. 治療はドパミン―サブスタンスP系の賦活と脳血管障害の予防と治療である. サブスタンスPの分解を阻害するACE阻害薬やサブスタンスPの放出を促す口腔ケア, ドパミン放出作用のある塩酸アマンタジンや, ドパミン生成に関与する葉酸の投与は誤嚥性肺炎を抑制し得る. 一方, 痴呆患者における周辺症状の緩和に用いられる抗ドパミン作用を有する薬剤の乱用や, 寝たきり患者の食直後の臥位姿勢は肺炎を誘発しうる.