著者
鳥羽 研二 守屋 佑貴子 中居 龍平 岩田 安希子 小林 義雄 園原 和樹 長谷川 浩 神崎 恒一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.269-270, 2009 (Released:2009-06-10)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

目的:アルツハイマー型認知症の意欲の低下に,コリンエステラーゼ阻害薬が有効か検証する.方法:患者23名に対し塩酸ドネペジル5 mgを投与,前後にVitality Indexを測定し比較.結果:Vitality Indexは投与前7.87±0.25,投与後8.74±0.19と有意な改善がみられた.結論:アルツハイマー型認知症の生活の意欲の低下にコリンエステラーゼ阻害薬が有効である可能性が示唆された.
著者
下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.462-464, 2006-07-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
16

健康長寿を目指すためには生活習慣の改善が最も重要である. 喫煙や飲酒のコントロール, 肥満防止, 栄養改善, 運動習慣などの生活習慣の改善は, 寝たきりを防止して健康寿命を延ばしていくためには不可欠である. 生活習慣の是正は小児期から必要であり, 青年期, 中年期から老年期まで, 生涯にわたって必要であるが, ライフステージごとに方法や目標は異なる. 75歳以上の後期高齢者では肥満よりも痩せの危険が高いことを認識し栄養指導を行うことが必要である. 喫煙による循環器疾患や呼吸器疾患への影響としては急性の不整脈の誘発や, 末梢血管の収縮, 気道への刺激などもあり, 禁煙は高齢者でも有用と考えられる. また代謝予備力が落ちているために飲酒量も減らすことが望ましい. 運動習慣は高齢者の身体活動能力を維持するだけでなく, 代謝機能を高め, 鬱を予防するなど心身の健康維持に重要であり, 運動教室などを利用して積極的な介入を行っていくべきであろう.
著者
森 聖二郎 稲松 孝思 林 泰史 軽部 俊二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.457-462, 1986-09-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
10

高熱, 白血球増多, 血沈亢進など重症感染症を疑わせる臨床経過をたどった偽痛風の6症例を報告する.症例は74~89歳, 全例女性で, 38.3~39.8℃の発熱を伴い, 末梢血白血球数10,100~17,900/μl, CRP6+, 血沈1時間値65~164mm/hrであった. これらの所見から, 重症感染症が疑われ各種抗生剤の投与をうけたが, いずれも無効であった。関節液中ピロリン酸カルシウム結晶の存在, 特徴的な関節軟骨石灰化などより偽痛風と診断, 非ステロイド抗炎症剤が投与され, すみやかな解熱, 炎症所見の著明な改善をみた. 6例中4例では, 2関節以上に関節炎の所見を認めた. また, 経過から感染症の存在は否定され, 全身性の炎症所見は全て偽痛風発作に由来したものと結論された.偽痛風は一般に, 単関節炎症状を呈し, 時に微熱, 軽度の白血球増多を認める程度であるとされているが, このように全身性炎症反応を伴い, 重症感染症とまぎらわしい例もあり, 老年者発熱疾患の鑑別診断上重要である.
著者
沖田 将人 日下部 明彦 秋葉 涼子 八木 宏章 田村 陽一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.560-563, 2014-11-25 (Released:2015-02-26)
参考文献数
1

94歳女性,アルツハイマー型認知症の末期,寝たきり,意思疎通は不可能.胃瘻からの人工的水分,栄養補給法(以下,AHN)を行っている患者の娘からAHNの中止を求められた.そこで,日本老年医学会が発行した高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン(以下,ガイドライン)1にそって,約2カ月の時間をかけて複数医師の診察,家族,訪問看護師ステーション責任者,ケアマネージャー,訪問介護事業所責任者,訪問入浴事業所責任者,介護用具貸出事業所責任者と話し合いを重ねた末に,AHNの中止を決断した.その後患者はインフルエンザに罹患し,肺炎を併発したため,AHNは中止せずに肺炎発症から7日目に永眠した.今回の症例で,胃瘻を中止することが命を断ち切る心の葛藤に家族は悩まされることや意思疎通のできない患者の本人らしさをどのように引き出すのかの難しさをあらためて実感した.今までにガイドラインにそってプロセスをふみ,AHNの中止を検討した報告はなく,今後の課題などを考察して報告する.
著者
青柳 暁子 西田 真寿美
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.264-270, 2014 (Released:2014-07-04)
参考文献数
30

目的:日本の介護保険施設等では認知症高齢者の援助方法のひとつとしてアクティビティケアが注目されている.実践の現場では職員が各々の経験と認識に基づいて判断している現状がある.本研究では看護職・介護職が重要と認識するアクティビティケアの評価基準を類型化することによって,その特性を明らかにすることを目的とした.方法:中国地方5県に所在する全ての特別養護老人ホーム・介護老人保健施設の看護主任および介護主任に郵送法による質問紙調査を実施し,657名を分析対象とした.調査は認知症高齢者に対するアクティビティケアの評価基準に関する項目について主観的な重要度を5段階尺度で回答を求めた.重要度の類似性を検討するため階層的クラスター分析と多次元尺度構成法(ALSCAL)を併用して分析した.結果:クラスターは1「快・安楽の状態」,2「自発性」,3「緊張状態の消失」,4「他者との交流」の4つに分類された.重要度の平均値は高い順からクラスター1(4.48),クラスター2(4.23),クラスター3(3.95),クラスター4(3.48)であった.2次元モデルにおいてはストレス値0.113,決定係数RSQ 0.948で良好な適合度が示された.次元1『複雑性』では,単純な表現から複雑な行為を表すクラスターが平均値の高い順に布置され,より単純な行為が重視されていた.次元2『開放性』では,中央付近とその下方にあるクラスター1と2の平均値が高く,上端のクラスター3と下方にあるクラスター4が低値であった.医療的な問題解決や高次の社会的な開放性よりも,個人の快・安楽や自発性などの個別的な開放性が重視されていた.結論:従来のアクティビティケアの目的別の分類のみでは把握できなかった4類型と2次元構造の抽出によって,評価基準の重みづけの方向性が明瞭となった.その主観的な重要度の認識には,行為の複雑性と個別的な開放性に着目し,視覚的なわかりやすさ,測定可能である汎用性を目安にしていると考えられた.
著者
山形 敞一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.183-190, 1984-05-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
12

1970年から1979年までの厚生省発表のによる全死亡数6,982,264名の年齢別死亡率によると, 胃癌では55~59歳, 胃潰瘍では75~79歳, 十二指腸潰瘍では35~39歳が最高である. また1970年から, 1979年までの日本病理剖検輯報の剖検数257,868名の年齢別死亡率によると, 胃癌では70~74歳, 胃潰瘍では65~69歳, 十二指腸潰瘍では25~29歳が最高である.次にわれわれが宮城県で実施している胃集団検診成績のうち1961年, 1966年, 1971年, 1976年, 1981年の受検者総数407, 695名の年齢別頻度によると, 胃癌では70歳, 胃潰瘍では65~69歳, 十二指腸潰瘍では29歳以下が最高である. すなわち, これらの成績は胃癌と胃潰瘍が典型的な老人病であることを示している.人間の生命維持に最も重要な機能の1つは消化吸収で, これに関与するのは胃液と膵液の分泌機能である.われわれは内視鏡的胃粘膜正常者245名について胃液分泌能を測定したところ, 胃液分泌量, 最高酸濃度, 最高ペプシン濃度はいづれも70歳を過ぎると減少する傾向を認めた. 次に膵疾患を除外された507名について膵液分泌能を測定したところ, 膵液分泌量, 重炭酸分泌量, アミラーゼ分泌量はいづれも加齢によっては減少しない. それで健康者の脂肪吸収試験を行ったところ, 脂肪1日摂取量が30g以下では加齢による脂肪吸収の滅退はみられないが, 脂肪1日摂取量が35~40gになると, 70歳以上では滅退する傾向を認めた. したがって, 健康な老人では食餌量が適量であれば加齢による消化吸収の障害はみられない.最近日本人の平均寿命が伸びて世界1の長寿国となったが, 文献によると, 日本人は従来から長寿だったようである. 古代中国の史官陳寿 (233~277) の記した「魏志倭人伝」によると, 3世紀の日本人の寿命は百歳であった. また江戸時代の医学者貝原益軒 (1630-1714) の著わした「養生訓」(1713), 香月牛山 (1656-1740) の著わした「万民必用長命養生訓」(1716) でも, 日本人の寿命は百歳と記されている.ドイツの医学者 Christoph Wilhelm Hufeland (1762-1836) はその著書のなかで天寿二百歳説を提唱したが, これを現代日本人にあてはめると天寿120歳となる. また, 約140億の脳細胞が全部死滅するのは190歳と算出されているから, その過半数が残存する120歳位を天寿としてよいと考えている.われわれは, 今後天寿120歳を目ざして研究をすすめるべきであると考える.
著者
前田 美季 中村 千種 内垣 亜希子 弓庭 喜美子 内海 みよ子 志波 充 三家 登喜夫 宮井 信行 有田 幹雄
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.158-162, 2011 (Released:2011-07-15)
参考文献数
17
被引用文献数
2 2

目的:加齢とともに高血圧の罹患率は増加するが,閉経との関連は明らかではない.女性の加齢及び閉経による血管系に及ぼす影響を明らかにするため,年齢により分類し比較検討した.方法:151名の中高年女性を性成熟期群,移行期群,閉経期群に分類し,身体計測,血圧測定,血液生化学検査,上腕・足首脈波速度(brachial-ankle pulse wave velocity:baPWV),血圧脈波検査(Augmentation Index:AI),内皮依存性血管拡張反応(flow-mediated vasodilation;%FMD),心エコー図検査を実施し,3群間の心・血管系に及ぼす影響を比較した.結果:収縮期血圧は性成熟期群に比し閉経期群,移行期群が有意に高値を示し,移行期群と閉経期群間にも有意差がみられた.baPWVは,性成熟期群に比し閉経期群で有意に高値を示し,移行期群と閉経期群間にも有意差がみられた.AIは性成熟期群に比し閉経期群,移行期群が有意に高値を示した.%FMDは性成熟期群,移行期群に比し閉経期群が有意に低値を示し,血清クレアチニン,推算糸球体濾過値(eGFR),高感度CRPは有意に高値を示した.E/Aは性成熟期群に比し閉経期群,移行期群が有意に低値を示し,移行期群と閉経期群間にも有意差がみられた(いずれもp<0.05).結論:加齢および閉経により血圧の上昇,動脈硬化の進行,血管内皮機能の低下などが認められた.女性の健康管理や心血管イベント防止のためには,年齢に応じたエストロゲンの作用による心血管系の変化を理解することが重要であることが示唆された.
著者
榎本 麗子 菊谷 武 鈴木 章 稲葉 繁
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.95-101, 2007 (Released:2007-03-03)
参考文献数
28
被引用文献数
4 6

目的 食べる機能の障害は栄養状態や身体機能に影響を及ぼすことから,生命予後にまで影響を与えるとされている.中でも,認知機能の低下した高齢者は,先行期を中心とした食べる機能の障害が多く認められると考えられる.今後,認知機能の低下した高齢者の増加が予想される中で,摂食・嚥下機能の先行期障害と生命予後との関係を明らかにすることは重要であると考え,本研究を行った.方法 対象は,某介護老人福祉施設に入居する98名(平均年齢86.3±5.9歳)である.これらのうち,施設内および入院先で入院時より1週以内に死亡した者を「死亡」とし,死亡日時と死因の調査を行った.また予後因子として以下の11因子を調査した.1)基礎疾患,2)日常生活動作(以下ADLと略す),3)先行期障害,4)嚥下機能,5)食事介助,6)6カ月間の体重減少率,7)Body Mass Index(以下BMIと略す),8)Mini Nutritional Assessment(以下MNAと略す),9)咬合状態,10)年齢,11)性別.これら11因子を,Kaplan-Meier生存曲線の理論にもとづき,各因子の陽性者と陰性者における生存日数の有意差をLog-rank法にて検討した.次に非線形多変量解析法であるCOXの比例ハザードモデルを用いて回帰分析を行い,寄与率の高い因子を抽出した.結果 ADL(p<0.05),先行期障害(p<0.01),嚥下機能(p<0.01),食事介助(p<0.05),BMI(p<0.01),MNA(p<0.05)の6因子においてリスクの有無により生存日数に有意差が認められた.またハザードモデルによる解析では先行期障害,嚥下機能,BMIの3因子がハザード比も高く,生命予後の短縮に関与していることが示された(先行期障害:ハザード比2.85, 95%信頼区間1.04∼7.83,嚥下機能:ハザード比2.90, 95%信頼区間1.06∼7.91, BMI:ハザード比2.54, 95%信頼区間1.00∼6.44).結論 本研究の結果から,先行期障害,嚥下機能,BMIはいずれも比例ハザード比も高く,生命予後の短縮に強く関与していることが示唆された.
著者
須藤 英一 前島 一郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.84-85, 2011 (Released:2011-03-03)
参考文献数
5

目的:高齢者の肺炎に関連する口腔内乾燥は日常介護でしばしば直面する問題である.この点で,保湿ジェルを用いた口腔ケアの効果を老人ホーム入所中の脳血管障害後遺症患者でみた成績を以前に報告したが,これを他の施設に広げて検討した.方法:対象は脳血管障害後遺症患者11例(男性4例,女性7例,平均年齢84.5±1.3歳).老人ホームの入居者を対象に,口腔ケア用品として,口腔内乾燥予防目的に保湿ジェルを用い,使用前年の6カ月間と使用中の6カ月間に於いて発熱を生じた日数,抗菌薬投与日数,抗菌薬投与回数,補液日数,補液回数を比較した.結果:使用前,使用中の6カ月間の発熱日数を比較検討すると使用前平均5.4±2.8日から使用中3.5±2.9日まで有意に(p<0.01)減少した.抗菌薬投与日数,抗菌薬投与回数,補液日数,補液回数はそれぞれ,使用前平均3.3±3.4日から使用中1.1±1.8日,使用前平均6.2±6.7回から使用中2.0±3.6回,使用前平均2.4±3.4日から使用中1.2±1.8日,使用前平均4.2±6.8回から使用中1.4±2.2回と全て減じたが有意差は認めなかった.結論:保湿ジェルを用いた口腔ケアは脳血管障害後遺症患者に生じる口腔内汚染を誘因とする気道感染や脱水予防に寄与できる可能性が示唆された.
著者
中原 賢一 松下 哲 山之内 博 大川 真一郎 江崎 行芳 小澤 利男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.285-291, 1997-04-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
7
被引用文献数
2

剖検例において, 生前には狭心症状を認めなかったにも関わらず, 著しい冠動脈硬化所見を認めることがある. この無症候性の原因として, 高齢者では心病変のみならず, 脳血管障害をはじめ多くの因子の関与が推測される. 本研究では剖検例を用いて高齢者の無症候性に関わる因子, 予後, 診断について検討した.770例の高齢者連続剖検例を母集団とし, 冠狭窄指数 (冠狭窄度は100%もしくは95%を5, 90%を4.5, 75%を4, 50%を3, 25%を2, 狭窄のない石灰化を1, 正常を0. 冠狭窄指数=3枝の合計) を用い, 次の検討を行った. まず心筋虚血をおこすに充分な冠動脈狭窄の条件を決定する目的で, 冠狭窄指数が10以上かつ狭心症のある症例を分析した. 次に心筋虚血をおこすに充分な条件を満たした症例を狭心症の有無で2群に分け, 1) 予後, 2) 心筋病変の差, 3) 脳血管障害の影響, 4) ADL (Activity of daily living) の差, 5) コミュニケーション障害の有無, 6) 糖尿病の有無, 7) 安静時心電図診断を分析した. またコントロール群として冠狭窄指数10未満の例86例を用いた.狭心症を有した31例を検討し, 最大狭窄度は5かつ冠狭窄指数13以上を心筋虚血を起こすに充分な条件と考え, 770例中二つの条件を満たす症例を選出した. その結果狭心症群24例, 無症候群92例が該当し,この2群を比較した. 1) 心筋梗塞が直接死因となったのは狭心症群67%, 無症候群27%で共に死因中最も多かったが, 頻度には差が見られた (p<0.01). 2) 心筋梗塞の発症率および心内膜下梗塞は狭心症群に多く, 下壁梗塞および小梗塞 (2cm未満) は無症候群に多かった. 3) 無症候群には脳血管障害の合併率が高く, 大きさでは中型病変が多かった。4) 無症候群には, ADLの低い症例, コミュニケーション障害例が多かった. 5) 糖尿病の合併率は狭心症群に高かった. 6) 安静時心電図の比較では, 陳旧性心筋梗塞の所見は, 狭心症群に最も多く, 次いで無症候群で, 共にコントロール群に比し多かった. 虚血性ST低下は3群間に差は認められなかった. むしろ無症候群および狭心症群を含めた重症冠動脈疾患群に左室肥大の診断が有意に多かった. 心房細動が無症候群に多い傾向にあった.高齢者においては心病変と共に, 脳血管障害, ADL, コミュニケーション障害が心筋虚血の無症候性に重要な意味を持つことが明らかになった. 高齢者では冠動脈病変はむしろ存在することが普通であり, 特に脳血管障害のある症例では狭心症状の有無に関わらず, 心筋虚血を探知する努力が必要である.
著者
浅井 幹一 佐藤 労 天野 瑞枝
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.391-394, 2008 (Released:2008-08-28)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

高齢者終末期医療の決定プロセスについては,患者の意思を最重要として,患者,家族,医療·ケアチームで最善の医療を話し合うことが必要とされる.医療·ケアチームのなかで職種により終末期医療に対する認識が異なると,合意形成に影響が出る可能性があるので,職種別に終末期医療についてのアンケート調査を行い比較検討した. 1)延命治療に関しては医師が最も否定的であるが,終末期医療における説明については医師は十分であると感じても,他職種からみると不十分と感じられることが少なくない. 2)リビングウィルの取り扱いについては,法律を制定すべきとする考えが多い. 3)看取りについては,施設での終末期の看取りに賛成するものが多いが,介護職では施設の方針や体制によるとする意見が多く見られた.在宅終末期医療については,かつて在宅で看取りを行った経験や,在宅療養支援診療所の届出をしていることが促進する因子として挙げられた. 4)介護職については,終末期医療に対する意識が他職種と少し異なっている可能性に留意する必要がある. 以上,職種間の認識の違いに留意して,終末期医療·ケアの現場では情報の共有化と他職種との連携をはかる必要があると思われた.
著者
佐久間 一基 石川 崇広 藤本 昌紀 竹本 稔 横手 幸太郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.617-621, 2012 (Released:2013-03-04)
参考文献数
7
被引用文献数
1

健康食品,新五浄心の長期摂取により偽性アルドステロン症をきたした高齢者の1例を経験した. 症例は67歳の男性.高血圧症,脂質異常症,高尿酸血症に対し近医にて内服加療中であった.2007年4月に低カリウム血症(3.0 mEq/l),下腿浮腫が出現したため,スピロノラクトン,L-アスパラギン酸カリウム内服を開始するも,血清カリウムは低値(2.8~3.2 mEq/l)で推移した.その後,動悸,こむら返りも頻繁に出現するようになり,2009年12月低カリウム血症の精査目的に当科紹介となった.当科受診時の血清カリウム2.4 mEq/l,血漿レニン活性0.1 ng/ml/hr以下,血中アルドステロン濃度34 pg/mlと低下を認めた.外来における病歴聴取では甘草,グリチルリチンを含有する医薬品の摂取歴はなく,偽性アルドステロン症が疑われ,精査目的に2010年2月当科に入院となった.入院時の詳細な病歴聴取により2007年2月より健康食品である新五浄心を摂取していることが判明した.入院後,新五浄心を中止し,カリウム製剤の補充を継続したところ,低カリウム血症は改善し,カリウム製剤補充も中止した.精査の結果,他に偽性アルドステロン症をきたす疾患は否定的であり,新五浄心による,偽性アルドステロン症と考えられた.これまで新五浄心による偽性アルドステロン症の報告はない.さらに高齢者の偽性アルドステロン症では,甘草,グリチルリチンを含有する医薬品だけではなく,一般市販薬,健康食品を含めた詳細な服薬歴の問診も大切であると思われ報告する.
著者
牧迫 飛雄馬 阿部 勉 阿部 恵一郎 小林 聖美 小口 理恵 大沼 剛 島田 裕之 中村 好男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.59-67, 2008 (Released:2008-03-10)
参考文献数
27
被引用文献数
4 7

目的:要介護者の在宅生活継続には,主介護者の身体的および精神的な負担にも配慮が必要である.本研究では,在宅要介護者の主介護者における介護負担感に関与する要因を検証した.方法:在宅で理学療法士または作業療法士の訪問によるリハビリテーションを実施していた要介護者78名(男性40名,女性38名,年齢77.8歳)とその主介護者78名(男性20名,女性58名,年齢66.8歳)の78組156名を分析対象とした.要介護者の基本情報,日常生活動作能力,居室内動作能力を評価した.また,主介護者からは基本情報,介護期間,介護協力者・介護相談者の有無,介護負担感(短縮版Zarit介護負担尺度:J-ZBI_8),視覚的アナログスケールによる日常生活動作における介助負担度,主観的幸福感,簡易体力評価を構造化質問紙で聴取した.J-ZBI_8から介護負担感の低負担群(10点未満:5.0±3.0点)41組と高負担群(10点以上:15.9±5.9点)37組の2群間で比較した.結果:低負担群の要介護者では,高負担群の要介護者に比べ,高い基本動作能力,日常生活動作能力を有していた.また,低負担群の主介護者では,高負担群に比べて,介護を手伝ってくれる人(低負担群65.9%,高負担群40.5%),介護相談ができる人(低負担群95.1%,高負担群75.7%)を有する割合が有意に多く,主観的幸福感(低負担群9.6±3.5,高負担群6.3±3.7)も有意に高かった.また,高負担群では,すべてのADL項目における介助負担も大きかった.結論:要介護者の日常生活動作能力や基本動作能力は介護負担感に影響を与える一因であることが示唆された.また,介護協力者や介護相談者の有無も介護負担感と関係し,介護負担感が高い主介護者では主観的幸福感が低いことが示された.
著者
武久 洋三
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.209-212, 2010 (Released:2010-07-05)
参考文献数
9

平成20年10月23日,社会保障国民会議において発表された「将来の医療提供体制・介護提供体制の現状と将来像」から一般病床という病床区分が消え,近い将来には急性期,慢性期(急性期後期),介護期に分類されると考えられる.日本慢性期医療協会は,急性期病院を峻別化し,高度急性期病床以外を病院病床として統一した上で,平均在院日数・人的資源・病床面積の3要素で診療報酬を評価すべきと考える.各施設に求められる機能や理念を今一度見つめ直し,対象領域を明確にする必要があるだろう. 厚生労働省の描く「改革シナリオ」では,高齢化の進展や有病率の増加,年間死亡推定数を加味し,医療・介護サービスの対象人数を現状よりも約300万人多く設定している.医療・介護体制は川上である高度急性期病院の定義から始まる.平均在院日数の短縮化に伴い,退院患者数と慢性期医療の必要性も倍増する.各施設に患者を当て込み,残りは居住系施設や在宅と考えなければ,事はシナリオ通りには運ばないだろう. 療養病床の再編は急性期医療にも思わぬ歪みを生んだ.慢性期医療の縮小は急性期病院の崩壊を加速させる危険性を孕んでいる.高度急性期病院と慢性期病院は相補関係にあり,互いに連携の強化を求めている.実際に連携ネットワークが機能している地域では,着実にその実績を上げている.各医療機関が機能に合った患者の治療に当たることで医療費は適正化され,その機能を補完し合うことで今後激増する地域ニーズを受け止めることが可能と考える. 時代は利益優先・経済優先主義の社会から国民が安心して暮らせる社会の構築へと移り変わっていく.国の施策が目指すべき方向は,子供たちや高齢者の尊厳を守り,将来の不安を感じることのない未来を築くことである.国民にとって必要な医療施策の提言とその実現を目指し,すべての医療福祉施設は「国民の命と健康を守る」との立場から一致協力する必要を強く感じている.