著者
藤井 効 石井 裕正 日比 紀文 奥野 府夫 水野 嘉夫 土屋 雅春
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.901-911, 1981-06-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
105

今回,著者らは低血糖発作を反復して死亡した原発性肝癌2症例を経験した.症例1は62歳の男性で,就寝後の発汗と体重減少を呈し,肝腫大と空腹時低血糖を認め,精査の結果,両葉にわたる原発性肝癌と診断され,数ヵ月の経過にて死亡した.症例2は57歳の女性で,肝腫大を主訴に入院精査し,原発性肝癌と診断され,肝腫大の増強と共に低血糖昏睡を反復しつつ比較的早期に死亡した.両症例とも癌組織中のIRI, ILA活性は陰性であった.原発性肝癌に伴う低血糖の本邦報告例は,1979年までに著者らの調べた範囲では112例あったが,成因に関してはまだ定説は認められていない.著者らの経験した2症例は,それぞれMacFadzeanの提唱するtype A, Bの低血糖症に相当すると考えられ,低血糖発生機序について一元的には説明し得ないと考えられた.
著者
吉村 良之介 貫野 徹 藤山 進 門奈 丈之 山本 祐夫 西平 守也 森田 次郎部衛
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.20, no.10, pp.1089-1093, 1979-10-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
19
被引用文献数
1

32歳の男性で大量飲酒後サウナに入浴し,血圧低下,意識障害と第II度の火傷のため入院した.入院後肝性昏睡IV度となり出血傾向が出現した.hematcrit値の上昇,白血球数増多,Transaminase値の著高,prealbuminの減少を認め,凝血学的検査では,血小板数,fibrinogenは著減し,FDP, SDPS testは陽性を呈した.血清遊離アミノ酸総量は正常人の約3倍に増加し,分画では,Glutamine, Phenylalanineなどは増加し,Valineは減少し,急性肝不全時に認められるアミノ酸パターンに類似した.死亡直後の肝組織像は肝小葉内にびまん性に肝細胞の好酸性凝固壊死な呈した.以上の点より,本症例の発生機序は,飲酒後のサウナ入浴が契機となり,脱水,血液濃縮と,末梢循環不全が相俟って,急性肝不全とDICを併発したと考えられた.
著者
杉原 誉明 孝田 雅彦 岡本 敏明 三好 謙一 的野 智光 法正 恵子 岡野 淳一 磯本 一 堤 玲子 江原 由布子
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.571-576, 2016-11-20 (Released:2016-11-29)
参考文献数
16
被引用文献数
8 14

薬物アレルギーの検査であるリンパ球刺激試験(drug-induced lymphocyte stimulation test;DLST)の陽性率は,約4割と報告されているが,偽陽性などの問題がある.今回,薬物性肝障害,薬物アレルギーの患者において2回目のDLSTが起因薬物同定に有用か検討した.対象は2009年から2015年の間に当院で同じ薬物に対して2回DLSTを行った症例を抽出し,後ろ向きに検討した.2回目の測定までは,中央値で82(27-247)日であった.1回目で,原因薬物の同定感度は53.9%,特異度61.5%,陽性適中率(PPV)58.3%,陰性適中率(NPV)57.1%であったが,2回目では感度87.5%,特異度72.2%,PPV58.3%,NPV92.9%であり,感度・特異度,NPVが向上した.DLST2回目測定は起因薬物同定に有用と考えられた.
著者
野ッ俣 和夫 山崎 忠男 伊藤 慎芳 桜井 幸弘 多賀須 幸男 安部 孝 池上 文詔 奥平 剛史 山口 和克
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.32, no.9, pp.879-883, 1991

症例は81歳,男.東京都在住の飲食業者.1989年3月下旬からの発熱が軽快した後,食思不振と黄疸が増強し同年4月25日入院.眼球血膜の充血,著明な胆汁うっ滞型黄疸,腎機能不全,蛋白尿・血尿を認め,ネズミとの接触があったためWeil病を疑い抗生剤投与を開始した.第4病日より意識障害が出現し,第6病日に突然心室細動・粗動が出現した.5月に入り徐々に軽快し,第43病日肝生検施行.小葉中心性の胆汁うっ滞像と巣状壊死が見られたが,肝細胞の解離やWarthin-Starry染色によるレプトスピラ菌の直接証明は出来なかった.また,血・尿中レプトスピラ菌培養は陰性であったが,ペア血清顕微鏡的レプトスピラ生菌凝集反応でserovar icterohaemorrhagiaeとserovar copenhageniの抗体の上昇が見られたためWeil病と診断した.その後著変なく第48病日に退院した.Weil病に重篤な不整脈を初めとした合併症を伴ったが救命し得た.
著者
林 久男
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.40, no.8, pp.427-435, 1999-08-25 (Released:2010-02-22)
参考文献数
41

IFN無効例を含めC型慢性肝炎には貯蔵鉄があり, 鉄依存性ラジカル産生に基づく細胞障害は肝炎活動性の一端を担う. それを排除する工夫は大切であり, 瀉血により潜在的鉄欠乏状態を維持するのが簡単で経済的でもある. 造血能が悪く貧血になりやすい症例では, 補助手段として, エリスロポエチンの併用, 鉄の豊富な食品を避ける食事療法, 消化管での鉄吸収阻害を計る薬物治療などが必要となる. これら補助療法を含め, 総合的な鉄の肝毒性対策の確立と普及が望まれる.
著者
太田 隆徳 伊藤 孝一 杉浦 時雄 小山 典久 齋藤 伸治 村上 周子 田中 靖人
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.403-412, 2021-07-01 (Released:2021-07-08)
参考文献数
38

症例は2歳男児.母と姉と祖母がB型肝炎ウイルス(HBV)キャリアで,母と姉はHBe抗原陽性かつ高HBV DNA量(HBV DNA>7 log IU/ml)だった.出生直後に抗HBsヒト免疫グロブリンが投与され,HBワクチンが出生時,生後1,6カ月時に接種された.1歳時にHBs抗原陰性,HBs抗体333.8 mIU/mlだったが,2歳時にHBs抗原0.25 IU/ml,HBs抗体115.6 mIU/ml,HBV DNA 3.5 log IU/mlとHBV感染が成立した.直接シークエンス法による遺伝子解析により,本児,母,姉由来のHBVにワクチンエスケープ変異として知られるG145R変異とP120Q変異を認めた.母と姉が保有していた変異株が1歳以降に本児に水平感染したと考えられた.高ウイルス量HBVキャリア妊婦から出生した児では,2歳以降も継続的なフォローアップと積極的なワクチン追加接種も考慮する必要があると考えられた.
著者
山下 信行 宮城 友豪 下田 慎治 堀 史子 谷本 博徳 一木 康則 山元 英崇 野村 秀幸
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.487-495, 2016-09-20 (Released:2016-09-30)
参考文献数
33

症例は60歳代男性.200X年に限局皮膚硬化型全身性強皮症(SSc)と診断された.無投薬で経過観察を受けていたが,初診から6年後に肝障害が増悪し入院となった.血液検査では肝胆道系酵素の上昇と抗ミトコンドリア抗体陽性を認めた.抗核抗体・抗セントロメア抗体はSSc診断時から陽性であった.また免疫グロブリン値(IgG,IgM)はいずれも基準内であり,画像検査では横隔膜下の肝臓に脱落壊死を認めた.肝生検の結果もあわせて自己免疫性肝炎と原発性胆汁性胆管炎のオーバーラップ症候群と診断し,副腎皮質ホルモンとウルソデオキシコール酸を投与した.肝胆道系酵素は速やかに改善し,IgG,IgM値も治療前の半値以下に低下した.肝臓の脱落壊死部分は萎縮し,肝の変形が残った.SScにオーバーラップ症候群が合併した症例は,これまでに数例の報告しかなく,貴重な症例と考える.
著者
浮田 実
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.341-352, 1977-05-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
32

肝性昏睡は一部の症例を除いては一般的に予後不良と言えるが,肝疾患に対する治療法の進歩により,その臨床経過ならびに予後も変化してきていることが考えられる.そこで,本稿においては最近17年間に岡山大学医学部付属病院第一内科に入院した肝性昏睡102例を対象として,臨床経過,死因,予後の時代的変遷を検討した.その結果,肝硬変では,最近5年間に肝性昏睡からの覚醒率が高くなってきており,治療法の進歩をうかがわせたが,一方では,肝癌合併例の急激な増加,肝腎症候群を呈する例の増加が顕著であり,これらの例の予後は不良であった.肝性昏睡を繰り返す,いわゆる慢性型肝性昏睡の肝硬変では,初回肝性昏睡から平均2~3年で死亡した.fulminant hepatitisでは,肝性昏睡から1週間以内に覚醒した例は完全な回復を示した.亜急性肝炎で肝性昏睡に陥った例はすべて2週間以内に死亡した.
著者
椙村 春彦 志賀 淳治 森 亘
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.171-180, 1987

ほぼ半年以上にわたり,臨床的に慢性肝疾患が存在したことが推定或いは病理学的に確認されている症例で,末期に劇症肝炎様の経過をたどり死亡し,剖検にふされた症例を病理学的に検討した.背景となる慢性肝疾患にはB型肝炎ウイルスキャリアー,慢性肝炎,肝硬変,バンチ病,ルポイド肝炎,アルコール性肝障害,トロトラスト沈着症があり,手術・輸血・アルコール多飲,重篤な感染症などを契機に劇症化していた.B型肝炎ウイルス陽性例の劇症化例で調べた範囲では組織中のデルタ抗原はみとめられなかった.病理学的には広汎性或いは亜広汎性の肝細胞の脱落が主たる変化であったが,循環障害性の要因が重要かと思われる地図状壊死,小葉中心静脈周囲のつよい壊死,血栓などが散見された.ステロイド長期投与,他臓器の血栓性病変,エンドトキシン血症などを勘案すると,肝における臓器型シュワルツマン反応として説明し得る症例もあった.
著者
山内 徳人 森川 輝久 村松 哲 赤澤 貴子 久貝 宗弘 松本 次弘 杉本 尚仁 藤本 莊太郎
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.58, no.10, pp.589-591, 2017-10-20 (Released:2017-11-08)
参考文献数
5

We evaluated clinical utility of the fibrosis index based on the four factors (FIB-4) and the aspartate aminotransferase to platelet ratio index (APRI) for screening of chronic liver disease (CLD) and liver cirrhosis (LC). Diagnoses were extracted from the electronic medical records. Among 1194 patients except of acute illness, 318 had CLD and 48 had LC. The areas under the receiver operating characteristic curves of FIB-4 and APRI for predicting LC were 0.913 and 0.897, respectively, while those for predicting CLD were 0.630 and 0.672, respectively. With FIB-4 3.25 and APRI 1.0 for the cut off values to predict LC, the diagnostic accuracies were 91.5%, 94.2%, respectively. FIB-4 and APRI were considered useful for screening of CLD with advanced fibrosis.
著者
石橋 啓如 足立 清太郎 片倉 芳樹 吹田 洋將 糸林 詠 横須賀 收
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.170-175, 2014-03-20 (Released:2014-04-07)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

症例は48歳の男性.5年前の健診で食道静脈瘤(LmF2CbRC0Lg-)を指摘され,精査にて悪性腫瘍や肝硬変症の合併を認めず,門脈本幹部血栓,肝門部海綿状血管増生,脾腫が確認され,非硬変性門脈血栓症に伴う肝外門脈閉塞症と診断された.5年の経過で門脈血栓,食道胃静脈瘤(LsF3CbRC2LgcF2)は増悪し,予防的に内視鏡的硬化療法を施行した.慢性骨髄増殖性疾患を疑い施行した骨髄生検では慢性骨髄増殖性疾患の合併は否定的であったが,血液検査にてJanus activating kinase 2のV617F遺伝子変異(JAK2変異)が確認されたことから,JAK2変異が門脈血栓症に関与したと考えられた.本症例では5年の経過中,脾腫に比して血小板数が正常域値内に保たれていた.明らかな基礎疾患が指摘されない門脈血栓症に伴う肝外門脈閉塞症ではJAK2変異が存在する可能性について考慮する必要がある.
著者
西村 貴士 飯島 尋子
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.240-250, 2021-05-01 (Released:2021-05-14)
参考文献数
26

肝腫瘍に対して,米国を中心として画像診断レポートの標準化が行われている.CT/MRIに続いて超音波判定システムであるUS/CEUS LI-RADSは,American College of Radiology(ACR)によって提唱された肝癌診断アルゴリズムであり,American Institute of Ultrasound in Medicine(AIUM)やAmerican Association for the Study of Liver Diseases(AASLD)でも推奨され用いられている.今後わが国でも,US/CEUS LI-RADSに基づいた肝腫瘍のカテゴリー分類,レポートの標準化に向かう方向と考えられ,米国のCEUS LI-RADSとわが国の肝癌診療ガイドラインを併せてSonazoidⓇによる診断を追記し概説する.
著者
堀江 義則 菊池 真大 海老沼 浩利 志波 俊輔 谷木 信仁 褚 柏松 中本 伸宏 金井 隆典
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.538-547, 2016-10-20 (Released:2016-11-04)
参考文献数
28
被引用文献数
2 2

本邦のアルコール総消費量は近年大きな変化はなく,欧米と同等の高い水準で推移している.今回,肝細胞癌(HCC)発症における飲酒の影響について検討した.全国の1496施設に対し,2014年度に診断・治療されたHCC患者についてアンケート調査を行った.7047例のHCC患者の成因は,HBV 13.9%,HCV 54.7%,HBV+HCV 3.6%,アルコール単独によるもの(ALD-HCC)13.9%,非アルコール性脂肪性肝疾患関連4.6%,その他9.5%で,2009年度と比較してALD-HCCの割合が増加傾向にあった.背景因子が確認された333例の初回診断ALD-HCCでは,平均年齢は69.8歳,男性が94%,糖尿病有病率50%,肝硬変合併率85%であった.AFP低値例が多く,66歳以上で肝硬変がない例とChild-PughスコアAの割合が多かった.肝予備能が保たれたまま長期に飲酒し,高齢になって肝発癌が増えたことが予測される.ALD-HCCへの対策としては早期介入による飲酒量の低減が根本的な課題ではあるが,画像診断等により早期にHCCを診断し,治療に結び付けることも今後の課題である.
著者
井上 和明 与 芝真 関山 和彦 黄 一宇 藤田 力也
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.401-407, 1995-07-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
14
被引用文献数
2 1

肝性脳症用特殊組成アミノ酸輸液(Fischer液)が劇症肝炎の予後を悪化させると報告されている.今回同液がurea cycle機能の障害の強い急性重症肝障害例の臨床症状とN処理能に与える影響を知る目的で,劇症肝炎3例,急性肝炎重症型1例にFischer液500mlを2時間で点滴静注し,投与前後での臨床症状,血中の尿素,アンモニア(NH3),グルタミン(Gln),アラニン(Ala)の各値の推移を検討した.一旦肝性脳症から完全に覚醒した劇症肝炎亜急性型の1例で投与後昏睡0度からIV度に悪化し,1例はIV度のまま不変,回復期の2例は0度だがnumber connection testが悪化した.全例で投与直後に血中NH3, Gln, Alaの異常高値が認められ,尿素生成の不良な2例では高値が持続した.urea cycle機能の高度に障害された急性重症肝障害例では他のN処理系を含めたN処理能を上回った量のアミノ酸輸液を行った場合,Fischer液の形でもNH3を増加させ,脳症を悪化させる危険がある.
著者
中田 進
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.194-197, 1993-03-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
5

ヴィェトナム難民におけるB型肝炎ウィルス(HBV)の侵淫状況について検討した.対象は日本に来た2,428人の難民で,男女比は1,587:841 (1.89:1),年齢は0~86歳であった.HBsAg陽性者は316/2,428名(13%)で,男は243/1,587名(15.3%),女は73/841名(8.7%)であった.HBsAg陽性率を年齢群ごとに検討すると,0~9歳群で11~12%であるのに比し10~19歳群では19.9%とより高率であった.ヴィェトナムでは家旅単位が大きいこと,輸血のスクリーニング体制の不備に加えて,非衛生的な医療施設の現状,売春,麻薬の蔓延などの社会状況がHBV感染に大きく関係していると推定される.今回対象とした難民は北部出身者も含み,現状では調査が困難なヴィェトナムの一般人口におけるHBVの侵淫状況を良く反映したものと考えられる.同国ではB型肝炎の抑制は保健上重大な問題であり,早急な対策が望まれる.
著者
柴田 大介 新垣 伸吾 前城 達次 佐久川 廣 青山 肇 植田 玲 外間 昭 藤田 次郎
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.677-682, 2014-11-20 (Released:2014-12-03)
参考文献数
10

症例は23歳女性.成長ホルモン分泌不全症の既往がある.2010年8月から肝機能障害の悪化が認められ精査目的に当科に紹介となった.肥満は認められなかったがCTで著明な脂肪肝が認められ,成長ホルモン分泌の指標であるinsulin like growth factor-1(IGF-1)が25 ng/ml(基準値119-389 ng/ml)と低値であった.肝生検を行いAdult growth hormone deficiency(AGHD)によるnon-alcoholic steatohepatitis(NASH),Bruntの分類Grade 1,Stage 1と診断した.治療として成長ホルモンの補充療法を行い,肝機能の改善が認められた.AGHDのNASHでは通常の生活習慣病にともなうNASHと違い成長ホルモンの補充療法が重要な治療の選択肢の一つであると考えられた.
著者
金子 晃 巽 智秀 藥師神 崇行 平松 直樹 三田 英治 中西 文彦 尾下 正秀 吉原 治正 今井 康陽 福井 弘幸 小林 一三 土井 喜宣 林 英二朗 筒井 秀作 澁川 成弘 巽 信之 堀 由美子 森井 英一 竹原 徹郎
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.507-517, 2015-10-20 (Released:2015-11-02)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

自己免疫性肝炎200例を対象としてステロイド治療の現状と再燃に関連する因子について検討を行った.ステロイドは162例,81%の症例で投与されたが,そのうち149例92%で著効が得られた.一方,著効した症例のうち約半数で再燃を認めたが,そのうちの約半数はプレドニゾロン5 mg/日未満の時点で再燃していた.再燃群と非再燃群の2群間では有意差のある因子は認めなかったが,プレドニゾロン5 mg/日以上で再燃した32例をステロイド依存群,5 mg/日以下の維持量で再燃を認めなかった62例をステロイド非依存群として解析したところ,有意差のある因子を複数認めた.さらに,多変量解析にて年齢とγ-GTPが再燃に関連する因子であるという結果が得られた.このことより,再燃に関連する因子の検討においては,再燃時のステロイド用量も考慮して解析することが重要であると考えられた.
著者
井出 達也
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.31, no.11, pp.1315-1323, 1990-11-25 (Released:2009-07-09)
参考文献数
20
被引用文献数
2 3

原発性胆汁性肝硬変症(PBC)における高IgM血症の成因を検討した.Monomer型IgMの増加はなく,血中総IgM値はpolymer型IgM値と正の相関を示した.血中secretory IgM (sIgM) levelの増加も認めたが,血中総IgM値と強い相関はなく,疾患特異性もなかった.肝内門脈域浸潤細胞ではIgM保有細胞が有意に多かった.電顕によるKupffer細胞の観察では病初期からの貪食能低下の所見が得られた.IgMクラス抗Lipid A抗体はPBCで最も増加していた.以上より,高IgM血症を来たす原因として,monomer型IgMの関与は否定的で,胆管破壊に伴うsIgMの排泄障害によるとも考えられなかった.血中IgMの産生部位としては肝局所が重要であり,Kupffer細胞の機能異常に伴う腸管内細菌性抗原の処理能の低下が,細菌性抗原に対する抗Lipid A抗体をはじめとしたIgMクラスの抗体産生を誘導していることが示唆され,このことが高IgM血症の一因を成すと考えられた.
著者
中村 篤志 吉村 翼 出口 愛美 細川 悠栄 染矢 剛 佐藤 知巳 市川 武 奥山 啓二 吉岡 政洋 朝倉 均
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.552-563, 2020-11-01 (Released:2020-11-09)
参考文献数
42
被引用文献数
1

肝硬変(LC)は多様な免疫異常を呈し,リンパ球減少が特徴となる.近年,LCの免疫不全と惹起される感染症・炎症はcirrhosis-associated immune dysfunction(CAID)と呼ばれ,肝病態の悪化との関連から注目されている.我々はLCの総リンパ球数(total lymphocyte counts,以下TLC)を調査し,さらにTLCと白血球の好中球分画を基にCAIDのステージ分類を作成した.LCでは早期からTLCが減少し,多変量解析で白血球数,脾腫,肝細胞癌,好中球増多がTLC減少に寄与する因子であった.またTLCはLCの独立した予後因子となり,CAID分類はLCの生存率を有意に層別化し得た.LCの免疫不全は炎症の誘因としてCAIDによる肝病態悪化に寄与する可能性があり,hemogramによるCAID分類の有用性が示された.
著者
上田 英雄 奥村 英正 堀口 正晴 浪久 利彦 斧田 大公望 岩村 健一郎 上野 幸久 奥田 邦雄 大森 亮雅 小林 節雄 酒井 和夫 滝野 辰郎 土屋 雅春 橋本 修治 広重 嘉一郎 矢野 幹夫 山本 繁
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.162-171, 1974-03-25 (Released:2009-05-26)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

冷蔵人胎盤の加水分解によるCE14(ラエンネック(L))は各種アミノ酸を含んでおり,その作用として,抗脂肝作用,組織呼吸の促進効果,肝再生の促進などが,実験的研究から知られている.今回の研究は,本剤が慢性肝疾患の治療に有効な薬剤かどうかを知ることであった.患者を二重盲検により,2群にランダムに分けた.Placeboとしては生理的食塩水を用いた.第I群は,L注射を2週間受けた後,Placeboを2週間受け,この方法をもう一度くり返した.第II群は,始めPlacebo注射を2週間受け,つぎの2週はLの注射を毎日受けた.その後は第I群と同様にもう一度くり返した.肝機能検査を2週毎に行なって,その前と2週後の値を比較した.両群とも,GOT, GPTはL投与期間で下降し,それは統計的に有意であった.これに比して,両群のPlacebo期間におけるGOT, GPTの下降は有意ではなかった.以上より,Lは慢性肝疾患患者に効果があるといえよう.