著者
沖 英次 園田 英人 佐伯 浩司
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

申請者らの研究グループはこれまでに、イヌの嗅覚応答を用いる(がん探知犬)ことで、大腸がんを感度・精度ともに高く診断可能であることを見出してきた。このように非侵襲にて採取可能な生体サンプルを用いた高感度・高精度ながん早期発見技術の確立は、まさに患者に優しいがん診断法となる。我々は、がんの匂いを利用して尿1滴でのがん検査を可能としがん検診の受診率と正診率の向上、健康寿命の増進に貢献し穏やかで健やかな社会の形成に資する。がんの発生は複数のがん関連遺伝子の変化に起因することが知られている。尿中代謝物によるがん細胞の発生の検知は、当該代謝物による遺伝子変異の検知の可能性を示していると考えられる。したがって私達は、尿代謝物でのがん遺伝子変異の特定の可能性を探ってきた。バイオマーカーとしての安定性と存在量を考慮して、中程度~難揮発性成分に着目し、乳がん細胞(MCF-7)培養液から直接カラム回収することで、中~難揮発性成分を網羅的に回収し、特定の中鎖不飽和脂肪酸群が乳がん細胞に特徴的な難揮発性代謝物であることを世界で初めて見出している(特願2018-53010、論文投稿準備中)。具体的には、乳がん細胞株MCF-7培養液中より、正常線維芽細胞株KMST-6培養液中にはほとんど存在しない特徴的な2種の低揮発性化合物(がん細胞特異的脂肪酸代謝中間物である中鎖不飽和脂肪酸類)をGC-MS分析により同定した。今後はこれを利用した癌の早期発見システムの開発が可能であるのか検討する。
著者
直野 章子
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では「原爆被害」と「被爆者」の意味をめぐって繰り広げられる政治的・文化的闘争について、戦後補償と被爆者援護に関する法制度、日本被団協運動と在韓被爆者運動(特に裁判闘争)、被爆者の証言行為を中心に考察した。特に、「被爆者」が法によって作られた主体位置だという点に着目しながら、日本被団協の立法運動や在韓被爆者の裁判闘争が「被爆者」や「原爆被害」の時空間的な範囲を広げてきた様相を描いた。
著者
朴 培根
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

大韓民国政府は日本による韓国併合の法的効力を認めず、大韓帝国と大韓民国との間では法的断絶のない継続性があるという見解を持っている。「大韓民国が締結した多数国間条約の効力確認」に関する韓国外務部の説明資料によれば、大韓民国は大韓帝国と同一の国際法主体として、同じ国家の内部で国体、政体および国号が変更した場合であるという。また、韓国の制憲憲法はその前文において大韓民国が1919年に樹立したという。韓国政府のこのような見解は、1919年以来韓国には国家の要素としての実効的政府が存在したことを前提にしているように思われる。その「政府」とは、中国上海でできた「臨時政府」にほかならない。しかし、臨時政府の成立の経緯、統治の実体、国際社会からの承認及び外交関係の実績等の点に照らしてみれば、それが国家の要素たる実効的政府であったかに関しては疑問が残る。その論理的帰結は、大韓帝国は国家として消滅し、旧大韓帝国の領土は日本の領土になり、その国民は日本国民になったこと、そして大韓民国は日本から独立した新生国ということになるだろう。にもかかわらず、韓国は大韓帝国と大韓民国とは法的に同一であるという態度を堅持しているし、国際社会においても条約の承継と関連して両者を法的には同一のものとして扱う事例も見られる。近年のバルト3国の例でみるように、50年以上も他国の一部として併合されたと思われてきた国家も、国際社会によっていわゆる「復活した国家」として認められる場合もある。大韓帝国と大韓民国の国家的同一性を認めることが、国際社会の法的安定性を著しく害することなく、韓国の民族的・国民的名誉と自尊心を回復させ、外国による支配がもたらした不当な結果を是正する道と認められる場合には、韓国にも「復活した国家」としての地位が与えられる余地はあると思われる。
著者
前田 晴良 田中 源吾
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究は,研究代表者(前田晴良)および研究分担者(田中源吾)による2名の陣容で行う3年計画のうちの初年度分として実施した.代表者はおもに大型化石のタフォノミーや堆積相の分析,および全体のまとめを担当し,研究分担者は,おもに共産する微化石の分析,および代表者と協力して機器分析を担当した.H30年度は,まず愛知県・師崎層群の野外調査を行い,発光器を備えた深海魚化石の保存・産状をマクロスケールで精査して地質学的な情報を収集した.同時に,東海化石研究会が保管・収蔵している師崎層群産の魚類化石についてタフォノミーの視点から詳細に観察した.また,南部北上および四国に分布する中・古生界について予察的な調査を行い,発光器を含む化石が保存されている可能性を探った.その結果,師崎層群産の発光器を備えた深海魚化石は,これまで漠然と「ハダカイワシ類」と呼ばれていたが,発光器が体側下部に一列に並ぶ配列様式から見て,分類学的には「ハダカイワシ目」の中でも「ソトオリイワシ科」に絞り込めることがわかった.また,化石中に反射板・色素などの発光器の組織・微細構造が電子顕微鏡スケールで保存されていることを確認した.ソトオリイワシ類の死後,反射板はすぐバラバラになってしまうため,化石における反射板の保存はこれまで世界に例がない.さらに,筋肉・鱗を伴う皮膚などの軟体部や,眼や耳石を含む頭部の微細構造も保存されていることがわかった.他方,腹腔内は,火山ガラス(=沸石に変質)によって充填されていて,内臓等の痕跡は認められなかった.火山ガラスは腐敗による腹部断裂を通して埋没後に体内に侵入したものである.よって,消化管・うきぶくろ(鰾)などの内臓は,発光器よりさらに早い段階で,腐敗により消失していた可能性が高い.これらの新知見をもとに,次年度以降の研究を進めてゆく予定である.
著者
岩崎 義則
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

平戸藩主松浦静山が創設した平戸藩楽歳堂文庫(以下,「楽歳堂」)を研究対象とし,その文庫をめぐる書物環境と文庫の形成過程を明らかにする観点から,静山が成作・入手した蔵書目録を中心とした研究を行った。松浦史料博物館に伝来する各種の蔵書目録から,書目のデータベース化を行い,これをWEB上で公開。楽歳堂のほぼ全容を復元できた。また,比較対象として,静山と書物をめぐり親密な交流があった豊後佐伯藩主毛利高標と佐伯文庫を取り上げた。楽歳堂にある佐伯文庫の蔵書目録を検討し,文庫の形成過程・管理方法等が解明できた。また,高標の長崎からの輸入漢籍調達が,楽歳堂の漢籍収集に与えた影響・意義等を明らかにできた。
著者
扇谷 昌宏
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

・ヒト末梢血単球からミクログリア様細胞を作製する手法を確立した。・精神疾患を含むミクログリア病において、細胞機能の異常が見られた。・本技術は今後のミクログリア研究に有益なものとなる可能性が示唆された。
著者
西村 秀樹
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

明治・大正期には、八百長の流行が新聞を通して公示され続け、協会は八百長に対する処罰を給金や番付に反映させた。八百長を生み出す契機は角界の組織風土に求められる。すると、八百長は、身分制度下での昇進・降格を巡るもの、部屋・一門の紐帯が生み出すもの、情宜- 人情・友愛 - から生まれるもの、協会の商策によるものに分類できた。当時は「引き分け」八百長が多く、「兵法」としての引き分けとの区別が微妙であったので、八百長をおこなった廉でバサバサと処分できない状況にあった。八百長が擁護されるのは、相手の体面のために譲歩する、興行の利益に資する、相手が病身・負傷にある、昇進・陥落がかかっている場合であった。
著者
細井 昌子 久保 千春 柴田 舞欧 安野 広三 澤本 良子 岩城 理恵 牧野 聖子 山城 康嗣 河田 浩 須藤 信行 二宮 利治 清原 裕
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

心身医学の中心概念である失感情症(自身の感情に気づきにくい傾向)と陽性感情(生活満足度)および慢性疼痛の合併リスク,養育スタイルと慢性疼痛合併率について福岡県久山町の一般住民で調査した.失感情症群では慢性疼痛の罹患リスクが有意に高く(OR : 2. 7),生活満足度が有意に低下していた.さらに,両親の養育スタイルでは,冷淡と過干渉の両親の養育スタイルを受けた住民で慢性疼痛合併率が高く,とくに父親の養育スタイルが冷淡/過干渉群では有意に慢性疼痛合併率が増加していた.
著者
山本 健二 浅尾 哲次 赤峰 昭文 中西 博 TETSUJI Asao 浅尾 哲治
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

歯周病の主要な病原性細菌Porphyromonas gingivalis(以後ジンジバリス菌)は自身の生存戦略に必須の物質として2つの主要なシステインプロテアーゼArg-gingipain(Rgp)とLys-gingipain(Kgp)を産生している。両酵素は細胞内外に存在し多様な機能を果たしている。細胞外にあっては、両酵素は歯周組織を直接したり、宿主の生体防御機構を破壊したりして歯周病原性を発現する一方、菌体にあっては自身の成長・増殖に必須のヘムやアミノ酸の獲得や菌体表層蛋白質の具プロセシング、血球凝集素活性やヘモグロビン結合活性などに強く貢献していることが明らかにされた。本研究の目的は、両酵素のこうした多様な機能の詳細な機能の解明を通じて、これらを薬物標的とした創薬研究を推進することにあった。とくに本研究では、Rgpに対する特異的な天然ならびに人工の阻害剤が探索され、それらの有効性を検定するとともに歯周病治療薬として実用化していくための具体的な方法論が検討された。天然の阻害物質としては、土壌の放線菌FA-70株の培養物中に本酵素活性を阻害する物質(FA-70C1と命名)を同定・単離し、構造を決定した。本物質は構造式C_<27>H_<43>N_9O_7で表され、分子量606の新規物質であった。またヒト唾液中にRgpを阻害する物質としてヒスタチンが同定された。ヒスタチンを含む宿主蛋白質のRgpによるペプチド結合の切断特異性に基づいて10種類以上のオリゴペプチドが合成され、その中から、Rgpを強く阻害するトリペプチド化合物(KYT-1と命名)を見出した。FA-70C1およびKYT-1はともにRgp活性を10^<-8>Mで80%以上阻害するのに対し、宿主のシステインプロテアーゼのカテプシンB、L、K、Sは同じ濃度で50%以下の阻害しか示さなかった。また、両阻害剤はRgpがもつコラーゲン分解能や免疫グロブリン分解能を強く阻害した。
著者
手島 孝
出版者
九州大学
雑誌
法政研究 (ISSN:03872882)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.209-242, 1965-03-15
著者
田中 俊明
出版者
九州大学
雑誌
言語文化論究 (ISSN:13410032)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.55-75, 1992

Zwischen Japan und der Sowjetunion gibt es auch heute noch eine ungelöste territoriale Frage. Diese wurde aufgrund der Besetzung der Kurilen durch die Sowjetunion, in der Zeit der Regierung Stalins, verursacht. Deswegen gibt es immer noch keinen Friendensvertrag zwischen den beiden Staaten. Die sowjetische Regierung behauptet, daß Habomai und Shikotan zu den Kurilen gehörten. Die japanische Regierung meint dagegen, daß nicht nur Habomai und Shikotan, sondern auch Kunashiri und Etorofu nicht zu dieser Inselkette gehörten. Beide Regierungen verdrehen hier jedoch die Wahrheit, um ihren Anspruch auf diese Inseln zu begründen. Habomai und Shikotan gehören in der Tat zur Insel Hokkaido, Kunashiri und Etorofu sind jedoch ein Teil der Kurilen. Beide Regierungen müßten zuerst diese Tatsache akzeptieren, bevor sie diese schwierige territoriale Frage Iösen können. Die Sowjetunion müßte sofort die Inseln von Habomai und Shikotan an Japan zurückgeben. Danach sollte die Angelegenheit der Kurilen unter Zuhilfenahme der "Geheimakten von Brakesley" gelöst werden. Darin wurde die Frage der Kurilen ausführlich durch das amerikanische Außenministerium untersucht. Diese Geheimakten schlugen vor, die Sudkurilen bei Japan zu belassen, die Nord- und Mittelkurilen zum Mandatsgebiet der UNO zu erklären und diese Mandat der Sowjetunion zu übertragen. Dieser Vorschlag stimmt mit der territorialen Forderung der heutigen japanischen Regierung fast überein. Wenn die Staatsgrenze zwischen Japan und der Sowjetunion unter Zuhilfenahme dieser Akten gelöst worden wäre, gäbe es heute diese territoriale Frage nicht. Sollte die Sowjetunion diese Lösung nicht akzeptiren, möchten wir vorschlagen, die Gesamtkurilen als gemeinsames Territorium von Japan und der Sowjetunion zu betrachten. Die Verwaltung der Südkurilen sollte von Japan, die der Nord- und Mittelkurilen dagegen von der Sowjetunion übernommen werden. Für Bevölkerung beider Staaten sollten auf den Gesamtkurilen Freizügigkeit und Niederlassungsrecht herrschen. Dabei muß auch die Situation der Ainu und anderer nationaler Minderheiten berücksichtigt werden. Diese sind durch Staatsgrenzen getrennt. Könnten wir nicht auf Grenzen verzichten und wie auf der Antarktika ohne diese auskommen? Die heutige Weltsituation unterliegt ständigen Veränderungen und alte fixe Ideen lösen sich heutzutage sehr schnell in nichts auf. Die territoriale Frage zwischen Japan und der Sowjetunion muß mit neuen Ideen gelöst werden.
著者
金 龍燮
出版者
九州大学
雑誌
大学院教育学研究紀要 (ISSN:13451677)
巻号頁・発行日
pp.229-242, 1998

The "Moa-bu" (department for the blind, deaf and dumb) in "Saisei-in" (institution for the orphans, blind, deaf and dumb) under the Government-General of Korea was significant to the process of the establishment of "special education" in Korea. The purpose of this study is to give a clear picture of the facts of "special education" provided by the Government-General of Korea. This is done through examination of the process of founding the Moa-bu in Saisei-in; its development, status and education. At the same time it would reveal some unknown aspects of education under Japanese colonial system. Following major points are discussed in this study: 1. Saisei-in was established in 1911 as a part of Japanese colonial policy. It started with only one department to foster orphans. The Moa-bu was added later on. When founded, one objective of Saisei-in was to provide care for orphans and education for the blind, deaf and dumb. 2. Primarily documents published by the Government-General of Korea were used to unveil the character of this Moa-bu. It became evident that this Moa-bu served basically to provide "special education" and "protection for abnormal children" within the framework of social work. Actually, it appears to served more or less to protect abnormal children rather than making strides in the field of education. 3. The Moa-bu of Saisei-in was the only public institution for the disabled in Korea under Japanese colonial rule. The institution had never been given recognition as a regular school until colonial rule ended in August 1945. 4. The educational purpose of the Moa-bu was to provide general education to the blind, deaf and dumb children and help them to acquire necessary skills for daily living. The period required for graduation was three years for the "Mo-honka" (course for the blind), five years for the "A-honka" (course for the deaf and dumb) and one year for the "Sokusei-ka" (crash course for the blind). No entrance examination was there to evaluate academic ability. 5. The founding objectives in curriculum reflect a great deal of importance placed on the Japanese language and practical education including vocational skills. The purpose of civics and common knowledge education was served through various materials as geography, science and agriculture which were included in the Japanese language lessons. Practice and practical knowledge applications were emphasized in the teaching policy. According to the nature of their handicap, practice to enhance sensory motor functions such as touching and hearing were practised for blind students. For teaching deaf and dumb students, sign language was mainly used with some silent mouthing. These findings to educate the students indicate at aiming to be good and obedient citizens; and the institution helped them to acquire basic skills necessary for leading independent lives. 6. Most students from the Mo-honka were self-employed after graduation as practitioners of acupuncture and massage; and those from the A-honka were engaged in sewing of western, Japanese clothes or agriculture. 7. The students of the Moa-bu (Mo-honka) in Saisei-in were given the license to practice massage, acupuncture, and moxibustion upon graduation without tests. While the students of private schools for the blind, deaf and dumb were required to pass tests to obtain a license. 8. The students enrolled in the Moa-bu were not only Koreans but Japanese also those who were living in Korea, and it was co-educational.
著者
金崎 良三 徳永 幹雄 藤島 和孝 岡部 弘道 橋本 公雄
出版者
九州大学
雑誌
健康科学 (ISSN:03877175)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.71-85, 1989-03-31
被引用文献数
1

テニス教室に参加した婦人36名を対象にして, 2年間にわたる追跡調査を実施することによって, テニスの継続化をめぐる問題にアプローチしてきた。研究結果は, 以下のように要約される。1. 対象者の基本的特性については, 全員が30代から40代の既婚者であり, 若干の者はパートタイマーとして職業に就いているが, 大部分は専業主婦である。また小学生の子供をもつ者が多いが, ほとんどの者が出産・育児から解放された時期にある。2. 学生時代からテニス教室に参加するまでの過去において, 大部分の老が何らかのスポーツの経験をしている。また, スポーツとかかわりをもつ夫や子供がいる者が極めて多い。3. テニスの継続状況については, (1)長期継続型(教室終了後引き続き継続), (2)中途継続型(教室終了後すぐには実施せず途中から開始して現在も継続), (3)中断継続型(途中で中断の時期があるが現在も継続), (4)中途非継続型(教室終了後引き続き実施していたが途中でドロップアウト)および(5)長期非継続型(教室終了後からずっと実施せず)の5つのパターンがみられた。全体的には(1)〜(3)の継続群が多く, 7割以上を占めている。特に長期継続群は, 練習コートが自宅から極めて近い所にあり,試合に出場した経験のある者が多い傾向がみられる。4. テニスヘの社会化パターンについては, 学校卒業後からテニス教室参加以前のスポーツ経験の違いから, (1)テニスを初めて開始した者, (2)スポーツ経験はあるがテニスは初めての者, (3)テニスの経験があり教室では再開または継続的に実施する者, という3つのパターンがあり, このうち(3)のパターンに属する者が多く半数を占めている。これらのパターンと教室終了後のテニスの継続パターンとの間には, 特徴的な関連性は認められなかった。5. テニス継続化の要因としては, (1)専業主婦がほとんどであり, 仕事をもっていてもパートタイマーであることから時間的余裕がある, (2)利用できるコートが極めて身近な所にある, (3)自主グループやクラブ, スクールなど練習仲間がいる, (4)テニス関連支出が大きな経済的負担となっていない, (5)テニスの技能の向上が認められる, (6)家族が重要な他者として機能している, (7)テニスの行動意図や重要な他者に対する規範信念が高い。(8)スポーツ意識に問題がない, などが指摘できる。6. テニス継続の目的に関しては, (1)友人との交流, (2)ストレス解消, (3)健康・体調の維持, (4)肥満防止・体重調整, (5)技能の向上・試合出場の5つがあげられるが, 特に「上手になりたい」, 「試合に出場したい, 勝ちたい」など(5)に関連する内容をあげた者が目立つ。7. テニス非継続の要因としては, (1)仕事の都合, (2)性的役割の問題(出産・育児), (3)社会的役割の問題(地域の役員就任), (4)転居による地理的・社会的環境条件の変化, (5)病気・怪我など健康上の理由, (6)指導者・リーダーがいなくなることによるグループの消滅, (7)グループ内の人間関係の問題, (8)テニスの技能が向上しないことによる意欲の低下, などがあげられる。本研究は, その目的がある程度達成されたとはいえ婦人のテニスについての1つの事例研究に過ぎず, したがって以上の結論を一般化することは困難である。今後は.今回の結果を踏まえてさらに対象を拡大するなどして, 数量的, 実証的研究へ発展させたいと思う。(本研究の要旨は, 1988年の第37回九州体育学会にて発表した。)