著者
小林 亜希子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究ではダウン症(21トリソミー)で神経細胞数の増加を抑えている遺伝子を特定し、その機能を妨げることで神経細胞を正常に増やすことができる化合物アルジャーノンを発見しました。また、ダウン症のモデルマウスがまだ胎仔の時期に母マウスを通してアルジャーノンを投与したところ、大脳皮質の異常や学習行動の低下といった症状が改善されました。
著者
小林 亜希子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

脳において神経細胞を支えるアストロサイトは、神経細胞の栄養や不要物の排除など、正常な脳機能に重要な役割を果たしている。脳・脊髄損傷などの障害に反応してアストロサイトは活性化し、炎症性細胞の浸潤抑制など神経保護的役割を果たす一方、軸索再生抑制や神経細胞死の誘導など障害的形質を獲得するという多様性を示す。特に「障害性活性化アストロサイト」は、アルツハイマー病などの神経変性疾患に存在することが報告され、神経炎症による神経脱落の主要因であることが示唆されつつある。本申請研究では、活性化環境条件により二面的な性質を示すアストロサイトがどのようにしてその形質を決定するのか、形質運命決定の分子機構を探る。
著者
下出 敦夫
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

昨年度は重力のゲージ場である多脚場と場の強さである捩率の時間成分を用いて熱輸送の理論を確立したが,今年度はそれらの空間成分を用いて運動量輸送の理論を確立した.まず捩率の空間成分の電場が回転の角速度と歪み速度テンソルを記述することを示し,軌道角運動量と粘性がそれぞれ電気分極と電気伝導度の運動量版であることを見出した.特にゲージ原理の観点からは角速度が磁場ではなく捩率の電場であるということは重要な指摘である.昨年度までに確立した曲がった時空におけるKeldysh形式を用いてそれらを定式化し,波数空間における簡単な公式であるBerry位相公式を導出した.Cooper対が軌道角運動量をもつ2次元または3次元カイラル超伝導体に対してこの公式を応用し,既存の普遍的な結果を再現するとともにHall粘度の温度依存性を得た.この研究は理化学研究所およびCEA Saclayの木村太郎氏との共同研究であり,Physical Review Bに出版されている.さらにCooper対自身は軌道角運動量をもたないトポロジカル超伝導体に対しても軌道角運動量のBerry位相公式を応用し,2次元カイラル超伝導体とは異なる,Rashba型のスピン軌道相互作用に依存した非普遍的な結果を得た.これにより,既に知られているトポロジカル超伝導体の非普遍的な不純物効果を定性的に説明することができた.この研究は日本原子力研究開発機構の永井佑紀氏との共同研究であり,Physical Review Bに投稿中である.
著者
宇佐美 誠 大屋 雄裕 松尾 陽 成原 慧
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

本研究計画は、人工知能(AI)が著しく発達した近未来の社会的経済的状況を見据えて、新たな分配的正義理論を提案するとともに、個人の自由への新たな形態の脅威に対して理論的応答を提示することを目的とする。この研究目的を効果的に達成するため、正義班と自由班を組織しつつ、相互に連携して研究を実施する。補助事業期間を基礎作業、構築・展開、総合・完成という3つの段階に分け、計画的に研究活動を推進する。
著者
潮見 佳男 橋本 佳幸 村田 健介 コツィオール ガブリエーレ 西谷 祐子 愛知 靖之 木村 敦子 カライスコス アントニオス 品田 智史 長野 史寛 吉政 知広 須田 守 山本 敬三 横山 美夏 和田 勝行
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成30年度は、前年度に引き続き、ゲストスピーカーを交えた全体研究会の開催を通じて、情報化社会における権利保護のあり方をめぐる従来の議論の到達点と限界を検討し、知見の共有を図った。個別の研究課題に関しては、次のとおりである。第1に、個人情報の収集・利活用に関する私法的規律との関連では、全体研究会を通じて、EU一般データ保護規則(GDPR)の全体的構造のほか、EUにおけるプライバシー権の理論構成について理解を深めた。また、プラットフォーム時代のプライバシーにつき、プロファイリング禁止やデータ・ポータビリティーなどの先端的課題を踏まえた理論構成のあり方を検討した。第2に、AIの投入に対応した責任原理との関連では、全体研究会において、ドイツでの行政手続の全部自動化立法の検討を通じて、AIによる機械の自動運転と比較対照するための新たな視点が得られた。第3に、ネットワーク関連被害に対する救済法理との関連では、担当メンバーが、ネットワークを介した侵害に対する知的財産権保護のあり方を多面的に検討し、また、オンライン・プラットフォーム事業者の責任について分析した。以上のほか、私法上の権利保護の手段や基盤となるべき法技術および法制度に関しても、各メンバーが新債権法に関する一連の研究を公表しており、編著の研究書も多い。さらに、外国の法状況の調査・分析に関しては、ドイツやオーストリアで在外研究中のメンバーが滞在国の不法行為法の研究に取り組み、複数のメンバーがヨーロッパ諸国に出張して情報収集を行った。また、研究成果の国際的な発信も活発に行っており、国際学会での日本法に関する報告が多数あるほか、新債権法に関して、その翻訳、基本思想を論じる英語論文が挙げられる。
著者
朝尾 直弘
出版者
京都大学
雑誌
京都大學文學部研究紀要 (ISSN:04529774)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.23-83, 1976-03-31

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。
著者
辻 斉
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

人物の集合写真に中から知人の姿を見つけられなくて困ったり、逆にテレビの画面の端にちらりと映った自分の姿にすぐに気がついた経験は誰にもある。自分に関する聴覚刺激の閾値は他より低いことはカクテルパーティ効果現象という名でよく知られているが、視覚刺激については明らかでなかった。日常場面では、自分を見つける手がかりとして、集合写真での自分のいる位置や自分の服装といった外的で一時的な特徴を利用している可能性もある。本研究では、自分の姿が本当に見つけやすいのかどうかを、数名の大学生の顔写真を同時にコンピュータのディスプレイに提示し、その中にあらかじめ指示された顔が有るか無いかを判断させるという視覚的探索(Visual Search)手続きを用いて検討した。同時提示する顔写真の数を1、2、4、6と変化させたがそのいずれにおいても、自分の顔は他者の顔よりも統計的に有意に速く見つけることができた。また、顔の探索に要する時間は同時に提示された探索対象でない人物の人数が増えるにつれて探索時間は加算的に増加し、線分の傾きのような単純な刺激を探索するときに一つだけ異質のものが浮き出してみえる現象(pop out)は、見出されなかった。自分の顔か他者の顔かという要因と刺激の数の要因との間で有意な交互作用はなかった。この実験の結果、服装や位置のような外的で一時的な要因を取り除いても、被験者自身の顔は他者の顔よりも認知しやすいことが明らかになった。この実験で視覚的なカクテルパーティ効果の存在が実証された。これは日本心理学会で発表され、高く評価された。視覚的カクテルパーティ効果の説明として顔刺激に対する親近性を考えることができる。今後は妨害刺激としての他者と被験者との親近性を変数としてさらに研究を続ける必要性がある。
著者
神川 龍馬
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

光合成は、エネルギーと糖を太陽光と二酸化炭素から得られるという利点がある。にもかかわらず、光合成能を完全に喪失し、光合成性から従属栄養性へと進化した藻類が存在する。従属栄養性への進化を解明するため、本研究では非光合成性珪藻類Nitzschia sp. をモデルとして研究を行った。その結果、本藻は光合成能喪失後も葉緑体を維持しており、光合成以外の葉緑体代謝機能をほぼ喪失しておらず、アミノ酸や脂肪酸などの物質を細胞内で合成できることが分かった。すなわち、光合成能の喪失とは必ずしも葉緑体機能の縮退を意味しない。
著者
阿形 清和 野地 澄晴 梅園 良彦 横山 仁 遠藤 哲也 柴田 典人
出版者
京都大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

新学術領域研究『再生原理』では、日本の看板研究の一つであった<再生研究>の成果をもとに、3次元構造をもった指や器官の再生を目指す-新しい再生医療をめざす研究領域を作るために本領域を立ち上げた。そして、再生原理を明らかにすることで、再生できない動物に3次元構造をもった指や器官の再生を引き起こすことを目指した研究を展開した。その結果、プラナリアやイモリで再生原理を明らかにしたことで、尾部からは頭部を再生できないプラナリアを遺伝子操作によって再生できるように成功し(Umesono et al., Nature, 2013)、また関節を再生できないと考えられていたカエルに関節を再生させることに成功した(Tsutsumi et al., Regeneration, 2015, 2016)。これらの画期的な研究成果をより広く世界中の研究者、一般の方々、再生医療関係者に広めていくのに、それらの成果を海外ジャーナルに出版するとともに、国内新聞やEurekAlertなどの国際科学Webサイトを使って広報した。英語での論文出版と、海外向けの広報活動などについてはElizabeth Nakajimaさんを雇用できたことでスムーズに展開することができた。この1年でカエルの関節再生を含め重要な論文を8報、英文誌に出版することができた。また、高校生向けとしては、京都市立西京高校、愛知県立一宮高校、明和高校、宝塚北高校、広島ノートルダム清心女子高校などに出張講義あるいは大学での実習を行った。一般向けとしては、東京で公開講演会を行うとともに、ABC放送、BSフジの『ガリレオX』などで本研究の成果は紹介された。このように、5年間にわたる本研究成果を、国内外に積極的に広報することに成功した。そして、最後に5年間にそれらの成果を冊子体としてまとめて報告書とした。
著者
井上 武
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

機能的な成熟した神経回路は、発生過程で、まず遺伝的情報により形成された後、活動依存的に機能回路単位の再編成が行われることで完成する。神経回路の再編成は、神経伝達を促進するシグナル分子が、シナプス後細胞で活動依存的に発現し、シナプス前細胞と相互作用することが必要と考えられる。本研究では、新規神経ペプチドが活動依存的な神経回路の再編成に関与することで、プラナリアの頭部再生過程における正常な負の走光性行動の機能回復に機能していることを見いだした。
著者
武部 啓 五十棲 泰人 巽 純子 宮越 順二 八木 孝司
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

高圧送電線から放出される電磁場が白血病、脳腫瘍などを誘発するおそれがある、との疫学研究(アメリカ、スウェーデン)を実験的に支持することができるか、を明らかにするのが本研究の目的である。最大出力400ミリテスラ(4000ガウス)、50ミリテスラ(500ガウス)、5ミリテスラ(50ガウス)の3装置を作成し、哺乳動物(ヒト、ハムスター)細胞を用いて、(1)突然変異の誘発、(2)遺伝子発現の促進について調べた。すでに前年度までに、両者とも400ミリテスラでは確実に上昇がみられることを確認しているが、本年度は低出力、長時間ばく露の影響を明らかにすることに重点をおいた。もっとも感度が高いチャイニーズハムスター細胞を5ミリテスラ照射で最大13週間連続ばく露したが、突然変異の上昇はみられなかった。遺伝子発現の上昇はこれまで電磁場単独ではみとめられていなかったが、チャイニーズハムスター細胞では400ミリテスラでNOR-1遺伝子の発現が促進された。その発現は処理時間が5時間のところで高くなり、その後処理を続けると低下した。突然変異の型については、自然に生じる突然変異のDNA塩基配列の変化と電磁場(400ミリテスラ)誘発による突然変異とでは著しく異なっており、電磁場特有の変化がみられた。遺伝子損傷は、DNAへの直接の作用ではなく、DNA複製のエラーを高める間接的な効果であることが、DNA合成阻害実験からわかった。本研究によって、きわめて高密度の電磁場は、遺伝子に損傷を与えることが示されたが、低密度・長時間(マイクロテスラ)では人体に有害であるという証拠はない、とのこれまでの定説を支持する結果である。
著者
増田 良介
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
1998

博士論文
著者
舘野 隆之輔 小林 和也
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-07-17

本研究は、針葉樹一斉造林地を有用広葉樹からなる広葉樹林へ誘導する際にどのような樹種の組み合わせを選定すれば、木材生産、地力維持、養分流出抑制など生態系の持つさまざまな機能を多面的に発揮できるのかを明らかにし、実用化に向けた課題を抽出することを目指す。本研究では、現存する発達した天然林における樹種の成長や動態を明らかにするとともに、生物群集の多様性と生態系機能との関係を明らかにする。また種子、実生、成木など様々な生育段階において、樹木の成長パラメータや植物と微生物間の相互作用、土壌養分や養分流出が、樹種の組み合わせでどのように変化するかを野外調査やポット実験、モデルなどを用いて明らかにする。
著者
藤野 正寛
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

マインドフルネスとは、今この瞬間の経験に受容的な注意でありのままに気づくことである。この能力を高めるための実践法は、特定の対象に意図的に注意を集中する集中瞑想と、経験に対して抑制することなくありのままに気づいている洞察瞑想の2種類の瞑想技法から構成されている。近年、この実践法が人々のウェルビーイングの改善・向上に貢献することが多くの研究で示されている一方で、対象者によってはネガティブな経験を抑制してしまうことで有害事象が生じる事例も示されている。そこで、安全かつ効果的な実践法の適用・開発のために、マインドフルネスの中核的な機能を育む洞察瞑想の心理・神経基盤を解明することが求められている。本年度は、瞑想未経験者72名を対象として、昨年度に開発した介入用教示を用いて、集中瞑想と洞察瞑想の30分の短期介入が、妨害刺激の対処方法に与える影響の違いを検討した。実験では、妨害刺激としての表情顔の中央に呈示された文字の向きを解答する弁別課題を用いた。その後、弁別課題時に呈示した顔と呈示しなかった顔を用いて選好度判断課題を実施した。その結果、対照群では表情顔に対する単純接触効果が見られなかった。しかし集中瞑想群と洞察瞑想群では単純接触効果が見られた。さらに集中瞑想群でのみ介入後のリラックス状態と単純接触効果の間に有意な正の相関が見られた。これらの結果は、統制群では弁別課題で呈示された顔を抑制したために、呈示顔の魅力度が低下したことを示している。また集中瞑想や洞察瞑想の短期介入が、注意制御機能や情動調整機能に影響を与えることを示すとともに、洞察瞑想が集中瞑想による選択的注意を強めることとは異なる心理メカニズムに影響を与えていることを示している。これによって、従来確認されていなかった、瞑想未経験者でも洞察瞑想による情動調整を実施できるということの傍証をえることができた。
著者
清水 政明 Le Thi Lien 桃木 至朗
出版者
京都大学
雑誌
東南アジア研究 (ISSN:05638682)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.149-177, 1998-09

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。This paper aims to introduce one piece of chu nom material, which Henri Maspero mentioned in his article of 1912 as one of the oldest chu nom materials, and the existence of which remained for a long time unconfirmed. This paper also aims to analyze the chu nom characters contained in it from the historical phonological point of view. This material was rediscovered and introduced by Le Thi Lien in her 1989 B. A. thesis. It is an inscription erected in 1343 on the Ho Thanh mountain (nui Non Nuoc) in the present Ninh Binh province, Vietnam. It concerns donations made by local inhabitants for the construction of a temple on the mountain. Before analyzing the chu nom characters in the inscription, we first review the traditional method of analyzing chu nom characters as proposed by Henri Maspero in 1912,for the purpose of demonstrating the limitations of his method in the analysis of our material. We then refer to recent Viet-Muong phonological studies based on the newly discovered and described groups of the Viet-Muong branch such as Arem. Chu't. Ma Lieng. Aheu, and Pong, most of which were not known when Maspero wrote his paper. One of the main phonological features that differentiate them from the Mu'o'ng dialects described by Maspero is the existence of the disyllabic structure : (C_0)vC_1V(C_2)/T. We also utilize newly discovered chu nom materials such as the Sino-Vietnamese text of Phat thuyet a ai bao phu mau an trong kinh, compiled in the 15th century, which also throws light on our analysis. The material contains 11 common words and 18 person or place names written in chu nom characters. The latter 18 proper nouns are the object of discussion. Their common characteristics are the use of two characters for the transcription of one proper noun and occurrence of the vowel /a/ as the first element. We claim for these examples to show (1) certain patterns of the initial consonantal cluster, and (2) the trace of the disyllabic morphemes still preserved in the 14th century Vietnamese. Concerning the former point, we can reconstruct such patterns as /^* bl-/, /^* ml-/, and /^* k'r-/ from our material. The latter point is of special importance. Nguyen Tai Can (1995) reconstructed the major members of the minor syllable ((C_0)v) in the disyllabic structure of Proto Viet-Muong as /^* pə/, /^* tə/, /^* cə/, /^* kə/, /^* sə/, /^* a/, and we can recognize four of them in our matelial : /^* pə/, /^* tə/, /^* kə/, /^* a/. The chu nom characters contained in the Sino-Vietnamese text of Phat thuyet d ai bao phu mau an trong kinh mentioned above, in turn, show all six of them, and the characters transcribing each of these minor syllables coincide with each other between these two materials, a fact that may reinforce the credibility of our analysis. In conclusion, the insertion of a non-distinctive schwa vowel/ə/ between each of the initial consonantal clusters seems to have been common in Vietnamese during the 14th-15th centuries, but not in all cases. And the disyllabic strucure of Vietnamese, or at least the trace of it, is recognized to have existed until as late as 15th century.
著者
見学 美根子 (2011) 岡本 晃充 (2010) WANG D. オウ タン
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

神経細胞内のmRNA動態観察において、RNA配列の染め分け、つまりマルチカラー核酸解析は、mRNAのライブセルイメージングの原点としてどうしても確立したい技術である。それが可能になれば、アメフラシの神経細胞の中でのmRNAのトラフィックスのモニタリングへ応用できるようになる。本年度は、まずモデル系として、励起子制御機構にのっとった新規蛍光プローブ群を用いて、ヒトガン細胞(HeLa細胞)およびマウス神経細胞(海馬から取り出す)における新規mRNA蛍光検出法へと展開した。ここで検討されたプローブは、チアゾールオレンジ色素の色素間励起子結合効果を利用しており、標的のmRNAと結合した場合にだけ488nm励起により強い蛍光を発する。われわれは、まず細胞内mRNA分布の静的観察のために、このプローブを用いた蛍光in situハイブリダイゼーション法を確立した。この方法は、ガラスプレート上に固定化した細胞に対し、新規蛍光プローブを含む溶液を加えるだけである。これにより、従来までの蛍光in situハイブリダイゼーション法で用いられてきた工程を大きく簡便化することができた。この新規観察法を通じて、mRNAが細胞内でどのように分布しているかを蛍光発光によって確認することができた。この方法は、次の段階として目指すべきである神経細胞内のmRNAのトラフィックの観察に有用であると思われ、引き続き研究を進めることによって、新たな蛍光観察法の確立を目指したい。
著者
間野 英二
出版者
京都大学
雑誌
京都大學文學部研究紀要 (ISSN:04529774)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.231_a-29_a, 1984-03-31

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。