著者
柴田 悠
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

全国郵送質問紙調査を実施し、公的サポートである「保育」(保育所への通園)と、私的サポートである「家庭育児」(先行研究によれば親の社会経済地位によってその質は異なる)の、交互作用に考慮に入れながら、それらが成人後の幸福感やその諸要因に与える長期的影響を、保育所通園の傾向スコアを用いた因果推論によって検討した。その結果、「不利な家庭」(社会経済地位:下位1/2)出身の20~44歳回答者では、保育所に通うと(幼稚園のみに通う場合と比べて)、将来、非正規雇用になりにくくなる、有配偶者の確率が高まる、対面交流の頻度が増えるなどの傾向が見られ、さらにそれらの結果として主観的幸福感が高まる傾向が見出された。
著者
古賀 純子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

申請者の研究はベルクソン哲学を音楽との関わりについて考察するものである。これまでに(1)20世紀の作曲理論をベルクソン哲学の観点から解釈すること、(2)ベルクソンの哲学理論を演奏という具体的な芸術活動の場に置き直す、という二つの方向で研究を行ってきた。平成18年度は、上記二つの方向性をふまえながら、20世紀音楽とそれ以前の古典音楽の時間構造をより詳細に分析する研究を行った。音楽作品は通常、拍節構造とメロディという二重の時間構造を持つ。ある種の現代音楽は規則的な反復に基づく古典音楽の拍節構造を「音楽的時間を不当に束縛している」と考える。しかしベルクソンの時間概念に照らすと、古典的拍節は「自由」で「創造的」な持続(dur□e)の時間構造と矛盾しない。音楽家は規則的な拍子に従いつつも、厳密に均等な時間配分で演奏するわけではなく・現実的にはそれらを伸縮させつつ独自の旋律形体を創造する。ベルクソン哲学から導き出される創造的時間の本質は、数的計測と不規則に合致しつつ、創造的主体が自らの選択によって旋律形体を形作るプロセスに存在すると考えられる。このようなベルクソン的時間論から見た場合、規則的拍節を持たない20世紀音楽、および伝統的な東洋音楽の時間構造はどのように解釈されるだろうか。申請者は以上のような問題意識のもと、これまで行ってきたオリヴィエ・メシアン、ジョン・ケージの研究に引き続き・ピエール・ブーレーズ、ヤニス・クセナキスの音楽作品の分析に着手している。この研究のため、18年9月、ひと月間パリに滞在し、ジョルジュ・ポンピドゥーセンター付属の公共情報図書館および国立近代美術館資料室で文献・資料の調査を行い、執筆中の博士論文に有用な情報を収集した。
著者
吉田 聡
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

本研究では、1分毎、高度100m毎の高時空間分解能で大気中の水蒸気量を推定できる新型マイクロ波放射計と2分毎に全天の雲画像を撮影できる雲カメラを用いた白浜・潮岬での定点観測と同測器を搭載した車両による3点同時観測によって、降水直前の数km、数十分の間に潜む詳細な水蒸気・雲分布の4次元変化を捉え、降水が地上に達する直前までの大気場の変動と、現実大気中での水蒸気、雲、降水に至る過程の実態解明に挑む。
著者
杉山 正明
出版者
京都大学
雑誌
京都大學文學部研究紀要 (ISSN:04529774)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.150_a-92_a, 1995-03-31

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。
著者
加藤 周
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

affine Hecke代数やKhovanov-Lauda-Rouquier代数(KLR代数)といった重要な代数系において標準加群と呼ばれる加群族が複数存在し、それらが皆古典的な準遺伝代数の枠組みで現れるのと同じ直交性と呼ばれる性質を持つことを発見し、証明した。このような直交性(+既約表現の順序)は特に既約表現の指標を決定し、表現論的により原始的な意味で指標の直交性を捉えていると考えられる。応用として(ADE型)KLR代数の大域次元有限性(柏原の問題)、対応する量子群Poincare-Birkoff-Witt基底と標準/大域基底の遷移行列の正値性(Lusztigの予想)を解決した。
著者
米田 英嗣 鳥居 深雪 神尾 陽子 Just Marcel Adam
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、小説などの物語を用いて自閉スペクトラム症(ASD)をもつ成人および児童における日常生活スキルプログラムを開発することを目的とした。紙面上で、AQ、対人応答性尺度(SRS-2)、現代文の評論文と小説文に解答した。PC上で、言語を用いた心の理論課題(White et al., 2011)、図形を用いた心の理論課題(Castelli et al., 2000)に回答をした。その結果、プログラムの実施前後でパフォーマンスを比較した結果、図形の動きに対して心的状態を帰属する傾向が高くなることがわかった。言語を用いたトレーニング効果が非言語性の心の理論課題に転移し、成績の向上が認められた。
著者
寺本 英 日高 敏隆 河合 雅雄 川那部 浩哉 伊藤 嘉昭 松田 博嗣
出版者
京都大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1986

昭和58〜60年度の3年間におよぶ本特定研究の研究成果は下に述べるとおりであるが、本年度はそれらの研究成果をもとに国際シンポジウム「生物の適応戦略と社会構造」が計画され、この分野で活躍する外国の専門研究者17名の参加を得て実施された。本シンポジウムはいろいろな動物群あるいは数理モデル等の各分野の専門家が一同に会して動物の社会構造や社会行動についての諸問題を議論したユニークなものであり、本特定研究の研究成果に国際的な評価を与えるものとなった。シンポジウムの内容は特定研究の研究成果を含め英文報告書として取りまとめられた。また、それとは別に「生物の社会構造」と題する和文の啓蒙書も出版されている。3年間の本特定研究の研究成果は次のとおりである。昆虫における真社会性の進化、昆虫および甲殻類の交尾戦略・繁殖戦略の研究では、野外調査を主体に、特に南西諸島での本格的な調査とともにいくつかの事実の発見があり繁殖戦略・社会構造の理論の発展を得た。脊椎動物では魚類,鳥類,哺乳類を中心に調査研究が組織的に遂行され、交尾・育児・採餌行動と社会構造の詳細な比較検討が行なわれた。霊長類についてはニホンザルの調査を中心に、新しい調査方法によって採餌戦略・繁殖戦略によるサル社会の分析がなされ、個体群維持機構に関する事実が見い出された。ヒトに関する研究は旧来の伝統的風習や制度の残る沖縄や東北の僻地社会で重点的な調査が行なわれ貴重な資料が集収された。またそれに基づく社会構造と生存戦略の分析をとおしてヒト社会の特徴が抽出された。これらの広い研究対象で明らかにされてきた種々の動物行動の適応戦略的視点からみた統一的理論および社会構造形成モデル理論の探求が個体群動態論と適応戦略論の融合した理論として世界に先がけて精力的に行なわれた。
著者
芦名 定道
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
1994

論文博第260号
著者
佐藤 正範
出版者
京都大学
雑誌
東南アジア研究 (ISSN:05638682)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.495-522, 1995-03

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。This article deals with the "Romusha" described in history textbooks used in junior and senior high schools in Indonesia from 1984 to 1993 and analyses the meanings and images evoked by these descriptions. The results of an analysis of the "Romusha" in 9 junior high school history textbooks and 5 senior high textbooks can be summarized as follows; "Romusha" is the most symbolic word used to represent the Japanese Military Occupation of Indonesia (1942-1945). In Japanese, romusha means 'physical laborers', but in 7 of 14 textbooks the word means 'forced laborers', in 4 it means 'laborers', in 3 'soldiers of labor', in 2 'heroes of labor' and 'soldiers of economics', and in 1 each 'forced labors', 'corps of forced laborers' and 'forced coolies'. Thus the word can be said to have more specialized meanings in Indonesian textbooks than in the original Japanese. In 12 of the 14 textbooks there are descriptions of mobilizing the "Romusha, " their actual working conditions in 9,the methods of dispatching workers to job sites and their final disposition in 10,and the number of workers in 8. It is evident that the image of the "Romusha" in Indonesian history textbooks used in junior and senior high schools is basically that of "pathetic forced laborers" from many points of view.
著者
今井 友也 石水 毅 中島 啓介 鈴木 史朗
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

真核生物の細胞膜はホスファチジルコリン(PC)を主成分として含む。一方で異種発現系によく使われる大腸菌の細胞膜の主成分はホスファチジルエタノールアミン(PE)であり、PCを全く含まない。膜タンパク質の機能や構造は、周囲の脂質分子に影響を受けることが報告されていることから、大腸菌のPEをPCへ変換して膜脂質環境を真核生物的にすることで、真核生物の膜タンパク質を大腸菌で発現できる可能性を調査した。NMT(N-メチル基転移酵素)遺伝子を導入することで、大腸菌の脂質をPCリッチに成功することには成功したが、用いた真核生物由来の膜タンパク質の細胞膜への発現には至らなかった。
著者
御前 明洋
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

白亜系鳥屋城層において,Canadoceras Kossmati,Sphenoceramus schmidtiなどが産出する層準と,Didymoceras awajienseが産出する層準の間に,Diplomoceras sp.などの特有のアンモノイドのみを産出する層準があることがわかった.さらに詳しく検討する必要があるが,この層準は,蝦夷層群などのMetaplacenticeras subtilistriatum等を含む層準に相当する可能性が考えられる.淡路島に分布する和泉層群から産出するPravitoceras sigmoidaleを詳しく観察すると,完全に平面的なものだけでなく,フック部の付け根が少しゆがんでいるものがあることがわかった.動漂構モデルを用いて形態解析を行った結果,1)典型的なD.awajiense,2)昨年度の調査で明らかになった平面形に近い形態のD.awajiense,3)フック部がゆがんだP.sigmoidale,4)ほぼ平面的なP.sigmoidaleのそれぞれの形態の差異はかなり連続的なものであることがわかった.また,鳥屋城層で産出するEubostrychoceras elongatumやD.awajienseなどの異常巻きアンモノイドと,東京大学総合研究博物館や東北大学総合学術博物館に所蔵されているいくつかの標本の比較検討を行い,これらの異常巻きアンモノイドの分類学的研究を行った.夏には,北海道の羽幌町周辺の白亜系の調査を行った.Inoceramus uwajimensisの産状と堆積相との関係を詳細に観察した結果,I.uwajimensisの生息姿勢や埋積過程を考える上で重要なデータを得た.また,パキディスクス科大型正常巻アンモノイドの両面全体にPycnodnteが付着している重要な標本を採集した.
著者
山本 浩貴
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

【研究目的】ワルファリンは、ビタミンKと拮抗することで抗凝固作用を示す薬剤であり、相互作用する薬剤が多く、プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR値)を用いた維持投与量の調節が推奨されている。脂肪乳剤は、効率の良いエネルギー補給の目的でしばしば臨床使用されているが、近年、脂肪乳剤とワルファリンの併用は、ワルファリンの抗凝固能に影響を与えるという症例が報告されている。そこで、ワルファリン抗凝固能に対する脂肪乳剤の影響についての詳細を検討するため、カルテ情報に基づいた後方視的調査を行った。【研究方法】2011年10月1日から2014年3月31日の2.5年間に京都大学医学部附属病院にてワルファリンと脂肪乳剤を併用した症例をカルテから抽出した。なお、本調査は本院医の倫理委員会の承認を得て行った。【研究成果】解析対象となった7症例のうち、脂肪乳剤との併用によりPT-INR値が減少傾向を示した症例は3症例であった。この3症例のPT-INR値について詳細に解析すると、ワルファリン単独投与時は1.82-2.78であり、脂肪乳剤併用時は1.18-1.29であった。さらに、併用前後でワルファリン投与量が変更されている例もあるため、PT-INR値をワルファリン投与量で補正したWarfarin Sensitivity Index(WSI)値で評価した。その結果、WSI値は脂肪乳剤を併用することで減少傾向を示した。一方、併用の影響を示さなかった4症例においては、WSI値についても併用前後の値で変動は認められなかった。以上、ワルファリンの抗凝固能は、脂肪乳剤との併用により減弱する可能性が示唆された。脂肪乳剤の併用による影響を受けない症例も見られるものの、ワルファリン使用時には、脂肪乳剤に含まれるビタミンKの影響も考慮する必要があると考える。
著者
田中 千尋 大澤 直哉 吹春 俊光 都野 展子 都野 展子 吹春 俊光 BUCHANAN Peter JOHNSTON Peter TOFT Richard DICKIE Ian 門脇 浩明
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,ニュージーランドにおいて同地固有種であるナンキョクブナ林において, 外来菌根菌ベニテングタケの侵入・発生状況を調査するとともに, 侵入の原因ならびに他森林生物に与える影響を明らかにしようとした.調査の結果, 同地には複数の系統のベニテングタケが移入し,雑種化が進んでいること, 人為的かく乱が著しいあるいは人工植栽地などを中心に分布拡大が進んでいること, 古くから発生が認められるサイトでは,同地固有のキノコバエ種がベニテングタケを利用するようになっていることが明らかになった.
著者
菊地 夏野
出版者
京都大学
雑誌
京都社会学年報 : KJS
巻号頁・発行日
vol.10, pp.101-118, 2002-12-25

This thesis deals With the "Paradox of Feminism". Feminism orginally tried to resist patriarchy and sexual oppression towards women. I~owever in the course of the movement feminism fell into confusion, in some ways resulting in the preservation of such oppression. For example, many women have protested against pornography as violence against women. They have identified pornography as a product of patriarchy. However, in some cases political situations give resemblance to feminism and conservatism. Therefore confusion between feminism and that opponent occurs. Other issues including prostitution, domestic violence, and sexual harassment have the same composition. This paper analyses this paradox by considering the relationship between gender and sexuality. The two concepts each have their own history, but how the two relate has rarely been discussed. I think that the paradox of feminism is rooted in the relationship between gender and sexuality. Violence against women has two aspects; gender and sexuality. Trying to emphasis the concept of gender involves the problem of knowledge. As Foucault pointed out, sexuality is exclusive to knowledge. Consequently the discourse that opposes gender excludes some sexual elements in some respects. In contrast to this, to oppose the oppression of sexuality results in the ignorance of the violence against women and the problem of gender. This situation shows the relationship between gender and sexuality as one of dualism. In this dualism the discourse of the one causes the exclusion of the other. The discourse of feminism is placed in this dangerous logic. In this paper I try to make clear this dual logic and to Consider more viable alternatives for the feminist movement.