著者
平野 康之 夛田羅 勝義 川間 健之介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

<b>【はじめに,目的】</b>近年,訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)の需要が拡大する一方で,訪問リハ従事者が経験する事故や病状急変などの件数は増加傾向にある。このような現状からサービス提供における安全管理の徹底が求められるが,訪問リハ従事者におけるこれらのアセスメント能力(技術)の実態については明らかではない。本研究の目的は,訪問リハ従事者が実施する健康状態や病状把握のために用いるアセスメント項目の知識(技術)の程度や実施の程度,必要性の認識などについての実態を把握することである。<b>【方法】</b>対象は,全国の訪問リハ事業所(病院)に勤務する訪問リハ従事者である。方法は都道府県ごとにランダムに抽出した540施設に対して,以下に示す訪問リハビリテーションアセスメント(以下,vissiting rehabilitation assessment:VRA)に関する自己記入式質問紙を郵送した。VRAは利用者の健康状態や病状把握に必要と考えられる①心理・精神に関する項目,②生命・身体に関する項目,③生活に関する項目の3領域からなるアセスメント(全42項目)で構成され,回答にあたっては知識(技術)の程度(以下,知識度),アセスメント実施の程度(以下,実施度),訪問リハ実施時における必要性(以下,必要性)について5段階のリッカート尺度により回答を得た。解析は,まず知識度,実施度,必要性についてアセスメント項目ごとに記述統計を行い,その傾向を検討した。次に知識度,実施度,必要性の関連性についてSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。なお,質問紙の作成にあたっては信頼性,妥当性を確認し,統計学的有意水準は5%未満とした。<b>【倫理的配慮,説明と同意】</b>郵送時に本研究の主旨に関する説明書を同封し,質問紙の返送をもって同意とした。なお,本研究は徳島文理大学倫理委員会の承認を得た。<b>【結果】</b>質問紙の回答は63施設:120名(11月11日現在,回収率:12%)から得られた。回答者属性は,男性:62名,女性:58名,年齢は20歳代:45名,30歳代:53名,40歳代:16名,50歳代:6名であった。職種は理学療法士:81名,作業療法士:38名,言語聴覚士:1名であり,経験年数は10年未満:77名,10年以上:43名であった。VRAの結果より,知識度に関して"知っている"と回答した者が最も多かった項目は「バイタルサイン(以下,VS)」であり,次いで「意識レベル」,「転倒」,「経皮的酸素飽和度(以下,SpO2)」の順に多かった。実施度に関して"実施する"と回答した者が最も多かった項目は「VS」であり,次いで「意識レベル」,「視診」,「運動に伴うVSの変動」の順に多かった。必要性に関して"必要がある"と回答した者が最も多かった項目は「VS」であり,次いで「意識レベル」,「転倒」,「SpO2」の順に多かった。次に知識度,実施度,必要性の関連性については,「VS」,「内服薬」,「認知機能」の一部以外のすべてにおいて弱い,または中等度以上の相関を認めた。知識度と実施度の関連において,相関係数が0.6以上を示したのは「非がん性の痛み」,「心音聴取」,「がん性の痛み」など17項目であった。必要性と実施度の関連において相関係数が0.6以上を示したのは「非がん性の痛み」,「食事」,「SpO2」など12項目であり,「うつ」,「頸静脈怒張」,「心電図変化」,「胸部打診」は0.4未満であった。また,知識度と必要性の関連において相関係数が0.6以上を示した項目はなく,「VS」,「内服薬」,「認知機能」については相関を認めなかった。<b>【考察】</b>必要度の上位に位置した「VS」,「意識レベル」,「転倒」などは"必要である"と回答した者が約80%を超え,知識度や実施度においても知識を有し,いつも実施しているとの回答が得られていたことから,訪問リハサービスの提供において重要なアセスメント項目であると考える。また,知識度と実施度の関連が認められた「非がん性の痛み」,「心音聴取」,「がん性の痛み」など17項目については,知識量が多ければ多いほど実施度が高い傾向にある項目であると考える。また,必要性と実施度の関連が認められた「非がん性の痛み」,「食事」,「SpO2」などの12項目については,訪問リハの実践に必要であると認識しているほどよく実施している,またはよく実施しているほど訪問リハの実践に必要であると判断している項目であると考える。また,「うつ」,「頸静脈怒張」,「心電図変化」,「胸部打診」で相関係数が低かったことについては,訪問リハにおいて内部障害系のアセスメント項目の必要性や実施の程度に偏りや乖離がある可能性が示唆された。<b>【理学療法学研究としての意義】</b>本研究結果は訪問リハの教育カリキュラムや研修計画などの作成にあたっての有効な資料となり,訪問リハの質向上に寄与すると考える。
著者
武田 知樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>キャリアアンカー(career anchor)とは,個人が仕事をしていく上でそのやり甲斐(達成感)や意味の実感(有意義感)の拠り所となる中心的な価値観のことをいう。</p><p></p><p>本研究の目的は,臨床業務に従事する理学療法士のキャリアアンカーの特徴を明らかにして,キャリア支援のための基礎的知見を得ることである。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は大分県内の医療機関に勤務する理学療法士142名(男性68名,女性74名,平均年齢26.6±4.7歳)であった。</p><p></p><p>調査方法は,県内で開催された研修会に参加した者に対して,E.H. Scheinにより開発された「キャリア指向質問票」を配布して無記名で回答を依頼した。この質問票は ①専門・職能別コンピタンス(TF),②全般管理コンピタンス(GM),③自律・独立(AU),④保障・安定(SE),⑤起業家的創造性(EC),⑥奉仕・社会貢献(SV),⑦純粋な挑戦(CH),⑧生活様式(LS)の8領域のキャリアアンカーで構成されている。</p><p></p><p>分析は各キャリアアンカー得点(5~30点)を性別および臨床経験年数別,職場規模別に比較して,キャリア意識の特性を明らかにすることを試みた。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p><b>1</b><b>)性別の比較</b></p><p></p><p>各キャリアアンカーを性別に比較したところ,キャリアアンカー8領域中6領域(TF,GM,AU,SE,EC,SV)で男性は女性に比べて有意に高値であった(Mann-Whitney U-test,p<0.05)。</p><p></p><p><b>2</b><b>)臨床経験年数別の比較</b></p><p></p><p>経験年数別(10年未満,10年以上)で比較すると,AUでは経験年数10年未満16.0±4.1点に対し10年以上は13.4±3.2点であり,経験年数10年以上の者が有意に低値であった(Mann-Whitney U-test,p<0.05)。</p><p></p><p><b>3</b><b>)職場規模別の比較</b></p><p></p><p>職場規模別に比較してみると,SVについて10名未満の職場では20.0±4.2点,10~29名では21.5±4.0点,30名以上は22.1±3.7点であった。30名以上の理学療法士が勤務する職場は10名未満に比べてSVが有意に高値であった(Kruskal Wallis test,p<0.01)。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>医療機関に勤務する理学療法士において,性差によるキャリア意識の違いが顕著であった。また,臨床経験年数別では10年以上の方が10年未満の者に比べて自律・独立に関するキャリアアンカーで低値であった。この事は,一定期間の就業経験を通してチーム医療が重要視される医療機関の組織風土に適応した結果であると考えられた。</p><p></p><p>さらに,職場規模については職員が多い職場の方が奉仕・社会貢献に関連するキャリアアンカーが高値であったことは,職場規模に応じた教育や研修体制の充実が影響したものと考えられた。</p><p></p><p>以上の事より,キャリア意識の性差や経験年数,さらには職場規模を踏まえたキャリア支援のあり方が議論され,それぞれのキャリアラダー構築に反映させる必要性が示唆された。</p>
著者
藤平 保茂 富樫 誠二 藤野 文崇 久利 彩子 小枩 武陛 村西 壽祥 岸本 眞 古井 透 酒井 桂太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.GbPI2458, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】臨床実習は、理学療法士(以下、PT)を目指す学生にとって臨床での理学療法を経験できる重要な学外授業であり、 810時間以上(18単位)を受けなければならない必須科目である。臨床実習に臨む学生(以下、実習生)は、臨床実習指導者(以下、指導者)の指導のもと、さまざまな経験を通して成長していく。その中で、実習生が、指導者から「積極性がない」との指摘を受けることがある。これは、臨床実習評価において、しばしば問題視される点である。しかし、実習生の積極性に対する先行研究では、「積極性とは、自ら進んで物事を行う性質」という概念は一致されているものの、実習生の積極的な行動とはどのような行動であるのかを具体的に示した研究は、我々が文献検索した限りでは見当たらなかった。筆者らは、第50回近畿理学療法学術大会にて、指導者が抱く実習生への「積極性がある」因子を報告した。今回の研究目的は、理学療法臨床実習評価において、指導者が抱く「積極性がない」因子とは何かを調査し、検討することである。【方法】<調査表>独自に作成した調査票で、質問内容は、「臨床実習において、『積極性がない実習生』とはどのような学生であるか」であった。自由記載にて回答を求めた。<対象>本学の臨床実習受け入れ施設に勤務する127名のPTであった。そのうち、指導者経験のある臨床経験2年目以上の90名(男性67名、女性23名、平均臨床経験年数9.7年)の調査表を分析の対象とした。<分析方法>得られた回答をキーワードにて細分化し、KJ法を用いてカテゴリーに分類した。 【説明と同意】本研究は、大阪河﨑リハビリテーション大学倫理委員会規則に従うもので、調査にあたっては、対象者に本研究の主旨を説明し、同意を得た。 【結果】細分化したキーワードは、181語であった。これらをカテゴリー別に分類し、さらに社団法人理学療法士協会による「臨床実習教育の手引き」第4・5版を参考に技術教育から生じる行動での分類を行ったところ、態度面を行動目標とする情意領域と、知識、問題解決面を行動目標とする認知領域にあることがわかった。情意領域に属するキーワードは129語で、全体の71.3%を占めた。これらを構成するカテゴリーには、「行動できない・しない」(35語、全体の19.3%)、「目的意識・意欲がない」(32語、17.7%)、「疑問を持たない・考えない」(20語、11.0%)、「質問しない」(17語、9.4%)、「コミュニケーションがとれない」(14語、7.7%)、「反応がない・乏しい」(7語、3.9%)、「その他」(4語、2.2%)があった。また認知領域に属するキーワードは52語で、全体の28.7%であった。これらを構成するカテゴリーには、「意見を言わない」(20語、11.0%)、「課題が遂行できない」(18語、9.9%)、「自主学習しない」(12語、6.6%)、「自己評価(分析)しない」(2語、1.1%)があった。【考察】PTは、対象者としっかりコミュニケーションをとり、十分な関心と責任を持って理学療法業務に取り組むことが必要不可欠かつ重要であることを認識している。そのため指導者は、実習生に対し、実習への目的意識や意欲・関心が低い、実習を受ける態度が悪い、問いかけに対する反応が悪い、対象者や関係スタッフ以外の方と関わらない、わからないことがあっても質問しない、自分の意見を述べない、自分の考えを基に行動できなく指導者からの指示待ち行動をとる、課題ができないことが、「積極性がない」行動と捉えているものと考えられる。今回の調査にて、指導者は、「積極性がない」とは情意領域に問題があること、つまり、実習への取り組み姿勢や態度が良くないことを重大な因子と捉えていることが明確となった。知識や問題解決能力を身につけることは当然重要であるが、実習生が臨床実習に入る前に十分な心構えが出来ているか、理学療法の専門性を理解したうえでどれだけ自ら進んで対象者のために考え行動するのか、といった実習態度への関心の高さを裏付けている結果となった。養成校の教員は、臨床実習において学生指導が円滑になされるよう、学生への学内教育を強化しなければならない。【理学療法学研究としての意義】臨床実習指導者が抱く実習生の積極性について、実習生の積極的な行動とはどのような行動であるのか、その具体的な行動因子を確認することができた。今回の結果は、臨床実習における学生指導において、積極性を評価する上で参考になるものと考える。さらに、臨床実習における客観的に積極性を測定するための積極性評価尺度の作成を試みようと考えているが、その基盤となる意義のある研究である。
著者
堀本 佳誉 粥川 智恵 古川 章子 塚本 未来 大須田 祐亮 吉田 晋 三和 真人 小塚 直樹 武田 秀勝
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Bb1180, 2012

【はじめに】 脳性麻痺(以下CP)児は乳児期に、健常児と比較してより多くのDNA損傷が引き起こされていることが報告されている。健常児の場合、DNA損傷修復能力は発達とともに高まることが示されているが、乳児期以降のCP児に対する研究は行われておらず、発達による変化が見られるかどうかが不明である。また、一般的に健常成人では、過負荷な運動が過剰なDNA損傷を引き起こす。さらに加齢とDNA損傷修復能力には関連性があり、修復できないDNAの蓄積が老化を促進する。CP児は、臨床的に見て加齢が早いと言われてきたが、「生涯にわたる非効率で過負荷な運動による過剰なDNA損傷」と「運動量の不足によるDNA修復能力の低下」が悪循環し、修復できないDNAの蓄積速度が健常者より早くなるために、早老となっている可能性が高い。DNA損傷修復能力を高めるためには、定期的で適度の運動量が必要であるとされている。このためCP児のDNA損傷修復能力を高めるためには、過負荷な運動にならないように、慎重に運動量の決定を行う必要がある。DNA損傷修復能力という視点から、CP児の最適な運動量・頻度を判断し、早老を予防するための研究基盤を確立することを目的に、今回は安静時のCP児のDNA損傷修復能力の解明に焦点を絞り研究を行った。【方法】 対象は、学齢期の脳性麻痺児12名(13.8±4.3歳、6歳~18歳、男性6名、女性6名、Gross Motor Function Classification レベル1 4名、レベル2 2名、レベル3 6名)とした。脳性麻痺児と学年、性別が一致する健常児12名(14.8±4.4歳、6歳~18歳、男性6名、女性6名)を対照群とした。DNA損傷修復能力の指標として、尿中8-ヒドロキシデオキシグアノシン(以下8-OHdG)濃度の測定を行った。測定には早朝尿を用いた。尿中8-OHdG濃度の測定にはELISA法による測定キット(日本老化制御研究所)を用いた。また、尿中クレアチニン濃度を測定した。8-OHdG濃度をクレアチニン濃度で割り返し、クレアチニン補正を行った。 統計学的検討にはR2.8.1を用いた。シャピロウイルク検定を行い、正規分布が確認された場合はt検定、確認できなかった場合はマンホイットニーの検定を行った。危険率は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者と保護者に対し、書面・口頭にて本研究への協力を要請した。本研究への協力を承諾しようとする場合、書面および口頭にて研究の目的や方法などを説明し、対象者・保護者に質問などの機会を十分与え、かつそれらに対して十分に答えた上で文書にて同意を得た。本研究は千葉県立保健医療大学倫理委員会の承認を得た上で実施した。【結果】 脳性麻痺群の8-OHdG濃度は11.4±2.0 ng/mg CRE、健常群は8.2±0.9 ng/mg CREであった。シャピロウイルク検定の結果、正規分布は確認できなかった。2群間の比較のためにマンホイットニーの検定を行ったが、有意な差は認められなかった。【考察】 Fukudaらは、本研究と同様にDNA損傷修復能力の指標として尿中8-OHdG濃度の測定を行い、脳性麻痺児は乳児期に健常児と比較してより多くのDNA損傷が引き起こされていると報告している。Tamuraらは健常児の尿中8OHdG濃度の測定を行い、発達に伴い尿中8-OHdG濃度が低下することを示している。乳児期のCP児で、尿中8-OHdG値が高値にであったのは、一時的に強い酸化ストレス下にあるのか、何らかの原因でDNA損傷修復能力が低いのか、それとも両方が原因であるのかは不明である。今回の結果では、同年代の健常児と比較し、有意な差は認められなかった。このことより、脳性麻痺児は乳幼児期には一時的に強い酸化ストレス化にあるか、DNA損傷修復能力が低いため尿中8-OHdG濃度が高値を示すものの、その後健常児同様に発達に伴いDNA損傷修復能力が高まることにより尿中8-OHdG濃度が低値となり、健常児と有意な差を認めなくなったと考えられた。【理学療法学研究としての意義】 今後、運動負荷量の処方を尿中8OHdG用いて決定できるかどうかの研究や、DNA損傷修復能力を向上させるための適切な運動負荷量の処方を検討するための研究、CP者の加齢のスピードを遅くするための運動負荷量の処方のための、基礎資料となる点で意義のある研究であると考える。謝辞;本研究は、本研究は科学研究費補助金(若手 スタートアップ 2009~2010)の助成金を受けて実施した。
著者
河野 将光 佐藤 亮 三宮 克彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】熊本地震発災後の平成28年6月14日,震源地である益城町で応急仮設団地入居が開始された。JRATは益城町役場隊を配置。役場の各関係課と協力して仮設住宅初期改修対応を進めてきた活動内容を報告する。</p><p></p><p>【方法】5月21日仮設住宅950世帯の1次募集開始。5月23日益城町役場内に役場隊配置。保健師と共に高齢者,障がい者等に対し,抽選時にスロープ付仮設住宅への入居マッチングを提案(却下)。そこでJRATが避難所で個別対応した237名と仮設住宅当選者との突合を相談(交渉難航)。6月9日仮設住宅抽選発表。6月14日初の仮設団地鍵渡し実施。役場隊は関係課より仮設住宅平面図を入手,住環境確認。6月18日別の仮設団地鍵渡しに役場隊が参加し初期改修の説明実施。6月22日保健師情報よりJRAT個別対応者のうち仮設住宅当選者が47名と判明。6月21日役場隊が関係課と協議し仮設住宅2次募集の申込書には「移動が車椅子」の選択肢が入る。初期改修の流れを関係課で統一。6月25日初期改修対応開始。JRAT活動中の初期改修依頼は40件,7月30日迄でJRATが受けた訪問調査は終了した。</p><p></p><p>【結果】初期改修対応は各関係課が混乱多忙状態,個人情報提供が困難等により初期改修希望申請に対応する,とした。仮設住宅は1DK,2DK,3DKの3タイプ,基本設計はどの仮設団地も概ね同じ。玄関外に2~3段の段差,トイレ浴室前,浴室入口に約10cmの段差。玄関内部,トイレ内部,浴室扉部には手すりがあった。初期改修受付は復興課が窓口となり役場隊へ情報提供。役場隊は日程調整し活動隊が現場で評価し必要最小限の改修案をまとめ役場隊へ報告。役場隊は復興課へ報告書を提出した。初期改修の状況について,対象者は高齢者38名,未成年2名であった。また1名を除き被介護保険者または身障手帳,療育手帳を持っていた。対応内容は,段差対応が31件。内訳は玄関への対応が26件中段差昇降用手すり設置17件,スロープ設置8件であった。またトイレ前・浴室前の段差の手すり設置は14件であった。</p><p></p><p>【結論】仮設住宅は構造上段差が生じるため,段差昇降が困難な高齢者や車いす生活者は不自由が生じる。初期改修は段差対応が多く,構造上段差部改修対応は予め予測できた。活動隊は,復興費用を使った改修対応を意識し必要最小限の改修を心掛けてもらった。また仮設住宅に対しては,我が国が超高齢社会であるため段差部へはあらかじめ手すりの設置,さらには段差がない仮設住宅の開発を望みたい。また,JRAT活動期間中に初期改修対応手順が構築できた要因としては,震災後の混乱の中役場隊が益城町の各関係課の状況を理解し,日々変化する状況への対応し,錯そうする情報を整理しながら信頼関係を構築したことによりJART活動を啓発できたことがあげられた。今回の経験から有事に際し,発災直後から自治体にJRATが組み込まれた枠組みの構築が望まれる。</p>
著者
久保 雅昭 関屋 昇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.G0422, 2004

【目的】<BR> <BR> 厚生労働省の医療改革により入院在院日数が削減され、以前よりも早期の予後予測や効率的な理学療法が要求されているように思われる。また、入院患者の情報収集についても同様であり、このためには病棟との連携が必須である。当院では、脳神経外科病棟(以下脳外)において、今まで週1回リハビリカンファレンスを開催しているが、患者情報の交換が十分であるとはいえない。最近、脳外での朝・夕の申し送りが廃止され、ウォーキングカンファレンス(以下WCF)が開始されたため、効率的な情報交換を目的にリハビリテーション科(以下リハ科)でも週1回参加することになった。リハ科の参加開始1ヶ月の時点で、連携に関する問題点を明らかにすることを目的として、アンケートによる意識調査を行った。<BR><BR>【方法】<BR> 対象<BR> <BR> 当院脳外に勤務する看護師20名(女性18名、男性2名)経験年数1から30年(4年以下は9名)。リハ科に所属するPT7名・ST1名の8名、経験年数1から4年(女性7名、男性1名)。<BR><BR> WCF開始1ヶ月時にアンケート調査を行った。アンケートの内訳は、患者とその家族関連(以下Pt)5項目、自らの業務関連(以下M)4項目、他職種との連携関連(以下R)5項目、設備関連(以下H)1項目の15項目とした。各項目について、評定尺度(5・7段階)を用いて調査した。これらを経験5年以上の看護師(以下N)、経験4年以下の看護師(以下N4)、およびリハ科で集計し、Nとリハ科、N4とリハ科、NとN4の組み合わせで傾向と要因を比較した(評定尺度の中立要素を基準にポジティブ、ネガティブ要素と定義した)。<BR><BR>【結果】<BR><BR> 各項目の回答率は100%であった。N・N4・リハ科間において最も共通性が認められたのは、H項目のネガティブ要素であった。次はM項目の中立要素に共通性がみられ、NとN4間ではポジティブ要素への共通性も認められた。そしてR項目では、N4とリハ科間にネガティブ要素、NとN4間に中立要素の共通性があった。最もバラツキが大きかったPt項目では、ほとんど共通性は認められなかった。<BR><BR>【考察】<BR><BR> 今回リハ科と病棟の情報共有化について意識調査をWCF開始1ヶ月時に行った。Pt項目のバラツキから情報の共有化が良好でないことが推測され、現状の情報交換方法では限界とも考えられる。また、R・M項目に共通性がないことについては、リハ科だけの要因としてWCFへのとまどいや経験年数、病棟頼りの情報収集等が考えられる。また、看護師とリハ科の設備不足への共通性から患者サービスという視点は同じであること、看護師の業務に対するポジティブな姿勢から、リハ科の積極的な発言やWCFについての探求・応用が、今後の患者の情報共有化に重要であり、各職種間の連携を深めることになると考えられる。<BR>【まとめ】
著者
辻野 綾子 米田 稔彦 田中 則子 樋口 由美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.96, 2003 (Released:2004-03-19)

【目的】脳卒中片麻痺患者の治療として、端坐位での側方リーチ動作を用いることがあるが、足底接地の条件の違いが運動特性にどのような影響を及ぼすかは明らかでない。本研究の目的は、足底接地の条件の違いによる端坐位における体幹のバランス機能について運動学的・筋電図学的に検討することである。【方法】対象は、健常女性12名(平均年齢20.6±1.9歳、身長158.8±2.4cm、体重51.8±5.0kgであり、全員右利きであった。運動課題は、大腿長55%が支持面となるように腰掛け、膝関節95度屈曲位に設定した背もたれなしの端坐位での肩関節外転90°位で上肢長130%の位置への右側方リーチ動作とした。条件は、(1)足底接地・閉脚位、(2)足底接地・開脚位、(3)足底非接地の3つにした。圧中心(以下COP)の位置を重心動揺計を用いて計測した。頭頂、第7頚椎、第12胸椎、第4腰椎、そして両側の耳介、腸骨稜、後上腸骨棘にランドマークを取りつけ、後方からのデジタルカメラによる画像から骨盤傾斜角度、体幹傾斜角度、立ち直り角度(左屈)を計測した。両側の脊柱起立筋(腰部L4、以下ES)、外腹斜筋 (以下OE)、中殿筋(以下GM)を被験筋とし、安静坐位と側方へのリーチ保持時の積分筋活動量を測定し、最大等尺性収縮時の値で標準化した。3条件間での測定値の比較には、対応のある一元配置分散分析を用い、有意水準を5%未満とした。【結果】1) COP移動距離:条件(1)や(3)より(2)が有意に大きく、(1)が(3)より大きかった。2)Kinematics:骨盤傾斜角度は、条件(1)、(2)、(3)の順に有意に増大した。体幹傾斜角度は、条件(1)や(2)より(3)が有意に大きかった。立ち直り角度は、条件(3)より(2)が有意に大きかった。3)各筋の%IEMG:右GMは、条件(2)が(3)より有意に大きかった。左GMは、条件(3)が(1)より有意に大きかった。左OEは、条件(3)が(1)や(2)より有意に大きかった。右ES、右OE、左ESにおいては、3条件間に有意差はみられず、右側の筋活動は左側に比べ小さなものであった。【考察・まとめ】条件(2)はCOP移動距離が最も大きく、条件(3)はCOP移動距離が最も小さいが左のGM、OEの大きな筋活動を要求した。それにより、開脚位で足底接地した端坐位でのリーチ動作はCOPの移動を行いやすい傾向にあり、足底非接地の端坐位でのリーチ動作はリーチ側とは対側の大きな体幹筋活動を要求するといった特徴があることが示唆された。
著者
寄本 恵輔 有明 陽佑 早乙女 貴子 小林 庸子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【背景】</p><p></p><p>進行性神経筋疾患の呼吸筋力低下による呼吸障害に対して,気道クリアランスの維持のため最大強制的吸気量(MIC)の維持は重要であり,また,MICを測定することは胸郭柔軟性の把握に役に立つ。しかし,筋萎縮性側索硬化症患者(ALS)では球麻痺や気管切開などにより息溜めができない場合,MICの測定が困難となり,胸郭柔軟性の把握が困難となる。</p><p></p><p>【目的】</p><p></p><p>ALS患者に息溜め機能を有する機器を用いた最大強制吸気流量(LIC)測定について検討する。</p><p></p><p>【対象】</p><p></p><p>当院にて2013年4月から2016年7月までに呼吸理学療法を実施したALS患者20名。また,長期評価対象者として,5名を抽出した。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>簡易流量計と簡易マスクを使用し肺活量(VC)を測定,気管切開の場合はflection tubeを用いた。MIC,LICの測定はバックバルブマスク(BVM)を用い,LICにおいては当院で作成したLIC機器を付け加えた。MIC,LICはBVMで送気を1~3回行い,マノメーターで安全管理し,本人が我慢できる最大限界圧時の吸気量として測定した。MIC,LICにおいて,VC以上の換気量が得られたとする基準は,VCより10%以上増加することとした。また,呼吸理学療法開始時のLICとMICの換気量を比較し,統計学的有意差の有無を確認するため換気量に正規性を確認した後に対応のあるT検定を行い,平均値の差は0.05水準で有意とした。さらに,経時的に評価が確認できた症例に対し,VC,MIC,LICの値を抽出した。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>20名中MICの測定が可能であった症例は9名であり,VC以上の換気量が得られた症例は2名であった。その一方でLICは全例測定が可能であり,全例ともVC以上の換気量が得られた。また,MICと比較しLICは有意に換気量が増加した(t値-7.006,p<0.01)。経時的評価ではVC,MICは測定困難となったがLICは球麻痺の症状の悪化や気管切開後においても評価が可能であった。</p><p></p><p>【考察】</p><p></p><p>ALSの呼吸障害は呼吸筋麻痺に伴う換気障害であり,胸郭柔軟性が低下し,肺実質の柔軟性が低下することで排痰ケアを難渋にする。本研究よりLICは,ALSの全病期において胸郭柔軟性の評価が可能であることが示された。つまり,これまで球麻痺症状や気管切開後における人工呼吸器装着期による胸郭柔軟性低下に対する評価は困難であったが,LICの測定が可能となることでALSの呼吸障害の病態像を胸郭柔軟性という視点で捉えることが可能となった。LIC測定は誰もが同じ水準で実践できる呼吸理学療法になるものと考えている。</p><p></p><p>【展望】</p><p></p><p>ALS患者個人がLICを在宅で実施出来るようにするために2014年より機器開発委託メーカーと共同し,LIC TRAINERを作成した。本製品の特徴は,LIC測定機能に加え,機密性が向上し,患者自身でエアリークをコントロールできる呼気弁があること,高圧がかかった際に除圧する安全装置が内蔵されている。2016年3月PMDAより医療機器として受理,同年5月に特許出願(共同出願),同年9月に商標登録申請,販売が開始された。</p>
著者
宮村 章子 解良 武士 一場 友実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.D3O3084, 2010

【目的】<BR><BR> 呼吸リハビリテーションでは、Rapid-shallow patternによる呼吸困難感の緩和に意識的な呼吸数の調整が行われる。これは呼吸数を減じ一回換気量を増大させることにより、肺胞換気量が増大し死腔換気率が改善するからであるが、我々は呼吸数の減少そのものも呼吸困難感と関連がある呼吸運動出力の抑制に関わっているのではないかと考えた。本研究は、呼吸数の調整が呼吸運動出力の指標である気道閉塞圧(P<SUB>0.1</SUB>)に及ぼす影響を検討することを目的とする。<BR><BR>【方法】<BR><BR> 健常成人10名(男性6名、女性4名、20.8±0.4才)を本研究の対象者とした。呼吸運動出力の指標としてP<SUB>0.1</SUB>を測定するために、T字状の2way-rebreathing valveにバルーン式閉塞装置を組み合わせた気道閉塞装置(Huns Rudolph、死腔量48.9ml)を用いた。気道閉塞装置の口側にはマスク(MAS0215, ミナト医科学)を接続し、マスクはストラップで被験者の顔に固定した。また気道閉塞装置のサイドポートに直径4mmのチューブを介して差圧トランスデューサー (TP-602G, 日本光電製)を接続し、気道閉塞装置の呼気側に呼気ガス分析器(AE-300S, ミナト医科学)の熱線式トランスデューサーを接続した。差圧トランスデューサーと呼気ガス分析器のアナログアウトプットをADコンバーター(PowerLab 16/sp, ADInstruments)へ接続し、それらの信号をPCに取り込んだ。呼気終末時に気道閉塞装置の吸気側に備わる閉塞用バルーンを拡張させて吸気口を閉塞し、気道内圧が陰圧に転じてから100ms後に得られる口腔内圧をP<SUB>0.1</SUB>値とした。対象者を背臥位におきマスクを装着した後、電子式メトロノームにより呼吸数を10回/分、15回/分、20回/分に調整した上で4分間呼吸を行わせた。呼吸数の調整はランダムとした。測定開始後2分後から4分後まで至適の間隔で計5回P<SUB>0.1</SUB>を測定し、その絶対値の平均値を算出した。呼吸数、一回換気量、分時換気量、呼気終末炭酸ガス濃度(P<SUB>ET</SUB>CO<SUB>2</SUB>)は、呼気ガス分析器からの信号を波形解析ソフト(Chart Ver.5.3, ADInstruments)で解析して算出した。統計処理は反復測定による一元配置分散分析を、その後の検定として多重比較検定を行った。統計ソフトウエア-はSPSS Ver.13.0 (SPSS)を用い、有意水準はP<0.05とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR><BR> 対象者には研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。また対象者のデータは、すべて統計量として処理し、さらに暗号化されたUSBに保存して個人情報保護に配慮した。<BR><BR>【結果】<BR><BR> メトロノームに合わせて呼吸数は10.4±0.7、14.9±0.2、20.1±0.3回/分と変化し、呼吸数の増加に伴い一回換気量は1.1±0.54、0.78±0.41、0.57±0.22Lと有意に減少した(F=17.37, P=0.001)。一方、呼吸数が増加しても分時換気量は変化しなかったが、P<SUB>ET</SUB>CO<SUB>2</SUB>は有意に減少した(F=7.44, P<0.05)。呼吸運動出力の指標であるP<SUB>0.1</SUB>値は一回換気量が減少したにもかかわらず呼吸数の増加とともに上昇し、それぞれ1.2±0.5、1.5±0.9、2.2±1.6cmH<SUB>2</SUB>Oであった(F=6.12, P<0.05)。<BR><BR>【考察】<BR><BR> 呼吸数が増加しても一回換気量が増加しても呼吸運動出力は増加しうるが、今回のように換気需要が同じであっても、呼吸数を増加させ一回換気量を減少させるとP<SUB>0.1</SUB>値は呼吸数の増加に比例して増加した。これはほぼ同じ換気量であれば、肺胸郭系の弾性抵抗の増加よりも気道系の粘性抵抗増加に対して呼吸筋が動員されやすいことを示していると考えられる。逆に呼吸数を減ずると一回換気量が増加するにもかかわらずP<SUB>0.1</SUB>値が減少することから、呼吸リハビリテーションにおける呼吸数調整によるアプローチは、呼吸運動出力の抑制の観点からも効果があると考えられた。ただし本研究の場合、呼吸数の増加に伴いP<SUB>ET</SUB>CO<SUB>2</SUB>が低下していることから、本来の換気需要よりもやや過換気または低換気に調節されていた可能性も考えられ、今回のP<SUB>0.1</SUB>値の増加は正当な換気需要に見合わない意識的な呼吸数増加によってもたらされた可能性も否定できない。従って呼吸数増減方法を変えて検討する必要もある。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR><BR> Rapid-shallow patterに対する深くゆっくりとした呼吸パターンの効果は、主に肺胞換気量の増大や換気効率の面から述べられていた。本研究の結果から、このアプローチは呼吸運動出力の抑制の面からも呼吸困難感を減少させていると考えられた。<BR><BR>
著者
解良 武士 宮村 章子 一場 友実 下井 俊典
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O2014, 2010

【目的】<BR><BR> 気道閉塞圧(P<SUB>0.1</SUB>)は横隔神経の電気活動と直線的な関係があるため、呼吸運動出力の指標として用いられている。P<SUB>0.1</SUB>は一回換気量や呼吸数の測定に比べて肺、胸郭の物理的特性に影響を受けにくいうえ非侵襲的に測定が可能なため、運動生理学や呼吸リハビリテーション分野の研究へ応用されている。しかしながらP<SUB>0.1</SUB>値は安静時であっても呼吸運動自体の揺らぎや測定誤差によって測定値にばらつきが出現するが、その測定値の信頼性については十分検討されていない。本研究はP<SUB>0.1</SUB>測定の信頼性を検討することを目的とする。<BR><BR>【方法】<BR><BR> 健常成人11名(男性7名、女性4名、20.8±0.4才)を対象とした。呼吸運動出力の指標としてP<SUB>0.1</SUB>を測定するためにT字状の2way-rebreathing valveにバルーン式閉塞装置を組み合わせた気道閉塞装置(Huns Rudolph、死腔量48.9ml)を用いた。気道閉塞装置の口側にはマスク(MAS0215、ミナト医科学)を接続し、マスクはストラップで被験者の顔に固定した。P<SUB>0.1</SUB>は、呼気終末時に気道閉塞装置の吸気側に備わる閉塞用バルーンを拡張させて吸気口を閉塞し、気道内圧が陰圧に転じてから100ms後の口腔内圧を測定することで得られる。気道閉塞装置のサイドポートに直径4mmのチューブを介して差圧トランスデューサー (TP-602G, 日本光電製)を接続し口腔内圧を測定し、気道閉塞装置の呼気側に呼気ガス分析器(AE-300S, ミナト医科学)の熱線式トランスデューサーを接続し、呼吸数、一回換気量、分時換気量、呼気終末炭酸ガス濃度(P<SUB>ET</SUB>CO<SUB>2</SUB>)を測定した。差圧トランスデューサーと呼気ガス分析器のアナログアウトプットをADコンバーター(PowerLab 16/sp, ADInstruments)に接続し、それらの信号をPCに取り込みChart Ver.5.3 (ADInstruments)で解析を行った。対象者を背臥位におきマスクを装着した後、6分間静かに呼吸を行わせた。測定開始後1分後から6分後まで、30秒に1回の割合でP<SUB>0.1</SUB>を測定し、10回の測定値を得た。検者は測定に熟達した同一の1名とした。P<SUB>0.1</SUB>値はすべて絶対値で表した。信頼性の検討には級内相関係数(ICC)を用い、検者内信頼性にはICC(1,k)を用いた。ICC(1,k)は測定回数を2回より10回まで1回ずつ増加させてICC(1,2)~ICC(1,10)を、一元配置分散分析により標準誤差(SEM)をそれぞれ求めた。統計ソフトにはSPSS ver.13.0 (SPSS)を用いた。<BR><BR>【説明と同意】<BR><BR> 対象者には研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。また対象者のデータはすべて統計量として処理し、さらに暗号化して保存して個人情報保護に配慮した。<BR><BR>【結果】<BR><BR> 11名の被験者から得られたP<SUB>0.1</SUB>の平均値は0.7~4.8cmH<SUB>2</SUB>O、変動係数は16.6~50.7%であった。ICC(1,1)は0.704(95%信頼区間0.509-0.885)で、ICC(1,2)~ICC(1,10)はそれぞれ0.877、0.940、0.956、0.973、0.975、0.967、0.952、0.961、0.960(95%信頼区間0.565-0.966 ~ 0.912-0.987, SEM; 0.48-0.65)であった。目標係数を0.9とし、10回反復測定で得られるICC(1,1)から求められた予測される必要な最小反復回数は4回(3.8回)であった。<BR><BR>【考察】<BR><BR> 安静時でも呼吸数、一回換気量には変動があり、P<SUB>0.1</SUB>にも同様の現象が起こる。したがって数回の測定を行い、その平均値を代表値として用いる必要がある。今回の10回の試験で得られたICC(1,1)は0. 704(95%信頼区間;0.509~0.885)であったので1回の測定でも信頼性がある程度は確保されると考えられるが、信頼区間を考慮すると少なくとも3回以上の測定値の平均が必要と考えられる(ICC(1,3)の95%信頼区間;0.837-0.982)。これまでのP<SUB>0.1</SUB>を用いた研究は経験的に5回程度の平均値を用いるものが多かった。今回の研究では5回の測定ではSEMが0.48と大きかったものの、ICC(1,1)は0.973(95%信頼区間;0.937-0.992)、求められた最小反復測定回数は4回であったことから、これまでの5回の平均値を用いる方法は妥当だったと考えられた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR><BR> 呼吸運動出力の指標であるP<SUB>0.1</SUB>測定は、非侵襲的で簡便な方法として従前より主に呼吸生理学の分野で用いられていた。本研究の結果から信頼性の高い測定値であるので、呼吸リハビリテーション分野での基礎研究や効果判定に応用することが可能であると考えられた。<BR><BR>
著者
石原 康成 堀江 翔太 立原 久義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101316, 2013

【はじめに、目的】腱板断裂では,上肢挙上の際に,肩甲上腕関節における求心位保持能力の低下と,それに伴う肩甲胸郭関節,胸郭運動の異常が報告されている.したがって,腱板断裂患者に対して理学療法を行う際は,肩甲上腕関節のみならず,肩甲胸郭関節や胸郭にもアプローチする必要がある.しかし,腱板断裂における肩甲骨の位置異常と胸郭運動の特徴については明らかになっていないため,機能評価と効果的に肩甲胸郭関節や胸郭へアプローチする手技の確立を困難にしている.本研究の目的は,腱板断裂における肩甲骨の位置異常と胸郭運動の特徴を明らかにすることである.【方法】対象は,当院で腱板完全断裂と診断され鏡視下腱板修復術を施行された24 名(以下RCT群)(男性14 名,女性10 名,平均年齢69 歳,49 〜 86 歳)と,肩関節に既往のない40 〜60 代の健常者16 名(以下健常 群)(男性8 例,女性8 例,平均年齢51 歳,43 〜 64 歳)である.これら2 群の,上肢挙上に伴う肋骨・胸椎運動と下垂位での肩甲骨の位置を比較し腱板断裂における肩甲骨位置と胸郭運動の特徴を検討した.測定方法は,肩下垂位と130°挙上位の2 肢位で胸部3 次元CTを撮影し,骨格前後像と側面像にて肋骨・胸椎と肩甲骨の位置を評価した.肋骨の動きは,肋椎関節を基準として肋骨先端の上下方向への移動距離を測定した.胸椎の動きは,第7 胸椎を基準として胸椎伸展角度を測定した.肩甲骨の位置は,内外転方向の位置として,脊椎から肩甲骨内側縁の距離(Spine Scapula Distance,以下SSD),挙上下制方向の位置として,肩甲骨下角の高さを,回旋方向の位置として肩甲棘の傾斜を測定した.統計学的検討にはMann-Whitney's U 検定を使用した.【倫理的配慮、説明と同意】病院倫理委員会の承認を得た上で,本研究の目的とリスクについて被験者に十分に説明し,同意を得た.【結果】RCT群の下垂位から130°挙上位までの肋骨移動距離は,挙上方向へ平均5.8mmであった.最大は第7 肋骨の9.7mmであり,第7 肋骨から離れるに従い移動距離は小さかった.健常群では挙上方向へ平均5.2mmであった.最大は第5 肋骨の9.4mmであり,第5 肋骨から離れるに従い移動距離は小さかった.2 群を比較すると,第9,11 肋骨でRCT群の肋骨移動距離が有意に大きかった(p<0.05).すなわち,腱板断裂により肋骨運動の中心が尾側にシフトしていた. RCT群の下垂位から130°挙上位までの胸椎伸展角度は平均2.4°であった.健常群では平均3.8°であり差はなかった.RCT群における下垂位でのSSDは平均60.3mm,健常群では平均68.6mmであり,RCT群で有意にSSDが小さかった(p<0.01).下角の高さと,肩甲棘の傾斜には差がなかった.すなわち,腱板断裂により肩甲骨は内転位に変化していた.【考察】本研究より,上肢挙上に伴う肋骨運動は,健常者では第5 肋骨を中心に挙上するのに対し,腱板断裂患者では第7 肋骨中心に挙上することが明らかとなり,腱板断裂により肋骨の運動中心が尾側へシフトすることが明らかとなった.また,腱板断裂に伴い肩甲骨の位置は内転位に変化することが明らかとなった.従来の報告によると,腱板断裂に伴い肩甲骨他動運動と肋骨運動が制限される可能性が指摘されている.また,肩甲骨位置異常は,肩甲骨周囲筋のバランス異常の存在を示唆している.この事実は,肩甲骨周囲での胸郭運動が制限されていることを示しており,これを代償するために,胸郭運動の中心が尾側へ移動した可能性が考えられた.【理学療法学研究としての意義】腱板断裂が、肩甲骨の位置と肋骨運動パターンに影響を与えることが明らかとなった.肩甲上腕関節のみならず,肩甲骨位置や肋骨運動パターンを考慮することで,より有効な理学療法を提供できる可能性がある.
著者
尾崎 尚代 千葉 慎一 嘉陽 拓 西中 直也 筒井 廣明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101619, 2013

【はじめに】古くから諸家によって肩関節機能に関する研究がなされてきている。腱板機能訓練に関しては筒井・山口らの報告を契機に多くの訓練方法が用いられ、近年では肩甲骨の機能が注目され、肩関節求心位を得るための訓練方法が多々報告されている。しかし、肩関節の動的安定化機構である腱板を構成する各筋が肩関節求心位を保つための機能について報告しているものは渉猟した限りでは見つからない。今回、腱板断裂症例の腱板機能を調査し、肩関節求心位を保持する腱板機能について興味ある知見が得られたので報告する。【方法】2011年9月末までの2年間に当院整形外科を受診し、初診時に腱板断裂と診断された症例のうち、「Scapula-45撮影法」によるレントゲン像を撮影し、手術した症例35名(年齢60.8歳±12.7、男性19名・女性16名、罹患側 右22名・左13名)について、術前MRI所見および手術所見からA群(棘上筋単独断裂 23名)、B群(棘上筋+棘下筋断裂 5名)、C群(肩甲下筋を含む断裂 7名)の3群に分類した。 「Scapula-45撮影法」によるレントゲン像のうち肩甲骨面上45度挙上位無負荷像を用い、上腕骨外転角度、肩甲骨上方回旋角度、関節窩と上腕骨頭の適合性について、富士フィルム社製計測ソフトOP-A V2.0を用いて計測した。上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度は任意の垂線に対する上腕骨および関節窩の角度を計測し、関節窩と上腕骨頭の適合性は、関節窩上縁・下縁を結ぶ線を基準線として関節窩に対する上腕骨頭の位置関係を計測した値を腱板機能とした(正常範囲-1.11±2.1、大和ら1993)。統計学的処理は、Kruskal-Wallis検定、Mann-Whitney検定、χ²検定を用いて危険率5%にて行い、上腕骨外転角度、肩甲骨上方回旋角度、腱板機能について3群を比較検討し、さらに腱板機能については正常範囲を基に3群間で比較検討した。【説明と同意】当院整形外科受診時に医師が患者の同意を得て診療放射線技師によって撮影されたレントゲン像を用いた。なお、個人情報は各種法令に基づいた当院規定に準ずるものとした。【結果】測定平均値をA群、B群、C群の順で示す。上腕骨外転角度(度)は43.59±8.84、45.64±7.04、33.83±7.54、肩甲骨上方回旋角度(度)は10.17±13.46、0.96±5.02、24.87±22.92であり、上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度については3群間で有意差は認められなかった。腱板機能は-0.75±4.76、5.44±12.61、7.84±5.07であり、3群間で有意差は認められ(p=0.007)、なかでもC群はA群と比較して関節窩に対して骨頭の位置が上方に移動していた(p=0.0008)。腱板機能について正常範囲を基に各群間で比較した結果、A群では正常範囲に入るものが23名中10名(43.5%)であり、関節窩に対して骨頭が上方に移動しているもの、下方に移動しているものがそれぞれ26.1%、30.4%あったが、B群、C群では正常範囲に入るものが0%、14.3%であった。B群は骨頭の上方移動および下方移動を呈するものが半数ずつであったが、C群では7名中6名(85.7%)が骨頭の上方移動を呈しており、有意差が認められた(p=0.03)。【考察】腱板断裂の指標として用いられる肩峰骨頭間距離は下垂位前後像で計測し、その狭小化を認める症例は腱板断裂の疑いがあるとされているが、今回用いた機能的撮影法は肩甲骨面上45度拳上時における肩甲骨と上腕骨の位置関係を調査している。 当院では、肩関節疾患患者に対し理学療法実施時に疼痛誘発テストとして肩甲骨面上45度挙上位での徒手抵抗テストを行ない、理学療法プログラム立案の一助としているが、このテストと同一の撮影肢位であるレントゲン像を用い、腱板断裂症例の腱板機能を断裂腱によって分類して調査することによって肩関節の求心位に作用する筋が明らかになると考えた。その結果、棘上筋の単独断裂では約半数は正常範囲にあり、残りの半数および棘下筋を含む断裂では関節窩に対して上腕骨頭が上方あるいは下方へと移動するが、肩甲下筋を含む断裂では関節窩に対して上腕骨頭の上方移動が認められたことから、肩甲下筋の機能不全が肩関節求心位に大きく影響することが示唆された。また、上腕骨外転角度および肩甲骨上方回旋角度は各群間で差がなかったことから、腱板機能不全を呈する症例は上腕骨を空間で保持するために肩甲骨が様々な反応を示すことが推測でき、前回報告した結果を裏付けするものと考える。 臨床上、肩甲下筋を選択的に収縮させることによって肩関節可動域が改善する症例を経験するが、肩甲帯の土台である肩甲骨の機能はもちろんのこと、腱板機能不全に対し肩関節求心位を確保するために選択する理学療法プログラムは肩甲下筋を考慮する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】今回の結果から肩関節疾患症例に対しておこなわれる腱板機能に関する理学療法プログラム立案を再考する必要性が示唆された。
著者
澤野 靖之 草木 雄二 脇元 幸一 平尾 利行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0076, 2004 (Released:2004-04-23)

【目的】新体操は『美の追求』をテーマとし、身体の高度な柔軟性が必要とされ、特有の傷害が認められる。当院のこれまでの調査により、腰部・足関節・足部の順で発生頻度が高い傾向がみられた。そこで今回は腰痛と腰椎の可動性について検討した。【対象】腰部に疼痛を有する国体出場レベルの高校女子新体操選手9人(年齢平均16.4±1.4歳、経験年数8.4±7.4年)をA群。運動習慣の無い腰部に疼痛を有する女性9人(年齢平均21.8±1.2歳)をB群とした。いずれの対象についてもレントゲン撮影の承諾を得た。【方法】自然立位(neutral以下N)、立位最大体前屈時(maximum flexion以下MF)、立位最大体後屈時(maximum extension以下ME)の3種のレントゲン撮影(撮影はレントゲン技師による)を行い、各々の腰椎前彎角度(第1腰椎の上終板と平行なラインと、第1仙骨の上終板と平行なラインにそれぞれ垂線を引き、2つの垂線が交わる角度)を計測した。体幹・下肢の柔軟性を計測するために下肢伸展挙上(straight-leg raising以下SLR)・踵殿間距離(heel-buttock distance以下HBD)・トーマステスト・指床間距離(finger-floor distance以下FFD)を用いた。A群・B群で、N・MF・MEの腰椎前彎角度・SLR・HBD・トーマステスト・FFDについて、比較検討した。統計処理はt検定を用い、危険率5%未満を有意差ありとした。【結果】A群・B群間において、N・MFの腰椎前彎角度、HBD、トーマステストでは有意差は認められなかったが、MEの腰椎前彎角度、FFD、SLRには有意差が認められた。【考察】A群・B群間において、N・MFの腰椎前彎角度には、有意差が認められず、FFD・SLRに有意差が認められた。よってA群のFFD値が大きいのは、腰椎の可動性の問題ではなく、ハムストリングスの柔軟性が大きく関与していると示唆される。また、MEの腰椎前彎角に有意差が認められ、HBD・トーマステストに有意差が認められなかった。よってA群の体幹伸展時には、腰椎の可動性が大きく関与しているという事が示唆される。A群は、新体操競技特性として全身的に高度な柔軟性が必要とされる。そのなかで、MF時は下肢の柔軟性により腰椎の可動性は過度には必要とされていないが、ME時は下肢の柔軟性にはA群・B群に有意差が認められず、腰椎の過度な可動性が必要とされる。よって腰椎前彎角の大きいA群は、体幹後屈時に疼痛を誘発する者が多いと考えられる。【まとめ】新体操選手のパフォーマンスには、体幹後屈可動域は必要不可欠である。今後新体操選手をケアする上で、大腿四頭筋・腸腰筋の大腿前方筋群の柔軟性向上を計ることが、腰部へのストレスを軽減し、体幹後屈時の疼痛軽減へとつながるのではないかと考える。
著者
田村 幸嗣 吉田 裕一郎 河野 芳廣 大寺 健一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Db1208, 2012

【はじめに、目的】 一般に肺外科手術の術前評価の一つとして肺機能検査が行われる。最近では一秒量が1000mlを下回る症例でも手術適応となる場合があり、当施設でも低肺機能症例に対して術前理学療法が処方される。これらの症例に対しては術前オリエンテーション、排痰法指導、深呼吸指導等と合わせて効率的な分泌物の除去方法とされているアクティブサイクル呼吸法(以下ACBT)の指導もしている。ACBTは呼吸コントロール、胸郭拡張、ハフィング、強制呼出手技で構成される。一般には吸気筋トレーニングに関してはある程度の効果とする報告が多い一方、EMT(expiratory muscle training:以下EMT)の呼気流速に関連する呼吸機能に関しては変化がなかったとする報告が多い。EMTの具体的な方法としては器具を使用し呼気に抵抗をかける場合がほとんどである。そこで今回は低肺機能症例でも安全でかつ呼気流速を改善する方法として、ハフィングの反復練習が呼吸機能に及ぼす効果を研究目的とした。【方法】 喫煙歴や疾患の既往がない健康な成人18名(男性6名、女性12名)を無作為にトレーニング群(男性3名、女性6名、平均年齢28.1±7.3歳、身長160.5±8.65cm、BMI22.0±4.07)と対象群(男性3名、女性6名、平均年齢26.2±3.88歳、身長163.2±9.19cm、BMI21.8±2.60)に振り分けた。トレーニング群にはスパイロメーター用のマウスピース(直径30mm)を渡し、立位をとり肺機能検査の方法で最大努力の呼気を1日20回ハフィングの反復を指示した。トレーニングは続けて行わず個々のペースで行なうよう指示した。トレーニング期間は2週間とした。測定にはVM1 VENTILOMETERを用いて努力性肺活量(以下FVC)、一秒量(以下FEV1)、peak expiratory flow以下(PEF)を測定した。測定はトレーニング群にはトレーニング開始前と2週間後、対象群には初回測定日と2週間後の2回、初回測定時と同時刻にそれぞれ3回測定し、最高値を測定値とした。統計処理は対象者の属性についてはMann-Whitney U検定を行い、呼吸機能の測定値にはウィルコクソンの符号付順位和検定を行った。統計処理の手段としてはR Ver.2-11を用い、すべての検定において有意水準は5%とした。【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿って進めた。対象者には研究内容を文書及び口頭で説明した。参加は任意であり、参加に同意しないことをもって不利益な対応を受けないこと、いつでも不利益を受けることなく撤回することができることを説明し参加の同意を得た場合には研究計画書に自筆署名して頂いた。【結果】 1.トレーニング群と対象群の基礎データにおいて、各代表値に有意な差は認めなかった。2.呼吸機能の変化;FVCではトレーニンニング開始前(2.95±1.27L)、トレーニング2週間後(3.39±1.39L)となりトレーニング群において、トレーニング前後の代表値に有意な差を認めた(P<0.05)。FEV1、PEFには有意な差を認めなかったもののトレーニング群においては一定の増加傾向がみられた(但しFEV1;P=0.07、PEF;P=0.05)。3.対象群ではいずれの測定値も有意な差を認めなかった。【考察】 一般には呼吸筋トレーニングの効果として肺機能の指標は変化しないと言われている。今回の結果ではFVCにおいて改善を認めた。FVCは最大吸気位からの最大呼気量である。FVCの改善のためには吸気量が増える事、残気量が減少することで達成される。これらは胸郭の柔軟性の改善と吸気筋および呼気筋の筋力の増強が因子として挙げられる。胸郭の柔軟性に関してはトレーニングの際は最大吸気位からの最大呼出を指示しているため反復することで通常よりも大きな動きを繰り返した結果胸郭の柔軟性が改善した可能性がある。今回は安静位、最大吸気位、最大呼気位の胸郭拡張差の測定を実施しておらず胸郭柔軟性の改善は検討できていないため今後の検討が必要となる。また、筋力としては2週間のトレーニングでは筋の肥大は起こらないとされているが、神経因性の筋力増強のメカニズムとされている大脳の興奮水準の増加(活動参加する運動単位の数や発火頻度の増加)、拮抗筋の抑制、運動プログラムの改善などが関与した可能性がある。また、今回はマウスピースを使用したハフィングトレーニングのため肺機能検査と同様の運動様式となり特異性の法則により効果的に高められた可能性もある。今回の結果では有意な差は認めなかったもののピークフロー値も増加の傾向があることから効率的な運動が可能となった可能性もある。今後は諸因子の検証とともに低肺機能患者についても検討を加え術前トレーニングの有効性を検討する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果、2週間のマウスピースを使用したハフィングトレーニングは呼吸機能の改善を期待できる。
著者
橋本 直之 横川 正美 山崎 俊明 中川 敬夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AdPF1010, 2011

【目的】<BR> 高齢化の進行とともに認知症高齢者も増加し、その予防に対する取り組みが注目されている。歩行などの有酸素運動は認知機能を改善させるとの報告がある。一方、前頭前野は大脳後半部からの情報を把握、了解、統合、分析を伴う場所であり認知症と深く関係があるとされており、長期的な有酸素運動により前頭前野機能テストの改善が見られたなどの報告もされており、有酸素運動は脳機能向上に有用といえる。前頭前野が関与すると考えられている、運動および精神機能を評価する指標として、脳血流動態の測定があるが、脳血流は運動負荷により増加するとされて、運動強度の違いにより脳機能の向上に違いがある可能性がある。高齢者に対する運動療法では、軽負荷の運動プログラムの方が参加しやすく、運動強度の違いによる効果の違いを検証することは重要であると考える。そこで、本研究ではその予備的研究として若年健常者に対し、異なる運動強度で行った運動が高次脳機能にどの程度影響を及ぼすかについて比較&#8226;検討することとした。<BR>【方法】<BR>20歳代から30歳代の一般健常男性で研究内容に同意の得られた者30名(24.5±2.7 歳)を対象とした。最大運動能力測定(MVE)は自転車エルゴメーターを用い、症候限界性多段階運動負荷試験を行った。MVEは自覚症状の出現により駆動が困難となった時点、または運動の中止基準に該当する所見が出現した時点の負荷量とした。MVEの20%、40%、60%の負荷で運動を行う運動群とコントロール群の4群にランダムに振り分けた。運動群は15分間の自転車エルゴメーター駆動を行い、その前後にPaced auditory serial addition test(PASAT)およびPsychomotor Vigilance Task (PVT)を行った。コントロール群は自転車エルゴメーター上での安静座位を15分行い、その前後に運動群と同じテストを実施した。各群の前後のテスト成績の比較を二元配置分散分析で検討した後、多重比較検定を行った。有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】<BR>測定の趣旨&#8226;方法について口頭及び書面にて説明を行い、同意を得られた者を対象とした。本研究は所属する施設の医学倫理委員会の承認(承認番号257)を得て行った。<BR>【結果】<BR> 二元配置分散分析で交互作用を認めた項目はなかった。多重比較において、PASATでは20%、40%、60%MVEの各群で運動前と比べ運動後の方が、有意に点数が高かった(20%、40%:p<0.05、60%:P<0.01)。PASATの連続正解数では40%MVEでのみ有意な増加が見られた(p<0.05)。PVTの多重比較では、どの群においても運動前後で有意な変化を認めなかった。<BR>【考察】<BR>PASATの遂行時には前頭前野、左下頭頂小葉&#8226;左上、下側頭回が同時に、あるいはこのいずれかが関与していたと報告されており、テストにおける賦活領域は前&#8226;中大脳動脈の流域であると推察される。中大脳動脈は中等度運動時に脳血流が最大となる、あるいは低強度運動でも前頭機能の血流量が増大するという報告があり、今回の20%、40%、60%MVEの運動時にPASAT の点数が改善したことは、これらの報告と一致すると考える。今回一過性運動の効果の検証を行うため、運動の前後でテストを実施しており、慣れにより影響を受ける可能性が考えられた。コントロール群には増加傾向を認めたが、統計学的に有意な差を認めなかった。したがって、今回の結果より慣れによる点数の増加は否定できないが、運動による効果はあるものと考える。注意の要素としては(1)選択機能(2)覚醒ないし持続性注意(3)認知機能の制御があげられ、PASAT は注意の制御を評価するテストであり、PVTは注意の持続力&#8226;覚醒度を評価するテストである。今回の結果から一過性の運動は注意の制御により効果がある可能性が示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>高齢者は軽負荷での運動の方が参加しやすいとされており、どの運動強度がより認知機能に効果を及ぼすかを検証することは重要である。本研究はその予備的研究としての意義を持つと考える。
著者
比護 幸宏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>スポーツ外傷・障害(以下傷害)への対応で重要なことの一つに傷害発生の予防があり,傷害により練習や試合に影響を及ぼすことは個人やチームにとって重大な損失となり得る。しかし高校部活のカテゴリーでは未だにその普及は十分とはいえない。本研究では全国大会出場高校サッカー部に所属する生徒を対象に傷害の有無と発生時期,ウォーミングアップ(以下WU)やクールダウン(以下CD)・栄養摂取などの傷害予防行動の実態を調査することで競技者への適切な介入や時期・傷害発生要因を検討する目的で行なった。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は,全国大会出場高校サッカー部で同一チームに所属する男性78名,平均年齢16.9±0.77歳。集合質問紙調査を実施し,競技歴,傷害の有無・部位・発生時期・受傷機転,WU・CDの有無と時間,栄養に関する関心,現在も疼痛を有する者を傷害群としてその傷害の影響について質問した。また統計学的分析では,傷害群と非傷害群間,公式戦登録選手と非登録選手間で傷害予防に有効とされるWU・CDの有無と実施時間,栄養摂取に関してχ<sup>2</sup>検定の独立性検定を行った。有意水準はp<0.05およびp<0.01とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>競技開始年齢6.5±0.3歳,傷害を有する者51%,傷害の原因となる受傷をした競技経験年数8.36±2.9年,傷害部位は足関節36%,膝関節18%,大腿9%で多かった。受傷機転は非接触76%で,そのうち足関節受傷は37%と最も多かった。傷害によって練習に影響がでた割合は69%で,そのうち8%は半年間以上の練習内容の変更が必要であった。また試合に影響がでた割合は59%で,そのうち21%が試合出場機会を失った。WU・CDは100%実施されていた。栄養摂取に関して毎食の栄養バランスを意識している割合が72%,そのうち実際に摂っている割合は35%であった。公式戦登録選手と非登録選手間での意識的な炭水化物摂取と体重測定の有無(p<0.01),蛋白質摂取の有無(p<0.05)で有意な偏りを認め,公式戦登録選手では体調管理の意識が高い結果となったが,傷害群と非傷害群間で有意な差は認めなかった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>傷害発生による慢性疼痛や活動機会減少を防ぐ為の一次予防介入時期は,競技開始年齢と傷害の原因となる受傷をした競技経験年数の和より高校入学以前が望ましいと示唆される。受傷率の高い足関節傷害は再受傷率が高いため一次予防に加え二次予防が重要となる。また活動機会の多い公式戦登録選手では栄養摂取に関して意識が高い結果となった。傷害発生要因として傷害群と非傷害群間でWU・CDの実施や必要栄養素の摂取に差があるのではと考えたが本調査はこの仮説を支持しなかった。しかし,傷害群では試合や練習の機会を失う者もおり,今後の課題としてその他の内的・外的要因に関して傷害群と非傷害群間の差を比較し,高校部活の競技レベルにおいて傷害予防に有効かつ実施可能な内容を検討する必要がある。</p>
著者
長谷川 正哉 金井 秀作 島谷 康司 大田尾 浩 小野 武也 沖 貞明 大塚 彰 田中 聡
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101851, 2013

【はじめに,目的】転倒予防や足部障害の発生予防,パフォーマンスの維持・向上には適切な靴選びが重要である.一般的な靴選びは,まず自覚する足長や靴のサイズに基づき靴を選び,着用感により最終的な判断を行うものと考える.しかし,加齢による足部形態の変化や過去の靴着用経験などから,着用者が自身の足長を正確に把握していない可能性が推測される.また,靴の選択基準はサイズや着用感以外にも,デザイン,着脱のしやすさ,変形や疼痛の有無など様々であることから,自覚している靴サイズと実際の着用サイズが異なる可能性が考えられる.そこで,本研究では地域在住の中高齢者を対象とし,自覚する靴サイズおよび実際に着用している靴サイズ,足長や足幅の実測値から抽出したJIS規格による靴の適正サイズを調査し,比較検討することを目的とした.【方法】独歩可能な中高齢者68名(男性20名,女性48名,平均年齢64.0±6.5歳)を対象とした.調査項目は左右の足長および足幅の実測値,足幅/足長の比率,実測値を基に抽出したJIS規格による左右別の適正サイズ,2Eや3Eなどで表わされる適正ウィズ,自覚する靴サイズ(以下,自覚サイズ),および現在着用中の靴の表示サイズ(以下,着用サイズ)とした.なお,各項目間の比較にはフリードマン検定およびScheffe法による多重比較を行い,統計学的有意水準は5%とした.また,自覚サイズと着用サイズの一致率,適正サイズと着用サイズの一致率,および適正サイズおよび適正ウィズの左右の一致率を求めた.【倫理的配慮、説明と同意】実験前に書面と口頭による実験概要の説明を行い,同意と署名を得た後に実験を実施した.なお,本研究は全てヘルシンキ宣言に基づいて実施した.【結果】左右足型の実測値は右足足長22.6cm (21.8-23.85),左足足長22.7cm (21.75-23.7),右足足幅9.5cm (9.0-9.9),左足足幅9.3cm (8.9-9.9)であり,足幅/足長比率は右足41.5%(39.8 -42.5),左足41.0%(39.5-42.6)であった.また, JIS規格により抽出した右足適正サイズは22.5cm (22.0-24.0),左足適正サイズ22.5cm (21.5-23.5)であったのに対し,自覚サイズは23.5cm(22.5-24.5),着用サイズは23.5cm (23.0-25.0)となった(結果は全て中央値および四分位範囲).着用サイズおよび自覚サイズと比較し左右適正サイズ(p<0.001),左右足長実測値は(p<0.001)は有意に小さい結果となった.次に各項目の一致率について,まず自覚サイズと着用サイズの一致率は37%であり,被験者の63%は自身で認識する足サイズとは異なる靴サイズを選択し着用していた.また同様に,右足適正サイズと着用サイズの一致率は7%,左足適正サイズと着用サイズの一致率は4%と極めて低い結果となった.なお,適正サイズの左右の一致率は52%であり,これに適正ウィズの結果をふまえた場合,左右の靴の一致率は4%に低下した.【考察】中高齢者が実際に着用している靴サイズおよび自覚する足のサイズは,JIS規格に基づく適正サイズや足長の実測値より大きいことが確認された.また,自覚サイズと着用サイズ,適正サイズと着用サイズの一致率が極めて低く,中高齢者では自身の足の大きさを自覚していないだけではなく,自覚する足サイズに基づく靴選びをしていないものと考えられた.中高齢者の靴の選択基準には装着感や着脱の容易さ,デザインなど複数の要因が関与することが過去に報告されており,本研究でもこれらが影響した可能性が示唆される.次に,実測値から抽出した左右の靴適正サイズの一致率が極めて低いことが確認された.これは,左右同一サイズの靴を購入した場合,いずれか一方の靴が足と適合しないことを意味している.先行研究により靴の固定性の低下が動作時の不安定性や靴内での足のすべりを増加させ運動パフォーマンスの低下を引き起こすことが報告されており,靴の不適合が中高齢者の転倒リスクを増加させる可能性が示唆された。これらの靴の不適合に対し,靴内部での補正や靴紐などによるウィズの調整,片足づつ販売する靴を選択するなどの対応が必要になるものと考える.また,本研究の被験者の多くが自身の足サイズについて適切に認識しておらず,正しい評価や知識に基づく靴選びが重要と考える.【理学療法学研究としての意義】適切な靴の選択は転倒予防や障害発生予防,パフォーマンスの維持・向上を考える際に重要である.また,インソールの処方時や内部障害者のフットケアなどの場面では適切な靴の着用が原則となる.そのため理学療法士は対象者の足型と靴のフィッティングについて理解を深め,適切な靴の着用について啓発していく必要がある.
著者
三木 千栄 小野部 純 鈴木 誠 武田 涼子 横塚 美恵子 小林 武 藤澤 宏幸 吉田 忠義 梁川 和也 村上 賢一 鈴木 博人 高橋 純平 西山 徹 高橋 一揮 佐藤 洋一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ed0824, 2012

【はじめに、目的】 本学理学療法学専攻の数名の理学療法士と地域包括支援センター(以下、包括センター)と協力して、包括センターの担当地域での一般高齢者への介護予防事業を2008年度から実施し、2011年度からその事業を当専攻で取り組むことした。2010年度から介護予防教室を開催後、参加した高齢者をグループ化し、自主的に活動を行えるよう支援することを始めた。この取り組みは、この地域の社会資源としての当専攻が、高齢者の介護予防にためのシステムを形成していくことであり、これを活動の目的としている。【方法】 包括センターの担当地域は、1つの中学校区で、その中に3つの小学校区がある。包括センターが予防教室を年20回の開催を予定しているため、10回を1クールとする予防教室を小学校区単位での開催を考え、2010年度には2か所、2011年度に残り1か所を予定し、残り10回を小地域単位で開催を計画した。予防教室の目的を転倒予防とし、隔週に1回(2時間)を計10回、そのうち1回目と9回目は体力測定とした。教室の内容は、ストレッチ体操、筋力トレーニング、サイドスッテプ、ラダーエクササイズである。自主活動しやすいようにストレッチ体操と筋力トレーニングのビデオテープ・DVDディスクを当専攻で作製した。グループが自主活動する場合に、ビデオテープあるいはDVDディスク、ラダーを進呈することとした。2010年度はAとBの小学校区でそれぞれ6月と10月から開催した。また、地域で自主グループの転倒予防のための活動ができるように、2011年3月に介護予防サポーター養成講座(以下、養成講座)を、1回2時間計5回の講座を大学内で開催を計画した。2011年度には、C小学校区で教室を、B小学校区で再度、隔週に1回、計4回(うち1回は体力測定)の教室を6月から開催した。当大学の学園祭時に当専攻の催しで「測るんです」という体力測定を毎年実施しており、各教室に参加した高齢者等にそれをチラシビラで周知し、高齢者等が年1回体力を測定する機会として勧めた。A小学校区内のD町内会で老人クラブ加入者のみ参加できる小地域で、体力測定と1回の運動の計2回を、また、別の小地域で3回の運動のみの教室を計画している。また養成講座を企画する予定である。【倫理的配慮、説明と同意】 予防教室と養成講座では、町内会に開催目的・対象者を記載したチラシビラを回覧し、参加者は自らの希望で申し込み、予防教室・養成講座の開催時に参加者に対して目的等を説明し、同意のうえで参加とした。【結果】 A小学校区での転倒予防教室には平均26名の参加者があり、2010年11月から自主グループとして月2回の活動を開始し、現在も継続している。B小学校区では毎回20名程度の参加者があったが、リーダーとなる人材がいなかったため自主活動はできなかった。2011年度に4回コースで再度教室を実施し、平均36名の参加者があった。教室開始前から複数名の参加者に包括センターが声掛けし、自主活動に向けてリーダーとなることを要請し承諾を得て、2011年8月から月2回の活動を始めた。A・B小学校区ともにビデオあるいはDVDを使用して、運動を実施している。C小学校区では2011年6月から教室を開始し、平均14名の参加者であった。教室の最初の3回までは約18名の参加であったが、その後7名から14名の参加で、毎回参加したのは3名だけで自主活動には至らなかった。2010年度3月に予定していた養成講座は、東日本大震災により開催できなかったが、25名の参加希望者があった。A小学校区内の小地域での1回目の予防教室の参加者は16名であった。大学の学園祭での「測るんです」の体力測定には139名の参加者があり、そのうち数名であるが教室の参加者も来場された。【考察】 事例より、予防教室後に参加者が自主活動するには、活動できる人数の参加者がいること、リーダーとなる人材がいること、自主活動の運営に大きな負担がないことなどの要因があった。自主グループの活動やそれを継続には、2011年3月の地震後、高齢者の体力維持・増進が重要という意識の高まりも影響を及ぼしている。C小学校区の事例で、自主活動できなかった要因を考えるうえで、A・B小学校区と異なる地域特性、地域診断を詳細にする必要性があると考える。リーダーを養成することでC小学校区での高齢者が自主活動できるか検討する必要もある。高齢者の身体状況に合わせて、自主活動できる場所を小学校区単位、小地域単位で検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 介護予防事業を包括センター、予防事業所などだけが取り組む事業ではなく、理学療法士が地域の社会資源としてそのことに取り組み、さらに介護予防、健康増進、障害、介護に関することなどの地域社会にある課題を住民とともに解決するための地域システムを構築していくことは、現在の社会のなかでは必要であると考える。
著者
倉田 勉 小口 敦 本所 泰子 佐藤 陽介 松本 徹 矢内 宏二 笹原 潤 鮫島 康仁 小黒 賢二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C4P2224, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】アキレス腱断裂後は筋力低下を伴う機能不全が少なからず残るとする報告が多い。ただし運動復帰は多くの症例で可能なため、その詳細について未知の部分がある。また近年、腱断裂後、修復腱のelongationに関する報告があり、筋力や運動能力とelongationの関係については興味深い。我々はアキレス腱断裂後のリハビリテーションにおいて足関節底屈筋のゆるみを感じることがあり、治療経過で変動するものであると考えている。そこで研究目的は術後長期経過したアキレス腱断裂患者における足関節底屈筋の受動伸張性を明らかにし、筋力、可動域、筋腱形態、歩行との関係を検討することとした。【方法】対象は当院にてアキレス腱縫合術を施行した患者30名(平均44.3歳)、術後経過観察期間は平均27ヶ月である。なお術後1年以上経過した患者を対象とした。性別は男性19名、女性11名、受傷側は左足21名、右足9名であった。受傷から手術までの待機期間は平均5.5日、全例1週間のギプス固定後、機能的装具を術後平均8.7週(6-10週)まで装着した。後療法については縫合法により若干異なるが、半年以降のスポーツ復帰を目標としてリハビリを行った。リハ通院期間は平均179.1日である。検査項目は足関節底屈筋の受動伸張性と足関節背屈可動域(膝伸展位/屈曲位)、下腿周径(腓骨頭下5、10cm)、アキレス腱幅(付着部から5cm近位)、足関節最大底屈筋力(等尺性のみ)、片脚踵上げ反復回数と最挙上高、歩行分析である。計測は受動伸張性、腱幅、最大筋力は腹臥位、可動域、周径が仰臥位、踵上げは立位で行った。また腱幅は電子ノギス(シンワ社製)、最大底屈筋力は等速性筋力測定機Con-Trex(CMV-AG社製)を用い、踵上げ最挙上高は床面から踵部足底面までの高さを曲尺定規で計測した。歩行分析は足底圧分布測定(F-scan)にて自由歩行時の前足部ピーク体重比を患健側各3歩分、平均し求めた。受動伸張性計測の詳細はHand held dynamometer(以下HHD;Micro FET)を用い、ベッド上で腹臥位、膝伸展位となり、伸張反射が起きない程度のゆっくりとした速度で、中足頭足底部を自然下垂位から足関節底背屈中間位まで背屈方向に押し込み行った。なお腱幅、踵上げ最挙上高、受動伸張性はいずれも3回測定の平均値を検討に用いた。統計分析には各測定値の患健差を対応のないT検定、また患側受動伸張性と他項目の関係は相関分析を用い検討した。いずれの分析も有意確率は5%とした。なお統計分析にはR version 2.8.1(コマンダー1.4-8)を用いた。【説明と同意】本調査は事前にハガキで参加希望の有無を確認後、対象者に研究の趣旨・内容を説明し、書面にて同意を得てから検査をおこなった。【結果】患/健側の順に、受動伸張性は28.7/42.1N、可動域は膝伸展位23.9/21.6°、膝屈曲位31.1/30.7°、周径は腓骨下5cmで36.2/36.9cm、10cmで35.6/36.5cm、腱幅22.3/13.4mm、最大底屈筋力80.7/97.4Nm、踵上げは反復回数11.5/16.7回、最挙上高9.5/11.2cm、歩行体重比は94.1/96.2%であった。有意な患健差を認めたのは受動抵抗性、最大底屈筋力、片脚踵上げ反復回数・最挙上高、腱幅の5項目であった。相関分析の結果は患側受動伸張性が同側の腱幅、歩行以外の全項目と有意な相関関係を認め、中でも可動域(膝伸展位/屈曲位)とは負の相関、最大底屈筋力、片脚踵上げ反復回数・最挙上高とは正の相関を認めた。【考察】術後長期経過でも、底屈筋力はいずれも患健差が残存したままで、運動復帰可能な症例が大部分(本研究では88.8%が運動復帰可能)であっても、過去の知見と同様に完全な筋力回復に至るのは難しいと考えられた。また受動伸張性と他因子との関係では、先に我々が行った健常者による検討で受動伸張性は最大筋力と強い相関(r=0.81)、背屈可動域、下腿周径と中等度の相関(r=-0.50、0.45)を認めており、アキレス腱患者においても同様の結果を示したと考えている。底屈筋力と受動伸張性の関係については、先行研究にダイナモメーターで計測した受動トルクが筋のタイプや量と関係があると考察した過去の報告がある。本結果からも筋腱複合体の硬さと筋力には密接な関係が窺え、アキレス腱断裂後では筋腱複合体のゆるみと筋力低下の両者は共通する機能不全を表している可能性があると推察する。なお本研究で計測した受動伸張性は、修復腱の特性を含めた筋腱複合体全体の質を表現するものとして捉えるべきである。【理学療法学研究としての意義】アキレス腱断裂後は極めて深刻な筋力低下が起こり、その回復は長期間に及ぶか、回復途上で機能的安定となることも少なくない。今後、受動伸張性計測による個別的、段階的な運動処方の提供、また筋腱複合体のゆるみが運動能力に及ぼす影響を明確にすることがアキレス腱断裂後の機能不全を解決する糸口になると考える。
著者
宮川 博文 池本 竜則 井上 雅之 中田 昌敏 下 和弘 大須賀 友晃 赤尾 真知子 本庄 宏司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0033, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】膝前十字靭帯(以下ACL)再建術後のリハビリテーション(以下リハビリ)において,受傷前レベルの競技復帰を目標とした場合,膝関節筋力,可動域など傷害部位局所の運動能力の回復に加え瞬発力,全身持久力など全身的な運動能力の回復が必要となる。今回,ACL受傷前の健常な状態での膝関節筋力及び全身的な運動能力測定を実施できたバスケットボール選手の再建術後の運動能力の回復についてフォローアップすることができたので,考察を加え報告する。【方法】症例は19歳女性,WJBLバスケットボール選手であり,バスケットボール試合中に左膝を捻って受傷(非接触型損傷)。受傷後6週で患側骨付き膝蓋腱採取(BTB)による靭帯再建術を施行した。術後リハビリは愛知医科大学ACL再建術後リハビリプログラムに従い,関節可動域エクササイズ,筋力増強トレーニング,スポーツ動作トレーニングそして競技復帰に向けた再発予防プログラムを再建靭帯への保護という観点から,段階的に実施した。運動能力の測定項目は1.等速性膝伸展・屈曲筋力,2.瞬発力,3.全身持久力とした。等速性筋力はCYBEX社製NORMを用い角速度240・180・60deg/secにおける膝伸展,屈曲筋力(Nm/kg)を,瞬発力はコンビ社製パワーマックスを用い最大無酸素パワー(watts/kg)を,全身持久力はフクダ電子社製マルチエクササイズテストシステムML-1800を用い予測最大酸素摂取量(ml/kg/min)を測定した。測定時期は,①受傷2ヵ月前,②術前(受傷後1ヵ月),③術後8ヵ月(チーム復帰時),④術後12ヵ月(チーム復帰後4ヵ月),⑤術後20ヵ月(チーム復帰後12ヵ月)とした。等速性膝筋力は全ての時期に,瞬発力,全身持久力は②術前を除く4つの時期に測定した。【倫理的配慮,説明と同意】症例報告として紹介する対象者については,本研究の趣旨,内容,倫理的配慮および個人情報の取り扱いに関し,十分な説明を行い,書面にて研究協力の同意を得た。【結果】1.等速性膝伸展・屈曲筋力:測定時期①~⑤の60deg/secにおける膝伸展筋力(Nm/kg)は①患側2.03/健側2.33,②0.84/2.36,③2.54/3.04,④2.39/2.34,⑤2.81/2.81であり,患側,健側共に術後8ヵ月には受傷前以上に回復し,その後も維持され,チーム平均より優れていた。屈曲筋力においても同様の結果であった。2.瞬発力:最大無酸素パワー(watts/kg)は①11.8,③12.4,④12.7,⑤14.5であり,膝筋力と同様,術後8ヵ月には受傷前以上に回復した。3.全身持久力:最大酸素摂取量(ml/kg/min)は①50.5,③47.4,④44.6,⑤51.1であり,膝筋力,瞬発力と異なり,受傷前はチーム平均より高値であったが,術後8ヵ月では受傷前レベルに回復せず,チーム平均より低値であった。術後12ヵ月ではさらに低下を示し,術後20ヵ月で受傷前レベルに回復した。【考察】術後機能評価は一般的に術前との比較を基本とする。しかし,この術前は受傷後であり,筋力において患側は傷害に伴い機能低下し,健側であっても受傷後の安静,運動制限期間により機能低下し健常な状態ではない可能性がある。本症例は受傷2ヵ月前の健常な状態でのチームメディカルチェックによる運動能力テスト結果と術後運動能力の回復を比較し得た希少な症例であった。膝筋力,瞬発力は術後8ヵ月で,受傷前の健常レベル以上に回復し,我々のACL再建術後リハビリプログラムの有効性が確認できた。しかし,全身持久力は術後8,12ヵ月において受傷前レベルに回復しなかった。今回,全身持久力トレーニングは,自転車エルゴメーター,ステップマシン,トレッドミル,水中運動を用い再建靭帯への負荷に注意し,段階的に実施したが,筋力,瞬発力で行っているような定期的な評価を実施せず行ったことが,回復を遅らせた一因と考える。通常,ACL再建術後は手術部位に着目した局所の安定性や可動性,筋力,さらに瞬発力までの評価に止まりがちであり全身持久力まで評価することは少ない。今回の報告は,一例ではあるものの,チーム復帰時に元の競技レベルと比べ,最大酸素摂取量つまり全身持久力が改善されていないことが示され,スポーツ復帰における全身持久力評価の重要性が示唆された。今後は,術後プログラムに競技特性を考慮し,筋力,瞬発力,ステップワーク等の無酸素性運動能力に加え,全身持久力を向上させるため,局所負荷に応じた有酸素性運動プログラムを評価に基づき取り入れることが重要と考える。【理学療法学研究としての意義】本症例より,ACL再建術後の競技復帰を目標としたリハビリは,膝関節機能に加え,競技特性を考慮した無酸素及び有酸素運動能力の評価,トレーニングの重要性が示唆された。今後,特にこの有酸素運動能力について検討を進め,より安全な競技復帰に寄与したいと考える。