著者
渡邉 研太郎
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.9-54, 2009-03-30

第41次南極地域観測越冬隊(第41次越冬隊)は40名で構成され,全員が昭和基地で越冬し,所期の観測をほぼ実施して2001年3月28日,全員無事帰国した.2000年2月1日,第40次越冬隊より基地運営を引継ぎ,翌2001年2月1日に第42次越冬隊へ引き継ぐまでの間,第V期5カ年計画の4年次にあたる観測・設営活動を実施した.設営活動は,昭和基地整備計画(10カ年計画)の9年次として計画された,夏期隊員宿舎の増設,設備更新を主としたものだった.観測系ではみずほ基地滞在による吹雪観測,航空機による基地上空の大気採集や内陸大気観測等を行い,やまと山脈域での隕石探査では50 kgを超す鉄隕石を含む3554個の隕石を採集した.予想外の出来事としては試験的に持ち込んだ10 kWの風力発電装置が7月初頭の大型ブリザードにより倒壊したほか,12月中旬に発電棟内の燃料タンクから軽油が棟外へ漏れる事故があった.
著者
日高 秀夫 立川 涼
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.14-29, 1983-12

第22次南極地域観測(1980-1982)において採取した大気, 雪, 海水, 魚介類などの有機塩素化合物(DDT, PCB, HCH)を分析し, 昭和基地周辺の環境濃度と, 基地活動による汚染について検討した。昭和基地の風上方向約13kmのとっつき岬で採取した雪の有機塩素化合物濃度と組成は, みずほ基地の風上約0.6kmの雪とほぼ同じであった。とっつき岬と昭和基地近辺の海水では, 濃度は同レベルであったが, PCB組成が若干異なった。海氷下の水の動きも考慮し, とっつき岬には大気・海水経由での基地からの汚染はないと判定した。基地近辺で採取した底生魚のショウワギス中のPCB濃度は, とっつき岬で採取したショウワギスより約30倍高く(p<0.001), DDTは約2倍高かった(p<0.01)。基地近辺の底生生物は, 南極地域外の魚と比べると低濃度ではあるが, 基地から漏れたPCBによる汚染をかなり受けており, DDTにも若干の影響を受けていると結論づけられる。今後, 基地からの汚染をなくすための, より厳密な廃棄物対策が必要であり, とくに, これらの有機塩素化合物汚染の推移と新たな汚染物質に対応するため, 底生魚を中心とする計画的な試料の採取と保存が望まれる。
著者
星合 孝男
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.i-iv, 1991-07-30
著者
片岡 龍峰 佐藤 達彦 塩田 大幸 保田 浩志
出版者
国立極地研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

太陽の爆発現象から地球に向かって放出される太陽高エネルギー粒子(SEP)の影響は、最大規模のもので航空機パイロットの1年間の被ばく線量基準に達するおそれがあるため、宇宙天気予報でも最重要課題として知られている。最高エネルギーSEPによる航空機被ばく線量を物理的に、かつ定量的に予測することを目的とし、3段階モデルを用いて、過去に発生した最高エネルギーSEPイベントについて、地上の中性子モニター観測値を用いた定量的な検証を重ねることで、最高エネルギーSEPの宇宙天気予報システムWASAVIES (WArning System for AVIation Exposure to SEP) を開発した。
著者
佐藤 夏雄 山岸 久雄 門倉 昭 小川 泰信 行松 彰 小野 高幸 細川 敬祐 田口 真 岡野 章一
出版者
国立極地研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

南極昭和基地と北極域アイスランドは1本の磁力線で結ばれた共役点ペアの位置関係にある。この利点を最大限に活用し、オーロラの形状や動きを同時観測し、南北半球間の対称性・非対称性の特性を研究した。オーロラは南北両半球でその形が似ている場合や全く異なる場合など様々であった。特に、オーロラ爆発の直前に出現するビーズ状オーロラ、オーロラ爆発、点滅する脈動オーロラ、渦状オーロラ、などに注目して南北半球の比較研究を行った。そして、それらオーロラの発生源と発生機構に関する貴重な手がかりを得ることができた。また、観測から得られた実際の共役点位置の時間・空間変動と惑星間空間磁場との関係を明らかにすることもできた。
著者
佐藤 健 東島 圭志郎 安ヶ平 一也 村方 栄真
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.409-471, 2003-11

昭和基地の地上気象観測装置は,第39・40次隊により1997年と1998年の2カ年計画で更新された. 新システムは,1999年2月1日より正式運用を開始したが,その後1年間は旧装置での観測も継続して行い,両装置の比較のためのデータを取得した. 比較観測の結果から,次のことが分かった.1) 両装置の観測データは,概ね精度の範囲内で一致し,新旧データの均質性が保たれていた.2) しかし,一部の要素については,観測値に僅かであるが無視できない差異が生じていた.3) これらの差異は,測器感部やデータ処理の方法,設置位置の変更など装置の仕様変更に起因していた. 本稿では,これら両装置の観測値の差異とその特徴,データの均質性などについて考察した結果を報告する.
著者
神沼 克伊
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.155-162, 1987-07

日本の1986-1987年の国際共同観測は「マクマードサウンド地域の地球科学的研究」を継続した。神沼克伊(国立極地研究所), 三浦哲(東北大学理学部), 和田秀樹(静岡大学理学部)の3名が1986年11月中旬から1987年1月中旬まで, ニュージーランドのスコット基地に滞在し, 共同観測を実施した。主なテーマは1) CIROS (Cenozoic Investigation in the Western Ross Sea) 2) IMEEMS (International Mount Erebus Eruption Mechanism Study)の二つである。CIROSはロス海氷上での掘削プロジェクトで702mの掘削に成功し, 日本の分担したガス分析を和田が実施した。IMEEMSはエレバス山の噴火機構の研究で, 神沼と三浦が日本の分担課題を実施した。
著者
芳野 赳夫
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.948-953, 1961-01

1.目的 万年雪,高圧気泡入氷からできた氷冠域において,雪氷の高周波誘電特性雪,表面の電波の反射吸収特性,比抵抗等を測定することにより,極地方の氷冠内における電波伝播特性の解析,氷冠上にて使用するアンテナの設計,通信回線の設計等のための資料を得ることを目的とし,1.5,10,100,250,300,400,3000Mcの各周波数毎に,(1)容量置換法,レッヘル線により,誘電率,誘電体損(tanδ)を,(2)ハイトパターン法により反射,吸収係数を,コーラウシュブリッジにより比抵抗を測定し,数種のアンテナにより通信を行ない電界強度を測定した.また気温逆転層による300,3000Mcのフェーディング特性,万年雪にまい没したアンテナと空間のアンテナとのインピーダンス,指向性パターン等も測定した.2.結果 実測の結果,万年雪および氷冠氷の比誘電率の値は非常に小さく,周波数の増加,密度の減少とともに減少する.誘電体正切特性の値も非常に小さく,周波数の増加とともに激減する.反射係数もHF帯では小さく,周波数の増加とともに増加する,従って氷冠の雪氷上で使用するアンテナは表面の雪の比誘電率が1に非常に近いので,雪面上に直接導線を置くだけの非常に簡単なアンテナで,ほぼ自由空間とみなし得る輻射が得られることが解り,秋春の大陸旅行において実証することができた.なお,測定に使用した機器は昭和基地にて製作したため帰国後検定中であり,期日の都合で今回は現在までに得られた較正データのみ中間報告として発表する.海氷上の電波伝播はVHF以下の周波数帯では大略海水面と同じ特性を示し,UHF以上はその表面の状態(氷,雪)の影響が大きい.なお偏波面は氷冠上が水平,海氷上は垂直が良いようであった.
著者
佐藤 夏雄 鮎川 勝 福西 浩
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.181-202, 1980-02

昭和基地のほぼ地磁気共役点にあたる,アイスランドのHusafelにおいて,1977年7月29日から約50日間,ELF-VLF放射の共役点観測を行った.共役性についていえば,(1)昼間出現するポーラコーラス,準周期的(QP)放射の共役性は良い,(2)バーストタイプのティスクリート放射,オーロラコーラスの共役性は悪く,おもに北半球側が強い,(3)オーロラヒスの共役性は悪く,南半球(冬半球)側が圧倒的に強い.これらの観測結果から共役性の良いポーラコーラス,QP放射は磁気圏内の赤道面付近で発生し,磁力線に沿って伝搬しているものと理解できる.またオーロラヒス,バーストタイプ放射の非共役性は,電離層内の電子密度,磁場強度,磁力線の伏角等の南北半球での非対称およびこれらの放射の発生領域に依存すると思われる.
著者
寺沢 敏夫
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.1-16, 1979-01

オーロラ粒子の加速機構について,最近の観測をもとに従来の結果を概観した.はじめに,粒子の加速をになうものとして,磁力線に平行な電場が存在していることの観測的な証拠についてまとめ,次に,電場エネルギーの供給源として外部起電力の必要性を示し,提案されているいくつかの起電力のモデルについて述べた.また,加速領域のモデルとして提案されている磁気ミラー理論について検討し,最後に,double layerをめぐる最近の話題として,室内実験,計算機シミュレーションにつき触れた.
著者
山岸 久雄
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-67, 2006-03

第45次南極地域観測隊越冬隊(45次越冬隊)は,隊員及び同行者42名が昭和基地で越冬し,第期5ヵ年計画の3年次にあたる定常観測,モニタリング研究観測を継続して行うと共に,宙空系,気水圏系,地学系,生物・医学系のプロジェクト研究観測を昭和基地とドームふじ観測拠点において実施した.また,設営関係では基地の運営を2004年2月1日から2005年1月31日まで担当し,電力, 上下水道,燃料,通信,食料,医療といった生活基盤の維持管理に加え,車両整備, 機械設備工事,航空機の運用ならびに滑走路のメンテナンス,LANの運用,野外観測支援など多くの作業を行った.またインテルサット衛星通信設備を建設し,本格的なデータ通信,インターネット,テレビ会議など多様な情報サービスの初年度の運用を行ったことは特記すべきである.昭和基地,及びオングル海峡の海氷が安定しなかったため,野外行動の本格的開始は極夜が明けた7月となった.8月以降,生物学,地球物理,大気観測に関する多くのリュツォ・ホルム湾沿岸調査旅行や航空機観測を実施した.45次越冬隊では朝日新聞記者2名が観測隊同行者として越冬し,南極の自然や隊の活動の報道を国内に送った.
著者
船木 実
出版者
国立極地研究所
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究で開発した自動飛行する小型無人飛行機の飛行データを解析した。その結果、ガソリンエンジンから発生する電磁ノイズは電磁シールドにより磁力計に大きな影響を与えていなかったが、プラグ電圧を低下させていることが判明した。風が7m以下と弱かった桜島での実験では、自動飛行によるルートの誤差は30m以内で、単独測位GPSと同程度の誤差範囲内で、満足できる結果であった。高度は旋回中に約30m下降し、その後急上昇し設定高度を約20mオーバーシュートしていた。設定高度を±10m以内で飛行するには、旋回終了後少なくとも250mの直線距離が必要であることが判明した。しかし、22m/sの最大風速が235°の方向から吹いていた鳥海山での飛行実験では、飛行ルートは風上側でコースの逸脱はほとんど見られなかったが、風下側では100m近くルートが流された。東西方向の直線飛行のルートは満足できるものであったが、コースは絶えず修正され、機体は絶えず揺動していたことが推定される。以上の結果、我々の開発した小型無人機の場合、風が弱い時は単独GPS測位の精度以内の飛行が行われるが、風が強いときには設定ルートからの逸脱や、機体姿勢の修正のため多くのエネルギーが消耗することが分かった。第46次南極観測隊(越冬隊)に本機を託し、越冬期間中に飛行実験を試みた。低温でのエンジン始動や平坦な滑走路の確保の困難さから、地上滑走実験のみで、飛行は行われなかった。南極で高度なラジコン技術を持たない隊員が小型無人航空機で空中磁場探査を行うには、カタパルトの開発が不可欠である。本研究で開発した機体と飛行実験の結果は2006年1月に行われたInternational Symposium on Airborne Geophysics 2006で報告した。
著者
高橋 永治
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.65-72, 1969-12

1968年12月1日から1969年4月22日まで「ふじ」の航路に沿って,太平洋西部・インド洋・南極海の162地点の表面水中のクロロフィル-a量の定量を行なった クロロフィル-a量は,南極海が最も多く,インド洋の南緯32度以南,太平洋西部,南支那海の順に少なくなり,インド洋の南緯32度以北は最も少なかった クロロフィル-a量の変動の様子は,これまでの結果と似ているが,細部については必ずしも一致せず,論議のためには更に多くの観測結果が必要である.
著者
神山 孝吉 紀本 岳志 江角 周一 中山 英一郎 渡辺 興亜
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.30-40, 1994-03
被引用文献数
2

雪氷試料の化学的解析方法を, 現場運用環境を考慮しつつ検討した。現地で雪氷試料の化学的情報に接することができれば, 現場環境に応じてサンプリング間隔などを調整でき, 現場での研究活動に大いに貢献する。イオン交換性濾紙の利用は, 現場での雪氷試料の全ベータ放射能強度測定のための前処理方法の省力化・持ち帰り試料量の削減などに有効である。またイオンクロマトグラフィーを利用し, 微少量の試料で多種イオン(F^-, (CH_3COO)^-, (HCOO)^-, (CH_3SO_3)^-, (SO_4)^<2->, (C_2O_4)^<2->, (NO_3)^-)を分析する小型イオン分析システムを検討し, その機器構成と分析条件について議論した。さらに硝酸イオンの簡易測定システムについて問題点と有効性を考察した。このような方法を随時改良して行くことによって現場と同期した迅速な解析体制が確立可能である。
著者
福島 勲 久保 閲男
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.513-536, 1997-07

日本南極観測隊の通信部門では, 内陸調査旅行の際にブリザードなどの影響により深刻な雪雑音通信障害に遭遇してきた。その主たる原因は, バーチカルホイップアンテナの尖端で生じるコロナ放電と考えられてきた。本論では, 従前の各観測隊が経験した南極における雪雑音による通信障害の実例を調べ, その雑音発生のメカニズムと雪雑音障害の軽減方法について検討し, 雪雑音の影響が少ない調査旅行隊用のアンテナとして, 雪上車に取り付け可能な小型・高効率のトランスミッションラインアンテナの開発結果を述べる。
著者
佐藤 夏雄 山岸 久雄 宮岡 宏 門倉 昭 岡田 雅樹 小野 高幸 細川 敬祐 江尻 全機 田口 真 岡野 章一 元場 哲郎 田口 真 海老原 祐輔 利根川 豊 岡野 章一
出版者
国立極地研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

オーロラは南北両半球の極域で起こっているが、その形が似ている場合や全く異なる場合がある。南極昭和基地と北極域アイスランドは1 本の磁力線で結ばれた共役点ペアの位置関係にある。この利点を最大限活用してのオーロラの形状や動きを同時観測し、南北半球間の対称性・非対称性の特性を研究してきた。特に、爆発的オーロラ現象のオーロラ・ブレイクアップとその回復期に出現する点滅型の脈動オーロラに注目して観測研究を行なった。交付額
著者
阿部 豊雄 岩本 美代喜 祐川 淑孝 稲吉 浩 青野 正道
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.268-321, 1994-11
被引用文献数
1

この報告は第32次南極地域観測隊気象部門が, 1991年2月1日から1992年1月31日まで昭和基地において行った気象観測の結果, 1990年12月26日から1991年12月1日までのあすか観測拠点における気象観測の結果ならびに, 1990年11月から12月に行った「しらせ」船上でのオゾン観測結果をまとめたものである。観測方法, 設備, 結果の取扱い等は, 昭和基地及びあすか観測拠点とも第31次観測隊とほぼ同じである。なお, 昭和基地では, 紫外線B領域の観測を始めるなど地上放射観測の充実を図った。あすか観測拠点では, 南極気候変動研究計画の一環として気水圏研究部門が計画した, オメガゾンデによる高層気象観測を16回実施した。越冬期間中特記される気象現象としては, 次のものがあげられる。1) 昭和基地ではブリザードの襲来が34回あり, あすか観測拠点におけるブリザード日数は82日間あった。2) 昭和基地における年間の日照時間の合計値は観測開始以来最も少ない1684.9時間であった。3) 3年連続でオゾンホールを観測し, 日別値では9月30日のオゾン全量が159m atm-cmと観測開始以来2番目に低い値を記録した。4) 5月23日, 昭和基地付近でハイドローリックジャンプによる雪煙の渦塔が観測された。
著者
山内 恭 和田 誠 塩原 匡貴 平沢 尚彦 森本 真司 原 圭一郎 橋田 元 山形 定
出版者
国立極地研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

両極におけるエアロゾルの航空機集中観測を通じ、極域のエアロゾルにとって、南極・北極ともに,大気の長距離輸送過程が支配的であることが明らかになり、気候影響の大きい黒色炭素の問題等も興味ある発展が期待される。1.16年度5〜6月に、ドイツ、アルフレッド・ウェーゲナー極地海洋研究所(AWI)と共同で、同航空機2機を使った「北極対流圏エアロゾル雲放射総合観測(ASTAR 2004)」を実施した。航空機による散乱係数,吸収係数とも汚染の度合いの高かった北極ヘイズの活発な時期であったASTAR 2000の3〜4月の結果に比べいずれも低めの値が示されたほか、黒色炭素粒子が硫酸液滴に取り込まれた内部混合粒子が卓越することが明らかにされた。また、地上では降水に伴うエアロゾルの除去過程が観測され、エアロゾルと雲の相互作用が類推された。2.18年12月から19年1月にかけて、引き続きAWIの航空機による南極域での「日独共同航空機大気観測(ANTSYO-II)」を実施した。大西洋セクターではノイマイヤー基地を中心に内陸のコーネン基地まで、合計22フライトを実施し、インド洋セクターの昭和基地側では大陸上S17拠点をベースに内陸、海洋上水平分布と鉛直分布を取得する観測飛行を合計15フライト実施した。エアロゾルの物理、光学、化学特性の3次元分布を得たと共に、温室効果気体の鉛直分布を得るための大気試料採取も行った。南極大陸沿岸域でも、西経側に位置するノイマイヤー基地周辺では、大気が南極半島側から輸送されることが多く、一方東経側に位置する昭和基地では、南大洋を越え南米大陸からの輸送が多いことが、エアロゾルの性質を特徴づけていること、さらに昭和基地近傍で内陸からの大気の中にも黒色炭素の多いエアロゾルが見られることが明らかになった。そのほか、昭和基地観測、海鷹丸観測と併せ、海洋起源物質の寄与の解明も期待される。
著者
星野 孝治
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.29-38, 1974-12

1973年11月27日から1974年4月18日まで,第15次南極観測行動中の「ふじ」の航路に沿って.192地点で表面海水中のクロロフィルa量を測定した.クロロフィルa量は南極海で一番多く,次いで南東大西洋,セレベス海,マカッサル海峡が多く,インド洋,西太平洋,南シナ海では少なかった.また,マラジョージナヤソ連基地沖のクロロフィルa量は,南極海の中でもずばぬけて多かった.クロロフィルa量の水平分布は細部では異なる点もあるが,過去4回の観測結果とだいたい一致している.