著者
李 承ほ
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

糖転移酵素の一種であるα1.6-フコース転移酵素(FUT8),は、N-グリコシド型糖タンパク質糖鎖の根元にフコースを付加する酵素である。この転移酵素によってフコシル化された糖鎖は、正常組織の多くのタンパク質で見られるが、その詳細な機序は不明である。申請者が在籍する研究室では、フコシル化の生理機能を明らかにするために、FUT8ノックアウトマウスを作製した。FUT8欠損マウスは、成長遅滞をおこし生後早期に死亡する。病理学的には肺上皮と小腸上皮に異常がみられた。本研究は、この病変の分子基盤を明らかにするために、正常マウスとFUT8欠損マウスの差異をプロテオミクス法で解析し、責任分子を明らかにすることを目的とする。FUT8欠損マウスに見られた病理学的異常の責任分子としてLow density lipoprotein receptor related protein-1(LRP-1)に着目してFUT8欠損マウスではこの受容体はフコース化されてないことによるこの受容体の取り込みの機能に異常があるのが明らかになった。これらの異常によるFUT8欠損マウスではLRP-1のLigandの一つであるInsulin like growth factor binding protein-3(IGFBP3)というタンパク質が増加されたのが確認された。これからの研究によるフコシル化LRP-1の機能において大事な役割をしているのが明らかになった。LRP-1の異常とFUT8欠損マウスに見られた成長遅滞をおこし生後早期に死亡することと肺上皮と小腸上皮に異常などとの関係性があるか調べる。
著者
森岡 裕一
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

19世紀アメリカの禁酒小説と家庭小説に見られる感傷主義に着目し分析を進めた。とりわけ禁酒小説に関しては、その代表的作品ともいえるT・S・アーサーの『酒場での十夜』の翻訳を解説とともに出版できたことは意義深い。また、「涙する少女」のモチーフを通して、禁酒小説と家庭小説に共通する特質を抽出し、その成果を口頭発表や講演で発表、さらには論文や啓蒙的文章という形で公刊しえたことは大きな成果だと自負している。
著者
飯田 敏行
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

高純度サファイアの電気的特性を放射線照射下で調べた。その場測定の為の実験装置を製作し、中性子とγ線の照射実験を行った。一定のバイアス電圧下では、サファイア試料の放射線誘起電流はフラックスにほぼ比例し、単位呼吸線量率当りの電気伝導度増加係数は〜1.0×10^<-10>(S/m)(Gy/Sec)であった。また照射開始直後には大きな過渡電流が、そして、照射停止後には非常に遅い電流回復成分が観測された。さらに、外部バイアス電圧が無い状態でも放射線誘起電流が観測され、サファイア試料内部に電圧発生機構があることがわかる。これらの過渡電流やオフセット電圧の発生原因としては、試料の電荷蓄積や電荷キャリアの捕獲・再放出機構が考えられる。また、無機絶縁(MI)ケーブルについても同様の測定を行った。パルスX線照射実験では、ケーブル芯線に誘起される電荷量がパルス当りの吸収線量と芯線-シース間電圧にほぼ比例した。この事は、絶縁性低下の主要因が絶縁層内における電荷生成量とそのドリフトである事を示唆している。実験値を基にケーブル芯線に誘起されるパルス電荷量のシミュレーション計算を行った結果、絶縁材中の生成電子の平均ドリフト距離は、芯線-シース間電圧100Vに対して約15nmと推定された。この値の物理的妥当性については別方法によるクロスチェックが必要である。
著者
村上 正直
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、(1)条約機関の先例の収集と分析、(2)日本の裁判例の収集と分析及び(3)若干の諸外国の動向の把握及び関係文献の収集を中心とするものであるが、概ねその作業を完了した。(1)については、主として、欧州人権裁判所、規約人権委員会及び拷問禁止委員会の判決及び「見解」を収集し、入手可能な資料はすべて得た。(2)については、公式判例集及び公刊されている判例誌に掲載されている裁判例、並びにインターネット(最高裁ホームページなど)から収集可能な裁判例を収集した。また、弁護士から若干の判例集未登載の裁判例を得た。これについても、入手可能な資料はすべて得た。(1)及び(2)については、その内容を検討し、入国、在留及び強制的出国(犯罪人引渡し及び退去強制)の3場面に分けて整理し、分析を行った。(3)については、従来から関心をもっていたカナダ及びオーストラリアを中心に、主として両国の関係ホームページから裁判例・決定例などの収集を行ったほか、その他の関係文献を収集した。なお、収集した文献、特に日本の裁判例などの一部について、効率的な研究遂行のために電子データ化した。ただし、匿名化が必要な裁判例や著作権の関係などで公開はしていない。研究の成果は、検討の範囲が膨大であるため、そのすべてをとりまとめるには至っていないが、現在、日本における在留特別許可に関する法務大臣の裁量に関する裁判例・決定例の典型的論理を分析し、人権条約の解釈からみた評価を行う論文を執筆中であり、近々公表される予定である。
著者
平野 俊夫 村上 正晃 山下 晋 石原 克彦
出版者
大阪大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2003

サイトカインは、免疫応答、急性期反応、造血、炎症性反応に重要な役割を果たしている生理活性分子である。我々が作成した、シグナル特異的な変異を導入したgp130を発現しているノックインマウスは関節リウマチ様自己免疫疾患を自然に発症する。このマウスに見られるT細胞や樹状細胞の免疫学的機能異常のメカニズムを明らかにすることにより、逆にサイトカインシグナルによる正常の免疫応答の制御機構の一端を明らかにする。さらに、踏み込んでサイトカインのシグナル異常によって生じる自己免疫疾患に普遍的な機構を明らかにすることを目的とした。以下の2つの概念を証明することができた。1. サイトカイン刺激による非免疫系組織の活性化が別のサイトカインを介してCD4+T細胞の活性化を引き起こして自己免疫につながる。2. 非免疫系細胞にはIL-17とIL-6の刺激を引き金とするIL-6の正のフィードバックループが正常状態でも存在して生体のIL-6量を制御している。F759マウスではIL-6刺激後正常状態ならば働くはずのSOCS3による負のフィードバックループが働かずにIL-6の正のフィードバックループが暴走し、過剰なIL-6発現が自己免疫性の関節炎を引き起こす。さらに、本研究の過程で発見された亜鉛シグナルの存在を証明して免疫反応との関連を研究して成果を出すことができた。
著者
林 行雄 上林 卓彦 真下 節 松田 直之 服部 裕一
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

脳死状態は心臓が強い交感神経緊張状態にさらされた後中枢神経の支配が破綻した状態という観点に立ち、以下の研究を行った。(1)中枢神経による不整脈制御周術期不整脈のモデルであるハロセン-エピネフリン不整脈を用いて不整脈発生における中枢神経の役割を検討した。副交感神経の情報伝達物質であるアセチルコリンが不整脈抑制に関与し心臓のアセチルコリン受容体、PTX感受性Gタンパク、protein kinaseAを介して、最終的には心臓のATP感受性Kチャンネルを開口させ、抗不整脈作用をもたらすことを示した。また脳内のイミダゾリン受容体のタイプ1がこの制御に深く関与していることも明らかとなった。脳死による中枢神経の廃絶に伴う副交感神経機能の廃絶が脳死状態での不整脈制御の破綻の一因の可能性が示唆された。(2)脳死における揮発性麻酔薬の心筋感作作用Pratschkeらの方法(Transplantation 67:343-8,1999)に基づいてラット脳死モデルを確立した。脳死状態ではハロセンに心筋感作作用が認められたが、イソフルレン、セボフルレンの心筋感作作用は弱かった。しかし麻酔薬間の格差は縮まった。この結果は中枢神経機能が吸入麻酔薬の心筋感作作用に関与していることを示していると考えられる。(3)脳死に伴う心機能の変化ラット脳死モデルにより、コンダクタンスカテーテルを用いた心機能の評価を行った。脳死に伴い、血圧の低下は脳死後5-6時間を要するが、脳死導入後2,3時間でEjection Fractionの低下が認められる。っまり、脳死後の早期に現れるEjection Fractionの低下を抑制することで脳死後の心機能の維持につながると思われた。ATP感受性Kチャンネルの開口薬であるニコランジルはいわゆるpreconditioning作用で心筋保護に働くことが知られているが、これを脳死前から持続投与することでEjection Fractionの低下に至る時間を延長し、結果脳死後6時間での生存率の改善が見られた。またこのニコランジルの作用はミトコンドリアATP感受性Kチャンネル阻害薬で消失した。脳死による心機能の破綻にミトコンドリアATP感受性Kチャンネルが関与していると思われた。
著者
田中 健二
出版者
大阪大学
雑誌
大阪大學文學部紀要 (ISSN:04721373)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.133-252, 1963-03-25

Bei der vorliegenden Arbeit handelt es sich um Herders Leben und seine Literaturansicht in der Weimarer Zeit. Wie bei meiner ehemaligen Arbeit fiber den jungen Herder habe ich auch hier Herders Dasein und seine Arbeiten und Vorstellungsweisen auf Grund seiner eigenen Schriften und der auf ihn bezuglichen Briefe und andern Quellen darzustellen versucht. Daher bildet die vorliegende Abhandlung eine Fortsetzung zur obengenannten Arbeit, deren Titel "Der junge Herder und seine Ansicht iiber die Literatur" (vgl. Memoirs of the Faculty of Literature Osaka University, Vol. V. March 1957) heiβt. Herders Weimarer Zeit habe ich nach den meisten deutschen Literaturhistorikern in zwei Perioden geteilt: die Zeit vor der Italien-Reise und die nach der Italien-Reise. Und das erste Kapitel behandelt die erstere, das zweite die letztere. Das kommt aber nicht davon, daβ die Reise fur die Entwicklung des Herderschen Geistes irgendeine wesentliche Bedeutung hat, sondern nur davon, daβ seine auf die Literatur bezuglichen Arbeiten konzentrisch zur Zeit vor der Reise erschienen sind. Da seine Italien-Reise selbst, von der Goethes ganz verschieden, fur seine Geistesentwicklung nicht von Bedeutung ist, so ist kein positiver Grund vorhanden, sie zum Periodisierungsmittel zu machen. Deswegen ist hier die Darstellung von Herders Italien-Reise weggelassen worden. Die zwei oder drei Jahre vor seinem Tode ausgenommen, stand Herder sein ganzes Leben hindurch in engem Verhaltnisse zu Goethe, sei es positiver oder negativer Art gewesen. Somit spielen diese beider Beziehungen auch in der vorliegenden Abhandlung mit Recht eine sehr wichtige Rolle. Da aber vom Hohepunkt der Herderschen schriftstellerischen Tatigkeit, d.h. vom Zeitabschnitt, in demdie Freundschaft zwischen Herder und Goethe dank dem Ineinandergreifen ihrer Gedanken ihren Gipfel erreichte, schon in dem Aufsatz mit dem Titel "Goethes und Herders Zusammenleben in Weimar bis zu Herders Italien-Reise" (vgl. Goethe-Jahrbuch III. Bd. 1961, hrg. v. "Goethe-Gesellschaft in Japan") gehandelt wurde, so habe ich hier nicht wiederholt, was dort alles gesagt wurde. Statt dessen habe ich versucht, auf seine vorweimarische Zeit zuruckgehend im Zusammenhang mit dem (Teutschen Merkur) seine Beziehungen zu Wieland, der es zeitlebens gut mit ihm meinte, moglichst getreu darzustellen. Und dann nehme ich aus seinen zahlreichen Arbeiten die folgenden Abhandlungen als mustergultige fur seine damalige Ansicht uber die Literatur auf : "Volkslieder", "Von Ahnlichkeit der mittleren englischen und deutschen Dichtkunst", "Das Hohelied Salomonis-Lieder der Liebe", "Uber den Emfliiβ der Dichtkunst auf die Sitten der Volker in alten und neuen Zeiten", "Vom Geist der ebraischen Poesie" und einige Aufsatze uber die Literatur in den ersten drei Sammlungen der "Zerstreuten Blatter" etc., um das Wesen des Herderschen Gedankens zu erforschen. Dabei habe ich sowohl die Entstehungsgeschichte dieser Abhandlungen als auch die wichtigen Fragen aufzuhellen versucht: In welcher Art ist der Begriff "Volkslied", der von seiner Jugendzeit an fur ihn der wichtigste ist, auf sie angewandt? Inwiefern sieht er die Bibel als em Urbild der Dichtuhg, ja fur eine echte Dichtung an? Wie kam es dazu, daβ er Epigramm und Fabel als Dichtungen anerkannte ? Zugleich damit wird dargestellt, wie seine Auseinandersetzung mit Lessing auch noch damals zur Aufrollung seiner eigenen literarischen-Probleme nicht wenig beigetragen hat. Im zweiten Kapitel ist von Herders letzten Jahren nach der Italien-Reise die Rede. Hier ist hauptsachlich iiber seine Abneigung gegen den Weimarer Hof, seine Begeisterung fur die Franzosische Revolution, den von Goethes und Schillers Freundschaftsbundnis verursachten Zwiespalt zwischen Herder und Goethe, seine Verfechtung der Moral und des Humanismus, seinen Streit gegen Kant, seine freundschaftliche Beziehung mit Jean Paul und sein literarisches Streben in seinem allerletzten Jahren etc. gehandelt worden. Nach der Italien-Reise hatte er wenig mit dem Literarischen zu tun, und uns ist nur noch -bekannt, daβ er durch seine letzten Werke, "Adrastea" und den "Cid", noch einmal auf dem Wege der ErschlieJβung und Ubersetzung fremder Literaturwerke war. Es ist also keineswegs dem Zufall, sondern dem zielbewuBten Versuche zuzuschreiben, daβ die Beschreibung des zweiten Kapitels im Vergleich mit der des ersten sehr einfach geworden ist. Denn das Hauptaugenmerk dieser Arbeit ist auf die Darstellung und Erschlieβung der Herderschen Literaturbetrachtung gelegt.
著者
三好 紀子 松本 恵 金井 講治
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

自閉症スペクトラム(ASD)は社会不適応に至る症例も多く、その一因として感覚特性の影響、中でも聴覚特性の影響が指摘されている。聴覚特性には「選択的聴覚注意障害」と「聴覚過敏」があり、支援に違いがあるが、臨床的に区別が困難な例が多い。聴覚情報処理障害(APD)は「聴力は正常であるが、聞き取りにくさが生じる」一群で、社会的不適応になる例が散見される。本研究の目的は、心理検査、APDの検査である聴覚検査などを組み合わせることで、ASDの聴覚特性の特徴を詳細に検討し、概念を整理することである。最終的には聴覚特性に起因する社会不適応への支援を検討することが目的である。
著者
藤田 郁尚
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

アルミニウムの状態の違いによる侵害受容性TRPチャネルであるTRPV1、TRPA1への影響をパッチクランプ法及びカルシウムイメージング法によって確認し、アルミニウムイオンがTRPV1、TRPA1の活性抑制効果を示すことを明らかにした。また、また、pH4、6、7.4の条件において硫 酸アルミニウムカリウムのTRPV1、A1の抑制効果を調べたところ、酸性pHにおいて観察される高い抑制効果は中性pHでは減弱するものの、中性条件においても抑 制効果を確認することが出来た。更に、ヒト被験者への硫酸アルミニウムカリウム水溶液(酸性pH)を毎日一回の使用を一ヶ月続けた結果、皮膚水分量の上昇が確認された。
著者
大島 健司
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

がん細胞は、自身の生存に有利になるように、正常組織とは全く異なる代謝動態を獲得していることが知られており、がん特異的な代謝経路の同定とそれを標的とした治療法の開発が近年試みられている。我々は中枢神経系でのみ機能が明らかにされていたセリンラセマーゼという代謝酵素が、大腸がんにおいてL-セリンからピルビン酸を産生する新たながん代謝経路を担い、がん細胞の増殖を促進することを明らかにした。そして、セリンラセマーゼ阻害剤が大腸がん細胞の増殖を抑制し、さらには従来の抗癌剤である5-フルオロウラシルとの併用で大腸がん細胞の増殖を顕著に抑制することを明らかにした。
著者
飯塚 一幸 村田 路人 宇野田 尚哉 奥村 弘 高槻 泰郎 田中 康二
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

伊丹市の小西家は日本を代表する酒造家である。本研究は、小西酒造の蔵から発見された新資料を対象に、①その目録化を図る、②新資料を基に学際的研究を行う、③学際的研究の成果を書籍として刊行する、ことを目的とした。本研究の成果は以下の通りである。(1)文書については2万8133点、典籍については1279点を目録化した。(2)「小西家資料研究会」を立ち上げ、小西家を取り巻く人的ネットワークと、それを基に小西家が伊丹地域の近代化を支えた実態を明らかにした。(3)研究代表者・研究分担者、研究会に参加した若手研究者により、論文集を刊行することで出版社と合意した。
著者
白井 詩沙香 上田 真由美 小野 淳 兼宗 進 竹村 治雄 長瀧 寛之 西田 知博 村上 正行
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究では,高等学校の共通教科「情報」および大学の一般情報教育において,主体的・対話的で深い学びを実現するために,体験的な学びを通して情報の科学的な理解を促進する教材と授業内外の学習活動を効果的に活用した授業モデル,ならびに多様な学びを対象とした自己調整学習支援環境を設計・開発し,その効果を検証することを目的とする。この目的を達成するために,(1)共通必履修科目「情報I」を対象に,体験的な実習教材および反転授業を取り入れた授業モデルの開発と評価,(2)新学習指導要領を踏まえた大学の一般情報教育の授業設計,(3) 多様な学習活動データに基づく自己調整学習支援環境の開発と評価に取り組む。
著者
大西 真駿
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

不良または余剰なミトコンドリアを適切に分解し除去することは細胞の健康維持に重要である。マイトファジーはオートファジーの仕組みを利用してミトコンドリアを分解する仕組みであるが、その詳細な分子機構はほとんど不明であった。本研究では出芽酵母を用い、ミトコンドリアと隣接するオルガネラである小胞体に存在する膜タンパク質がマイトファジーの制御に関わるメカニズムを解明する。この解析を通し、小胞体がミトコンドリアの分解制御にどのように貢献し、適切なレベルの分解を正確に駆動しているかの理解がより一層深まると期待される。
著者
川本 弘一 江口 英利 西田 尚弘 今野 雅允 小関 準 石井 秀始 森 正樹 広津 崇亮 杉本 昌弘
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

膵癌の予後は極めて不良であり、新規診断・治療法の開発が急務となっている。本研究では野生型線虫の嗅覚を応用したN-NOSE法を用いることで癌の匂いを科学的に検討し線虫が膵腫瘍発生を組織学的に確認された膵腫瘍自然発生モデルマウスの尿に対してもヒト同様の誘引行動を呈することを示した。線虫の行動をげっ歯類で再現できたことの重要性は、これまではヒトの臨床検体を用いていたため、サンプルの多様性も影響し、原因物質の同定までは至らなかった可能性も示唆されるが、このマウスモデルを利用することで、走行性を惹起する物質の同定が可能となることが期待され、N-NOSE法が膵癌の早期診断の一助になる可能性も示唆された。
著者
鹿子木 康弘 高橋 英之 松田 剛
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では,視線入力インタフェース技術を用いた独自の参加型認知実験パラダイムを構築し,今まで方法論的な限界により検証不可能であると考えられていた乳児の他者に対する道徳的ふるまいを明らかにすることを目的とする。本研究により,従来研究から漠然と示唆されていた乳児の道徳性の 実証が可能になるとともに,乳児の行動そのものを測るという乳児研究手法のコペルニクス 的転回が実現できると期待している。また,乳児の道徳的行動を直接観測することで,分断 が叫ばれる現代社会に横たわる様々な問題の背後に存在する道徳性や暴力性の発達的要因の解明がより進むことも期待される。