著者
河野 七瀬
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

研究代表者は, これまでの研究で2原子分子の化学反応に対する反応物の振動励起効果を明らかにしてきた。そこで昨年度からはさらに拡張し, 多原子分子の反応に対する振動励起効果, 及び, 複数の反応経路に対する反応物の振動励起効果を解明するため, 3つの反応経路をもつNH_2+NO反応系を対象とし実験を行った。昨年度までに, 振動励起した反応物NH_2および生成物OHの振動準位選択的な検出に成功しており, また, CF_4による高効率なNH_2の振動緩和の結果, OHの生成収率が減少することを明らかにした。この結果は, 反応物NH_2の振動励起によりOH生成経路が加速していることを表わしている。本年度は, より定量的な反応物の振動励起効果を明らかにするため, 生成物であるH原子の観測を行った。観測セル内のNH_3/He混合気にArFレーザ(193nm)光を照射し, NH_3の光解離により振動励起NH_2(v2≤11)及びH原子を生成した。H原子は2光子励起にもとづくレーザ誘起蛍光(LIF)法により検出し, 相対濃度の時間変化を観測した。さらに, NO添加条件下で観測したH原子の相対濃度の時間変化から, 添加していない条件下での時間変化を引くことで, NH_2+NO反応で生成したH原子の相対濃度の時間変化を観測した。濃度時間変化の解析の結果, NH_3の193㎜光解離で生成したNH_2とNOの反応系ではOH生成経路の収率がおよそ23%であることを決定した。室温状態ではOH生成経路の収率は1割程度であると言われてきたにも関わらず, 本研究で高い収率を示したことは, 反応物であるNH_2の振動励起がOH生成経路を加速していることを表している。
著者
村松 潤一
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、これまでのマーケティング研究があまり関心を寄せてこなかった交換後の顧客の消費プロセスに焦点をあて、そこで展開される企業のマーケティングを価値共創という視点から解明した。具体的には、サービス業、小売業、消費財製造業、生産財製造業について調査し、企業は顧客と直接的な相互作用を通じて顧客にとっての価値を共創していることが示された。これらの事実は、これまで見落とされてきたものであり、今後のマーケティング研究にとって新たな知見となる。
著者
マディナベイティア ヨネ (2011) MADINABEITIA Ione (2010)
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

人為改変や地球温暖化といった自然現象により外来種が侵入しつづけている。熱帯・亜熱帯水域に生息する魚類や、その寄生虫が日本にも生息すると言われている。特に、寄生性カイアシ類は養殖場内での感染拡大が容易であり宿主の成長率低下や大量死を引き起こす。それゆえ本研究の目的は、どの寄生虫が日本の養殖魚や天然魚において不都合な影響をもたらすか特定すると共に、熱帯・亜熱帯水域から日本の水域までの寄生虫の種多様性についても報告することにある。二重網法により、カイアシ類の発見は劇的に改善され、種数、数量共に、より正確な結果が得られるようになった。1500匹以上のカイアシ類が17種の魚類から二重網法により採取された。bomolochidsやphilichthyidsが最も多かった。Philichthyidsについていえば、沖縄近海において7種の魚類の側線から全部で6種のColobomatusが初めて報告された。Colobomatus colletteiの原記載は、熱帯水域であるニューギニア湾であり、亜熱帯水域である沖縄の海で初めて発見された。また、Procolobomatusがアジアで初めて発見された。以前の報告では東太平洋からだけであった。この研究でPhilichthyidsが亜科レベルにおいて宿主の系統発生についての情報をもたらした。Caligus sclerotinosusは、養殖場における幼魚の移動によってニュージーランドから日本へ侵入したと考えられていたが、最近、韓国の沿岸域からも養殖マダイへの寄生が発見された。また台湾の熱帯・亜熱帯水域のみで報告されていたMetacaligus latusが瀬戸内海で初めて発見された。日本でのC.sclerotinosusの発生は、人為改変によるものであり、M.latusは自然拡散によると考えられる。結論を述べると、5種のカイアシ類が国内の天然魚・養殖魚の両方に感染する外来種だと考えられる。本研究は低い宿主特異性を示す種のみでなく、高い種も宿主と共に熱帯・亜熱帯水域から日本への拡散が可能であることを示す。今後海水温上昇が続くようであれば、日本の水産に携わる者は将来侵入するであろう新たな外来種に対する準備を早急にすべきであろう。
著者
村瀬 延哉
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、コルネイユ劇と当時のフランス社会の関係の中でも、特に庇護者であったリシュリュー、マザラン等が彼の演劇創造に及ぼした影響に注目した。三十年戦争やフロンドの乱の最中、コルネイユは庇護者たちを巡る政治的現実を作品に投影することで観客の興味を高めると同時に、見事に完成された芸術的形式を借りて、庇護者たちを賛美し支持する姿勢を明らかにした。しかし激動する社会の中で、彼らを支持することが己の不利になると、かつての庇護者たちを作中で貶めることも恐れなかった。その意味で彼は絶対主義の忠実な支持者ではなく、オポチュニストとして振舞いながら創作活動を行ったのである。
著者
村瀬 延哉
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

ピエール・コルネイユの中・後期の戯曲を検討し、作劇法の特質と変遷を明らかにした.所謂四大傑作に比して、それ以後特に1660年頃までの作品に目立つのは、ロマネスクなものへの強い志向である.つまり、作者は、傑作悲劇の長所である人間心理の正確かつ迫真の描写を犠牲にしても、観客を驚愕、感嘆させるストーリーの展開、山場の設定にドラマツルギーの重点を置いた.その典型的な例が『ロドギュンヌ』であって、最終幕の毒杯の生み出す視覚的サスペンス等によって大成功を収めるが、登場人物の心理面には明らかな不自然さが存在した.また、『ニコメード』などのフロンド期の作品では、こうしたロマネスク性に加えて、現実の事件、人物を作中て暗示する時事性が、観客の好奇心に大いに訴えた.劇壇復帰作となる『エディップ』においても、自由意志の尊厳を認めるコルネイユ的世界と宿命の悲劇であるオイディブス伝説の間に存在する本質的な矛盾を、悲劇を,サスペンスをメインに据えた娯楽作品に仕上げることで解消し、成功を博した.晩年の特に『オトン』以降の作品では、「政略結婚劇」とでも呼ぶべき構成が主流を占めるようになり、先祖返りつまり初期喜劇の手法への回帰現象が見られる.また、一種のリアリズム志向が『ソフォニスブ』、『オトン』等で顕著となる.加えて最晩年の作品に至ると、ラ・ロシュフーコーの『箴言集』を思わすペシミスティックな世界観が戯曲を支配するようになって、それが作劇法にも影響を与える.古典演劇理論の観点から言えば、コルネイユは「真実らしさ」より「真実」を重視する異端派である.彼はこうした立場に立つことで、『ロドギュンヌ』など中期作品でのバロック的異常美の追求や、後期作品におけるリアリズムの追求を正当化しようとした、と考えられる.
著者
石田 雅春
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本年は、(1)戦後地方における教育の展開、(2)講和独立後の教育政策について研究した。(1)については、前年度に引き続き地方軍政部の史料を分析するとともに、広島県を事例に新規史料の調査・整理に取り組んだ。具体的には、共同で竹下虎之助氏(前広島県知事)、平岡敬氏(前広島市長)のオーラル・ヒストリーを行うとともに、関係史料の整理・分析に中心となって取り組んだ。(1)残念ながら教育の分野ではあまり収穫がなかったが、オーラル・ヒストリーの成果については編集を行い、広島大学文書館編『聞き書き平岡敬平和回想録』(広島大学文書館、2005年11月)、竹下虎之助『竹下虎之助回顧録-広島県政五十年の軌跡-』(現代史料出版、2006年5月発行予定)という形で公開する。(2)整理した史料(被爆朝鮮人・韓国人に関するものが中心)については解題を附して、広島大学文書館編『平岡敬関係文書目録第1集』(IPSHU研究報告シリーズNo.34、2005年7月、広島大学平和科学研究センター)を発行した。(2)については、逆コース期の史料収集・分析を進めると共に、高度経済成長期の史料についても調査・研究を進めた。その一環として『大平正芳関係文書』 (大平正芳記念館蔵)の調査・研究を行った。史料は政局に関する文書が中心で、残念ながら教育に関する史料がほとんどなかった。しかし調査の成果をもとに「三木内閣の経済政策と大平正芳蔵相の役割-「三木おろし」の政策的背景に関する一考察」をまとめた。本論文では、三木武夫首相と大平正芳蔵相・福田赴夫副総理の間の政策認識の差を明らかにし、政局の観点のみで「三木おろし」を説明してきた通説に対して、政策の観点から再評価する見方を示した。
著者
松浦 伸也 宮本 達雄
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2010

紡錘体チェックポイントは、細胞分裂時に姉妹染色分体が正確に娘細胞に分配するために、分裂期中期染色体が両極性連結するまで染色体分配が生じないように監視する。紡錘体チェックポイントの構成因子BUBR1が先天的に欠損すると、高発がん性を特徴とするPCS症候群を発症する。本疾患患児は、悪性腫瘍のほかに、脳の形成不全や多発性腎嚢胞を合併する。このような多様な症状を示す理由はこれまで明らかではなかった。PCS症候群の症状が繊毛病の症状と似ていることから、BUBR1と繊毛の関係を解析した。その結果、通常は細胞表面に一本ずつ生えている一次繊毛が患者皮膚線維芽細胞では著しく低下することを見出した。繊毛は細胞外環境のセンサーとして細胞内シグナル伝達経路で中心的な役割を担っており、腎臓や脳などの臓器の形成で重要な働きをしている。BUBR1は分裂期に後期促進複合体APC/C^<CDC20>の働きを調節して紡錘体チェックポイントを制御するが、本研究により、GO期でさらに後期促進複合体APC/C^<CDH1>の活性を維持して繊毛形成に必須の機能を持つことが判明した。ヒトのモデル動物であるメダカでBUBR1を人工的に欠損させたところ、内臓逆位が高頻度に観察された。脊椎動物では、発生初期に繊毛を持つ組織が一時的に現れて、繊毛の回転によって水流が起こり、体の左右性が作り出される。BUBR1を欠損したメダカでは繊毛が生えないために水流が形成されず、そのために内臓逆位を引き起こすことがわかった。以上、本研究によりBUBR1は細胞増殖と分化を連係する分子であることが明らかとなった。
著者
倉林 敦
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

アカガエル類(上科)は、大陸移動に伴い分布拡大と系統分岐を生じた分類群とされるが、従来の分子系統解析では解決できない系統額上の問題が数多く残っている。そこで従来法にはない利点を持つ、転移因子SINEの挿入に基づく系統解析によって、これらの問題を解決することを最終目的として研究を行った。これまでにアカガエル類が属するカエル亜目からはSINE配列が発見されていなかったが、本研究により、ツメガエル類で発見されていたSINE2-1XTホモログが、現生両生類の共通祖先で獲得され、多くの両生類ゲノムに現存していることが明らかとなり、アカガエル類において本SINEを用いた系統解析が初めて可能となった。
著者
戸祭 由美夫
出版者
広島大学
雑誌
地誌研年報 (ISSN:09155449)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.87-120, 1998-03

ベネルクス囲郭都市研究という目的に沿って,オランダを対象に囲郭都市・集落の分布と変容を予察した前稿に引き続いて,本稿ではベルギーを対象に,その囲郭集落ないし囲郭都市プランの成立と分布の特徴を概観した上で,ベルギー国内を3地域に区分して,各地域の代表的な囲郭集落(都市)としてブリュッヘ,ルーヴェン,リエージュ,マリアンブール,フィリップヴィルをとりあげ,各種の地図資料や現地踏査をもとにその特徴を明らかにした。
著者
久保田 啓一 SUN SHULIN
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

久保田は、これまで収集した成島家関係の資料の整理を行い・東京の内閣文庫や今治市河野美術館などにおいて更なる資料の収集を図った。特に、河野美術館蔵の成島家歴代の筆跡や、成島信遍の周辺の古文辞学者達の書簡の収集は、貴重な成果であった。なお、既発表の論考の電子化などに博士課程の学生の助力を得た。孫は、中島敦と中国思想との関係をより深く究明するために、中島敦家の蔵書(日本大学法学部大宮校舎図書館所蔵)と中島敦の原稿や同家の遺物(神奈川県立近代文学館所蔵)などの全貌を把握した上、その中の儒学・道学関係のものについて調査、資料収集した。また、中島敦家蔵書の『老子・荘子・列子』、『老子翼・荘子翼』、『老子』などの、中島敦の書入れと思われる部分について詳しく調査した。その筆跡鑑定は至難であり、更なる努力が必要と考えているが、これまでの調査により、部分的には明らかになりつつある。この作業は、中島敦と中国思想との真なる関係を究明するためには、かなり意味のあるものと思われる。また、中島敦の研究文献を網羅的に収集することを心がけた。これらの成果を踏まえつつ、博士学位論文の一部に手を加えて、「中島敦「弟子」論-「義」「仁」「中庸」を中心に-」、「中島敦「斗南先生」論-東洋精神の博物館的標本-」、「中島敦《悟浄歎異》中的真・善・美」の3編を発表した。
著者
千菊 基司 多賀 徹哉 幸 建志
出版者
広島大学
雑誌
中等教育研究紀要 (ISSN:09167919)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.137-142, 1998-03-24

教育実習の最大の目的は,「授業を成立させる力」をつけることにあろうが,この力については教授が容易な技術と,そうでない技術に分けられると考えてよいであろう。特に後者は授業を通じて獲得されるものであるが,実習生の人数と教官の持ち時間の関係で限られた時間しか実際に授業の経験ができない。この点を克服するために,実習生全体に,(1)ビデオで録画した授業を媒介にした授業観察の指導とその後の指導案を考える演習,(2)指導案通りに進まない時の対処法についての講義,(3)発問の分類や発問を考え出す演習等を行った。初めての試みであったが参加した実習生には好評で,異なる学年を教える実習生がグループの枠を越えて多様な意見を交換することで,多くを学んだようである。本稿はその実践報告と,指導教官や実習生からのフィードバック等から得られた今後の課題からなる。
著者
西本 眞 西原 利典 井上 芳文 内海 良一 大隈 教臣 由利 直子
出版者
広島大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13444441)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.93-108, 2003-03-28

「生徒自身の手で自律した体育祭を創る」・・・・・・2002年2月2日付けで高校体育祭運営局から提示されたコンセプトである。それより遡ること4ヶ月前の2001年11月,高校生徒会執行部から2002年度「学校祭」基本方針(案)が提出された。その冒頭に次のように謳ってある。「学校祭(文化祭・体育祭)は,本校の伝統的校風である自出・自主・自律の精神を発現する場であり・・・・・・(中略)・・・・・・主体的な学習の場である。(後略)」生徒たちの中には学校行事を「学びの場」として捉え,それを「自律的に」運営していこうという意識がある。これは今に始まったことではなく,長年本校で培われてきた精神である。ではそれを支える教職員側の意識・態勢はどうであったのか。本稿は2000年度入学生を受け持った6人の担任団がどの場面で何を学ばせようと意図して「学びの場」としての行事を仕掛けていったのか,その実践の記録である。
著者
水田 邦子 飛梅 圭
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、TMEM16E遺伝子の機能および生理的役割を分子細胞生物学的手法により検討し、TMEM16E関連遺伝性疾患発症の分子メカニズムを解明することを目的とした.その結果,TMEM16Eノックアウトマウスでは明らかな表現型が認められず,他の筋ジストロフィー関連分子の代償性活性化により相殺されている可能性が予想された.さらに,ヒト筋芽細胞のin vitro分化の系において,TMEM16E蛋白が筋管細胞のみならず分裂期の筋芽細胞においても高発現していることを発見したことから,筋分化とは別に細胞周期依存的にその発現が調節されることが予想された.