著者
三宅 尚
出版者
広島大学
雑誌
Memoirs of the Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University. IV, Science reports : studies of fundamental and environmental sciences (ISSN:13408364)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.161-163, 2001

第1章序論 従来,森林の動態に関する研究においては,毎木データに基づくサイズ分布や空間分布の解析,これに年輪情報を加えて過去の個体群動態を考察するという手法がとられてきた。さらに,大面積プロットの長期継続調査によって,種々の撹乱体制や種間の相互作用の研究が進んできた。しかし,大面積プロットの継続調査は現段階では時間的制約があり,様々な規模の撹乱を短期間に観察することは極めて難しい。森林内の小凹地堆積物やモル型腐植に堆積する花粉群は,ごく局地的な植生(10^1∿10^3 m^2)の過去数十∿数百年の動態を反映しているとされ,二次遷移やギャップ相動態の研究に貢献してきている。しかし,これら試料が得られる地域は限定されることが多い。その一方で,森林土壌は基本的にどの地域でも容易に採取できるという利点がある。森林土壌は堆積物を採取不能な地域において特に後氷期以降の植生変遷を解明するという観点からも期待されるが,これを花粉分析の対象として扱った研究例は少ない。その要因として以下に示す3つの方法論的問題点が挙げられる。すなわち,1)土壌花粉が反映する植生の復元領域が明確でないこと,2)土壌中の堆積花粉の保存状態が相対的に悪いと考えられること,3)土壌花粉の層位的扱いが困難であると考えられることである。そこで本研究では,日本の林野に広く分布する褐色森林土を対象に,まず上記の3つの問題点を解決するための基礎的研究を行い,さらにそれらを踏まえて森林土壌の花粉分析により植生動態の解析を行うことを目的とした。第2章森林域における花粉堆積様式 この章では,森林域における花粉堆積様式,および土壌花粉が反映する植生の空間スケールを調べることを目的とした。工石山温帯混交林では,優占種であるアカガシを対象として,森林域における花粉堆積様式を調査した。リターフォール(雄花序の落下・落葉)による堆積花粉数は,通年の堆積花粉総数の10%に満たなかった。開花期(4∿6月)における堆積花粉数は,通年の堆積花粉総数の90%以上を占めていた。このように森林域の堆積花粉が示す局地性は,リターフォールによるものではなく,開花期を通して植物器官に付着した花粉がその後の再飛散と集中降雨(梅雨)による洗脱を受けることに起因するものと考えられた。長野県上高地の河辺林では,閉鎖林冠下と林冠ギャップ下の表層花粉について調査した。閉鎖林冠下の花粉群は局地要素の占める割合が高く,調査地点周辺の植生と対応関係が認められる一方で,林冠ギャップ下のそれは局地外要素の割合が相対的に高くなっていた。林冠ギャップ下の堆積花粉数は,ギャップ面積が約100m^2のとき最大となり,それ以上面積が増加すると減少した。剣山地カヤハゲ山の温帯混交林では,主な樹木分類群を対象として,閉鎖林冠下の表層花粉の出現率と試料採取地点から半径10∿50mの円内に生育する高木の基底面積割合との関係を,回帰分析と最尤法(ERV-model)を用いて検討した。両者の間の相関係数および尤度関数のスコアは,基底面積を試料採取地点からの距離により重みづけた場合,調査領域の半径が増加するにともないそれぞれ上昇および減少して,その半径が20∿40mのときに漸近的となった。バックグラウンド花粉は調査半径の増加とともに減少した。このことから,土壌中の堆積花粉は林分レベルの植生の組成・構造を反映していることが示唆された。第3章森林土壌に堆積した花粉・胞子の保存状態 本章では森林土壌中の堆積花粉・胞子の保存状態を調べることを目的とした。工石山において,数種の樹木花粉とシダ胞子を土壌(A層)に埋め込み,埋め込み後2.7年までそれらの保存状態を追跡調査した。土壌中の花粉・シダ胞子は,堆積後の初期段階で化学的酸化,あるいは土壌粒子や腐植アグリゲートの形成・崩壊による物理的破壊を受け,その後土壌微生物により生化学的に分解されるものと考えられた。シダ胞子では埋め込み後2.7年でも腐蝕したものは極めて少なかった。実験に用いた樹木花粉の腐蝕に対する耐性には,花粉による違いが認められた。次に,異なった環境下に発達する数種の森林土壌を採取して,土壌花粉・胞子の絶対数およびその保存状態と環境条件との関係,さらに主な分類群の花粉・胞子の保存状態を調べた。土壌中の花粉・胞子の絶対数とその保存状態は,土性や気温より,土壌のpH値や乾湿に強く影響を受けていると考えられた。土壌中の花粉・胞子は,どの地域でも化学的分解と機械的変形・破損を受けているものが多かった。土壌中の花粉と比べると,胞子の保存は極めて良好であった。花粉の保存はその粒径,外部形態および外壁の厚さと対応関係が認められた。
著者
山田 宏
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

景気の行方を予測することは,広く国民全体の共通の関心事である。このニーズに応えるためには,より精度の高い景気先行指標の開発を目指した不断の努力が欠かせない。この研究では,よりよい景気先行指標の開発を助けるための幾つかの基礎的な研究を行った。具体的には,(i)景気循環成分を取り出すためのトレンド推定に関する研究,(ii)景気先行指数構成系列評価のための統計的手法の開発に関する研究,などを行った。
著者
関 正夫
出版者
広島大学
雑誌
大学論集 (ISSN:03020142)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.135-173, 1978-03
著者
小川 恒男
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、日本を訪れた中国人が明治の東京を描いた作品群を研究対象とし、その集成を目的とした。具体的な研究成果として「郁曼陀『東京雑事詩』訳注」が挙げられる。郁曼陀は当時の市井の人々の目線で東京を描いており、取り分け女性の姿を好んで描写していた。彼は幕末から明治にかけて流行した日本漢詩を模倣しており、ある意味において、郁曼陀「東京雑事詩」は中国人でありながら日本漢詩を作るという試みであったという結論を得た。
著者
細羽 竜也 内田 信行 生和 秀敏
出版者
広島大学
雑誌
Memoirs of the Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University. IV, Science reports : studies of fundamental and environmental sciences (ISSN:13408364)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.53-61, 1992-12-31
被引用文献数
1

The 30-items Maudsley Obsessional-Compulsive Inventory (MOCI) was developed as an instrument for assessing the existence and extend of different obsessional-compulsive complaints by Hodgson & Rachman (1977). MOCI is composed of two major types of complaint, checking and cleaning compulsions, and two minor types, slowness and doubting. Rachman & Hodgson (1980) considered the complaints of checking and cleaning as the representative coping behaviors of prevention and provocation. These types of coping behavior could be observed in daily stressful situation. This study was to explore the Japanese version of MOCI available to evaluate the degree of obsessional-compulsive tendency observed in non-clinical persons. The Japanese version of MOCI was administered to 600 normal students to re-investigate the factor structure of this scale. Principal factor analysis and varimax rotation were adopted to extract the significant factors from 30×30 correlation matrix. Three factors, checking, cleaning and doubting-ruminating were extracted independently, but the complaint of slowness was not found as a significant factor. Additively to explore in their correlations with obsessional-complsive complaints, trait anxiety and time anxiety, MOCI, STAI-T form and TAS were administered to 213 normal students. TAS is composed of three subscales, namely, time confusion, time irritation and time submissiveness. The results were as follows. (1) Checking, cleaning and doubting were positively correlated with trait anxiety, but slowness was negatively correlated. (2) All obsessional-compulsive complaints but slowness were positively correlated with time confusion. Slowness and cleaning were positively correlated with time irritation, and negatively correlated with time submissiveness. These results indicate that slowness and cleaning complaints are somewhat different from other obsessional-compulsive complaints.
著者
村山 洋介
出版者
広島大学
雑誌
廣島法學 (ISSN:03865010)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.297-341, 1998-03
著者
星 正治 遠藤 暁 川野 徳幸 山本 政儀 片山 博昭 大瀧 慈
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

平成15-16年度の成果の内、特筆されることは、平成16年3月9-11日の3日間広島大学にて国際ワークショップを開催したことである(学振の国際研究集会経費の支援による)。これは平成14年9月にセミパラチンスクで放射線量評価の国際会議を受けて広島で開催した。63演題が発表され、このうち26演題が外国人による発表であった。主題は被曝の大きかったドロン村である。2年間の研究の積み重ねの結果が発表された。その主な分野は、1.煉瓦のTLDによる国際相互比較を中心とした測定、2.歯のESR法を中心とした測定、3.放射能の雲の計算による方法、4.土壌汚染の測定とそれに基づく評価、5.染色体異常などの結果であった。結論として、煉瓦が、空中線量で0.5グレイくらい(国際相互比較で本研究グループからは茨城県立医療大学の佐藤が参加)、歯が0.1から0.5グレイ(本研究グループによる)、土壌汚染からの計算が0.5グレイくらい(金沢大との共同研究)、計算は被曝を引き起こした雲の通過した経路が、中心から外れている事を加味し0.5グレイ位とされ矛盾はない、本研究グループなどによる染色体異常の研究では明確ではなかったが、0.3グレイ位の評価もあり矛盾はない。以上の結論が出て、今まで0から2グレイまで評価法によって異なっていたことが、空中線量で0.5グレイと収束することができた。これが最も大きい結論である。これで方法論は確立したので、村ごとの個人被曝線量評価を行うことが次の課題である。現地調査は、金沢大学の山本らのグループとの土壌などのサンプリングを共同で行ったこと、武市医師のグループにより、サルジャル、カラウル、コクペクティなどの村で検診を行った。さらに血液の染色体異常、小核試験なども行った。放影研の片山らはコンピュータによるデータベースの構築を進めた。
著者
三木 直大 池上 貞子 佐藤 普美子 松浦 恆雄
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

連携研究者と協力して台湾現代詩研究会を組織し、以下のふたつを大きな柱として共同研究をすすめた。(1)台湾現代詩の研究と翻訳紹介については、研究代表者を編集委員として、台湾現代詩人シリーズ 5 冊の翻訳詩集を詳細な解説と詩人年表を付して出版した。(2)台湾から詩人・研究者を招聘し、日本の詩人にも参加を依頼しての研究会を5回開催し、そこでの成果を公表するとともに、今後の台湾現代詩研究の基礎を提供した。
著者
村松 潤一 柯 麗華
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

中国において日本型自動車流通システムは高く評価されている。本研究は、その背景と実態を中国の自動車産業政策及び自動車流通政策に焦点をあて、日系企業の戦略行動との関係から検討した。それによれば、中国の政策は、第1に日本型自動車流通システムの普及、第2に意図しない差異という重要な変化をもたらした。そして、この意図しない差異には、ふたつの自動車流通システムへの参画及び卸売り機能の外部化が含まれている。
著者
新田 玲子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

ポストモダンの作家は、現実の芸術化に過度に傾き、歴史的・社会的関心や道徳的責任が欠如しているとされてきたが、ホロコーストの影響を強く受けたポストモダンのユダヤ系作家は、同様の影響を受けたポストモダンの哲学者が見せる、ホロコーストの悲劇を繰り返さない未来を思考する姿勢と、そのために必要とされる他者意識を共有していることを明らかにした。そして、これらポストモダンユダヤ系アメリカ作家の文字芸術の特徴を精査すると共に、彼らのポストモダンヒューマニズムの特徴を定義した。
著者
菊池 裕
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

(1) マイクロアレイ解析による内胚葉細胞の移動・消化管形成に関与する遺伝子の単離sox17-gfpトランスジェニックフィッシュからGFPの蛍光を指標にして内胚葉細胞のみをセルソーターで集めるための条件設定を行っている。(2) 遺伝学的スクリーニングによる内胚葉細胞の移動・消化管形成に異常を示す突然変異体の単離内胚葉細胞の移動・消化管形成が異常になる変異体をスクリーニングし、候補変異体に関して表現型の詳細な観察を行っている。特に消化管形成が異常になる変異体に関して、詳細な表現型解析を行っている。(3) 内胚葉細胞で発現するcxcr4a遺伝子の機能解析sox17-gfpトランスジェニックフィッシュを用いて、Sdf1/Cxcr4シグナルによる原腸陥入期の内胚葉細胞運動の制御機構に関して解析を行った。最初に私達は、cxcr4aは内胚葉細胞特異的に発現しているが、リガンドであるsdf1a, sdf1bは中胚葉細胞に発現していることを示した。Sdf1/Cxcr4シグナルは細胞の移動を制御していることが知られているため、Sdf1/Cxcr4シグナルが内胚葉細胞の移動に関与する可能性に関して解析を行った。アンチセンスモルフォリノオリゴを用いてSdf1/Cxcr4シグナルの阻害実験を行った結果、Sdf1/Cxcr4シグナル阻害胚では3体節期において著しい内胚葉細胞の移動の阻害が観察された。更に、Sdf1/Cxcr4シグナルの阻害により、移動中の内胚葉細胞における糸状仮足形成の低下が観察された。以上の結果よりSdf1/Cxcr4シグナルが内胚葉細胞の移動制御に関わることが示された。
著者
蔡 永姙
出版者
広島大学
雑誌
広島大学大学院教育学研究科紀要. 第二部, 文化教育開発関連領域 (ISSN:13465554)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.193-201, 2004-03-28

"Haru" depicts the urban life in modern Tokyo. The youths of the twenties of the Meiji era look forward to the coming of a new era with hopes and anticipation. Though caught in domestic entanglements peculiar to the old downtown of Tokyo, they somehow manage to proceed to the promising quarters of learning and enlightenment, so-called "Hongo" district which belongs to "Yamanote". Among them a character who dares to leave Tokyo is featured and that suggests the author's critical attitude toward modern Tokyo.
著者
上 真一 井関 和夫 柳 哲雄 大津 浩三 井口 直樹 上 真一
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

2002年以降ほぼ毎年のようにエチゼンクラゲが大量出現し、エチゼンクラゲ大発生は東アジア縁海域全体の環境問題となっている。また、沿岸域ではミズクラゲの大量出現が相変わらず継続しており、クラゲ発生の機構解明と制御方法の開発は重要な課題となっている。本研究ではクラゲ類の大量出現に関し以下の成果を得た。(1) 黄海、東シナ海のエチゼンクラゲの目視調査下関-青島、上海-大阪間の国際フェリーを利用した調査から、本種は6月中旬から中国沿岸域で出現し始め、7月下旬に対馬近海に到達することが明白となった。本フェリー調査は、本邦沿岸域の大量出現を早期予測するために不可欠の項目となった。(2) エチゼンクラゲ生活史の解明本種のポリプからクラゲに至る飼育に成功し、生活史の解明を行った。本種の無性生殖速度は、ミズクラゲに比較すると1-2オーダーも低かったが、ポドシストは水温5-31℃、塩分5-33の範囲で生残し、さらに有機物に富んだ泥中でも生残可能であったことから、高い環境耐性を有することが確かめられた。ポドシストの一斉出芽が大量発生を引き起す要因となる可能姓が指摘された。(3) ミズクラゲポリプの貧酸素耐性と天敵生物による捕食ミズクラゲのポリプは貧酸素条件下(>3 mg O_2L^<-1>)でも無性生殖能力があった。エビスガイ、クモガニは特異的にポリプを捕食する天敵生物であることが明らかとなったが、これらは貧酸素条件下では生残は不可能であった。富栄養化などに伴う海底の貧酸素化がミズクラゲの大量発生をもたらす一因となることが明らかとなった。また、温暖化もクラゲの増加をもたらすと推定された。
著者
森田 憲一 ALHAZOV Artiom
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

細胞膜計算システム(Pシステム)は、細胞内の物質の結合・解離や細胞間の物質の移動などを抽象化した計算モデルであり、自然計算(Natural computing)の一分野である。昨年度に続きこのシステムの諸性質、特に計算万能性に関する性質を明らかにするとともに、やはり自然計算の分野に属する可逆コンピューティングや保存的コンピューティングとの接点についての研究も行い、以下の結果を得た。1.Pシステム、特に多重集合書換システムと、それに対する可逆性の導入細胞膜が1つであるようなPシステムは、多重集合書換システムとして定式化できる。このようなシステムを計算万能性を保持したままどのように単純化できるかをいくつかの視点から明らかにした。一方、そのようなシステムに対して物理的な可逆性に相当する制約や決定性制約を加えた場合に計算万能となるための十分条件を与えた。2.可逆論理素子の計算万能性昨年度に示した、14種類の2状態3記号可逆論理素子がすべて計算万能になるという成果を大幅に拡張し、k>2の場合にはあらゆる2状態k記号可逆論理素子がすべて計算万能になるという結果を導いた。3.保存的セルオートマトンの近傍半径の縮小物質やエネルギーの保存則に相当する性質を持つセルオートマトンの近傍半径を1/2にまで縮小できることを証明した。これにより、この種のセルオートマトンも計算万能性を有することが結論できる。
著者
HARTING AXEL 吉満 たか子 岩崎 克己
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は、日本における非ドイツ語母語話者の教師がいかなる目的のもとに、日本語とドイツ語を使い分けているのかを明らかにすることである。そのために、言語選択を決定づける要因を探るとともに,教授目的ごとに受講者が母語(L1)と学習言語(L2)のどちらを使用するのかを見極めるために,ドイツ人と日本人両方のドイツ語教師を対象にして,調査を行った。その結果,受講者のL1使用を誘発する要因として,複雑な教育内容,規模の大きな授業,そして受講者のやる気の低さないしはL2能力の低さが示唆された。
著者
上 真一 小路 淳
出版者
広島大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、ミズクラゲやエチゼンクラゲなどの有害クラゲを捕食する天敵クラゲを探索し、その捕食能力を利用した有害クラゲ種の発生制御の開発を目的としている。今年度は下記の研究成果を得た。(1)天敵クラゲ種の探索と捕食能力の測定水温25℃において、有櫛動物のウリクラゲ(湿重量:約20g)は体重約10gのカブトクラゲを1日に最大2個体捕食した。水温20℃において、刺胞動物のユウレイクラゲ(湿重量:約300g)は体重130gのミズクラゲを8時間で完全に捕食した。アカクラゲ(湿重量:約150g)は体重5gのエチゼンクラゲを2-3時間で完全に捕食した。オキクラゲは自らより大型のミズクラゲを捕食可能であった。また、アマクサクラゲもミズクラゲやエチゼンクラゲを捕食可能であった。以上のように、旗ロクラゲ目の中で比較的強い刺胞毒を有する種類は、他のクラゲ種を捕食し、天敵として機能することが明らかとなった。(2)安定同位体比に基づくクラゲ類の餌-捕食者関係瀬戸内海に出現するカブトクラゲ、ミズクラゲ、アカクラゲの安定同位体比から、それらの食性を推定した。安定同位体比はいずれもカイアシ類などの動物プランクトン食性を示し、本方法では天敵クラゲとなるクラゲ種を特定することはできなかった。(3)汽水湖におけるミズクラゲの餌生物と共食い可能性の調査富栄養汽水湖である中海本庄工区には膨大なミズクラゲ個体群が出現する。それらの消化管内容物を調査することにより、餌生物の特定と共食いの有無の調査を行った。ミズクラゲは湖内に出現するカイアシ類などの動物プランクトンをほぼ無選択に捕食しており、ミズクラゲを餌として捕食することはなかった。サイズの異なるミズクラゲ同士を水槽内に収容しても、共食いを行うことはなかった。
著者
澁谷 渚
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

全7章から成る本研究はザンビアの生徒の基礎的能力と高次的能力の向上をめざした数学の授業開発をおこない、その過程を教師、生徒、教材の三者の相互作用に着目して描くことが目的であった。これは数学学習達成度が低いと言われていながら、学習の過程や認知的側面が明らかになっていない途上国の現状を課題意識としてとらえるところから端を発したものである。本研究において基礎的能力は正の整数の四則計算能力を指し、高次的能力はパターン性の発見、探究、口頭や記述で数学的な見方を話し合うこと、そして授業開発は授業改善サイクル「計画-実施-評価(反省、改善を含む)」とすることを先行研究のレビューやザンビアや他の途上国の現状に鑑み設定した。今年度はザンビアにおける調査データから授業における三者の相互作用を浮かび上がらせるために授業の内実を掘り下げる分析を行った。分析では定量的授業分析と、数学の学習指導において教師と生徒の発話が活性化した場面を抜き出す定性的授業分析から、生徒の学びとそれを取り巻く指導、教材との関連性を論じた(第5章、第6章)。そこでは、先進的な教材の特性を教師が生徒の学習に合わせる形で用い高次な数学的能力の萌芽がみられる成功的な互作用と、対照的に基本とされる1桁の計算に生徒がつまづき、教師が従来型のアルゴリズムを強調する授業を展開したことで、教師中心型の授業に陥る様相の二つを生徒の学習過程とともに掘り下げた。本研究の成果は二点に集約される。・途上国の数学授業の内実を描き、授業における二つの対照的な教師、生徒、教材の経時的な相互作用をモデルとして示したこと・基礎的能力と高次的能力の同時的達成を途上国の授業で具体化したこと本研究の重要性は、国際協力の研究が見落としてきた教科の特性に注目した授業の内実を描き出し、生徒の学習の可能性と課題を事例ベースで描き、教育の質に関して貢献した点にあろう。
著者
水野 恒史 片桐 秀明 深沢 秦司 釜江 常好
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

銀河宇宙線のエネルギー分布と空間分布を明らかにするべく,最新のフェルミ衛星を用いたガンマ線データの解析を2009年度から3年間に渡り精力的に進めた.その結果[ 1]太陽系近傍の宇宙線スペクトルが,地球上で測られた物に近いことを観測的に明らかにした一方で[ 2]太陽系付近の数100pc以内で宇宙線強度が20%程度ばらつくことと[ 3]銀河系の外側の領域で,宇宙線強度が従来の予想に反してあまり弱くならないことを見出した.これらの成果のうち,[ 1][ 3]は執筆責任者として論文を出版し,[ 2]も投稿済みである.関連する研究も加えると計17編の論文をフェルミチームメンバとして出版した.また多数の国内外の学会で継続的に成果発表を行った.