著者
奥村 大介
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

平成24年度は、昨年度に続いて放射線の概念史・文化史的研究を行なった。とくにロシア生まれの生物学者グールヴィチ(1874-1954)とオーストリア生まれの精神分析家・社会思想家ライヒ(1897-1957)の生体放射概念についての論考「生体放射の歴史」を『生物学史研究』に寄稿した。ライヒのいわゆるオルゴンエネルギー説については平成23年度以来の調査を継続し、新たな成果は「宗教と精神療法研究会」(吉永進一・舞鶴高専准教授主催)で報告した。この研究会では神秘思想、宗教思想の研究者との交流により、<科学と神秘>という本研究課題のなかでも重要な位置を占める問題系についての議論が深まった。また、平成24年度は西欧の遠隔作用概念についての概念史的背景をなす「不可秤量流体」についての調査・分析をおこなった。その西欧的文脈についての調査から派生した近代日本における不可秤量流体概念の歴史を、さきのグールヴィチ/ライヒの生体放射概念と比較しつつ、明治期の医師・明石博高(1839-1910)と昭和初期の霊術家・松本道別(1872-1942)を主要な対象として研究した。その成果は「人体、電気、放射能―明石博高と松本道別にみる不可秤量流体の概念」として『近代日本研究』に投稿され、査読を経て掲載された。この論考は単に明石と松本の思想を紹介・分析するにとどまらず、不可秤量流体概念を通じた19世紀~20世紀初頭の目・欧・米の比較科学文化史、さらに<近代日本科学>、すなわち<近代における><日本で><科学をいとなむ>とはそもそもいかなる歴史的現象なのかを問う議論を含む長大な論考となった。研究最終年度としていくつかのテーマが調査・分析のなかばで残ったが、他方で、当初、西欧近代をその射程としていた当研究は、日本近代の史料をもコーパスとすることで、より重層的・多面的なものへと拡大した。
著者
大谷木 正貴
出版者
慶應義塾大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2020-09-11

アルツハイマー病(AD)はアミロイドβやリン酸化Tauの脳内凝集が特徴的な病理変化であり、病変部には活性化したグリア細胞に加え、種々のT細胞の浸潤がみられる。従来の脳内炎症研究は、活性化グリア細胞が中心であり、免疫応答の抑制的制御を司る制御性T細胞(Treg)の関与については未だ明らかになっていない。近年、Tregは組織の恒常性・再生にも積極的な役割を担っていることが報告されており、本研究では、ADモデルの脳Tregを包括的に解析することでAD病態におけるTregの意義を明らかにし、脳Tregと神経細胞やグリア細胞との関連、脳Tregの自己抗原の同定など新たな知見や治療戦略への導出を目指す。
著者
山岸 健
出版者
慶應義塾大学
雑誌
哲學 (ISSN:05632099)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.213-237, 1996-03

100集記念号Trivial round of daily life is not trivial but full of dramas, episodes, and spectacles. Lived body is a dramatic stage of various world experiences. Also this body is always a zero point of perspectives, SENS, behavior, and social action. Everyday world is our intersubjective social cultural world. Reality construction is our life-long daily experiences. We are living in daily world building and identity building. Landscape experiences are one of our basic world experiences in personal life history and identity building. Always human being is in a process of becoming. Human being is living in a world of imagination as well as in a practical everyday world. One genre of culture, painting is a original colourful perspective of our everyday world and human world. Human world consists of natural cultural social experiences, personal memory, and individual imagination. Constructing humanistic sociology, it is necessary to understand multiple realities and human world experiences which are sources of meanings and SENS.
著者
小林 節
出版者
慶應義塾大学
巻号頁・発行日
1989

博士論文
著者
伊藤 公平
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

半導体用シリコン(Si)は人類が作製した単結晶として最も純度が高く、最も結晶性の優れた材料と言っても過言ではない。それゆえに、現在の超高集積回路が実現された。しかし、地球上に存在するすべてのSi中には^<28>Si、^<29>Si、^<30>Siの3種類の安定同位体が存在し、それぞれの組成比は92.2%(^<28>Si)、4.7%(^<29>Si)、3.1%(^<30>Si)と常に一定である。異なる同位体が同一結晶内に存在するということは、結晶を構成する原子の質量にばらつきがあることを意味し、また、核スピン(^<29>Si同位体のみが核スピンを有する)の分布にもばらつきがあることを意味する。従来、シリコン中の同位体組成を変化させて「質量分布」や「核スピン分布」を制御した例はほとんどなかった。本研究では^<28>Si安定同位体純度を99.92%まで高めた半導体シリコン(Si)バルク単結晶の成長に世界に先駆け成功した。^<28>Siバルク単結晶の熱伝導度は、通常のSiの熱伝導度と比較して室温で60%、100℃で40%向上することが確認され、将来のLSI基板材料として大きな期待が寄せられている。また、^<28>Siバルク単結晶は、量子コンピュータを実現する材料、アボガドロ定数を精確に決定する世界アボガドロ定数標準、ビッグバン理論の検証に関する宇宙物理学研究用センサー、無重力空間における溶融実験に大きな進歩を及ぼす材料として期待されている。本研究で成長された結晶は上記各方面の研究・開発に利用されることになる。
著者
大野 裕 白波瀬 丈一郎 神庭 重信 安藤 寿康 吉村 公雄
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

15〜27歳までの双生児262組を対象に「パーソナリティ形成における遺伝的影響と養育環境との相互作用に関する心理、社会的、遺伝的研究」の研究を行った。気質の4次元(新奇性追求、損害回避、報酬依存、固執)は、いずれも遺伝由来であり、とくに新奇性追求、損害回避、報酬依存は遺伝的に独立であることが明らかになった。また、新奇性追求と損害回避に見られる表現型相関は環境によって引き起こされたものであり、一方固執は新奇性追求と損害回避の遺伝成分から派生したものとする仮説が指示された。人格の3次元(自己志向、協調、自己超越)のうち、自己超越は共有環境と非共有環境に由来していて遺伝成分はないが、自己志向と協調には遺伝要因が無視できないとする仮説が指示された。さらに、自己志向と協調の遺伝要因は、部分的には気質次元の新奇性追求および報酬依存の遺伝成分と重複することが明らかになった。一方、big fiveと呼ばれる神経質、外向性、開拓性、愛想の良さ、誠実さの5つの性格特性に関しては、遺伝率は40-50%と欧米での報告と同じように高かったが、個々の性格特性は遺伝的に共通であることが明らかになった。このことは、(1)表現型の均一性が必ずしも遺伝の均一性を意味していない、(2)共有環境が性格の個人差形成にほとんど全く寄与しない、(3)家族どおしの類似性はほとんどすべて遺伝要因によって形成される、ということを意味しており、発達心理学的に見て大変重要な知見が得られた。母親の養育態度を温かく庇護的であると子どもが見るかどうかは、共有環境ではなく遺伝要因の高い寄与が認められた一方、母親の過保護傾向については共有環境要因が関与しているという欧米と同様の知見が得られた。また、遺伝子解析からはドーパミン受容体(DRD4)およびセロトニントランスポーター(5HTT)が気質と関連していることが明らかになったが、双生児という特性を考慮してさらに解析する必要性が示唆された。
著者
砂原 秀樹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

インターネット上の情報はソースデータそのままのものから途中経路で様々な加工が施された情報まで混在している。そのため情報の利用者が情報の有効性を判断しやすいようにソースから利用者までの間でどのような加工がされたかトレース出来るようにする必要がある。しかし検討の過程で情報によってはトレーサビリティを確保することでプライバシーの問題が発生する場合があることがわかり、情報のトレーサビリティ技術と匿名性技術を並行して検討した。具体的には情報に付与する固定IDと経路の途中で変化する名前の対応付けに関する検討とどの程度匿名性が確保されて流通するかわかるよう個人情報に関する匿名化の指標の検討を行った。
著者
佐藤 茂教
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.89-96, 1972-09

明治前半期の安南史研究の先覚ともいうべき、引田利章と曽根俊虎に関して、二・三の史料をもとに紹介したい。引田利章に関するものは総理府保管の陸軍奉職履歴と、引田家の家系譜により彼の経歴を、曽根俊虎に関しては、厚生省保管の海軍奉職履歴と、穴沢精一氏所蔵の曽根俊虎の書簡の紹介である。
著者
清水 潤三
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.539-540, 1982-03

論文
著者
宮本 憲一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、ダウン症患者の中でも比較的高頻度に見られる心奇形に焦点を当て、その原因遺伝子および発症メカニズム解明を目指し、ダウン症心奇形(DS-CHD)原因候補遺伝子の一つであるZfp295欠損マウスの作製を試みた。しかしながら、ノックアウトマウスの作製が予想以上に困難であった為、別法としてヒト人工染色体(HAC)を用いたトランスジェニックマウスの使用を検討した。
著者
園 乾治
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.159-195, 1932-07

一 序論 : 初期の海上保險二 ロイド・コーヒー店時代三 ロイド組合の成立 : アンガースタイン時代四 其後のロイド組合
著者
赤川 元章
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.37-63, 1997-10-25

19世紀末から20世紀初頭にかけてドイツ資本市場のグローバル化は著しく進展し,とりわけ急速な産業発展によって大量の資金を必要としていたアメリカ合衆国との関係を深めていった。だが,この関係は,合衆国の鉄道証券に特化されており,この証券の取引に基づいて両国の銀行間の関係も形成された。本稿は,合衆国において最も積極的に証券業務を展開したDeutsche Bankの実例を通してドイツ大銀行の合衆国における活動および国内の証券取引所における合衆国鉄道証券の上場問題を実証的に分析しようとするものである。
著者
石原 賢一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.77-102, 2005-09

論文はじめにI レスールザーデの生涯 (1) 社会主義の影響下で (2) 民主主義運動のリーダーとして (3) 祖国解放を求めてII レスールザーデの著作 1 『イランのトルコ人たち』(iran Turklei) (1) イランのトルコ人たち 一 (2) イランのトルコ人たち 二 (3) イランのトルコ人たち 三 (4) イランのトルコ人たち 四 (5) イランのトルコ人たち 五 (6) イランのトルコ人たち 六 2 『カフカースのトルコ人たち』(Kafkasya Turkleri) (1) 第二章について (2) 第三章について (3) 本書の特徴 3 『あるトルコ人民族主義者のスターリンとの革命回想録』(Bir Turk Miliyetcisinin Stalin'le ihtilal Hatiralari) (1) バクーでの活動 (2) モスクワでの生活むすびにかえて
著者
吉野 剛弘
出版者
慶應義塾大学
雑誌
慶應義塾大学大学院社会学研究科紀要 (ISSN:0912456X)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.31-42, 2000-12-20

論文はじめに1. 旧制高等学校入試と受験生(1) 受験生と学校選択(2) 上京遊学と学習方法2. 旧制高等学校入試と予備校の動向(1) 予備校の動向(2) 私立大学・中学校と予備校おわりに
著者
大嶽 卓弘
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.159-183, 1983-07

論文I 保守主義の中での人民保守派・序に替えてII ワイマール共和国における右翼・ブルジョワ勢力と保守主義 1 敗戦の中での新しい理念の模索 i 国家人民党創設 ii 国家人民党に結集した保守派の理念 iii 国家人民党内左翼の党外における結びつき 2 国家人民党の展開「国民的反対」と「積極的協力」
著者
堤林 剣
出版者
慶應義塾大学
雑誌
法學研究 (ISSN:03890538)
巻号頁・発行日
vol.72, no.11, pp.41-102, 1999-11-28

論説第一章 問題の所在第二章 スキナーの方法論の今日的有意性をめぐる問題第三章 スキナーの初期の方法論 第一節 ケンブリッジ・パラタイムのポジティヴな影響 第二節 スキナーの方法論と「神話」批判第四章 誤解にもとづいたスキナー批判 第一節 相対主義者スキナーという誤解 第二節 テクストの歴史的意義や意図せざる結果を無視し、排他的な方法一元論を主張しているという誤解 第三節 意図の位置づけにまつわる誤解 第四節 著者のオリジナリティを解消し、また誤読の積極的意義を無視しているという誤解 第五節 方法論的主張と思想史叙述が矛盾しているという誤解第五章 適切な批判 第一節 政治的行為としての政治思想史研究の役割を無視しているという批判 第二節 思想史研究の射程を狭く設定しすぎているという批判第六章 軌道修正と新たな展開 第一節 著者の意図の同定、「コンテクストを閉じる」方法をめぐって 第二節 ダンの初期の方法論との距離
著者
杉田 貴洋
出版者
慶應義塾大学
雑誌
法律学研究
巻号頁・発行日
vol.26, pp.51-66, 1995-03