著者
三井 逸友
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.19-39, 1996-02-25

日本の中小企業研究は比較的独自の問題意識と方法の発展を遂げたとはいえ,欧米経済社会を物差しとし,これとの距離で「近代化」を論じる傾向が強かった。しかし,日本の経済発展と「国際化」の進展のもとで,「ポストフォーディズム」などの議論にもとづく,欧米側からの日本中小企業とそのシステムヘの「再評価」が高まり,一種の「逆輸入」が生じた。これも,90年代以降の日本経済の不振下に,「再逆転」に向かっているが,このように諸外国の論調に影響されているばかりでなく,グローバルで普遍的な中小企業研究の視座と方法を確立すべき時である。欧米での中小企業への関心と論点を「脱構築]し,中小企業のつくる「システム」を一般化して理解しながら,その存在と「構造」を現実の社会的・政治的過程のうちでとらえ,グローバルスケールのもとで,人間性と「社会」「地域」の視点を回復していくことが,今日の中小企業研究に求められる。
著者
岡本 大輔
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.30-51, 1992-02-25
被引用文献数
1

エキスパート・システムにおける知識ベースの推論機構からの独立,知識ベースの宣言的表現法,ヒ-リスティックスの利用,優れたユーザーインターフェースという特徴は,その手法の企業評価論への適用可能性を高めている。本研究で実際に作成された企業評価システムは従来の財務諸表分析の知識をルール化することに成功し,かなり高度な専門的解決能力を示した。
著者
笠井 昭次
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.17-53, 1998-02-25

本論文は,現行会計の説明のための概念用具として今日もっとも優れていると思われる貨幣性資産・費用性資産分類論を取り上げ,その総合的な検討を企図している。本誌の第40巻第3号および第5号では,その意味論(計算対象論)の側面を検討したが,そこでは,計算対象を合理的に説明できなければならないという,勘定分類が充たすべき意味論上の要件をクリアーしていない,という結論が得られたのであった。本論文の企図は,総合的検討にあるので,本号では,その語用論(計算目的論)および狭義構文論(計算機構論)の側面を取り上げる。今日,勘定分類と言えば,一般に,測定規約を定めるために,会計の計算対象とのかかわりだけで論じられがちである。そして,貸借対照表・損益計算書における計算目的の遂行あるいは計算機構における諸勘定間の関係に関しては,別個の勘定分類が採用されるのが常である。筆者の言う勘定分類混在「観」が支配的なのである。しかし,会計理論を論理的に首尾一貫したひとつの全体とみるかぎり,ひとつの勘定分類によって,その領域の全体がカヴァーされなければならない。これが,筆者の依拠する統合的勘定分類観であるが,その場合には,貨幣性資産・費用性資産分類論は,その当初の企図が計算対象の把握にあったとしても,計算目的および計算機構を合理的に説明しているかどうか,ということも問われなければならないのである。まず語用論上の検討であるが,[G-W-G']に基づく貨幣性資産・費用性資産分類論は,貸借対照表の計算目的として損益計算を課しているので,第1にこの損益計算の成否を取り上げなければならない。しかし,[G-W-G']は,言うまでもなく借方項目だけであるから,どうしても貸方概念が必要になり,そうした損益計算という計算目的の視点から貸方概念が導入されることになる。したがって,第2にそうした導入の在り方の是非が問題になる。結論的には,この2点において,貨幣性資産・費用性資産分類論は,勘定分類が充たすべき,計算目的を合理的に説明すべきであるという語用論上の要件を充たしていない。次に狭義構文論上の検討であるが,ここでは,計算機構のうちもっとも重要である貸借対照表と損益計算書との関係を取り上げた。この関係については,両者の構成要素の関係,および両者の差額の関係の2点が問題になるが,貨幣性資産・費用性資産分類によれば,前者は交叉型関係,後者はカンヌキ関係になる。しかし,今日,実践的には,前者は,(例えば貸借対照表借方項目と損益計算書借方項目との同質性を意味する)直列型関係あるいは原価配分関係,そして後者は,損益計算書の利益額を貸借対照表の貸方側に移記する振替関係にある。したがって,貨幣性資産・費用性資産分類論は,勘定分類が充たすべき,計算機構を合理的に説明すべきという狭義構文論上の要件も充たしていない。かくして,貨幣性資産・費用性資産分類論は,総合的にみて,現行会計の説明に関する概念用具として妥当ではない,というのが本論文の結論である。
著者
武藤 功
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田學會雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.169-204, 1993-07
著者
後藤 文子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の課題である「気象芸術学 Meteorologische Kunstwissenschaft」は、芸術の制作論的諸相において変化する時間=生命性を本質とした近代芸術・建築を、生成し変化する流体として捉える新たな美術史学・芸術学研究の方法論として構想された。植栽造園家を、本来不動な建築と植物=有機体とを結合させる存在、つまり無機的存在を有機的生命体へと媒介する重要かつ特異な「媒介者」と位置づけることで、近代植物学・園芸学と美術史学・芸術学研究の接合・統合を目指した。従来の美術史・建築史的様式論・意味論・機能論が看過してきたモダニズム建築に特有の問題点を明るみに出し、実証的に解明した。
著者
中村 伊知哉
出版者
慶應義塾大学
巻号頁・発行日
2008

博士論文
著者
渡辺 光博 森本 耕吉
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、メタボリックシンドローム治療標的としてAcetyl-CoA Carboxylase 2(ACC2)に着目した。ACC2はエネルギー代謝改善につながる治療標的たりうるが、我々は胆汁酸投与によるマウス肝ACC2遺伝子発現低下を見出しており、これを踏まえACC2転写制御機構解明を目指した。マウスACC2遺伝子には2つの転写開始点があり、本研究で各調節領域を検討、また各mRNAの諸条件下での発現変化を検討した。その結果、2種類のmRNAは異なる発現様式を示し、特に3’側のmRNA発現に関与する機序が肝内エネルギー代謝改善の治療標的となる可能性が示された。
著者
呉 美淑
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.91-101, 1997-04-25

サービス分野としてのホテル業界は,労働力の流動化,雇用形態の多様化,経営活動のチェーン化などによる雇用管理上の問題を抱えていると指摘されている。本稿の目的は,このような日本のホテル業界において,労働市場の内部化の特徴とその形成要因としての教育訓練や業務経験との関係を,経営形態別に探ってみることである。そのため,4社の大規模都市ホテルを対象として事例研究を行い,労働市場の内部化の程度,教育訓練の活動と労働市場の内部化との関係はローカルホテルとチェーンホテルの間にどのような差があるかを探ってみた。それと共に,このような結果がホテル業界に示す幾つかの示唆点を検討した。
著者
田辺 三千広
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.197-212, 1985-03

論文はしがき第一章 教会の祈祷について。父なる神に栄光あれ第二章 食物と飲物についての神の書からの話第三章 共同食卓(трапеза)で話をすべきでないことについて第四章 衣服と履物についての聖なる書物からの話第五章 聖なるイコンと書物について,それをいかに所有すべきかという神の書からの話
著者
大庭 真人 佐治 伸郎
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

養育者が子どもに対し「その時・その場」で目の前にある参照対象を物語る際、その対象が安定してそこにある/いるとは限らない。養育者が当初想定し語り始めた通りに参照対象が存在する場合、養育者は自らの語りかけを子どもの発話に合わせ、響鳴(resonance, 崎田2010)という先行する子どもの発話を自分の発話に取り込む文型を多用することにより参照対象への言及が観察された。一方、参照対象が存在しない場合には、参照対象を強く想起させるきっかけとなる対象に基づき発話を展開するという方略が取られていた。
著者
漆原 徹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.107-129, 1997-09
被引用文献数
2
著者
湯川 武
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.89-95, 1971-10

特集東西交渉史
著者
岡田 光弘 金子 洋之 峯島 宏次
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

計算論的・構成主義的算術の算術証明論を展開したHusserlの構成可能的多様体論、Wittgensteinの帰納的証明論などの構成的証明論を明らかにした。直観主義論理可能世界意味論を通じて、強制法の古典論理モデルの新しい確率論的・計算論的解釈を与え、情報セキュリティ分野への具体的応用を示した。証明論的正規化定理から線形論理、直観主義論理の意味論と証明論が構成されることを示した。これまで意味論的分析が主流となっていた図的論理分野において、証明論分析手法を発展させた。日常論理推論プロセスの構成的側面の理解のために、認知心理学的手法、行動遺伝学的手法、社会心理学的手法を導入して多くの新しい知を得た。
著者
白石 孝
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.12-28, 1972-08-30

発展途上国の中でも,ブラジルは最近とみに注目をひき,その発展の過程に関して,さまざまな角度からの検討がなされてきた。事実,これまでの研究文献も多種多様にのぼり,いわゆる中南米やブラジル専門家とみられる人も決して少なくはない。それにもかかわらず,ブラジルは常に興味深い研究題材をあたえてくれるし,殊に,経済発展のプロセスやそこに生ずる経済制度やメカニズムとのコンフリクションを見極めようと思うものには,たしかに恰好なケース・スタディーの対象を提供してくれるといってよかろう。本稿はKeio Business Forumに筆者が発表した1970年のブラジル視察の覚書に統くものであって,主として,ブラジルの経済発展のパターンとその特徴を明らかにすることからはじめ,工業化,と貿易・為替政策,工業化のブラジルにおける条件と輸入代替の特質更に経済発展のコンフリクションを検討して,輸出多様化への発展プロセスを提示したいと思う。
著者
岩下 綾
出版者
慶應義塾大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

本研究は、フランソワ・ラブレー作品における描写技巧と描かれたものの形象の分析を通して、描写の同時代的な役割を探るものである。『ガルガンチュア・パンタグリュエル物語』全五作の描写表現を抽出し、各作品が書かれた時代背景を検討しながら、描写技巧と著者の意識の変遷を明らかにした。他方で、ラブレーの描写と当時の造形芸術作品(主に建築)との照応を行い、また日本におけるそれらの先行研究の調査を行った。
著者
村戸 ドール 樋口 明弘 北村 正敬
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

喫煙は多くの疾患や健康被害の原因や増悪因子として考えられており、特に肺における閉塞性肺疾患や肺癌などの影響がよく知られている。眼表面は肺と同じくタバコの煙を含め外界からの影響を受けている。シトクロムP450(CYP)酵素系は眼表面に存在し、外因子に伴う障害を防ぐ作用も知られているがCYP1A1およびCYP2A6系は肺癌発症に関係することも報告されている。我々は6週齢雄SDラットをチャンバー内に入れ、シリンジを用いてチャンバー内に主流煙を添加することにより曝露した。暴露後、フルオレセイン染色液を用いて蛍光染色法により角膜障害を、綿糸法により涙液量を測定した。次に角膜および涙腺を摘出し、シトクロムP450(P450) 1A1, P4501B1および2B2のmRNA発現変動をリアルタイムPCR法により測定した。タバコ煙暴露ラットは角膜上皮障害が生じ、涙液量の著名な低下が認められた。角膜の免疫染色において角膜上皮障害を示すCYP1A1および8-hydroxy-2'-deoxyguanosineの酸化ストレスにより発現が上昇することが認められた。これらの結果は喫煙が角膜だけでなく涙腺にも影響したことを示唆する。
著者
吉野 直行 深尾 光洋 池尾 和人 中島 隆信 津谷 典子 木村 福成 古田 和子 竹森 俊平 和気 洋子 嘉治 佐保子 友部 謙一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別推進研究(COE)
巻号頁・発行日
1999

1997年に発生したアジア通貨危機は、資本自由化・為替制度・コーポレートガバナンスなど、さまざまな問題に起因している。本研究では、最終年度において、通貨危機に対する各国の対応(資本流出規制)の効果について、理論的・実証的な分析を行い、輸出入依存度の高い経済においては、資本規制も短期的には有効であることが導出された。為替制度のあり方についても、日本の経験、通貨危機の影響を踏まえ、中国の(実質的な)固定相場制をどのように変更することが望ましいか、アジアの共通通貨のベネフィットに関する議論もまとめることが出来た。また、バブルを発生させた各国の銀行行動の分析では、(i)金融機関の数(オーバーバンキング)、(ii)担保価値への影響を与える地価の変動、(iii)経営能力とガバナンス、(iv)地域経済の疲弊などの要因を、クラスター分析で導出した。アジア各国への日系企業の進出では、工業団地の役割について、現地調査を含めた分析をまとめた。日系企業の進出の立地として、労働の質、市場としての魅力を背景とした立地が多いことも、調査により明らかとなった。日本からの企業進出は多いが、海外から日本国内への直接投資は非常に少ない。地価・賃料の高さ、労働賃金の高さ、通信コストの高さなど、アジアにおける日本の劣位も明らかにされた。歴史パートでは、人口成長率の違いが経済発展に与える効果を、タイ・日本について比較分析を行った。COE研究における5年間の研究成果は、海外との研究協力や、海外のジャーナルへの論文発表、国内・海外の学会での発表、国内外での書籍の出版などを通じて、発信することができた。こうした研究成果を基礎に、アジアとの結びつきが重視されている現状も踏まえ、さらに研究を発展させる所存である。
著者
萩原 滋 相良 順子 有馬 明恵 国広 陽子 上瀬 由美子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

外国人や外国文化の表象を主題として、テレビのステレオタイピング過程を検討するために、異なるジャンルのテレビ番組を対象とした内容分析とそれに関連した質問紙調査を組み合わせた3種類の実証研究を実施した。第1に、1998年10月から2002年3月までゴールデンアワーに放送された『ここがヘンだよ日本人』というバラエティ番組における外国人出演者の言動と討議トピックスの詳細な分析を行った。そして、この番組において最も頻繁に登場し、顕現性の高い4つの外国文化のうち、日本人に馴染みの深いアメリカ、中国、韓国に比べると、馴染みの薄いアフリカに関して視聴者の社会認識が最も強く影響を受けることが明らかにされた。第2に、2002年5月23日から7月5日にかけて日韓共催のFIFAワールドカップに関するテレビ報道を対象とした内容分析を行い、この期間の報道量という点では、共催国の韓国に関して最も多くの報道がなされていたことが確かめられた。また大会前後に実施された質問紙調査を通じて、各国の人々の中では韓国人のイメージが最も大きな変化を示し、大会期間を通じて「自己主張が強い」「気性が激しい」など韓国人の感情的イメージが強化されたことが明らかにされた。第3に、2003年6月の第1週に東京の民放5局で放送されたテレビCMを分析した結果、やはり西洋イメージが広範に使用されていることが確認されると共に、最近では英語のテキストをキャッチフレーズとして使用する顕著な傾向が出現していることが示された。