- 著者
-
本橋 洋一
- 出版者
- 日本大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2000
Riemann予想に関連してHilbertとPolyaはζ(s)となんらかの自己随伴作用素との関係に想到したことは周知のことである。近年、量子力学にmodelを求め、作用素論の立場からこの主題を論ずることが盛んである。しかし、そのような立場からは具体的な作用素とζ(s)との関係は今だ特定されてはいない。しかるに、本研究者は素数分布論からの要請である極めて古典的な主題「ζ(s)の量的解析」を探究する途上、上半平面に作用する双曲的Laplacianとζ(s)との極く明示的な関係を得た。函数ζ(s)と自己随伴作用素との具体的関係として始めての結果であった。また、それはHecke作用素とζ(s)との意外な関係をも明らかにした。上半平面や上半空間を代表とする双曲的空間にてLaplace作用素の数論的意味を論ずることは、なんらかのCasimir作用素に制限(表現論におけるK-trivial)を設定して議論することに相当する。勿論、この制限には意味がある。つまりそれによってζ(s)との関連は古典的とも言うべき程に鮮明になるのである。しかしながら、前回に採択された我々の基盤研究において,算術的離散群とζ(s)との関連を三次元双曲空間への拡張を通じて考察するなかで、制限K-trivialを再考すべき場面に遭遇した。つまり、これらの群について或る興味深い積分変換につきその逆変換を求める必要が起きたが、その解決は困難を極めunitary表現論を全面的に援用してようやくに成された,という経緯があった。また、それによってより精妙なζ(s)のスペクトル解析も得られることが判明した。この事実は、ζ(s)と一群のLie群との関連を示唆するものと我々は観た。ただし,この時点までの研究はKloosterman和のスペクトル理論を経由する煩雑な面があり,「ζ(s)と空間の直接の関係」に立脚したものとは言い難いものであった。[成果]本研究の目的は,第一義的にこのKloostermann和理論をゼータ函数論から排除し,Lie群の幾何構造のなかでζ(s)を把握することであった。主としてR.W.Bruggemanとの共同研究においてこの目的は達成された,と言える。つまり,「ζ(s)の4乗平均」を函数空間L^2(PSL_2(Z)\PSL_2(R))のなかに或るPoincare級数の特殊値として埋め込み,スペクトル解析を行うことに成功した。この研究により,ζ(s)とJacquet-Langlands局所函数等式との関係も明瞭となった。この事実はより高次元への拡張を視野に入れることを可能にするものであり,ゼータ函数論における基盤的な成果と言える。