著者
熊谷 日登美
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

レンチオニンによる血小板内情報伝達阻害の検討シイタケ中の環状硫黄化合物の中で最も含有量が多く、シイタケ独特のフレーバー成分であるレンチオニンを用いて、血小板凝集抑制作用の有無を検討した。レンチオニンはアラキドン酸凝集、およびU-46619凝集に対して濃度依存的に血小板凝集を抑制した。また、シイタケ精油中のレンチオニン濃度を算出したものと、レンチオニンの血小板凝集抑制作用を比較したところ、その効果はほぼ同じであった。このことから、シイタケ精油の持つ血小板凝集抑制効果は、ほぼレンチオニンによるものであることが明らかとなった。次に、レンチオニンの血小板凝集抑制作用機序の解明を行うため、種々の血小板凝集惹起物質(A23187,PMA,PAF,ADP)を用いて検討を行った。レンチオニンは全ての血小板凝集惹起物質に対して、濃度依存的に血小板凝集を抑制した。このことよりレンチオニンの作用は、血小板内の情報伝達物質による血小板凝集カスケードには関与せず、血小板の接着や形態変化、活性化に関係する血小板膜や各種受容体、もしくはそれらに伴うタンパク質のリン酸化反応を阻害していることが示唆された。レンチオニンのex vivoにおける血小板凝集抑制作用の検討レンチオニンを経口摂取した場合でも血小板羅集抑制作用を示すか否かを明らかとするため、ラットにレンチオニンを経口胃内投与し、一定時間後に採血した血液の血小板凝集抑制作用を測定した。その結果、レンチオニンは経口胃内投与後、8〜20時間後において、コントロールに対し有意に血小板凝集を抑制した。さらに、レンチオニンを食事として摂取する場合、どの程度摂取すれば血小板凝集抑制作用を示すのかを明らかとするため、レンチオニンの投与量を変化させ、レンチオニンが血小板凝集抑制作用を示す最低投与量を検討した。その結果、レンチオニンは1mg/kg以上の投与量でコントロールに対し有意に血小板凝集を抑制した。
著者
小野 雅章 冨士原 雅弘 宇内 一文
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は、天皇制教化のもと、国民統合・動員に大きな影響を与えた三(四)大節学校儀式に注目し、①その儀式のなかに、どのような経緯で国旗掲揚(掲示)や国歌斉唱が導入されたのかを実証的に明らかにするとともに、②およそ20世紀初頭に定型化した、三(四)大節学校儀式の内容をもとにしながら入学式・卒業式、始業式・終業式の儀式内容が確定し、そのなかで、国旗と国歌とが、それぞれ別の意図を持ちながら導入された事実を明らかにした。さらに、戦前に完成した学校儀式が戦後教育改革を経て、現在の特別活動の内容である儀式的行事にもその慣行が残っている事実を明らかにした。
著者
松嶋 隆弘 工藤 聡一 大久保 拓也 鬼頭 俊泰
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、デット・エクイティ・スワップ(債務の株式化)及びデット・デット・スワップ(負債の劣後化)を中心とする不良債権処理スキーム、ないしは企業のリストラクチャリングのための法的手段につき、会社法、そして広く民事法的観点から考察を加え、その可能性と限界を明らかにしようとするものである。
著者
甲斐 素直
出版者
日本大学
雑誌
法学紀要 (ISSN:02870665)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.9-36, 2013-03-01
著者
山田 房男 槙原 寛 岩田 隆太郎
出版者
日本大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

針葉樹一次性穿孔性甲虫類の中で個体密度変動が顕著と考えられるモミ属・トウヒ属害虫のオオトラカミキリXylotrechus villioni Villardについて,その[1]分布,[2]枝の食害,[3]幼虫の形態,[4]天敵,[5]誘引捕獲法の開発を中心に調査を続行した。1.分布:樹幹上の食痕の確認により,紀伊半島における分布を新たに明らかにした。また本種模式産地京都府産の個体を得て,種全体の亜種分類への足掛りを得た。2.枝の食害:長野県松本市扉鉱泉国有林(混交林)のウラジロモミ林分,山梨県鳴沢村富士山麓二合国有林ウラジロモミ造林地,などにおける枝に対する食害様式の調査を行なった。その結果,産卵はむしろ枝に対するものの方が幹に対するものより多く,またその大部分が幼虫期に死亡もしくは幹部へ移行し,羽化時には枝内からはほとんど姿を消すことが示唆された。3.幼虫の形態:本種幼虫は未だ知られていず,今回山梨県鳴沢村富士山麓二合国有林ウラジロモミ造林地において,同樹種から幼虫を複数頭得てその体表面微細形態を調べ,近似種すべてとの違いを明らかにした。4.天敵:本種の個体数の制限要因としては,寄生蜂・病原菌・宿生樹の樹液などが考えられるが,個体密度が極端に低いためその特定は困難を極める。しかし本種幼虫の枝における食痕が,キツツキ類の穿孔と見られるものによって終止しているものがかなりの数見られ,このことから,これらの穿孔性鳥類が天敵としてかなり重要であることが示唆された。5.誘引捕獲方法:市販甲虫誘引トラップ(カイロモンを装着)を用い,成虫出現期の夏期に神奈川県清川村札掛一の沢考証林(混交林)のモミ林分において誘引捕獲調査を実施したが,林分全体での個体密度が極端に低いためか,これまで同様捕獲には至らなかった。
著者
神森 眞 天野 定雄
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

テロメア長測定による正常細胞と癌細胞の鑑別法(特願2005-55726)(2005/3/1)に基づき、食道癌および食道組織で、組織切片上でQ-FISH法により細胞ごとのテロメア長を比較する方法を確立し,これを報告した(Oncology,Kammori, et al)。この方法を利用し、甲状腺乳頭癌では、腫瘍径が20mm(T2)を超え内深頚リンパ節領域まで転移を示す進行癌で他の正常組織と比較し有意にテロメア短縮が出現していた。また、正常濾胞細胞は老化に伴い有意にテロメア短縮を示したが、その他の正常細胞(線維芽細胞等)では有意差をみとめなかった。(下記、学会発表)甲状腺乳頭癌の未分化転化には、老化と腫瘍の増大が関与していると推測される。腫瘍径に依存してテロメア短縮が起きていることとその背景因子である濾胞細胞が老化によるテロメア短縮を認めることは、これらを支持する結果である。甲状腺未分化癌の培養細胞であるOCUT-1を用いた実験(IntJMol Med,Kammori, et al)では、未分化癌はテロメラーゼ活性を維持しつつも他の正常細胞と比較して有意に短いテロメア長を有していた。また、正常な染色体以外に特異的にsubtelomereの欠損を認める11番染色体の増加を認め、テロメア-subtelomere機構が甲状腺癌の未化転化と関係している可能性が示唆された。今後、上記の研究成果を踏まえて、甲状腺分化癌の未分化転化への進展の究明を継続していく予定である。
著者
森長 真一
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

シロイヌナズナ属の野生植物であるハクサンハタザオを対象に、現生個体と過去から現在にかけて採取されてきた標本個体の全ゲノム比較を通じて、時空間的に変動する適応遺伝子の網羅的な解析をおこなった。現生個体の解析においては標高適応を担う遺伝子を、標本個体の解析においては時間的な環境変化に対応する適応遺伝子を探索した。これらの解析結果に基づき、集団間にみられる適応遺伝子の機能・種類・数の異同から、環境変化に対する野生植物集団の進化的応答について議論した。
著者
土屋 好古
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、ロシア第一次革命を、伝統的な帝国的統治と「長期の19世紀」という時代の大きな要素であった国民形成との相克という観点から考察した。第一に、日露戦争の失敗の中で、専制体制を批判する左派自由主義の人びとは、明治維新後立憲体制を構築し国民国家となった日本を一つのモデルとしたこと、第二に彼らの構想は、「性と民族の別なき四尾選挙」に基づく市民的国民形成を志向するものであったこと、などを明らかにした。
著者
岸井 隆幸 木下 瑞夫 大沢 昌玄 木下 瑞夫 大沢 昌玄 日野 祐滋
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

わが国が誇る都市開発手法である「土地区画整理」の技術がタイ国へ技術移転された過程を実証的に評価分析し、今後とも必要とされている他の国々に対する土地区画整理技術移転のあり方を理論的に考察した。また、タイ国への技術移転事例分析を通じて、今後より一層の普及を図るために「土地区画整理事業に関する技術の国際移転」に必要な技術開発の具体的課題を明らかにした。
著者
此経 啓助
出版者
日本大学
雑誌
日本大学芸術学部紀要 (ISSN:03855910)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.A47-A63, 2005

神道が仏教に対抗する形で意識上にのぼり、思想化の試みが果敢に実行されたのは、近世に入ってからといわれる。人々の生活に密着した葬祭(葬儀・埋葬)に関してもさまざまな計画が生まれ、明治新政府の神道を柱にした宗教政策に大きな影響を与えた。しかし、何をもって「神葬祭」というのかは公に統一されないまま今日に至っている。この小論では、神道を意図した墳墓を「神道式墳墓」と仮定して、近世における大名・神職・儒家・国学者などによる「神道式墳墓」の計画・意図・実行をさぐり、資料化を計った。
著者
廣澤 文則
出版者
日本大学
雑誌
日本大学芸術学部紀要 (ISSN:03855910)
巻号頁・発行日
no.47, pp.5-20, 2008

映画が発明されて約百二十年経った。映画の発明には多くの科学者や技術者達の技術開発や努力のおかげであり、一朝一夕に出来上がったものではない。映画技術史を授業で教えるためには、映画技術に関する科学史・写真史等は必要不可欠であり、時には化学史や機械開発史まで必要となってくる。しかし、それぞれの名専門分野での詳しい開発史はあるが、映画技術史に関すると思われるものを専門家ではないが、広く浅く年表にまとめ資料化を計った。
著者
鈴木 薫 高瀬 浩一
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

エタノールとシリコン基板の境界面に直流沿面放電を行い、陰極と基板間に挟んだ触媒金属メッシュの溶融とエタノールの熱分解によるカーボンナノチューブ(CNT)の析出で鉄やニッケル・銅・ステンレスを内包したCNTの生成に成功した。特にNi内包CNTは、直径D:5~80nm・長さL:50~800nmと直線でアスペクト比が10~20と高く、3~50層のグラフェンがNi棒の周りに析出したCNTが生成し、Niは面心立方構造の結晶性を有し格子定数は0.34nmであった。また、強磁性金属内包CNTを収束イオンビームにより針状タングステン先端に移植し、磁気力顕微鏡用の新規なプローブ作製に成功した。
著者
谷島 一嘉 平柳 要 丸 瑠璃子 渡辺 直隆 伊藤 雅夫 宮本 晃
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究は簡単に測定し得るさまざまな心身反応から、フリッカー値、血圧(収縮期・拡張期)、10秒間の選択反応数、10秒間のタッピング数を選び、これらを作業前と作業後で測定することによって、作業による疲労度を疲労スコアとして、直ちに算出・表示する小型・簡便・安価な疲労度の定量化システム(疲労計)を試作する。そして、これに組み込んだ重回帰推定式の妥当性の検討や人間工学的な評価、改良を施し、より実用性のある疲労計としてまとめあげる。これまで、このような簡単な疲労計で複数の心身反応を総合した測定・評価システムは他に類が無く、しかもその主要なロジックである疲労度の算出方法には、これまでの研究成果からの独特のものを採用している。したがって、上記の心身反応を測定すれば、直ちに重回帰推定式によって、作業前に対する作業後の疲労度が疲労スコアとして算出・表示されるしくみである。そして、出力結果としての疲労スコアが0〜9であればほとんど疲労していない状態、10〜19ではやや疲労した状態、20〜49ではかなり疲労した状態、50以上では極度に疲労した状態の4段階で評価される。最近、健康管理の面から作業者の疲労度を数的に把握するのに、簡単な操作で比較的信頼できる結果が得られる安価な疲労計を希望している職場が多いためこの疲労計は非常に広い応用・需要が期待される。したがって、本研究で開発された疲労度の簡易定量化システム(疲労計)の実用化の見通しはきわめて高いと思われる。今後、さらに看護婦の疲労の測定などで実地に使いながら、簡易疲労計としての信頼性の向上、使い勝手の良さなどを中心に、さらに検討して行く。
著者
高橋 恭子
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

腸管のマスト細胞及び上皮細胞と腸内共生菌との相互作用の解析を行った。その結果、腸内共生菌がマスト細胞の最終分化過程に影響を及ぼすこと、腸管上皮細胞における菌体認識に関わる遺伝子の発現を調節することが明らかとなった。腸内共生菌によるマスト細胞及び腸管上皮細胞の機能の調節に関わるこれらの機構は、腸共生系の恒常性の破綻に起因する炎症反応を食品により制御するための有用なターゲットとなることが期待される。
著者
厳島 行雄
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

裁判等の証人は記憶を頼りに、自分の経験を語る。そのような記憶は再構成的であり、経験される出来事の記憶の正確さは、その出来事の後に触れる社会的情報によって大きく損なわれることが知られている。本研究ではそのような影響の基礎的研究を行い、情報が伝えられる媒体の違いによる効果、嘘をつくという行為による記憶への影響、耳撃証言の正確さを明らかにした。
著者
梅本 順子
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

多方面において人道的、かつ教育的に活動した牧師、田村直臣という人物の足跡を、The Japanese Brideに代表される日本の風習や習慣を紹介するための英書の発行や、それに先立つ童話集の翻訳などの仕事を中心に、文化の受容、発信という視点からたどった。田村の多様な活動の背景には、四年あまりのアメリカ留学と、帰国後も五年に一度の割合で海外に出かけた経験がある。当時まれにみる国際人として、幅広い知識と卓越した語学力で日本文化を発信、かつ西欧の文化の受容と紹介に努めたことが明らかとなった。田村が先駆者となったものとしては、宗教教育の実践、児童文学の翻訳の際の言文一致体の導入などが挙げられる。また、アメリカでのThe Japanese Brideという英文書籍の出版は、新渡戸稲造の『武士道』よりも早い。日本女性の窮状を、結婚をテーマに紹介した同書には、当時すでに男女平等を説く、田村の思想が表れていた。そのため、同書を日本で翻訳・出版するとなると、保守派のみならず、日本基督教会側からも圧力がかかった。それが「花嫁事件」であり、田村は牧師職の剥奪という処分を受けるが、独立教会の牧師として、「児童」と「女性」の問題に生涯にわたって関わり続けたのだった。
著者
遠藤 邦彦 宮地 直道 高橋 正樹 山川 修治 中山 裕則 大野 希一
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

火山防災上,防災担当者や住民にとって真に役立つ活動的火山の次世代型ハザードマップの構築を目指し,7項目の目標に対してそれぞれ以下の成果を得た.主に富士山,比較で浅間山,箱根山を対象とした.1.漏れのない噴火履歴の解明:重点的な現地調査により,データの充実化を進めた.2.噴火発生確率のより正確な見積りとデータベース:噴火発生娘串の重要判断材料である富士山の階段ダイアグラムを新しいデータに基づいて改定した.また,データベースを充実させた.3.噴火のさまざまな癖:火口の位置やタイプ,火砕流の発生など,新資料を得た.4.発生確率は低いが影響の大きなイベント:富士山の代表事例として御殿場岩屑なだれ,滝沢火砕流を詳細に解明した.5.多様な噴火シナリオから災害リスクの検討へ:爆発的噴火のタイプ,溶岩流出のタイプの典型として宝永噴火,貞観噴火の詳細な検討を行い,前者について災害リスタの検討を進めた.6.大気や地表の熱情報から:富士山監視カメラシステムを継続的に運用し,雲や降雪状況の変化をホームページに公開した.地表面温度分布の分析成果を公表した.以上のa-fについてその成果を単行本「富士山のなぞを探る」として公表した.7.役に立つハザードマップヘ:噴火が近づき,あるいは始まった時に機器観測,監視カメラ,目視情報をはじめ,大気情報や地表の熱などを含め,多様な情報がリアルタイムに捉えられ,またハザードマップ上に迅速に示されるGISを利用したシステムを,防災担当者および研究者間で運用するDGI-RTSシステムとして構築し,一部を「富士山観測プロジェクト」としてウエブページに公開した[http://www.geo.chs.nihon-u.ac.jp/quart/fuji-p/].これは公開済みの「富士山監視ネットワーク」と,さまざまな災害情報に関する「自然災害と環境間題」のページにリンクしている,
著者
野上 貞雄 松本 淳
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

犬における主要な寄生虫症である犬糸状虫症の免疫学的診断法のターゲットとなっている循環抗原の詳細な解析を行い、診断法の改良と疫学調査を行った。
著者
紅野 謙介 GO Young Ran
出版者
日本大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

昨年に引き続き、日本と韓国の国会図書館に所蔵されているSCAPの朝鮮と日本での検閲資料を調べた。その成果の一部を韓国と日本の全国学会で発表した。韓国日語日文学会 夏季国際学術大会(韓国、国立全北大学、2005・6・18)で、「占領とマイノリティをめぐる言説編成-『新日本文学』における「眼の色」論争」について発表した。韓国では、東アジアの冷戦構図を露呈させて朝鮮戦争と五〇年問題の渦の中で、SCAP(アメリカ)への対抗を共通の基盤として持っていた共闘の言説について、歴史的な過程を見すえることなく、抵抗する主体・共闘する主体のみを浮上させることの危険性について議論した。本研究は、日本と韓国の研究の死角になっていた「在日の朝鮮人」、特に金達寿・許南麒ら朝鮮人文学者は、日米講和条約への反対運動で見いだされた被圧迫民族としての日本人の表象を模索する過程の中で誕生したことを明らかにした。また、SCAPの検閲のモデルだといわれる日本帝国の検閲システムと文学の関係について調べた。その中でも、1930年前後の植民地朝鮮のハングルの書物が、日本帝国の支配地域別の検閲制度の差異を利用し、上海や東京などで出版され朝鮮へ輸入されていったことがわかった。その代表的な例として、中野重治「雨の降る品川駅」(『改造』一九二九・二)と、その朝鮮語訳が掲載された雑誌『無産者』(同年五月、東京で発行されたハングル雑誌)に注目した。この調査の成果は、日本近代文学会秋季大会(國學院大學、2005・10・23)「フィクショナルな禁止-ジェンダー・セクシュアリティ・民族表象をめぐる抵抗と共犯」というパネルで「戦略としての「朝鮮」表象」というタイトルで発表した。