著者
中村 尚 万田 敦昌 川瀬 宏明 飯塚 聡 茂木 耕作
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

我が国の豪雨の発生や季節性に周辺海域の海面水温分布が重要な影響を与えることが研究代表者らの最近の研究から示されている。そこで、精緻化の進む領域大気モデルによる地域的な豪雨・豪雪事例の予報精度に対し、大気モデルの下方境界条件として与える日本周辺海域の海面水温データの時空間分解能が及ぼす影響を、近年の多くの顕著な豪雨・豪雪事例に対する予報再現実験から定量的・包括的に評価することを本研究課題は目指している。平成29年7月九州北部豪雨事例において、6月下旬の梅雨前線帯の北上に伴う東シナ海の水温の急激な上昇が重要であることを示す実験結果を得た。梅雨前線の北上が日射の強化を伴い、水温が上昇し、海面からの蒸発が強化して、九州に流入する対流圏下層の気塊が多湿に維持され、対流不安定性を強化していた。梅雨末期の集中豪雨は梅雨前線帯の南側で発生することが多く、梅雨前線帯の北上に伴う東シナ海上の日射の強化がその一因であるとの示唆が得られた。なお、東シナ海の海面水温の季節進行と表層塩分成層の変動との関連に着目して、海洋客観解析データに基づく解析にも着手した。一方、平成25年8月の秋田・岩手豪雨事例においては、領域大気モデルの水平解像度を1kmに向上させるとレーダー雨量と同程度の雨量強度が再現されるようになることが確認できた。また、初期値や領域の設定にも強い感度が見られたが、海面水温に対する感度は水平解像度3kmの実験と定性的には同じで、領域大気モデルの実験設定も依然として重要であることが分かった。さらに、領域大気モデル実験に与える高解像度の海面水温データに対する時間及び空間平滑化が夏季降水量に及ぼす影響を調査した。積算降水は空間平滑化のみに影響されるのに対し、豪雨事例に対しては時間・空間どちらの平滑化にも影響が見られ、夏季豪雨の予測に対して時間・空間両方の高解像度化が重要であることが見出された。
著者
横井 慶子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

[研究の目的] 教育研究の情報源であり、研究者の研究成果の公表の場でもある学術雑誌の提供は、大学図書館の重要な役割である。近年はウェブ上にて無料で読めるOpen Access Journal(以下OAJ)が増加している。本研究では、OAJが大学での学術雑誌整備と研究支援に及ぼす影響を検討するために、OAJの現在の刊行状況、OAJに関わる最新の動向を明らかにすることを目的とする。[調査内容と考察] 1. OAJの現在の刊行状況調査 : Ulrichwebから創刊年が2000-2014年の学術雑誌データを抽出し、Ulrichweb、Directory of Open Access Journals、雑誌ウェブサイトの情報と照合することでOAJを特定した。OAJは6,955誌あり、残りの11,586誌は購読誌と判定した。刊行状況はUlrichweb収録データにもとづき判定した。OAJは260誌(3.7%)が、購読誌は720誌(6.2%)が2016年時点で廃刊となっており、OAJは購読誌よりも廃刊率が低いことが判明した。OAJの廃刊誌の大部分は大手OA出版社からのシリーズ誌であった。2. OAJに関わる最新の動向(Flipping journalsの実態調査) : 購読誌がOAJ化したFlipping journalsをウェブ調査で特定し、対象の260誌について特徴と、OAJ化後の評価を調べた。特徴については、対象誌ウェブサイトを情報源として調査した。共通して多くみられた特徴は(1)学会が発行(50%)、(2)比較的歴史の浅い雑誌(2001年以降創刊が30%)、(3)生物医学分野の雑誌(40%)があった。OAJ化後の評価についてはJournal Citation Reports収録誌を対象に調査した。49%でImpact Factorの上昇(N=67誌)、64%で被引用数の増加(N=73誌)がみられた。また2010年以降、商業出版社刊行誌がOAJに転じる数が増加傾向にあった。3. 考察 : 刊行状況調査から、OAJは一過性のものではなく、購読誌に匹敵する存在となっているとみなせる。Flipping journalsの実態調査からOAJ化で評価が高まる傾向や、商業出版社刊行誌のOAJ化促進の傾向がみられた。これらの結果から、学術雑誌に占めるOAJの比率が今後より高まると予測される。大学図書館はこれまでの購読誌を中心とした学術雑誌購読契約から、OAJを考慮した契約についての検討が必要になると考えられる。
著者
田中 まさき
出版者
東京大学
雑誌
Slavistika : 東京大学大学院人文社会系研究科スラヴ語スラヴ文学研究室年報
巻号頁・発行日
vol.21, pp.48-66, 2006-09-30

Эта статья посвящена выяснению особенностей мировоззрения и стиля киноискусства И. Пырьева. Главное внимание уделяется изображению мира ≪деревни≫ в егодовоенных произведениях. Основным субъектом анализа является фильм 1941 года ≪Свинарка и пастух≫. Чтобы определить черты творческого метода режиссёра, мы сравниваем его фильмы с произведениями другого режиссёра, Г. Александрова, замечательного мастера советской музыкальной комедии. Героиня фильма -свинарка из вологодской области. Её посьилют в Москву для участия в ВСХВ (Всесоюзной сельскохозяйственной выставки, открытой в 1939 году). Там она знакомится с пастухом из Дагестана, и они договариваются о встрече в следующем году. Чтобы вновь попасть в число участников выставки, они оба самоотверженно трудятся, используют прогрессикные методы работы. Они переписываются. Ложный перевод письма от пастуха вводит героиню в заблуждение, она приходит в отчаяние и чуть не выходит замуж за другого. В конце концов недоразумения выясняются, и всё счастливо заканчивается. В результате анализа мы замечаем своеобразие стилей и стремлений двух режиссёров, работавших в одном жанре. Кинопроизведения Г. Александрова и И. Пырьева не только обогащают культуру сталинской эпохи, они на сегодня остаются важным источником информации о переменах в изображении ≪деревни≫ в истории русской кулы. И сегодня произведения И. Пырьева вновь предстают перед исследователями как интересный объект, несущий в себе богатый потенциал.
著者
清水 晶子 星加 良司 飯野 由里子
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

当研究は、3.11以降の日本において「ナショナルなもの」の危機を契機に特定の身体を露骨に優先する言説が一気に顕在化し、一定の支持を集めてしまう社会状況を考察し、生や身体の選別や序列化をめぐる言説がいわば日常化しつつあること、「ナショナルなもの」の立ち上げは未だにその過程で大きな力を持つことを明らかにした。また、クィアスタディーズとディスアビリティスタディーズとのそれぞれの理論構築に内在する限界や問題を踏まえつつ、双方の領域の中心的課題である多様な生と身体の生存可能性の拡大に向けたさらなる領域横断的な取り組みの必要性を確認し、そのための理論的基礎を提示した。
著者
岡本 絵莉
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

本研究の目的は、日本の研究型大学における研究コミュニティの多様性に着目したモデル化とそれぞれのモデルに即した支援策の提示である。具体的な成果として、多様なコミュニティに関するケース教材の作成を目指して研究を実施した。本研究の社会的背景としては、大学における研究支援(Research Administration)の重要性が高まっていることがある。日本の研究型大学は、最先端の研究活動だけでなく、それにもとづく教育、社会貢献など、時には相反するように見える多様なミッションを担っている。これらの実質的な担い手は、多様な研究コミュニティである。本研究では、この研究コミュニティという単位に着目し、その多様性を踏まえた支援策として、ケース教材の作成を目指した。本研究の方法としては、主に教育学の分野で発展してきたコミュニティ理論にもとづき、大学の研究コミュニティに対するインタビュー調査を企画・実施した。主な調査対象となった工学系分野の大学研究室に関しては、過去に研究代表者が実施した質問紙調査のデータを再分析し、活用した。具体的なインタビュー調査は、再抽出した研究室に依頼し、それぞれの構成員(教員・学生)に対して、それぞれ30分~1時間実施した。実施したインタビュー調査を通じて、研究コミュニティを規定する要因(分野、資金、強調されるミッション、構成員の特性、存続期間等)が明らかになった。また、経営学の分野で実務者の教育目的で作成・活用されてきたケース教材の完成に向けて、必要な質的データを取得することができた。
著者
橋本 鉱市 荒井 英治郎 丸山 和昭
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、「高等教育界」を高等教育に関与する多様な「参加者」が様々な「問題群」の中からある選択肢をめぐって葛藤、調整、妥協を展開する政治的領域であると措定し、この問題群(重要問題としてイシュー)と参加者群(その中核に主要アクター)の両者、また各々の内部ならびに相互の関係を包括的に把握し、この界に独自の政策形成・決定のメカニズムを定量的・定性的(計量テキスト分析、ネットワーク分析、インタビューなどによる方法)に解明した。その成果の一部として、『高等教育の政策過程』(玉川大学出版部、2014年)を上梓した。
著者
深見 かほり
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

本研究では居住者組織主体で住宅地および周辺環境の空間の維持管理に取り組んでいる戸建住宅地の居住者組織を対象に、ヒアリング調査および現地悉皆調査を行なった。本年度はこれまで対象としてきた開発住宅地だけでなく、既成住宅地の居住者組織も調査対象とした。今回の開発戸建住宅地の調査では、設計段階における開発コンセプトが現在のまちなみ維持活動や居住者組織の運営へのどのように影響をしているかという点も調査項目に加えた。まず、建築家宮脇檀が設計した東京都日野市の「高幡鹿島台ガーデン54」では、居住者が設計コンセプトを理解・継承しつつ、開発後30年を経た中で新規居住者を取り込みながら新たな住環境維持活動に取り組んでいる実態が確認できた。また、大手ディベロッパーが開発した、東京都武蔵野市の「ファインコート武蔵境」においては住環境運営活動を行なう居住者組織はないが、設計段階でまちなみ形成とコミュニティ形成を促すものとして敷地内に植栽帯を施すことでまちなみとして植栽帯が続く沿道となるような空間的な仕掛けをした結果、意図通り居住者は植栽を通してまちなみ維持への意識が高まり、また植栽管理を通した近所付き合いが行なわれていることがわかった。一方、既成住宅地の調査では東京都目黒区の既成住宅地の組織化されていない主婦グループが5年以上継続的に続けているハロウィンのイベント活動の事例から、これまで従来の地域組織が担ってきた地域活動とは異なる新しい地域運営の可能性が伺えた。また、沖縄県北中城村大城の「大城花咲爺会」では、世界遺産を有する村内の住環境維持を高齢者組織が中心となり村の伝統や文化を守りつつ美化活動を行っていること、高知県安芸市の「土居廓中保存会」の活動では伝統的集落の保存を中心とした住環境の維持を若手の新規居住者が中心になり取り組んでいる実態が確認できた。今年度の調査を通し、設計段階での住宅地の空間的デザインはその後の住環境運営活動に影響する可能性、また住環境運営活動を担う人材について従来型の地域組織によらない新たな組織構成の知見を得ることが出来た。
著者
中島 貴子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

行政機関における化学物質の人体毒性評価に関する日本と米国の決定的な差異をもたらしている最大の理由は、両国におけるレギュラトリ・サイエンスの在り方の相違によるものである、という前年度の研究成果を踏まえ、今年度は、「レギュラトリ・サイエンス」という概念の発展経緯について日米比較を行った。その結果、以下の結論および仮説を得た。(1)欧米でレギュラトリ・サイエンスという概念の普及にもっとも貢献したのは、科学論者であり、法学者であるシェーラ・ジュサノフ(ハーバード大学教授)である。彼女は1990年、リサーチ・サイエンスとの相対比較によってレギュラトリ・サイエンスを定義した。その視点はすぐれて社会学的。(2)一方、日本ではジャサノフとは全く独立に、内山充(元東北大学教授、薬剤師研修センター理事)が1970年という早い時期からからレギュラトリ・サイエンスの概念を打ち出していた。その内容は、レギュラトリ・サイエンスには従来の科学とは全く異なる目的・方法が必要とされる点を明示するもので、自然科学的かつ創造的。(3)しかしながら、レギュラトリ・サイエンスの規模、レベルにおいて、日本はアメリカよりもはるかに劣っているといわざるを得ない。その理由は、第一に、日本では内山の意図するレギュラトリ・サイエンスの真意や価値が、本来、レギュラトリ・サイエンチストを輩出すべき大学や、自らレギュラトリ・サイエンチストたるべき国立系研究機関で十分な理解を得られなかったこと。第二に、内山の影響力を医薬品行政にとどめ、他の関連行政には伝播させないような、省庁間の壁が厚かったことが考えられる。(4)したがって、今後、日本で健全なレギュラトリ・サイエンスを育むためには、レギュラトリ・サイエンスに関する内山の先駆的な主張に、大学、国立系研究機関ならびに関係省庁が真摯に耳を傾ける必要がある。
著者
酒井 邦嘉
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

左前頭葉の一部「文法中枢」に脳腫瘍がある患者で純粋な文法障害が生じることを実証しました。左前頭葉に脳腫瘍を持つ患者に文法判断テストを実施し、その腫瘍部位を磁気共鳴映像法(MRI)で調べたところ、左前頭葉の一部である「文法中枢」に腫瘍がある患者では、左前頭葉の他の部位に腫瘍がある患者より誤答率が高くなりました。臨床的には失語症と診断されていないにもかかわらず、今回のように顕著な文法障害(「失文法」)が特定されたのは初めてのことです。
著者
高橋 英海 桑原 尚子 近藤 洋平 辻上 奈美江 菊地 達也 三代川 寛子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、中東・北アフリカのイスラーム地域における少数派・弱者を取り上げ、その過去と現状について3年の期間をかけて調査を行った。具体的には、少数派・弱者を(1)「イスラーム圏における少数派としてのキリスト教およびその他の宗教」、(2)「イスラーム圏における伝統的弱者としての女性」、(3)「イスラーム世界における異端」という3つの研究課題に分け、それぞれの課題について調査を行い、思想史的および社会学的手法を用いて考察した。
著者
力石 國男 松田 秀一 道上 宗巳
出版者
東京大学
雑誌
東京大学海洋研究所大槌臨海研究センター研究報告 (ISSN:13448420)
巻号頁・発行日
vol.27, 2002-03-29

平成13年度共同利用研究集会「北太平洋北西部とその縁辺海の水塊変動と循環」(2001年8月21日, 研究代表者:岩坂直人)講演要旨Variations of water masses and circulations in the northwestern North Pacific and its marginal seas(Abstracts of scientific symposia held at Otsuchi Marine Research Center in 2000)
著者
山田 文男
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

平成20年10月から平成21年3月末の期間に、東京都23区を主として神奈川県・埼玉県・千葉県・群馬県・栃木県・茨城県内に存在する木造建物による理髪店の現地調査を行った。なお、調査中理髪店の隣や近くに同業種で建築形態が似ている美容店の存在が多くあったので、理髪店の近隣に美容店があった時は調査に加えた。調査数は理髪店が184棟、美容店が60棟の合計244棟であるが、理髪・美容店舗は毎月第2・3週が連休であることや、お客が来店中は基本的には内部の調査は出来ないので外観・内部の調査及び、経営者のヒアリングまでできたのは理髪店71棟、美容店7棟、合計78棟で全調査数の約32%である。理髪店は国民の生活衛生を担っているが、理容師法により建物の構造設置基準の遵守、衛生設備等の管理、保健所の年1回の定期検査等がある中で、理容師法上理髪店と美容店の同居営業は認められていない。「1000円カット」の店舗は理容師法の構造設置基準を逸脱していないことや、お客の需要により今後増加傾向にあるが、衛生設備の維持管理がおろそかになりがちなので許認可権のある保健所の監視が大切である。さらに、駅前に床面積が広く低料金のチェーン店の進出によりこれまでの住宅街の理髪店へのお客が減っていることや、経営者の高齢化で店を閉じていること。東京都や他の六県でも大正時代や戦前の木造建物が存在しているが、東京都内は当時のままの造作が残っている店舗はなかったが、埼玉県内では4棟存在していたことで、当時の理髪店の建物の構法・使用材・プランや洗髪器具や衛生器具及び椅子といった設備からも室内の造り方にも大変に影響を受けており、建物の外内部の使用材や衛生設備の状況を判断することにより、建物の建設年代や経過年数がおよそ把握できるようになった。そして、経営者のヒアリング及び建物内の実測ができたことで、木造建物による理髪店の歴史的変遷や建築学形態について詳細な成果を得られた。
著者
ブラックウッド トーマス
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

今回の研究は日本の高等学校の部活動の教育的な役割について調査した。結論から言うと、部活動(とくに運動部)に関わっている者は、その活動を通してさまざまなことを学び、身につけていると信じ、そして、部活動は進路、自己認識、価値観などと、強い相関関係があることがわかった。実態調査に基づく客観的な統計はほとんど無かったから、この研究は、「印象」程度だった部活動の教育的効果を客観的なデータで証明した。