著者
西村 清和 尼ヶ崎 彬 長野 順子 相澤 照明 山田 忠彰 中川 真 渡辺 裕 津上 英輔 青木 孝夫 外山 紀久子 大石 昌史 小田部 胤久 安西 信一 椎原 伸博 上村 博 木村 建哉 上石 学 喜屋武 盛也 東口 豊 太田 峰夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究は従来自然美論、風景論、環境美学、都市美学という評語のもとで考えられてきたさまざまな具体的、個別的諸問題領域を、日常生活の場において企てられたさまざまな美的実践としてとらえなおし、あらたな理論化を目指すものである。具体的には風景、都市景観、森林、公園、庭園、人工地盤、観光、映画ロケ地、遊芸、雨(天候)、清掃アートなど多様な現象をとりあげて分析し、その成果を『日常性の環境美学』(勁草書房、2012)として刊行した。
著者
山内 祐平
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本年度の研究では、昨年度にひきつづき、日本のメディアリテラシー教育に歴史的に特徴として見られるメディア制作活動と最近になって概念に導入された批評する活動の関係に関するモデル化を行った。特に、日本民間放送協会と東京大学大学院情報学環MELL Projectで行われた実践を中心にモデル化と分析を行った。「民放連プロジェクト」は、送り手と受け手が放送メディアを学び合う、新しい場を地域社会の中に作っていくことを目的としている。今年は、昨年度に引き続き、長野県と愛知県でパイロット研究を進めるとともに、宮城県、福岡県でも実践を行った。長野県は、テレビ信州と同県でメディアリテラシー教育を推進している林直哉・梓川高校教諭を中心とする各地の中学、高校で共同研究を行っている。愛知県は、東海テレビ放送と清水宣隆教諭をはじめとする私立春日丘中学・高校で実践が行われた。宮城県では東日本放送とせんだいメディアテーク、南方町ジュニアリーダーの協力体制の元生中継番組が制作された。福岡県では、RKB毎日放送と子どもとメディア研究会、台湾政治大学附属小学校の間で国際交流学習が行われた。今年の研究では、長野の実践を、メディア・リテラシーに取り組むリーダー(学校教師、子供たちのリーダーなど)を養成するためのプランとして、愛知の実践を地域に根ざした活動を定着させるためのプランとして、宮城の実践を社会教育に開かれたモデルとして、福岡の実践を教育NPOに開かれたモデルとして位置づけて、モデル化を行った。
著者
大泉 匡史 小村 豊 笹井 俊太朗
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

左脳と右脳をつなぐ脳梁がてんかんの治療のために切断された脳は「分離脳」と呼ばれ、患者はあたかも左脳と右脳に2つの独立した意識が生じているかのような行動をとる。分離脳を理解することは、我々がなぜ左脳と右脳とで統合された1つの意識を持ち得るのかということを理解する上で重要である。本研究では、この分離脳の神経メカニズムの理解を目標として、サルのECoGデータの記録及び、神経活動データから神経ネットワークの構造を抽出するアルゴリズムの開発を行った。このアルゴリズムは情報の統合が最大となるサブネットワークを効率的に探索することが可能で、これによって脳活動からネットワークの分離を判定することが可能となる。
著者
高橋 麻理子
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では、マクジャク(鳥綱キジ目キジ科クジャク属)の求愛行動を調査し、先に報告されている同属インドクジャクの求愛行動と比較した。比較の結果、オスの上尾筒(目玉模様の付いた長い飾り羽)を使ったディスプレイ行動が2種間で酷似した一方、繁殖期の音声はオスとメスともに2種間で異なり、音声の特徴の性差はマクジャクで小さかった。本研究の結果は、上尾筒を使ったオスの求愛行動が2種の共通祖先によって獲得された古い形質であること、一方で求愛音声が2種の分岐後に新しく変化した形質であることを示唆している。
著者
松本 拓巳
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

細胞は、細胞内外の分子の少数性、環境の不均一性などに起因する激しくゆらいだ環境の中で、外部環境の変化や他の細胞からのシグナルを観測し、細胞内にその情報を伝達することによって生命活動に重要な分子などの個数を正確に制御している。そのような化学反応のリレーを行うには、熱的な散逸が伴うはずであるが、生物は非常に限られたエネルギー(資源)でそれを実行しており、そのエネルギー論、つまり熱力学的な理解は不十分なままである。本研究ではこの問題に取り組み、(フィードバックを理論体系に取り入れた熱力学である)情報熱力学を用いることによって、「情報」と「制御」の間の一般的な関係を明確にすることに成功し、さらには「最適制御」や「十分統計量」といった制御理論における概念が非平衡統計力学の枠組みでどのように理解されるのかを明らかにした。より具体的には、情報量にある種の方向性をもたせた各種情報流がどのような場合に最適化されるかを調べ、同時に発生する熱的散逸の間のトレードオフを導いた。この結果を大腸菌の走化性シグナル伝達に応用し、その情報論的効率と熱力学的効率を定量的に調べ、生物学における本研究の有用性を示すことに成功した。また、従来の研究では定量的にシグナル伝達を解析する際に定常系を考えていたが、本研究では情報流を用いることによって、非定常系における結果も与えることができた。このことは、本質的に非定常で駆動している生物システムを理解する上で重要な結果であると考えられる。
著者
曽我 昌史 山野井 貴浩 土屋 一彬 赤坂 宗光
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

急速な都市化や生活様式の変化に伴い、我々が自然と接する頻度は減少の一途を辿っている。こうした現代社会に蔓延する「自然離れ」は「経験の絶滅」と呼ばれ、保全生態学や公衆衛生など複数の学術分野で重要な問題として認識されつつある。本研究では、経験の絶滅の実態(発生・伝播プロセスや人と環境保全に与える負の影響)を全国規模で把握するとともに、将来求められる緩和策を提案することを目標とする。
著者
松本 直樹
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

寄生虫症のうち蠕虫感染症では多くの場合、寄生虫抗原に特異的なIgE抗体価の上昇とともに寄生虫抗原とは反応しないいわゆる非特異的IgE抗体の上昇が認めらる。これらの現象は、主としてTh2タイプのヘルパーT細胞が産生するIL-4に依存していることが示されているが、蠕虫感染においてどのような機構でTh2タイプのT細胞が選択的に活性化を受けるのかについては明らかになっていない。そこで本研究では腸管に寄生するNippostrongylus brasiliensis(Nb)に感染したマウスをモデルとして宿主T細胞によって認識される寄生虫抗原の性状解析を行った。Nb感染マウスより得た腸間膜リンパ節細胞をNb成虫可溶性抗原(NbSA)または分泌排泄抗原(NbES)とともに培養すると抗原濃度依存的にIL-4さらにはIgEの産生が観察された。この時、IgEの産生はCD4T細胞によって産生されたIL-4に依存していた。NbSA,NbESをMonoQ陰イオン交換クロマトグラフィーにより展開すると両者においてほぼ同一の位置に4つのピークとしてIL-4産生誘導活性が検出された。さらに各ピークをゲル濾過法により分画を行った結果、IL-4産生誘導活性はいずれも分子量17,000から30,000の位置に回収されたことから、NbSA,NbES中にともに存在する同一の抗原分子(群)をT細胞が認識し、IL-4を産生することが示唆された。この時、MonoQによる展開で低塩濃度に溶出された2つのIL-4産生誘導活性ピークについてはそれに平行したIgE産生誘導活性が認められたが、高塩濃度に溶出されるIL-4産生誘導活性についてはIgE産生誘導能は低く、IL-4の産生のみがIgE産生を規定しているわけではないことが示唆された。現在、IL-4産生誘導活性,IgE産生誘導活性を持つ抗原について精製を進めており、今後、その構造ならびに局在部位を解析することによりTh2タイプT細胞の特異的活性化の機構解明の手がかりとしたい。
著者
朴 祥美
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は、「独特な日本文化」というような、日本文化を他国・他文化から切り離して捉える見方に挑戦し、日本文化政策史をトランスナショナルな文脈から再考する。一方で日本は、戦時期には欧州の文化政策の方法論を受容し、占領期にはアメリカの文化的浸透と競う中で、自国文化に対する自信を高揚させてきた。他方、高度成長期には、自らの文化政策の経験を解放後の韓国に教示してきた。本研究は、一見、一国にユニークな現象に見える「文化」というものが実は他国との関係から「政策」として形作られていくものであることを明らかにする。

4 0 0 0 OA 大日本史料

著者
東京大学史料編纂所 編
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
vol.第1編之1, 1922
著者
木庭 顕 桑原 朝子 松原 健太郎 中林 真幸 山本 隆司 加毛 明 金子 敬明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

昨年度に予告したとおり本年度は公共団体の問題に活動を集中した。その集大成は3月にKinch HoekstraとLuca Ioriを迎えて行われた「ホッブズとトゥーキュディデス」に関する研究会であり、事実上の締めくくりとなるに相応しい濃厚な二日間であった。つまり古典古代と近代をまたぎ、また国際間の衝突もテーマであったから国家間の問題、近代国家共存体制外の地域の問題、をも視野に入れた。ホッブズはまさに枢要な交点である。そのポイントで、公共団体立ち上げの条件を探った。ゲスト二人の報告は或る雑誌に翻訳して発表の予定である。また、研究代表者自身、この研究会に至る中で同時並行して一本の論文をまとめ、『国家学会雑誌』に発表した。後者は、このプロジェクトが深くかかわってきた法人理論がホッブズにとって有した意義をも論ずるものである。また、ともに、自生的な団体と深く関係するメカニズムである互酬性を、そのメカニズムの極限的なフェイズをホッブズがいかに利用しつつ克服するか、を追跡した。こうした考えをホッブズはトゥーキュディデス読解を通じて獲得した。彼が同じく翻訳したホメーロスを含め、ギリシャの社会人類学的洞察をバネにしたことになる。こうした見通しは、本研究会が遂行してきた広い比較史的視野を有して初めて持つことが可能になる。その意味では、今回の成果は、公共団体をターゲットとしてきた本年度の活動のみならず、全期間の活動の凝縮点である。付言すれば、教育目的ながら野心的な内容を含む拙著『現代日本公法の基礎を問う』も同一の軌道を回る惑星である。
著者
小野 秀樹 松本 欣三 太田 茂
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

フェニルエチルアミン(PEA)は生体内に存在する微量アミンであり, 精神機能と関わりがあると考えられている. その化学構造や薬理作用は覚醒剤であるメタンフェタミン(MAP)のものと類似しているが, その作用機序は不明である. 本研究においては, PEAのラット脊髄の単シナプス反射増強の機序をMAPと比較しながら研究した. 麻酔ラットの腰部脊髄を露出し腰髄第5髄節の単シナプス反射を記録した. PEA(1mg/kg, iv, )は単シナプス反射を増強した. この増強はα_1-アドレナリン受容体を選択的に遮断するプラゾシンにより抑制された. さらにアミン類を枯渇するレセルピン処理, ノルアドレナリンの合成を阻害するジスルフィラム処理, 下行性ノルアドレナリン神経を破壊する6-ヒドロキシドパミン処理, およびすべての下行性神経を破壊する慢性的な脊髄切断処理もPEAの単シナプス反射増強効果を抑制した. MAP(0.3mg/kg, iv, )もPEAと同様に単シナプス反射を増強した. この増強効果も, α_1-遮断薬, ノルアドレナリン枯渇薬, ノルアドレナリン神経の破壊処理によって抑制され, MAPがPEAと同様の機序で単シナプス反射を増強することが示された. PEAとMAPの作用はセロトニン拮抗薬およびドパミン拮抗薬によっては影響されなかった. またPEAの効果はB型MAO阻害薬のデプレニルによって増強, 延長され, PEAが代謝されないで作用していることが示された. さらにPEAとMAPの単シナプス反射増強作用は血圧変化に起因するものではないことも示された. 以上, PEAおよびMAPは, 脳幹から脊髄へ下行するノルアドレナリン神経の終末からノルアドレナリンを放出させることにより, 単シナプス反射を増強, すなわち, 運動系を亢進させることが示された. さらにPEAが脊髄に比較的高濃度存在することから, PEAが脊髄運動系の調節になんらかの役割を持っている可能性が示された.

4 0 0 0 OA 大日本史料

著者
東京大学史料編纂所 編
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
vol.第11編之6, 1936
著者
北村 紗衣
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

当特別研究員の研究課題は、シェイクスピアを中心としたイギリス・ルネサンスの悲劇における女性表象である。2009年度は前年度に引き続き、このテーマに関する考察を深めるべく研究を進めた。本年度は昨年度に引き続き修士論文の一部を発展させ、シェイクスピアの恋愛悲劇『アントニーとクレオパトラ』におけるクレオパトラ像のあり方をそれ以前のクレオパトラを扱った悲劇群と比較し、シェイクスピアの作品は古代からルネサンスまでの「クレオパトラ文学」とも言えるような伝統の中にどのように位置づけることができるかを分析した論文「イギリス・ルネサンスにおける『クレオパトラ文学』--シェイクスピアのクレオパトラとその姉妹たち」を執筆し、『超域文化科学紀要』に投稿した。投稿後、その内容を5月31日の日本英文学会にて発表した。また、シェイクスピア劇がアメリカ映画においていかに受容されているかについての予備的な研究を開始し、5月23日の大澤コロキアムにて"Shakespeare in High School : The Taming of the Shrew and 10 Things I Hate About You"というタイトルで発表を行った。この他、シェイクスピアにおける共感覚(synesthesia)的な比喩に関する予備的な研究を開始し、7月5日に京都造形大学で行われた表象文化論学会第4回大会にて「共感覚の地平-共感覚は『共有』できるか?」という研究パネルを組織し、「感覚のマイノリティ-共感覚と共感覚者をめぐるフィクション」と題して文学における共感覚の一般的表現に関する発表を行った。
著者
野田 岳志
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

インフルエンザは主としてA型およびB型インフルエンザウイルスを起因とする呼吸器疾患である。飛沫を介してヒトからヒトへと効率よく伝播することが最大の特徴であり、毎年、人口の5-10%がインフルエンザに罹患する。ヒトインフルエンザの研究においては様々な動物モデルが使用されているが、小型で効率の良い飛沫伝播を再現する動物モデルは存在しない。本研究ではインフルエンザの新たな飛沫伝播動物モデルを確立するため、ハムスターを用いた実験を行った。その結果、ウイルス株によって、飛沫伝播を起こすものと起こさないものが存在することが明らかになった。2009年に出現したH1N1ウイルスは、効率よく個体間を伝播した。
著者
覚張 シルビア
出版者
東京大学
雑誌
Slavistika : 東京大学大学院人文社会系研究科スラヴ語スラヴ文学研究室年報
巻号頁・発行日
vol.20, pp.19-33, 2005-03-31

レフ・トルストイの作品において、登場人物による精神的探求は、知的・理性的領域よりも、むしろ無意識層にて解決をみることが多い。そうした視点から、無意識世界が大いに投影される夢と記憶に焦点を当てる。夢・記憶の分析を通して、トルストイの生死観の一端を明らかにすることが、本論文の目的である。1869年の夏、領地を買いに出かけたトルストイは、馬車の中で眠りから覚めると同時に、「生きながらにしての死」という恐怖(アルザマスの恐怖)を体験する。『復活』の主人公ネフリュードフは、同様の精神状態を、記憶によって引き出された過去が現在を崩壊することによって、感じることになる。他方、『戦争と平和』のピエール・ベズーホフにおいては、彼の人生の師ともいえるプラトン・カラターエフの死についての記憶と、楽しく快い思い出が同時に甦り、死に際して生を体験したということができる。ピエールは、絶えず人生の意義を模索し、不安定な状態にあったが、カラターエフの死後、水滴に覆われた地球儀の夢を見たことにより、精神的調和が得られた。アルザマスの恐怖に基づいて書かれた『狂人日記』の主人公やネフリュードフにおいては、夢や記憶によって、物質的安寧の上に成り立つ外的・表面的調和を崩されたが、それによって、真の調和に到達する可能性を与えられたともいうことができる。ピエールの夢に現れる地球儀と水滴の関係の分析は、トルストイ後期作品の主人公イワン・イリイチやアンナ、カレーニナを、死との関係において理解することを容易にする。地球儀の中心、つまり神の方へと向かう水滴は、死にゆく人間になぞらえられる。死に際して、水滴は動揺し、空間上の位置を失うが、それと同時に生存中の直線的時間は永遠性のうちに取り込まれていく。意識を失ったイワン・イリイチは黒い袋の中でもがき、アンナはペテルブルグへと向かう列車の中で、ウロンスキーとの邂逅による印象のもとに、時間・空間的、また個人としての感覚を失うが、こうした感覚の喪失こそが、彼らを神の方へと近づけるのである。アンナはこの出会いによって社会的死へと向かうのであるが、それによって、外的調和を失った真の生と対峙させられる。かくして、夢や記憶という無意識層は、人間を死に近づけるとともに、本来の生へと回帰させる可能性さえ孕んでいるのである。
著者
平 敬
出版者
東京大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

昨年度に引き続き実験装置の製作を引き続き行った。本計画の実験装置はSEA-TADPOLE部+光マスク部+最適化・位相復元計算部の3つに分かれており、SEA-TADPOLE部には干渉計部とSHG-FROG部がある。光マスク部の主要部品としてデジタルミラーデバイスを用いたアクティブマスクを購入した。これにより多数のマスクを製作する手間を省くことができた。SEA-TADPOLE部のうち干渉計部に必要な点光源として新たに偏波面保持ファイバーを2本束ねた系の構築を試みた。SHG-FROG部の組み立て・アライメントを行うための顕微観察系を構築した。SHG-FROG部は未だ完成しておらず、引き続き作業が必要である。SEA-TADPOLE部の完成が特に遅れている。最適化・位相復元計算部として、テスト波形を勾配降下法により復元できるシミュレーションを行った。これにより光マスクを取り入れた位相復元計算への道筋が見えた。各部位の未完成部分を仕上げて全体を統合する必要があり、実験装置完成にはあと数か月を要すると予想される。当初計画と異なり、既に改良された要素部品が導入されているため当初計画の2~3年目に行うはずだった改良はすでに終えていることになる。その代わりに全体の完成が遅れている。成果発表に関しては、実験装置が完成していないため行えていない。シミュレーション部分だけでも論文として発表できるかどうか検討中である。
著者
長谷川 寿一 齋藤 慈子
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究は、イヌやネコといった伴侶動物の行動特性と、その家畜化の影響を明らかにすることを目指した。行動特性の遺伝的基盤に関して、ネコでは、イヌと同様に、アンドロゲン受容体遺伝子の多型と社交性の関連が示された。認知特性に関して、イヌではヒトの音声を左半球優位で処理している可能性、ヒトに対する視線接触の犬種差が示された。ネコでは、飼い主と他人の声の弁別、ヒト音声の感情情報の弁別、自分の名前と他の単語の弁別、飼い主の注意状態の弁別ができる可能性が示された。系統発生的変化を明らかにすべく、イヌとネコの近縁種を対象にした研究もおこなった。オオカミでは、同種内のあくびの伝染が確認された。ライオンでは、親和的行動が友好的な関係を維持する機能があること、仲直りによる葛藤解決はみられないことが明らかとなった。さらにイヌネコ同様に家畜化されたウマの近縁野生種であるシマウマでは、おとな個体が子ども個体よりも多く集団移動を率いることがわかった。