著者
坂井 孝一
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
2015

審査委員会委員 : (主査)東京大学准教授 高橋 典幸, 東京大学教授 佐藤 信, 東京大学教授 渡部 泰明, 東京大学教授 近藤 成一, 青山学院大学教授 藤原 良章
著者
鍋島 憲司
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

人々が都市で活動を行う結果,交通量が多く危険が発生しやすい地点というものが存在する.そのような地点を発見する手法を,実際の交通条件を反映した都市モデルと,マルチエージェントシステムと呼ばれるアルゴリズムを利用することによって開発した.また開発した手法を建築空間に応用し,どのような平面形状でパニックが発生しやすいのかを明らかにする評価手法を確立する必要がある.そのための基礎的研究を行った.
著者
池内 恵 御厨 貴 牧原 出 宮城 大蔵 鈴木 均 小宮 京
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

中東における政治・経済・外交の非公式の人的ネットワークを現地の文献・文書資料の発掘と解読を通じて明らかにし、中東への日本の関与に関する官庁・企業の文書資料を発掘し、当事者へのオーラル・ヒストリー記録の採取を行なった。成果は「日本経済外交史プロジェクト・オーラル資料編: イラン革命と日系企業 第一冊 IJPC関係(2)」「日本経済外交史プロジェクト・オーラル資料編: イラン革命と日系企業 第一冊 IJPC関係(3): 永嶋達雄氏(元三井物産)」ケイワン・アブドリ編訳・解説(鈴木均監修)『抄訳 ハサン・ロウハーニー回顧録』、池内恵編『IJPC研究の現状と課題 資料の所在と公開状況』にまとめた。
著者
渡部 洋 曹 亦薇
出版者
東京大学
雑誌
東京大学教育学部紀要 (ISSN:04957849)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.253-256, 1993-03-30
被引用文献数
1

The effects of handwriting on scoring essay tests were explored. The data were obtained from a newspaper company. The examinees were the applicants for the company jobs, and they were asked to write a small essay under the title of "About nation". The essays written by the applicants were copied and are called "handwriting" in this paper. The same paper were typed by a word-processor and are called "word-processed" in this paper. Five university or school teachers rated the essays. It was found that 1. there were no consistent differences between the averaged scores of handwriting and word-processed essays. 2. there were significant differences among rators.
著者
北田 暁大
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

東京都練馬区在住の若者を調査対象者として想定し、趣味・文化にかかわる意識・行動、情報行動、社会への態度について量的調査を行った。その結果、趣味領域ごとの性質の相違や、領域内で「サブカルチャー資本」として機能しうる事柄の違いなどがあきらかとなり、サブカルチャー研究において「サブカルチャー資本」「文化資本」といった概念を適用していく際の理論的・方法論的な課題をあきらかにすると同時に、個別趣味と社会関係の関連性について考察した。
著者
佐野 利器
出版者
東京大学
雑誌
震災豫防調査會報告
巻号頁・発行日
vol.83, pp.15-70, 1916-10-01
著者
蓮實 重彦 中地 義和 工藤 庸子 保苅 瑞穂
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

1960年代から今日に至るまで、フローベールは、もっとも刺激的な批評装置を生み出す源泉でありつづけた作家である。とりわけ近年飛躍的発展を遂げた草稿研究と生成論的アプローチの領域では、プルースト、ランボー、ゾラ等とならんで、実質的踏査と理論的探究の両面においてもっとも充実した成果を見せている。本研究は、(1)フランス国立図書館とルーアン市立図書館に統合されたフローベール草稿資料のうち、マイクロ・フィルムあるいはコピーの形で入手することが可能なものをすべて購入し、日本国内の資料センターとしての機能を果たすこと(2)パリのCNR(国立科学研究センター)の活動に呼応して、研究教育センターとしての活動にとり組むこと、以上2点を目標としたものである。科学研究費補助金の交付を受けた2年間に達成した具体的な成果のうち主なものは以下の通り。1.『ボヴァリー夫人』『感情教育』『ブヴァールとペキュシェ』のマイクロ・フィルムをすべてA3版にプリント・アウトし、ナンバーを打つ(必要なフォリオを適宜参照するにはこの形式の資料を備えておくことが必要不可欠である)。現在マイクロ・フィルムは存在せず、A4版コピーのみ入手可能な『聖アントワーヌの誘惑』『サラムボー』『三つ物語』の草稿資料を購入し、内容を検討し分類整理してナンバーを打つ。以上で資料センターとしての物理的条件はほぼ整った。2.3500枚に及ぶ『ボヴァリー夫人』草稿の表裏のすべての内容を検討し、決定稿の該当ページとの対応を一覧表に作成した。これは草稿研究の基礎作業として極めて価値あるものであり、すでにCNRの研究グループから注目されている。現在は、若手研究者の積極的な参加と協力を得て、未完の問題作である『ブヴァールとペキュシェ』草稿の資料分析をすすめており、今後も大きな成果が期待される次第である。
著者
下田 正弘 小野 基 石井 清純 蓑輪 顕量 永崎 研宣 宮崎 泉 Muller Albert 苫米地 等流 船山 徹 高橋 晃一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2015-05-29

本研究事業は、永続的に利用可能な仏教学の総合的知識基盤を日本に構築し、世界の仏教研究におけるウェブ知識拠点(ハブ)を構築することで次世代人文学のモデルを提供することを目的とする。これを達成するため、(1)大蔵経テキストデータベース(SAT-DB)を継続的に充実発展させ、(2)有望な新規国際プロジェクトを支援し、連携してSAT-DBネットワークを拡充し、(3)人文学の暗黙的方法の可視化を図って人文学テクストの適切なデジタル化を実現するためTEIと連携してTEI-Guidelinesを中心とするテクスト構造化の方法を精緻化し、(4)ISO/Unicodeとの連携し、国内のデジタル・ヒューマニティーズ(人文情報学)に関する研究教育の環境向上を図り、人文学国際化を支援する研究環境を整備する。これらの成果はSAT大蔵経テキストデータベースにオープンアクセスのかたちで反映させることをめざす。本年度は、James Cummings(Newcastle University, UK)、Paul Vierthaler(Leiden University, NLD)を迎えた国際会議「デジタルアーカイブ時代の人文学の構築に向けて」をはじめ、国際会議とワークショップを3回主催し、国内外で招待講演を行うとともに、東大から2度のプレスリリースを行って、当初の研究計画を大きく進展させた。その成果は、次世代人文学のモデルとなる新たなデジタルアーカイブSAT2018の公開となって結実した。SAT2018は、直接の専門となる仏教研究者にとって実用性の高い統合的研究環境を提供するばかりでなく、人文学研究のための専門知識デジタルアーカイブのモデルになるとともに、人文学の成果を一般社会に利用可能なかたちで提供する先進的事例となった。
著者
村上 壽枝
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、リサーチ・アドミニストレーター(以下、URAとする)の役割が大学等の理系研究組織を基に考えられており、大学人文社会系組織におけるURA固有の役割については例が少ない事を問題意識と捉え、事例研究を通じてURAの活動促進に繋げることを目的としている。本研究の開始後に役割分類で参考となるURAスキル標準が、2013年度末の公開という情報を得たため、先ず人文社会系の研究支援事例のシンポジウム参加者ヘアンケートを行い、研究支援業務を行っていないとされる8名を含む45名の回答(回収率60%)を得てスキル標準の公開後に分析した。アンケートでは、支援業務を行っている者に限定した質問の結果、文系組織支援者はスキル標準の③「ポストアワード」支援が多く、理系組織の支援者はスキル標準の一部を除く、①「研究戦略推進支援」、②「プレアワード」、③「ポストアワード」、④「関連専門業務」の支援全般に携わっている傾向があることが分かった。また、バックグラウンドと支援の関連の詳細を調べるため、バックグラウンドがa)文理両方で1名と文系10名(内、理系支援と文系支援各1名以外は全学支援者)と、b)理系3名(理系支援者)のURAにインタビューした。その結果、a)では、スキル標準の①から④のそれぞれに支援該当者がおり、特に④の産学連携とアウトリーチに関する支援が多い傾向が見られた。また、一部のa)のURAからは、支援上、文理関係無いとした見解を得たが、b)のURAからは同様に文理関係無いとした見解を得た一方、実験や医療等専門分野の知識がなければ進められない業務情報も得た。このことから、URAのバックグラウンドと支援組織は文理関係なく支援は行えるとしても、レイヤーによって支援組織や分野の専門知識が必要な場合もあるとした示唆を導くことができた。日本のURAは、今はまだ黎明期であり、今後より多くの事例が見出されることが予想される。
著者
綾屋 紗月
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

目的1.テキスト・マイニング・自然言語処理分析と質問紙票調査テーマ分析の方法によって、ASD者におけるリカバリーの要素について分析を行った。分析結果はホームページを通じて公開するとともに、自然言語処理技術を用いたエピソード検索システム「エピソードバンク」(http://sociocom.jp/episode-bank/)に登録し、当事者研究のアーカイブ化やクラウドソーシングによる仮説生成への活用を目指している。また、そこから抽出された固体要(impairment)についての仮説のうち、触覚過敏に関して、刺激発生装置を用いて検証実験を行い、論文として発表した(Fukuyama et al., 2017)。目的2.ソーシャル・マジョリティ研究会の実施とテキスト作成ソーシャルストーリーにかわる多数派の社会デザインを明示的に説明する日本語でのテキストを、「ソーシャルマジョリティ研究」として、近日中に金子書房から出版する。また次年度4月に、アウトリーチ活動としてテレビ番組で研究内容を広く発信する予定。目的3.他障害との比較によるASD者に合ったコミュニケーション様式の検討2015年‐2016年に行った当事者研究のやり方研究会の結果は、書籍や学会発表の形で公表した。2016年に行った臨床研究の実践場面ををエスノメソドロジー・会話分析の手法を用いて分析し、ASD者にあったコミュニケーション様式に基づく当事者研究のファシリテーション用ビデオと教材を開発した。
著者
田島 公 尾上 陽介 遠藤 基郎 末柄 豊 吉川 真司 金田 章裕 馬場 基 本郷 真紹 山本 聡美 伴瀬 明美 藤原 重雄 稲田 奈津子 黒須 友里江 林 晃弘 月本 雅幸 三角 洋一 川尻 秋生 小倉 慈司 渡辺 晃宏 桃崎 有一郎 北 啓太 吉岡 眞之 山口 英男 金子 拓 遠藤 珠紀 原 秀三郎 神尾 愛子 名和 修 名和 知彦 内海 春代 飯田 武彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2012-05-31

東京大学史料編纂所閲覧室で東山御文庫本、陽明文庫本、書陵部蔵九条家本・伏見宮家本など禁裏・公家文庫収蔵史料のデジタル画像約100万件を公開した。高松宮家伝来禁裏本・書陵部所蔵御所本の伝来過程を解明し、分蔵された柳原家本の復原研究を行い、禁裏・公家文庫収蔵未紹介史料や善本を『禁裏・公家文庫研究』や科学研究費報告書等に約30点翻刻・紹介した。更に、日本目録学の総体を展望する「文庫論」を『岩波講座日本歴史』22に発表し、『近衞家名宝からたどる宮廷文化』を刊行した。
著者
眞溪 歩
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は,注意・不注意,意識・無意識に関する事象関連電位/磁界(ERP/ERF)計測を行うことを目的としていた.そこで,本研究を,目的を直接的に追求するための認知行動実験と,認知行動実験時のERP/ERFを計測・解析する手法の両面から構成した.計測解析手法では,脳領野間の方向付き位相共振を定量化する解析法を確立し, IEEE Tr BME誌に論文発表した.これらを用いた注意・不注意,意識・無意識が介在するERP/ERF解析では,無意識下での認知行動モデルの生成とそれが律動成分の位相共振によって実現視されていることを示唆する結果を得た.
著者
加藤 茂明
出版者
東京大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2010-04-21

転写制御は最近の研究の進展により、染色体環境が極めて重要であることが明らかにされつつある。染色体環境は、染色体構造調節やヒストンタンパク修飾パターン(ヒストンコード)によって調節されており、その活性化状態に応じ転写制御の効率が規定されることがわかりつつある。しかしながら、実際の分子機構やそれら制御因子の実態は必ずしも明らかでない。本研究では、転写制御を支える染色体環境の調節機構をエピゲノム制御やそれら調節因子の同定や機能解析により、転写とエピゲノムの共制御の分子機構の解明を目指している。本年度においては、新たなヒストンタンパク修飾について網羅的な検索を行なうとともに、新たなヒストンコードとしての単糖の機能について解析した。ヒストンH2Bのセリン112番残基に付加される単糖(Nアセチルグルコサミン)は、新たなヒストンコードとして機能し、H2Bリジン120番目のユビキチン化を亢進することを見いだした。このユビキチン化が染色体の活性度を規定する上で極めて重要なヒストンコードであるため、この単糖付加は更に上流に位置する極めて基礎的なヒストンコードであることがわかった(Fujiki et al.,Nature 2011)。また、ショウジョウバエを用いた転写とエピゲノム共制御を担う調節因子を分子遺伝学的アプローチにより検索したところ、ヒストン遺伝子の細胞周期依存的な転写制御と染色体不活性化を規定する重要な因子を見いだした。この因子は、ヒストンH3リジン9番をメチル化することで、周辺の染色体の不活性化を促す因子であることが証明出来た。
著者
遠藤 芳信
出版者
東京大学
雑誌
東京大学教育学部紀要 (ISSN:04957849)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.147-163, 1976-03-30

The "Military Drill" in this treatise means an education and a drill that the man except for the army enforces the education and drill of the action, technique and knowledge of the battle irfthe army to involve the peculiar object and the educational meaning respectively. What "the man except for the army enforces to involve the peculiar object and the educational meaning" had been enforced, historically, in the sense of the line in the chain of the military preparatory education, first, and the National Education and the Formation of the People, especially, the moral and spiritual building, or the gumnastic, second. As rules for teachiing and a teaching syllabus to come under the category of the above of the "Military Drill" in the school education in Japan, we had had the Particulars of the Army Gumnastic of the Common Middle School in 1886, be for 1910 s, and the Drill in the Teaching Syllabus of the School Gumnastic in 1913 and the Teaching Syllabus of the Drill in 1925, since 1910 s, for example. The "Military Drill" in Japan had aimed at the National Education and the Formation of the People consistently. And, if we analyze the contents and methods of the "Military Drill", firstly we must research into the means of the Formation of the People that the contents and methods of the "Military Drill" involve, and especially we must research into the relation of the combination on the human about the rule and obedience in the contents and methods of the "Military Drill", because, it be able to think that the intentional reletion of the combination on the human about the rule and obedience especially in the social relations is important to the formation of the people and their personalities. So, I will research into the relation of the combination on the human about the rule and obedience in the contents and methods of the "Military Drill". Well, if we begin to analyze the contents and methods of the "Military Drill", first we must investigate the drill regulations for the infantry by way of the base teaching materials of the Drill since 1910s, because, the Drill in the Teaching Syllabus of the School Gumnastic in 1913 had expressed clealy that "the Drill complies with the rules of the drill regulations for the infantry", for example. Namely, the "Military Drill" of the School Education in Japan had been baseed on the drill regulations for the infantry. And, the Drill in the Teaching Syllabus of the School Gumnastic in 1913 had complied with the Drill Regulations for the Infantry in 1909, meanwhile, the Drill Regulations for the Infantry in 1909 had played up the fundamental principle of the editing till the Drill Regulations for the Infantry in 1940. And, the Revision of the Drill Regulations for the Infantry in 1909 had been editied after the Russo-Japanese War. So, it is necessary for us to investigate the precept and battle on the Russo-Japanese War in the Japanese Army to analyze the Drill Regulations for the Infantry in 1909, and the contents and methods of the "Military Drill" since 1910 s. By reason of the above, in this treatise, I investigate some basic problems of the precept and the battle on the Russo-Japanese War in the Japanese Army together with the Drill Regulations for the Infantry in 1909 within the object of the analysis of the contents and methods of the "Military Drill" since 1910 s. At this time, it is exceedingly important for us to criticize the esteem of the mind and spiritual energy as fidtitious form that had been emphasised in the Japanese Army. And, I have tried to clarify that the Japanese Army had never set value on the mind and spiritual energy in their drill and the education in army. It was not the mind and spiritual energy but the force and violence that the Japanese Army had set value on. Namely, the Japanese Army had payed attention to the meanings of the Formation of the People that the contents and methods of the combination on the human about the rule and obedience (the limitless watch and interference toward the mind and thoughts, the control of the specific type of the action, the scorn of the personality in accordance with the force and violence, the distrust toward the soldier, the negation of the originality of the soldier) in the drill regulations for the infantry and the education in army bring to completion. And, the Military Authorities in Japan would have strengthened the poritical power of the domination in accordance with the magnification of the above Drill (and the Education in Army) throughout all the branch of the National Education, intentionally, and systematically, since the Russo-Japanese War.
著者
佐藤 学 岩川 直樹 秋田 喜代美
出版者
東京大学
雑誌
東京大学教育学部紀要 (ISSN:04957849)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.177-198, 1991-03-30
被引用文献数
18

It is well known that expert teachers form and use elaborate practical knowledge and thinking styles in their teaching. This paper illuminates five expert teachers' and five novice teachers' practical thinking in on-line (thinking aloud) and off-line (writing report) monitoring. Through comparing the experts' thought processes with novices, our research comes to a conclusion that the practical thinking styles of expert teachers are characterized as the following five features: (1) impromptu thinking in teaching, (2) active, sensitive and deliberative involvement in an ill-structured situation, (3) multiple view points to probe and to detect a practical problem, (4) contextualized thinking in pedagogical reasoning, and (5) problem framing and reframing strategy in a context. The result offers several implications for rethinking the concept of teaching expertise.
著者
大井 奈美
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度の研究成果としては以下の三点を挙げることができる。第一に俳句研究にたいする成果について述べる。オートポイエーシス概念にもとづく情報学すなわち基礎情報学を応用して近現代俳句を分析することにより、既存の諸アプローチによる研究(たとえば文献学的研究、テクスト論的研究、認知科学的研究など)では十分にとらえきることが難しかった俳句独自の特徴について多角的にあきらかにした点を挙げることができる。その特徴とは、第一に俳句が俳句結社などの共同体やメディアと非常に密接な関係を結んでいる点、第二に共同体やメディアと作家とのあいだに師弟関係に代表される力関係が存在する点であった。こうした特徴にかんして、本研究の情報学的=構成主義システム論的アプローチによって、たとえば俳句結社における作句に、結社誌の存在や師弟関係がいかなる影響をおよぼすのかを説明することができた。以上述べた俳句研究における成果にとどまらず、基礎情報学という理論的枠組を発展させた点も本研究の第二の成果として挙げられる。具体的には、通時的な考察の導入、自律システム同士の関係性、システムの作動メカニズムと情報概念との有機的関係づけなどをとおして理論を深化させることができた。成果の第三として、既存の文学システム論研究が抱えていた問題点に一つの解決をあたえたことを挙げることができる。基礎情報学は二次観察概念を核とするセカンド・オーダー・サイバネティクス(ネオ・サイバネティクス)に含められる理論的枠組であるが、セカンド・オーダー・サイバネティクスを応用する文学研究は、すでにドイツを中心におこなわれてきた。それには、いわゆる経験的文学研究の潮流もふくまれていた。本研究をつうじて、文学システム論が有していた、文学テクストをめぐる理論を研究作業のなかに位置づけることが難しいなどの弱点を克服する道が拓かれ、情報学的=システム論的文学研究の可能性が拡張された。
著者
尾本 恵市 袁 乂だ はお 露萍 杜 若甫 針原 伸二 斎藤 成也 平井 百樹 YUAN Yida HAO Luping 袁 いーだ 〓 露萍 三澤 章吾
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

本研究は、中国東北部の内蒙古自治区および黒竜江省の少数民族であるエヴェンキ族、オロチョン族ならびにダウ-ル族の集団の遺伝標識を調査し、中国の他の集団や日本人集団との間の系統的関係を推定しようとするものである。このため、平成2年度には予備調査として各集団の分布状態や生活の概要、ならびに採血の候補地の選定などを行い、平成3年度に採血および遺伝標識の検査を実施する計画をたてた。平成2年度には、まず内蒙古自治区のハイラル付近にてエヴェンキ族の民族学的調査を実施した。エヴェンキ族は元来シベリアのバイカル湖の東側にいたが南下し、南蒙古自治区に分布するようになったといわれる。本来はトナカイの牧畜と狩猟を生紀テント生活をしていたが、現在では大部分は村落に定住し農耕を行っている。われわれは、さらに北上してソ連との国境に近いマングイ地区にて未だ伝統的な狩猟とトナカイ牧畜の生活をしているエヴェンキ族の民族学的調査をした。次いで、大興安嶺山脈の東側のオロチョン族の村落をたずね、民族学的調査を実施した。オロチョン族は大興安嶺北部および東部に散在して分布し、人口はわずかに約3千2百人(1978年)である。元来は狩猟と漁労を生業としていたが、現在では村落に定住し、農耕を行っている。エヴェンキとオロチョンの身体的特徴としては平坦な丸顔、細い眼、貧毛などの寒冷適応形態をあげることができる。われわれは、さらに、黒竜江省との境界に近いモリダワ地区にてダウ-ル族の民族学的調査を行った。ダウ-ル族はエヴェンキやオロチョンと異なり、それほど頬骨が張っていず、かなり系統の異なる集団であるとの印象を受けた。日本隊の帰国後、中国側の分担研究者により、ダウ-ル族150名の採血が実施され、遺伝標識(血液型9種、赤血球酵素型8種、血清タンパク型4種)の検査もなされた。平成3年度には、ハイラル市の近くの民族学校にてエヴェンキ族の117検体を採血し、またオロチョン族については内蒙古自治区のオロチョン旗(アリホ-)および黒竜江省の黒河の近郊にて81検体を採血した。これらの試料につき、血液型10種、赤血球酵素型6種、血清タンパク型3種の型査を行い、18の遺伝子座に遺伝的多型を認めた。個々の多型の検査結果のうち、特に注目すべき点は次の通りである。Kell血液型では、エヴェンキではK遺伝子は見られなかったが、オロチョンではごく低頻度(0.006)ではあるがK遺伝子が発見された。この遺伝子はコ-カソイドの標識遺伝子であり、モンゴロイドでは一般に欠如している。今回の結果は、オロチョンの集団にかつてコ-カソイド(おそらくロシア人)からの遺伝子流入があったことを示す。同様のことは、赤血球酵素のアデニル酸キナ-ゼのAK*2遺伝子に見られた。この遺伝子もコ-カソイドの標識遺伝子であるが、エヴェンキに低頻度(0.009)ではあるが発見された。また、血清タンパクのGC型のまれな遺伝子1A2がオロチョンで0.012という頻度で発見されたことも興味深い。この遺伝子は始め日本人で発見されGcーJapanと呼ばれていたもので、従来、朝鮮人には見られるが、中国の集団からは発見されなかった。したがって、この遺伝子の分布中心は東北シベリア方面である可能性が示唆された。これらの遺伝子の頻度デ-タにもとづき根井の遺伝距離を算出し、UPGMA法および近隣結合法により類縁図を作成した。比較したのは中国の少数民族6集団および日本の3集団(アイヌ、和人、沖縄人)である。日本人(和人)に最も近縁なのは朝鮮人であり、ついでダウ-ル族およびモンゴル族がこれに続く。このことは、日本人(和人)の形成に際し朝鮮からの渡来人の影響が大であったことを物語る。エヴェンキとオロチョンとはひとつのクラスタ-を形成するので、互いに近い系統関係にあると考えられる。しかし、両集団共日本の3集団とはかなり遠い系統関係にあることが明らかとなった。