著者
大須賀 穣
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

子宮内膜症はTh2型免疫応答が亢進した慢性炎症性疾患である。また、疫学的にアレルギーと関連すること、臨床的にエストロゲン依存性であることが報告されている。本研究では、以下の2点を示した。第一に、Th2型アレルギー性炎症の新しい基幹分子であるTSLPの発現が子宮内膜症の病態に関与していることを示した。第二に、Th2型免疫応答と炎症が、子宮内膜症病巣局所においてHSD3B2を相乗的に誘導することで、病巣局所でのエストロゲン産生を誘導することが示された。本研究の成果は、アレルギー性炎症やHSD3B2の調節が、子宮内膜症の新たな治療法となりうる可能性を示すものである。
著者
山城 貢司
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

1 イスラーム伝統において、アラビア語の単語mi‘rajが預言者ムハンマドの神秘的天界上昇を表すのに用いられる理由が、(a) 天国と地上が宇宙的階梯によって結ばれているという世界観 (b) 預言者ムハンマドによるvisio Deiの可能性、という二つの神学的トポスを背景にしてのみ理解可能であることを示した。また、これらの神学的トポスがクルアーン自体に反映されている最初期のイスラーム思想に由来することを文献学的分析によって明らかにした上で、類似のユダヤ教伝承との比較考察を行なった。最後に、以上の議論に基づき、ミウラージュ伝承の発達について新たな見地を提示することを試みた。2 まず初めに『アダムの黙示録』の成立史を文献学的な手法によって解明した。これによって、『アダムの黙示録』が、「アダムとイブの生涯」と「セトの黙示録」という二つの資料と最終編纂者による加筆部分から構成されていることが判明した。続いて、この知見に照らして、『アダムの黙示録』におけるアイオーン論・救済史観・神話的構造(及びそれらのユダヤ的背景)について詳細に分析した。その際、セト派グノーシス主義における洗礼儀礼の位置付けに特に注意を払った。最後に、最終編纂者の手になると見られるグノーシス的救世主の由来についての従来ほぼ未解明だった謎歌(「13の王国の讃歌」)について、シンクレティズム的観点から体系的な説明を与えた。3 身体の延長としての道具の使用によって可能となった現象学的意味での時間抱握は、同時に神話生成と暴力の起源でもある。このテーゼの根拠づけと展開のうちにおいてこそ、アブラハム的一神教における身体性と救済思想の関係は考察されねばならない。このようにして、西洋キリスト教思想の終着点を、技術文明に内包された終末論の問題として論じることが可能となるであろう。
著者
安冨 歩 深尾 葉子 高見澤 磨 大木 康 川瀬 由高
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

いわゆる「共通の」何かによって社会秩序を担保する、という発想の限界を離脱するために、中国社会の紛争の場面における解決の作動原理を探求した。その結果、周囲にいる人々の好奇心に基づいているように見える、いわゆる「野次馬」的な行動が、重要な役割を果たしていることが明らかとなった。かつて路上で頻繁に展開されていたその現象は、現在ではインターネット上で観察される。この原理は、人類社会、一般に見られるものと予想している。
著者
榊 佳之 金久 實 小原 雄治 大木 操 中村 桂子 高久 史麿
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究は平成2-12年度に行われた特定領域研究「ゲノムサイエンス」の研究成果をまとめ、公表し、我が国のゲノム解析計画を新段階へと発展させることを目指すものである。そこでは「ヒトゲノムの構造解析」、「ゲノムの機能解析」、「ゲノムの生物知識情報」の3項目を中心に各々に成果を取りまとめ、公開シンポジウムなどを通して社会にゲノム研究の現状、意義と今後の展望を示すことを目標とした。研究成果の報告書は、既に平成12年度の研究成果報告と共に5年間のまとめを合わせて研究成果報告書として世に出したので、今年度は公開シンポジウムに焦点をあてて研究成果を社会に公開することとした。公開シンポジウムは日本科学未来館の協力のもと、関東一円の中高生を中心に若者世代を対象として行われ、約300名が参加した。「ゲノムから見たヒト」、「ゲノム科学の医学への応用」、「ゲノムから見た発生分化」などをテマとした。講演と共にパネル討論会も開催した。また未来館長の毛利衛氏の挨拶も頂いた。この公開シンポジウムの企画は文科省ヒトゲノム計画の中核となる本研究班の班会議で決定されたが、その内容は、我が国のバイオサイエンス全般、特に多くの国民の健康に直接かかわる疾患の医学研究の発展にとっても重要なものであり、その社会的意義、必要性、緊急性はきわめて大きいと言える。
著者
高橋 哲哉 山脇 直司 黒住 眞 北川 東子 野矢 茂樹 山本 芳久 古荘 真敬 信原 幸弘 石原 孝二
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

旧約聖書の「殉教」物語の検討から、ユダヤ教的「殉教」観念が靖国思想に酷似した犠牲の論理から成り立っていること、キルケゴールがアブラハムによるイサク犠牲の物語に読みこんだ「悲劇的英雄」と「信仰の騎士」の区別は厳密には成り立たないことを確認した。ニーチェがナザレのイエスに見た「根源的キリスト教」は、罪からの解放のためにいかなる贖いも求めない「犠牲の論理なき宗教」だという結論を得た。
著者
北中 幸子 磯島 豪
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

小児期にビタミンDが不足すると、乳児けいれん、O脚、低身長、運動発達障害などを呈するビタミンD欠乏症を発症する。環境因子の変化により近年患者数が増加しているが、環境因子だけで説明できない例も多く、遺伝性素因の検討を行った。その結果、ビタミンD受容体、ビタミンD結合蛋白、NAD合成酵素の多型に対照群と有意差がみられた。さらに特定のハプロタイプの関与が強く認められた。さらに、臨床的にビタミンD欠乏症の経過を呈する症例に遺伝性くる病が明らかとなり、遺伝子解析の有用性が明らかとなった。
著者
秋 教昇 都司 嘉宣 朴 昌業 姜 泰燮
出版者
東京大学
雑誌
東京大學地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.11-27, 2012-03-26

Recently, it was reported that Mt. Beakdu experienced at least four or five large volcanic eruptions in geological and historical times, and that the lake Cheonji had been formed by the collapse of a part of the mountain's summit (Wei et al., 1998). The last of four eruptions occurred in historical times. Geologists attempted to estimate the period of the eruptions using radio carbon isotope dating, but the results showed a variety of periods ranging from approximately AD 8th to 14th centuries, which are the dates of the Balae and Goryo dynasties. Unfortunately, there are no distinct records of eruptions during this period. In the present study, we suggest that the last great volcanic eruption occurred in winter when there was a strong northwestern seasonal wind, based on the distribution of pumice on satellite images and the thickness of pumice layers measured at sites in relationship to the climatic environment. On the other hand, some researchers interpreted that five events described in the Joseon Dynasty relate to volcanic eruptions of Mt. Baekdu. Those events occurred in 1413, 1593, 1668, 1702, and 1903. Their interpretations are widely cited in journals and books; however, based on critical reviews of historical literature including Joseon-wangjo-sillog ("Chronology of the Joseon Dynasty"), we found that three of the events were not related to volcanic eruptions of Mt. Beakdu. Events in 1413 and 1668 were Asian yellow sand storm. The event in 1903 recorded in Chinese literature (Liu, 1909) was found to be a shower of rain and hail accompanied by thunder and lightning. Only the two events in 1597 and 1702 were confirmed to be related to volcanic activities of Mt. Beakdu. According to Joseon-wangjo-sillog, a large earthquake with the maximum intensity of 9.0 on the Modified Mercalli Intensity scale (MMI) and its aftershocks occurred at the boulder region of Samsu county, Hamgyeongdo Province, in 1597. The document reveals that they were detected in Hamgyeondo (MMI6) and in Chungcheong-do (MMI5) over three days. The mainshock was accompanied by a volcanic explosion at Wangtian, which is located 35km southwest from Mt. Baekdu. The site is one of the three eruption centers of the Mt.Beakdu volcanic body. A document from China reveals that a large earthquake with an estimated magnitude of 7.0 and aftershocks occurred in the Gulf of Bohai on the same day as the Samsu earthquakes in Hamgyeongdo province. The shakes and disturbances observed eight times in Hamgyeong-do province might not be directly related to the large earthquake in the Gulf of Bohai. However, two series of earthquakes reported at two locations on the same day imply that there may be close relationships between the genesis of the two events. Based on phenomena observed recently, such as increased frequency of earthquakes, upheaval of ground level, releases of volcanic gases, and increased temperature of hot springs near the summit of Mt. Beakdu, the possibility of eruptions or explosions at the mountain in the near future has been suggested. Recently, scientists from the United States of America, Japan, Canada, and Germany were invited to investigate activity of the mountain. They agreed that the mountain is a dormant volcano and presents a temporal hazard.
著者
斉藤 一哉 野村 周平 丸山 宗利 山本 周平 舘 知宏
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

甲虫目を初めとする折りたたみ型の後翅を有する昆虫の翅の展開・収納行動をハイスピードカメラ,3次元計測技術を用いて詳細に観察する手法を構築し,ハネカクシ,テントウムシの収納・展開メカニズムの解明に成功した.折紙の幾何学を用いて翅のデザインを弾性力学的観点から説明する新しい折りたたみモデルを提案すると共に,人工の展開翼に応用するための折線パターンの一般化を行った.昆虫の翅は,人工物とは比較にならないほどの高い収納率,展開再現性,信頼性,軽量性を併せ持っている.本研究成果はこれらの優れた特性を工学応用する道を開くものである.
著者
佐藤 岩夫
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.81-108, 2005-03-30

日本の違憲審査制の現実の運用の特徴として違憲判決が極めて少ないことはよく知られている.その原因についてはさまざまな指摘があるが,その1つとして,内閣法制局による厳格な事前審査の存在があげられることがある.それによれば,内閣法制局による法律の厳格な事前審査の存在が裁判所の事後的な司法審査の機能領域を小さなものにしている.本稿は,この説明の妥当性を比較法社会学的な手法を用いて検証し,厳格な事前審査の存在が直ちに事後的な司法審査の機能領域を縮小させるのではなく,裁判所が自らの役割について一定の選択をしているという媒介要因(司法の役割観judicial role conception)が重要であることを主張する.
著者
大桃 敏行 秋田 喜代美 村上 祐介 勝野 正章 牧野 篤 藤村 宣之 本田 由紀 浅井 幸子 北村 友人 小玉 重夫 恒吉 僚子 小国 喜弘 李 正連 植阪 友理 市川 伸一 福留 東土 新藤 浩伸 齋藤 兆史 藤江 康彦 両角 亜希子 高橋 史子 星野 崇宏 伊藤 秀樹 山本 清 吉良 直 星野 崇宏 伊藤 秀樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

日本を含めて多くの国で多様化や競争、成果に対するアカウンタビリティを重視するガバナンス改革が行われてきた。また同時に、単なる知識や技能の習得からそれらを活用する力や課題解決力、コミュニケーション能力などの育成に向けた教育の質の転換の必要性に関する議論が展開されてきた。本研究の目的はガバナンス改革と教育の質保証との関係を検討しようとするものであり、成果志向の改革では、広い能力概念に基づく教育において評価がどこまでまたどのように用いられるのかが重要な課題となってきていることなどを示した。
著者
高 吉嬉
出版者
東京大学
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.1-10, 1997-12-12

There is a wide gap of understanding modern history of East Asia by Koreans and Japanese people. It sometimes prevents two contries from improving the relationship. The aim of the present paper is to clarify such a gap in order to open the mutual educational horizon. The focus is a gap of understanding the separation and reunification of Korean Peninsula. The author summarizes recent surveys on mutual recognition between the two contries. Japanese indifference and ignorance of history and Koreans misperception were analized. By pointing out both Japan's and Korea's responsibility in the separation of Korean Peninsula, the present paper proposes the Japan's task and role for the reunification of North and South Korea to establish the peace of East Asia.
著者
藤尾 圭志 駒井 俊彦 井上 眞璃子 森田 薫 照屋 周造
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本課題では制御性T細胞が産生する抑制性サイトカインTGF-βによる液性免疫制御機構を解明し、新たな自己免疫疾患治療戦略の確立することを目指した。本研究により、TLRシグナルを介したB細胞活性化制御には、TGF-βおよびIL-10の協調的作用が必須であるという知見を得た。さらに、TGF-β/IL-10による抑制はB細胞におけるミトコンドリア機能制御を介していることを明らかにした。これらの検討により、Tregを介した液性免疫抑制機構におけるB細胞エネルギー代謝制御の重要性が示された。これらの成果は、自己抗体産生を介した自己免疫性疾患の新規免疫抑制療法開発の一助となると考えられた。
著者
池澤 優 近藤 光博 藤原 聖子 島薗 進 市川 裕 矢野 秀武 川瀬 貴也 高橋 原 塩尻 和子 大久保 教宏 鈴木 健郎 鶴岡 賀雄 久保田 浩 林 淳 伊達 聖伸 奥山 倫明 江川 純一 星野 靖二 住家 正芳 井上 まどか 冨澤 かな
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、欧米において成立した近代的宗教概念とそれに基づく宗教研究が、世界各地、特に非欧米社会においてそのまま受容されたのか、それとも各地域独自の宗教伝統に基づく宗教概念と宗教研究が存在しているのかをサーヴェイし、従来宗教学の名で呼ばれてきた普遍的視座とは異なる形態の知が可能であるかどうかを考察した。対象国・地域は日本、中国、韓国、インド、東南アジア、中東イスラーム圏、イスラエル、北米、中南米、ヨーロッパである。
著者
市川 裕 佐藤 研 桑原 久男 細田 あや子 高井 啓介 月本 昭男 高橋 英海 菊地 達也 長谷川 修一 葛西 康徳 江添 誠 牧野 久実 小堀 馨子 鎌田 繁 中西 恭子 土居 由美 嶋田 英晴 志田 雅宏 櫻井 丈 小野 塚拓造 山野 貴彦 アヴィアム モルデハイ
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

ユダヤ教の歴史を調べていくと、のちに出現する二つの一神教、キリスト教とイスラーム、を生み出す基盤になっていることがわかる。宗教学の歴史は信仰を基盤とする西欧のキリスト教を宗教の一般モデルとしたため、このモデルから外れる諸要素は関心から外れた。しかし、イスラームとラビ・ユダヤ教はそれぞれ、シャリーアとハラハーを特徴とする啓示法の宗教であり、預言者に啓示された神の意志は、日常生活の行動様式を詳細に規定している。これら一神教の二つの異なる類型がともに古代ユダヤ社会に起源を有することを示して、一神教の歴史全体を動態的に理解する道筋を示すことは、人類の宗教史を考察する上で文明史的意義を持つものである。
著者
市川 裕 佐藤 研 桑原 久男 細田 あや子 上村 静 高井 啓介 月本 昭男 土居 由美 勝又 悦子 長谷川 修一 葛西 康徳 江添 誠 牧野 久実 高久 恭子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

今年度の主たる実績は、以下の三つに分けられる。第1に、2017年8月に、イスラエルのテル・レヘシュ遺跡で、シナゴーグの全容を解明する発掘調査を実施した。これによって、本シナゴーグは、モーセ五書の巻物を置く台座と思われた石は、天井を支える支柱の礎石であることが判明し、全体は簡素な矩形の部屋に過ぎないことが明らかとなった。ここから、シナゴーグの用途を、安息日のトーラー朗読にのみ限定して考える必要がないものと想定された。第2に、出土した西暦1世紀のシナゴーグの発見がもたらす意義に関して、同時代的、宗教史的、比較宗教学的視点から、研究成果を持ち寄って、公開シンポジウムを実施した。シンポジウムの全体テーマは、「イスラエル新出土シナゴーグから 一神教の宗教史を見直す」である。( 2018年3月2日(金) 13時-18時 東京大学本郷キャンパス 法文1号館 113教室。)第3に、シナゴーグがユダヤ社会において果たした役割の変遷を、古代から中世にかけて考察するシンポジウムを実施した。シンポジウムの全体テーマは「ユダヤ共同体とその指導者たち -古代から中世へ-」である。(2018年1月21日(日)13:00-18:00 東京大学本郷キャンパス法文1号館113教室。)カイロで発見されたゲニザ文書から推定される、中世旧カイロ市(フスタート)のシナゴーグと共同体の関係について、イスラエル人の専門家の知見を得られたことは、歴史的変遷を明らかにするうえで非常に有益であった。
著者
平井 秀幸
出版者
東京大学
雑誌
東京大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13421050)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.159-170, 2005-03-10

Recent tendency of intervention in drug use is said to have been in some transition. This paper is a tentative trial to give an perspective which can analyze this transition. Firstly, I try to review some studies about drug use and point out their peculiarities and problems, Secondly, I re-examine labeling-interactionist perspective, giving shape to our own perspective. Finally, from sociological view, I specify our perspective deliberately.