著者
野口 和彦
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 教養学部 (ISSN:03892018)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.237-257, 2005-03-30

中ソ関係は1950年代後半から悪化し,60年代末に緊張は最高潮に達した。そして社会主義陣営の「冷戦」は,1969年のダマンスキー島/珍宝島事件で「熱戦」へと転化した。本論文では,中国とソ連の国境をめぐる武力衝突の根本的原因を究明する。ここでは,国際システム・レベルと国内レベルの両面から,中ソ国境紛争の原因を探る。ソ連の軍事的強大化による力の不均衡は,中国のソ連に対する脅威認識を強めた。中国はソ連の攻勢を抑止するために,紛争がエスカレートしにくい小島で,挑発の範囲と規模を限定した対ソ攻撃に踏み切ったと思われる。同時に中国の文化大革命は反ソ的特徴を持っていたため,ソ連との安全保障上の競争を極度に激しくしてしまった。つまり,69年の中ソ国境武力衝突は,中国がソ連に対して仕掛けた予防攻撃だと説明できる。
著者
堀越 哲郎
出版者
東海大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、アンチセンスRNA増幅法の導入により、ウミウシという各種の遺伝子の塩基配列が未知の動物について、古典的条件付けによる神経細胞での遺伝子発現量の変換を検出することを当初の目的として行った。遺伝子発現を検出するためには各遺伝子のDNAプローブが必要であり、神経可塑性に関与する可能性のある遺伝子としてPLC、CREB、PKC、TRK遺伝子、および全mRNA量の指標として解糖系酵素GAPDHの遺伝子のDNAプローブを作製した。文献とのDNAデータベース検索により各遺伝子の保存性の高い領域を探し、それに相当するDNA断片をラットまたはマウス脳cDNAからPCR法にて増幅し、精製してプローブとした。これらのプローブが軟体動物腹足類に対して使用可能かどうかを、モノアラガイ中枢神経系からジゴキシゲニン標識アンチセンスRNAを作製し、ドットブロットハイブリダイゼーション法で判定した。その結果、複数のプローブが使用可能なことが確認されたが、いずれもシグナルが弱く、単一神経細胞レベルでの検出は困難であると思われた。アンチセンスRNAを電気泳動で観察すると比較的短いRNA断片が多く、テンプレートである2本鎖cDNA作製法に問題があることが示唆された。cDNA作製法を改良するためにはcDNA合成効率を見積もる指標が必要であると考え、モノアラガイras遺伝子の部分塩基配列の決定を行ない、PCR法により検出することで指標とした。その結果、これまでのcDNA作製法ではモノアラガイ中枢神経系約2万分の1個分のcDNAからras遺伝子発現が検出された。現在はcDNA作製過程を改良しており、予備実験では少なくとも100倍程度増やすことが可能となってきている。モノアラガイ中枢の神経細胞数が約2万5千個であることを考え合わせると、今後、単一神経細胞レベルで遺伝子発現量が測定できるものと考えている。
著者
関根 嘉香 武政 晃弘 太田 栞 三澤 和洋 熊井 夕貴
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

微小粒子状物質(PM2.5)に含まれる酸化還元活性物質(キノン類等)は、生体内で活性酸素の生成を促し、活性酸素による酸化ストレスが健康障害を引き起こす可能性がある。そこで本研究では、酸化チタンを担持した石英繊維フィルターを作成し、PM2.5をろ過捕集した後に紫外線(UV)を照射し、光触媒反応によるPM2.5の無害化を試みた。その結果、UV照射に伴いPM2.5の重量、有機・元素状炭素量が減少すると共に二酸化炭素の生成が認められ、光触媒反応により炭素成分を分解できることがわかった。またPM2.5の活性酸素産生能はUV照射後に有意に減少し、酸化ストレスの緩和に寄与することがわかった。
著者
オメル アイダン 川本 眺万 大塚 悟 久野 覚 片木 篤 西 順次 YUZER Erdoga
出版者
東海大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

本研究ではトルコ・カッパドキア地方にあるデリンクユ古代地下都市を対象として、その住環境および安定性についてまとめたものであり、次の順次で研究成果をまとめている。1) カッパドキア地方の地理、地質、気候、火山活動、地震活動等についてまとめ、地下都市成立要因を昼夜の温度差、建材となる樹木が少ない、地質的には掘削しやすい凝灰岩、地震からの避難等の理由と考える事ができることを明らかにした。2) この地方の歴史背景についてまとめた。歴史背景においては、敵からの迫害や周辺国からの侵略から身を守る為に地下に住んだ事の可能性が高いことを示した。3) カッパドキア地方の地下都市に存在する凝灰岩について既存の実験結果と今回行った実験についてまとめ、さらに凝灰岩の長期、短期特性について収集および整理した。また、地下都市の存在する岩盤の評価も行った。4) 考古学的見解から、カッパドキア地方を中心にこの地域の鉱山活動についてまとめ、カッパドキア地方周辺の遺跡の出土品と鉱山活動から、この地方において地下空間利用は少なくとも紀元前3000年頃までさかのぼることと結論づけた。5) カッパドキア地域の地下空間利用は1500年前よりも以前であることを紹介し、現代における地下空間利用事例として貯蔵施設,(果物、野菜、ワイン)、地下工場、半地下ホテルやレストラン、半地下住居、地下野菜栽培施設を紹介し、そのメリット・デメリットを論じた。6) デリンクユ地下都市に関して空間形態の分析を行い、実験データをもとに、換気シャフトおよび地下7階ホールの短期、長期安定性についてまとめ、なぜ今日まで地下都市が残っていたのかを力学的に明らかにした。7) 住環境に対して本研究で行った計測結果にもとづいて地下都市の換気シュミレーションを実施し、地下都市内部の発熱要素は換気に影響を与える事がなく、外気温が換気に大きく影響を与えており16℃以下という条件で換気が行われていたことを示した。特にこの地方は、年間を通して夜には16℃以下となり換気を損なうことはないことが明らかになった。これらの調査・分析・解析結果からデリンクユの空間形態および1万人以上の人々が生活する事のできる地下都市の換気構造を明らかにし、また、有限要素法解析から、地下都市が安定している事を明確にした。
著者
繁田 亜友子 濱本 和彦 野須 潔
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.117-125, 2011-03-31
被引用文献数
2

本研究は,学習者が問題解決中に学習内容に対して主観的に感じる「簡単」,「難しい」の評価を主観難易度と定義し,選択式英語リスニング電子教材を対象に,学習者の解答時間における眼球運動から問題個別の主観難易度を推定する手法を提案する.まず,大学生5 名(男性2 名,女性3 名)を対象に学習中の眼球運動と学習内容に対する主観評価とを対応付ける測定実験を行い,推定に有効と思われる特徴量について検討した.t 検定の結果,主観難易度の評価間において眼球運動の移動速度,視野角度変位,移動速度の標準偏差,視野角度変位の標準偏差,瞬きの回数に有意差が確認されこれらを特徴量とすることとした.次に,抽出した特徴量を用い,学習者の主観難易度をマハラノビス距離により推定した.マハラビス距離の演算時は,固有値の影響を考慮し累積寄与率が97%以上となる第m 番目の固有値までを用いた.シミュレーション実験の結果,「簡単」84.2%,「難しい」88.5%の推定の一致率が得られた.
著者
大泉 宏 中原 史生 吉岡 基 三谷 曜子
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

北海道の釧路沖と羅臼沖でシャチ(Orcinus orca)の調査を行った結果、2007年から2017年の写真から両海域で合わせて380個体が識別され、既知の個体と合わせ計506個体が登録された。海域共通の個体は少数であったこと、海域に独特の鳴音があったこと、衛星標識個体の回遊範囲が異なっていたことから、両海域のシャチは少なくとも行動圏の異なる比較的独立した集団と考えられた。衛星標識個体は千島列島から太平洋西部にまで回遊し、鳴音にはロシア沿岸の集団との関連が予想された。北海道東部にはシャチの重要な生息地があることを明らかにでき、その分布範囲と個体群構造の基礎的知見を構築することが出来た。
著者
MATSUDA Keizo
出版者
東海大学
雑誌
Proceedings of the Faculty of Science of Tokai University (ISSN:05636795)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.69-73, 1984-03-31

Magnetite is synthesized from the mixed solution of urea and iron (II) and iron (III) chloride at about 100℃ for 5h or 15h, in the magnetic field of 10000G. Brownish-yellow β-FeOOH suspension is initially formed by the hydrolysis of iron (III) ion and magnetite is finally formed in each condition. From the results of Mossbauer spectra of the products at room temperature, it is clear that the surface of magnetite prepared for 15h is oxidized easily and that changes to amorhous γ-FeOOH or γ-Fe_2O_3 or Fe(OH)_3.
著者
朝倉 徹
出版者
東海大学
雑誌
東海大学課程資格教育センター論集 (ISSN:13492438)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.43-49, 2006

1910年代からアメリカ,フランス,ドイツ等を中心に「科学的管理法」が浸透し,その後日本にも波及した。「科学的管理法」は「効率・能率主義」を生み,それが社会思想,教育思想にも大きな影響を及ぼした。その一例は,多くの小説や映画,教科書教材(等のメディア)が露骨な主題主義,単純明快な人物感情描写へと変質した(「道徳的価値」の分かりやすい提示=強制)ことであり,その過程で効率良く「正解」を教え込むために事実の捏造も行われた。その後,敗戦による価値観の大変動という転換期を経て,小説や映画は主題を隠し,受容者(読者と視聴者)の解釈に依存する形をとるようになった。学校教育(国語科)でも読解に力を入れ,主題や人物感情の思惟に時間を割くようになった。しかし,1990年代以降,社会にも学校教育にも「効率・能率主義」が復権してきている。「役に立つ」ことを教授することが,教室の中でも,教育研究者の間でも疑うことなく是とされる傾向が見え始めている。「役に立つ」ことは,教育する側が価値づけした事柄であり,それについて逡巡することなく安易に,一方的に提示する指導法は戦前・戦中の思想教育と同質である。この現状に対する処方箋は,「価値ある事柄・事実」を提示・受容(学習)することを懐疑し,「価値・事実」を相対化する(疑いながら受容する)過程の重要性を確認するところから生まれる。人間の認識は,必ず状況(文脈)に依存する。ならば「自明の価値」を流通させる一方通行型の授業は,生理的な認識機能に反することである。「明示された価値」を理解(暗記)する授業ではなく,文脈(状況)に隠れた主題,様々な感情の可能性について逡巡する授業がメディア(映画や文学作品)を用いた授業の方法論として検討されるべきである。それらは甚だ「非効率的」であるが,その有益性について,教育研究者が思惟することは非常に重要なことであると考える。
著者
岩岡 隆介 田中 啓夫
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 開発工学部 (ISSN:09177612)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.61-68, 2007-03-31

人間には多くの人の会話の中から特定の人の話だけを取り出して聞く能力がある.聴覚心理学ではカクテルパーティ効果と呼んでいる.それと類似した問題として,複数の信号源が発する信号を複数の異なった観測点で観測すると,異なった割合で信号の混合したものが観測される.このとき得られる複数の混合信号から信号源の信号をそれぞれ分離推定する方法が,独立成分分析である.信号源としては,会話(音声)や音楽(楽器)であってもよいし,画像であってもよい.独立成分分析では,信号源の信号に互いの独立性だけを仮定し,信号の分離係数を観測信号から学習によって推定している.現実には,すべての信号源がいつも信号を発しているわけではない.会話は途切れることがあるし,楽器も演奏していないときがある.そのようなときは,独立性の仮定が成り立っていない.実際実験において,信号がない状態では学習が誤った方向に進んでしまう.そこで,信号源の信号の有無に関する情報が必要になる.信号源の信号を分離する問題で信号源の信号の情報を必要とすることは,厳密には矛盾した問題である.しかし,信号源の信号が存在する時間に対して学習速度が十分速ければ,学習途中に得られる情報を基に学習の制御が可能となる.本論文では,学習環境として観測データを再度学習に利用しないリアルタイム音声分離について考察した.2つの信号源について信号源の信号の有無を判定する判定式を提案し,リアルタイム処理で実験した.本論文で提案した方法を自然勾配法と非ホロノーム法と比較検討し,有効性を示した.3つ以上の信号源への拡張も可能である.
著者
生沼 芳弘 了海 諭 山本 恵弥里 鈴木 貴士
出版者
東海大学
雑誌
東海大学紀要. 体育学部 (ISSN:03892026)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.55-61, 2007

The purpose of this paper is to look at the opinions of the "Nix Women" and the traditional Sumo patterns from the viewpoint of the spectators. For the survey, we handed out question- naires to the spectators who saw the Sumo Tournament on September 14th, 2007. The world of sumo has been rocked by a series of scandals involving fixed sumo bouts and yokozuna Asashoryu. The survey also is to investigate the feelings about these scandals. More than half of the spectators understood that some sumo bouts were fixed.