著者
桜井 芳生
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿大史学 (ISSN:04511913)
巻号頁・発行日
no.41, pp.p1-12, 1993

我々が日常行っているコミュニケーションに関して,エスノメソドロジーは数々の知見をもたらしたが,その一つとして複数の「世界経験」の競合と,そこからの「選択」をめぐる「皮肉」の効力の発見をあげることができる。しかし,エスノメソドロジー自体は, 「皮肉」がなぜこのような効力をもつのかを説明していない。本稿は, 「意味不安」を仮説することで,この間題に回答を試みるものである。すなわち,ひとびとは,日常において「意味不安」をかかえつつもそれを抑圧して意味経験をしている。しかし,その独特な「ダブルバインド」性という仕掛けでもって「意味の両義性」へとひとを直面させてしまう「皮肉」をいわれることで,ひとは自らの「意味不安」を励起させる。しかも「皮肉」を発話する者は二つの意味を使用しているわけだから,皮肉者は両者の文脈をみとおしつつもなお自分の立派に立脚しているように,被皮肉者には映ずる。よって,皮肉者の意味使用の方が妥当性がたかいように被皮肉者には映ずる。その結果,被皮肉者は皮肉者の意味使用(=世界解釈)に服する蓋然性が高まる。このような仮説的回答案を我々は提起する。
著者
森口 哲史 藤田 勉 市村 志朗
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要 自然科学篇 (ISSN:03896692)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.19-28, 2008

フラダンスは,生涯スポーツとして中高年女性を中心に愛好家が増加している.しかしながら,その健康運動としての有効性を検証した研究は極めて少ない.本研究は中高年女性14名を対象にフラダンスを行った際の心拍変動,足圧重心動揺および気分プロフィールの変化について検討することを目的とした.その結果,フラダンス中の平均心拍数は60%HRmax程度であり,血中乳酸濃度の顕著な上昇はみられなかった.また,フラダンス直後の重心動揺総軌跡長は有意に短縮し(pく0.05),動揺面積も減少した. POMS検査では活気気分が有意に上昇し(pく0.01),すべての陰性気分が減少した.これらの結果より,フラダンス実践は,低強度の有酸素的運動としての効果が期待でき,運動刺激が一過的に重心動揺を制御する可能性が示唆された.また,陽性の感情変化は運動継続と精神的健康維持に寄与するものと推察された.本研究により,フラダンスは中高年者の健康運動活動として,心理生理的に有効性が高い可能性が示唆された.
著者
三木 夏華
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ベトナムでは80年代後半のドイモイ政策を境に在越華人や華語教育に対する政策が大きく変化する。本研究ではベトナムで最も華人人口の多いホーチミンにおいて2009年から2010年にかけて華人の使用する中国語方言、特に広州方言中心に字音、語彙、語法などの調査を行った。その結果、在越二世、三世と代を重ねることに差異が現れることが分かったが、これは彼らが受けた華語教育などの言語生活における環境と深い関わりがあることが聞き取り調査により明らかになった。
著者
鹿児島大学附属図書館 カゴシマ ダイガク フゾクトショカン Kagoshima University Library
出版者
鹿児島大学
巻号頁・発行日
2011-11-27

平成23年11月19日~12月4日に鹿児島大学附属図書館にて開催された貴重書公開展「明治の浮世絵師と西南戦争」にあわせて、平成23年11月27日に開催された講演会の記録(動画・配布資料)
著者
有村 和章
出版者
鹿児島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

1 主要研究内容(1)第4学年の「物質とエネルギー」区分に関する実社会や実生活との関連性の児童の認識について調査を実施した。(2)第4学年単元「電気や光の働き」において,実社会や実生活との関連性の認識を重視した学習内容を設定し,指導計画に位置付けた。(3) 実社会や実生活との関連性の認識を深め,児童が主体的に学習を振り返ることのできる自己評価法確立のために,評価の視点を設定し,自己評価カードを作成した。(4) 実証授業により,児童の認識の高まりと資質・能力,科学概念の獲得の状況を行動記録及び発言記録から分析した。2 主要研究成果(1)4年生においては,電気について動力源としてや,生活に不可欠なものとしての見方や考え方はもっているが,それが人工的に作られ,消費されるものであるといった見方や考え方をもつ子どもはまだ少ない。そのため,LEDなど節電のための機器に対して関心を持っている子どもは非常に少ないことが分かった。(2)第4学年単元「電気や光の働き」に,「回路を流れる電流の強さによって,乾電池の消耗度も変化すること」(内容(1))及び「LEDは豆電球より弱い電流で発光するためその利用は節電へつながること」(内容(2))を付加した。内容(1)については,直列つなぎと並列つなぎの場合の豆電球の点灯時間を比較する実験を行い,点灯時間と電流の強さを関係付ける学習内容を設定した。内容(2)については,低電圧で発光するLEDを教材として採用し,LEDと豆電球をそれぞれ使用した場合の乾電池の消耗度を比較する実験や,手回し発電機を用いて発電に必要な力を比較する実験等を位置付けた。その結果,電気の消耗を意識し,節電に心がけようとする子どもや,身の回りで行われているLEDの信号機の設置等節電への取組へ関心をもつ子どもが増えた。(3)自己評価法については,「追究活動への取組」,「問題解決の成就感や達成感」,「自然を見つめ直そうとする思いや態度」の視点から自己評価できるよう単元毎に自己評価カードを作成したところ,自己の高まりを自己認識したり,自らの課題を明らかにしたりする姿が見られた。
著者
矢吹 映 大和 修 市居 修 保坂 善真 水上 圭二郎 美谷 沙和音 富永 なおみ
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

犬と猫の腎疾患の病態解析、特に、シクロオキシゲナーゼ(COX)とレニン・アンジオテンシン(RA)系の関与を解析した。その結果、腎疾患の進行には腎臓内 COXと RA 系が複雑に関与しており、その機序は犬と猫で異なることが明らかになった。また、モデルマウスを用いた解析では、COX 阻害剤であるピロキシカムには腎保護作用があり、その作用には TGF-βの発現抑制が関与することが示唆された。
著者
小柳 正司
出版者
鹿児島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本年度は,以下の諸点について,2年間にわたる研究のまとめを行った。第1に,機能的リテラシーの捉え方の変遷を考察した。その結果,能的リテラシーは,当初の経済開発と人的資源確保に結び付いた「仕事のためのリテラシー」から,より広く社会的,市民的,文化的な次元を含む人間の基本的な生活能力の一環として捉えられるようになったことが明らかになった。第2に,機能的リテラシーの官製モデルを分析した。そして,一般の成人識字教育は,もっぱら非識字の「二流市民」を「良き市民」へと社会的に再適応を図る一種の補償教育であることを明らかにした。第3に,こうした通常の機能的リテラシーと成人式字教育の在り方を「飼い慣らし」と「非人間化」と批判したパウロ・フレインの識字教育論を考察した。そして,彼の識字教育は,文字の獲得を,民衆が自らの言葉で現実世界の成り立ちを読み取っていく過程として組織するものであることを明らかにした。第4に,1980年代のレ-ガン・ブッシュ政権下で新保守主義の教育改革が進行する中で登場した「文化的リテラシー」の主張を取り上げ,それが多民族国家アメリカの国民的共通文化の確保という課題をリテラシーの問題として新たに提起するものであることを明らかにした。第5に,文化的リテラシーの新保守主義的傾向への対抗理論として登場した批判的教育学のリテラシー概念を取り上げ,そこでは,(1)リテラシーの獲得は人々を既成の文化構造への参入を保証しつつ,それへの従属を図るものであり,(2)従ってリテラシーの問題は,何をもって「正統文化」とするのか,だれがそれを決めるのかという政治力学の問題であることが鋭く問われていることを明らかにした。
著者
小林 嵩 品川 昭夫 市来 征勝
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.93-"131-6", 1968-02-15
被引用文献数
3

亜熱帯湿潤気候地帯にある奄美群島の主要な島である奄美大島, 徳之島, 沖永良部島, 与論島および喜界島の5つの島の土壌について1962年以来先きの琉球列島の土壌の研究に引つづき調査研究を行って来た.この内, 奄美大島および徳之島の土壌についてはすでに第2報として報告した.本報告は残りの3つの島である沖永良部島, 与論島および喜界島の土壌について地質母材を異にする土壌すなわち, 国頭礫層, 琉球石灰岩(珊瑚石灰岩), 島尻層, 古生層および火成岩として花崗岩などに由来する土壌の断面形態並びに一般理化学的性質について行った研究成積である.成績の概要を述べると次の如くである.1.土壌断面調査島尻層に由来する土壌を除いて各島の土壌は地質母材の如何にかかわらず, その表層(A属)は腐植の集積によって土色は灰褐色または暗褐色を呈し, その下層(B層)は赤褐邑, 黄褐色, 黄赤色, 赤色など赤味色の強い土色を示し, 赤黄色土の性格を示している.島尻層に由来する土壌は表層は上記と同様な土色を示しているが, 下層土は灰青色, 灰黄色など灰味色を示している.各地質母材に由来する土壊の表層は腐植の集積と植物根の発達によって, 粗しょうで, 粒状または果粒状構造をしているが, 下層は緻密で硬く, 可塑性および粘性が強く, 乾くと固結し, 塊状構造を示している.2.理学的組成各島とも各地質母材に由来する土壌はいずれも粘土にとみ, 土性はLiCまたはHCで, 多くがHCである.島尻層に由来する土壌は細砂にとみ, 土性はLiCが多い.沖永良部島の花崗岩に由来する土壌は粗砂および細砂とも多く, とくに下層に多い.土性はSLが多い.礫は各地質母材に由来する土壌はいずれも極めて少ない.粘土分は表層に少なく下層に多い傾向がある.3.化学的性質1)反応琉球石灰岩に由来する土壌には塩基性を呈するものが多いが, 同時に酸性の強い土壌も各島に多く存在している.喜界島の島尻層に由来する土壌にも塩基性を示すものと酸性を呈するものとがある.その他の地質母材に由来する土壌は殆んど強い酸性反応を示している.2)塩基置換容量沖永良部島土壌の総平均B.E.C.は表層土が15.32m.e., 下層土が12.56m.e.であり, 与論島土壌のそれはそれぞれ16.98m.e., 15.25m.e., 喜界島土壌のそれはそれぞれ20.18m.e., 19.25m.e.であって, 沖永良部島の土壌が最も小さく, 喜界島の土壌がもっとも大きいB.E.C.を示しかつ, 各島とも下層土の方が小さい.3)置換性塩基各島に分布している琉球石灰岩や喜界島の島尻層に由来する土壌には置換性塩基の含量の高いものが多く, これらの石灰飽和度は64〜74%であるが, また塩基含量の少ないものも多く, その石灰飽和度は13〜40%である.その他の地質母材に由来する土壌の石灰飽和度は12〜35%で顕著に小さい.喜界島の島尻層に由来する土壌は徳之島の泥灰岩土壌と同じく多量の置換性苦土を含んでいる.置換性加里含量はいずれの土壌も少ない.4)炭素率沖永良部島の土壌の表層土の総平均炭素率は10.6,与論島の土壌のそれは10.2,喜界島の土壌のそれは9.7で, 三島の土壌の表層土の炭素率は略同じ大きさである.これを奄美大島の12.1,徳之島の12.0に比べると小さい.土壌の炭素率は下層にゆくに従って小さくなっている.5)窒素および腐植各島の土壌の表層土の窒素および腐植の含量は平均して沖永良部島の土壌がそれぞれ0.17%, 3.14%, 与論島のそれがそれぞれ0.19%3.22%, 喜界島のそれがそれぞれ0.23%, 4.12%であって喜界島のものが顕著に多い.しかし, 前2島のそれらは奄美大島や徳之島の土壌に比べるとほぼ同程度の含量である.6)燐酸吸収係数各島の土壌の表層土および下層土の燐酸吸収係数をみると, 沖永良部島の土壌はそれぞれ590,670,与論島のそれはそれぞれ531,623,喜界島のそれはそれぞれ590,763であって, 喜界島の下層土がやや大きい値を示しているが, 他は略同じ大きさである.この値を奄美大島および徳之島の土壌の燐酸吸収係数と比べると略同じ大きさである.喜界島の島尻層に出来する土壌の燐酸吸収係数は表層土の平均が482,下層土のそれが547で, 他の地質母材に由来する土壌に比べて顕著に小さい.7)有効燐酸各島の未耕地の土壌には有効燐酸は殆んど含まれていない.ただ, 燐砿石を産する与論島の琉球石灰岩地帯の一部の土壌には未耕地土壌にも有効燐酸が含まれている.耕地土壌にはやや多量に含まれている.4.以上の如く, 与論島, 沖永良部島および喜界島の各島で特に未耕地として残されている地区の土壌の殆んどが強酸性, 塩基欠乏, 重粘質など不良な理化学的性質を持っている.従ってこれらの地区を将来農地として開発する場合は, まず土壌の不良性を改善する必要がある.このため, これらの島々に広く分布している石灰質の砂丘砂の客入は土壌の理化学的性質の改良に大いに役立ちうるもので, その活用が望まれる.
著者
高岡 治
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は,体操競技の採点における分業制,および,非分業制の採点方法の違いが,演技観察の様相と演技の評価に与える影響を検討することにより,演技評価の内容的妥当性検討,さらには,審判技術指導上の基礎資料を得ることであった.被験者として,本研究の趣旨を説明し承諾を得ることができた国際体操連盟公認男子審判員資格を有する24名を選出し,無作為に三つのグループに分類した.平成14,15年度に開催された国内の競技力を代表する三つの競技会(全日本学生選手権,全日本選手権,NHK杯)において,ゆかと跳馬を除く4種目の演技をビデオカメラを用いて撮影した.これらより,各種目それぞれ4演技づつ計16演技抽出し採点資料とした.各被験者グループには,それぞれ,演技の価値点(難度,特別要求,加点の採点要素の採点結果に演技実施の配点(5.0)を加えた点数)の採点を行なう(A審判法),演技実施の採点を行う(B審判法),価値点と演技実施のいずれも行う(A・B審判法)のいずれかの採点方法を用いて,採点規則男子2001年版にしたがい演技の採点を行うよう指示した.演技の採点にあたり,各被験者にはアイマークレコーダ(nac EMR-8)を装着させた.演技観察の様相については,各種目とも特徴的な様相を示した技がみられ,特に,あん馬においては,技の成立に関わる部分への観察様相が顕著であった.しかしながら,これらと採点方法との関連については明らかにすることができなかった.一方,演技評価については,演技実施の減点において,採点方法の主効果がみられ,採点分業制は採点兼業制と比較して,演技実施の減点が約.10程度大きい値を示していた.このことは,同じ現象の同じ部分を観察しながらも,採点方法により演技評価が異なっていたことを示している.これらのことから,採点方法が演技評価の内容的妥当性に与える影響が示唆された.
著者
前田 綾 宮脇 正一 大賀 泰彦 中川 祥子 古川 みなみ 上村 修司 井戸 章雄 日野 沙耶佳
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究では、胸焼けなどの不快感と求心性の内臓知覚とストレス物質の動態に着目し、食道内酸刺激で産生されるメディエーターおよびストレス物質の動態などの神経免疫学的観点からブラキシズムの発症メカニズムを解明することである。また、求心性知覚神経を介した胸焼け等の不快感を自覚させる食道知覚とストレス物質の動態が咬筋活動を増加させることに着目し、ブラキシズムの発症のメカニズムを解明する。これらが明らかとなれば、上部消化器疾患と精神疾患およびブラキシズムに関する難治性の病因について新たな知見を提供して新規治療方法の開発に繋がる可能性があり、患者のQOL向上ひいては健康寿命の延伸に繋がると考える。
著者
宮原 恵弥子
出版者
鹿児島大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

大量のDNAアルキル化剤投与後に生じる肝類洞閉塞症候群(SOS)は、時に致死的で発症の予測が難しくまた発症には個体差がある。これまで何が類洞内皮細胞を傷害するのか明らかになっておらず、完全な発症予防にも至っていない。当研究ではDNAアルキル化剤の代謝因子に着目し、in vitro及びin vivoでゲノム編集やsiRNAによる遺伝子のノックアウト、ノックダウンを行い、代謝酵素の活性の程度とSOS発症との関連を検討する。さらに還元型グルタチオンの合成材料となることでSOS発症の予防が期待できるN-acetyl cysteineを用い、抗腫瘍効果を落とすことなくSOS発症を予防できるか検討する。
著者
張 暁娜
出版者
鹿児島大学
巻号頁・発行日
2020

identifier:論文審査の要旨
著者
岡本 康裕
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

CCRF-CEM細胞にネララビンを添加し、限界希釈法で培養し、ネララビン耐性株を2つ樹立した。耐性株はMTTアッセイで親株より高いIC50(55倍および78倍)を有していた。耐性株ではネララビン代謝に関連するENT1、DCK、DGuoKのmRNAの発現が有意に低下した。DCK のプロモーター領域の脱メチル化は関与していなかった。耐性株では、p-Aktの発現亢進が認められ、PI3K/AKT経路の発現亢進が示唆された。また、ネララビン処理72時間後にはp-ERKの過剰活性化が見られた。ネララビン代謝経路に特異的なMEK/ERK経路の過剰活性化が耐性化の原因と考えられた。
著者
青山 亨
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

14世紀に書かれた古ジャワ語宮廷年代記『デーシャワルナナDesawarnana』(通称『ナーガラクルターガマNagarakrtagama』)の校訂本に基づきローマ字翻字による電子版を作成するとともに、日本語への翻訳をおこなった。また、15世紀に書かれた中期ジャワ語歴史物語『パララトンPararaton』の校訂本に基づきローマ字翻字による電子版を作成するとともに、日本語への翻訳をおこなった。『デーシャワルナナ』はマジャパヒト王国の宮廷詩人プラパンチャが書いた古ジャワ語の韻文98詩編384詩節からなる叙事詩的形式をもった作品である。原題は「地方の描写」を意味する。14世紀後半のハヤム・ウルク王治世期に最盛期を迎えたマジャパヒト王国の繁栄と、13世紀前半成立のシンガサリ王国に遡る王統の系譜を描いており、同時代のジャワの歴史を研究するために最重要な史料である。『パララトン』は15世紀後半に書かれた著者不明の散文の歴史物語である。原題は「諸王の書」を意味する。前半はシンガサリ王国の創建者ケン・アンロックの伝奇的な生涯を描き、後半は元寇の余波で生まれたマジャパヒト王国の成立の過程から、東西王宮の対立に起因する内乱をへて王国の後期までを描く。後代の編纂であり、また、史実からの逸脱が明かな部分もあるが、シンガサリ王国からマジャパヒト王国の末期までを理解するための根本史料の一つである。本研究の成果の一部は、岩波講座東南アジア史の第2巻におけるシンガサリ・マジャパヒト王国の歴史記述に用いられると共に、国際学会における発表の基本データとして利用され、インドネシア史の研究に還元されている。
著者
田中 昭彦 森山 雅文 安永 純一朗 中村 誠司
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

唾液、血液など採取の容易な検体での解析を行った。今回、細胞から分泌される直径50-150nmの細胞外小胞の一つであるエクソソームはその内部にマイクロRNA(以下 miRNA)含むことが知られており、そのmiRNAに着目し、能動的に分泌されるエクソソーム内miRNAを検出することで、より精度の高い診断への応用を期待した。結果として、血液、唾液、うがい液からmiRNAを検出することが可能であった。疾患特異的な分子の確定にはいたらなかったが、非侵襲的に採取できる唾液やうがい液検体がSS等の口腔内疾患の検査法として有用である可能性を示した。
著者
枇榔 貞利 宮田 昌明 鄭 忠和
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

我々は、サウナ浴を用いた温熱療法が臨床的に生活習慣病(高血圧症、糖尿病、高脂血症等)の患者の低下した血管内皮機能を改善させること、また、ハムスターを用いた動物実験において内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)を遺伝子・蛋白レベルで増加させることを明らかにした。そこで本研究の目的は、温熱療法の血管内皮機能改善効果が動脈硬化病変の発生・進展を抑制しうるかを検討することである。動脈硬化発症モデル動物としてapoproteinEのノックアウトマウスを用いた。まず、小動物用乾式サウナ装置を用いて、深部体温が約1度上昇する温度を設定するための予備実験を行い、41度15分間、その後34度で20分間のサウナ浴が至適条件であることを確認した。apoproteinEノックアウトマウスでは、12週令においては大動脈基部において動脈硬化巣が確認できるので6週令のapoproteinEノックアウトマウスに対してサウナ浴の効果を検討した。6週令のapoproteinEノックアウトマウス20匹を2群に分け、1群に対し上記の条件で1日1回、1週間に5回のサウナ浴を施行した。コントロール群に対しては、サウナ群と同じ時間だけスイッチを切った室温のサウナ装置に同様の期間入れることを行った。10週間のサウナ浴後に、麻酔下にsacrificeし、大動脈を摘出し、その標本に対し脂肪染色を行い、顕微鏡下に大動脈基部の動脈硬化巣の面積を計測し、両群間での比較を行ったところ、サウナ群では0.07±0.03mm^2であり、コントロール群では0.22±0.14mm^2と減少傾向が認められた。すなわち、アポEノックアウトマウスにおいて10週間の温熱療法が、大動脈の動脈硬化形成を抑制したことは、ヒトにおいても温熱療法が動脈硬化性疾患の発生・進展を抑制する可能性を示唆している。
著者
池田 充 栗和田 隆
出版者
鹿児島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2019

水田の稲を食い荒らす有害生物ジャンボタニシは、稲作栽培に大きな被害を与えている。このタニシには天敵がいないことで生息範囲を全国的に拡大している。稲の植え付け直後の段階からタニシの駆除が必要不可欠で、現在は農薬での駆除が行われている。しかしこの方法では一時的なもので、いったん水田に侵入した場合には爆発的に増殖し稲苗を食い荒らされてしまう。農薬による短期的な防除では長期的な効果を期待することはできない。そこで先に行った様々な植物由来成分からキョウチクトウがジャンボタニシに有効であることが予備試験で得られたためバケツ稲栽培での駆除試験を行った。