著者
高橋 秀直
出版者
史学研究会 (京都大学文学部内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.35-70, 2003-01

個人情報保護のため削除部分あり王政復古政府とは、慶応三年一二月九日の王政復古クーデターより翌年一月三日から始まる鳥羽伏見戦までの政府である。本稿はこれの政治過程と政権構造を明らかにしたものである。政治過程についての主要論点は以下の通り。一、薩摩と徳川慶喜の対立はこの時期、一貫して高まっていたわけではなく、クーデター後しばらくは薩摩は慶喜に対し融和路線をとっており、それが武力対決路線に転じたのは、二四日以降である。二、関東での薩摩の攪乱行動は西郷隆盛の大謀略ではなく、薩摩指導部の見合わせ命令を無視した現地の暴走であった。三、二四日以降、薩摩は開戦を望みながら、公議原理にのっとった名分を見つけることが出来ず苦悩し、薩摩藩邸焼き討ちの報にも事情がわからず困惑していた。政権構造について見れば、その理念は列藩会議を核とする天皇・公議体制であった。しかし、この理念は現実のものとならず、成立したのは、公家倒幕派が決定権をもつ一種の公家政権であった。新政権は武家勢力を十分に包摂できず、この時期、諸藩の割拠傾向は極点にまで達した。公家倒幕派は政権への求心力をたかめるべく、公議原理にしたがった政権運営にむけて動くが、これは政治的には、「公議政体派」への接近を意味し、薩摩倒幕派は窮地に陥ったのである。Keiou 4.1.3. The purpose of this article is to illuminate the actual political processes of the period and analyze the political structure of the regime. As regards these political processes, this article makes the following points: 1, the Satsuma domain, han, maintained a rather conciliatory attitude toward its political rival Tokugawa Yoshinobu after the coup. It was only after December 24th that Satsuma decided to destroy Yoshinobu politically and militarily; 2, the disturbance organized by some Satsuma men in Edo that December was not executed on the order of Saigo Takamori, one of the top leaders of the Satsuma han, but was an arbitrary act of the Satsuma men in Edo, and it took the Satsuma leadership in Kyoto by surprise; 3, after the 24th, Satsuma leaders hoped to attack Yoshinobu, but they felt the necessity of a pretext that many people would feel legitimate. As they could not find such a pretext, they were remained troubled and at a loss until directly prior to the battle of Toba-Fushimi. This article also clarifies some of the characteristics of the structure of this government. The political ideal of the government was that of Tennou-kougi 天皇公議, a government in which the dainyou 大名, lords of the domains, played the core role in a national assembly. However, the actual character of the government was oligarchic, a small clique of kugyou 公卿, elite aristocrats, ran the government. As a result, many domains refused to follow the orders of the government. The authority of the central government had been declining since the arrival of Perry in 1853, but this trend reached its peak with the ousei-fukko regime. In order to enhance the support of the domains for the central government, the kugyou gradually changed their political stance, moving away from support for Satsuma toward Yoshinobu. This move drove Satsuma into a deeper crisis.
著者
近藤 健介 西出 俊 康 シン 任 福継
雑誌
第81回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2019, no.1, pp.519-520, 2019-02-28

本研究の目的は,神経力学モデルを用いて人の動作時の身体特徴量系列を学習し,各動作のクラスタリングを行うことである.本手法では,Kinectを用いて人の身体動作を骨格データの座標として取得し,取得した座標系列を神経力学モデルで学習し,各学習データのダイナミクス類似度に基づいて自己組織化される動作分類空間において各動作をクラスタリングする.実験データとして,バンザイ,ガッツポーズ,疲労,怒り,悲しみ,絶望,嫌悪,リラックスの8つの身体動作を取得した.評価実験の結果,Kinectで取得した人の身体情報から人物の行動を分類することができ,手法の有効性を確認した.
著者
金沢 和樹
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.194, 2008-04-15 (Released:2008-05-31)
参考文献数
3

フコキサンチンは,炭素数40のイソプレノイド構造を骨格とするテトラテルペン類で,自然界に600種類余り存在するカロテノイドの一つである.カロテノイドのうち,化学構造に酸素を含むものをキサントフィルと細分類するが,フコキサンチンは褐藻が特異的に生産するキサントフィルで,1914年に発見,1969年に化学構造が決定された(図1).よく知られているキサントフィルに鮭のアスタキサンチン,マリーゴールド色素のルテイン,柑橘のβ-クリプトキサンチンなどがあり,いずれも鮮やかな黄色から橙色なので,古くから食品の着色料として利用されているが,フコキサンチンも鮮橙色である.褐藻は日本人が好んで食する海藻である.フコキサンチン含量は,生褐藻の場合,新鮮重100gあたりおおよそ,コンブ19mg,ワカメ11mg,アラメ7.5mg,ホンダワラ6.5mg,ヒジキ2.2mgである.日本人は干し海藻にすることが多いが,乾物にするとコンブ2.2mg,ワカメ8.4mg,他は検出限界以下となる.つまり酸化に不安定であるが,これは化学構造にアレン結合があるためと考えられている.褐藻を餌とする貝類のカキやホヤもフコキサンチンを多く含み,さらにアレンが安定なアセチレンとなったハロシンチアキサンチンを含んでいる.注目を浴びているフコキサンチンの生理機能の一つは発がん予防作用1)2)である.フコキサンチンがヒト前立腺がん細胞にアポトシースを誘導する作用は,カロテノイド類の中ではもっとも強い.また,結腸がんモデル動物に経口投与すると,前がん病変形成を有意に抑えた.作用機序は,p21WAF/Cip1というタンパク質の発現を促すことで,その下流のレチノブラストーマタンパク質をリン酸化するサイクリンDとキナーゼ複合体の活性を阻害し,レチノブラストーマタンパク質からの転写因子E2Fの遊離を抑えることであった.結果として,腫瘍細胞の細胞周期をG0/G1期で停止させ,腫瘍の増殖を抑えた.もう一つは宮下和夫らによる興味深い発見,肥満予防効果3)である.食餌フコキサンチンは,白色脂肪細胞に,ミトコンドリア脱共役タンパク質1の発現を促す.このタンパク質は,本来はATP生産に用いられるミトコンドリアの電気化学ポテンシャルを体熱として放出させる.結果としてフコキサンチンは,脂肪細胞の脂肪を体熱として消費させることで肥満を防ぐ.フコキサンチンは栄養素ではなく非栄養素である.栄養素は体内に加水分解吸収されて肝臓でエネルギー代謝されるが,非栄養素は加水分解吸収後,まず小腸細胞内で代謝を受ける.小腸細胞内代謝で官能基がグルクロン酸や硫酸抱合を受け,生理活性を示さない化学形態となり,多くは管腔側に排泄さる.したがって,非栄養素がヒト体内で機能性を発揮するか否かは,小腸細胞内でどのような代謝を受けるかによる.フコキサンチンの体内吸収率は数%であるが,小腸細胞吸収時に図1の右環のアセチル基がアルコールのフコキサンチノールに加水分解されるだけで体内吸収される.体内では一時的に脂肪細胞にとどまり,数十日ほどの体内半減期で尿に排泄される.また一部は肝臓で,左環がアマロシアザンチンAに代謝される.長尾昭彦らによると,この2つの代謝物が生理活性の本体である.フコキサンチンを生昆布量に換算して日に100kgを4週間与えても,その動物に異常は認められていない.他のキサントフィルにも過剰摂取毒性は今のところ報告されていない.フコキサンチンなどのキサントフィル類による,ヒトの生活習慣病予防に大きな期待が寄せられている.
著者
橋本 信幸 諸川 滋
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン学会技術報告 (ISSN:03864227)
巻号頁・発行日
vol.15, no.73, pp.25-30, 1991-11-27 (Released:2017-10-06)

A holographic display technology is a kind of true 3-D techniques. In our system, a photosensitive firm is replaced with a CCD and a LCD in a conventional holographic system. The interference frindge pattern of an authentic object is read by the CCD camera and that signal is transfered to the LCTV-SLM illuminated by collimated laser. The spatial filtering technique is applied to remove the zero-order light in reconstruction. Thus we can record and reconstruct the motion-picture holographic images electrically in real-time.
著者
山崎 榮三郎
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.233-241, 2003

コンピュータシステムの進展はインターネットの出現と相まって,われわれの価値観なり行動に大きな変化をもたらしてきた。さらに進むコンピュータ技術,通信技術,コンテンツ技術が重なり合いながらユビキタス時代が幕を開けようとしている。ユビキタスネットワークの中で一翼を担う無線ICチップ(タグ)はさまざまな分野での応用が想定されるため,現在,標準化の動きも活発化してきている。コンピュータ技術の発達は小型化を促し,安価となる事により,世の中の全ての製品に組み込まれていく事まで想定されている。コンピュータが「道具であった時代から環境へと変わっていく」時代の中にわれわれは存在する。新しい時代の価値観なり行動形態にどのような影響を与えていくのだろうか。