著者
松原 淳 山川 仁
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
日本土木史研究発表会論文集 (ISSN:09134107)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.250-257, 1986-06-25 (Released:2010-06-15)
参考文献数
9

大都市の機能のなかでは都心へ集中するものと郊外へ拡散するものがある。このうち郊外へ拡散する離心的機能を見せるものは住宅・学校・工場である。東京圏においては関東大震災以後急速に市街地が拡大したが、それには大正後期から昭和10年ぐらいまでに現在の路線網をほぼ完成した民営鉄道の役割が大きい。そこで本論では太平洋戦争前の郊外宅地開発と学校の郊外移転・増設についてその足となる民営鉄道との関係をを調査した。宅地・学校の郊外立地は交通の便が多大に影響する。そこで民営鉄道が沿線に宅地を開発し、本格的に鉄道と結び付けて宅地の分譲をしたのは大阪の箕面有馬電軌が最初である。東京では宅地開発会社である田園都市株式会社が分譲した宅地の足として鉄道が建設されるという新たな形態が生れた。民営鉄道の沿線開発にはこの二社に代表される二つのパターンがあり、どちらも市街地の拡大に対応したものだった。民営鉄道は旅客誘致策の一つとして学校の誘致を行い、土地開発会社である箱根土地株式会社は「学園都市」として開発を行った。また, 学園が郊外移転の際に資金捻出のために周辺宅地を開発分譲し学園町を作り出した。しかし、東京圏の学園町は欧米の学園都市と違い、ただの「学園のある町」にとどまる場合が多い。
著者
平田 昌弘
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.131-150, 2017 (Released:2018-04-13)
参考文献数
36
被引用文献数
1

本稿では、アンデス高地のリャマ・アルパカ牧畜で搾乳がおこなわれなかった要因を検討するために、牧畜民のリャマ・アルパカ群管理、特に牧夫の母子畜間の介入について現地調査をおこなった。リャマ・アルパカの子畜の出産に際し、毎日の日帰り放牧を実現させるために、母子畜分離を実施するかどうかを検討した結果、母子畜分離を全くおこなわない、おこなう必要がないことが明らかとなった。その理由は、1)子畜が数時間で歩き始めるというリャマ・アルパカの身体特性、2)放牧の移動速度が遅いというリャマ・アルパカの行動特性、3)目的とする放牧地では家畜群はほぼ停滞しながら採食するというリャマ・アルパカの行動特性、4)放牧領域が狭いというリャマ・アルパカ群放牧管理の特性、5)放牧地の独占という所有形態に起因していた。更に、夜間の子畜の保護のための母子畜分離、子畜の離乳のための母子畜分離も全くおこなわれていなかった。リャマ・アルパカの母子畜管理の特徴は、母子畜は基本的には自由に一緒に過ごさせ、母子畜を強制的に分離していないことにある。「非母子畜分離-母子畜間の関係性維持」の状況下においては、母子畜間への介入は多くを必要としない。孤児が生じたとしても、牧夫の「家畜が死ねば食料になるという価値観」から、乳母づけもしない。母子畜間に介入の契機が生じないということは、搾乳 へと至る過程も生起し難いことになる。つまり、リャマ・アルパカにおいては搾乳へと発展していかなかったことになる。これが、牧畜民と家畜との関係性の視座からのリャマ・アルパカ牧畜の非搾乳仮説となる。リャマ・アルパカ牧畜では強制的に母子畜を分離しないことによる母子畜間の関係性維持、そして、催乳という技術を必要とするなどラクダ科動物の搾乳への行為に至る難しさが、搾乳へと向かわせなかった重要な要因と考えられた。
著者
Mayumi Tsuji Chihaya Koriyama Yasuhiro Ishihara Megumi Yamamoto Kiwako Yamamoto-Hanada Kumiko Kanatani Yu Ait Bamai Kazunari Onishi Ayako Senju Shunsuke Araki Eiji Shibata Seiichi Morokuma Masafumi Sanefuji Hiroshi Kitazawa Mayako Saito Masakazu Umezawa Atsuto Onoda Koichi Kusuhara Rie Tanaka Toshihiro Kawamoto the Japan Environment & Children’s Study Group
出版者
Japan Epidemiological Association
雑誌
Journal of Epidemiology (ISSN:09175040)
巻号頁・発行日
pp.JE20180098, (Released:2019-01-12)
参考文献数
54
被引用文献数
7

Background: Metal exposures could possibly affect allergic responses in pregnant women, although no studies have yet shown a clear relationship between the two, and such exposures might also affect the development of allergic diseases in children.Methods: We investigated the relationship between metal concentrations in whole blood and immunoglobulin E (IgE; total and specific) in 14,408 pregnant women who participated in the Japan Environment and Children’s Study. The subjects submitted self-administered questionnaires, and blood samples were collected from them twice, specifically, during the first trimester and again during the second/third trimester. Concentrations of the metals Cd, Pb, Hg, Se, and Mn, as well as serum total and allergen-specific IgEs for egg white, house dust-mites (HDM), Japanese cedar pollen (JCP), animal dander, and moth, were measured. Allergen-specific IgE(s) were divided based on concentrations <0.35 or ≥0.35 UA/mL, and the metal levels were divided into quartiles.Results: Multivariable logistic regression analysis showed that there was a significant negative correlation between HDM- and animal dander-specific IgEs and Hg and Mn concentrations. Conversely, there was a significant positive relationship between JCP-specific IgE and Hg and Se concentrations.Conclusions: Metal exposures may be related to both increases and decreases in allergen-specific IgEs in pregnant women.

7 0 0 0 OA 保元物語

著者
芳賀矢一 校
出版者
富山房
巻号頁・発行日
1911
著者
犀川 政稔
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.jjom.H22-03, 2011-05-01 (Released:2018-03-30)
参考文献数
57

ゾウパーゲ科とコクロネマ科菌類の分生子および接合胞子の形成と発芽について述べ,この2科の11属99種と5変種を識別するための検索表を示した.これらの観察法についても簡単に述べた.
著者
山根 秀介
出版者
日本哲学会
雑誌
哲学 (ISSN:03873358)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.68, pp.215-230, 2017-04-01 (Released:2017-06-14)
参考文献数
3

William James’s pragmatism has been criticized since it was first proposed. In particular, his claim that whether an idea is true or not must depend on the effect which it has on our experiences invites the criticism that pragmatism is a form of subjectivism and anti-realism. According to this criticism, if any idea considered as useful is true, the criteria of truth set by pragmatism depend on the time and situation, and so are only arbitrary and relative; therefore, a true idea is a figment of some human imagination which has no connection with objective reality.However, James repeatedly objected to this criticism. He claimed that his pragmatism did not make truth vague and uncertain, that one could certainly get access to reality by true ideas and that in this sense he was a realist. The purpose of this study is to show, by analyzing the theory of truth in James’s pragmatism, that he understood the agreement of our ideas with reality in a different way from other theories, and constructed a characteristic realism of his own.In James’s view, truth as the agreement of an idea with reality is realized by certain actions that the idea leads to, namely, by a process of verification that one can practically follow, and reality is a mixture of sense experiences and previous truths one has already acquired. This study considers an action performed to know reality as a kind of intuition, and explains that the truth established by the action transforms reality. Reality as inevitable not only presses one to be subject to it: one can also act on and change it. James insists that an action as intuition embodies our knowledge of reality, and also contributes to the creation of reality in the sense that it newly produces truths and adds them to reality. For James, this interaction between human beings and reality, and the constant modifications occasioned by it are the actuality of our concrete world.
著者
岩崎 宏
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木史研究 (ISSN:09167293)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.151-162, 1990-06-25 (Released:2010-06-15)
参考文献数
34

燈台の建設で有名なスコットランドのスチブンソン家。そのなかでトマス・スティーヴンスン(1818-1887)は、港湾工学の分野でも実際の海の波についての優れた観察者の一人であった。今、海の波の発達、推算に関して対岸距離 “Fetch”という言葉が用いられているが、これはオックスフオード英語辞典によれば、エンサイクロペディア・ブリタニカ第九版のトマス・スティーヴンスンの解説を引用して初出文献としているのである。しかし、その後百年の間に、風速や吹続時間、風域などをあわせて考えるようになり、波の理論、波の観測、確率や統計的処理などの学問が進展してくると、初期の研究者の名も次第に忘れられてしまいそうである。また、トマス・スティーヴンスンは、わが国明治初年の洋式燈建設にとって忘れることのできない功績者である。即ち在英のまま日本政府の技術顧問となり、来日したブラントンをはじめとする技術者集団を指導し、バックアップした役割は高く評価されてよい。一方、トマス・スティーヴンスンの息子は文学に転向して、家業を継がなかったが、「宝島」や「ジキル博士とハイド氏」などの小説で有名になった作家のロバート・ルイ・スティーヴンスンである。エジンバラ大学で土木工学を専攻し、父に従って燈台や港湾の建設現場で波の観側をしていたことは、むしろ英文学研究者の方がよく知っている。本文は、スチブンソン家の人々を紹介すると同時にトマス・スティーヴンスンについて、その代表的著書「港湾の設計と建設」の中から二、三の話題をとりあげ、また息子ロバート・ルイ・スティーヴンスンのエッセイ「土木技術者トマス・スティーヴンスン」に触れたいと思う。
著者
加藤 康男 梅田 祐司 水澤 純一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NC, ニューロコンピューティング (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.110, no.355, pp.35-40, 2010-12-12
参考文献数
11

網膜神経節細胞の入力に対する応答を定量化する際に,相互情報量が用いられている.観測データから相互情報量を求めるために,刺激が影響している間のスパイクパターンを離散化し,そのヒストグラムにより確率分布が求められている.しかし確率分布から相互情報量を直接的に求める手法は,離散化の幅により結果が左右され,データ数が限られている場合に推定誤差が大きいという問題を持つ.そこで本研究では,網膜神経節細胞のスパイク列に情報量解析を適用するための実際的手法の確立を目指し,べイズ推定を用いた情報量推定手法を導入する.さらに,べイズ推定のシミュレーション実験を通して,スパイク発火モデルの情報量解析を行い,様々な手法の妥当性や問題点の検討を行った.

2 0 0 0 OA 類聚法規別集

著者
長尾景弼 編
出版者
博聞社
巻号頁・発行日
vol.第一巻, 1884
著者
土井謙之
雑誌
松下電工技報
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.72-76, 2005
被引用文献数
1
著者
若林 芳樹 久木元 美琴 由井 義通
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

2012年8月に成立した子ども・子育て関連3法に基づいて,子ども・子育て支援新制度(以下,「新制度」と略す)が2015年4月から本格施行された.これにより,市区町村が保育サービスを利用者へ現物給付するという従来の枠組みから,介護保険をモデルにした利用者と事業者の直接契約を基本とし,市区町村は保育の必要度に基づいて保育所利用の認定や保護者向けの給付金を支払う仕組みへと転換した.また,待機児童の受け皿を増やすために,保育所と幼稚園の機能を兼ねた認定こども園の増加や,小規模保育所や事業所内保育所などの「地域型保育」への公的助成の拡大が促進され,保育サービスのメニューも広がった(前田, 2017).しかしながら,こうした制度変更の影響について地理学的に検討を加えた例はまだみられない.そこで本研究は,新制度導入から3年目を迎えた現時点での保育サービス供給の変化と影響について,若林ほか(2012)がとりあげた沖縄県那覇市を中心に検討した.<br><br> 新制度では,認可保育所などの大規模施設で実施される「施設型保育」に加えて,より小規模な「地域型保育」も公的補助の対象になった.このうち「施設型保育」については,認可保育所以外に認定こども園の拡充が図られている.2006年から幼児教育と保育を一体的に提供する施設として制度化された認定こども園は,制度や開設手続きの複雑さなどが原因となって普及があまり進んでいなかったが,新制度では幼保連携型認定こども園への移行を進める制度改正が行われた.その結果,2019年4月における保育の受け入れ枠の14%を認定こども園が占めるようになった.<br><br> 一方,「地域型保育」には,小規模保育(定員6~19人)・家庭的保育(定員5人以下)・事業所内保育・居宅訪問型保育があり,主に0~2歳の低年齢児を対象としている.これらは,住宅やビルの一部を使って実施されるため,従来の認可保育所に比べて設備投資が小さくて済み,小規模でも公的補助が受けられる.そのため,用地の確保が困難なため認可保育所で低年齢児の定員枠の拡充が難しい大都市では,待機児童の受け皿となることが期待されている.この他にも保育士の配置などで認可基準が緩和され,公的補助のハードルが全体的に低くなっている.その中でも小規模保育は,新制度への移行後の保育枠の増加に大きく寄与している.<br><br> 新制度に対応した那覇市の事業計画では,需要予測に基づいて2017年度末までに約2500人の保育枠を増やすことになっている.そのために,認可外保育所に施設整備や運営費を支援して認可保育所に移行させ,認定こども園や小規模保育施設を新設するとともに,並行して公立保育所の民営化を進めることになっている.工事の遅れや保育士不足などによって,必ずしも計画通りには進んでいないものの,地方都市では例外的に多かった同市の待機児童数は,2018年4月から1年間の減少幅では全国の自治体で最も大きかった.これは,保育所定員を2443人増やした効果とみられるが,依然として200人(2017年4月)の待機児童を抱えている.<br><br> 新制度実施前の那覇市では,認可外保育所が待機児童の大きな受け皿となっていた(若林ほか, 2012).保育の受け入れ枠を拡大するには,それらの施設の活用が考えられるため,認可外保育所の代表者6名にグループインタビューを行ったところ,認可外保育所の対応は3つに分かれることがわかった.比較的大きな施設は,施設を拡充したり保育士を増やすなどして認可保育所への移行を図っているが,規模拡大が困難な施設は小規模保育として認可を受けるところもある.しかし,認可施設に移行すると既存の利用者の多様なニーズに柔軟に応えられなくなる恐れがあり,保育士の増員も困難なため,認可外にとどまる施設も少なくない.<br><br> また,事業所内保育施設については,市が施設整備費補助制度を設けていることもあって増えている.そこで新規に認可を受けた事業所内保育所2施設に対して聞き取りを行った.A保育所は,都心からやや離れた場所にある地元資本のスーパー内の倉庫を改装して使用し,運営は県外の民間業者に委託している.利用者は事業所従業員と一般利用が半数ずつを占める.B保育所は,風営法により認可保育所が立地できない場所にある都心部のオフィスビルに1フロアを改装して新設されている.定員のうち従業者の利用は少なく,大部分は地域枠として募集しているが,入所待ちの児童もあるという.これらの小規模保育施設に共通することとして,2歳児までしか受け入れ枠がないため,3歳児から移行できる連携施設を近隣に確保するのが課題となっている.
著者
福田 義昭
出版者
東洋大学アジア文化研究所
雑誌
アジア文化研究所研究年報 = Annual journal of the Asian Cultures Research Institute (ISSN:18801714)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.1(366)-22(345), 2017

This article is a sequel to my two earlier articles on the literary representation of Muslims in Japan during the Showa period. While the earlier articles each dealt with several writers, this article exclusively deals with works of the Taiwanese-Japanese writer Chin Shunshin (1924-2015). Chin was born in the city of Kobe and encountered Tatar children there in his youth. As he studied Hindustani and Persian at Osaka School of Foreign Languages he increased his interest in the Islamic world. He reminisces about his frequenting the Kobe mosque during the WWII. After the war, he made several visits to countries of the "Silk Road" and met in Istanbul some Turks of Tatar origin, who had lived in Japan until the aftermath of the war and spoke Japanese fluently. Chin wrote a lot of novels set in Kobe, some of which include Tatar characters. He drew attention to the "statelessness" of the Tatars and depicted them with sympathy and understanding. For him, Tatars were co-members of the community of strangers of Kobe who shared Japanese as the common language.
著者
Akio Tanikawa
出版者
Arachnological Society of Japan
雑誌
Acta Arachnologica (ISSN:00015202)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.11-17, 2012-09-30 (Released:2012-09-30)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

Dolomedes senilis Simon 1880 is newly recorded from Japan using the specimens collected from Hokkaido. The species is easily separated from other Japanese congeners by its unique appearance. One new species Dolomedes pegasus is also described using specimens collected from Tohoku district, northern part of Honshu, Japan. Dolomedes pegasus resembles D. sulfureus and D. angustivirgatus, but can be distinguished from them by shorter legs, barrel-shaped epigynum, shorter male palpal tibia and smaller tibial apophysis. The mt-COI partial sequence data of these species as well as D. zatsun are added to the previous data set and their phylogenetic placements among Japanese species are inferred. As a result, D. senilis and D. pegasus share the same clade with D. sulfureus, and D. zatsun shares the same clade with D. raptor.
著者
高橋 英之 伴 碧 近江 奈帆子 上田 隆太 香川 早苗 石原 尚 中村 泰 吉川 雄一郎 石黒 浩
雑誌
研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI) (ISSN:21888760)
巻号頁・発行日
vol.2019-HCI-181, no.13, pp.1-7, 2019-01-14

心に働きかけることで,人間の暮らしを豊かにするヒューマンエージェントインタラクションの研究が多数行われている.一方で既存の研究は,ユーザーとエージェントとが特定の状況で短時間だけ相互作用することを想定する場面設定が殆どであり,従来のエージェントを長時間使用した際には,かえってユーザーがその存在に飽きてしまったり,“あざとさ”を感じてしまったりするリスクがある.本稿では,五感刺激を組み合わせて空間に提示するシステムとロボットを連動させることで,心に持続的に影響を与える続ける空気感エージェントのデザイン原理とそれに期待される価値についての議論を行う.