著者
日色 知也 室谷 智子 藤間 藍 地震火山こどもサマースクール 運営委員会
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

地震火山こどもサマースクールは、日本地震学会、日本火山学会、日本地質学会に加えて開催地団体を主催として、災害だけでなく災害と不可分の関係にある自然の大きな恵みを伝えることを目的とし、1999年から毎年夏休みに全国各地で開催されている。2019年度は特定非営利活動法人地球デザインスクールが主体となり、8月10~11日の2日間にわたり京都府北部の京丹後市および宮津市で実施した。「丹後半島のヒミツを解きあかそう!」をテーマに、日本海拡大期から現在までの歴史やそこに成立した地域社会との関係について、野外観察や身近な材料を使った実験、研究者との対話を通して理解し、自然の恵みや観光、自然災害についての理解を深めるとともに、丹後半島の形成過程や丹後地域の過去、現在、そして未来を考えることを活動の目的とした。 丹後地域が含まれる山陰海岸ジオパークは、平成22年10月に世界ジオパークネットワークへの加盟が認定されたジオパークである。京都府、兵庫県、鳥取県にまたがる東西約120km、面積2458.44㎢の大きさをもち、丹後地域はその東端に位置する。地質学的な知見から、丹後地域は主に基盤岩である白亜-古第三系の宮津花崗岩類、それらと不整合関係および貫入関係にあたる新第三系中新統の北但層群、および中部更新統以降の地層より構成される。また、1927年に北丹後地震を引き起こしたとされる郷村断層帯と山田断層帯が分布する。 2019年度は、20人のこどもたちを4つのチームに分け、天橋立、新井崎神社、丹後海と星の見える丘公園、Hi-net 網野観測点、郷村断層、京丹後市郷土資料館などを回った。天橋立、新井崎神社、丹後海と星の見える丘公園など周辺の地形観察や実験観察から,どこに断層地形が見られるのか,それぞれの地形にはどのような特徴がありどのように形成されたのか,などをグループごとに考えた。特に実験では,日本海の拡大,北但層群中のハイアロクラスタイトのでき方,断層の形成,天橋立の形成と成長など、丹後半島の自然について身近なものを用いて考察した。さらに,国指定の天然記念物である郷村断層と京丹後市郷土資料館では,1927年の北丹後地震による被害や復興ついて学んだ。 プログラムの最後には、こどもたちはチームごとに学んだことをまとめ、「丹後半島はどうできた?」「この丹後半島で、どう遊び、どう暮らす?」について発表を行った。 こどもたちの発表では、大地震が生じたことでより強固で安全な街づくりが進行するきっかけとなる、自然景観を保ちながら天橋立の侵食を防ぎたい、地元の丹後のいい所を守りたいなどの意見が挙げられ、プログラムを通じて、深く考察していることがうかがえる。 サマースクール終了後には、こどもたちへアンケートを実施した。こどもたちのアンケート結果から、行った4つの実験のうち全てで「よかった」と回答した人が 80%を超えており、こどもたちは実験に対して高い関心があったことを示している。さらに、郷村断層の観察でも20人中19 人(95%)が「よかった」と回答しており、活断層や大地震などの諸現象への関心の高さがうかがえる。 本サマースクールは、こどもたちが自然と触れ合いながら、その地域の環境や災害などを学べるよい機会となっている。
著者
坂本 祐二 桒原 聡文 藤田 伸哉
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-05-17

東北大学が主として開発または協力した3衛星、DIWATA-2、RISESAT、ALE-1が2018年10月からの3か月間で、立て続けに打ち上げられた。東北大学構内に設置している2.4m口径パラボラアンテナを有する地上局を用いて、3衛星を日々観測している。本講演では、2009年より継続・発展してきた運用システムをハード・ソフトの両面で解説する。また、フィリピン、スウェーデン、函館、福井など、連携中または準備中の地上局ネットワークについても紹介する。 本地上局は、東北大学の1号機衛星SPRITE-SATのために整備され、超小型衛星を対象として使用を開始した。基本的に低高度地球周回衛星が対象であり、約10~12分のパスにおいて、アンテナ指向方向を制御し、送受信機の周波数を制御して、通信を確立する。衛星追尾は対象衛星を登録するだけで、自動的に最新の軌道を収集し、上空通過時に自動追跡を開始・終了する。運用者は、衛星との通信に集中し、地上局の管理に気を払う必要はない。 現在、前期の最新3衛星に加え、DIWATA-1、RISING-2、SPRITE-SATとの通信も不定期に実施している。本地上局が対応できる通信仕様は、ITU国際通信連合にJCUBES-Bの群衛星として登録されており、今後も兄弟衛星が打ち上げられる予定である。国際機関への電波申請には申請準備も含めて、1年以上の時間を要する。企画から打上まで1年半以内で実現できる現状において、電波申請作業はプロジェクトにおいてトラブル要因となりうる。本地上局を使用する衛星ネットワークの輪が広がることで、衛星開発者に大きなメリットをもたらすと考えている。
著者
澄川泰弘 川端悠士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-04-29

【目的】人工膝関節置換術は手術手技の進歩やインプラントデザインの改良に伴い,安定した術後成績が得られるようになっており,大部分の症例が術後早期に自立歩行が可能となる。しかしながら自立歩行を獲得しても歩行遊脚期に膝関節屈曲角度が減少する歩行パターン(Stiff knee gait;SKG)を呈する症例は少なくない。遊脚期における膝関節屈曲運動の低下は,足クリアランス低下に伴う躓きや,骨盤挙上運動等の代償動作の原因となる。また長期的なインプラントの耐久性を考慮してもdouble knee actionによる衝撃吸収機構の再建が重要となる。膝関節術後例を対象とした先行研究では,荷重応答期における膝関節運動については多く検討されているが,歩行時の膝関節運動範囲について検討した報告は少ない。また片麻痺例・脳性麻痺例を対象としたSKGに関する報告は散見されるが,人工膝関節置換術後例ではその背景が異なる。そこで本研究では人工膝関節置換術後例の歩行時膝関節運動範囲に関連する因子を明らかにすることを目的とする。【方法】対象は変形性膝関節症に対して人工膝関節置換術を施行した症例で,退院時に杖歩行が可能な22例(全置換術19例・単顆置換術3例,術後経過日数28.91±8.4日)とし,中枢神経系障害の既往を有する例は対象から除外した。歩行時膝関節角度の測定は術側の大腿骨大転子,膝関節裂隙,脛骨外果をマーキングした後にデジタルカメラを使用して矢状面から動画(30fps)を撮影した。歩行速度は対象者の快適歩行速度とし,1度の動画撮影において3歩行周期を記録した。動画データはMotion Analysis Toolsを使用して静止画から膝関節角度を測定,1歩行周期から膝関節最大屈曲・伸展角度,前遊脚期(Psw)および遊脚初期(Isw)における屈曲角度を抽出し, また運動範囲(最大屈曲-最大伸展)を求め3歩行周期における平均値を代表値とした。膝関節可動域はゴニオメーターを使用して膝関節屈曲および伸展可動域を測定した。下肢筋力は膝関節伸展筋力をHand Held Dynamometerを使用し,3回の測定における最大値を代表値とした。膝関節機能評価には日本語版WOMACを使用して術前と退院時に評価を実施,また疼痛項目を抽出し疼痛評価とした。基本的情報として性別,年齢,体重,身長,BMI,術前・術中可動域および使用機種はカルテより抽出した。一標本t検定を用いて人工膝関節置換術後例の運動範囲を先行研究における健常例のデータと比較した。次に運動範囲と基本的情報および各測定項目におけるデータの関連性についてSpearmannの順位相関係数を用いて検討した。統計学的解析にはSPSSを使用し有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言ならびに臨床研究に関する倫理指針に則って行った。対象には研究の趣旨を説明し同意を得た。得られたデータは匿名化し個人情報管理に留意した。【結果】人工膝関節置換術後例の歩行時膝関節運動範囲は44.48±8.9であり健常例データ59.6±18.4に比較して有意に低値を示した(p<0.01).運動範囲に関連する因子として術前屈曲可動域rs=0.57(p<0.01),術中可動域rs=0.46(p=0.03),術後屈曲可動域rs=0.44(p=0.04),術後伸展可動域rs=0.44(p=0.04),歩行時最大屈曲角度rs=0.71(p<0.01),歩行時最大伸展角度rs=-0.49(p=0.02),Iswにおける膝関節屈曲角度rs=0.51(p=0.01)に有意な相関関係を認めた。【考察】本研究結果から人工膝関節置換術後例では歩行時における膝関節運動範囲は狭小化していることが明らかとなった。運動範囲の狭小化には疼痛に伴う膝関節周囲筋の防御性収縮や術前の学習された歩行様式の残存が考えられる。また術前・術中・術後の屈曲可動域,術後伸展可動域,Iswにおける膝関節屈曲角度が膝関節運動範囲に関連する要因として重要であることが明らかとなった。運動範囲の拡大にはまず膝関節屈曲・伸展可動域を拡大する必要があると考えられた。また遊脚期における膝関節屈曲角度にはPsw・Iswにおける円滑な膝関節屈曲運動が必要とされるが,膝関節運動範囲とPswにおける屈曲角度には有意な関連は認めず,Iswにおける屈曲角度のみと有意な関連を認めたことから,人工膝関節置換術後例においてはPswにおける円滑な前足部荷重へと移行できず,Iswで努力的に屈曲運動を行っていることが推測される。よってSKG改善にあたってはPswにおける膝関節屈曲角度を改善する必要があると考えられる。Pswにおける膝関節屈曲角度減少には膝関節のみならず股関節・足関節の関節運動の影響も大きいと考えられ,今後は多関節における運動分析を行う必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究はSKG改善を目的とした運動療法を展開する上での一助になると考えられ,非常に意義深い理学療法研究であると考えられる。
著者
作田 尋路 工藤 卓
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

脳の情報処理機序の解明には,非線形な神経電気活動パターンのダイナミクスを理解することが重要である.また,近年ディープラーニング(DL)が多分野で高い識別精度を発揮している.そこで本研究では,ラット海馬から調製した生体神経回路網に対して,電気刺激を印加することで観察される誘発応答電位を含む神経電気活動を計測し,異なる刺激に対する応答パターンの識別に対するDL手法の有効性を検証した.時空間的情報の連続性を保持するようにしながら,入力データを画像として作成し,事前学習手法として積層オートエンコーダを用いた積層人工ニューラルネットワークで,神経電気活動パターンの特徴抽出を試みた.その結果,パターン識別の精度は充分ではなかったが,刺激直後2秒のデータのみを識別対象とすることで,識別精度は刺激直後10秒のデータを対象とした場合と比較して約2倍に向上した.神経電気活動のように「ゆらぎ」の大きい現象について,DLの手法によってパターン識別を行う場合は,分類判別基準に対するデータのゆらぎに応じた相当数の入力データが必須であることが確認された.
著者
小口 高 西村 雄一郎 河本 大地 新名 阿津子 齋藤 仁
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

日本地理学会が運用しているツイッターアカウント(@ajgeog)は約1万5千人がフォローしており、諸学会のアカウントの中でも知名度が高く、一定の影響力を持っている。このアカウントは多くの学会のアカウントとは異なり、地理学に関連した一般的なツイートを多数リツイートしたり、フォローを返したりすることが多い。アカウントの運用は同学会の広報専門委員会が担当しており、過去5年間以上にわたり地理学に関する情報の伝達に継続的に寄与してきた。本発表では、2012年9月の同アカウントの開設と、その後の初期運用において中心的な役割を担った5名が、当時の経緯と背後で行われていた議論の内容を紹介する。
著者
丸橋 暁 丸橋 友子 丸橋 美鈴
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

ホワイトチョコレートはダークチョコレートよりも融けやすいと言われる.ホワイトチョコレートとダークチョコレートとの融解温度の差を利用してミグマタイトをつくってみた.【材料】・ホワイトチョコレート・ダークチョコレート【方法】ホワイトチョコレートとダークチョコレートとを容器に詰め,湯煎をして融解させた.【なぜそんなことを?】家族で肥後変成帯のミグマタイトを見に行った.その振り返りにキッチン変成岩岩石学として,ミグマタイトチョコレートをつくってみた.【結果】ミグマタイトの構造を再現したミグマタイトチョコレートをつくることができた.ミグマタイトがどのようなものかがこの振り返り実験で実感できた.
著者
田邊素子 庭野賀津子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第50回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

【はじめに,目的】近年増加している虐待の背景には育児ストレスが要因とされている。育児ストレスについて母親の報告は多いが父親では少なく,実際の虐待者が両親であることを考慮すると,男女双方の育児ストレスを検討することは重要である。これまで我々は乳児の2種類の表情認知時の若年成人の脳活動を計測し,泣き場面の方が前頭前皮質の賦活が高いことを明らかにした。また実際の育児では乳児の表情観察に加え,あやす声掛けが必要である。乳児への発話は対乳児発話(IDS:infant-directed speech)と呼ばれ,対成人に比べ,ピッチが高い,誇張されたイントネーション,遅い発話速度,などの特徴がある。IDSは母親だけではなく父親でも観察されているが,育児経験のない若年者での検討は少ない。以上から,乳児の表情視聴時およびIDS時の脳活動の性差を検証し,表情認知とIDSの脳活動にどのような傾向があるかを明らかにすることとした。【方法】被験者は健康な大学生24名(男女各12名,平均年齢21.3歳,全員が右利き)である。実験は,防音室にて実施し,背もたれのある椅子によりかかった安楽な姿勢とした。乳児の表情は刺激を統制するため録画した動画を用い,刺激呈示は26インチの液晶モニターを使用した。実験は安静・刺激を各20秒,3回繰り返すブロックデザインとし,刺激条件は乳児が泣いている場面(cry),機嫌の良い状態(non-cry)とした。乳児表情視聴時では,刺激は「乳児が何を伝えようとしているかを考える」,安静は画面上の固視点を「何も考えずに注視する」と教示した。IDS時では,刺激は画面に映る「乳児に対してあやすように発話する」,安静は画面に表示される「あいうえお」の発語と教示した。脳活動はNIRS装置(日立メディコ社製,ETG-4000)にて計測し,国際10-20法のFp1-Fp2ラインに最下端のプローブを配置した。指標はOxyHb(mM・mm)とし,刺激条件ごとに加算平均した。安静,刺激とも開始5秒後からの15秒間を解析対象としOxyHbの平均値を算出した。計側部位は前頭前皮質(PFC)の19チャンネル(Ch)とした。統計解析は,視聴時,IDS時ともに,各チャンネルのOxyHb値について,性別・刺激条件について2要因分散分析を実施した。有意水準は5%未満とし,統計ソフトはSPSS Statistics17.0(SPSS. Japan. Inc.)を用いた。【結果】表情視聴時は,性別の主効果が眼窩皮質(OFC)に相当するCh39,50であり女子学生の方が男子に比べ,cry,non-cry条件ともに有意にOxyHbが高かった。前頭極(FP)に相当するCh38では刺激の主効果があり,cry条件が男女とも有意に高かった。Ch37(FP)は女子のみcry条件が有意に高かった。IDS時は,性別の主効果は全ての部位で有意ではなかった。刺激の主効果は背外側前頭前野(DLPFC)とFPに相当する9個の部位(Ch.24,25,26,27,28,35,38,39,49)で,non-cry条件が有意に高かった。【考察】OFCは報酬に関連する部位といわれ,母親の愛着とも関連するといわれている。視聴時,刺激条件に関わらず女子の脳活動が高かったのは乳児の表情を認知する過程で報酬に関連する賦活があった可能性が考えられる。IDS時には,性差はなかった。今回の対象は男女とも育児経験がないため,影響しているかもしれない。今後,育児経験のある成人でIDS時の脳活動を比較する必要がある。またIDSではcryに比べnon-cry条件でDLPFC・FP領域で脳活動が高かった。DLPFCは発動性や注意,FPは共感に活動する部位であり,乳児が泣いている場面より,機嫌が良い場面の方が発動性・注意,共感の作業を脳内で行い,声掛けをしようとした可能性が考えられる。視聴時とIDS時の比較では,IDS時が脳活動の部位が多く,乳児への発話時は,他者への共感に関連するFP,注意を担うDLPCFがより活動したと推測する。【理学療法学研究としての意義】乳児の表情の視聴時・IDS時の脳活動を検討することは,育児負担が高い障害児を持つ両親の育児ストレス対策および親性の涵養のための有益な資料となる。謝辞:本研究は,JSPS科研費(課題番号24530831 研究代表者 庭野賀津子)の助成を受け実施した。
著者
田村 笙 岩本 南美 東森 碧月 田島 晴香 中野 勝太 中野 美玖 尾藤 美樹
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-05-10

2011年に土砂災害が発生した兵庫県加古川市の大藤山や、2014年に土砂災害が発生した広島市安佐北区には花崗岩が分布している。このことから、花崗岩体では土砂災害が発生しやすいと考え、文献調査で確認しようとしたが、花崗岩と土砂災害の関係について確証できる実験データを伴うものはなかった。そこで、全国で2012年~2014年に土砂災害が発生した地域の地質を調査した。その結果、花崗岩の分布面積は全国で12%程であるにも関わらず、地質別の土砂災害発生件数は花崗岩体が最も多くなっていた(図1)。このことから、2015年度は花崗岩の風化が土砂災害に及ぼす影響について研究を行い、花崗岩特有の風化過程によって土砂災害発生の危険性が高まるという結論を得た。ところが、兵庫県の土砂災害ハザードマップには地質的条件が十分考慮されていない。そこで、花崗岩体における土砂災害発生危険度(以下、危険度とする)を新たに設定し、それをハザードマップに反映させることを目的として、昨年度から研究を進めている。危険度の設定には、鉱物の割合と透水係数を用いる。岩体の崩れやすさを鉱物の割合から、土砂層の崩れやすさを透水係数から、それぞれ[1]~[5]の5段階で定める。そして、岩体の崩れやすさと土砂層の崩れやすさの分布表を作成し、[A]~[E]の5段階で危険度を設定する(図2)。 崩れやすさを定めるにあたって大藤山で現地調査を行い、土石流跡付近の土砂を採取した。この地点の岩体・土砂層の崩れやすさを、最大である[5]と定義する。そして、土砂の鉱物の割合と透水係数を測定した。鉱物の割合は、採取した土砂を樹脂で固めて薄片を作成し、偏光顕微鏡で黒雲母・緑泥石・粘土鉱物の観察を行った。そして、3つの鉱物の合計面積に対する、それぞれの鉱物の面積の割合を算出した。黒雲母は風化によって緑泥石、粘土鉱物へと変質していくことから、粘土鉱物の割合が大きいほど風化は進行し、岩体は崩れやすくなると考えている。鉱物の面積は、偏光顕微鏡に設置したカメラで薄片を撮影し、画像加工ツールを用いて対象の鉱物を着色し、「PixelCounter」というソフトを使用して測定した。画像を分析した結果、土石流跡付近の土砂は粘土鉱物が91.5%、黒雲母が8.5%で、緑泥石は見られなかった。この結果から、土石流跡付近では風化が著しく進行していることが分かる。この土石流跡付近の土砂の岩体の崩れやすさを、前述で示した最大の[5]とした。また最小の[1]として、風化していない花崗岩の薄片観察の結果を用いた。次に、土砂層の崩れやすさを求めるために、ユールストローム図を用いた。ユールストローム図とは、土砂の粒径と、土砂が侵食・堆積され始める水の流速の関係を表したグラフである(図3)。流速が小さいほど、土砂が動き始める際に必要なエネルギーは小さい、即ち土砂層は崩れやすいと考えられる。この図を用い、土砂の粒径を測定することで土砂層の崩れやすさを求めようと考えていたが、ユールストローム図における土砂の粒径は均一であることが前提である。しかし、実際に堆積している土砂の粒径は不均一である。そのため、粒径と透水係数の関係を表す表であるクレーガ―表(図4)を用いることで、透水係数から土砂層の崩れやすさを求めることができると考えた。ここでユールストローム図とクレーガ―表から、図3の赤線と図4の赤枠が示すように、土砂層の崩れやすさが最大である[5]となる透水係数は3.80×10-3cm/sとなる。そこで、土石流跡の透水係数を測定し、最も土砂層の崩壊しやすい値(3.80×10-3cm/s)と比較することにした。測定実験は土石流跡の土砂の構造を壊さないように採取したものを持ち帰り、自作した装置(図5)に詰めておこなう、室内変水位透水試験を実施した。実験により得られた土石流跡の透水係数は5.18×10-3cm/sとなり、最も土砂層の崩れやすい値である3.80×10-3cm/s付近となることから、ユールストローム図とクレーガ―表を用いることで透水係数から土砂層の崩れやすさを求めることができるといえる。岩体と土砂層、それぞれの崩れやすさから設定した危険度の分布表をより正確なものにしていくために、土石流跡周辺の崩壊していない土砂層が見られる露頭でも同様の実験をおこない、そのデータを分析中である。今後は大藤山と同様に花崗岩体であり、既に予備調査を終えている六甲山(兵庫県神戸市)の試料も採取するなどさらに多くのデータを得て、危険度の分布表をより正確なものにしていきたいと考えている。
著者
山田 真徳 Kim Heecheol 三好 康祐 山川 宏
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

ラベルなしの系列データからDisentangleされた表現を抽出するモデルであるtime convolutional variational ladder autoencoder (TCVLAE)を提案する. シンプルな2次元のデータで提案手法は時系列の意味の分離が可能なことを実験的に示した.
著者
諏訪 仁 大塚 清敏 野畑 有秀 久保 智弘 宮城 洋介 棚田 俊收 中田 節也 宮村 正光
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2014年の御嶽山では死傷者を出す火山噴火が発生し、それを機に火山災害への関心が急速に高まっている。最近でも、草津白根山が小規模噴火を起こし死者が発生した。一方、富士山の宝永噴火のような大規模噴火を想定したとき、火口周辺の噴石などに加えて、降灰が首都圏を含む広範囲に及ぶと予想されている1)。降灰の建物への影響に着目すると、降灰荷重による屋根のたわみや崩落、空調用室外機などの空調効率の低下や腐食、目詰まりによるフィルタの交換時間の短縮など、さまざまな被害状態が懸念される。このため、筆者らは、それらを統合的に評価するため、降灰被害予測コンテンツの開発を行っている2)。本研究では、建物の空調機能を維持するために重要となる空調用室外機を対象に、火山灰の降下直後を想定した実験を行い空調用室外機の稼働状態を検討した。 降灰深が約50mmまでの実験結果をまとめると、降灰深の増加に伴い熱交換器のフィンに火山灰が付着して通風抵抗が増加し、ファン運転電流にわずかな上昇が見られた。しかし、湿潤状態で降灰深が約50mmのケースを除くと、空調用室外機はほぼ正常に稼働することを確認した。今後は、病院、庁舎など重要施設を対象に、降灰深に応じた建物機能への影響事例を作成し、自治体など防災担当者を支援するための情報ツール開発に繋げる予定である。【参考文献】1)富士山ハザードマップ検討委員会、2004、2)文部科学省:次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト
著者
吉川 澄夫
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

平成7年兵庫県南部地震(M7.3)は,本震前に地殻変動,地下水,電磁気などの様々な変化を伴い,地震活動の異常が観測されたことが知られる地震である.特に茂木(1995)は長期的・広域的な視野で地震活動の空白域と静穏化現象を指摘している.吉田(1995)は地震活動の先行現象の広域性を指摘し,震源域よりも広い領域が地震発生プロセスに関わっていることを示した.そこで何らかの予知手法を想定した場合,このような広域の先行現象を根拠にどの程度の確度で評価可能かが問題となる.eMAP は地震発生率をポアソン確率により評価するツールである(吉川・他,2017).個々の震源毎に領域を設定し,全ての領域の異常の度合いを表示することがこの方法の特徴である.上述の問題を考える為,この方法による広域地震活動の診断の可能性を検討した.兵庫県南部地震の際の広域の地震活動静穏化・活発化現象を,近畿・中国・四国地方を中心に解析したところ,以下の特徴が見出された.当時の気象庁震源カタログは一元化処理開始前であり,1988年以降の検知力はM2.0程度と考えられる.本震の5〜6年前までは,地震活動の空間的な分布が比較的短期間に変化し安定したパターンが見られないが,本震の約2年前,兵庫県東部で約50kmの範囲にわたり静穏化現象が確認される.そして本震約1年前から発生時まで,震源域とそれを囲む広い範囲の複数地域で活発化の状況を示した.これは諸々の活断層・構造線沿いに小規模な前震的活動が起きていたことによるものと思われる.この地震活動の時間的推移に基づいて予測手法を想定すれば次のようになる.まず静穏化現象の場所と広がりを把握することにより本震の発生場所と規模を想定し(吉川,2015),次に広域の地震活動の時間変化の同時性を検知することにより,相関解析などの手法をもって時期を推定するというものである.