著者
佐々木 陽子
出版者
鹿児島国際大学福祉社会学部
雑誌
福祉社会学部論集 (ISSN:13466321)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.13-26, 2016-10-01

「棄老研究」の4種のアプローチ(民俗学・法理学・文学・映像作品)のうち、本稿は文学的アプローチに光をあてる。民俗学は棄老習俗が実在しなかったとしているが、文学的想像力は「老いと死」の深淵を問いかけるテーマとして、棄老を繰り返し登場させている。本稿では戦後の棄老文学の代表作ともいえる、深沢七郎の『楢山節考」、村田喜代子の「蕨野行』、佐藤友哉の『デンデラ」の3作品を扱う。労働力として役立たずの老人を棄てることで、赤貧の村は生き延びる。この棄老の掟は主人公の老婆たちに受容され、棄老地での死は宿命として甘受される。3作品が描き出す絵柄は異なるが、主人公の老婆たちの棄てられることに対するものわかりの良さ、浄土への憧慢と共振することで死を厭わない心性が生み出されることなどが共有されている。本稿では、舞台の空間構成、主人公の死生観、「棄老」のしくみなどを変数に、3作品を比較考察する。
著者
堀井 瀬奈 能見 清子
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 = Japanese Society of Human Caring Research (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.27-33, 2020-03-31

目的:A 大学看護学部生の学年ごとのキャリア成熟度を明らかにし,志望動機との関連について検討する.方法:A 大学看護学部生1 ~ 4 年生300 名を対象とし無記名自己式質問紙調査を行った.質問項目はキャリア成熟度,職業選択志望動機,研究者が作成した学習意欲の原動力とした.結果: 回収された質問紙は241 部( 回収率80%) で,有効回答235 部を分析対象とした.一元配置分散分析を行った結果,キャリア成熟度の値は学年間で有意差はみられなかった.重回帰分析の結果,キャリア成熟度の〔関心性〕〔自律性〕〔計画性〕全ての因子と内発的動機に有意な正の関連がみられた.考察: キャリア成熟度を高めるには内発的動機を高く維持することが重要であるという知見が得られた.
著者
江利川 良枝
出版者
名古屋学院大学総合研究所
雑誌
名古屋学院大学論集 社会科学篇 = THE NAGOYA GAKUIN DAIGAKU RONSHU; Journal of Nagoya Gakuin University; SOCIAL SCIENCES (ISSN:03850048)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.231-244, 2017-03-31

「平成28年度学校基本調査」によると,高校生の2人に1人が大学に進学しており,年々その割合は増加傾向にある。しかし,その割合が増えるほど,目的なく進学する高校生や不本意ながら入学した学生も増える可能性が高い。事実,親や高校の先生のすすめ,周りが進学するから,何となく将来のためになると思ったからといった理由で入学する学生も少なくない。一方,大学におけるキャリア教育には学校から社会への移行として,組織や社会が求める能力を身につけることが求められている。大学での学びや学生生活は高校までのそれとは全く異なる。前述のような大学進学者が多い中で,彼らがまずクリアしていかなければならないのは高校から大学への移行である。学生生活における自己確立や大学生の発達課題でもあるアイデンティティの獲得のために,まずは進学動機や大学生の発達課題に目を向け,本学のキャリア教育がどのように影響したかを検証する。
著者
福嶋 開人 湯村 翼 リム 勇仁 丹 康雄
雑誌
研究報告ユビキタスコンピューティングシステム(UBI) (ISSN:21888698)
巻号頁・発行日
vol.2020-UBI-66, no.1, pp.1-8, 2020-05-18

少子高齢化の進展により,少ない働く世代で多くの高齢者を支えることから働く世代,高齢者ともに負担が高まっており,少ない介護者で効率的に高齢者を見守る方法が注目されている.そこで,無線電波によるデバイスフリーで呼吸数および心拍数を推定する研究がされており,種々の電波方式が検討されている.例えば,専用無線機器を用いた FMCW や汎用無線の Wi-Fi を用いる方法が挙げられる.しかし,これらの方法には機器が社会に広く普及していない点や消費電力が大きい点で,家庭内での利用に不向きという問題がある.本稿では,汎用無線標準である Bluetooth Low Energy のアドバタイズ機能を用いて家庭内にいる居住者の呼吸数および心拍数の取得の可能性について検討する.実験では,人の呼吸数および心拍数に相当する振動をアルミバルーンを用いて再現し,送信電波がフレネルゾーンにより干渉することで生じる受信強度の変化から振動が取得できるかを確認した.呼吸数の 10bpm,15bpm,20bpm において,想定した周波数に反応が出ている結果を得た.このことから,BLE 電波を用いて生体情報の実現が取得が可能であると結論付けた.今後の展望として,本実験では利用しなかった送信パケットのデータ部に送信機の位置を格納し,マルチアンテナ構成を実現することでより高精度な測定の実現を見込む.また,家庭内での位置情報を利用する研究と組み合わせることで居住者一人ひとりを識別し,個人に合わせた提案を行う社会的に影響の大きな技術となり得る.
著者
中岡 孝剛
出版者
近畿大学商経学会
雑誌
商経学叢 = Shokei-gakuso: Journal of Business Studies (ISSN:04502825)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.279-297, 2019-03-31

[要旨]金融危機などのテールイベントに対するリスクエクスポージャーを評価することは事業継続の観点から重要である。しかし,事業活動において,企業が直面するテールリスクを定量的に把握することは難しく,モデルの開発が進んでいない。本稿では,アーニングス・アット・リスク(EaR)の概念を用いて,企業が事業収益において直面するテールリスクの簡便的な定量化方法を紹介する。この方法は複数のリスクドライバーの導入などモデル精緻化あるいは拡張が可能であり,実務的にも応用が可能なものである。 [Abstract]Measuring the risk exposure to tail-events like the global financial crisis that was happened in 2008 has become a vital role for the principle of business continuity. However, it is not easy to quantitatively perceive the tail risk that firms may face in their businesses. In this paper, I provide a simple model which allows us to measure the tail risk by applying the concept of“ Earnings at Risk(EaR)”. This model can be ameliorated or expanded to include multiple risk-drivers, and applicable to the practical analysis.
著者
澤畠 拓夫 河内 香織
出版者
近畿大学農学部
雑誌
近畿大学農学部紀要 = MEMOIRS OF THE FACULTY OF AGRICULTURE OF KINKI UNIVERSITY (ISSN:21896267)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.46-49, 2015-03-01

<Synopsis>Outbreak of gypsy moth occurred in Nara campus of Kinki University in 2012 and May in 2013 and the outbreak have rapidly declined in June 2013. Many larvae dead on lower portion of tree trunks showing typically attached by their prolegs with their head pointed downward. Spore production of entomopathogenic fungus, Entomophaga maimaiga was observed on some larval body surface. But majority of the larvae showed no external and internal sporulation, and 25% of them contained one or two dipteran larvae. These observations suggested that many larvae of the moth were killed by viral infection, such as baculovirus. The larvae survived the attack by parasitic organisms got pupae, but most of them were killed by parasitic wasps and did not emerge. These facts showed the complex of parasitic organisms, such as virus, fungus, and parastoid diptera and wasps caused the decline of gypsy moth outbreak in Nara campus of Kinki University.
著者
渡辺 茂
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, 1961-05-25
著者
飯岡 由美子 長谷川 美貴子 Yumiko Iioka Mikiko Hasegawa
雑誌
淑徳大学短期大学部研究紀要 = Shukutoku University Junior College bulletin (ISSN:21887438)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.123-141, 2017-02-15

高齢者福祉施設の援助者(特に介護福祉士)を対象に、ケアにおける共感性とバーンアウト傾向の関係性を明らかにするための質問紙法調査を行った。その結果は以下の通りである。①バーンアウト傾向と共感性には負の相関がみられた。②介護経験年数毎に特徴をみると、バーンアウト傾向は新人(1~2年目)から中堅(6~8年目)まで増え続けるが、達人(9年目)以降は減少し、新人の頃よりも低くなる。共感性はバーンアウトとは逆の傾向を示し、働き続けることによって低下していくが、9年目以降より高くなっていく。③利用者との関わりの中で、援助者がストレスを一番感じるのは、利用者が同じことを繰り返したり意思疎通困難な状況、次に拒否的な態度、三番目は暴力や暴言であった。④バーンアウト傾向の高い人は、認知的共感性の「視点取得」や「想像性」が低い。⑤心揺さぶられるほどの体験とバーンアウト傾向の関係をみると、バーンアウト傾向が一番高いのは、「ショックな体験」があり「嬉しい体験」の無い人であった。また、「ショックな体験」があったとしても「嬉しい体験」があると、バーンアウト傾向は低いという結果になった。超高齢社会であるわが国にとって、高齢者福祉施設への社会的ニーズは高まり続けているが、その役割を担う介護福祉士資格に対する法整備や教育体制づくりは遅れをとっている。現在の介護福祉士は以前のように三大介護を行っていればよい職種ではなく、「ケア」に関する高度な専門的知識・技術の必要な専門職であることを認識し、ケアに内在する共感性のあり方やバーンアウト、虐待に至るプロセス等の研究を続け、適切かつ明確な対策を早急に立てる必要性のある領域であることが明らかになった。
著者
早川 裕真 浅野 哲夫
雑誌
研究報告アルゴリズム(AL)
巻号頁・発行日
vol.2015-AL-152, no.8, pp.1-8, 2015-02-24

近年では社会の複雑化に伴って,より巨大なグラフに対する最短経路問題の解決が求められるようになってきている.しかし,巨大なグラフに対する最短経路問題を実際に計算機上で解くためには,グラフの大きさに比例した多くのメモリが必要になる.本研究では,平面上の最短経路問題を解く実用的でメモリ効率の良いアルゴリズムの開発を行う.また,現場では障害物をある対価を払って通過することがあり,そのような障害物に重みがついている場合への拡張も行う.
著者
金井 文宏 庄田 祐樹 橋田 啓佑 吉岡 克成 松本 勉
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.2275-2288, 2015-12-15

スマートフォン向けOSとしてAndroidが広く用いられている一方で,それを狙ったマルウェアの数も増加している.Androidマルウェアの中には,リパッケージと呼ばれる手法を用いて,正規アプリの中に悪性コードを追加することで作成されたものが多く存在する.攻撃者がリパッケージマルウェアを大量に作成する際には,リパッケージ処理の自動化が必須であると考えられるが,自動リパッケージの実態や対策については,十分な調査・検討が行われていない.そこで我々は,既存の正規アプリが自動リパッケージに対して,どの程度の耐性を有するかを検証する.まず,実際のリパッケージマルウェアの解析を行うことで,リパッケージの方法を特定し,自動リパッケージを再現するスクリプトを作成する.次に,このスクリプトによって,複数の正規アプリに対して,外部と通信を行う機能だけを持つ検証用コードを挿入する.作成したリパッケージ済みアプリを動的解析して,挿入した検証用コードが正常に動作するかどうかを検証する.その結果,自動リパッケージの手法により成功率に差がみられるものの,評価対象としたアプリの7~9割において,挿入した検証用コードが正常に動作し,なおかつ起動時の動作が変化しないことを示す.さらに,ユーザによるインストール数が5,000万件を超える33種類のアプリにおいて,アプリの持つ基本的な機能がリパッケージ後にも保持されるかを確認し,87.9%にあたる29種類のアプリにおいて機能が保持されていることを示す.この実験において挿入した検証用コードを,悪性のコードに変更した場合でも,同様の方法で自動リパッケージが可能であることが予想される.以上より,現状のAndroidアプリの多くは自動リパッケージへの耐性が不十分であり,耐タンパ技術などを用いたリパッケージ対策が必要であることが分かる.