著者
中村 菜々子
出版者
兵庫教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

人工透析患者34名対象の面接調査と632名対象の質問紙調査を実施して、血液透析と腹膜透析の恩恵と負担の情報を整理し医療者の効果的な支援を検討した。研究の結果、(1)患者自身が認識する両透析療法の恩恵と負担の内容と重みづけ、(2)透析種別に異なる治療上のストレスに対する効果的な対処行動、(3)医療者の関わりがセルフケアに与える影響は患者の個人特性(依存性、自律性)で異なることが明らかになり、各透析の特徴と患者の特性を考慮した支援内容や方法が提案された。
著者
堀江 一之 高橋 賢 川口 春馬 町田 真二郎
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究(B)
巻号頁・発行日
1998

今年度は、昨年度から引き続き行ってきている単一色素を含む両親媒性高分子ユニマーの光化学ホールバーニングの研究に加えて、(1)高効率発光デンドリマーの合成とその単一微粒子分光および、(2)蛍光法による刺激応答性微粒子の単一微粒子観察とその評価を行った。前者については、コアにジフェニルアントラセン、表面にピレンを有する2世代のデンドリマー分子を合成した。溶液中337nmの光で主にピレンを励起した場合、デンドロンではピレンのエキシマー蛍光が観測されるが、デンドリマーではピレン由来の発光は全くみられず、コアからの発光のみが観測された。デンドリマー稀薄溶液から基板上に作成した凝集体微粒子は、溶液中よりも短い寿命を示した。また溶液中、凝集体いずれの場合も、エネルギー移動に由来する発光の立ち上がりは観測されず、エネルギー移動が非常に高速に起こると結論した。後者については、表面にpoly(N-isopropylacrylamide)(PNIPAM)を有し、環境に応じて粒径を変化させるコアシェル型微粒子のゲル内部もしくはヘア末端に、蛍光プローブであるダンシル基を導入し、シェル層のミクロな極性・粘性を評価した。水-アセトン混合溶媒中での微粒子の粒径は、通常の(コアシェル型でない)PNIPAMゲルと同様の挙動を示した。しかし、プローブ周囲の極性・粘性を反映する蛍光ピーク波長は、水中で微粒子とゲルとでは大きく異なり、微粒子のプローブ周囲が疎水的であると示唆された。水-メタノール、水-DMSO混合溶媒系でも同様の結果となった。共焦点レーザー走査型蛍光顕微鏡により、微粒子個々の観察を行ったところ、コアに相当する部分がシェル層より明るい像が得られた。以上の結果より、疎水性プローブであるダンシル基は、水中ではポリスチレンコア近傍に寄り集まると考えられる。
著者
富田 克利 河野 元治
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

鹿児島県内の多くのシラス崖の表面からシラス試料を採取し、どのような粘土鉱物が生成しているかを調べた。その結果、比較的最近崖が崩れた場所での崩落したシラス中の粘土鉱物はスメクタイトと10Å-ハロイサイトが認められ、その含有量は、崩落しないで残っている崖の部に含まれている粘土鉱物の含有量に比べてはるかに多量であることがわかった。出水市の針原地区え大規模な地すべりが起こったが、この地域から採取した土砂中にも多量の10Å-ハロイサイトが含まれていた。また、最近大規模な地すべりを起こした鹿児島県吾平町で採取した土砂中のも多量の10Å-ハロイサイトが含まれていた。このように崖崩れを起こした土砂中には膨潤性粘土鉱物が例外なく含まれたいた。このことは、多くの雨が降った後、膨潤性粘土鉱物の層間に水が入り、粘土鉱物が膨潤したためにそれまで土砂中の粒子と粒子がくっついていたものがはがされ、土砂中に割れ目が生じると同時に水を含んだために重量が増し、崖の崩壊が起こったものと思われる。大分県湯布院花合野では大規模な温泉地すべりがみられるが、この地域の土砂中にはスメクタイトが多く含まれていた。このスメクタイトも膨潤性粘土鉱物であり、この粘土鉱物が地すべりを起こしている要因になっていることがわかる。以上のように膨潤性粘土鉱物の存在が地すべりや崖崩壊の原因になることがわかったので、天然のシラスを出発物質にして、シラスからどのようにして膨潤性粘土鉱物が生成するのかを調べるために、合成実験を行った。天然でシラス崖の表面に生成している膨潤性粘土鉱物は、それほど温度も高くなく、大気圧下で生成しているので、低温低圧の条件下での合成実験を試みた。その結果、200℃以下での水熱条件下でスメクタイトの合成に成功したし、大気圧下でのスメクタイトの合成にも成功した。今後この実験を継続して行っていくと同時に、シラスの崖崩壊を起こすのは、どのくらいの膨潤性粘土鉱物が含まれていると危ないかを予知できるように、膨潤性粘土鉱物の含有量と崖崩壊の関係をさらに詳細に検討する予定である。
著者
國 雄行
出版者
神奈川県立博物館
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

当初の計画ではプラオ(西洋犂)を内国勧業博覧会に出品していた埼玉県北足立郡大谷村向山の吉田為次郎と福島県安積郡郡山町の斉藤庄五郎について調査を進めていく予定であった。吉田については埼玉県文書館の調査により、ある程度の分析が進んだが、斉藤については未詳のままである。ただ斉藤について調査を進めていく過程で興味深い事実につきあたった。この調査をするにあたり、福島県文化センター歴史資料館に所蔵されている『県庁文書』の分析から開始したが、その際、福島県の場合は、西洋農具は農民ではなく(元)士族に貸与、又は払下げれていた事実が判明した。すなわち福島県は安積等の原野を開墾する者たちを中心に西洋農具の貸与や払い下げを行なったのであり、西洋農具の導入政策と士族授産が密接に結びついていたことが明らかとなった。また、北海道各地の博物館・資料館等を調査するにあたり、西洋農具があらゆる場所で展示されており、農具の性質、使用法等を学ぶことができたのは大きな成果である。東京近辺の調査では、立川の砂川源五右衛門(北多摩郡長)が大日本農会と密接に関連しながら、桑園をひらく際に西洋農具を使用していたことが明らかとなった。しかし、現在、史料発掘中であり、詳しい内容はわからない。今後も引き続き調査を行い、西洋農具の導入政策を研究していきたい。
著者
西村 秀樹 米谷 正造 清原 泰治 大隈 節子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

グリーン・ツーリズムでは、地域の自然・文化・生業を地元の人たちから直接学ぶ「体験学習」が目玉になっており、その体験できないことを自分の身体で体験するということは、これまでの学校教育の枠にはとどまらない新しいかたちの「知」を自主的に獲得していくことにつながり、自立していく能力を養っていくことになる。これは、まさに「総合学習」の趣旨にかなっているが、その身体で体験する「総合学習」はどのような知の形態を特徴とするのだろうか。本研究では、高知県四万十川中流域(四万十市一帯)を調査フィールドとしてとりあげ、自然と生活・生業および文化との多様なつながりを学習できる「体験学習」を分析する。それによって、身体的行為を媒介させた生活体験を基点にして意味の連関が果てしなくつなげられていくという体系化された「知」を掘り起こすこと、およびそうした身体を基点に広げられた意味連関から生まれる臨機応変な対処能力・問題解決能力こそが「生きる力」であることを明らかにしていった。そうした「知」は、具体的には中山間地域が現在置かれている状況や都市部にはない「豊かさ」を支えている自然環境に関するものであり、それを体験的に理解することによって自らのライフスタイルを見直し、また社会と自分との関わりを考えていけるような可能性を内包する知なのである。
著者
兵頭 慎治
出版者
愛媛大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

1. ヒトにおける子宮内膜内Side population cellの発現と着床不全との関連性についてヒトの子宮内膜においてもSide population cellの発現はマウスと同じように変化するのか。愛媛大学医学部附属病院産婦人科不妊外来受診患者および同院良性疾患手術患者より文書にて同意書を作成した上で子宮内膜および末梢血を採取し、それぞれに含まれるSide population cell数をフローサイトメトリーを用いて測定した。採取時期は月経期・卵胞期・黄体期にわけて採取した。また検体採取時に経膣超音波検査断層法を用いて子宮内膜の厚さを測定し、血漿中のEstradiolおよびProgesterone濃度をCLIA法にて測定した。それぞれの月経周期におけるSide population cellは子宮内膜上皮・子宮内膜間質・末梢血のいずれにおいても黄体期に高値を示した。しかしながら子宮内膜の厚さとSide population cellとの間には末梢血においては相関性がみられた(r^2=0.151,p<0.05)が子宮内膜上皮・子宮内膜間質においては相関性がみられなかった。さらに末梢血におけるSide population cellの数と血漿中のEstradiolおよびProgesteroneとの間に正の相関が認められた(r^2=0.171,p<0.05;r^2=0.218,p<0.01)。さらにフローサイトメトリーを用いて分離したSide population cellを10^8Mの17β-estradiolを含むDMEM/HamF12培地で培養し、7週間後には間質・上皮から分析したSide population cellから5cells/dishの間質細胞への分化が認められた。子宮内膜由来のSide population cellは、子宮内膜の増殖・分化に関与している可能性が考えられる。
著者
渡邊 理恵
出版者
山口大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

本研究では、M1が粒子内へ大量に存在する仕組みが、粒子形成前のM1多量体形成にあると仮定し、免疫沈降法を用いて細胞内で形成されるM1-M1複合体を検出した。FlagタグあるいはHAタグを付加した2種類のM1を細胞内で発現させ、抗Flag抗体で免疫沈降後、抗HA抗体を用いて検出した。免疫沈降サンプル調整時のpHを変化させたところ、長い紐状粒子を作りやすいインフルエンザウイルスUdorn株(H3N2)のM1では、細胞溶解液のpHに関わらずHAタグを持つM1が沈降した。一方、球状粒子を作るWSN株(H1N1) M1では、pHが変化すると、沈降するHA-M1の量が変化した。
著者
牛越 惠理佳
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

これまでに,体積一定の摂動条件のもと,Stokes方程式の速度場に対するHadamard変分公式の導出に成功した.また,体積一定であることに加えて,摂動条件に若干の仮定を加えることによって,速度場だけでなく,圧力に対する変分公式を導出することができた。しかしながら,未だこの証明方法は煩雑で,Hadamard変分公式の応用を考察するためには,証明方法の更なる簡略化および摂動条件に新たに加えられた仮定を取り除く必要性を感じ,研究を行った.そして実際,体積一定の摂動に対して,Stokes方程式の速度場および圧力に対する変分公式の証明の簡略化に成功した.しかしながら,シンプルな証明を確立したことによって,これまでに得ることの出来なかった,速度場および圧力の第二次変分までをも導出することに成功した.この手法に,所謂bootstrap argumentを用いることによって,任意の高階に対する変分公式の導出が可能になると予想される.これらの結果をまとめ,論文として投稿した,以上の研究成果をもって,国内研究集会へ積極的に参加し,研究分野の近しい数学者と議論を行い,変分公式の次なる発展を模索することを心がけた.変分公式は,領域摂動問題において,基本的でありかつ不可欠である.実際に,変分公式を応用して,固有値の領域依存性を解析した多くの結果が存在する.様々な数学者との議論を通して,今後の研究へ大きな影響を与えるような知見を得ることが出来た.
著者
笹川 和彦 坂 真澄
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

得られた成果を以下にまとめて示す。1.折れ曲がり/テーパ付き形状の配線を想定し,損傷予測を行った。形状の異なる配線の各々でEM損傷のしきい電流密度を予測した。折れ曲がった配線のしきい電流密度の方が直線形状のそれよりも大きいことがわかった。2.上記1の形状の試験片を用いて通電実験を行い,予測結果から得た配線構造・形状によるEM損傷への依存性を確認するとともに,予測法の妥当性を示した。3.配線長が一定の下で折れ曲がり位置やテーパ方向を変化させることにより,配線構造・形状と損傷予測パラメータとの関連性を抽出した。配線内のマクロな電流密度分布が配線の許容電流に影響を及ぼすことがわかった。これより,配線構造・形状に関する長寿命化の設計指針を獲得した。4.Al積層配線に対しTEOSあるいはポリイミドの保護膜材料を組み合わせた配線を想定し,EM損傷予測を行った。同じ保護膜厚さに対してポリイミド保護膜配線の方が長寿命となる結果を得た。5.上記4の試験片を作製し加速通電実験を実施した。予測結果の十分な検証に至らなかったが,意図したとおりの損傷が発生し予測結果の傾向を確認した。6.Al配線に対しTEOS,ポリイミド,SiNを保護膜とした組み合わせ配線を作製し,ナノ押し込み試験を実施した。弾性率はSiN,TEOS,かなり離れてポリイミドの順に小さくなった。またこの順に付着強度が大きいことが示唆された。7.ナノ押し込み試験より得た機械的特性を損傷予測パラメータであるEM特性定数と比較検討した。配線の長寿命化には,弾性率が小さく配線との付着強度が大きい保護膜との組み合わせが有効であることが示唆され,これらの関連性から保護膜の材料・厚さに関する長寿命化の設計指針を獲得した。今後,保護膜機械的特性と予測パラメータ「有効体積弾性率」との関連性も考慮して,より総合的に長寿命化への検討を行う予定である。
著者
小出 達夫 横井 敏郎 町井 輝久 木村 保茂
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1.調査し得た対象校は、北海道で13工業高校中10校、東京地区で9工業高校、東北地区で5校であり、そのほか工業高等専門学校、ポリテクカレッジ、職業訓練校、都立科学技術大学、教育行政諸機関なども訪ねた。さらにアメリ力との比較研究のためオレゴン州の高校および関連諸施設・機関を調査した。2.研究成果については折に触れ論文等にしたが、それらについては別紙を参照してほしい。成果の発表の場は、日本教育学会第57大会のほか、文部省主催の全国フォーラム、北大教育学部創設50周年記念国際シンポ、北海道工薬高校校長会などの場で報告発表しれた。そのほか『調査報告・資料集』を3分冊(No.1〜3)にして刊行し、関連機関に配布した。また研究代表者の小出は、この間文部省産業教育審議会や北海道教委教育計画推進会議の委員を果たし、その点でも研究成果を社会に還元できた。3.工業高校の改革を推進する上での二つの仮説はほぼ論証し得た。仮説は、(1)地域連携の強化、(2)高等教育機関との接続の強化、の二つであるが、いずれも不可避の課題として自覚化されつつあるし、また実現の条件もできつつある。とはいえ日本の場合は遅れており、オレゴンの高校改革ほどには進展していない。4.今後は、本調査研究で得た諸事実を理論化することが課題となるが、その際本研究の理論的シューマである、平等性、差異性、責任性の4改革原理を中心にまとめることになる。
著者
栃原 裕 KIM TAE GYOU
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

実際の冷凍倉庫内の環境を想定して、冷凍倉庫内の荷役作業が人体の体温調節反応やその他の生理反応にどのような影響を及ぼすかについて実験を行った。8名の被験者とし、気温20℃、相対湿度50%環境下において20分間の椅座位安静の後、マイナス25℃環境へ移動し、10分間の椅座位安静後、10分間の作業を行い(作業なし、9kg荷役作業、18kg荷役作業)、再び10分間の椅座位安静で、計30分間の寒冷暴露とし、これを3回繰り返すものであった。その結果、寒冷作業における労動量が増加することによって熱産生量が増加することが明らかになったが、四肢末梢の皮膚温においては条件間の温度差が現れた。直腸温低下は労動量の増加によって抑制されたが、直腸温変動に対するCounting比の相関では労動作業による急激なCounting比の低下が見えた。直腸温37.2℃においてCounting比は条件18kg荷役作業で一番高く、作業なし、9kg荷役作業の順に低くなったが、36.7℃では条件作業なしが一番高く、9kg荷役作業、18kg荷役作業と低くなり、逆順序になることがわかった。これは直腸温と足趾温との相関でも同様であった。血液成分では、寒冷ストレスに対して血漿ノルアドレナルリン濃度が増加した。本実験結果もこれと同様の結果であった。本実験においては、作業による熱産生の増加により寒冷ストレスは軽減されたため、作業量増加に従って血漿ノルアドレナルリン濃度の増加量が低下したと考えられた。しかし、手作業の巧緻性は重量物の荷役などの労動によってむしろ低下した。したがって、同一時間に対する作業でも寒冷環境下の重量物の取り扱いは、作業能率の低下や荷物の落下などの危険性が高まる恐れがあるため、取り扱い時の作業時間の短縮及び安全上の確保をさらに要すると考えられた。
著者
角田 衣理加
出版者
鶴見大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

デキストラナーゼとフルクタナーゼのキメラ酵素の開発は、う蝕予防に貢献できる可能性がある。S. mutans UA159株からデキストラナーゼA(dex A)遺伝子とフルクタナーゼ(fru A, fru B)遺伝子をそれぞれクローニングし、得られた酵素をデキストランおよびフルクタンと反応させ、それぞれの基質が分解したことをSomogyi-Nelson法により確認した。本研究により開発した酵素を用いて、バイオフィルムを分解できる可能性が示唆された。
著者
山口 満 安井 一郎
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

戦後初期の中学校における日常生活課程の実践事例として、(1)甲府北中プラン、(2)福井三国中プラン、(3)岩手黒沢尻プランの3つ取り上げ、資料収集、当時の関係者からの聞き取り調査、卒業生を対象にしたアンケート調査などを実施した。(1)については、既に前年度中に調査を行い、それに基づく研究論文を発表しているので今年後は(2)と(3)の研究を中心にして進めた。その研究の成果を平成4年10月に文教大学で行われた日本特別活動学会第一回大会で「戦後初期における教科外活動の教育課程化に関する一考察ー日常生活課程の成立と展開に着目してー」と題して発表するとともに、筑波大学教育学系論集および名古屋学院大学論集に発表した。このような研究活動を通して、およそ次のような知見が得られている。1.日常生活課程の実践は、「個性豊かな民主的実践人」の育成をはかるという戦後の教育の課題に応える学校づくりの過程で生まれてきている。2.小学校の日常生活課程と比較したばあい、中学校の実践では、(ア)教科学習との正別が明瞭である、(イ)生徒会活動との結びつきがつよい、(ウ)個別的なガイダンスとの関係が問題になっている、(エ)職業教育との関連がつよいなどの特色がある。実践的な活動の分野として取り上げやすいものと取り上げにくいものがはっきりとしており、すっきりとする反面、内容のバラエティに欠けるという問題がみられた。3.甲府北中、福井三国中、黒沢尻中のいずれにおいても、地域の中学校におけるカリキュラム改造運動に一定の影響を与えるとともに、今日に至るまで特別活動の指導の分野でその影響が残っている。4.戦後の教科外活動の教育課程化の論理や実践形態を明らかにする上で、日常生活課程に注目することの重要性が改めて確認された。
著者
中尾 正義 CHENG. Z. CHENG Z
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本年度は、主に清代の古文書を中心に研究してきた。満洲語や漢語の古文書により、清代全国に行われた国家規模な雪、雨、穀物の価格などの報告システムが明らかになった。それはこれまでの予想以上に、完全な文書システムによって広大な帝国領域を支配するために不可欠な手段であった。とくにこの研究を通して雨量の測定に関する具体的な文書が発見し、これまで朝鮮で発見された「測雨器」をもって雨を測量したという論説を根底から否定することになった。当時、雨に関する具体的な測量方法は、基本的に測量具を用いず、雨が降ったあと、地方の役人が地面を掘って、そのしみこんだ土を測り、寸、分という単位で記録して、中央政府に報告するという事実が明らかになった。時代が変わってもこのようなシステムが現在にいたるまで受け継がれ、測量器具や観察方法が進歩してきたと思われる現代にとって、清代という一つ前の時代にもこのような制度や見方が存在していたことから、当時の社会や自然に対する人間の営みが見えてきた。現在、これまで見つかった資料を中心に、歴史的な観点から自然環境と人間活動の相互作用に関する論文を鋭意執筆中である。
著者
大野 宗祐
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、天体の超高速度衝突時に発生する蒸気雲内における化学反応の速度を実験的に求めることと、その求まった反応速度が地球や惑星の表層環境や生命の進化にどのような影響を与えたかを解明することである。今年度は、衝突蒸気雲内部における硫黄酸化物の酸化還元反応の反応速度を実験的に推定するとともに、求まった反応速度を用い、今から6500万年前のK/T事件において硫黄酸化物がどのような環境変動を引き起こしたのかについて、理論計算を行った。本研究の手法で推定された硫黄酸化物の反応速度は、既存の気相反応の文献値よりも大きく、衝突蒸気雲の最終生成物は低温で安定な三酸化硫黄が支配的であったであろうことを意味する。この場合、K/T事件の際放出された硫黄酸化物が速やかに硫酸エアロゾルを形成したと推測される。この硫酸エアロゾルの大気中での滞留時間が、環境変動を議論するうえで非常に重要である。しかしながら、既存のK/T事件の際の硫酸エアロゾルの大気中の滞留時間の推定結果は全て、衝突直後大気中で共存していたはずのケイ酸塩の再凝縮物を無視していたため、滞留時間を何桁も過大に見積もっていた。そこで本研究では、ケイ酸塩と硫酸エアロゾルとの相互作用を考慮に入れて硫酸エアロゾルの大気中における滞留時間を計算した。その結果、硫酸エアロゾルの滞留時間は数日以内と非常に短いという結果が得られた。これは、硫酸エアロゾルによる日射遮蔽はごく短期間で終了するかわり、強い酸性雨が全球的に降ったということを意味する。本研究では計算した硫酸の降下フラックスに基づき、海洋表層の炭酸イオン濃度を推定した。硫酸の降下が大気海洋間のガス交換の特徴時間よりも圧倒的に速いため炭酸の緩衝系が弱められ、従来の推定よりも数十分の一まで炭酸イオン濃度が減少すると言うことがわかった。