著者
呂 怡屏 Yiping LU ル イーピン
出版者
総合研究大学院大学文化科学研究科
雑誌
総研大文化科学研究 = Sokendai review of cultural and social studies (ISSN:1883096X)
巻号頁・発行日
no.13, pp.239-255, 2017-03-31

本稿の目的は、台湾において1999年に生じた大規模な地震である「九二一大地震」の後に作られた「九二一地震教育園区」と、2009年の台風に伴う土砂災害である「八八水害」の後に作られた博物館展示の内容を比較検討することである。前者が自然災害をもたらした環境と文化財への影響に対する意識を高め、後者がさらに台湾における原住民族の課題と深く関わってきたことを明らかにする。これにより、災害に関連して建設された博物館やその展示が、災害という課題だけでなく、地域の住民や民族集団のアイデンティティに影響を与えていく作用を有することを論じる。台湾では、1980年代に社会全体で民主化が進行した。人口の大多数を占める漢族系の住民に対して少数派であったオーストロネシア系の先住民である原住民族の間にも、「人権」、「土地権」、「自治権」、「言語・文化権」などへの意識が高まり、それらの権利回復を目的とする「原住民族運動」が社会運動として生じた。1994年の憲法改正により、原住民族の権利や文化を尊重することが求められるようになり、台湾各地で当地の民族の文化や歴史を展示するための地域原住民族博物館の建設が活発に進められた。1999年9月21日の九二一大地震以後、台湾の博物館は真剣に災害とその影響をテーマとして取り扱うようになった。このような中で、2009年、八八水害による自然的・文化的な被害が生じたことで、九二一大地震が起こった十年後、もう一度災害と人間の関係、そして被災地における文化と生活の再建への関心を人々の間に呼び起した。特に甚大な被害を受けた平埔原住民のシラヤ系タイヴォアン人の文化を再興するため、台湾の公立の博物館は、社会教育および文化保存・伝承を担う機関として、災害救援と文化復興に協力した。その中で、被災した小林村と同じ自治体にある高雄市立歴史博物館は、小林平埔族群文物館が完成するまでの準備と企画に取り組んだ。小林平埔族群文物館の常設展示の企画チームは被災者の意見を取り入れ、村の歴史を踏まえたうえで、昔の小林村の生活を再現することにした。展示の企画立案の過程と、実際に完成した展示は、現地住民の民族的アイデンティティを呼び起こすことに影響を与えたと考えられる。筆者は本論を契機として、開館後の文物館と村民とのコミュニケーション、および展示の中に盛り込まれなかった災害をめぐる経験と記憶の継承のありかたを研究課題として注目し続け、さらなる検証を重ねていきたい。This study focuses on the establishment of museums after natural disasters and the exhibitions held there. Using the exhibitions in Earthquake Museum of Taiwan and Shiaolin Pingpu Cultural Museum as case studies, this paper examines the process of planning exhibitions after natural disasters, while also investigating the construction of ethnic identity among the Pingpu indigenous people.After 1980s, along with the democratization of Taiwan society, indigenous people started to assert their rights, such as human rights, land rights, cultural and linguistic rights, and the right to autonomy. Through these movements, the Taiwanese population became well aware of the issues concerning the rights of indigenous people. In 1994, the rights of the indigenous people were included in Article 10 of Additional Articles of the Constitution of The Republic of China. Following this trend, in the late 1990s, the Council of Indigenous people founded 30 museums exhibiting the culture of the regional indigenous people in order to give a presentation of indigenous culture and history within those local societies.After the 1999 Jiji earthquake, museums in Taiwan started touching upon issues of natural disasters and their impacts. In this period, museums focused on rescuing items of cultural heritage and repairing historical architecture, but did not pay much attention to the relationship between natural disasters and indigenous people. But ten years later, Typhoon Morakot destroyed many towns and took many lives, especially those of the indigenous peoples. It forced the museums to reconsider what the role of the museum was in this case, as an institution of social education. After the typhoon, public museums both near and far from the stricken area have devoted themselves to rescuing items of cultural heritage, and also to helping victims to weather the hard time after the disaster. Furthermore, the government announced its decision to create the Shiaolin Pingpu indigenous museum, to commemorate this disaster and revive the Pingpu culture of Shiaolin village.In creating its permanent exhibition, the Shiaolin Pingpu Cultural Museum listened to and adopted the villagers’ suggestions, as well as using regional history to offer a representation of the lifestyle in Shiaolin Village in the past. Through this process, we are able to observe the gradual formation of ethnic identity of the Pingpu people in Shiaolin Village. The next challenge for the Shiaolin Pingpu Cultural Museum is to interact more with the local residents, and to record narratives about the disaster which are not included in the permanent exhibition.
著者
山川 均
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.113, pp.243-260, 2004-03-01

中世都市奈良を研究する上で最も基礎的、かつ重要な史料である『大乗院寺社雑事記』の分析から、中世都市奈良に住し、かつ物品の流通や生産の中核に位置した大乗院院主・尋尊の「土器」に関する認識を多角的に検討する。また、実際の発掘資料などをもとにした土器生産とその管理体制についても併せて検討を加える。以上の結果、中世の土器生産を管轄した「座」とは単に土器の生産に関わった組織ではなく、土器以外の多種の食器類などの調進にも関わったことが判明した。また、座の管理機構は中世都市奈良の内部に存在したが、土器の生産自体は都市の西部に位置する西京において行われていたことが明らかになった。すなわち中世土器の生産と流通に関する研究においては、生産地と消費地というシンプルな関係のみならず(それが都市を媒介とするものである限りにおいては)、その管理機構をも含み込んだ複眼的な視座を設ける必要がある。近年の学際的都市研究(考古学が参加するもの)の動向としては、もっぱら地理学的な意味における「領域」の検討が重視されているが、それは主に遺構論において有効な手段といえよう。遺物などの物的資料から考究すべき「都市」とは、堀その他の囲繞施設から判断される狭義の都市領域概念に止まらず、周辺領域を包括した広義の概念下において多元的に検討を加えられるべき性格を有するものと判断する。
著者
陳 悦庭 吉岡 克成 松本 勉
雑誌
コンピュータセキュリティシンポジウム2014論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, no.2, pp.688-695, 2014-10-15

本稿ではアンチウイルスソフトウエアのビヘイビアベースのマルウェア検知能力を評価するための手法を提案する.提案手法では,評価対象のアンチウイルスソフトウエアをインストールした動的解析環境と,インストールしていない環境を用意する.次に,それぞれの環境において,実マルウェア検体を実行して、アンチウイルスソフトウエアの存在がマルウェア検体の挙動に対し,どのような影響を与えるかを観察する.4つのアンチウイルスソフトウエアに対して提案手法を適用した結果,ビヘイビアベースの検知能力や検知時の対応に違いが確認された.
著者
小島 大輔
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学教育基盤センター紀要 = The Journal of Nagasaki International University Center for Fundamental Education (ISSN:24338109)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.91-101, 2018-03

本稿では、『学習指導要領社会科編(Ⅱ)(第七学年~第十学年)(試案)』で示された中学校第1学年の単元「われわれは余暇をうまく利用するには、どうしたらよいだろうか」(以下「余暇利用」単元)について、問題設定と社会機能の視点から検討し、以下のことを明らかにした。「余暇利用」単元の設置には、アメリカのレクリエーション運動が影響したヴァージニア・プランが反映された。一方、日本における戦後のレクリエーション運動は、「余暇善用論」の展開の一つであり、レクリエーションとの対比で余暇が問題化されていった。この「余暇善用」を前提とした余暇の規範化と、その方法としてのレクリエーションの普及という背景から、「余暇利用」単元が、本来的に自由な時間である余暇が、レクリエーションとしてすべて「社会生活の主要機能」に帰属させられる短絡的な展開になっていた。
著者
山口 直人 塩見 彰睦
雑誌
情報処理学会研究報告コンピュータと教育(CE)
巻号頁・発行日
vol.2003, no.103(2003-CE-071), pp.7-12, 2003-10-17

SEP-3は、静岡大学情報科学科の計算機教育用に開発されたマイクロプロセッサである。現在は回路図入力によるボトムアップ式で設計演習を行なっている。一方、実際の設計現場では言語ベースのトップダウン式設計手法へのシフトが起きようとしており、本学の設計演習もこのような変化に対応する必要がある。そこで本研究では、C言語を拡張したHDLであるHandel-Cを用いたトップダウン方式のSEP設計方法を提案し、その工数を評価した結果を報告する。実験の結果、目標工数36時間未満を達成することができ、回路規模も現行の実験ボードに実装可能な規模であることが確認できた。
著者
阪口 紗季 白水 菜々重 島田 さやか 松下 光範
雑誌
研究報告デジタルコンテンツクリエーション(DCC) (ISSN:21888868)
巻号頁・発行日
vol.2016-DCC-13, no.7, pp.1-8, 2016-05-23

パーソナル・ファブリケーションの発展に伴い,人々の DIY によるものづくりに対する関心が高まっている.一方で,ものづくりをするためにはまず知識や技術を習得する必要があり,初学者にとっては未だ敷居が高いものとなっている.こうした背景のもと,本研究では,初学者でも既に持っている知識や経験に基づいて電子工作を体験することができるキット “Haconiwa” をデザインしてきた.このキットでは,電子部品の外観が人形や模型といった,初学者にとっても馴染みのあるものに置き換えられており,各部品の接続部にはスナップボタンが採用されている.これにより,初学者にとって初見では難しいと感じる電子部品の見た目や操作を排除し,電子工作に対する抵抗をなくすことをねらいとしている.Haconiwa のハンズオン展示におけるユーザ観察と使用感に関する評価実験からは,電子工作初学者のユーザでも電子回路を完成させることが可能であることや,既存の手法に比べて導入のしやすさにおいて優れていることが示唆された.
著者
田中 尚道 越智 直正 島田 淳志 高田 孝充
出版者
近畿大学資源再生研究所
雑誌
近畿大学資源再生研究所報告 = Annual report of the institute of resource recycling of Kinki University
巻号頁・発行日
no.10, pp.29-32, 2012-03-01

[Synopsis] It is due to inquire by being. Although it became clear by this trial for cultivation of cotton to be possible also in the Tohoku district, problems, such as a point which is not paid in cultivation of cotton, also have many the profitability and farm subsidies as agriculture, and it is required to build the mechanism in which cultivation farmhouses can live. Moreover, the necessity of examining the growing method with establishment of the efficient growing method, i.e., the increase in a yield, and the effective salt removal effect was accepted. Furthermore, since the weed control in a cultivation period, the damage of the night thief insect, etc. were seen, it was suggested that the measure against a noxious insect must also be taken.
著者
池脇 信直 園田 徹 東 和弘 いけわき のぶなお Nobunao IKEWAKI
雑誌
九州保健福祉大学研究紀要 = Journal of Kyushu University of Health and Welfare
巻号頁・発行日
no.18, pp.67-72, 2017-03-25

スイソニアから発生する水素ガス(濃度0.1~0.3%)を含む蒸気混合ガス“XEN”を鼻カニューラで吸入した。吸入後、唾液中の免疫バイオマーカーの動態を酵素抗体法(enzyme immunoassay:EIA)で解析した。その結果、“XEN”吸入15分後、唾液中のインターロイキン-1β(IL-1β)の濃度が吸入前と比較して有意に増加した(P<0.01)。一方、唾液中の可溶性CD44分子(sCD44)は吸入前後で有意な差は認められなかった。以上の結果は、“XEN”が鼻粘膜免疫系を活性化し、生体の免疫力を増強させる作用があることを示唆するものである。
著者
尾崎 史郎
出版者
オープンアクセスリポジトリ推進協会
巻号頁・発行日
2016-12-02

JPCOAR地域ワークショップ(中国四国地区) 会場:広島大学図書館ライブラリーホール(東広島市) 日時:平成28年12月2日(金) 13:00〜17:15 主催:オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR) 共催:機関リポジトリ推進委員会 後援:中国四国地区大学図書館協議会 / 広島県大学図書館協議会
著者
山岡 晶 森 悠太 須田 一哉 八田原 慎吾 倉持 武雄 橋田 光代 片寄 晴弘
雑誌
情報処理学会研究報告エンタテインメントコンピューティング(EC)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.24(2006-EC-003), pp.29-34, 2006-03-13

近年,音楽療法において,太鼓の活用が概ね好評である事が報告されつつある.本研究では,太鼓を演奏した場合の脳活動をf-NIRS(近赤外分光法)によって分析し,その変化の要因として,音色と振動の影響,場の効果の影響について更に検討を行う.実験結果から、簡易太鼓と和太鼓,ソロセッションとグループセッションにおいていずれも後者において前頭前野において大きな脳血流の変化が観測された.
著者
須田 一哉 森 悠太 山岡 晶 八田原 慎吾 片寄 晴弘
雑誌
情報処理学会研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.19(2006-MUS-064), pp.41-46, 2006-02-23

本件ではf-NIRSを用いた音楽聴取時における没入感についての検討を行う.筆者らは,音楽における没入感に関して技能の拡張と身体性の視点から研究している.我々は,先行実験において,聴取者が音楽を積極的に聴取する際に前頭前野の活動が低下している現象をとらえた.本報告では,この現象をより精繊な計画によって追試を行った結果について述べる実験の結果 先行研究を支持する結果が得られたのに加え,f-NIRSのデータから,被験者の音楽経験より音楽的嗜好が音楽聴取に対する没入に優位に働いている状況がとらえられた.
著者
遠藤充 森崎修司
雑誌
研究報告ソフトウェア工学(SE)
巻号頁・発行日
vol.2013-SE-179, no.9, pp.1-7, 2013-03-04

ソフトウェアドキュメントの詳細化,具体化を計測することを目指し,辞書による抽象度の定義を用いてドキュメントに含まれる語の抽象度を計測した.国語辞典の抽象度の定義を用いて同一ソフトウェアのフェーズの異なるドキュメント間で,含まれる単語の抽象度ごとの出現頻度を求めたところ,大きな違いはみられなかった.基本設計書に含まれる語よりも詳細設計書に含まれる語,要件定義書に含まれる語よりも基本設計書に含まれる語のほうが国語辞典に抽象度の定義のない単語が多く含まれており,それらの単語はソフトウェア開発の観点からみて,具体的な単語が多かった.