著者
許 淑娟
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

本研究は国際法秩序の基盤をなす法的枠組として「領域権原概念」を問い直すものである。その研究課題に対して本年度は、第1に、昨年度(17年度)に着手した学説史および外交史における領域権原概念の理論的整理作業を引き続き行った。具体的には、19世紀末のベルリン議定書の領域法的意義を外交資料および外交史文献から精査し、従来の国際法学における位置づけとを比較検討した。占有の実効性を定めた先例として国際法学では評価されているが、その本質的意義は「無主地」を「発明」したことにあることを示した。第2に、20世紀初頭から半ばまでの数百に亘る領域帰属をめぐる仲裁裁判を読み解き、その分析を行った。そのほとんどが「様式論」に依拠することなく、条約や承認ならびに「占有」の有無を問題として、それを根拠に判断を行っていたことが明らかになった。第3に、領域法の起源とされるローマ財産法および占有法における「占有」概念について検討し、そこから比較法的および理論的探求作業を行った。すなわち、国際法における領域法を分析するに際して、<領城規律形式>とその<基盤>という異なる次元を設定し、さらに、その基盤を<権原の物的基盤>と<正当化(型)基盤>を分節化するという理論枠組の構築を試みたのである。第4に、16年度に行った領域帰属をめぐる現代国際判例の分析を併せ、「新世界」発見以来、領域関係を規律する法体系として提示された<教皇の勅書と「発見」>、<原始取得の法理>、<様式論>、<「主権の表示」アプローチ>、<ウティ・ポシデティス原則>への遷移を、上記の理論枠組から分析した。その分析の結果を「領域権原論再考-領域支配の実効性と正当性-」という論文にまとめ、博士論文として提出した。
著者
奥野 みどり 上原 徹
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.177-189, 2019-04-15 (Released:2019-04-26)
参考文献数
38

目的 保健師がやり取り遊び等を介して乳幼児の社会性や言語発達,微細運動等を評価する半構造化行動観察(Social Attention Communication Surveillance-Japan;以下,SACS-J課題項目)を導入し,自治体乳幼児健康診査(以下,健診)による継続追跡により得られた医学診断を基に,自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder;以下,ASD)診断との関連を検討した。方法 A町で平成23年・24年に生まれ,1歳半健診および3歳児健診のいずれも受診し,平成28年12月まで追跡できた372人を対象に,15か月,20か月(1歳半健診),27か月,38か月(3歳児健診)の各月齢時期の健診と並行し,SACS-J課題項目を用いて保健師が行動特性を評価した。医学診断によるASD診断群と医学診断に至らない定型発達群の2群について各月齢時期の行動特性との関連を統計的に比較した。結果 医学診断により,ASD診断8人が明らかになった。ASD群と定型発達群の2群を比較したところ,男児が女児に比してASD群の割合が高く[P<.05],「お座り」・「20か月時点での歩行開始」の獲得時期が定型発達群に比してASD群が有意に遅かった[P<.05]。SACS-J課題項目では,各月齢時期に共通して有意差が認められたのは,アイコンタクト(15か月[P<.05],20か月・27か月・38か月[P<.001],共同注意行動(15か月の「視野外の指さし理解」[P<.001],20か月の「大人」[P<.05],「自分」[P<.01],「応答の指さし」[P<.05],27か月の「自発的提示」[P<.001]),言語発達(15か月[P<.01],20か月[P<.01],27か月・38か月[P<.001])であった。微細運動は,15か月[P<.001],27か月[P<.01]において,定型発達群に比してASD群が有意に高かった。結論 保健師による標準化された行動観察評価を1歳半健診前からの早期に導入することで,ASDが疑がわれる児を自治体における公衆衛生活動のレベルで早期に同定し,地域での保健指導や養育発達支援に結び付けられる可能性が示された。
著者
江尻 桂子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.332-341, 2010-12-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
2

本研究では,幼児・児童が,いつ頃から,未知人物との接触場面における危険の可能性について認識できるようになり,その認識のもとに,適切な行動の選択ができるようになるかを検討した。実験では,保育園年中児,年長児,小学校1年生,2年生,あわせて166名を対象に,個別面接のかたちで紙芝居と質問を行った。紙芝居では,主人公の子どもがひとりで歩いて家に帰っているときに「よく知っている人」または「全く知らない人」に何らかの誘いを受けるというストーリーを読み聞かせた。そして,もし自分が主人公であったらどのように行動するのか,また,なぜそのように行動しようと思うのかを尋ねた。実験の結果,年中から年長(4〜6歳)にかけて,接近してくる大人が既知の人物であるか,未知の人物であるかによって適切な行動を選択できるようになることがわかった(e.g.,未知人物にはついて行かない)。しかし,その際の判断の理由をみると,年長児でも必ずしも適切な理由(人物の既知性や危険性)に基づいて行動を選択しているわけではないこと,そして,正しい認識に基づいた行動の選択ができるようになるのは,小学1年生(6〜7歳)以上であることが明らかとなった。本研究の結果をふまえ,幼児・児童における,発達水準に応じた安全・防犯教育のあり方について議論した。
著者
泉 賢太郎 佐藤 武宏
出版者
神奈川県立生命の星・地球博物館(旧神奈川県立博物館)
雑誌
神奈川県立博物館研究報告(自然科学) (ISSN:04531906)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.46, pp.1-5, 2017-02-28 (Released:2021-04-30)

東京都狛江市に分布する上総層群飯室層から新たにエンコウガニ化石の追加標本を発見・採取したので、詳細な記載を行った。追加標本は、保存状態の良好な甲と胸脚の一部から構成される。甲には、眼窩、頬部、顎脚、胸部腹甲、及び腹節の一部が保存されている。また胸脚は、底節(もしくは基節)、座節、及び前節が保存されている。飯室層からエンコウガニ化石が産出したことによって、この地層が浅海環境で堆積したという従来の解釈がさらに裏付けられた。
著者
友松 夕香
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

本研究では、ガーナ北部の西ダゴンバ地域を事例に、物理的空間としての一つの「家」に住まう、夫婦をはじめとした様々な関係にある人々が、労働や財のプーリングを通じ、どのように経済的共同性を生みだし、「家族」を可視化させているのかをみていく。これを通じて、家族を一つの経済単位として仮定してきた1970年代までの構造人類学と、それ以降の家族の間の競合関係を強調してきたフェミニスト人類学における家計論を再考する。
著者
長岡 敦子 國井 泰人 日野 瑞城 泉 竜太 宍戸 理紗 齊ノ内 信 柿田 明美 矢部 博興
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.186, 2021 (Released:2021-12-25)
参考文献数
16

機能分子であるタンパク質の脳における発現解析は,統合失調症の分子病態を解明するうえで不可欠である。死後脳研究には病態以外のさまざまな条件に由来する交絡因子が存在するため,その評価とコントロールは重要である。筆者らは統合失調症死後脳におけるタンパク質発現を中間表現型として,遺伝子多型(SNPs)との関連を解析する研究を行っており,解析には当施設で保管する精神疾患を主とした死後脳と新潟脳研究所に保管されている非精神疾患対照の死後脳を用いて行っている。本稿では,死後脳試料の保管施設の違いという交絡因子によって生じるタンパク質発現への影響について検討した研究と,統合失調症患者死後脳におけるタンパク質発現解析の一例として,aldehyde dehydrogenase 4 family member A1(ALDH4A1)とその発現に影響するSNPsについての研究を取り上げて,それぞれ概説する。
著者
金 吉晴 小西 聖子
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.155-170, 2016

註)以下に示すのはPEの開発者であるEdna Foa教授によって作成され,日本で翻訳出版されている下記のマニュアルを,開発者の許可の元に抜粋したものである。この抜粋版は治療プロトコルの概要を示すだけのものになっており,これだけを用いて実際に治療を行うことはできない。PEの実施に当たっては,正規の指導者による24時間のワークショップに参加し,所定のスーパーバイズを受ける必要がある。なお心理教育,想像エクスポージャー,現実エクスポージャー,エクスポージャー後の処理などは,下記のマニュアルでは豊富な事例をもとに,どのようにして対話的に患者の理解を深めていくのかが示されている。本プロトコルでは,紙数の制約のために,その部分が記されていない。あくまで治療手続の概要にすぎないことを理解されたい。金 吉晴,小西聖子(監訳):PTSDの持続エクスポージャー療法.星和書店,東京,2009.(Foa, E., Hembree, E., Rothbaum, B.: Prolonged exposure therapy for PTSD. Oxford University Press, New York, 2007)
著者
土屋 隆司 長田 弘康
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.46, pp.405-406, 1993-03-01
被引用文献数
1

列車の毎日の運行計画は、ダイヤ改正時に決定される車両の運行パターンに対して個々の車両を割り当てるという方式で行なわれるのが普通である。車両割り当ての問題に対しては、さまざまなアプローチが考えられる。今回我々が採用した方式は、定型的な制約の充足を保証した標準割り当て規則に基づいて作成された割り当て計画のプロトタイプを修正することにより、すべての制約条件を満足した実施可能な割り当て計画を作成する、というものである。本稿では、この考え方に基づく車両割り当て計画作成方式とその実装結果について述べる。