著者
堀江 秀樹 伊藤 秀和
出版者
一般社団法人日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.357-361, 2006-12-20
被引用文献数
2 2

我が国では,ホウレンソウ葉中のシュウ酸がホウレンソウを食べる時のえぐ味に関係すると広く解釈されている。本報では,シュウ酸塩溶液を味わった後に残る不快な感覚をシュウ酸味と定義した。ホウレンソウの茹で汁は強いシュウ酸味を示したが,ホウレンソウ葉に水を加えて調製した抽出液では,シュウ酸濃度は茹で汁より高いにもかかわらず,シュウ酸味はごく弱かった。さらに,ホウレンソウの生葉を食してもシュウ酸味はほとんど感じられなかった。これらの現象は唾液由来のカルシウムイオンとホウレンソウ葉由来のシュウ酸イオンの間で,シュウ酸カルシウムの微細な結晶が生成され,これが口腔内を物理的に刺激するのがシュウ酸味である考えれば解釈可能であった。モデル系において,シュウ酸イオンとカルシウムイオンを混合すれば,シュウ酸カルシウムによる白濁が生じた。ホウレンソウ葉中にはクエン酸イオンも含まれ,クエン酸イオンの濃度が十分に高い場合には,シュウ酸カルシウム結晶生成に伴う濁りを抑制したが,クエン酸イオン濃度が低い場合には濁りが生じた。シュウ酸味には,シュウ酸カルシウムの生成を抑制する成分の寄与が大きいものと推定された。ホウレンソウの水抽出物は固相抽出法によって,水溶出画分とエタノール溶出画分に分離できた。シュウ酸イオンとシュウ酸味は水溶出画分に回収され,苦味はエタノール溶出画分に回収された。ホウレンソウの苦味については,シュウ酸とは異なる成分によるものと考えられる。
著者
田川 拓海
出版者
Graduate School of Humanities and Social Sciences (Japanese Linguistics), University of Tsukuba
雑誌
筑波日本語研究 = Tsukuba Japanese linguistics (ISSN:13424793)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.1-14, 2019-01-31

生成統語論の研究において、日本語によく見られる音形を持たない名詞句(ゼロ代名詞)の項としての性質は、音形を持つ名詞句と基本的には変わらないと考えられてきた。それに対し本論文では、少なくとも1) 状態のタ節、2) 「-方」名詞句という独立した2つの文法環境においてゼロ代名詞は可能だが音形を伴った名詞句の出現が許されないケースがあることを示す。さらに、現代日本語(共通語)における右方節点繰上げ構文の基本的な特徴について記述・整理を行い、この環境におけるガ/ノ交替も音形の有無により容認度が異なる現象の1つである可能性を指摘する。
著者
海野 千畝子
出版者
兵庫教育大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,情緒障害児短期治療施設の被虐待児童を対象とした動物介在療法(ドッグプログラム)を愛着形成という側面から臨床的に検討した。ドッグプログラム前後において児童の情緒と行動の様相を比較した。結果,本来の施設側の治療に加えてドッグプログラムを行った介入群の児童らと施設側の治療のみの介入無群の児童らとの群間比較で, 児童らの愛着形成を阻害する解離症状の数値は,介入群がドッグプログラム前後で有意な差を認めた。犬との安全な皮膚接触を通した触れ合いを含むドッグプログラム(DOG-P)が,被虐待児童らの解離された感覚を統合し,必要な愛着形成を促進することが示唆された。
著者
瀧端 真理子
出版者
追手門学院大学
雑誌
追手門学院大学心理学部紀要 (ISSN:18813097)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.33-51, 2014-03-01

動物園 / 水族館 / 博物館法 / 棚橋源太郎 / 公益法人日本動物園水族館協会 / JAZA
著者
角野 正高 西本 一志
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HCS, ヒューマンコミュニケーション基礎 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.103, no.742, pp.77-82, 2004-03-18
参考文献数
6

本研究の目的は,無意識に表現された身振りやしぐさなどの身体動作に注目し,感情を表出したくても表出しにくい状況での情動表現を検討することである.そこで本研究では,対面場面の中で頻繁に観察される飲み物を飲むという行為に注目し,"コップを置いたり,持ち上げたりする際の圧力"と"コップの軌跡","動作速度"が感情によって変化するという仮説を立てた.これらの仮説を検証するために,被験者9名を対象として,自分の抱いている感情を直接表現できない"やりきれない場"における行動を記録するとともに事後プロトコル分析を行い,被験者が抱いていた感情を評価し,飲む動作と感情との相関を求めた.分析の結果,置く時の圧力の変化,コップを持ち上げてから口に付けるまでの時間は,感情によって有意に異なるという結果が得られた.
著者
Tomoharu Ishikawa Muneto Tatsumoto Katuhiro Maki Minoru Mitsui Hiroshi Hasegawa Koichi Hirata
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
Internal Medicine (ISSN:09182918)
巻号頁・発行日
pp.2206-18, (Released:2019-02-01)
参考文献数
33
被引用文献数
9

Objectives Sound hypersensitivity is highly comorbid with migraine headaches. To elucidate the pathogenic mechanism of migraine attacks, we must first identify the types of everyday environmental sounds they perceive as unpleasant and clarify the acoustic properties of such sounds. This study aimed to clarify the true nature of "noise," i.e. everyday sounds perceived as unpleasant by migraineurs, by evaluating their subjective comfort/discomfort in response to several sounds commonly heard in everyday life. Methods Participants were presented with 20 environmental sounds they would likely hear daily. Subjects rated the pleasantness/unpleasantness of each stimulus using a nine-step scale. Patients We recruited 50 adults with migraine headaches (46 women, 4 men) and 50 healthy controls (35 women, 15 men). Results Migraineurs provided statistically significantly lower (more unpleasant) ratings to ambulance sirens, police car sirens, and railroad crossing bells than did controls. Our analysis also investigated the acoustic characteristics associated with higher rating gaps between the two groups. Greater divergence in ratings for the same stimulus was associated with less power (smaller amplitude envelope) and slower temporal variation in signals in the 400-Hz band. Conclusion We identified specific signal components associated with different subjective (un) pleasantness scores between migraineurs and healthy adults, which may lead to the elucidation of the pathogenic mechanism underlying migraine attacks triggered by sound.
著者
YAMAZAKI Akira HONDA Meiji KAWASE Hiroaki
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
pp.2019-012, (Released:2018-11-16)
被引用文献数
15

This study found that regional snowfall distributions in a Japan-Sea side area of Japan are controlled by intraseasonal jet variability, particularly the 10-day-timescale quasi-stationary Rossby waves across the Eurasian continent and the atmospheric blocking over the East Asian region. This study mainly focused on the Niigata area, which is representative of heavy snowfall areas in Japan. Based on previous studies, three types of dominant snowfall distributions were defined: 1) the plain (P) type, which is characterized by heavy snowfall events predominant in coastal regions of the Niigata area, 2) the mountain (M) type, which occurs in the mountainous regions, and 3) the PM type, which occurs across the whole Niigata area. Our results revealed that all distribution types were related to the south-ward shift of the westerly jet over Japan associated with an intensified trough, i.e., cyclonic anomalies, originating from quasi-stationary Rossby waves along westerly jets over Eurasia (Eurasian jets). The cyclonic anomalies were found to be also related to blocking cyclones because the frequency of blocking events considerably increased in the East Siberian region. The mechanisms leading to the trough intensification were different among the events of the three snowfall types. The formation of Siberian blocking with relatively different positions and different paths of quasi-stationary Rossby wave packet propagation along Eurasian jets were evident in the distribution types. Therefore, local-scale snowfall distributions in the Japan-Sea side area are determined by anomalous large-scale circulations, which can be evidently distinguished in the global reanalysis data.
著者
名城 健二
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.401-406, 2014-08

オーストラリア連邦(以下AU)政府は,国内において増え続けるファミリーバイオレンス(以下FV)が母子の身体面や精神面,子どもの脳に与える悪影響を防止するために国の政策としてその解決に力を注いでいる.中でもビクトリア州(以下VIC)は,2006年から特徴的なFVの対応と予防システムを構築している.このシステムは,FVサービスの統合を目指し,警察官と裁判官,地域のFVのスペシャリストにてFVの対応について共通理解し,共に行動し,FVの被害者に対し共通のアセスメントを行い,専門的なサービスを提供するという流れになっている.VICは,FVの対応と予防をPrevention(予防),Early intervention(早期介入),Crisis(危機介入)の三つのレベルに分けシステムを構築している.Preventionレベルは,教育により人々の態度と行動を変え暴力のない関係を作り,女性と子ども達への暴力による犠牲の予防を目的にしている.Earlyinterventionレベルは,暴力的な支配や暴力的な行動を見せている個人とグループの早期発見を目的にしている.このレベルで最も特徴的な取り組みは,2009年のシステム改良後から開始された,各関係機関において共通に使用するCommon Risk Assessment and Risk Management Framework(以下フレームワーク)である.これは警察署や学校,病院,裁判所等の各関係機関にて使用する用語に対する共通理解,認識を持ち共通アセスメントシートを用いてFVに取り組むシステムである.Crisisレベルは,暴力を受けた女性と子ども達を保護し,生活の再建を図り問題が再現しないよう予防するためにタイムリーに一貫した対応を目的にしている.VICのFVのシステムで特徴的なことは,何よりもFV の対応と予防を三つのレベルに分け,関連する全ての関係機関が同じシステムの中で機能していることである.その背景には,AU政府とVIC政府のFVの対応と予防のビジョンと予算立ての共通認識がある.特にフレームワークは,FVの対応において迅速に効果的な成果を残していると思われる.インタビューから,現時点において予算の減額はないが,サービス内容が毎年州の予算編成に左右される.サービス提供施設は増えないが,対応件数が年々増え多忙になり継続支援や予防的な取り組みが十分できないとことが課題として挙げられた.また,関係機関の立場上の違いから上手く共通認識が図れないことがあることや職員研修の機会が少ないことも挙げられた.これらの意見からすると,今後継続的な予算確保や現場における関係機関との連携をスムーズにしていく上での課題が残っていると言えよう.いずれにせよ,今後日本におけるFVの対応と予防システムを考える際,VICのシステムから参考にできることがあると考える.
著者
石川 巧
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.61-72, 2014-01-10 (Released:2019-01-26)

本稿は、日本の高等教育機関において近代文学という学問が正式に承認され、汎用性のある教科書が編まれるようになったのはいつ頃からか? という問いを立てることから出発し、明治・大正期から昭和戦前期に至る教科書の変遷を追跡したものである。特に、大学講義用教科書の定義を明確にし、詳細な文献調査にもとづいてその起源を明らかにすることに力を注ぐとともに、それぞれの教科書がどのような目的と方法をもって学生の文学的リテラシーを涵養しようとしたかを考察している。
著者
若松 由佳子 川原 瑞代 渡辺 久美 島内 千恵子 菅沼 ひろ子 串間 秀子
出版者
宮崎県立看護大学
雑誌
宮崎県立看護大学研究紀要 (ISSN:1345692X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.92-97, 2000-12

近年の児の栄養方法の推移をみると母乳栄養の割合が上昇してきているが, 半数以上は哺乳びんを用いる育児が行われている。そこで, 今回哺乳びんの消毒方法がどのように行われているかを明らかにすることを目的に調査を行った。すなわち, 乳児を養育している母親108名を対象として, 哺乳びんの消毒方法の実施の実態とそれらに対する認識について調査した。その結果, 生後1ヶ月の時点での哺乳びん使用者は55名で, 哺乳びんの消毒方法は, 「次亜塩素酸ナトリウムでの消毒」が25名, 「煮沸消毒」が22名, 次いで「電子レンジでの消毒」が9名であった。消毒方法を選択するのに影響を受けた情報源では「テレビ・新聞等の広告」と「出産した施設での専門家の指導」が同数の14名, 次いで「家族」が13名でほぼ同数程度と多く, その他には「育児書」や「雑誌」などが情報源になっていた。消毒方法別にみると, 次亜塩素酸ナトリウム消毒実施者は, 「テレビ・新聞などの広告」が多く, 煮沸消毒実施者は, 「出産した施設での指導」が多かった。消毒方法についての認識は, 「清潔なものを使いたい」という人が多い一方で, 「手間がかかる」「いつまで必要か」「このような消毒や洗浄で子どもに安全か疑問」などの疑問も同時にみられた。更に, 哺乳びんの消毒を必要と考える期間についても, 6ヶ月から12ヶ月と答えた人が約60%を占めたが, 6ヶ月以下もみられ一定していなかった。これらの結果から, 哺乳びんの消毒については, 方法の選択や実施法やその時期に戸惑いがみられることがわかった。従って, 乳児の免疫学的及び, 細菌学的特徴も考慮に入れた消毒方法についての検討と情報提供が必要であり, 母親と指導する側の認識についても考慮しながら, 有効な保健指導を行う必要があることが示唆された。