著者
内山 明博 浅野 正二 塩原 匡貴 深堀 正志
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.513-532, 1999-04-25 (Released:2009-09-15)
参考文献数
43
被引用文献数
4 4

気象庁気象研究所では、上層の氷雲の微物理特性と放射特性同時観測のために地上からの観測システムを開発した。観測システムは、雲粒子ゾンデ(HYVIS)、ライダーと各種放射計からなっている。本論文では、観測システムの概要と1989年6月22日,30日に観測された梅雨前線に伴う巻層雲の構造と放射特性について述べた。HYVISによって観測された氷晶の粒径分布は、べき乗関数で近似でき、その指数は全層平均で3.2であった。粒径分布の顕著な温度依存は、見られなかった。全天日射量の透過率は、同時に測定したサンフォトメーターから推定した可視の光学的厚さに関係づけ、理論値と比較した。その比較は、氷晶粒子に対する非等方因子(asymmetry factor)は球形の粒子に対するものより小さいことを示している。放射温度計の測定値から波長10.5μmでの有効射出率を推定した。さらに、フーリエ変換型赤外分光光度計のデータから波数800から1200cm-1の間の有効射出率の波数分布も推定した。観測した巻層雲は可視の光学的厚さが1.0以上で有効射出率は0.4以上あり光学的に厚かった。
著者
永武 毅 山下 広志 出川 聡
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.285-291, 1998-02-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
6

「かぜ症候群」の原因ウイルスには気道傷害性の強いものから弱いものまであり,その後の細菌感染とも深く関係してくる.しかし,かぜ症候群の原因となるウイルス感染では基本的には自然治癒がみられるものであり,注意深い経過観察か,治療としても対症療法が中心に行われている.中でもインフルエンザウイルス感染の場合にはしばしば大流行がみられると共に肺炎発症により健康成人でも重症化することがあり,早期診断と早期治療が求められる.インフルエンザ肺炎には純粋のウイルス性肺炎,ウイルスと細菌の同時感染による混合感染型肺炎あるいはウイルス感染軽快後の二次性細菌性肺炎がある.従って,適正な病型分類をすることが適切な治療に結びつくことになる.今日「かぜ症候群」の治療に細菌感染予防と称して抗菌薬が使用されることが多い.細菌混合感染の関与が明らかな場合や基礎疾患を有する場合のウイルス感染症としての重症化が予測される場合には早期から適正に抗菌化学療法を併用することに意味があるが,いずれにしても短期間投与を心掛けるべきである.
著者
時津 裕子
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.9, no.14, pp.105-124, 2002-11-01 (Released:2009-02-16)
参考文献数
25

本研究の目的は,(1)われわれ考古学者に特有の認知のスタイルを,その技能的側面に着目しながら,実験的手法を用いた認知科学的アプローチで解明すること,および(2),(1)の実践が考古学界に果たす貢献について示すことである。(1)については,熟練した考古学者が遺物に対して発揮するすぐれた情報処理(分類・同定,記憶等)能力を"鑑識眼"と呼び,3つの実験を通してその特性を明らかにした。実験1では描画法を用いて考古学的知識構造の性質を分析し,低視覚的属性・非言語的属性がとくに重要な要素であることを解明した。実験2では,被験者が遺物を観察する際の眼球運動をアイカメラを用いて測定し,熟練した考古学者に特有の注視パターンを抽出した。また観察後に行わせた描画再生法による記憶テストの結果と比較することで,観察法と考古学的記憶の内容・精度に密接な関係があることを示した。実験3では実験室を離れ,実験1・2で行った実験をより日常的文脈で確認する目的で,発掘現場で調査活動中の考古学者の認知を対象とした。土層断面を観察し遺構検出を行おうとする被験者の観察行動および注視パターンを,アイカメラによって測定した。また観察後に行わせた描画から,それぞれの被験者の遺構認識の内容を調査し,観察行動と認識内容に相関があることを確かめた。(1)の実証的研究を通して,経験を積むことで体得された固有の認知のスタイルが,考古学的判断(情報処理)の質にどう影響するかが示された。このように研究主体の認知特性について正しい認識ををもつことで,より洗練された方法論の開発や効果的教育法を生む可能性が高まる。その一方でさらに重要な意義として,われわれの意識改革を促進する効果があることを指摘し,それが旧石器捏造事件以降混迷を深める状況の中で,考古学全体の発展にとっていかに有益であるかに言及した。
著者
中井 勇介 遠藤 良輔 小島 昌治 中野 明正 豊田 剛己 Nakai Yusuke Endo Ryosuke Kojima Masaharu Nakano Akimasa Toyota Koki
出版者
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
雑誌
宇宙航空研究開発機構特別資料 = JAXA Special Publication (ISSN:24332232)
巻号頁・発行日
vol.JAXA-SP-19-001, pp.65-76, 2019-06-19

月面での長期間滞在または居住を可能にするためには、月面での生活で生じる有機性廃棄物の処理や植物生産のための元素資源の欠乏といった問題を解決する必要がある。月面農場ワーキンググループ第3グループでは、持続的な月面農場を確立させるために必要なシステムの一つを構築することを目的として、ISRU(In-Situ Resource Utilization;その場資源利用技術)などを念頭におきながら、月面における効率的な有機性廃棄物の資源循環のあり方について議論を行った。月-地球間の輸送は莫大なコストがかかるため、作物を生産するために必要な炭素や窒素などの元素は、その都度の交換輸送ではなく、月面での生活において生じる作物残渣などの有機性廃棄物から、効率的に回収して循環利用する必要があると考えられる。月面において生じる有機性廃棄物は、非可食部などの作物残渣や養液栽培廃液、尿、糞便などが想定された。それらを効率的に循環させるためには、月面での現地試験が必要であるが、地球上で実用化されている嫌気的処理であるメタン発酵や好気的処理である活性汚泥法、堆肥化などの微生物を利用した処理が有効であり、資源循環の中核を成すと考えられた。本稿では、これまでの第3グループの検討結果を取りまとめ、持続的な月面農場を確立するための資源循環システムや月の鉱物(レゴリス)の資源としての利用について提案を行う。
著者
大津 奈央 倉持 好 佐々木 淳 落合 謙爾 御領 政信
出版者
日本獸医師会
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.357-362, 2017 (Released:2018-01-15)

ブロイラーの浅胸筋変性症の発生要因及び病変形成プロセス解明のため,浅胸筋に肉眼的異常のある32日齢及び48~50日齢のブロイラーの浅胸筋と深胸筋を病理学的に検索した。肉眼的に32日齢では浅胸筋は軽度の退色,筋線維の走行に一致する白色線条病変が観察され,組織学的には散在性の筋線維の硝子様変性,絮状変性,大小不同,マクロファージによる筋貪食像が認められた。48~50日齢では,32日齢の病変より重度かつ広範で,肉眼的に浅胸筋の扁平化や,退色,水腫,白色線条病変が認められ,組織学的には筋線維の再生性変化や線維芽細胞の増殖を伴う膠原線維の増生が顕著であった。重症例では筋膜が肥厚し,膠原線維の増生及び血管新生が認められた。深胸筋ではどの日齢でも筋線維の硝子様変性がわずかに認められるのみであった。全症例で浅胸筋浅層の病変が最も重度で深部になるほど軽度であり,局所的な循環障害に起因することが示唆された。
巻号頁・発行日
vol.享保己亥年十一月三日 将軍吉宗公命有久世大和守於宅諸家ヘ被仰渡御書附,
著者
Miyashita Kazuo
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
Journal of Oleo Science (ISSN:13458957)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.1-11, 2019-01-01 (Released:2019-01-01)
参考文献数
96
被引用文献数
10 38

The benefit of fish oil to health has been widely recognized because of the high contents of functional EPA (20:5n-3) and DHA (22:6n-3) in the oil; however, the application of fish oil has been limited by its high susceptibility to oxidation. This review reports the characteristics of EPA and DHA oxidation compared with those of other fatty acids such as linoleic acid (18:2n-6). In addition, effective approaches to protect against oxidation are discussed, focusing on the unique antioxidant potential of amine compounds. Finally, the exceptionally high oxidative stability of EPA and DHA in biological systems is discussed. Understanding the protective mechanism against EPA and DHA oxidation in such systems may be useful for the development of an effective antioxidant procedure for fish oil that is rich in EPA and DHA.
著者
阿部 恵子
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境学会誌 (ISSN:21864314)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.41-50, 1998-12-25 (Released:2012-10-29)
参考文献数
14
被引用文献数
3

冷房時のエアコンおよび住宅内部環境のカビ指数を調査した。カビ指数とは, カビをバイオセンサーに用いることにより調査箇所におけるカビ発生の可能性を評価するものである。冷房期間中, 室内はカビの育ちにくい環境になったが, エアコン吹出口は常に高いカビ指数が検出されカビの育つ環境であった。エアコン内部は吹出口よりもさらに高いカビ指数を示し, 著しくカビが成長しやすい環境になった。そこで, 住宅で使用していたエアコンを汚染するカビについて調査した。エアコン内部はカビ汚染が肉眼で観察できる状態で, クラドスポリウムが寡占種になっていた。汚染されたエアコンを通過した空気中から高頻度でクラドスポリウムが分離されたが, 新しいエアコンから吹き出される空気中にはカビがほとんど含まれなかった。冷房時にエアコン内部がカビの育ちやすい環境を保つことによりエアコン内部でカビが増殖し, その胞子がエアコン通過空気に載って室内に飛6散し, エアコンが室内空気の汚染源になることが明らかである。
著者
Alexandre Nesterov Jifu Zhao David Minter Carmen Hertel Wenwen Ma Padmapriya Abeysinghe Mei Hong Qi Jia
出版者
The Pharmaceutical Society of Japan
雑誌
Chemical and Pharmaceutical Bulletin (ISSN:00092363)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.1292-1296, 2008-09-01 (Released:2008-09-01)
参考文献数
23
被引用文献数
24 31

A series of diarylpropane compounds was isolated by screening a plant extract library for inhibitors of mushroom tyrosinase. The most potent compound, 1-(2,4-dihydroxyphenyl)-3-(2,4-dimethoxy-3-methylphenyl)propane (UP302: CAS# 869743-37-3), was found in the medicinal plant Dianella ensifolia. Synthetic and plant-derived versions of UP302 inhibited mushroom tyrosinase with similar potencies. UP302 inhibited mushroom tyrosinase with Ki=0.3 μM, in a competitive and reversible fashion. UP302 was 22 times more potent than Kojic acid in inhibiting murine tyrosinase, with IC50 values of 12 and 273 μM respectively. Experiments on mouse melanoma cells B16-F1 and on human primary melanocytes demonstrated that UP302 inhibits melanin formation with IC50 values of 15 and 8 μM respectively. Long-term treatment of cultured melanocytes with up to 62 μM of UP302 revealed no detectable cytotoxicity. In a reconstructed skin model (MelanoDermTM) topical application of 0.1% UP302 resulted in significant skin lightening and decrease of melanin production without effects on cell viability, melanocyte morphology or overall tissue histology. In conclusion, UP302 is a novel tyrosinase inhibitor that suppresses melanin production in both cultured melanocytes and reconstructed skin with high potency and without adverse side effects.
著者
鳥越 甲順
出版者
東海大学
雑誌
産学が連携した研究開発成果の展開 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP) 探索タイプ
巻号頁・発行日
2010

損傷腱の再生過程は未解明である。今回、in vivoでありながらin vitroの便利さを兼ね備えたフィルムモデル法によって腱の再生過程を電顕解析した。層板構造が完成した時期の腱分泌物tendon gelに張力(メカニカルストレス)が加わるとtendon gelは張力方向に縦列した膠原線維へと劇変し腱が形成された。その後、線維は太く成熟した。また、tendon gelから膠原線維へ形態変化する時のメカニカルストレスを定量評価した。tendon gelを特許出願し、今回の成果を学会発表後、専門雑誌へ投稿した。今後、成熟した人工腱の作製化をめざす。次に、腱細胞と羊膜間葉系幹細胞との共培養を行い、幹細胞にはtendon gelのcollagen type I, IIIを分泌する能力があることが判明した。今後、tendon gelの量産化をめざす。