著者
前田 潤滋 友清 衣利子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

ゆっくり立ち上がる突風を受ける構造物に比べて,短時間に立ち上がる突風を受ける構造物に,より大きな風力が発生する「風力のオーバーシュート現象」を特殊な装置を持つ風洞で再現し,いくつかの形状の試験体について,通常の風力との比較をオーバーシュート係数として整理した。風洞実験結果の数値流体解析シミュレーションで,オーバーシュート風力の発生メカニズムを追跡するとともに,強風観測記録の分析から,オーバーシュート風力が突風被害の拡大要因の一つになっていることを論証した
著者
近江谷 克裕
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.64, no.8, pp.372-375, 2016-08-20 (Released:2017-02-01)
参考文献数
12

ホタルの光に代表される生物発光は基質ルシフェリンの酸化に伴う化学反応の光である。酵素ルシフェラーゼによって効率よく光が生み出されることから冷光ともいわれる。未解明な生物発光の仕組みもあるが,8つのルシフェリンの構造が明らかとなり,それらの酸化反応を触媒するルシフェラーゼも明らかになりつつある。一方,生物発光はATPの定量化や細胞内の遺伝子発現の解析等,生命科学を支える重要な光である。
著者
對東 俊介
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.503-509, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)
参考文献数
51

重症患者に対するリハビリテーションの目的は,日常生活活動(activities of daily living, ADL)を維持,改善,再獲得することで,QOLを改善することである。重症患者に対するリハビリテーションはABCDEFバンドルの一つの要素として捉え,集中治療後症候群ost-intensive care syndrome, PICS)予防のために包括的な介入を行うべきである。重症患者においてリハビリテーションは死亡を改善しないが,身体機能やADLを改善するため,国内外のガイドラインで実施が推奨されている。近年はPICS予防のためのICU入室中のリハビリテーションだけでなく,ICU退室後のリハビリテーションやフォローアップが注目されている。臨床現場で遭遇する様々な障害や疾患に対するICU内およびICU退院後のリハビリテーションの最適な量,頻度,強度,期間,および種類を明らかにするために,さらなる研究が必要である。
著者
越後 友利果 伊藤 海彦 磯田 豊
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4-5, pp.71-98, 2022-09-15 (Released:2022-09-15)
参考文献数
22

近慣性周期の内部波は,密度成層が弱くなるほど,地球回転ベクトルの水平成分Ω cos φ(φは緯度,Ωは自転角速度)の影響が無視できなくなる。特に,日本海深層の底層水(Bottom Water)のように,浮力振動数(N)がほぼ零となる均一流体内に存在できる波はGyro-scopic Wave(GsW)とも呼ばれる慣性波(inertio wave)に限られる。しかし,これまでGsW の存在を支持する観測的証拠は得られていない。そこで,本研究ではGsW を含む内部慣性重力波の線形理論解析を行った。その分散関係からは,南方へエネルギー伝播する近慣性周期のGsW が海底で反射する際,入射波の鉛直低波数から反射波の鉛直高波数へと非対称な伝播経路(Ray path)を示すことがわかった。Polarization relation からは,北半球の場合,反射波の水平流速楕円(真の流速楕円の水平面射影)がほぼ真円の時計回りであるのに対し,入射波の水平流速楕円は時計回りから反時計回りへ遷移する,という興味深い特性も明らかになった。これらの理論的知見と数値モデルを用いたGsW の再現実験を根拠として,我々は海底近傍に設置された係留系の流速記録が示す特徴の中に,GsW の海底反射を示唆する証拠をみつけることができた。
著者
栗原 真史
出版者
Japan Association for Urban Sociology
雑誌
日本都市社会学会年報 (ISSN:13414585)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.39, pp.40-55, 2021-09-04 (Released:2022-09-07)
参考文献数
22

This paper examines how urban redevelopment has emerged in area T, Tokyo citycentre from the 1980s to the 2000s through the perspective of land transactions. Throughout the 1980s, due to the rapid rise in land prices, large-scale redevelopment boom occurred, and the city-centre faced many of land acquisition called “jiage” and a declining population. Although the bursting of the bubble economy in the 1990s temporarily overshadowed the redevelopment boom, it revived because of the “urban renaissance” policy and the deployment of neoliberal urbanism in the 2000s.     Previous research tends to focus on the redevelopment project without paying much attention to the agents who acted on the individual land transactions. Nevertheless, individual transactions are part of and essential to the overall changes in area T. As a result, some questions on land ownership and agents involved remain: To whom the land ownership changed to whom at which period? What was the connection between those transactions and the emergent of urban redevelopment? The paper sets out to examine the assemblages of those land transactions through the lens of “terrain.” It delineates the relationship between these neglected agents and the emergence of the urban redevelopment.     This paper analyzes all land transactions (823 cases) made since the 1980s in area T using the database created by 144 land real estate registries. Besides real estate capital and landowners, “dealers” entering the scene of “jiage” in the 1980s and “liquidation actors” who managed to act on freeze land in the 1990s were also actors in the urban redevelopment. These findings suggest that it is meaningful to examine urban redevelopment as a long-term phenomenon through the approach of land transactions analysis as land transactions are centre to the urban and regional restructuring process.

8 0 0 0 OA 惑星内部構造

著者
佐々木 晶
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.61, no.Supplement, pp.285-296, 2009-07-31 (Released:2013-11-21)
参考文献数
46

The interior structures of planets and satellites have been investigated through various methods. Density is the most fundamental information for estimating the composition of solar system bodies. Moment of inertia expressing the mass concentration is a key for investigating the interior structure. It can be obtained from spacecraft flyby with a planet or a satellite. Interior density structure of a planet is evaluated from gravity field which is estimated from orbital tracking of spacecraft around the planet. KAGUYA first successfully obtained the accurate far-side gravity field of the Moon. Detailed interior structure can be estimated from seismic methods. Direct seismic measurements had been developed on the nearside of the Moon by the Apollo project. Seismograms of moonquakes, reflecting less interior dissipation, are different from those of the Earth. Radar sounders have been successful in measuring subsurface structure of the Moon and Mars. The state of the planetary interior, especially of the core, can be discussed using the measurement of variation of planetary rotation. The study of the planetary interior is now being extended into extrasolar planets.

8 0 0 0 OA 新算術教授

著者
肥後盛熊 著
出版者
目黒書店
巻号頁・発行日
1925
著者
伊藤 士郎 高野 好一
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン学会誌 (ISSN:03866831)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.191-197, 1986-03-20 (Released:2011-08-17)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

最近増大してきたEs層伝搬の外国電波によるわが国のVHFローチャンネルテレビへの混信妨害の対応策研究の一環として, 1984年夏東京で中国のFM放送波を対象に測定実験を行った.水平・垂直に組合せた2基の八木アンテナそれぞれの出力およびそれらを適当な位相差で合成した2組の出力の合計4個の信号強度の測定値から, 到来波の偏波の決定, 水平・垂直偏波成分の振幅比と位相差およびそれらの変動速度等を求めた.受信された電波は96.6MHz~100MHzの9波で, 分析に充分な総計約23時間分のデータが得られた.分析の結果, 到来電波の水平・垂直偏波成分の比は中央値で9.6dBと送信の水平偏波がほぼ維持されており, 偏波の回転が少ないこと, 両偏波成分の振幅比および位相差の変化速度は中央値で, それぞれ4.6dB/s, 55.1deg/sであることなど, 対策機器の設計に必要なEs層伝搬波の特性を明らかにすることができた.

8 0 0 0 OA 一平全集

著者
岡本一平 著
出版者
先進社
巻号頁・発行日
vol.第13巻, 1930
著者
橋本 鶴人
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.239-254, 2019

近世の関東甲信に所在した神事舞太夫・梓神子を支配した神道系宗教者集団習合家は、神職・陰陽師・夷願人・修験など他の宗教者集団との争論を通じて「家職」と称する固有の職分を確立していった。習合家にとって、梓神子職の独占は組織を維持する上で至上の課題としていたが、近世後期の段階で類似する行為を行う者が多数現れた。その中で、当山派・本山派修験が組織する神子により梓神子職の核になる「ささばたき」の法式が執行されていることが判明して文政四年に習合家は本山派修験と争論に及んだ。梓神子職に紛らわしい行為を執行する修験の背後には神職本所の吉田家が存在し、争論は習合家にとっては修験の対立のみならず、吉田家との対立を内包するものであった。本稿では、修験との争論を中心に、文政年間に展開された習合家と他の宗教者の争論を概観し、近世後期における宗教者の様相と彼らを取り巻く社会状況を明らかにすることを試みるものである。

8 0 0 0 OA 失語症

著者
大槻 美佳
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.194-205, 2009-06-30 (Released:2010-07-01)
参考文献数
49
被引用文献数
4

失語症を理解するには,脳を音素・音韻に関する領域 (phonetic & phonemic area) と,内容・語と語の関係に関する領域 (content & context area) の二大機能系に分けて考えるとわかりやすく,この機能系とその解剖学的基盤を基本的視点として提示した。  また,失語症を分類するには質的な評価が必要であり,これを重症度や経時的変動の評価に適している量的尺度と使い分けることが妥当であること,さらに発語の分類は流暢・非流暢ではなく,失構音の有無で判断するのが有用であること,復唱能力の判断に苦慮した場合には音韻性錯語の有無,言語性短期記憶障害の有無を援用することが有用であることを指摘した。  次に,言語の要素的症状の局在地図と,古典的失語型との関係を概説し,未解決問題として,超皮質性運動失語の位置づけ,皮質下性失語の特徴,文レベルの障害について考察した。  最後に,言語機能に影響を与える非言語的背景について検討した。まず,意図性と自動性の解離について,ウェルニッケ失語患者における復唱能力が,あえて復唱を意識しない場合のほうが良好であることを示した。次に,呼称課題について,最初の語が出やすいことも定量的に示した。これは,とくに側頭葉に病巣が及んでいる患者で明らかであり,病巣による違いも考慮すべきことが推測された。最後に,呼称課題を行う際に,右半球に負荷がかかるような課題と交互に施行すると呼称の成績が改善した1 例を報告した。以上より,失語症に対峙する場合,非言語性の要因も考慮することが重要であることを指摘した。
著者
安達 潤 吉川 徹
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.309-324, 2021 (Released:2021-01-05)
参考文献数
20

保護者の参加を伴う知的・発達障害の早期支援実践におけるICF情報把握・共有システム(安達,2018)の活用の効果を検討した.ICF情報把握・共有システムを用いて児の日常エピソードから支援関連情報を把握し,児の強みや支援効果の有無を確認して支援課題を絞り込み,支援者と保護者での情報共有・意見交換を通じて支援方法を考案・実行した.効果検証の質問票を行い,支援者からは環境要因を含む児の全体像を捉える大切さがわかった,保護者からは支援会議への参加で子育てのエネルギーをもらえたとの回答が得られた.活用前後の個別支援計画の比較では活用後の向上を認めた.一方,作業労力の軽減が今後の課題として示された.今後のシステム改善と運用方法の工夫は必要であるが,保護者が参画する早期支援実践への本システムの活用は,支援計画の実効性向上,支援者のスキルアップ,保護者の子育て支援によい効果をもたらすことが示された.