著者
西田 清一郎 佐藤 広康
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理學雜誌 = Folia pharmacologica Japonica (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.2, pp.58-61, 2012-08-01
参考文献数
13

未病は,古来より東洋医学において重要なテーマとして掲げられている.未病ははっきりとした病が現れる前から体の中に潜む病態(状)を意味しており,まだ病ではない状態を意味しているのではない.未病は病を発生させる根本的な異常を意味し,東洋医学的には「〓血(おけつ)」と深いかかわりがあると考えられている.我々は,未病を現代医学的に解釈した場合,その病態は酸化ストレスの蓄積が一つの原因であると考えている.〓血に対して処方される駆〓血剤は,酸化ストレスの蓄積を抑制し,すなわち未病の進展を遅延,または阻害すると推察されている.駆〓血剤である桃核承気湯(とうかくじょうきとう)と桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)には,抗酸化作用があることが知られていた.酸化ストレスは血管緊張に変化を与えるが,これらの漢方薬は酸化ストレス負荷条件下で,血管の収縮を抑制し弛緩作用を増強した.駆〓血剤をはじめとする漢方薬は,酸化ストレスに対して,抗酸化剤として緩和作用だけではなく,状況に応じて酸化促進剤として血管収縮作用を表す.つまり,酸化ストレスをうまく制御して生体機能の調節作用をするものと考えられる.この酸化ストレス緩和作用は,酸化ストレスによる障害を和らげ,未病の進展を抑制していると思われる.
著者
長井 歩 今井 浩
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.1769-1777, 2002-06-15

詰将棋を解くプログラムの研究はこの10年の間に大きく進歩した.その原動力となったのは,証明数や反証数という概念の導入である.詰将棋に適用すると,直感的にいうと,証明数は玉の逃げ方の総数を,反証数は攻め方の王手の総数を表す.前者は攻め方にとって,後者は玉方にとって非常に重要な値である.証明数・反証数を対等に扱った,最もナイーブなアルゴリズムは,Allisによるpn-searchという最良優先探索法である.我々は近年,df-pnアルゴリズムという,pn-searchと同等の振舞いをする深さ優先探索法を提案している.この論文では,df-pnアルゴリズムを用いて詰将棋を解く強力なプログラムを作成し,その過程で導入した様々な技法を提案する.これらの技法をdf-pnの上に実装することにより,我々のプログラムでは300手以上の詰将棋のすべてを解くことに初めて成功した.しかもそれは,シングルプロセッサのワークステーションで解くなど,解答能力と解答時間の両面で優れた結果を出すことができた.
著者
井奈波 良一
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.214-217, 2012-01-31
被引用文献数
1

日本の花火は,多くの研究開発の結果,世界で最も精巧で華麗なものとして全世界から絶賛されている。日本の花火大会は,江戸時代に全国的な飢饉と疫病(コレラ)の流行による多数の死者の慰霊と悪疫退散を願い,花火を盛大に打ち揚げたことにはじまったといわれている。花火の心理学的研究として,花火に対する印象評価語(感動,力強さ,爽快感,美的感覚)と花火の構成要素(色,光,形,音)が個別に関連を持っているかを探るために実験場面を設定した印象評価実験が行われている。また,花火大会はストレス解消の場としての効用も考えられている。花火による健康障害には,熱傷や創傷の他に,花火の煙による気管支喘息,好酸性肺炎が報告されている。花火師の職業病に関する研究は,少数の花火師を対象にした報告があるにすぎない。その報告によれば,主な自覚症状の有訴率は,難聴50.0%,腰痛40.0%,耳鳴り30.0%,視力低下30.0%であった。症状は10年から20年位で出現していた。また,花火師が実際に受けている音圧の平均値は128.9dBと推定された。打ち揚げ地点から15m離れた地点での粉じんの質量濃度(mg/m^3)の平均値は0.992であり,日常の43.6〜47.2倍であった。今後,花火師のメンタルヘルスや夏期に特に重要となる熱中症予防の観点からの取り組みが期待される。
著者
伊東 若子
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.529-533, 2017-06-15

はじめに 近年,成人の発達障害が注目を浴び,精神科外来を受診するケースが増えている。筆者は,睡眠障害を対象とした睡眠専門外来を行っているが,発達障害の患者が睡眠の問題を訴え来院するケースも非常に増えている。筆者が所属する病院が成人の発達障害専門外来を有しているところも大きいかもしれないが,睡眠の問題を訴えてくる患者の中に,「発達障害もあるのではないか」と自ら相談してくるケースや,また,睡眠の問題を主に訴えてくる患者であっても,その背景には発達障害があり,その結果としての睡眠の問題であることも多く経験する。発達障害に睡眠の問題を多く認めることは以前より知られているが,その原因は単一ではない。発達障害における睡眠障害は,発達障害の病態と深く関連しているものがあり,本稿では,発達障害の中でも注意欠如・多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder;ADHD),自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder;ASD)と睡眠の関係について,病態との関係から概説したい。
著者
前田 弘
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.524-530, 1989-04-10 (Released:2009-02-09)
参考文献数
9

1987年クリスマスイブに,新しいBi-Sr-Ca-Cu-O系高温超伝導体がこの世に現れた.この物質は,超伝導遷移温度, Tcが初めて100Kの大台を超えたため,応用的観点から多くの注目を集めた.と同時に,超伝導を支配するCu-O面を積み重ね,その枚数を増やすことによって処を上昇させることが可能となる,という高温超伝導発現機構に関する理論的展開にも新しい知見を与えたといえよう.さらにこの発見は,当時漂いかけていた「Y-Ba-Cu-O系以上の高温超伝導体はもうないのではないか」という暗雲を払いのけるとともに,「まだまだ高温超伝導体はあるよ」という希望と勇気を多くの人に与えたように思われる.本稿では,この発見に至った経緯とそれに関連して研究に対する考え方,取り組み方について私見を述べる.
著者
松本 舞
出版者
一般財団法人日本英文学会
雑誌
英文学研究. 支部統合号 (ISSN:18837115)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.393-400, 2012-01-20

The aim of this paper is to examine Henry Vaughan's use of alchemical expressions through a close reading of Silex Scintillans (1650, 1655). Considering that a Rosicrucian manifesto, The Fame and Confession of the Fraternity of R: C: of Rosie Cross, was translated by Thomas Vaughan, Henry's twin brother, in 1652, the emblem attached to the first edition of Silex Scintillans should be read in the context of the movement of the alchemical renaissance. From the viewpoint of alchemy, the flashing flint of the title-page suggests the situation of a heart of stone waiting to be softened and cleansed by the power of fire, which represents God's sword. In this paper, I will reconsider Vaughan's emblem more in detail, by examining the meaning of God's light, the silex [Philosopher's stone], tears and blood in the context of alchemical writings. First of all, this paper argues that Vaughan's expression of light can be read as a strong condemnation of the 'New Light', of which Puritan boasted. Moreover, it shows that the theory of alchemy became so widely recognized that the Philosopher's stone was described as a form of medicine. In addition, tears and blood could symbolize the 'Quintessence'. As Paracelsus had argued, 'the reason why [the] Quintessence cures all disease' is because of its 'great cleannesse and purity'. Furthermore, Paracelsus also compares Christ to the Philosopher's stone. Vaughan, too, recognizes that not only is Christ the Good Physician, he is the Good Alchemist, as well. Moreover, the poet redefines the Passion of Christ as God's Alchemy and he attempts to gain some medical benefit from it. The paper concludes that, for Vaughan, the praise of God's Alchemy is a paradoxical criticism of the actions arising from the Puritans' religious corruption.
著者
坂村 圭 金子 貴俊 中井 検裕 沼田 麻美子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.633-638, 2014-10-25 (Released:2014-10-25)
参考文献数
6
被引用文献数
4 4

「固定価格買取制度」をはじめとした各種規制緩和が進んだことで、近年、メガソーラーは大きくその建設数を伸ばしている。一方、急速に成長する市場には行政の確固とした制御がなされていないのが現状であり、このまま事業が無秩序に拡大した際には、農地転用、景観悪化などの各種問題が表面化する恐れがある。このような事態を避けるためには、メガソーラー開発の立地傾向から問題の所在と特性を分析し、自治体のメガソーラー導入方策を検討し直す必要があるだろう。本研究では、まず立地動向調査、事業者へのヒアリングをもとに開発動向を整理し、続いて都市計画区分、従前土地利用に着目した立地特性に関する分析を行い、最後に自治体の現在の開発誘導策を調査した。開発地に関する分析からは、事業地の集中によって太陽光発電による電力供給の過多、景観問題が、市街化区域外へのメガソーラー開発の進出によって農地、森林地が減少し始めていることが分かった。このような状況に市町村がソフト事業、条例などで対処している先進事例が確認できたが、これらの方策も各種課題を内包している可能性が高く、これらの解決策を本論文の最後に考察している。
著者
Zoubek Wolfgang
出版者
富山大学人文学部
雑誌
富山大学人文学部紀要 (ISSN:03865975)
巻号頁・発行日
no.60, pp.179-190, 2014

松尾スズキの演劇作品の中に登場する人物たちはしばしば精神的に病んでいる人として描かれている。舞台には現代日本社会のねじれた状態と不公平によって精神的に傷付けられている若い人たちが登場する。強調して表現するならば,松尾の作品は「病的な社会が病気の人間を作り出している」という社会批判的メッセージを発しているのである。しかし,松尾は道徳的な世界改良家ではない。毒のとげを持つにもかかわらず,彼の書いた作品は観客を笑わせる効果のあるブラック・コメディーである。松尾によって描かれている登場人物たちはただ哀れな犠牲者であるだけではなく,またたとえ彼らが一見してアウトサイダーのように見えるとしても,支離滅裂になった今日の代表者でもあるのだ。若い観衆は彼らと自分を同一視することができる。このようにして松尾の演劇の世界は,今日の社会の苦悩を悲劇としてではなく,喜劇として反映している。1998年に初演された松尾スズキの作品『ヘブンズサイン』の中では,特に女性の精神的な問題がテーマ化されている。主人公ユキは自傷行為を行っている。そして彼女の友達のドブスは摂食障害に悩んでいる。二人は精神病院に入れられている。確かにユキの人生がこの作品の中心的テーマではあるが,ドブスはユキの分身として登場している。

7 0 0 0 OA 国史大系

著者
経済雑誌社 編
出版者
経済雑誌社
巻号頁・発行日
vol.第11巻 公卿補任 後編, 1901
著者
渡邉 俊彦
出版者
拓殖大学海外事情研究所附属台湾研究センター
雑誌
拓殖大学台湾研究 = Journal of Taiwan studies, Takushoku University (ISSN:24328219)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.59-76, 2020-03-25

台湾では2015年6月に中華民国国家発展委員会より公布の「推動ODFCNS15251為政府文件標準格式實施計畫」および2017年10月に公布の「推動ODF-CNS15251為政府文件標準格式續階實施計畫」により,「開放性檔案」と呼ばれる仕様が公開されたファイル形式の利用が進む。台湾が選択したその形式は国際標準化団体OASISにより国際標準として策定されたODFであり,それをODF-CNS15251として国内規格化させ,次に上記実施計画を以て同規格を政府文書の標準ファイル形式と位置づけ,普及の措置を提示した。本稿は実施計画の概観と,その普及の一例として一部大学の対応を取り上げ考察への根拠とした。現状台湾では入力編集が必要な文書はODFを用い,閲覧専用ではPDFを用いるとの方針が既に徹底され,ODFは一定程度普及したものと考えられる。一方ここで言う普及とは,政府機関がダウンロードを通じ閲覧者へ提供するファイルにおいて,と限定的ではある。他方,方策により教育機関でODFの利用を主軸とした情報教育が今後更に行われることが予想され,ODFが個人利用においても浸透する可能性を台湾は持ち合わせる。実施計画はそれを見越したものである点も指摘されるべきであり,要するに台湾でのODF普及の位置づけとは,政府側による標準化と個人側によるそれの受身的な利用,そしてその延長上には教育を通じた個人側の自主的な利用を段階的に促すものである。この一連の流れは台湾をODF普及の先駆的事例として見做すべきモデルであると結論付けた。
著者
中村 武夫
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大學大學院紀要 (ISSN:13442422)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.187-216, 1995-03-01
著者
中村 緑佐 本田 亘 宮澤 里紗 中村 文香 深沢 陽平 原田 夏樹 中村 高秋
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.285-289, 2009-04-30 (Released:2010-03-01)
参考文献数
14
被引用文献数
1

症例は53歳,女性.高校生時に多毛,低身長および生理不順にて先天性副腎過形成(CYP21A2異常症)と診断され以後,ステロイドの内服治療が,また42歳時より2型糖尿病の診断のもとにメトホルミン1,000 mg(朝,夕)の内服治療が開始された.2008年4月下旬より骨粗鬆症による腰痛のためNSAIDs (loxoprofen sodium) 180 mg/日を数週間にわたり内服し,その後より悪心および頻回の嘔吐の症状が出現し,2日後に痙攣発作にて救急搬送となった.入院時JCS; III-200で血糖値23 mg/dl, pH; 6.955, Lac; 106 mg/dl, Cr; 6.97 mg/dl, BUN; 103.7 mg/dl, ACTH; 16.7 pg/ml, コルチゾール24.9 μg/dlで,重症低血糖,乳酸アシドーシスおよび急性腎不全を認めたが副腎不全は認めなかった.入院前より肝機能および腎機能は正常であり,入院時にもalanine aminotransferase (ALT)およびaspartate aminotransferase (AST)値はそれぞれ20, 12 IU/mlと正常で,飲酒の既往歴はなかった.血中乳酸値は輸液管理のみにて改善し第5病日にて正常に回復した.入院時より自然排尿を2,000 ml以上認め,第4病日より血中Cr, BUNは改善傾向を示し,輸液管理のみにて第7病日にCr; 0.64 mg/dl, BUN; 18.2 mg/dlと正常に回復した.本患者は,メトホルミンとloxoprofenの併用により腎機能が悪化し,メトホルミンを排泄できず体内に蓄積した結果,重症低血糖および乳酸アシドーシスを発症したものと考えられた.ステロイド剤を長期にわたり内服している2型糖尿病患者では,ビグアナイド剤使用時の併用薬剤にも注意を喚起する必要があると考えられた.