著者
小山 真人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

演者は、「ブラタモリ」3回(2015年秋に放映された#19富士山、#20富士山の美、#21富士山頂)、ならびに「ブラタモリ×家族に乾杯」2018年初夢スペシャル(富士山・三保松原)に案内人として出演する機会を得た。ブラタモリの案内人は、単なる出演者ではなく、監修に相当する莫大な作業も裏でこなしている。地球科学専門家の立場から、演者が見聞・経験・考察したことをまとめる。番組の作られ方まず、本番ロケの2ヶ月ほど前から何度も現地下見や打ち合わせを行い、話題を厳選しながら台本を作成した後、台本通りに歩くリハーサルをスタッフだけで実施した。本番ロケの大筋は台本に沿うが、台本を知らないタモリ氏のアドリブや脱線は番組を盛り上げる重要な要素であるため、それらも洩れなく収録した。その後、放映まで一ヶ月ほどの編集作業の中で、内容の厳選とナレーション・解説CGの監修作業に携わった。ブラタモリの各回はそれぞれ1名のディレクターが担当するが、その背後にはNHKと下請け制作会社の両方から参加した十数人のディレクターグループがいる。興味深いことに、彼らはフラットな人間関係をもち、製作途中の作品を台本段階から相互に批判し合っている。その過程で台本は何度も書き換えられ、より良い番組に仕上げられていく。そうして出来上がった綿密な台本と、タモリ氏の磨かれたユーモアと話術があいまって、多くの視聴者が楽しみながら納得できる番組に仕上がる。だからこそ土曜のゴールデンタイムに視聴率10%台を維持するのであろう。旅の「お題」ブラタモリは、冒頭に旅の「お題」という謎かけがなされた後、その土地を知りつくした案内人たちが現れ、少しずつ解答へと誘ってゆく。「お題」は単純な問いかけだが、ひと筋縄では解けない。地形の微妙な高低差から土地の成り立ちを読みとり、目の前の風景や事物をつくり出した自然・社会・人の関わりを考えながら、最終解答に至る。 演者に与えられた「お題」のひとつは「富士山はなぜ美しい?」であった。これには正直困惑した。そもそも美は主観的なものであり、客観性を重んじる自然科学とは本来無縁である。しかし、折角の機会なので、均整のとれた巨大な孤立峰ゆえに富士山は「美しい」のだろうと考えた。そして、その「美」を成り立たせた要因を火山学的に考察し、次に述べる7つの「奇跡」として整理した。1.伊豆半島と本州の衝突現場の真上にできたマグマ噴出率の高い火山であること。2.山頂火口から大量の溶岩を流したこと。3.山頂火口の位置が安定していたこと。4.マグマの粘り気が適度に小さいために、溶岩流が遠くまで達して裾を引いたこと。5.富士山の土台の標高が元々高かったたこと。6.頻繁に噴火し、浸食による形状変化をすみやかに修復してきたこと。7.私たち人類が絶妙の時期(山体崩壊の後に、再び美しい山体が修復されたタイミング)に文明を築いたこと。 さすがに上記7つすべてを扱うと番組の時間内に収まらないので、このうち1〜3を除いた残りの4つを台本に取り入れることになった。単純化圧力台本・ナレーション・CG制作のすべての段階で、それらを監修する専門家には、中身を単純にわかりやすくする方向への強い要望がつねに加わる。学術的には複雑かつ未解明のことが多数あるが、そうした圧力に負けてしまうとトンデモな内容を普及する結果になる。ディレクターからの要望を聞きつつも、解明されていること・いないことを区別し、ここまでは言えるという範囲の中でそれらを単純化するというぎりぎりの選択を迫られる。その作業は高度で時間を要するものであり、専門家の解説能力・アウトリーチ能力が最大限試される。演者は苦労の末に乗り切ったつもりだが、他の放映回では疑問符がつく(おそらく専門家側が圧力に負けたとみられる)ものも散見される。素朴な疑問への対応 ディレクターから思いもよらぬ質問が出ることもあった。筆者がとくに驚いたのが、「なぜ力の方位を向き合う対の矢印で示すのか、矢印ひとつで良いのでは?」であった。これに対しては、作用と反作用の結果として力が生じることは中学校理科で習うこと、片矢印では運動の意味になることを根気よく説明して理解して頂いた。実験の考案ブラタモリでは、地形や地層ができる仕組みを直観的に示す実験が必須とされる。演者に課せられた実験は、宝永火口に見られる岩脈方位と地殻応力方位の関係、ならびに三保半島の砂嘴形成であった。前者に関しては、殻付きの栗の実を万力で割ったところ、殻にできた亀裂は圧縮方位と一致した。殻の内部にある柔らかな実に加わる圧力がマグマ内圧の高まりに相当するため、実際の岩脈方位を再現できたと考えられる。後者に関しては、試行錯誤の後、水を溜めたトレーに入れた砂を小型ポンプの水流で移動させ、砂嘴と似た形状を作ることに成功した。
著者
大坪 亮介
出版者
大阪市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

今年度は、「現在までの進捗状況」の項で述べたように、研究の遂行に遅れが生じた。そうした状況ではあるが、高野山大学図書館にて『頼円師記』という資料を確認できたことは一つの収穫であった。本資料についての専論はないと見られる。その上、高野山大学図書館に複写依頼をしてから実際に複写物が届くまで、三ヶ月程度の期間を要したため、いまだ当該資料の詳細は明らかではない。本資料に記される頼円が、本研究で研究対象とする頼円その人かどうかという点にまで立ち返り、慎重に考察を進めていく必要がある。とはいえ、本資料は醍醐寺三宝院流に関わる記述を含む上、南朝天授三年(1377)の年号も見える。こうした記述は、先行研究で指摘される頼円をめぐる環境とも重なると思われる。以上から、本資料は従来あまり注目されてこなかった頼円に関わると思われ、本研究当初の目的である、一心院における文芸生成の実態に迫る上で有益な資料である可能性が高い。当該資料の分析と同時に、今後も関連資料の探索を進めていきたい。一方、本研究を着想する端緒となった『太平記』における真言関係記事に関しては、研究発表とそれに基づく論文刊行という成果が得られた。すなわち、従来出典が指摘されてこなかった『太平記』巻三十五「北野通夜物語」の説話が、実は弘法大師伝の一つ『高野山大師行状図画』を典拠としていることを明らかにした。さらに典拠の存在を視野に入れることにより、説話引用の文脈が浮かび上がってくることを指摘した。『高野大師行状図画』が『太平記』巻十二の説話の典拠であることは以前より知られていたが、新たに「北野通夜物語」でも該書の利用が明らかとなった。これは真言と『太平記』との関わりを考える上で注目すべき事例といえる。
著者
柿本 真代 カキモト マヨ Kakimoto Mayo
出版者
同志社大学人文科学研究所
雑誌
キリスト教社会問題研究 = The Study of Christianity and Social Problems (ISSN:04503139)
巻号頁・発行日
no.68, pp.61-89, 2019-12-20

論説(Article)本稿は児童文学研究の観点から、イギリスの児童文学Peep of Dayシリーズの受容と、日本における翻訳とその影響について考察した。Peep of Dayとその続編Line upon Line、Precept upon Preceptは教派や地域を問わず、明治初期の宣教師による教育活動に頻繁に用いられていたことが明らかになった。また、長老派のカロザースやアメリカン・ボードのジュリア・ギューリックがそれぞれ翻訳を手掛けたが、訳文はともに漢字を読めない人々にも読めるような工夫がなされおり、伝道を目的としながら同時に子どもや女性に書物を届けようとする試みでもあった。
著者
Hiromasa FUNATO
出版者
The Japan Academy
雑誌
Proceedings of the Japan Academy, Series B (ISSN:03862208)
巻号頁・発行日
vol.96, no.1, pp.10-31, 2020-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
248
被引用文献数
7

Forward genetics is a powerful approach to understand the molecular basis of animal behaviors. Fruit flies were the first animal to which this genetic approach was applied systematically and have provided major discoveries on behaviors including sexual, learning, circadian, and sleep-like behaviors. The development of different classes of model organism such as nematodes, zebrafish, and mice has enabled genetic research to be conducted using more-suitable organisms. The unprecedented success of forward genetic approaches was the identification of the transcription–translation negative feedback loop composed of clock genes as a fundamental and conserved mechanism of circadian rhythm. This approach has now expanded to sleep/wakefulness in mice. A conventional strategy such as dominant and recessive screenings can be modified with advances in DNA sequencing and genome editing technologies.
著者
多田 隆治
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.107, no.2, pp.218-233, 1998-04-25 (Released:2009-11-12)
参考文献数
57
被引用文献数
1 1

Since the ice core records from central Greenland revealed the presence and significance of millennial-scale large and abrupt climatic changes, widely known as Dansgaard-Oeschger [D-O] Cycles, it becomes the major objective of paleoclimatological researches to clarify their extent, nature, propagation mechanism, and driving force. Although the ultimate driving force is not yet understood, results of recent studies suggest 1) D-O Cycles are global phenomena, 2) they involve complicated interactions and feedback processes among the subsystems including atmosphere, cryosphere, hydrosphere, and biosphere, and 3) they seem tohave initiated from changes in atmospheric circulation.Catastrophic surges of Laurentide Ice Sheet called Heinrich Events are closely associated with D-O Cycles. Although Heinrich Events are likely to have been caused by free oscillationsof ice sheet growth and decay, they were probably not a cause of D-O Cycles but the events seem to have been phase-locked by D-O Cycles. Results of numerical modelling suggest the presence of multi-modes for global deepwater circulation. Switching among the modes is most likely caused by slight variation in hydrogical cycles which change the fresh water balance between Atlantic and Pacific.
著者
伊藤 拓哉 五十嵐 広太 小方 孝
出版者
人工知能学会
雑誌
2018年度人工知能学会全国大会(第32回)
巻号頁・発行日
2018-04-12

筆者らはコンピュータによる俳句生成を研究している.俳句は基本的に十七音で,断片的な単語から構成されており,コンピュータによる俳句生成は興味深い研究テーマである.これまでいくつかの俳句生成の取り組みを行ってきたが,本論文では,以下の二種類の俳句生成のアプローチを含む,これまでの筆者らの俳句生成の研究に基づき,主に記号処理の手法を用いたトップダウンの生成と,深層学習のようなニューラル処理によるボトムアップの生成を統合したアプローチの可能性を示す.
著者
若松 加寿江 先名 重樹 小澤 京子
出版者
公益社団法人 日本地震工学会
雑誌
日本地震工学会論文集 (ISSN:18846246)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1_43-1_62, 2017 (Released:2017-02-27)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

本論文は, 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による液状化発生地点の分布の特徴を俯瞰すると共に, 液状化の発生と地震動強さ, 微地形区分, 土地条件の関係について検討している.液状化の発生は, 東北・関東地方の1都12県193市区町村に及んだ.液状化の広がりを250mメッシュ単位でカウントすると合計で8680メッシュとなった.東北地方より関東地方の方が圧倒的に多く約12倍である.液状化発生地点は, 東京湾岸地域や利根川, 阿武隈川, 鳴瀬川などの規模が大きい河川の沿岸地域に集中していた.本震の震央から最も遠い液状化地点は, 神奈川県平塚市で震央距離約440kmである.地震動強さとの関係を調べた結果, 液状化メッシュの約95%が推定震度5強以上, 98%が140cm/s2以上, 99%が15cm/s以上の地域であった.震度5強以上の地域における微地形区分ごとの液状化発生率は, 埋立地, 砂丘, 旧河道・旧池沼, 砂州・砂礫州, 干拓地の順に高かった.東北地方と関東地方で液状化の発生率等に大きな差異が生じた理由を探るために, 液状化発生地点において「宅地の液状化可能性判定に係る技術指針」に示された二次判定手法により液状化被害の可能性の判定を行った.その結果, 関東地方の方が東北地方に比べて液状化被害を受けやすい地盤が多いことが分かった.
著者
国際日本文化研究センター 資料課資料利用係
出版者
国際日本文化研究センター
巻号頁・発行日
2019-06-07

日本一の山、富士山。日本の中でもとりわけ特別な山として、古くから畏怖され愛されてきました。2013(平成25)年に「富士山ー信仰の対象と芸術の源泉」として、世界文化遺産に登録されました。今回は「富士山とは」「富士五湖」「初三郞と富士山」「外国人と富士山」をテーマに資料を集めました。普段はなかなか目に触れない資料なのでぜひご覧ください。
著者
近藤 博之
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-15, 2014 (Released:2016-07-10)
参考文献数
59

教育拡大にもかかわらず教育達成の階層差が持続的であるという事実は,何らかの特定要因や単一メカニズムに依拠した説明が無効であることを示唆している.この講演では,教育不平等に関する計量社会学的研究での,ハビトゥス概念を用いた因果的探求の可能性について論じている.まず,ブルデューの「構造的因果性」の概念に立ち返り,それが近年の社会学の文献にみられる「基本的原因」や「根本的因果性」の考えと同じであることを示した.その見方によるなら,ハビトゥスは社会的条件付によって諸実践に差異をつくりだすメタ・メカニズムとして解釈することができる.その観点から,多重的影響を包含した社会空間アプローチについて説明し,例としてPISA2009日本データの分析結果を提示した.さらに,意志決定において埋没費用が問題となるように,教育的選択においても個人の無意識や過去からの慣性が重要な役割を演じていることを論じた.
著者
黒須 泰行 軍司 篤美
出版者
国際学院埼玉短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:02896850)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.91-95, 2007-03

砂糖の約200倍の甘みを呈すると言われているアスパルテームは,低カロリーの粉末甘味料や菓子,清涼飲料水に含まれている。このアスパルテームは人工的に作り出された甘味料であり,この分解物が体に悪影響を与えるといわれ,その安全性は二転三転して,現在も論争は続いている。そこで本研究は,アスパルテームが多量に使用されているダイエット用の清涼飲料水に注目し,アスパルテーム含有量及びアスパルテームの分解性について検討した。その結果,清涼飲料水中のアスパルテーム含量は4〜79mg/100mlであり,ADI2000mgに対して少量であることがわかった。また長期保存や調理過程における条件下で,アスパルテームの分解を確認した。
著者
後藤 敏行
出版者
日本図書館協会
雑誌
現代の図書館 = Libraries today (ISSN:00166332)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.176-183, 2019-11-25
著者
會澤 綾子
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
pp.0190925a, (Released:2019-10-18)
参考文献数
51

Ashforth and Anand (2003) は、組織の中で複数人によって行われるグループレベルの集合的不正行為 (collective corruption) に着目し、その発生メカニズムについてフレームワークを提言した。そして、組織内で複数人によって不正行為が行われ継続していくことを「不正行為が常態化する (normalized)」と表している。常態化するまでの要因は、(1) 制度化、(2) 合理化、(3) 社会化の三つに分けられる。リーダーシップにより始まった不正行為は組織内で埋め込まれルーティン化することで制度化されていく。そしてその行為は合理化されることで関わる人々の概念を再構成していく。本来であれば誤りに気付くはずの新規加入者も、不正行為を行う組織に取り込まれ社会化されていくため、常態化した不正行為を止めることは非常に難しい。Ashforth and Anand (2003) の提言は、企業における不正行為が組織ゆえに発生し、かつ継続してしまうということを改めて認識することになるだろう。

7 0 0 0 OA 今昔物語集

出版者
近藤圭造
巻号頁・発行日
vol.巻第25, 1882