著者
畑山 諒太 佐藤 健哉
雑誌
研究報告高度交通システムとスマートコミュニティ(ITS) (ISSN:21888965)
巻号頁・発行日
vol.2020-ITS-83, no.16, pp.1-6, 2020-11-17

近年,自動運転に関する研究が盛んに行なわれいる.車が自動運転化されることにより,運転者は不要となり,車内環境は大幅に変化することが予想される.今まで必要だった運転者は一乗員となり,車内ではより自由な時間を過ごすことができるようになる.そういった状況において,車内ではPC作業をする機会が増え,車酔いが増加すると予想される.走行している車内で画面を注視すると,内耳から脳に送られてくる信号と眼球から脳に送られてくる信号に不一致が生じ,脳が「異常」と判断し,自律神経が不安定になる.そして,自律神経が不安定になった結果,吐き気や頭痛といった車酔いの症状が表れるためである.本研究は,車内でのPC作業が起因となる車酔いの緩和手法を提案する.PC利用者に,車が次の交差点で曲がる右左折方向を音声で事前に告知し,旋回方向へ頭部を傾けさせる手法である.先行研究から,運転者の旋回方向への頭部運動は車酔い緩和につながることが示されており,PC作業による車酔いの緩和が期待できる.本研究では,提案手法の事前告知による車酔い緩和を検証するため,検証実験での事前告知タイミングのパターンを以下の3つとした.「右左折のためのブレーキを踏む1秒前とハンドルを回す1秒前に2回」,「ハンドルを回す1秒前に1回」,「告知なし」の3パターンである.実験参加者には走行車内で,告知回数2回,告知回数1回,告知なしのそれぞれのパターンで,車内でPC作業を行ってもらう.そして,アンケート,心拍数,唾液アミラーゼ活性値,タイピングタスクの評価結果から提案手法の優位性を示した.
著者
岸本 千佳司 Chikashi Kishimoto
雑誌
AGI Working Papers Series
巻号頁・発行日
vol.2015-08, pp.1-39, 2015-03

本研究の目的は,台湾半導体産業における垂直分業体制,とりわけファウンドリ・ビジネス(ウェハプロセスの受託製造業)の発展について,その歴史的経緯,成功要因を業界トップ企業のTSMCの事例を念頭に置き分析することである。その結果,ファウンドリの台頭は決して簡単に実現されたわけではなく,その時々に指摘された「限界」や「困難」をビジネスモデル上のイノベーションによって乗り越えてきたことが示される。ファウンドリ・ビジネスの発展史は少なくとも3段階に分けられる。①「ファウンドリ・ビジネスの初期モデル(1987年~1990年代半ば)」-専業ファウンドリの基本的な利点を活かした比較的単純なサービスの提供が特徴。当初,既存大手メーカーからのおこぼれ的仕事が主で,誕生間もないファブレス業の成長を刺激した。②「ファウンドリ・ビジネスの成長:技術・生産能力の発展(1990年代後半頃から)」-顧客ファブレスの成長(その背景にあるPC・周辺機器等の応用製品市場の成長)と連動。また,プロセス技術を体化した新式製造装置の導入で技術的キャッチアップが容易となった。工場拡充による規模の経済実現も進められた。③「ファウンドリ・ビジネスの成熟:ソリューション・ビジネスへ(2000年代以降)」-ファウンドリ・ビジネスは,専業の基本的利点,先端プロセス開発推進,大規模生産能力構築に加え,顧客への設計支援サービスを核とするソリューション提供に着手した。その内容は年々豊富になり,半導体バリューチェーン上の他の専門企業および主要顧客とのパートナーシップの構築・深化が進んだ。現在までに,専業の利点を徹底的に追求し,同時に顧客ファブレスやアライアンス・パートナーを含む他の専業企業の成長を促し,相互に支えあい,各分野でのイノベーションを刺激し,全体として半導体設計・製造のエコシステムを繁栄させる上で,ファウンドリは,IDM中心の産業システムよりも有効であったことが認められる。加えて,近年ファウンドリ業界でも企業間の格差が目立ってきている。本研究では,それをファウンドリ・ビジネスにおける成長の「正の循環」が形成された結果として捉え,この具体的状況をTSMCと台湾ファウンドリ2番手UMCとの業績比較を通して検討する。2000年代初頭まで概ね互角と看做されていた両社は,その後,収益性で差が開いていった。設備投資額や研究開発支出でも差が出ており,これが先端プロセス開発と量産立ち上げの遅速に影響を与えている。生産能力拡充と設備稼働率でもTSMCがUMCを上回っている。これがまた収益性の違いに繋がり,次第に格差が拡大していったのである。
著者
吉田 常次郎
出版者
東洋大学法学会
雑誌
東洋法学 = Toyohogaku (ISSN:05640245)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.47-90, 1969-09

4 0 0 0 OA 夢とまじない

著者
花部 英雄
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.174, pp.57-67, 2012-03-30

四五〇〇もの俗信を集めた「北安曇郡郷土誌稿」は、日本の俗信研究の先駆けとなる資料集である。その中の「夢合せ」の項に二〇〇ほどの夢にかかわる俗信がある。まずはこの俗信のうち「夢の予兆」にあたる内容を分析し、民俗としての夢の一般的傾向を明らかにする。次に、「夢の呪い」について、夢を見る以前、以後とに分けてその内容を検討し、夢をどのように受けとめ、それに対応しているかを確認する。さらに呪いのうち韻文形式をとる三首の歌を話題にして、全国的事例からその内容、意味を分析する。そして、この呪い歌の流通の背景に専門の呪術者の関与があることを例証し、呪術儀礼の場で行なわれ、やがて民間に降下してきたことを跡づける。続いて、呪文の「悪夢着草木好夢滅珠玉」を話題にする。福島県の山都町史に悪夢を見た朝、北に向かい「悪夢ジャク、ソラムク、コウムジョウ」と三回唱えればよいという。前述の呪文を耳に聞いた形で伝えてきたものと思われる。この呪文が求菩提山修験の符呪集にあり、修験山伏がこの祈祷にかかわってきたことがわかる。同じ呪文が、陰陽道系の呪術を記した南北朝時代の『二中歴』にあり、ここでは人形に悪夢を付着させて水に流したり、焼却したりする作法が記されている。宮廷の陰陽道儀礼の中で、「悪夢は草木に着け」の呪文が唱えられてきたのであろう。平安時代の『簾中抄』や『口遊』では、桑の木に悪夢を語るとある。なぜ桑の木に悪夢を語るのが悪夢祓いになるのか。現行の民俗を見ていくと、奄美のクチタヴェ(呪文)に好い夢は残り悪い夢は草の葉に止まれというのがある。また、南天に夢を語り、揺するという例もある。南天は「難転」の語呂合せであり、さまざまな呪術儀礼に用いられるが、古くは桑が悪夢消滅の草木であった。桑は蚕の食物であり、悪夢を桑の葉に付着させ、蚕に食べてもらうことで悪夢を消滅させるというのがその原義にあったのではないか、というのが本稿の結論となる。
著者
松田 千広
出版者
東洋英和女学院大学大学院
雑誌
東洋英和大学院紀要 = The Journal of the Graduate School of Toyo Eiwa University (ISSN:13497715)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.47-65, 2015-03-15

Assuming that people have three predominant perception and sensation systems, visual, auditory and kinestic, the research examined the relationship between stress coping style and the superiority of the three respective perception and sensation systems. The research conducted a survey of 59 women college students, postgraduate students and adults varying in age from 18 to 51.First of all, it was confirmed that the women could be classified into three groups, namely “visual predominant group”, “auditory predominant group” and “kinestic predominant group.” As for the method of measuring and classifying the superiority, it was found that previous research using boththe “eye movement method” and the “questionnaire method” were inappropriate. Therefore, based on cognition linguistics, this research attempted to classify the superiority of perception and sensation by means of “predicative words,” which form a sensory language. As a result, the women could be successfully classified into the three superiority groups, “visual predominant,” “auditory predominant,” and “kinestic predominant” based on the predicative words.Then, the research used “Tri-axial Coping Scale” (Kamimura, 1995) to statistically examine the relationship between each superiority group and the stress coping actions. As per the examination, it was found that “kinestic predominant group” shows a high “activeness” for problem solving.The classification of the superiority groups of perception and sensation using predicative words has potential as an assessment method in clinical situations where other tools and devices cannot be used. This research therefore provides a new perspective that can be utilized for clinical activities in future.
著者
船水 直子
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.321-355, 2020-09-30

A・S・バイアットは『千夜一夜物語』についてのエッセイの中で,次々に語られる物語は無限の表徴であり,永遠に繫がる点で死んでも遺伝子が受け継がれていく人間と同じだと述べる。同じ頃に『ナイチンゲールの目瓶の中の魔神:五つの御伽話』は書かれた。『ガラスの棺』の仕立て屋は,お姫様と結婚し弟王子も含め三人で暮らすことで豊穣を手にする。『ゴドの話』では付け足しのように語られる鍛冶屋の娘の消息の中に豊穣がある。『長女のお姫様の物語』では王国にとっては余分な存在となった姫が,森の老婆との心豊かな暮らしを手に入れる。『竜の息』では巨大竜が村を壊滅させた話が代々伝えられ,村人に真の豊かさを教える。『ナイチンゲール目瓶の中の魔神』では女,妻,母の役割を終えた主人公が魔神と出会い永遠に繫がる豊かな物語を手に入れる。余分な存在として運命に任せ生きることで,永遠に繫がる豊穣の物語を手にすることができるというテーマがこの短編集を貫いている。
著者
山本 裕子 Yuko Yamamoto 千里金蘭大学 看護学部
巻号頁・発行日
vol.11, pp.77-85,

本論文は、皮膚に関する新しい知見を概観するとともに、看護実践の場において看護職者が対象者の皮膚を媒体とした触れるケアが、疼痛緩和や不安の軽減、リラクゼーションにつながり快の感情を引き出す効果があることについて看護の視点から述べる。加えて、触れるケアは、副交感神経を優位にする効果がありエビデンスのある看護技術の一つであることを示唆し、看護教育への導入を提言するものである。
著者
松村 史紀 マツムラ フミノリ Fuminori Matsumura
雑誌
国際研究論叢 : 大阪国際大学紀要 = OIU journal of international studies
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.129-145, 2011-01-31

After the end of the Second World War, the Soviet Union temporarily maintained the “postwar international order” which aimed to establish peaceful cooperation between the victorious powers and to prevent the defeated nations from restoring their military power. The Sino-Soviet alliance of 1945 was established to embody the order. Instead of analyzing the order, however, previous research merely claims that the Sino-Soviet alliance was unequal because the Soviet Union secured interests in some ports and railways in Northeast China in the treaty. This paper argues that Moscow defended such interests by employing the logic of the “postwar international order”. To begin with, this study examines the role of national security and ideology in Soviet foreign policy. Next, the historical process in which Moscow gradually altered their policy from postwar peaceful cooperation to the Cold War strategy is studied. Lastly, this paper argues at length that the Soviets managed to secure their interests in the Sino-Soviet alliance by referring to the logic of the “postwar international order:” victorious powers (the Soviet Union and China) shall cooperatively prevent the defeated nation (Japan) from restoring their military power.
著者
福島 雅儀
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.172, pp.357-414, 2012-03-30

縄文時代中期から後期に移る期間,土器型式で4型式程度である。土器編年の相対的時間からみれば短い時間幅である。ところが炭素年代測定による絶対年代によれば,それは500年以上の時間であるという。これが正しいとすれば,これまでの考古学的解釈は大きく見方を変えなくてはならなくなった。そこで小論では,阿武隈川上流域の柴原A遺跡と越田和遺跡の発掘調査成果をもとに当時の集落変化について考えてみた。縄文時代中期末葉の集落の中心施設は,複式炉をともなう竪穴住居である。このほか水場遺構と土器棺墓が検出される程度である。後期初頭には,石囲炉をともなう4本主柱の竪穴住居が造られ,屋外土器棺墓が増加する。また掘立柱建物も受容される。続いて,掘立建物が増加するとともに,柄鏡形敷石住居・石配墓も導入される。さらに後期前半でも新しい段階の柴原A遺跡では,平地式敷石住居,広場,石列,石配墓群,焼土面による集落に変化した。東北地方に広く分布するとされた複式炉も,上原型に限定するとそれは阿武隈川上流域から最上川上流域,阿賀川流域に特徴的な炉であった。また石囲炉を伴う4本柱穴の住居は,阿武隈川上流域に限定的に分布している。敷石住居においても,柄鏡の柄が大きく発達した平地式敷石住居は,やはり阿武隈川上流域を主な分布圏としている。そして,集合沈線による地域色を持った土器が作られている。阿武隈川上流域は,仙台湾沿岸地域と関東平野を結ぶ通路ではあったが,この時期,南北の両地域とは異なる特異な生活様式を創造していたといえよう。また,この期間土器型式が連続していた遺跡でも,営まれた集落は断続をくり返していた。集落の規模も20名程度であった。大規模に見えた集落も小集落の重複による累重の結果であった。
著者
東条 敏
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.510-512, 2016-05-15

音楽の起源は言語が未発達な時期でのコミュニケーション法であると言われ,その意味で音楽と言語は同一のルーツを持つ.したがって楽曲の解析においては,すでに研究資産のある言語理論を援用することが期待できる.楽譜は自然言語のテキストと同様なシンボル列と考えられ,自然言語同様の文法規則を想定することが可能になるはずである.本稿は,まず人間の言語の複雑さをチョムスキー階層から考え,和声進行の制約すなわちカデンツを規則化する試みには文脈自由文法が必要であることを概説する.さらにはより洗練された文法理論による音楽の解析例を述べ,確率的な手法との組み合わせの可能性などを考察する.
著者
藤田 彬 江澤 優太 田宮 和樹 中山 颯 鉄 頴 吉岡 克成 松本 勉
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.695-706, 2020-03-15

IoT機器には機器の管理や操作のためのWebUIを持ちインターネットに接続可能な機器が多数存在する.それらの機器のなかには,脆弱性や認証の問題を抱えたままインターネット上に公開されているものが存在する.本研究ではIoT機器の実機を用いることでハニーポットを構築し,WebUIに対する攻撃の観測を行う.観測結果にはWebサイト公開用の通常のWebサーバに対する攻撃も観測されるため,観測対象機器向けの攻撃を判別する指標を示す.次に,自動化されている攻撃の特徴を示し,IoT機器向けの攻撃を分析する手法を提案する.提案手法をもとに検証実験を行い,特定のIoT機器向けの攻撃が自動化されている実態を示す.
著者
伊藤 潔志
出版者
桃山学院大学
雑誌
桃山学院大学キリスト教論集 = St. Andrew's University Journal of Christian Studies (ISSN:0286973X)
巻号頁・発行日
no.51, pp.45-70, 2016-02-18

In Wittgenstein's diaries, manuscripts, and so on, he makes numerous references to religion. From this, we can see that Wittgenstein had a strong interest in religion, and that this interest continued consistently right from his `early phase' to his `late phase.' However, these are no more than fragmentary writings, and they do not go so far as to clearly indicate exactly what Wittgenstein's religious understanding was. In this paper, in order to pursue the essence of Wittgenstein's interest in religion, and to clarify the characteristics of his religious understanding, I focus on Tolstoy, who exerted a powerful influence on Wittgenstein. By considering Wittgenstein's religious understanding centered on the influence exerted by Tolstoy on him, we see that, for Wittgenstein, religion was truly an` issue of life.' Accordingly, Wittgenstein's religion can be called a `religion of life.'