著者
畦地 昭二 藤本 好恵 湯山 二男 伊丹 良夫
出版者
日本海水学会
雑誌
日本海水学会誌 (ISSN:03694550)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.244-264, 1973

締付型装置の改良をはかるため, 図-1, 図-2に示したように, 膜面には連通孔を設けないで有効膜面積を増大させた3種類のa, bおよびcセルを試作し, 工業規模装置により試験した結果次のとおりであった.<BR>1) aセルは, 枠の製作が困難であり, 濃縮特性も良好ではなかった.<BR>2) bセルは, 枠の製作は容易であり, 濃縮特性も良好であったが, 破損しやすいという欠点があった. また海水懸濁物の付着によって, 流動抵抗が増大するのを軽減することはできなかった.<BR>3) cセルは, 構造が最も簡単であり, 枠の製作も容易であったほか, 溶液の漏えいは少なく, 流動特性, 濃縮成績も良好であった.<BR>しかし, 潮道の拡大によって, 漏えい電流がわずかに増大することが推定された.<BR>4) bセルとcセルに用いた厚み調整枠によって, 膜群の組立作業が困難になることはなかった, したがって, 厚み調整枠の使用は, 膜の有効面積を増大させる手段として最も適当であると判断された.<BR>5) 連通孔を設けない膜と厚み調整枠を用い, またCセルのように潮道を拡大 (簡易化) した枠を組み合わせることによって, 最も合理的なセル構造が得られることが立証された.<BR>6) 砂ろ過あるいはけい藻土ろ過した海水を給液しても, 膜面およびスペーサーにはかなりの付着物が付くことがわかった. しかし潮道を拡大させたCセルでは, 付着物による流動抵抗の増大はaおよびbセルよりも小であった.<BR>7) 海水に塩酸を添加してpHを5~6に調節するか, 循環かん水に塩酸を添加してpHを4付近に調節すれば, 電流密度5amp/dm<SUP>2</SUP>, 脱塩率30%, 海水温度14~25℃のもとで長期運転しても, 炭酸カルシウムスケールの析出は認められなかった.
著者
栗原 恵美子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
研究紀要
巻号頁・発行日
vol.33, pp.13-35, 2004
被引用文献数
1

男女共同参画を社会に広めるには様々なアプローチが在ろう。学校教育の一教科がどこまでその一翼を担うことができるか?今回,過去の実践を振り返り,男女共同参画推進の視点で各学習をあらためて見直し,授業を新たに提案する。「生活の自立」の視点で一学年では,家事全般と消費者生活の面から学習。二学年では「食」の面から「生活の自立」を時間をかけて学習。一・二年の学習を活かし,三学年では家族・保育・ジェンダー・男女共同参画を扱い,「人と関わって生きる」を学習。現在進行中であるが,生徒の取り組みはよく,手応えを感じるものである。家庭科教育を通して(1)課題発見力(2)見通す力(3)課題解決力(4)情報収集・判断力(5)生活技術・生活力が付き,そして(1)協働の意識(2)生命の尊さへの意識(3)健康への意識(5)思いやりを持って生きる姿勢が高まると考えている。また,同じキャンパスにある小学校から大学までの連携研究を過去に何回か行ってきたが,家庭科では初めての試みである産業界との連携研究を中心に実践研究,テーマ「食教育〜調理技術〜」の一部を報告する。アンケート調査で生徒の実態を明らかにし,児童・生徒の調理技術を発達段階に分けビデオで比較検討し,家庭科教員による調理実習授業の実態を分析し,調理実習メニュー等の視点で提案を行った研究である。
著者
辻川 知伸 薮田 火峰 松下 傑 荒川 正泰 林 晃司
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. EE, 電子通信エネルギー技術 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.110, no.151, pp.13-16, 2010-07-22
被引用文献数
4

通信用電源のバックアップ用途にリチウムイオン電池を使用するためには、コスト、寿命に加え、鉛蓄電池を使用している既存システムとの整合性のための放電電圧の平坦性や、安全性が重要な因子となる。我々は、放電電圧の平坦性や、過充電および内部短絡時における電池の熱安定性の観点から、マンガンスピネル系化合物を正極材料に用いたリチウムイオン電池にっいて研究を進めた。まず、リチウムイオン電池の電解液および正極に、ホスファゼン系難燃剤を添加することで、電池の安全性を向上させた。さらに、電池の長寿命化の目的で、正極マンガン元素の一部を他の金属元素に置換した材料を使用することで、電池を長寿命化できる見通しを得た。
著者
仲田 剛 早川 富士男 則武 康行 安藤 重男
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. US, 超音波
巻号頁・発行日
vol.96, no.471, pp.15-22, 1997-01-23

自動車のスピーカシステムの放射音特性は、スピーカ取り付けや内装板などの車室内における物理的要因の影響を受ける。そのためドアに設置されたスピーカの放射音特性を解析により求めるためには、スピーカの直接音と同時に, スピーカ後面の音圧によって加振される内装板等の構造物の振動による放射音を考慮する必要がある。また, ドアはドアパネルとドアトリムの二層構造になっていることを考慮する必要がある。そのため上記ドア構造を考慮したシミュレーションシステムを構築した。シミュレーションの手法として, 振動解析と音響解析には汎用FEMプログラムを用いた。FEM解析の結果を元に, ドア放射音特性を算出する。今回、自動車のドア形状を用いて、シミュレーションを行ったのでその結果を報告する。
著者
小野 正芳
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.1-17, 2013-12-21

日本の財政再建に向けた第一歩として2014年4月から消費税が8%に、2015年10月から10%になることが決定している。しかし、GDPの2倍近くに迫る政府債務、GDPの8%に迫る毎年の財政赤字、国際的にかなり低い国民負担率といった点を考えると消費税の増税だけでは不十分である。そこでは国際的にみてもかなり低い水準にとどまっている所得税が増税の候補となりうる。一方で、所得税は景気に大きく影響される不安定な財源であるとの指摘がある。しかしながら、所得税の源泉となる給与収入と景気の関係はそれほど大きくなく、所得税収を不安定にしているのは主に所得控除項目である。特に、給与収入が高いほど配偶者控除や配偶者特別控除の適用割合が高くなっており、給与収入が高い者の納税額を減少させる要因になっている。また、社会保険料の負担増加も所得税を減少させる大きな要因になっている。現在の社会保障を維持するのであれば、社会保険料と所得税が相関をもたないように制度を設計すべきであろう。さらに、住宅借入金等特別控除も所得税を大きく減少させる要因になっている。住宅借入金等特別控除は、景気刺激を目的とした政策である。本来国庫に入るべき財が、住宅という個人の財の蓄積に回されているのであり、財政再建を考える場合には、その政策効果が十分に得られているのかを慎重に検討する必要がある。このように所得税を安定かつ大きな財源にするために、所得控除項目の見直しが急務である。
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1171, pp.126-131, 2002-12-16

つくづく鈍感でした。私(筆者)も反省させられた。さて、読者諸賢はご存知か? 来年からサラリーマンであるあなたの社会保険料が大幅アップになるかもしれないことを。はたまた、議論がなされている配偶者特別控除や特定扶養控除の廃止・縮小がもしや実現すれば、相当の人にとって近い将来、公的負担が大幅増になることを。
著者
大谷 珠代
出版者
日経BP社
雑誌
日経レストラン (ISSN:09147845)
巻号頁・発行日
no.371, pp.50-59, 2006-06

グルメの聖典として、1世紀以上にわたって親しまれてきた「ミシュラン・ガイド」。そこで星を取ることは、料理人にとって最高の栄誉とされる。
著者
角 哲
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.78, no.689, pp.1613-1619, 2013-07-31 (Released:2013-09-05)
被引用文献数
1

This paper examines roles of welfare facilities and urban infrastructures in modern day Muroran which developed by The Japan Steel Works and Nippon Steel Corporation. Each facility had given to inhabitants who had lived in company housing convenient as urban residents in local city. But general public could not get convenience of not necessarily by those facilities. Because each facility limited users by class in each company. Hospital and theater have been released to general public, but purchase and clubhouse were isolated from general. There was a difference in a spatial spread as corporate town and use actual condition. It is important when such difference examines formation of corporate town.
著者
角 哲
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.75, no.657, pp.2701-2708, 2010-11-30 (Released:2011-02-25)
被引用文献数
1

There are two purposes of this paper. The first is a transition of expansion of corporate towns, developed by steel industry companies. Another one is site plan of welfare facilities. At development, about end of Meiji era, corporate towns took position that surround factories. Expansion period, since 1934 when established of Nippon Steel Corporation, each corporate towns becomes independent of the factory by corporate policy. It had developed basement of east area in Muroran, and influence of urban planning was a little. In each corporate town, facilities site orderly with a trunk road and daily life facilities located central of those area. The grade of company's house is high above in the sloping land. A living environment of staff district, high, dry and good view, looks like a suburbs around major cities developed by private railway company and realty company. Development of corporate town in Muroran is a base of present residential quarter and urban area.
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1514, pp.120-123, 2009-11-02

10月13日に開かれた『ミシュランガイド京都・大阪2010』の出版記念パーティーは、いささか異例ずくめだった。京都洛中の古刹・建仁寺の本坊を借り切った会場のしつらえだけではない。通常は主催者への配慮から無難で儀礼的な内容で終わる来賓の挨拶に、かなりの"毒"が含まれていたのだ。 京都市長・門川大作は、「日本料理は総合芸術です。
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1515, pp.104-107, 2009-11-09

『ミシュランガイド京都・大阪2010』で3つ星を取得した京都吉兆社長の徳岡邦夫は、ここ2年ほどかつてない危機感に襲われていた。 大阪の船場吉兆で賞味期限(その期間内ならおいしく食べられるとする表示)や産地の偽装事件が発覚したのが2007年。

1 0 0 0 OA 官報

著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1922年01月23日, 1922-01-23

1 0 0 0 OA 官報

著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1921年04月08日, 1921-04-08
著者
駿河湾団体研究グループ
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.145-158, 1981
被引用文献数
3

In the present paper, authors describe stratigraphy, biostratigraphy and geologic structure of the Neogene Formations in the Hamaishidake area, in the southwestern margin of socalled "Fossa Magna". The formations consist of flysch-like alternations, coarse-grained sediments and pyroclastics ranging from Late Miocene to Pliocene in age. They are complicated with faulting and folding. Results of the studies are surmmarized as follows: 1) The investigated area is formed of two formations, the Kogouchi Formation and the Hamaishidake Formation in ascending order. 2) The Kogouchi Formation consists of alternation of mudstone and sandstone, and the Hamaishidake Formation consists mainly of conglomerate, sandstone and tuff breccia. 3) The Hamaishidake Formation unconformably overlaps the Kogouchi Formation. 4) The geological age of the Formations is inferred from planktonic foraminiferal assemblages and molluscan index species. The Kogouchi Formation is Late Miocene and the Hamaishidake Formation is Pliocene in age. 5) The Hamaishidake Formation is subdivided into four sub-formations which are named the Murono, the Sattatoge, the Utugino and the Shishihara in ascending order. 6) Each stratigraphical relationships in the four sub-formations are discontinuity. 7) The Formations consist of a series of N-S trending structure, and all axes of anticlines and synclines plunge north. 8) Many trace fossils are observed in the Kogouchi Formation. This trace fossil facies are suspected to be corresponded with Cruziana facies (SEILACHER, 1967).
著者
杉本 八郎
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.521-526, 2010 (Released:2010-04-01)
参考文献数
8
被引用文献数
6 6

Currently, there are five anti-Alzheimer's disease drugs approved. These are tacrine, donepezil, rivastigmine, galantamine, and memantine. The mechanism of the first four drugs is acetylcholinesterase inhibition, while memantine is an NMDA-receptor antagonist. However, these drugs do not cure Alzheimer's, but are only symptomatic treatments. Therefore, a cure for Alzheimer's disease is truly needed. Alzheimer's disease is a progressive neurodegenerative disease characterized by cognitive deficits. The cause of the disease is not well understood, but research indicates that the aggregation of β-amyloid is the fundamental cause. This theory suggests that β-amyloid aggregation causes neurotoxicity. Therefore, development of the next anti-Alzheimer's disease drug is based on the β-amyloid theory. We are now studying natural products, such as mulberry leaf extracts and curcumin derivatives, as potential cure for Alzheimer's disease. In this report, we describe some data about these natural products and derivatives.
著者
大原 英一
出版者
社団法人 日本化学会
雑誌
日本化學會誌 (ISSN:03694208)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.657-666, 1940
被引用文献数
2

既に報告した如く水蒸氣流に放電を施して之を液態酸素に浸けたトラツプに通じる時には水素原子と酸素分子との反應に酷似した幾多の現象を見た.本報に於てはGeib, Hart_??_k<sup>1)</sup>の行つた水素原子と酸素分子との實驗を繰返し,更に彼等の實驗以外の異りたる二三の實驗を試みて次の如き結果を得た.<br>1) 用ひる水素と酸素との容量比を約2:1とすれば,トラツプに得られる生成物を室温にまで温めるときには後に約68%の濃厚なる過酸化水素が殘り,此の際分解して發生する酸素の量は後に殘る過酸化水素の量に對して48cc/g H<sub>2</sub>O<sub>2</sub>であり(即ち發生酸素と過酸化水素とのモル比は0.0728),水蒸氣放電の場合よりも著しく小である.<br>2) トラツプに於ける生成物が温まる際に分解し始める温度は約-117°Cにして,この温度は水蒸氣放電により得たる生成物が分解し始める温度-110°~〓115°C(第七報)と大體一致する.<br>3) 放出される酸素の分量は温め方の遲速には全く無關係に同一である.此の點も水蒸氣放電の場合と全く一致する.トラツプの温度上昇速度が同一である場合には(放出酸素-時間)-曲線は水蒸氣放電の場合と全く同一の型である.<br>4) 反應管の温度を-130°Cにする時には平均濃度11%の過酸化水素を得, Geib等の實驗と一致してゐる.<br>5) トラツプ内の過酸化水素生成の場所に水蒸氣を吹き付け共に凝固させると過酸化水素の生成量及び放出酸素の量を増加する.水蒸氣放電による場合にも同様の結果を生じる.<br>此等の實驗結果はGeib, Har_??_kの水素原子と酸素分子との低温反應と放電水蒸氣の低温反應との酷似を益々明瞭にする.故に大體に於て後者の反應も亦放電によつて水から水素原子と酸素分子とが生じ,之等が低温に於てGeib, Harte_??_kの反應を起すものであると推定する.
著者
林田 義伸
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.64, no.523, pp.293-300, 1999
被引用文献数
1

The purpose of this paper is to analyze the design of the stoa of Zeus in Athens. Through the analysis of the dimensions and their proportions of the building, the following conclusion was given. 1) As initial dimension and proportion, the width of the stoa was given as 150 ft., and the width of the wings as one-fourth of whole length of the stoa. 2) The axial intercolumniation of the wings was the basis for the proportional relationships of the stoa. 3) The small difference between the width of the wings and the depth of the stoa occurred from angle contractions.
著者
メジヤニ リム 兼田 敏之
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.70, no.596, pp.75-83, 2005
被引用文献数
1

1.研究の背景と目的ムザップ峡谷は、アルジェリアの首都アルジェから南に600km、サハラ砂漠北端に位置する人口12万人のオアシス都市である。丘を覆うコンパクトな都市形態と頂上にある一本の尖塔が特徴的な旧市街地クスール(Ksour)で知られるこの都市は、1982年以来UNESCOの世界遺産に指定されている。ムザップ峡谷では、この半世紀間に人口流入による急速な都市化が進み、オアシスを構成する貴重な農業環境であるダッツ樹林が減少するというスプロール問題などが生じている。これらの問題を理解するうえで、この都市が辿ってきた都市化過程の特徴を整理しておくことが不可欠である。その際、都市化過程を、物的・空間的な側面のみならず、その背後にある社会的・経済的な側面から捉えることが重要である。本研究では、二つの作業を通じて、ムザップ峡谷における都市化過程の特徴を明らかにする。第一の作業では、現地調査の際に収集した主としてフランス語による研究文献ならびに事実調査書から、ムザップ峡谷における地理的・歴史的概要を整理するとともに、市街化問題をめぐる因果図式の構成を試みる。第二の作業では、航空写真をデジタイズしたのち、GISを用いて、1960年代以降における土地利用変化を分析するとともに、市街化過程における空間的特徴を整理する。2.文献調査にみるムザップ峡谷の都市化過程の特徴2節では、1950年代の地誌2冊、ならびに公的機関による事実報告書7編(統計資料2編を含む)の検討を行い、ムザップ峡谷における都市化過程の特徴を探った。この作業より得た要約を以下に示す。2.1ムザツプ峡谷の地理的概観ムザップ峡谷は、岩質台地にオード・ムザップと呼ばれる枯れ河(ワジ)が刻み込まれた地域である。この地域は典型的な砂漠気候であるが、数年に一度ワジが洪水を起こすことでも知られる。11世紀以来、このワジ沿いの岩質の丘に、ムザップ族は5つのクスールを築いた。さらに、各クスールに対して各一ヶ所、ふもとの帯水層上の砂地に拓かれたのがダッツ農地である。ダッツとは多年生の高木で、その実が食用となるばかりでなく、樹下の微気候が生鮮野菜など住民生活に資する耕作環境を形成する。この微気候がオアシスと呼ばれる。また、水資源供給の伝統的システムとして、ムザップ族はワジに堰を設け、洪水時には地上から地下20mに位置する帯水層に水を蓄えた。2.2ムザップ峡谷の都市化過程の歴史的特徴ムザップ峡谷の歴史は、3つの期間に区分することができる。伝統社会期(1014-1850):ムザップ族がクスールを建立した理由は防衛であり、ムザップ峡谷における開発・維持管理は、長老組織が定める法オルフに従った。宗教・社会・経済問題のみならず、土地利用や水資源管理といった環境問題を扱う上でオルフは社会規範として機能していた。また、この時期、ムザップ族にはダッツ農地内に夏季住居を設けて避暑を行なう生活習慣があった。これらの水資源制約・社会規範・生活習慣は、伝統社会期におけるこの都市のサステイナビリティを支えていたと考えられる。この時期を特徴づけるのは自給自足性であると言える。植民地期(1850-1962):フランス植民地局はこの地に交通網整備と工業開発をもたらした。これを支える水資源は、近代技術により拡大した。植民地局による遊牧民の定住化政策をきっかけとして、ムザップ峡谷の人口増加が始まる。これはサハラ砂漠の油田発見をきっかけとする化学工業の労働需要増加によって加速化された。さらにこの時期、植民地局は遊牧民によるダッツ農地の開墾策を推し進めた。これらは、社会規範としてのオルフの希薄化をもたらした。この時期を特徴づけるのは近代化であると言える。国家独立期(1962-):おもに周辺地域からの流入により、人口は半世紀弱の間に5倍に増加した。アルジェリア政府もまたガルダイヤの地方拠点化を継続した結果、増加人口はとくにガルダイヤ自治体に集中した。これに伴って現在、スプロール問題をはじめ、種々の問題が顕在化している。この時期を特徴づけるのは、市街化であると言える。2.3ムザップ峡谷のスプロール問題をめぐる因果構造の整理2節のまとめとして、スプロール問題の要因構造を因果図式として構成した。得られた因果図式は、この間題の主因が、近代化を通じての人口流入による市街化圧力といった人口経済的な要因であるが、同時に、近代化に伴う社会変動や文化変容、オアシス都市の地理条件や植民地化の歴史等の固有要因、さらに独立期以降は後述する政策的要因が主因に影響していることを示している。3.国家独立期以降における都市化過程の分析国家独立期以降については、ムザップ峡谷の航空写真が現存する。3節では、これら一次資料をデジタイズして1968年、1982年、1991年、1997年の土地利用データを作成してGIS上で表示するとともに、その面積測定を通じて都市化過程の分析を行なった。主として構成用途とその成立年代により特徴づけられる4種類の土地利用カテゴリイは、旧市街地(OT)、新市街地(BU)、進行市街地(MX)、オアシス農地(OF)である。OTは伝統的低層住居;建ぺい率70%〜85%;緑被率5%以下、BUは近代的建造物;建ぺい率40%〜70%;緑被率20%〜5%、MXはダッツ農地と近代的建造物の混在;建ぺい率20%〜40%;緑被率20%〜80%、OFは夏季住居を含む農地;建ぺい率20%以下;緑被率80%以上である。また、記述資料にもとづき、土地保留地政策通用地域の一部をGIS上に表示して分析を試みた。4.結論まず、文献調査からの都市化過程の知見を要約する。(1)近代化の進展による人口流入は、国を問わず都市化に共通する現象であるが、オアシス都市や峡谷の存在といった地理上の特徴やそこで形成された伝統社会、さらには植民地化といった歴史の固有性が、ムザップ峡谷の都市化過程における特徴を規定している。(2)これらに加えて現代では、政策的要因を無視することができない。つぎに、データ分析からの都市化過程の知見を要約する。(1)この期間、市域は810haから879haに8.5%拡大した。(2)とくに68〜82年にスプロールが急速に進行し、オアシス農地は4割減少した。(3) 82年以降、UNESCOならびに自治体の対策が功を奏してオアシス農地の減少は食い止められている。(4)進行市街地は増減しているが、新市街地はつねに増加しており、スプロールによる緑被量減少の傾向が一貫して見られる。(5) 68〜82年の減少について、政府による土地保留地政策の影響を否定できない。居住環境・生産環境の厳しいオアシス都市であるムザップ峡谷が直面する諸問題は、地球環境問題と同型の構造を有しており、ゆえに、サステイナビリティの観点の導入を必要としていると考えられる。なお、ムザップ峡谷の市街化過程には、その他、高度差・水源ほかの地形要因が大きく関与するものと考えられるため、そのための継続的な分析作業を今後の課題としたい。