著者
江口 誠一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.79, no.6, pp.309-321, 2006-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1 1

植物珪酸体化石群の組成とその産出量によって,過去の砂浜海岸地域の植生と地形を空間的に復原するための方法論を提案し,縄文時代晩期の三浦半島古逗子湾奥海岸の堆積物についてそれを適用した.国内6地域において現生海岸植物6種の被度と表層堆積物中の植物珪酸体分布を対応させ,分類した8微地形区ごとにそれらの最高拡散量を平均値化した.その数値と植物珪酸体化石各型の産出量の対比によって推定された母植物生育域と堆積域を,成帯構造を呈する植生と地形に置換して空間的に復原した.古逗子湾奥海岸において約2800年前に海退傾向であったが,以降少なくとも約150年後まで一時期海進傾向に転じたことが指摘できた.
著者
宮澤 仁
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.133-156, 2004-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
39
被引用文献数
5 2

本研究では,多摩ニュータウンの早期開発地区を対象地域に,外出時に障壁に直面した下肢不自由者が,活動機会へのアクセスを確保するため用いる行為の実効性について考察した.その結果,被調査者は一様に,対象地域に遍在する高低差を障壁と認識する一方,建造環境の改変や有効な移動・交通手段の使用,他者が提供する介助の享受により,アクセスを確保していた.ただし,それらの実効性は,場所や財の所有関係,家族の形成段階や社会関係,地域生活の知識に条件付けられていた.特に,階段室式中層集合住宅が卓越する対象地域では,その居住者が受障後に自宅の出入りの問題を改善しようとすると長距離の転居が発生し,アクセス確保に寄与する既成資源が無用化される可能性が高まる.しかし,現住居にとどまるならば,自宅の出入りの問題が継続する.このようなジレンマ的状況を解決できず,生活空間の断片化を余儀なくされた場合,身体の障害が生活実現の剥奪に帰結する危険性が高まるであろう.
著者
藤部 文昭
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.119-132, 2004-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
12
被引用文献数
18 14

近年,盛夏期に多発している著しい高温について,アメダス資料を利用してその空間分布と経年変化(1979~2002年)を調べた.昼間の高温(最高気温〓35°Cあるいは〓38°C)は三大都市圏の内陸域で多発し,夜間の高温(最低気温〓25°Cあるいは〓28°C)は関東以西の沿岸域と大都市の中心部で多発している.経年的にみると,関東~九州では夏季のピーク時の気温が1°C/(20年)のオーダーで上昇しているが,850hPaの気温上昇率は地上の半分以下であり,地上の経年昇温の過半は境界層内の変化である.この高温化は都市域だけでなく東~西日本の広範囲に及んでいるが,三大都市圏の内陸域では周辺地域に比べて最高気温の上昇率が0.2~0.4°C/(20年)大きい.これらのことから,近年の大都市圏の高温多発傾向は,徐々に進展してきた都市ヒートアイランドにバックグラウンドの急激な高温化が加わった結果であると考えられる.
著者
尾方 隆幸
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.14, pp.1025-1039, 2003-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
39
被引用文献数
3 2

本稿では,日光国立公園の戦場ヶ原を対象に,扇状地との境界付近における湿原の縮小と,それに関連して生じる地表面プロセスを論じた.調査地域には,扇状地側に年代の古いカラマッ林が,湿原側に年代の新しいシラカンバ林が成立している.この植生分布の境界は,扇状地堆積物の分布限界,すなわち地形的な境界と一致する.地形の形成に伴って侵入した樹木は,蒸発散量・地下水位・風速・積雪深などの微気候を変化させたと推察される.カラマッ林と,その後に成立したシラカンバ林の景観の違いは,遷移のステージの違いを示すものではなく,局地的な環境条件の差異によって規定されており,その環境条件を決定する基本的な要因は地形形成作用および地表面の形態であると考えられる.
著者
伊藤 晶文
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.7, pp.537-550, 2003-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
34
被引用文献数
2 1

北上川下流低地に分布する浜堤列の形成時期について,空中写真判読,ボーリング資料解析,堆積物の粒度分析と14C年代測定および考古学的資料の整理などから考察した.さらに,本研究で明らかとなった浜堤列形成時期と既存の14C年代資料の整理・検討および埋積浅谷の形成時期とから,仙台湾岸における完新世後期の相対的海水準変動を考察した.北上川下流低地臨海部には,内陸から順に広渕浜堤列,第I浜堤列,第I'浜堤列,第II浜堤列,第III浜堤列の五つの浜堤列が存在し,各浜堤列の形成時期は,内陸側から縄文時代前期 (6,000~4,600 yr B. P.), 縄文時代中期 (4,600~4,000 yr B. P.), 縄文時代後期 (4,000~3,000 yr B. P.), 縄文時代晩期から弥生時代にかけて (3,000~1,600 yr B. P.) および1,000 yr B. P.以前から現在である.仙台湾岸では過去6,000年間に5回の海水準の上下動が認められ,約3,500 yr B. P.と約2,200yrB. P.を含む5回の海水準の極大期,約2,500 yr B. P.と約1,600 yr B. P.を含む4回の海水準の極小期の存在が推定された.
著者
長沼 佐枝
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.7, pp.522-536, 2003-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
21
被引用文献数
4 4

本研究は,インナーエリア地区において住宅更新が人口高齢化に及ぼす影響を明らかにすることを目指した.ここで得られた知見は,以下の2点である.(1)この地区で,三世代同居を行うには,住宅更新が前提となるが,土地利用上の問題と土地・建物に関する非現実的な法規制が,住宅更新を事実上難しいものにしている.このため,第二世代は結婚・就職の機会に家から域外へ転出している.このことが,各家の住宅更新意欲をさらに低下させ,ますます住宅更新が進まない状況を作り出している.(2)加えて,このような現状において,第一世代と第二世代の職業やライフスタイルの違いから,第二世代が第一世代の近隣に住む可能性は低く,第二世代が将来的にも戻らないならば,ますます住宅更新は進まないと考えられる.以上のように,この地区では高齢者のみから構成される家が増え,人口高齢化が進んでいる.
著者
佐藤 英人 荒井 良雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.450-471, 2003-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
50
被引用文献数
2 1

本研究では,1980年代後半以降に,大規模なオフィス開発事業が展開された旧大宮市中心部,幕張新都心,横浜みなとみらい21地区を事例として,オフィスが郊外に配置された際の就業者における住居選択をアンケート調査から分析した.オフィスが郊外に配置されるならば,「郊外勤務・郊外居住」という職住関係の構築が理論的には可能である.しかし,分析の結果,転勤を命じられた時点のライフステージによっては,職住間の距離が増大することが確認された.ただし,転居を実施した者にとって,郊外への転勤は,持家取得の契機となっており,特に大手企業の情報関連部門に所属する幕張新都心勤務者は,早い年齢段階で持家を取得している.その理由として,(1)都心40km以遠に比較的安価な戸建住宅が供給されたこと,(2)都心40km以遠に取得しても,通勤が可能であること,(3)彼らが営業職よりも転勤回数が少ないことが挙げられる.
著者
淺野 敏久
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.443-456, 2002-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
5 2

本稿では中海干拓問題を事例としてローカルな環境運動をとらえる地理学的な視点について論じた.その際,マスコミの当該問題に関する記述と,反対運動の立場からの問題の記述,筆者のこれまでの研究から得た知見を対比させ,環境運動が当該問題を語る際にどのように位置付けられているのかを明らかにした.結果として,環境運動が当該問題の決着において果たしている役割が社会的に軽視されている実態の一端を示すことができた.その事実を踏まえ,このようなローカルな環境運動への地理学的アプローチに求められる課題を提案した.すなわち,第1に環境運動の政策決定や土地利用に与えた影響を読み取ること,第2に環境運動の性格を多面的に理解すること,特に対象となる自然への運動参加者一人一人の意識まで視野を広げること,第3に環境運動をさまざまなスケールの「地域」の文脈から検討することが必要ということである.
著者
山下 琢巳
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.399-420, 2002-05-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本研究は天竜川下流域を事例に,江戸時代末期から明治時代まで,流域住民によって担われてきた水防活動と,堤防,水制工の維持・補修工事や河川改修といった河川工事の実態を検討し,流域住民の治水事業への関わり方の変容を明らかにすることを目的とした.考察に際しては,水防活動,河川工事,共に中心的な役割を果たした水防組合の活動内容に注目した.江戸時代には,水防活動と河川工事の実施主体に明確な区分がなく,いずれも天保水防組に加入する村の村請けによって行われていた.明治初・中期になると,水防活動は水防組合が行い,河川工事は下流域の業者が請け負うものへと変化した.また明治中期より開始された内務省直轄の河川改修により,天竜川下流域では水害そのものが相対的に減少した.その結果,明治末期には流域住民の参加する水防組合の諸事業が機能しなくなっていた.河川法が制定された明治中期以降の天竜川下流域では,内務省や静岡県が治水事業を統括していく過程で水害は減少したが,住民の治水事業への関わりが稀薄となり,水防組合の活動が次第に形骸化していったことが明らかとなった.
著者
黒田 孝一
出版者
一般社団法人 表面技術協会
雑誌
表面技術 (ISSN:09151869)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.728, 2010-11-01 (Released:2011-05-31)
参考文献数
1
被引用文献数
1 1
著者
布川 悠介 伊藤 史子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.45.3, pp.589-564, 2010-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
6

「グラフィティ」とは街に描かれる落書きのことである。本研究ではグラフィティ分布と都市要素との関係を分析し、ライターの行動特性に関する示唆を得ることを目的としている。高円寺駅を中心とした半径600m以内のグラフィティ分布の調査を行って得られた地点と数、種類のグラフィティ属性データを用いて空間分析を行った。駅距離とグラフィティ密度の関係から非線形回帰分析により密度関数を導出した。ライター間の敵対的な「Communication」地点と不特定多数に見せつけるための「Exposure」グラフィティの各分布が商業地域、駅南の商業地域に集中していることをKolmogorov-Smirnov検定、二項検定により示している。グラフィティを描く目的に着目して行った空間分析の結果より、ライターの行動特性は都市要素と関係していることがわかった。特に駅からの距離、用途地域はグラフィティを描く場所を決定する上での大きな要因となっている。これらの分析によって導かれた結果はライターの行動特性を空間的に捉える一つの指標になると考えられる。
著者
魚住 孝至
出版者
宗教哲学会
雑誌
宗教哲学研究 (ISSN:02897105)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.29-42, 2016-03-31 (Released:2017-03-10)

In „Zen in der Kunst des Bogenschießens“ schildert Eugen Herrigel den von ihm durchlaufenen Lern- und Übungsprozess unter Anleitung eines Meisters, für den die Essenz des Bogenschießens im Zen liegt. Herrigel führt aus, wie er durch die Übung des Bogenschießens zur Erfahrung der „absichtslosen Ichlosigkeit“ gelangt.In dieser Arbeit wird auf der Grundlage von Herrigels Werk analysiert, wie die Transformation von Körper und Geist mittels des Übungsprozesses erfolgt. Hierzu wird auch der schriftliche Nachlass von Herrigels Meister Awa Kenzo in die Deutung einbezogen. Außerdem wird untersucht, wie Herrigel die Erfahrungswelt des Zen-Buddhismus in seinem Nachlass „Der Zen Weg“ interpretiert.
著者
堀内 照夫
出版者
一般社団法人 表面技術協会
雑誌
表面技術 (ISSN:09151869)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.746-746, 2009-12-01 (Released:2010-06-25)
参考文献数
57
被引用文献数
4
著者
山田 あすか 讃岐 亮
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.881-887, 2016-10-25 (Released:2016-10-25)
参考文献数
12

放課後のこどもたちの活動の場である学童保育拠点は,就労支援や児童福祉の観点から,ますます拡充が求められている。その際,コストや整備期間の短縮といった観点からは地域資源の活用が有効であると考えられる。本研究では,都内の学童保育拠点の設置状況(単位面積あたり拠点数,1拠点あたり定員)が異なる3つの区を対象としたケーススタディとして,学童保育拠点の配置と,定員の過不足についての検証を行う。また,定員が不足する場合には拠点増設を想定し,[将来想定]条件での将来的なニーズの把握とそれに対応した拠点整備効果の検討を行った。拠点分布に偏りがある場合の利用圏域の調整など現有資源の有効活用,ならびに地域資源の活用を想定して拠点の圏域と定員の調整を行い,将来的な利用児の増加に対する対応可能性を示した。この成果は,高学年児童も受け入れる学童保育制度への移行や,1人あたり面積の拡充等に向けた道筋となる資料として一定の価値があると考える。
著者
山口県立山口図書館 [編]
出版者
山口県立山口図書館
巻号頁・発行日
vol.第18 県立山口図書館開館十周年紀念山口県図書館事業一覧, 1913
著者
草野 路加
出版者
経済社会学会
雑誌
経済社会学会年報 (ISSN:09183116)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.213-222, 2015 (Released:2016-03-25)

John Emerich Edward Dalberg-Acton, First Baron Acton (1834 - 1902), usually referred to as Lord Acton, is famous for a maxim, "Power tends to corrupt, and absolute power corrupts absolutely." In the 20th century Hayek regarded him as an outstanding liberal in the 19th century. But Acton’s liberalism is not well known. Therefore the purpose of this paper is to describe his liberalism. Acton’s liberalism is based upon the idea of liberty as the reign of conscience, that is, duty. It is ethical, deontological or Kantian liberalism. However Acton’s liberalism accepts Burkean conservatism of which key concept is historical continuity. According to Acton it is compatible with his liberalism. In my opinion Acton’s liberalism is complemented with conservatism. From such a liberal standpoint Acton took a critical look at the economic society in the late 19th century when the Industrial Revolution brought about the gap between the rich and the poor. While Acton accepted democracy— equal political participation— and socialism —distribution of wealth—, his attitude toward them was ambiguous. Because he thought that democracy and socialism suppressed individual liberty when they became the means by which people exercised absolute power arbitrarily. Acton’s concern was hence how the power to be falling into peoples’ hands was corrected or controlled. It was also the serious problem that liberalism in the late 19th century was generally confronted with.