著者
福本 拓
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.288-313, 2010-05-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
45
被引用文献数
6 11

本稿の目的は,東京および大阪における在日外国人のセグリゲーションを国勢調査小地域統計を用いて明らかにし,植民地期の移民とその子孫で構成される「オールドカマー」と,1980年代以降に急増した「ニューカマー」という,渡来時期の違いに着目して分析することにある.本稿ではグローバル指標とローカル指標とを併用することでセグリゲーションの変化を把握する.「ニューカマー」の割合が大きい東京では,セグリゲーションの変化に一貫した傾向は見出せない.一方「オールドカマー」の多い大阪では,「オールドカマー」の社会減を反映しセグリゲーションは低下傾向にあるといえる.東京と大阪を比較すると,特定の町丁字における外国人の増加が新規入国の「ニューカマー」の流入に起因するという点で共通している.外国人の増加は,「ニューカマー」でも入居が容易な民間賃貸マンションの存在とも関連していると推測できる.総じて,両都市におけるセグリゲーションの変動には,「オールドカマー」の存在という歴史的要因および新規入国の「ニューカマー」の流入が大きく寄与している.特に新規入国の「ニューカマー」の動向については,外国人の長期滞在を想定していない日本の出入国管理政策の影響が一定程度あるといえる.
著者
呉 松梅
出版者
山口大学大学院東アジア研究科
雑誌
東アジア研究 (ISSN:13479415)
巻号頁・発行日
no.18, pp.1-11, 2020-03

「夢」は日本と中国の古典文学にしばしば登場する。『源氏物語』に登場する数々の夢の中で、明石の君が生まれる時に明石の入道の見た夢は、物語の展開に重要な役割を担っている。この夢に関して古注釈書『花鳥余情』は皇后と天皇の明石一族からの誕生を予言する夢だと解し、従来の論は殆どそれを踏まえている。ただし、一族の栄華を予告したこの夢を固く信じ、その実現に一生を賭けた明石の入道が、夢を解読した後、すぐに京を離れ明石に下り、二度と帰京しなかった行動にはまだ謎が残っている。本文によれば、夢を見た後、入道は「俗の方の書を見はべしにも、また内教の心を尋ぬる中にも、夢を信ずべきこと多くはべし」とあって、つまり漢籍や仏典などいろんな書物を調べた後、夢を信じるべしと判断し、明石に下ったことになっているのである。果たして書物は入道に対していかなる示唆を与えたのであろうか。このような問題意識のもとに、明石という場所が夢の実現に結びつく必然性を探るため、本論では漢籍の夢の解き方を手がかりとして考察した。歴史書、筆記、伝奇などの漢籍にたびたび登場する夢も、将来を予告するような重要な機能を果たしている。『史記』や『三国志』、『北斉書』などの歴史書、それに唐代の随筆集『朝野僉載』に記された幾つかの予告夢を分析すると、漢籍に多く見られる夢解きの方法に「漢字占い」があると分かる。特に予告夢の場合、この方法がより多く使われているようである。 同様の漢字の分解、組み合わせの方法は、古来より日本人にも熟知されており、平安時代の詩文に多々見られる。日本最古の例は『万葉集』に見られる。他に、『和漢朗詠集』などにも同じ手法が使われている。漢籍では予告夢の解き方としてよく使われ、平安時代の日本の文人にも熟知されている漢字の分解や組み合わせを用いて『源氏物語』若菜上巻の明石入道の夢を解読するならば、一族の栄華の実現に関わる場所のヒントが明石入道の夢に読み取れよう。
著者
近藤 崇 水谷 瑞希 肘井 直樹
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第130回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.679, 2019-05-27 (Released:2019-05-13)

森林生態系において樹洞は鳥類、哺乳類、昆虫類などの多様な生物に利用される環境であるが、針葉樹人工林は一般に広葉樹林と比較して樹洞が少ない森林である。そこで樹洞営巣性であるシジュウカラ科鳥類(カラ類)を対象に人工林において樹洞の代替環境として巣箱を設置した結果、カラ類に加えて、様々な森林生物による巣箱の利用がみられた。本発表では、巣箱の利用状況から、人工林における樹洞代替環境の提供が人工林内の生物相に与える影響について検討した。愛知県豊田市にある名古屋大学稲武フィールドの55年生スギ人工林において、2011年に20個、2012年~2016年に約60個の木製巣箱(底面15×16 cm、高さ20 cm、巣穴直径3 cm)を、長さ1.5 mのポールに取り付けて地面に固定した。各年の4月から8月上旬ごろまで週に2、3回、すべての巣箱の見回りを行った。その結果、カラ類のほか、ネズミ類やヤマネによる休息場所としての利用や、アオダイショウやテンによる捕食場所としての利用、ハチ類による営巣場所としての利用等がみられた。人工林における巣箱の提供は、様々な樹洞利用生物に対して生息地としての質を向上させることが示唆された。
著者
西堀 佑 多田 幸生 曽根 卓朗
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2003, no.127, pp.37-42, 2003-12-21
被引用文献数
2

被験者に発音タイミングの異なる2つの音を提示し、どちらの音が早く発音されたかを回答させることで、どれくらいの音の遅延を認識できるのかを調査した。その結果得られた最も弁別し易い音(スネアドラムとピアノ)を用いて、楽曲中に遅延を発生させ、演奏にどのような影響をもたらすのかを分析した所、30ms以上の遅延だと認知され、50ms以上の遅延だと演奏が困難になることが分かった。また、遅延時間の提示方法により弁別能力が変化することが分かった。これらの結果を元に、遅延のある演奏系でのリアルタイムセッションの可能性について検討した。We searched how short that human can recognize the sound delay. By having 2 sounds generated with different timing, we let the listener answer which sound was generated earlier. As a result, we found that the combination of Snare Drum and Piano was the easiest pair to recognize the delay. Then by using those sounds as musical performance, we searched how the delay affected in terms of the players performance. Experimental result showed that 30ms delay could be recognized and over 50ms delay could cause difficulty to play. It also showed that the difference of the way of giving delay time cause the recognition ability. With these results, we considered some possibility about the real-time session in musical performance with delay.
著者
前田 裕子
出版者
経営史学会
雑誌
経営史学 (ISSN:03869113)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.23-49_1, 1998-09-25 (Released:2009-11-06)

During the decade finishing in 1944, a drastic change of production method occurred in aircraft industry in Japan, as in the U. S.Japan had joined late in the field of modern high-technological industry, then paid a great energy in catching up to develop world-level aircraft engines. Mitsubishi Heavy Industries played a big role for this. After developing some kind of excellent engines, Mitsubishi met a more difficult issue. It was the so-called mass production method (if not used in an accurate terminology), which they had not experienced in the field of such products that consist of so many parts, need long and precise mechanical operation processes.Under a strong leadership of J. Fukao, who was the key man of the engine department of the company, Mitsubishi strove for building a new method. First, they tried to imitate the system of the U.S. aircraft engine factories, and succeeded only a part. The industrial circumstances of Japan were not matured for a company to realize the same system. Mitsubishi ought to seek another way and their method might show the limits of the industrial abilities of a late-coming country. The most outstanding feature of the method could be expressed as the simultaneous capacity building in the total area of the production processes, including those of casting, forging, making special parts or machine tools as well as mechanical operation and assembly.The result was awful. However, this cumulative and self-generating experience formed the basis of production engineering of the next generation.
著者
鷹野 敏明 山口 潤 阿部 英二 二葉 健一 横手 慎一 河村 洋平 高村 民雄 熊谷 博 大野 裕一 中西 裕治 中島 映至
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会論文誌A(基礎・材料・共通部門誌) (ISSN:03854205)
巻号頁・発行日
vol.128, no.4, pp.257-262, 2008-04-01 (Released:2008-04-01)
参考文献数
7
被引用文献数
4 6

We developed a cloud profiling radar, named FALCON-I, transmitting frequency-modulated continuous wave (FM-CW) at 95 GHz for high sensitivity and high spatial resolution ground-based observations. Millimeter wave at 95 GHz is used to realize high sensitivity to small cloud particles. An FM-CW type radar realizes similar sensitivity with much smaller output power to a pulse type radar. Two 1m-diameter parabolic antennas separated by 1.4m each other are used for transmitting and receiving the wave. The direction of the antennas is fixed at the zenith at this moment. The radar can observe clouds up to 20 km in height with a resolution of 9 m. Beam size of the antenna is as small as 0.2 degree of arc, which corresponds to 15 m at the range of 5 km. Observation results showed that the sensitivity of -34 dBZ is realized at 5 km in range, and good spatial resolutions.
著者
岩本 侑一郎
出版者
富山大学比較文学会
雑誌
富大比較文学
巻号頁・発行日
vol.9, pp.143-155, 2017-03-10

カレル・チャペック『R.U.R』から多くのロボットが多様な媒体の作品で描かれてきた。その中で度々出てくるのが美しい女性型のロボットである。人に似せてロボットを作る以上どちらかの性別に外見が寄せられるのは不思議なことでは無い。しかしロボットに美しい女性の外見を与えることは、本来性別のないロボットに性別という属性を意識して付け加えていると言えるだろう。ロボットを美しい女性として扱うというのは文学史上何度も繰り返されていると同時に矛盾をはらんだことでもあるのだ。ロボットに与えられた性別をどう捉えるかというのは今でも解決していない問題である。例を挙げると、二〇一四年一月号『人工知能』の表紙に掃除をする女性型ロボットが描かれ物議をかもした。掃除をする女性ロボットは「女性蔑視」であるという批判が出たのである。人に使役される存在というイメージのあるロボットと男性に従属的というステレオタイプな女性観が重なったことが批判の発端であると思われる。現代において美しい女性型ロボットは実用的かはともかくとして実現可能な領域に踏み込んでいる。近い未来そのようなロボットが一般的なものになった時、彼らの性別についてどう向き合うべきなのか。それを考えるうえで、今まで多様な媒体の作品で描かれてきたロボットの在り方を追うことは有用な材料となるだろう。本稿ではこのロボットと性の問題について、おそらく最初にこの問題に踏み込んだ作品である海野十三の「十八時の音楽浴」を起点として論じていこうと思う。
著者
川村 智 小森 政嗣
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第7回大会
巻号頁・発行日
pp.111, 2009 (Released:2009-12-18)

顔の魅力評定については、集団の平均的な顔に近いものが魅力的であると評価されるとする平均仮説と、左右が対称に近いものが魅力的であると評価されるとする対称性仮説がある。本研究では、男女それぞれ48枚の顔写真について80の形態的特徴点座標を、顔の形態分析のためのデータとするとともに、この座標データから魅力評定実験のための線画を作成した。座標データは、Moophometricsの手法を用いて標準化した。この方法によって変換されたデータでは、特徴点の分布が多次元正規分布になり、従来のような特定の部位関係、例えば両眼の間隔など、を基準とする標準化において基準点から遠い特徴点の寄与が大きくなるという問題を削減できる利点がある。また、魅力の評定実験では、精度を高めるため、実験協力者に一対比較を行ってもらった。測定された平均性と左右対称性を独立変数とし、評定された魅力を従属変数とする順位回帰分析を行った。
著者
梶井 直親
出版者
法政大学大学院
雑誌
法政大学大学院紀要 (ISSN:03872610)
巻号頁・発行日
no.79, pp.87-94, 2017

物語を提示するメディアは様々な種類がある。物語理解過程の研究はそのメディアごとに検討されている。そのため,メディアの枠を超えた統一的な物語理解過程モデルは検討されていない。本研究ではメディアの類似性を視聴者がどのように主観的に認識しているかについて調査した。本調査では7 つのメディアを採用した。具体的には,小説,絵本,漫画,アニメーション,実写映画,芝居,ミュージカルの7 つであった。参加者は21 対のメディア同士の類似度について評定する質問紙に回答した。この評定値はクラスター分析と多次元尺度構成法(MDS)で分析された。クラスター分析の結果,2 つのグループにまとまった。1 つは小説と絵本,漫画,アニメーションのグループであり,もう一方は実写映画と芝居,ミュージカルのグループであった。多次元尺度構成法では,アニメーションは小説や絵本,漫画の近くに配置された。つまり,アニメーションは視聴覚のメディアであるが,視聴者はアニメーションを視覚的メディアに近いと認識していると考えられる。本研究の結果から,アニメーションや絵本,漫画の理解過程には,文章の理解過程モデルを応用することができると提案する。