著者
木原 誠
出版者
佐賀大学教育学部
雑誌
佐賀大学教育学部研究論文集 (ISSN:24322644)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-37, 2023-01

極西アイルランド、その精神の地下水脈には一四○○年にも亘り静かに脈打つ一つの思考がある。<水辺の思考>である。その起源は六世紀半、全土の水辺で一斉に開花した各修道院が水路のネットワークによって一つに結ばれ発生をみた学術都市群共同体にある。その特徴は大陸ヨーロッパの基盤、陸路の思考=直線・合理的なユークリッド原理に反定立する水路の思考=円環・非合理(自然)的なフラクタル原理にある―大西洋沿岸の海岸線のように、蛇行を繰り返す思考の流れが内部に無数の渦巻きを形作りながら一本の線で結ばれる。『ケルズの書』に表れる芸術様式、大陸のマニエリスムとも一線を画す極西のケルト固有の<水辺のマニエリスム>の誕生である。その思考様式はイェイツにより見出され、文芸復興運動の基軸に据えられることで復権をみた。その後シングからジョイスへと継承されることでアイルランド文学の新潮流を形成していく。本論の目的は以上の命題を検証していくことである。なお、本論は近日刊行予定の『水辺の思考/アイリッシュ・マニエリスム』の「はじめに」に相当する部分の抜粋である。
著者
丸谷 聡子 Satoko Marutani
出版者
同志社大学
巻号頁・発行日
2020-03-21

本研究は、持続可能な社会実現のため、学校と地域をつなぐ環境教育のコーディネートを事例として考察し、コーディネートモデルを提示すること。キーマンとなる教員への身近な地域の自然体験学習を基軸とした環境教育に関する研修のあり方について検証すること。その上で、ソーシャル・イノベーションの理論を用いて、教室と現場、教員と地域・専門家を結ぶ教育法として、「コーディネート型環境教育法」の実践手法を提示した。
著者
高桑 いづみ
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.166, pp.131-152, 2011-03-31

紀州徳川家伝来楽器の内,国立歴史民俗博物館が所蔵する龍笛・能管あわせて27点について,熟覧及びX線透過撮影を通して調査を行った。その結果,高精度の電子顕微鏡によって従来「平樺巻」とされてきた青柳(H‒46‒39)が,樺ではなく籐ないしカラムシのような蔓を巻いていたことが判明し,仏像の姿に成形した錘を頭部に挿入した龍笛があることが判明するなど,従来の調査では得られない成果が多々あった。一方,付属文書と笛本体が一致しない例もあり,笛が入れ替わった虞れも考えられる。たとえば能管の賀松(H‒46‒53)は,付属品や頭部の頭金の文様から,『銘管録』に載る「古郷ノ錦」ではないかと推測される。いつの時期か不明だが,コレクションの実態が混乱したようである。時期は不明だが,紀州徳川家のコレクションは少しづつ散逸してきた。その事実と照らし合わせながら,今後さらなる調査が必要になるであろう。
著者
金 光林
出版者
新潟産業大学経済学部
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.54, pp.63-70, 2019-10

世界の各国の姓氏について調べてみると、大概は少数の姓氏に人口が集中する現象が見られる。東アジアの場合もこのような現象は明確に現れる。中国おいて人口が少数の有力な姓氏(大姓)への集中する要因は次のように考えられる。(1)まずは、由緒があり、多様であり、広く分布していることに関連がある。(2)大姓は歴史上において国姓であることが多く、国の支配者の姓であるために当該王朝においては勢力を誇り、また王朝の支配者は賜姓という手段を使い、国姓を広めた。(3)門閥氏族制度は有力氏族増加の重要な要因となった。(4)中国の前近代の一夫多妻制により、社会的地位と経済的優越は子孫の生育にも有利に働き、名門氏族の子孫繁盛の土壌を作った。(5)家系を重んじる意識、同姓村落の形成、共同体内部での婚姻などの要因も、社会的に有力な姓氏への偏中を助長したと考えられる。朝鮮(韓国)とベトナムの姓氏における有力な姓氏への集中現象にも中国と近似する要因が見られる。日本の姓氏が中国、朝鮮、ベトナムのように数百程度に集約されず、約30万個もあるといわれるが、これについては次のような要因が考えられる。(1)日本の姓氏は地名、職業名、物象名などに由来したが、その中の多数が地名に由来している。それぞれの地域の多様な地名に由来したために自ずと姓氏の数が多数になったと思われる(2)日本の家族制度は中国、朝鮮、ベトナムの場合に比べて血縁によって続くという意識が濃厚ではなく、そのため姓氏の分化が常に行われ、それが多数の姓氏に発展する素地となった。(3)日本の政治体制が中国、朝鮮、ベトナムのような中央集権型ではなかったので、古代社会の場合を除くと、中央の政治権力による姓氏への影響力(王権により賜姓・改姓)が薄く、これも姓氏が多様化する一因にもなったと考えられる。(4)明治時代に入り、「平民苗字必称義務令」が発布され、江戸時代までに公に苗字(名字)を名乗ることができなかった平民層も苗字を持つことが義務化されたために、極めて短期間に平民たちが馴染みのある地名から多数の苗字を新しく作ったことが日本の姓氏の数を増加させた。
著者
Ryo Ishibashi
雑誌
研究報告バイオ情報学(BIO) (ISSN:21888590)
巻号頁・発行日
vol.2023-BIO-73, no.34, pp.1-6, 2023-03-02

This paper proposes the application of multidimensional scaling (MDS) to Hi-C data on genomic interactions as a method of visualizing DNA loops. Currently, the mechanisms underlying the regulation of gene expression are poorly understood. Previous studies have focused on reproducing the entire three-dimensional structure of chromatin; however, identifying DNA loops using such data is time-consuming and difficult. Hi-C data were converted to distances by taking the inverse to reproduce loops via MDS, and missing values were set to zero. MDS was applied to the log-transformed genomic coordinate distances using the converted data, and this process successfully reproduced the DNA loops in the given structure. Consequently, the reconstructed DNA loops contained significantly more DNA bound by transcription factors involved in DNA loop formation than that obtained using previously applied methods. In conclusion, the proposed method represents an improvement over previous methods.
著者
井手 広康
雑誌
情報処理学会論文誌教育とコンピュータ(TCE) (ISSN:21884234)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.8-18, 2022-10-21

令和4年度より高等学校では「情報I」が始まり,プログラミングの分野では,基本的に教科書に記載されたプログラミング言語を用いて授業を行うことになる.また,令和7年度からの大学入学共通テストに「情報」が導入されることから,授業で扱うプログラミング言語と共通テスト「情報」に出題されるDNCLとの違いを意識しながらプログラミング教育を実施する必要がある.そこで本研究では,DNCLと「情報I」の教科書に使用されているPython,JavaScript,VBA,Scratchとの相違点について考察するとともに,試作問題/サンプル問題と教科書に記載されているプログラミング分野の内容について比較を行った.その結果,DNCLと各プログラミング言語には,変数の宣言,ブロックの区切り,オブジェクトの結合,配列/リストの作成と操作,for文の表記などに大きな違いがあること,すべての教科書が試作問題/サンプル問題に出題された内容を網羅できているわけではないことが分かった.
著者
島崎 貴志 金井 秀明
雑誌
研究報告グループウェアとネットワークサービス(GN) (ISSN:21888744)
巻号頁・発行日
vol.2015-GN-95, no.11, pp.1-8, 2015-05-07

世界各国,様々なスポーツがあり,競技大会が開かれるものが多い.競技大会では,選手たちが腕を競う一方,声援を送り,選手をサポートするファンも会場には存在する.声援は試合会場など近接にいるものからもらうが,その場にいないファン,つまり,遠隔地からの声援は効果がないのか疑問に思う.本研究では,その可能性を明らかにするために,室内ジョギングを対象とした遠隔音声および機械音声による声援の効果を明らかにする.検証は 「近接と遠隔」,「遠隔音声のみと録音」,「人と機械音声」 をそれぞれ比較することにより行った.
著者
大橋 敦夫
出版者
上田女子短期大学
雑誌
学術研究所所報 (ISSN:24368105)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.27-36, 2023-03-01

長野県方言の代表語である「ずく」についての総合的な研究を行なった。考察の観点は、その語源・語義・派生語・日常生活での活用の4点である。その結果、次のような結論を得た。①語源については、諸説あるが、「術(じゅつ)」説を支持する。②語義は、意義の核として、「勤労を尊重する気持ち」があり、これをもとに派生語が生みだされている。③派生語の分析では、ことわざについても言及し、例数の豊富なことを示した。④日常生活での活用では、多方面にわたり、様々な用例を挙げることができる。ここからも面積の広い長野県全体を覆う数少ない方言であり、長野県民自身が愛好している様子が窺われる。
著者
細合 晋太郎 高瀬 英希 出分 卓矢 菊地 俊介
雑誌
研究報告組込みシステム(EMB) (ISSN:2188868X)
巻号頁・発行日
vol.2023-EMB-62, no.54, pp.1-7, 2023-03-16

著者らは,並行性能および堅牢性に優れた関数型言語 Elixir の ROS 2 クライアントライブラリである Rclex(https://github.com/rclex/rclex)の研究開発を OSS にて進めている.現行の Rclex は ROS 2 がインストールされた実行環境を想定しており,ROS 2 および 64 ビットの Ubuntu に強く環境依存している.本研究では,Rclex の移植性の向上および適用範囲の拡大のため,Elixir の IoT フレームワークである Nerves への対応に取り組む.具体的には,ROS 2 環境が整備された Docker イメージから,Rclex の実行に必要なライブラリを Nerves のファイルシステムに配置できるようにする.Rclex 環境を含む Nerves ファームウェアのビルドについては,専用の Mix タスクを提供し,通常の Elixir プロジェクトの開発と同じ流儀で実行できるようにする.産業用リアルタイム OS コントローラである e-RT3 Plus を用いた活用事例を示し,さらに定量的評価では Nerve s対応が通信性能に大きな影響を与えないことを確認する.本研究の成果である Rclex on Nerves によって,Rclex の適用範囲を IoT デバイス向けに拡大させることができる.Elixir 技術者にとって ROS 2 の通信技術の導入を容易化させるだけに留まらず,ROS 技術者にとっても最小限かつ堅牢性の高い ROS 2 プラットフォームを構築できることに貢献する.