著者
津田 知春 高橋 登
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.95-106, 2014

日本語を母語とする日本人中学生の英語の音韻意識と英語語彙,スペルの知識との関係が実験的に調べられた。スペルの知識は,オンセット・ライムが実在の単語と共通の偽単語を聴覚呈示し,それを書き取らせた。また,音韻意識はStahl & Murray(1994)を参考にして,英単語からの音素の抽出,音素から単語の混成,および日本語の音節構造を持つ単語・偽単語の音素削除課題が用いられた。全体で73名の中学校1年生,2年生が実験に参加した。その結果,語彙課題は学年によって成績に差が見られたが,その他の課題では学年差は見られなかった。また,音韻意識課題の誤りの多くは音素の代わりにモーラを単位として答えるものであった。語彙を基準変数とした階層的重回帰分析の結果,語彙は学年とスペル課題の成績で分散の50%以上が説明されることが確かめられた。また,スペル課題を基準変数とした階層的重回帰分析では,学年は有意な偏回帰係数が得られず,音韻意識の中では混成課題で有意な偏回帰係数が得られた。このことから語彙力を上げるためには,スペル課題で測定される英単語の語形成に関する知識が必要であり,語形成知識は,日本語の基本的な音韻の単位であるモーラではなく,音素を単位とする音韻意識を持つことによって身につくと考えられた。最後に,本研究の今後の英語教育への示唆について議論した。
著者
渡辺 大介 湯澤 正通 水口 啓吾
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.87-94, 2014

本研究では,小学校2,3年生(N=160)による減算の求補場面と求差場面の作問課題における言語性ワーキングメモリおよび視空間性ワーキングメモリの役割を検討した。言語性ワーキングメモリおよび視空間性ワーキングメモリの高低群によって作問課題に対する解答内容の違いを調べた結果,求補場面では,言語性ワーキングメモリ得点の高い児童は低い児童に比べて,式と絵の両方に対応している解答を多く行った。一方,視空間性ワーキングメモリにおいては,このような偏りは見られなかった。他方,求差場面では,視空間性ワーキングメモリ得点の高い児童は低い児童に比べて,式と絵の両方に対応している解答を多く行った。一方,言語性ワーキングメモリにおいては,このような偏りは見られなかった。これらの結果から,求補場面と求差場面の作問課題においてそれぞれ言語性ワーキングメモリと視空間性ワーキングメモリが異なる働きをしていること,これらの問題理解の支援において異なるアプローチをとる必要がある可能性が示唆された。
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.76-86, 2014

本研究では,地域在住高齢者の知能と抑うつの経時的な相互関係について,交差遅延効果モデルを用いて検討することを目的とした。分析対象者は「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第1次調査に参加した,65~79歳の地域在住高齢者725名(平均年齢71.19歳;男性390名,女性335名)であった。第1次調査及び,その後,約2年間隔で4年間にわたって行われた,第2次調査,第3次調査において,知能をウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(WAIS-R-SF),抑うつをCenter for Epidemiologic Studies Depression(CES-D)尺度を用いて評価した。知能と抑うつの双方向の因果関係を同時に組み込んだ交差遅延効果モデルを用いた共分散構造分析の結果,知能は2年後の抑うつに負の有意な影響を及ぼすことが示された。一方,抑うつから2年後の知能への影響は認められなかった。以上の結果から,地域在住高齢者における知能の水準は,約2年後の抑うつ状態に影響する可能性が示された。
著者
畑野 快 原田 新
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.67-75, 2014

本研究の目的は,心理社会的自己同一性が内発的動機づけを媒介して主体的な授業態度に影響を及ぼすモデルを仮説モデルとし,その実証的検討を行うことで,大学生が主体的な学習を効果的に獲得する方策として心理社会的自己同一性,内発的動機づけの果たす役割について示唆を得ることであった。仮説モデルを実証的に検討するために,大学1年生131名,大学2年生264名,3年生279名の合計674名を対象とした質問紙調査を実施した。まず,媒介分析の前提を確認するため,学年ごとに心理社会的自己同一性,内発的動機づけ,主体的な授業態度の相関係数を算出したところ,全ての学年において3変数間に正の関連が見られた。次に,多母集団同時分析によってモデル適合の比較を行ったところ,仮説モデルについて学年を通しての等質性が確認された。最後に,仮説モデルをより正確に検証するため,ブートストラップ法によって内発的動機づけの間接効果を検証したところ,1~3年生全ての学年において内発的動機づけの間接効果の有意性が確認された。これらの結果から,1~3年生全ての学年において仮説モデルが検証され,大学生が主体的な学習を効果的に行う上で心理社会的自己同一性,内発的動機づけが重要な役割を果たす可能性が示された。
著者
田中 善大 伊藤 大幸 高柳 伸哉 原田 新 染木 史緒 野田 航 大嶽 さと子 中島 俊思 望月 直人 辻井 正次
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.58-66, 2014

本研究では,保育所の年長児に対する縦断調査によって,保育士が日常業務で作成する「保育記録」を心理学的・精神医学的観点から体系化した「保育記録による発達尺度(Nursery Teachers Rating Development Scale for Children: NDSC)」と学校適応との関連及びNDSCを用いた小学校での適応の予測について検討した。単一市内全保育所調査によって386名の園児に対して保育所年長時にNDSCを実施した後,小学校1年時に教師評定による小学生用学校適応尺度(Teachers Rating Scale for School Adaptation of Elementary School Students [All student version]: TSSA-EA)を実施した。相関係数の分析の結果,NDSCと学校適応との関連が示された。重回帰分析の結果,学校適応の下位尺度である学業面,心身面,対人面,情緒面のそれぞれの不適応を予測するNDSCの下位尺度が明らかになった。重回帰分析の結果に基づくリスクの分析の結果,重回帰分析によって明らかになった下位尺度が,学校適応のそれぞれの側面を一定の精度で予測することが示された。
著者
近藤 龍彰
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.38-46, 2014

本研究は,幼児は答えられない質問に適切に「わからない」と回答するのか,およびその発達的変化を検討した。年少児27名(男児15名,女児12名,平均月齢49.81カ月),年中児31名(男児16名,女児15名,平均月齢61.45カ月),年長児34名(男児19名,女児15名,平均月齢73.74カ月)を対象に,3つの課題を行った。いずれの課題でも,幼児に答えがわかるだけの十分な情報を示した質問(答えられる質問)と,情報を示していない質問(答えられない質問)を行った。また,幼児の「わからない」という反応を引き出しやすくするために,「わからない」ことを視覚的に示す選択肢(「?」カード)を用意した。その結果,年少児時点でも答えられない質問に対して,適切な「わからない」反応を行うこと,「わからない」反応は年中段階で低下することが示された。さらに,明確な「わからない」反応以外にも「わからない」ことを示す非言語的な指標が存在することが示唆された。このことより,「わからない」反応を行える年齢が,先行研究で示されているよりも年齢の低い時期にまで拡張されること,年少児と年中児では「わからない」反応を行うことの意味が異なってくることが示唆された。
著者
山田 真世
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.47-57, 2014

幼児期の子どもにとって,絵は他者との重要なコミュニケーションツールの1つである。日常保育場面では,幼児が自身で描いた絵を説明することが多々あるが,その絵は技術不足から本来の描画意図とは異なって他者に解釈をされることもある。本研究はこのような絵に関するミスコミュニケーション場面を設定し,幼児期の絵の命名行為の変化から,描画意図の発達を明らかにすることを目的とした。2歳クラスから5歳クラスの子どもにおいて,事前の命名を行い,参加児に描画意図を持って絵を描くように促す条件(以下,事前命名あり条件)と,形を真似て描くだけの条件(以下,事前命名なし条件)を設定した。その後,絵を描くところを見ていない実験者が,「何の絵か」,幼児の絵の説明以外にも「他の物(例えば赤信号)にも見えるが,どちらの絵か」「最初に何を描こうとしたのか」を尋ねた。結果,2歳クラスの子どもでは事前に描く対象を定めていても,描画後には同じ絵に異なる命名を行っていた。一方で,3歳クラスから5歳クラスの子どもは描画後に他者からの異なる命名を受けても,最初の自身の描画意図を自覚した回答が可能であった。さらに5歳クラスの子どもでは,自身の絵について,他者からの見えと自身の描画意図を比較し調整する反応が見られた。
著者
岡本 依子 須田 治 菅野 幸恵 東海林 麗香 高橋 千枝 八木下(川田) 暁子 青木 弥生 石川 あゆち 亀井 美弥子 川田 学
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.23-37, 2014

親はまだしゃべらない乳児と,どのようにやりとりができるのだろうか。本研究は,前言語期の親子コミュニケーションにおける代弁の月齢変化とその機能について検討するため,生後0~15ヶ月の乳児と母親とのやりとりについて,代弁の量的および質的分析,および,非代弁についての質的分析を行った。その結果,代弁は,「促進」や「消極的な方向付け」,「時間埋め」,「親自身の場の認識化」といった12カテゴリーに該当する機能が見いだされた。それらは,「子どもに合わせた代弁」や「子どもを方向付ける代弁」,および,「状況へのはたらきかけとしての代弁」や「親の解釈補助としての代弁」としてまとめられ,そこから,代弁は子どものために用いられるだけでなく,親のためにも用いられていることがわかった。また,代弁の月齢変化についての考察から,(1)0~3ヶ月;代弁を試行錯誤しながら用いられ,徐々に増える期間,(2)6~9ヶ月;代弁が子どもの意図の発達に応じて機能が限られてくる期間,(3)12~15ヶ月;代弁が用いられることは減るが,特化された場面では用いられる期間の,3つで捉えられることが示唆された。そのうえで,代弁を介した文化的声の外化と内化のプロセスについて議論を試みた。
著者
外山 美樹 樋口 健 宮本 幸子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1-11, 2014

高校受験が終わった半年後に,高校1年生とその母親3,085組を対象に,高校受験に関する振り返り調査をインターネット上で実施し,高校受験期における悩みやストレス,高校受験を振り返っての認知(高校受験の経験がどのような意味をもつのか)についての実態を把握することを目的とした。また,こうした高校受験期における悩みやストレス,高校受験を振り返っての認知において,母親からのソーシャル・サポートがどのように影響を及ぼすのかを検討した。本研究の結果から,進学率が100%に近い高校への受験においても,子どもは様々な悩みやストレスを抱いていることが示された。また,多くの者が受験を通して自己への成長感を獲得するとともに,学業への充実感を感じており,高校受験をプラスの経験と捉えていることが明らかになった。母親からのソーシャル・サポートにおいては,高校受験の悩みやストレスを促進するソーシャル・サポートのネガティブな影響が見られた一方で,母親からのソーシャル・サポートが高い者は,受験を通して自己の成長感や学業の充実感をより強く感じているといったソーシャル・サポートのポジティブな影響も見られることが示された。
著者
平川 久美子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.12-22, 2014

本研究では,情動表出の制御における主張的側面,とりわけ幼児期から児童期にかけての怒りの主張的表出の発達について検討を行った。調査は年中児,年長児,1年生の計110名を対象として行われ,仮想場面を用いた課題が個別に実施された。まず,主人公が友だちから被害を受ける状況で,主人公が友だちに加害行為をやめてほしいと伝えたいという意図伝達動機をもっているという仮想場面を提示し,そのときの主人公の表情を怒りの表出の程度の異なる3つの表情から選択し,理由づけを行うよう求めた。課題は,怒りを表出する際に言語的主張をせず表情のみで表出する表情課題(2課題),表情表出と併せて言語的主張を行う表情・言語課題(2課題)の計4課題であった。その結果,言語的主張をしない場面では年中児よりも年長児・1年生のほうが表情で怒りをより強く表出すること,1年生では言語的主張をする場合よりもしない場合のほうが表情で怒りをより強く表出することが示された。本研究から,仮想場面における怒りの主張的表出は年中児から年長児にかけて顕著に発達すること,また1年生頃になると表情と言語という情動表出の2つのモードの相補的な関係を理解し,情動表出を行うようになることが示唆された。