著者
Ohzono Mako Takahashi Hiroaki Ichiyanagi Masayoshi
出版者
Oxford University Press
雑誌
Geophysical Journal International (ISSN:0956540X)
巻号頁・発行日
vol.200, no.1, pp.144-148, 2015-01
被引用文献数
5

An intraplate slow earthquake was detected in northernmost Hokkaido, Japan, by a dense network of the global navigation satellite system. Transient abnormal acceleration of <12 mm was observed during the period 2012 July to 2013 January (similar to 5.5 months) at several sites. The spatial displacement distribution suggests that a localized tectonic event caused localized deformation. Estimated fault parameter indicates very shallow-dip reverse faulting in the uppermost crust, with a total seismic moment of 1.75E + 17 N m (M-w 5.4). This fault geometry is probably consistent with detachment structure indicated by geological studies. A simultaneous earthquake swarm with the maximum magnitude M4.1 suggests a possibility that the slow slip triggered the seismic activity for unknown reasons. This slow earthquake is slower than its moment would indicate, with a duration-magnitude scaling relationship unlike either regular earthquakes or subduction slow slip events. This result indicates that even if the area is under different physical property from subduction zones, slow earthquake can occur by some causes. Slow earthquakes exist in remote regions away from subduction zones and might play an important role in strain release and tectonic activity.
著者
遠部 慎 宮田 佳樹 小林 謙一 松崎 浩之 田嶋 正憲
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.339-364, 2007-03-30

岡山県岡山市(旧灘崎町)に所在する彦崎貝塚は,縄文時代早期から晩期まで各時期にわたる遺物が出土している。特に遺跡の西側に位置する9トレンチ,東側に位置する14トレンチは調査当初から重層的に遺物が出土し,重要な地点として注目を集めていた。彦崎貝塚では土器に付着した炭化物が極めて少ないが,多量の炭化材が発掘調査で回収されていた。そこで,炭化材を中心とする年代測定を実施し,炭化材と各層の遺物との対応関係を検討した。層の堆積過程については概ね整合的な結果を得たが,大きく年代値がはずれた試料が存在した。それらについての詳細な分析を行い,基礎情報の整理を行った。特に,異常値を示した試料については,再測定や樹種などの同定を行った。結果,異常値を示した試料の多くは,サンプリング時に問題がある場合が多いことが明らかになった。特に水洗サンプルに顕著で,混入の主な原因物質は現代のものと,上層の両者が考えられる。また,混入した微細なサンプルについても,樹種同定の結果,選別が可能と考えられた。これらの検討の結果,明らかな混入サンプルは,追試実験と,考古学的層位などから,除くことが出来た。また,9トレンチと14トレンチと2つのトレンチでは堆積速度に極端な差が存在するものの,相対的な層の推移は概ね彦崎Z1式層→彦崎Z2式層→中期層→彦崎K2式層→晩期ハイガイ層となることがわかった。今後,本遺跡でみられたコンタミネーションの出現率などに留意しつつ,年代測定試料を選別していく必要がある。そういった意味で本遺跡の事例は,サンプリングを考えるうえでの重要なモデルケースとなろう。
著者
江 楠
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.138, pp.251-274, 2021-06-25

本稿では,母子世帯を,困ったことがある時に親が「頼りになる」,「頼りにならない」,「親はいない」の3つのグループに分けた上で,各世帯における,親および親以外の人からの受領サポートと情緒的・手段的サポートの状況を確認した。また,母子世帯の緊急時の支援の有無と経済的困難の重なりについても確認した。 以下の3点が指摘できる。第1に母子世帯は親と親以外の人からの受領サポートでは,親からの援助が重要な役割を担う一方で,親からの援助が得られないかつ,親以外に頼りになる人もない世帯が一定数存在した。第2に多くの母子世帯は相談相手という情緒的サポートでは,家族・親せき以外のサポートも利用するが,世話を頼む相手という手段的サポートでは,ほとんど家族・親せきに頼り,家族・親せき以外の人や制度を頼るものは少なかった。第3に経済状況が厳しく,かつ,緊急時の支援者がいないという困難が重なっている世帯が一定数存在した。
著者
濱 聖司
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.285-298, 2010-06-30 (Released:2011-07-02)
参考文献数
49
被引用文献数
4 4

脳卒中後の Depression (うつ病) と Apathy (意欲低下) は混乱して使われることが多く,精神科領域では,Apathy という用語が使われることは極めて少なく,むしろ Depression の一部の症状と考えられる一方,神経内科領域では,Depression と Apathy は分離して考えることが多い。そこで,この総説では,Post-stroke depression (脳卒中後うつ病 : PSD) を Depression と Apathy を大きな二つの核となる症状とみなして,これまでの研究結果をまとめてみた。まず,脳卒中の損傷部位と PSD 発症との関係を調べてみると,Depression と Apathy を分離して考えると,前者は左前頭葉損傷,後者は両側基底核損傷と関係があった。また,PSD が脳卒中後の機能障害改善に及ぼす影響について検討すると,Depression よりも Apathy のあるほうが,機能が改善しにくい,とする結果が得られた。そこで,Depression と Apathy は,PSD の中で,各々異なる神経基盤に立って存在することが示唆された。一方,PSD を考える上で,障害を受け入れていく過程は非常に重要なポイントになることから,その中で,固執に焦点を絞って調べてみた。今まで,固執は否認の症状で良くない因子と考えられてきたが,我々の検討では,適度の固執があると,かえってうつ病になりにくく,機能も改善しやすい,とする結果であった。脳卒中後の患者に接する場合,固執は必ずしも悪いばかりではないことを考慮し,機械的に障害受容を押しつけるのではなく,患者に合わせた,適切な配慮を心がける必要がある。
著者
天野 光孝 加戸 隆介 橘高 二郎
出版者
The Sessile Organisms Society of Japan
雑誌
付着生物研究 (ISSN:03883531)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.7-12, 1985-03-20 (Released:2009-10-09)
参考文献数
7

A leaflike shrimp Nebalia sp., which belongs to the most primitive genus of Malacostraca, has been found abundantly at the base of Bryopsis sp. growing in an outdoor concrete tank used for Homarus culture at Sanriku. The species is considered to be desirable as a living food organism for larval rearing because of its suitable size and tolerance to deterioration of the bottom condition.Sampling was done in the pond from July to December of 1983. Water temperature ranged from 22.3°C in summer to 4.5°C in winter. The animals were found throughout the season with the highest occurrence of egg-bearing females in October. The larvae were reared successfully at water temperature between 15°C to 25°C in combination with the salinity between 20‰ to 33‰ under the continuous darkness. The larvae showed the best growth at 25°C in combination with 33‰. The most effective food for the larval rearing in the laboratory was the fine particles of the dried food as shrimp pellet and krill.The larvae hatched out as adult form. Number of segments in the flagellum branches of the first antenna and the second antenna increased from 3:3, expressed as segmentation formula, at I stage to 4:3, 5:4, 6:5, 7:6 and 8:7 at II, III, IV, V and VI stages, respectively. After VII stage, the increase became irregular.
著者
木村 草太
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本年度は、採択課題について、諸外国の差別対策法理の研究を進めるとともに、研究業績を雑誌論文の形で公表した。また、秋には、学会にて、国内の問題状況についての研究報告も行った。まず、本年度は、ヨーロッパ人権裁判所、アメリカ連邦裁判所、ドイツ憲法裁判所の諸判例を研究した。分野としては、トランスジェンダーや同性婚に関するもので、諸外国と日本法の比較の上で、ベースラインの設定の仕方が異なる点などについて研究を深めた。公になった研究実績としては、専門雑誌に、平等原則と非差別原則を概観する論文を発表した。同論文では、同性婚などの問題については、いわゆる権利着目アプローチと、平等着目アプローチがあり、アメリカ法の権利着目アプローチには、幾つかの問題があることを分析した。また、日本の最高裁判例においては、平等原則と立法裁量の問題について、時間的視野のないままに、過去の不合理を解消するための立法裁量と、将来の不合理を解消するための立法裁量の区分の重要性を意識しないものがあり、同一の裁判官が、ある判例では過去の不合理解消のための立法裁量を認識しつつ、別の判例ではそれを認識しないという現象が起きている。最高裁判事レベルで、適切な理論の認識ができていない現状の問題も指摘できた。秋には、全国憲法研究会にて、特に沖縄問題について研究発表を行った。差別感情は、合理的配慮や適性手続の不足を招くことが指摘されており、沖縄米軍基地問題の歴史から、その点を研究する報告を行った。差別と構造的な類似性を示す問題として、政教分離問題がある。今年度は、専門雑誌に政教分離問題に関する研究も発表し、別分野の構造を分析し、研究分野の構造を明らかにすると言う手法での研究も実績として示すことができた。また、関連分野としては、権利主体たる子どもの問題にも取り組んだ。新しい研究分野を発見するきっかけとなると思われる。
著者
名倉 昌巳 松本 伸示
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.397-407, 2019-11-29 (Released:2019-12-20)
参考文献数
17

本研究の目的は中学校の新入生に「生物多様性」の理解と,その多様性の解析手法である「進化思考」の形成過程を探ることにある。現行(平成20年改訂学習指導要領準拠)の中学校第1学年理科教科書における「生命編」の最初には,近隣のいろいろな環境に生息する「身近な生物」を観察しながら,顕微鏡の使い方など基本的技能の習得が目的とされてきた。平成29年改訂の新学習指導要領では,そこに「分類」の記述が加わり,「生物多様性」の理解が重視されるように改訂された。しかし,中学校現場では「身近な生物の観察」も通り一遍で終えられることが多い。そこで,新入生による初めての観察実習として,科学的な見方・考え方という観点を踏まえた授業を展開した。一方,「生物多様性の理解には進化に関する知識の習得が重要」であり,かつ「分類思考と系統樹思考を柱とした進化思考が多様性の解析手法の基盤である」という2つの提言がある。そこで,本研究ではその2つの提言に基づいて,「身近な植物」としてのタンポポの「分類」を手始めに,雑種タンポポ出現による「多様化」や,水中の小さな生物の「系統的分類」を事例に,進化の入門編を意図した授業を開発した。ワークシートの記述分析や質問紙調査の結果から,「生物多様性」や「科学的進化概念」の理解を一定程度促進することが明らかになった。