著者
今 智司
出版者
協創&競争サステナビリティ学会
雑誌
場の科学 (ISSN:24343766)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.45-59, 2021 (Released:2021-09-23)

様々な事例からリアルとバーチャルとの接合で両者の違いを際立たせる社会的要素が「知覚野域」である。ただし、現状では視覚及び聴覚が中心であり、味覚や嗅覚の技術による伝達は可能であるものの個々人によって異なる固有覚等の伝達は困難である。そのため、リアルをバーチャルで再現するというよりもリアルとバーチャルとの接合領域を考え、接合領域における「不完全な状態」(Mal-being)から「現状より満たされた状態」(Well-being)への移行を考えるべきである。その場合において、バーチャルとリアルとを結びつけて相互作用させる「場」の形成が重要であり、係る「場」の形成においては、Code-1 参入退出自由の原則、Code-2 機会均等の原則、Code-3 参加者外への波及伝搬の容認、の少なくとも3つの原則が必要であろう。
著者
山本 浩大
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.695-700, 2020-03-30 (Released:2020-04-15)
参考文献数
13

中学校理科第3学年第2分野「地球と宇宙」の「太陽系と恒星」では,太陽の観察を行い,その観察記録や資料に基づいて,太陽の特徴を見いだすことを目標としている。その中には,黒点の観察も含まれているが,太陽直径の推測が生徒実験として導入されている事例はない。本研究では太陽を直視せずに太陽直径を生徒に算出させる方法を授業で導入し,算出精度を向上させるための教材教具の工夫とそれによる生徒の太陽に関する興味の変化を明らかにすることを目的とした。太陽直径を1,391,400 kmとした場合,ひもを用いた平成28年度は約70%の班が,光学台を用いた平成29年度は約80%の班が誤差30%未満で太陽直径を算出した。太陽像の直径とピンホールから太陽像までの距離の関係において,理論値から算出される近似直線の傾きと実測値から算出される近似直線の傾きに差があるかを調べるために,t検定を行った。平成28年度は有意差があり(df=44,p<0.01),平成29年度は有意差がなかった(df=29,p=0.4332)。授業の前後で,太陽の興味に関するアンケートを実施し,事前には約50%の生徒が太陽に興味があると回答し,事後には約70%に上昇した。太陽に加え,他の天体の大きさや地球からの距離に興味を示していた。実験時に,はっきりした太陽像の大きさを測定させる操作に課題が残った。
著者
青柳 邦彦 中村 昌太郎 飯田 三雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.370, 1996-02-26

中毒性巨大結腸は,重症の腸炎により腸管が弛緩性に拡張した状態で,通常,横行結腸に認められる.多くは重症の潰瘍性大腸炎に合併したもので,頻脈,発熱,低蛋白血症,電解質異常を伴っている.しばしば穿孔を来し,その場合,死亡率が高率で約50%に及ぶとも言われている.当初,Bockusら1)が“toxic aganglionic megacolon”という名称で記載したが,本症の発生機序として腸筋神経叢の障害以外にも,筋層の広範な破壊や抗コリン薬の使用などが関与する2)ことから,現在では“toxic megacolon”と呼んでいる.なお,原疾患は潰瘍性大腸炎に限定されず,Crohn病,偽膜性腸炎,感染性腸炎(サルモネラ,キャンピロバクター,Clostridium dtfficile,サイトメガロウイルス)でも起こりうる. X線学的には,背臥位での腹部単純写真が診断に有用であり,横行結腸の拡張(直径7~10cm以上)2)3)が特徴的である(Fig.1).拡張した腸管はhaustraが消失し,また潰瘍と炎症性ポリープのため,辺縁のぼけ像を伴う結節状の凹凸像として認められる.
著者
大津 健聖 平井 郁仁
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.670, 2017-05-24

定義 腸間膜静脈硬化症(mesenteric phlebosclerosis ; MP)は,1993年にIwashitaら1)が新しい疾患概念として提唱した.基本的な病態は,腸壁から腸間膜静脈における石灰化に伴う腸管循環不全による虚血と考えられており,右側結腸を中心に炎症反応を伴わない慢性虚血性変化とされている.近年,MPと漢方薬長期内服との関連性が報告されている.なかでも,漢方薬で頻用される生薬である山梔子は8割以上の症例で内服されており,強い関連が考えられる2).MPを疑う症例には,特に薬剤内服歴などの詳細な病歴聴取が必要である.
著者
渡邊 雅也 安川 洋生
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.61-64, 2018-12-01 (Released:2018-11-28)
参考文献数
6
被引用文献数
1

高等学校の生物では,ゲノムに突然変異が起きた結果塩基配列に永続的な変化が生じ,生物の形質が変わることを学習する.しかし,多くの細菌がファージからの感染に対し自己を防御するための機構であるCRISPR/Casシステムにより,ゲノムを能動的に変化させ生存してきたことについては学習しない.そこで本研究では,Flavobacterium psychrophilum(アユ冷水病菌)がCRISPR/Casシステムを有しているか,CRISPRのスペーサー配列(ファージ由来の配列)と一致するファージがヒットするかを,ゲノムデータベースを用いて解析した.また,ゲノムの能動的変化を学習する教材としてゲノムデータベースが適しているか検討した.
著者
小林 利行
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.52-72, 2019 (Released:2019-05-20)

本リポートでは、NHK放送文化研究所が国際比較調査グループ(ISSP)の一員として、2018年10月から11月にかけて実施した「宗教」に関する調査の日本の結果について、過去の調査結果との時系列比較を中心に報告する。結果を簡単にまとめると以下のようになる。①信仰している宗教の割合は変わらないものの、信仰心は薄くなり、神仏を拝む頻度は低くなっている。②日本人の伝統的な価値観だと捉えられてきた“お天道様がみている”“人知を超えた力の存在”“自然に宿る神”といった感覚を持つ人は少なくなっている。③宗教に「癒し」などの役割を期待する人は減少している。宗教に危険性を感じる人は、感じない人よりも多い。④各宗教徒別では、「イスラム教徒」への否定感が他の宗教徒に比べて高い。日本ではこれまで、宗教について深く考えたことのなかった人も多いと思われる。しかし、改正出入国管理法の施行(2019年4月)によって、外国人材の受け入れが進む中で事情が変わる可能性がある。異なる宗教観を持った人達との付き合いが増えれば、今まで以上に「日本人と宗教」について考えなければならないケースが出てくるかもしれない。
著者
桃木 至朗
出版者
京都大学東南アジア研究センター
雑誌
東南アジア研究 (ISSN:05638682)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.403-417, 1987

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。
著者
尾留川 方孝
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.100, pp.33-58, 2021-09-30

古代日本では国家の象徴の一つとして『日本書紀』にはじまる六つの歴史書が編纂されたが、『三代実録』を最後に編纂は頓挫する。しばしば『栄花物語』や『大鏡』などが、これらの後継もしくは代替のように扱われるが、本稿では、儀式書が六国史の後継もしくは代替の一つとして理解可能であることを論じる。現在および過去の了解や把握方法の一つとして歴史書を位置づけたうえで、六国史に見える儀礼の記事がしだいに増加するとともに、規範との異同に意識が払われるようになり、『類聚国史』で六国史を分解・分類し儀式書と同様の形式に再編されたことをたどる。歴史書が儀式書へと移行したとする解釈が可能であり、その根底には現在および過去の了解や把握方法の変化があることを示す。
著者
井坂 理穂
出版者
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
雑誌
アジア・アフリカ地域研究 = Asian and African area studies (ISSN:13462466)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.281-291, 2002-11

A central purpose of this research note is to examine the way in which recent studies of the Partition of India have begun to focus on people's experiences and perceptions of this event and, in particular, the massive violence that surrounded it. It shows how, in this process of reconsidering Partition, some historians have begun to criticise the existing history-writings based on the nationalist discourse, which analysed only political developments among parties and politicians. To understand this new approach to Partition, it is necessary to look at the development of South Asian historiography from the 1980s, and more especially, important debates presented by the scholars of the so-called subaltern studies group on the 'fragments', 'oppressed voice' and 'silence' in history-writings. Some of these scholars, in order to discover where 'silence' lies, began to explore how memory of events was constructed and reconstructed by different groups of people, by interviewing them and comparing their narratives with each other and with other narratives in official documents and history books. This method is adopted by scholars such as Gyanendra Pandey and Urvashi Butalia in their works on Partition and violence. Another source that has played an important role in drawing scholars' attention to popular perceptions of Partition and violence is a wide range of literary texts and films which depict this event. They have highlighted the hidden stories of violence and the 'silence' in official histories, and recently begun to attract increasing attention from historians. Here I introduce mainly Amitav Ghosh's novel The Shadow Lines (1988) as an example. Taking a hint from it, at the end of this paper I suggest a few important aspects of Partition that still need to be explored.
著者
山田 泰之 田中 健太郎
出版者
Japan Society of Coordination Chemistry
雑誌
Bulletin of Japan Society of Coordination Chemistry (ISSN:18826954)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.12-22, 2013-11-30 (Released:2014-03-20)
参考文献数
62
被引用文献数
1

In this review, we focus on the integrated assemblies of metal complexes and their functional emergence generated by the synergy effects of π-π stacking interaction and metal complexation. Programmable construction of integrated molecular assemblies is the best measure for bringing out the emergent functions which can be evolved from the intermolecular communications of functional molecular components. Combination of π-π stacking interaction and metal complexation allows not only to reinforce the mutual interactions but also to generate the emergent intermolecular communications. This review introduces the recent studies including the synergy effects on electrical, magnetic, catalytic and molecular recognition functions in soft, crystalline and single molecular materials.
著者
堀井 健司
出版者
日本出版学会
雑誌
出版研究 (ISSN:03853659)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.99-124, 2010

<p>江戸最末期,福澤諭吉の著作『西洋事情』は,日本に「コピライト」概念を紹介した.皮肉なことに,この『西洋事情』をはじめ福澤の前期著作には,偽版が多く出された.</p><p>本稿では,福澤諭吉『西洋事情』と,従来その偽版と位置づけられてきた黒田麴廬(行次郎)校正『増補和解 西洋事情』をとりあげ,その分析を通して福澤や黒田がもつ版権についての認識を浮き彫りにし,この時期の偽版,重版の意味を捉えるきっかけになればと思う.</p>
著者
三輪 英人
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.139-146, 2007-02-01

はじめに プラセボ(placebo)効果は,薬理学的に作用が期待できない偽薬にもかかわらず,何らかの臨床的効果が得られることを示す。一般には,良い治療効果が出現した場合に用いられるが,副作用としてみられる場合もある1)。偽薬によって副作用が出現する場合には,ノセボ(nocebo)効果とも呼ばれる。薬物以外の治療手段においてもプラセボという言葉は繁用されており,シャム手術に対してもプラセボ手術と呼称されている。 プラセボ(placebo)の語源はラテン語で,‘I shall please'(私は喜ばせるでしょう)を意味するとされている1)。このプラセボ効果は,歴史的観点からは,おそらくは近代的医学の発展前には治療効果の本質であった可能性すらあるのではないだろうか。現代の日常診療の中でさえ,実際の医学的治療におけるかなりの部分を占めている可能性が高い。しかし,プラセボを治療薬の1つとして位置づけ得るかに関しては,人道的見地からも,また客観的治療効果の面からも批判がある。Hrobjartssonら(2001)の論文2)は良く知られている。プラセボが使用された100編以上の臨床試験データをレビューした結果,痛み以外の症状を改善する十分な証拠は得られなかったと述べ,新薬開発のための臨床試験以外に治療手段としての偽薬を使用することを批判している。一方で,実地臨床の場において,プラセボ効果が特に顕著であると広く実感されている疾患がある。疼痛,抑うつ,パーキンソン病である3)。本稿では,パーキンソン病におけるプラセボ効果に焦点を当て,その効果が本質的に病態を改善しているらしい臨床的知見や,プラセボ効果とドパミンに関する基礎医学的研究成果などについて述べたい。