著者
熊田 一雄
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
no.3, pp.37-61, 1997-06-14

この論文は、宗教社会学と女性学の交点に関わる実証研究であり、研究対象は第IV期新宗教の代表格のひとつであるGLA系諸教団(「エルランティの光」)、研究テーマは日本的母性(文化的構築物としての母性)である。まず第1章では、女性の社会進出の潮流とともに、日本的母性が文化的構築物として問題化されるようになった経由を振り返る。第2章では、GLA系諸教団とは何かを、その教義上の大きな特色である科学宗教複合世界観と内向的現世離脱的宗教性を中心に説明する。第3章では、内観療法とは何かを、その宗教的起源・母子関係の重視・広範囲の応用を中心に説明する。第4章では、「エルランティの光」の大小セミナーにおける「母の反省」を、「当然視/美化→憎悪→感謝」と進める過程を中心に紹介する。第5章では、日本的母性の中の「愛情という名の支配」あるいは「共依存の病理」一般に対するこのグループの鋭敏な姿勢を見る。最後に第6章では、日本社会である程度まで進行しつつあるジェンダーレス化の潮流の中で、このグループがどのように位置づけられるかを分析する。
著者
李 炯哲 李 炯 喆
出版者
長崎県立大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:18838111)
巻号頁・発行日
no.11, pp.161-173, 2010

太平洋戦争の敗戦が必至となった1945年早春から降伏を決定した8月中旬までの終戦過程を無決定という観点から検証した。一撃講和,早期終戦,即時終戦へと和平派の判断が変わる中,抗戦派は本土決戦を固持して譲らなかった。その拮抗を終わらせたのが二度にわたる天皇の決断であったが,終戦が遅延したので日本は度重なる大災難に遭った。国家的犯罪とも言われる終戦決定の遅延の主因は,軍部の抵抗,対ソ和平交渉でソ連に翻弄されたこと,煩雑な会議過程と国体護持をめぐる観念的な論議などであるが,究極,軍民の首脳らが本土決戦を避けて天皇の決断に服従したのは幸いであった。しかし,国際法上の盲点に突かれて,終戦後も満州ではソ連軍の武力行使が続いたので,当地の日本軍民が新たなる悲劇に見舞われた。
著者
内山 智裕 Sruamsiri Pittaya Jarupanthu Chantaree 内山 智裕 スワムシリ ピタヤ ジャルパンツ チャンタレー
出版者
三重大学大学院生物資源学研究科
雑誌
三重大学大学院生物資源学研究科紀要
巻号頁・発行日
no.37, pp.19-30, 2011-02

タイは世界最大のパイナップル生産国であるが, 日本への生鮮パイナップルの輸出量は極めて小さい。本論では,タイ産生鮮パイナップルの対日輸出拡大の可能性を探るべく,消費者に対するアンケート調査およびパイナップル市場に関する統計と専門誌レビューによる整理分析を行った。その結果は以下の通りである。①消費者はタイ産「ベビーパイナップル」の食味を概ね評価しているが,価格評価は高くなく,売上拡大の可能性と課題を有している。②タイ産パイナップルの対日輸出を見ると,缶詰や果汁では支配的な地位を占めているが,缶詰の国内市場は縮小傾向にある。③データは不足しているものの生鮮パイナップル流通では一部の企業が寡占的な位置を確立しており,シェア拡大のためにはこれらの企業と提携が重要となることが明らかになった。2007年の日タイEPAの計画の1つは,農業の持続的発展および食の安全性確保に向けた協力の促進である。 企業間の連携だけでなく,共同研究による日タイ間の協力の推進も必要であるといえる。
著者
髙山 裕二
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.1_101-1_121, 2013 (Released:2016-07-01)
参考文献数
31

Modern secularization has not always reduced the power of religious discourse in the public sphere. In post-revolutionary France, for example, Catholicism was unquestionably in decline, but the French were disposed to seek a new religion to replace it. Socialism thus first emerged in France as a “social religion” meant to provide a religious basis for a new society. However, early socialist thinkers faced “Rousseau's Problem” regarding the tolerance of private religions by a social or civil religion. Among these thinkers, Pierre Leroux (1797-1871) dealt most explicitly with the problem of civil religion. Refuting the collectivist religion of Saint-Simonism that formed the core of French socialism, Leroux proposed a national religion guaranteeing individual liberties. In this paper, through an analysis of Leroux's articles and such books as Humanity (1840) and National Religion or Cult (1846), I examine the extent to which a social or civil religion can be considered compatible with individual liberties. My view is that most previous studies have taken insufficient notice of his conception of national religion. The paper concludes by arguing that Leroux's national religion was a form of civil religion that strove continuously to achieve a standard of universality or humanity.
著者
村上 寛
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.94, no.1, pp.27-48, 2020 (Released:2020-09-30)

カタリ派による著作『二原理の書』(Liber de duobus principiis)では、二元論及びその帰結としての自由意志の否定が主張されるが、天使の堕落を例証とするその論証は、無時間的な領域においてのみ成立する論証であって、時間的存在である人間に直ちに適用することが出来ないという意味で、そもそも論証に失敗している。その上で、カタリ派による意志理解を浮き彫りにするために、このような論理を時間的世界の人間に適用するなら、何らかの結果としての行為は善悪いずれかの原理によって与えられていた傾向性の実現であると理解することが出来る。すなわち、欲求やその抑制に関わる意志もいずれかの原理に由来するものであって自分自身に由来するものとは見做されず、善悪いずれかの傾向性の実現と見做されるのである。このことは、行為の原因となるのは外的な原理であり、意志とは関係なしに行為としての結果においてのみ善悪が判断されるというカタリ派的倫理観を示すものであると言えるだろう。
著者
Chihiro Inoue Ryo Nishiyama Yasuhiro Fujisaki Toshiaki Kitagawa
出版者
Japan Explosives Society
雑誌
Science and Technology of Energetic Materials (ISSN:13479466)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.121-127, 2020 (Released:2020-11-09)

A traditional Japanese sparkler, senko-hanabi, is consists of paper string wrapping 0.1 g of black powder. The sparkler requires heat production by combustion of contained charcoal with ambient oxygen, showing off beautiful sparks luminous by heat radiation. In the present study, the appearance of the sparks is investigated under various ambient conditions, in which the total pressure is from vacuum to 5.0 bar and the oxygen concentration rate is set up to 40 %. The sparkler is ignited by Joule heating inside a closed vessel. Profound effects are confirmed by the ambient conditions on the sparks. As the total pressure rises, sparks spread actively, because the boundary layer surrounding the fireball, created at the bottom end of the paper string, becomes thinner, and the amount of oxygen supply increases. The oxygen concentration rate directly contributes to the amount of oxygen supply. The criterion given by molar flux of oxygen supply to the fireball is identified as 10-1 mol · s-1 · m-2, rate-controlled by molecular diffusion through the boundary layer, for embodying fragile beauty over the centuries.
著者
関沢 まゆみ
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.178, pp.203-236, 2012-03-01

本稿は,近年の戦後民俗学の認識論批判を受けて,柳田國男が構想していた民俗学の基本であっ た民俗の変遷論への再注目から,柳田の提唱した比較研究法の活用の実践例を提出するものであ る。第一に,戦後の民俗学が民俗の変遷論を無視した点で柳田が構想した民俗学とは別の硬直化し たものとなったという岩本通弥の指摘の要点を再確認するとともに,第二に,岩本と福田アジオと の論争点の一つでもあった両墓制の分布をめぐる問題を明確化した。第三に,岩本が柳田の民俗の 変遷論への論及にとどまり,肝心の比較研究法の実践例を示すまでには至っていなかったのに対し て,本稿ではその柳田の比較研究法の実践例を,盆行事を例として具体的に提示し柳田の視点と方 法の有効性について論じた。その要点は以下のとおりである。(1)日本列島の広がりの上からみる と,先祖・新仏・餓鬼仏の三種類の霊魂の性格とそれらをまつる場所とを屋内外に明確に区別して まつるタイプ(第3 類型)が列島中央部の近畿地方に顕著にみられる,それらを区別しないで屋外 の棚などでまつるタイプ(第2 類型)が中国,四国,それに東海,関東などの中間地帯に多い,また, 区別せずにしかも墓地に行ってそこに棚を設けたり飲食するなどして死者や先祖の霊魂との交流を 行なうことを特徴とするタイプ(第1 類型)が東北,九州などの外縁部にみられる,という傾向性 を指摘できる。(2)第1 類型の習俗は,現代の民俗の分布の上からも古代の文献記録の情報からも, 古代の8 世紀から9 世紀の日本では各地に広くみられたことが推定できる。(3)第3 類型の習俗は, その後の京都を中心とする摂関貴族の觸穢思想の影響など霊魂観念の変遷と展開の結果生まれてき た新たな習俗と考えられる。(4)第3 類型と第2 類型の分布上の事実から,第3 類型の習俗に先行 して生じていたのが第2 類型の習俗であったと推定できる。(5)このように民俗情報を歴史情報と して読み解くための方法論の研磨によって,文献だけでは明らかにできない微細な生活文化の立体 的な変遷史を明らかにしていける可能性がある。
著者
新名 隆志
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.11-26, 2017

本論文では,2007年のN.フセインの論文に端を発する,ニーチェ思想の虚構主義的解釈をめぐる議論を概観し,この解釈の妥当性と問題点を検討する。現代メタ倫理学における(改革的)虚構主義とは,道徳は実在しない虚構であるが,それを有効なフィクションとして利用すべきだとする立場である。フセインは,この立場をニーチェに帰することによって,ニーチェ思想を整合的に理解できると主張する。 A.トーマスやB.レジンスターは,このフセインの解釈に対する代表的な批判者である。彼らの批判の検討によって,虚構主義的解釈の本質的問題点が,価値一般の虚構主義的解釈それ自体では,ニーチェが提唱する力への意志の価値の優位性や価値転換を説明できないという点にあることが明らかになる。 しかしレジンスターやフセインは,この問題点を克服し,虚構主義的解釈の枠組みの中で価値転換を理解しうる道をいくつか示唆しており,それらの中には一定の説得力をもち得るものがある。 結論として,虚構主義的解釈は,それ自体で力への意志や価値転換の意義そのものを説明することはできないとしても,ニーチェが推奨する価値のメタ倫理学的地位と,価値転換を生じさせる誘因について, ニーチェの価値思想全体を最も整合的に理解させてくれるような説明を与えることができると言える。
著者
須藤 義人
出版者
沖縄大学
雑誌
沖縄大学人文学部紀要 (ISSN:13458523)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.65-77, 2004-03-31
被引用文献数
2

近年、各メディアからの情報を主体的に判断し、発信伝達できる能力や情報モラルが若年層に求められている。メディアリテラシー教育としてのNIE実践授業は、<メディアを使いこなし、メディアの提供する情報を読み解く能力>を育む学習方法として有効である。沖縄尚学高等学校附属中学校の特設科目「情報基礎」では、スキル中心の情報教育ではなく、情報コンテンツを重視して、授業カリキュラムにデジタル的な作業(Web制作)にアナログ的な作業(新聞分析)を取り入れた。2003年度より適用された新高等学校指導要領では、高等学校の普通教科「情報」の目標を、小学校での<総合的な学習の時間>における情報分野の取り組み、中学校での技術・家庭「情報とコンピュータ」といった情報教育の取り組みと合わせた形で、(1)情報活用の実践力、(2)情報の科学的な理解、(3)情報社会に参画する態度、という三つの観点から養成することを掲げている。本教科「情報基礎」の学習領域は、高等学校の普通教科「情報C」の基礎部分にあたる。情報活用の能力のうち、今後重要視される能力は、活字メディアからの情報コンテンツの受容能力とデジタルメディアを使った表現能力であろう。そこで特設科目「情報基礎」では、メディアにおける情報発信者としての恣意性と情報受信者としての読み解く能力を多面的に理解させることを目標とした研究授業を展開した。NIE教育の新たなる展開として、実践の対象を、中等教育(中学校・高等学校)だけでなく高等教育(大学)にまで拡大することが望ましいと考える。
著者
平塚武二 著
出版者
講談社
巻号頁・発行日
1950

長編童話、無邪気なナンセンスを旨として書かれた物語。 (日本図書館協会)
著者
山本 孝治 中村 光江
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
pp.20180706031, (Released:2018-11-30)
参考文献数
24

本研究の目的は,青年期以前に発症した中年期のクローン病患者がこれまでどのように生活を再構築してきたのか,今後どのように病気とともに生活しようと考えているのかを明らかにすることである。中年期クローン病患者7名を対象とし,半構成的面接から得られたデータを質的に分析した。その結果,[再構築の契機となる経験][調子のよさを維持させる][体調コントロールの軸は自分][体調を優先させて生きる強さをもつ][自分の感覚が頼り][体得した自分流の工夫を生活に組み入れる][加齢や合併症出現による将来の生活の不安]の7つのカテゴリー,[乗り越えてきた喜びと自信][豊かに生きていく]の2つのコアとなるカテゴリーが抽出された。生活の再構築は繰り返され,病気や加齢による影響をふまえ,自分らしく豊かに生きていこうとするものであった。患者が自分流の工夫を実践し振り返りながら修正させ発展できるような支援が必要である。