著者
山末 英典
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
脳と精神の医学 (ISSN:09157328)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.287-294, 2009-12-25 (Released:2011-02-02)
参考文献数
16
被引用文献数
1

自閉症スペクトラム障害では対人交渉などの社会性の障害が中核をなし,全ての亜群において共通する症候である。近年技術的に進歩の著しいMRIを用いた研究が行われ,自閉症スペクトラム障害に関連した脳の機能的・形態的異常が報告されている。さらに健常ヒトでは,表情認知から他者の意図の理解に至るまで,対人交渉や社会性の基盤をなす脳神経回路も明らかにされつつあり,社会脳領域などと呼ばれている。われわれもMRIを用いた研究を行い,自閉症スペクトラム障害当事者における社会脳領域を中心とした脳形態異常とその遺伝背景,社会脳領域の男女差と社会性の男女差の関連と,その社会性の障害との関連について興味深い知見を得た。本稿では,これら近年の研究成果を示し今後の展望について述べた。
著者
野田 篤
出版者
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Geological Survey of Japan
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.131-140, 2017-06-05 (Released:2017-06-08)
参考文献数
22
被引用文献数
5 9

本稿は,U–Pb年代データの計算・可視化のために新しく開発したスクリプト(UPbplot.py)の使用方法と使用例及び数学的背景についての解説である.このスクリプトは,U–Pb年代値の1次元または2次元の加重平均,標準(Wetherill)及び Tera–Wasserburg コンコーディア図におけるコンコーディア年代・コンコーディア曲線とのインターセプト年代を求めるための関数を含んでおり,それらの計算結果やコンコーディア図・棒グラフ・ヒストグラムなどのグラフを出力することができる.
著者
宮澤 菜那
出版者
富山大学比較文学会
雑誌
富大比較文学
巻号頁・発行日
vol.9, pp.172-199, 2017-03-10

森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』は、『小説 野生時代』(角川書店)に、「夜は短し歩けよ乙女」(二〇〇五年九月)、「深海魚たち」(二〇〇六年三月)、「御都合主義者かく語りき」(二〇〇六年十月)、「魔風邪恋風邪」(二〇〇六年十一月)の全四回の連載を経て、二〇〇六年十一月に刊行された長編小説である。この作品は、二〇〇七年四月に本屋大賞第二位に選ばれ、同年五月に第二十回山本周五郎賞を受賞、そして七月に第一三七回直木賞候補作に選ばれるなど、世間から注目を集めた、森見登美彦の出世作と言っていい作品でもある。『夜は短し歩けよ乙女』は現代風の大学生の恋愛模様を軸に展開され、破天荒な人物たちが数多く登場し、奇怪な出来事が次々と起こる、一見すると荒唐無稽な物語である。しかしながら、森見登美彦独特の文体によって綴られる物語は破綻することなく、一定の調和を保ちながら成立している。読み手をその世界に引きずり込んでいくような不思議な力があり、そこが魅力の作品である。この作品には、第二章「深海魚たち」において重要なアイテムとして登場する『ラ・タ・タ・タム――ちいさな機関車のふしぎな物語』をはじめとして、合わせて三十以上もの文学作品が固有名詞として用いられている。また、固有名詞として登場しているだけでなく、他作品の台詞の引用なども多く見られる。本稿では、こうしたプレテクストに着目し、森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』について考察していく。
著者
加藤 顕 石井 弘明 榎木 勉 大澤 晃 小林 達明 梅木 清 佐々木 剛 松英 恵吾
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.96, no.3, pp.168-181, 2014-06-01 (Released:2014-09-17)
参考文献数
176
被引用文献数
10 5

近年のレーザーリモートセンシング技術(LiDAR)の発展により,近距離レーザーを用いた森林構造の詳細なデータを迅速かつ正確に取得できるようになった。これまでは航空機レーザーによる研究が圧倒的に多かったが,地上・車載型の近距離レーザーセンサーが身近に利用可能となり,森林構造計測に利用され始めている。航空機レーザーデータから林分レベルでの平均樹高,単木の梢端,樹冠範囲,樹冠単位での単木判別,成層構造,経年的樹高成長を把握できる。一方,地上レーザーを用いることで,幹を主体とした現存量や正確な立木密度が把握できるようになった。これまで手が届かなく測定不可能であった樹冠を森林の内部から測定でき,人的測定誤差の少ない客観的なデータを取得できる。レーザーデータは森林の光・水環境の推定,森林動態の予測,森林保全などといった生態学的研究に応用されてきた。今後は,生理機能の定量化,森林動態の広域・長期モニタリング,森林保全における環境評価手法など,様々な分野での利用拡大が期待される。樹木の形状や林分の現存量を正確に計測できるだけでなく,様々な生態現象を数値的に把握できるようになることを大いに期待したい。
著者
矢野 三郎
出版者
一般社団法人 国立医療学会
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.241-245, 1992-04-20 (Released:2011-10-19)
参考文献数
22

甘草は二千数百年前から東洋においても西洋においても広く用いられている生薬である. 甘味があるので各種の食品にも広範囲に含まれている. 1946年, この甘草に副腎皮質ホルモン様作用のあることが明らかになり, その作用機序について研究が進められてきた. 有効成分, グリチルリチンによるステロイド代謝阻害説やレセプター結合説が唱えられていたが, 最近, グリチルレチン酸による11β-hydroxy-steroiddehydrogenase阻害が明らかにされた. 私どもはグリチルリチン投与に基づく偽アルドステロン症患者に布いて血中に3-モノグルクロニル・グリチルレチン酸という新抱合体を発見したが, これも同酵素を阻害することを明らかにした.
著者
北島 晴美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2016年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100158, 2016 (Released:2016-11-09)

1.はじめに発表者は,心疾患,脳血管疾患,肺炎,老衰の死亡数・死亡率の季節変化について報告している(北島・太田,2009a, 2009b,2011, 2012a, 2012bなど)。全死亡数の3割弱を占め,死因第1位の悪性新生物による死亡数は,季節変動しないが,第2位~第5位の死因(心疾患,肺炎,脳血管疾患,老衰)による死亡数は,いずれも冬季に多く夏季に少ない傾向を示す。冬季の気温は上昇し,住居の暖房が完備し,気密性が向上し,居住環境は好転しているが,最近でも死亡数の冬山は消滅しない状況である。死亡数の多くは高齢者であり,高齢者には季節の推移による気温変化が,依然として寿命を左右する要因といえよう。2009年以降の最新のデータにより,主要死因(悪性新生物,心疾患,肺炎,脳血管疾患,老衰)別に,毎年の月別死亡率の季節変化傾向と,死亡率の経年的変動について,分析した。 2.研究方法使用した死亡数データは,人口動態統計(確定数)(厚生労働省)である。死亡数が多い75~84歳85~94歳,95歳以上の3年齢階級を対象とし,季節変化を見るために,死因別,年齢階級別,月別死亡率(全国,総数)を算出した。北島・太田(2011)と同様に,各月死亡率は,1日当り,人口10万人対として算出した。人口は各年10月1日現在推計人口(日本人人口)(総務省統計局)を使用した。 3.主要死因別死亡率の季節変化と推移(1) 悪性新生物(図1)3年齢階級とも,他の死因のような明瞭な季節変化は見られないが,84~95歳の死亡率は,図1のように,わずかに夏低く11・12月に高い傾向がある。75~84歳の死亡率は2009年から2014年にかけて,低下傾向がみられる月が多い。  (2) 心疾患(図2)3年齢階級とも死亡率は冬季に高く,夏季に低い傾向がある。75~84歳,85~94歳の死亡率は,2009年から2014年にかけて,多くの月で低下傾向がみられる。  (3) 肺炎,脳血管疾患肺炎,脳血管疾患の死亡率は心疾患よりも低いが,季節変化,経年変化とも心疾患死亡率と類似傾向である。  (4) 老衰3年齢階級とも死亡率は冬季に高く夏季に低い傾向がある。3年齢階級の死亡率は,2009年から2014年にかけて,全月で上昇傾向がみられ,他の主要死因とは対照的である。 4.各月気温と死亡率の関係2009~2014年の日本の月平均気温偏差(気象庁)が特徴的な年・月(高温,低温)について,全国の死亡率のほか,都道府県別死亡数デーを確認した。
著者
野谷 あやめ 森本 祥一
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会 全国研究発表大会要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp.140-143, 2015

日本の芸能産業は,『アイドル』と呼ばれる歌手や役者,タレント,モデルなどが席巻しており,独特な市場を構成している.これらのアイドルが所属している事務所の経営は,熱狂的なファンによって支えられているが,行き過ぎたファンが事件を起こすこともあり,そのマネジメントが課題となっている.よって本研究では,多くのファンを魅了し,芸能界に強い影響力を持つジャニーズ事務所をケースとして,アイドルとファンの関係を,事務所経営の視点からコミュニケーション手段ごとにリレーションシップ・マーケティングに基づいて分析し,理想的な関係について考察した.
著者
平松 隆円
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学教育学部学会紀要 (ISSN:13474782)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.107-112, 2009-03-14
被引用文献数
1

This study was focused on the every day feeling adjustment with makeup. The purpose of this study was clarified whether manicure had as influenced to be desirable for feeling adjustment. The analytical subject was 40 female university students (M=19.68years old, SD=2.03). The index used Profile of Mood States(POMS). After using manicure, "Tension-Anxiety score","Depression -Dejection score","Anger-Hostility score", "Fatigue score","Confusion score" decreased significantly of Profile of Mood States(POMS) and "Vigor score" increased significantly of Profile of Mood Sates(POMS). The result of this study indicated a fact it is possible to give positive feeling adjustment affects on female university students through the using manicure. 本研究の目的は,化粧の日常的な感情調整作用に注目し,女子学生40名(平均年齢=19.68歳,SD=2.03)を対象に,マニキュアのもたらす感情調整作用について検討することである. マニキュア使用前後の感情の変化をProfile of Mood states(POMS)によって測定したところ,マニキュアの使用にともない,「緊張-不安」「抑うつ-落ち込み」「怒り-敵意」「疲労」「混乱」が有意に低下し,「活気」が有意に上昇することが明らかとなった. 本研究の結果から,マニキュアの使用はリラクセーションに有用であると考えられた.
著者
藤城 幹山 坪井 良治 大久保 ゆかり
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.125, no.9, pp.1775-1782, 2015-08-20 (Released:2015-08-20)
参考文献数
21

2010年から2012年までの3年間に当科を初診で受診した掌蹠膿疱症患者111例を統計的に検討した.結果は,男性38例,女性73例,平均発症年齢44歳,喫煙率62%,爪病変31%,骨関節症状45%,金属アレルギー14%であった.統計的に検定を行ったところ,骨関節症状は爪病変,金属アレルギーの既往,50歳未満での発症と合併率が有意に高かった.患者背景と治療効果の関係では,喫煙を継続している群,爪病変がある群,金属アレルギーの既往がある群,40歳代および40歳以上で発症した群では治療効果が有意に低いことが示された.
著者
山本 洋子 橋本 明彦 冨樫 きょう子 高塚 純子 伊藤 明子 志村 英樹 伊藤 雅章
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.111, no.5, pp.821-826, 2001-04-20 (Released:2014-12-27)
被引用文献数
1

掌蹠膿疱症における歯性病巣治療の有効性を調べるために,新潟大学医学部附属病院皮膚科で掌蹠膿疱症と診断した60症例について検討した.本学歯学部附属病院第二補綴科で歯性病巣を検索したところ,54例に慢性根尖病巣または慢性辺縁性歯周炎を認め,歯科治療を開始した.皮疹の経過観察を行い,「治癒」,「著明改善」,「改善」,「軽度改善」,「不変」,「悪化」の6群に分類し,「改善」以上の皮疹の軽快を認めた症例を有効群とした.口腔内アレルゲン金属除去ないし扁桃摘出術を行った症例を除いた31例について,歯性病巣治療の有効性を検討した.有効率は,歯性病巣治療終了群では70.6%,歯性病巣治療途中群では57.1%,両者を合わせた「歯性病巣治療群」では64.5%であり,無治療群の14.3%に比べて有意に有効率が高かった.有効群では歯性病巣治療開始後比較的早期に治療効果を認めること,罹病期間が長期でも治療効果が速やかに現れる症例があることより,歯性病巣は掌蹠膿疱症の主要な発症因子の1つであると考えた.本症では,従来のような扁桃炎などの耳鼻咽候科的な感染病巣および歯科金属アレルギーの検索とともに,自覚症状の有無に関わらず歯性病巣の検索も行い,個々の患者ごとに適切な治療方針を決定することが重要である.
著者
足立 厚子
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.128, no.3, pp.407-412, 2018-03-20 (Released:2018-03-20)
参考文献数
14

金属アレルギーには皮膚に直接接触して起こす金属接触アレルギーと,食品や歯科金属に含まれた微量金属が体内に吸収されて発症する全身型金属アレルギーとがある.全身型金属アレルギーの最も多い病型である汗疱状湿疹は,ニッケル,コバルト,クロムのパッチテストが陽性を示すことが多く,チョコレートや豆などの金属の多い食品を制限することにより軽快することがある.ただしこれらの金属は人体にとって必須金属でもあるため,厳格すぎる除去食は避けるべきである.
著者
西村 香織 塚崎 直子 片山 一朗 中村 茂 小池 マリ 藤井 弘之
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.113, no.2, pp.159-163, 2003-02-20 (Released:2014-12-13)

我々は1984年から1999年の16年間に当科を受診した皮膚疾患を有する金属パッチテスト陽性患者51症例について,歯科金属と皮膚疾患の関連について調査を行った.皮膚疾患は掌蹠膿疱症が18例と最多であった.可能な症例については歯科金属の成分同定を行い,原因と考えられた金属を除去し皮膚症状の改善効果があるか否かを検討した.合併症(病巣感染)を持つ症例については,それらの治療効果も検討した.金属除去が有効と思われた症例は全体の50%だったが,パッチテスト陽性金属を除去した症例に限れば67%であった.