著者
沢井 勝三 椎野 瑞穂 木村 明彦 五味 敏昭 橋本 長 岸 清
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.271-280, 1991-09-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

刺鍼の深さとその周囲の臓器の位置関係を調べるために, 足の太陽膀胱経を基準にした人体横断標本を作成して, 体表から何mmでどの組織, 器官に鍼先が達するかを検索した。今回は, 大椎穴 (督脈) から厥陰兪穴 (足の太陽膀胱経) までの5横断面について検索した。大椎穴を基準とした横断面では, 体表より鍼を刺入させると皮膚を7.5mmで貫き, 皮下組織を28.5mmで貫いて第7頸椎棘突起に鍼先が達する。体表より第7頸椎棘突起まで36mmを計測できた。大杼穴では, 皮膚を6mmで貫き, 皮下組織を8mmで貫き, 僧帽筋を5.5mmで貫き, 菱形筋を10mmで貫き, さらに固有背筋群を14mmで貫いて第2肋骨に鍼先が達する。体表より第2肋骨まで43.5mmを計測できた。風門穴では, 皮膚を7mmで貫き, 皮下組織を5mmで貫き, 僧帽筋を3.5mmで貫き, 菱形筋を4mmで貫き, さらに固有背筋群を18.5mmで貫いて第3肋骨に鍼先が達する。体表より第3肋骨まで38mmを計測できた。肺兪穴では, 皮膚を6mmで貫き, 皮下組織を4mmで貫き, 僧帽筋を3mmで貫き, さらに固有背筋群を22mmで貫いて第4肋骨に鍼先が達する。体表より第4肋骨まで35mmを計測できた。厥陰兪穴では, 皮膚を5mmで貫き, 皮下組織を3mmで貫き, 僧帽筋を4mm貫き, さらに固有背筋群を21mmで貫いて第5肋骨に鍼先が達する。体表より第5肋骨まで33mmを計測できた。以上の結果を鍼灸医学臨床における深さの立場から考察した。
著者
河本 洋一
出版者
日本音楽表現学会
雑誌
音楽表現学 (ISSN:13489038)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.33-52, 2019

<p> 人間の音声を駆使した "ヒューマンビートボックス" という新たな音楽表現は日進月歩の発展をみせており、海外では愛好者のコミュニティや研究者らの間で、活発な議論が展開されている。一方、日本では技術面への関心は高いものの、 概念形成に関する議論は不足しており、その拠り所となる日本語の資料が必要であった。</p><p> そこで本稿は、世界最大の愛好者コミュニティの様々な論考や世界初の解説書などが示す内容に、国内外の "ビートボクサー" と呼ばれる演奏者らへの聞き取り調査の結果を加え、ヒューマンビートボックスの歴史的背景や音楽表現としての様々な特徴や可能性を整理した。その結果、日本におけるヒューマンビートボックスの捉え方と世界的な流れにはずれがあったことや、ビートボクサーAfra(本名:藤岡章)が世界と日本との架け橋となり、日本におけるこの音楽表現の発展に大きく貢献したことなどが明らかとなった。</p>
著者
福西 隆弘
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.85-99, 2021-06-29 (Released:2021-06-29)
参考文献数
12

筆者らは2019年よりアジスアベバで職業訓練校を修了した若者の追跡調査を実施しているが、2020年11月に追加調査を行い、新型コロナウイルスの感染拡大の前後における雇用と収入の変化を分析した。調査時点で、雇用率にはパンデミック前と比べて大きな変化はみられなかった。また、被雇用労働者の実質賃金は低下したが、変化は物価上昇率よりも小さく、平均的には名目賃金が維持されていた。非常事態宣言は企業が労働者を解雇することを禁止していたが、上記の結果は宣言が終了して2カ月後に観察されているので、雇用の維持は企業の自主的な判断と考えられる。個人自営業者(self-employment)において廃業は増えていないが、自営業から得た所得(実質額)の減少率は20%を超えており、とくに運輸業や製造業で減少が大きかった。また、女性の実質賃金は約17%減少し、もともと顕著であった収入格差が拡大している。平均的な労働者よりも学歴の高い訓練校卒業生の間では、雇用への影響が小さいことがうかがわれるが、彼らの中でも脆弱な労働者への影響が大きいことが示されている。
著者
小林 正史 久世 建二 北野 博司
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.10, no.16, pp.45-69, 2003-10-20 (Released:2009-02-16)
参考文献数
24

一連の野焼き実験と土器作り民族誌の比較研究により焼成浪跡の形成過程を解明し、それをもとに弥生土器の黒斑を観察した。その結果、野焼き方法について以下の点が明らかになった。1.弥生土器の覆い型野焼きは、(1)主熱源の薪を地面全体に敷かず、土器の周囲のみに並べる、(2)土器の内面に薪を差し入れない、(3)弥生中・後期では側面・上面・接地面付近に薪を置かない、などの点で薪燃料節約型といえる。ただし、弥生早・前期土器やそのルーツである韓国無文土器は、弥生中・後期土器よりも薪燃料を多用する。2.薪燃料節約型の覆い型野焼きでは地面側の火回りを良くするために、「横倒しにした時の接地面積が大きい土器ほど、支えなどを用いて立ち気味に置く」という工夫をしている。一方、(1)球胴に近いため横倒しに置いても下側の火回りが十分確保できる土器、(2)台付き土器(高杯を含む)、(3)側面・上面・接地面付近に多くの薪燃料が置かれる土器(弥生早・前期や箱清水式)、では支えを用いず横倒しか「やや立ち気味」に置かれる。3.弥生早・前期土器は、弥生中・後期土器に比べて、(1)側面・上面や接地面付近により多くの薪を置く点で薪燃料多用志向である、(2)接地面付近により多くの薪が置かれるため、甕では「横倒し」に置かれる頻度がより高い、(3)甕は口の開きが大きいため、口縁に薪を立て掛ける頻度が低い、という特徴を示す。これらの特徴は韓国の中期無文土器と共通することから、弥生早・前期から中・後期へと弥生土器の独自性が強まるといえる。4.弥生時代になると東北地方を除いて開放型から覆い型に野焼き方法が変化した理由として(1)集落立地の変化に伴い薪燃料が貴重になった、(2)彩色手法が「黒色(褐色)化した器面に焼成後赤彩する方法」から「均等で良好な火回りが必要なスリップ赤彩」に変化した、(3)縄文から弥生へと素地の砂含有量が少ない貯蔵用・盛りつけ用土器の比率が増加した、の3点があげられる。これら3点は各々、(1)薪燃料節約型である、(2)イネ科草燃料の覆いのため火回りが均等で良好である、(3)覆いの密閉度(イネ科草燃料の上にかける被覆材の種類と関連)を調整することにより昇温速度と焼成時間を自由にコントロールできる、という弥生土器の覆い型野焼きの特徴と対応している。
著者
小島 俊彰 小林 正史 久世 建二
出版者
金沢美術工芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

以下の点で「野焼き方法は土器の形、大きさ、作りに応じた工夫が施されている」ことが明らかにされた。(1) 弥生時代の甕棺の野焼き方法: 縄文・弥生時代において最も大型であり、高度な製作技術が要求される甕棺について、福岡県小郡市の津古空前遺跡(弥生中期前半)と横隈狐塚遺跡(中期中葉〜後半)の黒斑を詳細に観察し、2回の野焼き実験を行った結果、前者では丸太を芯にした粘土円柱の支え棒を用いて野焼き時に土器を斜めに立ち上げて設置していたのに対し、後者では横倒しに設置するように変化したことが明らかにされた。この変化の理由として、「円筒形に近い形の前者では内面下部まで燃焼ガスがゆき渡るように角度を付けて土器を設置したのに対し、寸胴形に変化した後者ではその必要がなくなったため、簡便な横倒しの設置になった」という仮説が提示された。(2) 弥生時代の赤塗土器の野焼き方法: 赤塗土器が最も盛行する北部九州の弥生中期土器と長野地方の弥生後期土器(松原遺跡)の黒斑を観察した結果、1)弥生時代の赤塗土器は黒斑が少ない、2)松原遺跡では、赤塗土器の盛行に伴い土器を横倒しにし、薪燃料を多用する(側面と上部に薪を立てかける、その上を草燃料で覆う)号焼き宣法に変化する、3)縄文時代の赤塗は全て焼成後なのに対し、弥生時代の赤塗は全て焼成前に施されるようになる、などの点が明らかにされた。そして、電気窯による赤塗粘土板の焼成実験により、1)薪を多用するのは赤塗の定着度を高めるためである、2)赤塗土器に黒斑が少ないのは、ベンガラのために炭素が酸化しやすいためである、3)弥生時代の焼式前赤塗は、野焼き時に黒斑を付けないで焼くことが可能な「覆い形野焼き」に対応したものである、の3点が示された。(3) 縄文土器の野焼き方法: 4回の野焼き実験と東北地方の縄文土器(前・中期の三内丸山・板留(2)・滝の沢遺跡、および縄文晩期の九年橋遺跡)の黒斑を観察し、「内面に薪を入れて直立した状態で野焼きし、底部を加熱するため後半段階で横倒しにする」という野焼き方法を明らかにした。外面黒色化(褐色化)手法が縄文時代に盛行するが弥生時代にはほぼ消失する理由として、「一度全体を明色に焼き上げた後に、有機物を掛けて炭素を吸着させる黒色土器は、上述の開放型野焼きには適するが、弥生時代の覆い型野焼きには適さない」ことを明らかにした。
著者
三浦 太郎
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.67-80, 2001-11-30

戦後, ドイツの西側地域では再教育理念と米民主主義の普及という考えを背景に, 各地に情報センターが設立される。これらは「アメリカ・ハウス」と呼ばれ, 1945年7月にフランクフルト郊外に読書室が開室されたことに始まり, 1947年までに17館, 1953年までに47館を数えた。占領期当初, 軍政府(OMGUS)内部における関心は低かったが, 冷戦の深化とともに1948年にスミス・ムント法が制定され, 翌年に西ドイツが建国されると, アメリカ・ハウスは米国文化を伝える窓口として米国務省の情報プログラムに確固とした位置づけを得るに至った。米国のコミュニティ図書館をモデルに, アメリカ・ハウスでは蔵書の貸出をはじめ講演会の開催や映画上映など, 多様な文化的サービスが展開された。占領下のドイツで米国は日本の場合ほど図書館政策に対する改革の意思を持っておらず, 米国文化の紹介が主眼に据えられた。
著者
Hiroki ITO Akira MIURA Yosuke GOTO Yoshikazu MIZUGUCHI Chikako MORIYOSHI Yoshihiro KUROIWA Nataly Carolina ROSERO-NAVARRO Kiyoharu TADANAGA
出版者
The Ceramic Society of Japan
雑誌
Journal of the Ceramic Society of Japan (ISSN:18820743)
巻号頁・発行日
vol.129, no.5, pp.249-253, 2021-05-01 (Released:2021-05-01)
参考文献数
38
被引用文献数
1

The magnetic and electronic properties of CeOInS2 and their influence on phase transition were analyzed in this study. High-temperature XRD measurements of CeOInS2 revealed that orthorhombic CeOInS2 transformed into tetragonal CeOInS2 at a high temperature of 636 K. The transport properties of CeOInS2 showed semiconducting behavior, with a larger temperature dependence of electronic resistivity in the tetragonal phase compared to that in the orthorhombic phase. Unlike structurally similar Ce(O,F)BiS2 superconductors that show long-range magnetic ordering, CeOInS2 neither exhibited superconductive transition nor long-range magnetic ordering at temperatures between 2 and 300 K.
著者
鳥居本 幸代
出版者
日本風俗史学会
雑誌
風俗 (ISSN:02869802)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.p1-12, 1986-06
著者
井上 優
出版者
ココ出版
雑誌
一橋日本語教育研究
巻号頁・発行日
no.3, pp.1-12, 2015-03-28

この文章では次のことを述べる。①言語の対照研究は,言語研究の一分野ではなく,言語を研究する際のスタイル・立ち位置である。②他の言語と比べて考えることは,対照研究だけでなく,個別言語研究においても重要である。③日本語研究の立場から対照研究をおこなうことは,日本語研究者の役割の一つである。④おもしろい対照研究にするためには,「何が問題の本質か」を常に考えながら研究をおこなうこと,そして,ふだんから異なる言語の研究者と直接話をしながら研究をおこなうことが重要である。⑤言語を比べて考えることは言語について分析的に考えるセンスを磨くのに役立つが,学生(特に留学生)が対照研究を研究テーマにするのがよいかどうかは,それとは別に考える必要がある。
著者
尾本 恵市
出版者
一班社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (ISSN:09187960)
巻号頁・発行日
vol.103, no.5, pp.415-427, 1995 (Released:2008-02-26)
参考文献数
47

この総説は, 日本人の起源の問題について, 分子人類学の立場から, 何が, どこまでいえるのかを紹介し, 今後の総合的な日本人研究への一助とする目的で書かれた。検討のための土台として, 埴原の「二重構造モデル」が用いられた。このモデルを, (1)「原日本人」は東南アジア起源である, (2) 現代日本人の諸集団の形成には、「原日本人」と北東アジア系の渡来人という主として2つの系統を異にする集団が関わっている, との2つの部分仮説にわけ, それぞれを個別に検討した。分子人類学的に重要な資料としては, 古人骨のミトコンドリアDNAの塩基配列 (宝来ら) と古典的遺伝標識の遺伝子頻度を用いた多変量解析 (根井, および筆者ら) などがある。前者は, 原日本人の南方起源説にとり有利な資料を, また, 後者は, 反対に, 原日本人の北方起源説を支持する資料を提供している。また, 埴原のいう「二重構造」の存在についても, 意見がわかれている。このような不一致点をどのように説明するかが, 大きな問題である。本論文で筆者は, 問題点の所在を明らかにすると共に, 将来の検討に対する資料として, いくつかの提案をした。
著者
Ryota Ishiyama Hiroshi L. Tanaka
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
SOLA (ISSN:13496476)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.120-124, 2021 (Released:2021-06-26)
参考文献数
23
被引用文献数
1

In this study, we conducted a domain-integrated vorticity budget analysis to quantitatively understand the developing mechanism of the Arctic Cyclone (AC) in August 2016 (AC16). The results showed that the vorticity enhancement of the AC16 was dominated by the horizontal flux convergence of vorticity at all layers with a maximum near the tropopause. The enhancement near the tropopause was characterized not only by the horizontal supply but also by the vertical transport of vorticity. In the boundary layer within the AC16, the convergence of horizontal winds and the corresponding divergence of vertical winds occurred. In addition, during the merging process, updrafts were dominant in the troposphere due to the structure of the mid-latitude cyclone. These structures caused the upward transport of vorticity to the tropopause, which is considered as an important internal process of the AC16. However, time-averaged vorticity budget during the developing stage indicated that the vertical flux term and the divergence term compensate with each other. As a result, it was concluded that the AC is excited and maintained by the merging of the vortices associated with the migrating mid-latitude cyclone and polar vortex.