著者
谷岡 武雄
出版者
史学研究会 (京都大学文学部内)
雑誌
史林 = THE SHIRIN or the JOURNAL OF HISTORY (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.203-233, 1966-03-01

遠江国松尾神社領池田荘に関する嘉応三年の立券状は、散居景観の起源を知るうえできわめて重要なものである。このことはすでに故藤田元春博士によって指摘された。ここは天龍川下流の乱流地域に属し、しばしばはんらんを受けたため、居住の連続性を立証することは容易でなく、また関係史料もほとんど消失して、過去の景観を復原することは非常にむずかしい。われわれは最近の数年間文書の検討にとどまらず、空中写具の解読、種々なる計測を含むフィールド・サーヴェーを続けて、荘域の推定、地形環境と居住景観の復原に努めてきた。ここにひとまず従来の成果をまとめて報告し、今後の研究の発展に資したいと思う。この池田荘域は、天龍川の沖積作用がいまなお進行中の平野を占め、そこは北高南低、西高東低の沈降性ブロックをなし、河川が乱流して網状の流跡が著しく、本流の変化もしはしは行なわれたところてある。そういうなかに、旧中洲・自然堤防群が微高地をなしている。現在の大甕(おおみか)神社あたりを本拠地とした池田荘は、かかる微高地をまず開発の対象となし、したいに流跡やバックマーシュのごとき低地に進出して行ったものと思われる。遠隔地荘園の領有体制において、『在家』としてその末端組織を支えたのは、かかる微高地を疎状に占居した社会集団のリーダー格のものである。しかしそれは、最大といえども一反の屋敷地をもつにとどまり、東北の辺境のごとく、支配力が強くて多数をその下に隷属させたタイプとは考えられない。池田壮では在家を中心に疎状に集まり、小村(ワイラー)もしくは小規模な疎集村形態(ロツケレス・ハウヘンドルフ)をとり、数戸のほぼ同族から成る集団が、微高地を占居して集落の単位を構成していたものと思われる。これが畿内・その周辺と辺境との漸移地帯における在家集落の一つの特色ではなかろうか。The document registered in the 3rd year of Kaô 嘉応 (1171) about the Ikeda 池田 manor, under the rule of the Matsuo 松尾 Shrine, in the Tôtômi 遠江 province, was very important to know the origin of the dispersed settlements in Japan, as already pointed out by the late Dr. M. Fujita; but as this manor was situated on the flood plain in the lower part of the Tenryu 天龍 river, and suffered from frequent inundation, it is difficult to prove the succession of settlement, and to reconstitute exactly the past landscapes with very few related sources. These several years, through the examination of documents, the interpretation of aerial photographs and the field-survey, we have tried to make elear the limit of the manor and to reconstitute the old physical environment and the medieval settlement. This paper is a report of our latest result. The area is situated on the plain under the alluvial action, forming a subsidence block, high in the north and west and low in the south and east, having the remarkable netted traces of abandoned channels made with frequent variation of the main current; in which the old central sandbanks and natural levees formed a lower highlands. The development of the Ikeda manor is thought to be a result of cultivating at first this lower highlands and then advancing into the lowlands such as current trace and back marsh. Those who maintained the terminal organ as 'Zaike 在家' in the ruling system of a remote manor, were the leader class of the social groups which occupied separately the lower highlands; but 'Zaike' organized only a small community, not ruling many serves of his own with his strong power like in the other remote land of medieval Japan. In the Ikeda manor people seemed to live separately around the Zaike, forming a hamlet or a small scale of the thinly housed village as a unit which consisted of several families of almost the same origin occupying the lower highlands.
著者
岡本 学 三好 正人 片岡 章俊 岩宮 眞一郎
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. EA, 応用音響 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.105, no.403, pp.25-30, 2005-11-10
参考文献数
7
被引用文献数
1

耳周辺軟骨に可聴帯域信号で振幅変調をした超音波振動を加えると, 可聴帯域信号を受聴することができる.著者らはこれまでこの現象を利用した超音波ヘッドホンの検討を行ってきている.超音波ヘッドホンは超音波振動の伝達過程で, 非線型効果により可聴振動が発生することにより受聴できるが, 低域の振動を効率よく再生することが困難である.一方通常の可聴帯域振動で直接頭部等を加振する骨伝導イヤホンは高域を振動させる場合, 振動素子から空気中に音波が放射されやすい.本稿では耳穴を塞がず外部に音漏れが少ない頭部接触型のヘッドホンを実現するために超音波ヘッドホンと可聴骨伝導イヤホン素子を組み合わせたヘッドホンを提案し, その構成法, 特性について報告する.
著者
中村 加枝 林 和子 中尾 和子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.149, no.1, pp.40-43, 2017 (Released:2017-01-01)
参考文献数
9

セロトニンは,ドパミンと並んで我々の精神機能を支えている重要なモノアミン系神経伝達物質である.しかし,その具体的な機能,特に報酬と罰のいずれの情報処理を担っているのかさえ不明であった.行動課題を行っている動物の脳から個々の神経細胞の発火パターンを記録する単一神経細胞外記録は豊富な情報をもたらす.そこで我々は,報酬獲得行動および古典的条件付け課題を行っているマカクサルにおいて,セロトニン細胞が多く分布する背側縫線核の単一神経細胞の発火を記録した.報酬を期待して行う眼球運動課題においては,背側縫線核細胞は,課題の遂行中その時々の期待される報酬価値を刻一刻と持続的に表現していることがわかった.さらに,嫌悪刺激情報処理への関与を明らかにするため,報酬および嫌悪刺激が与えられる古典的条件付け課題における背側縫線核細胞の神経活動を記録した.その結果,持続的・短期間両方の発火パターンが観察された.持続的な反応で,まず,「罰が与えられるかもしれない」情動的なコンテキストを表現していた.さらに,条件刺激への反応など短期的な反応は,ドパミン細胞と同様,報酬の確率や予測の程度に従って変化したが,罰についてはそのような反応の変化は稀であった.以上より,背側縫線核細胞は,持続的な情動の区別と,異なる情動下での報酬獲得行動の制御に必要なイベントの価値情報の表現の両方に関与していると考えられた.

3 0 0 0 OA 鉄蹄夜話

著者
由上治三郎 著
出版者
敬文館
巻号頁・発行日
1911
著者
児玉 忠
出版者
宮城教育大学教職大学院
雑誌
宮城教育大学教職大学院紀要 = Bulletin of Miyagi University of Education Graduate School for Teacher Training
巻号頁・発行日
no.2, pp.3-10, 2021-03-31

全国学力・学習状況調査における「テキスト」と「情報」とに着目し、それが「PISA 型読解力」のどのような影響下にあるかを検討した。その結果、「PISA型読解力」は教材テキスト概念や読解力の概念を拡張させる点に影響を与えていることが確認できた。 まず「教材テキスト概念の拡張」についてである。「PISA型読解力」では、教材となる「テキスト」は文や段落から構成される「連続テキスト」と図表などの「非連続テキスト」からなることを示している。また、その影響を受けた全国学力・学習状況調査では、新聞を例とする社会生活に関わるさまざまな文章を「テキスト」としている。これによって、とりわけ国語科教育における教材テキスト概念は拡張され、学びに広がりが生まれることになった。 次に「読解力概念の拡張」である。これまでの読解力では、教材となる「テキスト」について、主として筆者の言わんとすることを正しく詳しく読み取ることに主眼がおかれてきた。しかし、「PISA型読解力」では、読み手が目的に応じて意図的・自覚的に「テキスト」に向き合い活用する能力を読解力とした。これによって、教材テキストについて「筆者(作者)の文脈」を正しく詳しく読み取るだけではなく、読み手である学習者が主体となって教材となる「テキスト」と向き合い、そこから得られた「情報」によって課題解決や目標達成に取り組む、いわば「学習者の文脈」を生み出す能力が読解力として位置付けられた。

3 0 0 0 OA 耽奇漫録 20巻

著者
滝沢解
出版者
巻号頁・発行日
vol.四,
著者
上林 達
出版者
一般社団法人 日本応用数理学会
雑誌
日本応用数理学会論文誌 (ISSN:24240982)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.211-228, 1994-09-15 (Released:2017-04-08)
参考文献数
13

This is an attempt to establish a framework of infinite dimensional information geometry. The space of the probability densikties on [0.1] which are absolutely continuous and the derivatives of which are square integrable is considered. The space is an open Hilbert manifold. The Fisher metric, however, is not compatible with the topology of the manifold. The unique existence of the covariant derivative which is metric and torsion free is proved, and the equation of the geodesic is shown. The equation is explicitly solved. It is proved that the manifold has some desirable geometrical characters.
著者
白神 麻依子 林 行雄
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.428-437, 2012 (Released:2012-07-05)
参考文献数
7

抗不整脈薬の作用機序はイオンチャネルおよびβ受容体にある.Vaughan Williams分類はその点を単純に分類し,優れた抗不整脈薬の分類法であるが,抗不整脈薬の中にはこの分類法では不十分なものが現われ新たな分類法が模索された.その結果生まれたのが,Sicilian Gambitである.Sicilian Gambitは抗不整脈薬の単なる分類にとどまらず,不整脈の発生機序からその治療法の考え方,さらには抗不整脈薬に伴う副作用の留意点を示したもので,抗不整脈薬の臨床使用において大いに参考になる.
著者
倉林 敦 熊澤 慶伯 森 哲 土岐田 昌和 澤田 均
出版者
長浜バイオ大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

フクラガエル属(Breviceps)は、皮膚から分泌する糊によって雌雄が体を接着して交尾する、奇妙な四足動物である。我々は、発見以来60年間謎のままであったフクラガエル糊について、その物理的特徴と、構成蛋白質、およびその候補遺伝子を明らかにしつつある。本研究では、アフリカにおいてフィールドワークを行い、生殖用の糊という形質の、起源・要因・過程など、適応進化の実体を生態学・系統学・分子遺伝学の側面から解明する。この過程で、生態学・形態学的解析、新種記載、人工繁殖研究などもあわせて実施し、謎の多いフクラガエルとその近縁属の自然史について新たな知見を加えることを目的としている。本年度は、11月に南アフリカの西ケープ州、および、東ケープ州においてフクラガエル類の観察、採取を行なった。西ケープ州では、ジャイアントフクラガエル・ローズフクラガエルに加え、昨年採取はできたものの、実験前に死亡したクロフクラガエルを採取した。さらに、ケープタウンから30 kmほどの地点で、ナマクワフクラガエルを採取した。本種の分布はケープタウンから300kmほど北からと考えられていたため、これは本種の新産地の発見となった。東ケープ州では、ヘイゲンフクラガエルの採取を試みたが、成功しなかった。また、北ケープ州に分布するサバクフクラガエルを現地共同研究者に採取していただき、実験に供した。各種の糊分泌物を採取し、その強度を測定した。その結果、上記のうち1種(特許申請の関係で公表しない)は、極めて接着力の強い糊を持ち、その接着力は、アロンアルファなどの市販の接着剤を上回ることさえあった。また、フクラガエルの糊の接着力は、1)体の体積(重量)に比例して強くなる、生息地の土壌の硬さに比例して強くなる、という2つの仮説があったが、本年の研究からはそのどちらの仮説も否定された。
著者
Yugo Yamashita Ryuji Uozumi Yasuhiro Hamatani Masahiro Esato Yeong-Hwa Chun Hikari Tsuji Hiromichi Wada Koji Hasegawa Hisashi Ogawa Mitsuru Abe Satoshi Morita Masaharu Akao
出版者
The Japanese Circulation Society
雑誌
Circulation Journal (ISSN:13469843)
巻号頁・発行日
vol.81, no.9, pp.1278-1285, 2017-08-25 (Released:2017-08-25)
参考文献数
27
被引用文献数
108

Background:The current status and outcomes of direct oral anticoagulant (DOAC) use have not been widely evaluated in unselected patients with atrial fibrillation (AF) in the real world.Methods and Results:The Fushimi AF Registry is a community-based prospective survey of AF patients who visited the participating medical institutions (n=80) in Fushimi, Kyoto, Japan. Follow-up data with oral anticoagulant (OAC) status were available for 3,731 patients by the end of November 2015. We evaluated OAC status and clinical outcomes according to OAC status. The number (incidence rate) of stroke/systemic embolism (SE) and major bleeding events during the median follow-up of 3.0 years was 224 (2.3%/year) and 177 (1.8%/year), respectively. After the release of DOAC, the prevalence of DOAC use increased gradually and steadily, and that of warfarin, DOAC and no OAC was 37%, 26% and 36%, respectively in 2015. On Cox proportional hazards modeling incorporating change in OAC status as a time-dependent covariate for stroke/SE and major bleeding events, use of DOAC compared with warfarin was not associated with stroke/SE events (HR, 0.95; 95% CI: 0.59–1.51, P=0.82) or major bleeding events (HR, 0.82; 95% CI: 0.50–1.36, P=0.45).Conclusions:In real-world clinical practice, there were no significant differences in stroke/SE events or major bleeding events for DOAC compared with warfarin in patients with AF.
著者
武田 宏子 田村 哲樹 辻 由希 大倉 沙江 西山 真司 STEEL GILL
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究計画の主要な研究課題は、1990 年代以降に「男女共同参画」と「女性活躍」の政治が行われてきたにもかかわらず、なぜ日本ではいまだに高い程度のジェンダー不平等が観察されるのか明らかにし、それによりリベラル・フェミニズムが孕む問題を理論的に検討する一方で、日本においてジェンダー平等を実現するための政治過程を構想することを目指す。
著者
蔭山 公雄
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.96-101, 1985-02-15 (Released:2011-11-04)

清酒造りの基本的な型は早くから確立していたが, 急速な科学技術の進歩とともに, 種々の新技術が導入されてきた。特にここ半世紀における変化には著しいものがある。そこで, この激変の時代を歩まれた筆者に, その変化の記録として四部に分けて解説していただくことにした。まず, 本号では新技術の萌が見え始める昭和初期の満酒造りの記録である。