著者
亀山 郁夫
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、スターリン時代における検閲システムを、主として権力の側から考察するものである。研究のテーマそのものは、ソ連崩壊後、にわかに浮上してきたトピックで、ロシア国内および国外でも地道な研究が続けられている。それらの実績にかんがみ、この3年間にわたって、主として2004年に没後50年をむかえたセルゲイ・プロコフィエフ、2006年に生誕100年を迎えるドミートリー・ショスタコーヴィチとスターリン権力との相互関係について調べ、さらに私がいま試みているスターリン学(stalinology)の構築に向けて、次のような論文を発表した。なお、現在、私は、ここに掲げる論文とは別個に、本科研費の助成による成果として、『大検閲官スターリン-20世紀ロシアにおける文化と政治権力のカコフォニー』と題する著作を準備しており、2005年10月に小学館から刊行される予定である。1 プロコフィエフとスターリン権力を扱った論文では、約15年にわたった異国放浪の末に、1936年にソビエトへの帰還を決意した理由と動機を明らかにし、その後、約3年間において作曲されたソビエト礼賛ないしスターリン礼賛の音楽の政治的意味と、それに対する、実質的には当時のソビエト最高の検閲機関の対応を歴史的に意味づけ、そのなかで純粋に芸術的な営みとしてどう成り立っているかを分析した。2 ドミートリー・ショスタコーヴィチの1920年代の作品における音楽的実験が、スターリン体制の確立のもとでどのような変貌を強いられるかを考察した(ただしこの論文は未完である)。3 遺伝学者ルイセンコおよび言語学者マルの二人とスターリン権力との関係を扱った論文では、従来の彼らに対する評価をあらため、ロシア・アヴァンギャルド運動および詩学、世界観との観点から新たな照明を当てることによって、その現代的な意味を浮かびあがらせた。4 メイエルホリドとスターリン権力との関係を扱った論文では、これまであまり知られることのなかった最晩年の彼の伝記上の謎、とりわけその死の真相をめぐって、最新の資料を用いながら明らかにした。5 ボリス・パステルナークにおけるスターリン崇拝の現実と、彼の代表作『ドクトル・ジバゴ』の時代設定の問題の相関性について考察し、彼がスターリンへの傾斜を強める1929年以降の時代がこの小説の時代の枠組みには入ることが不可能だった理由を明らかにした。
著者
高橋 寿光
出版者
一般社団法人 日本オリエント学会
雑誌
オリエント (ISSN:00305219)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.184-195, 2018-03-31 (Released:2021-04-01)
参考文献数
27

This paper aims to examine the pottery dating to the reign of Amenhotep III in a layer of limestone chips which had accumulated above the tomb of Userhat, Overseer of King’s Private Apartment under Amenhotep III, at al-Khokha area in the Theban necropolis, Egypt, in order to understand how the pottery was used at the tomb. The chisel marks on the limestone suggest that the layer of limestone chips above the tomb of Userhat had been deposited as debris from the tomb construction. Furthermore, the location and direction of the layers show that the limestone chips originated from surrounding tombs constructions, the most probably from the tomb of Userhat. Therefore, the pottery from this layer is assumed to be related to the tomb construction activities. The pottery vessels from the limestone chips layer are classified into two groups: the vessels associated with the actual construction of the tomb, such as plaster containers and lamps, and the vessels related to the tomb construction rituals, such as red slipped lids and dishes, white washed bowls with burned traces and a blue painted pottery jar. It has been generally recognized that the ritual pottery vessels from tombs were used in funerary rituals or in cults carried out subsequently at the tomb. However, the pottery above the tomb of Userhat is related to the tomb construction activities, hence, it seems that those pottery vessels were used in the tomb construction rituals. Little is known about tomb construction rituals at private tombs so far, and the study of pottery above the tomb of Userhat has revealed new possibilities of tomb construction rituals.
著者
石橋 悠人
出版者
社会経済史学会
雑誌
社会経済史学 (ISSN:00380113)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.481-500, 2014-02-25 (Released:2017-05-17)

本稿は1850年代初頭に開始されたグリニッジ天文台の時報事業に焦点を当て,ヴィクトリア朝イギリスにおける正確な時間の通知・表示技法の変革とその社会的な影響を考察する。時報事業は交通・運輸・情報網の大規模な拡充に伴う正確な時間への需要の高まりを背景に導入され,国内全域に敷設された電信網を駆使して標準時を無償で通知するものであった。このサービスを可能にしたのは,グリニッジ天文台・海軍省などの公的機関と民間の電信・鉄道企業との緊密な連携に基づく設備や技術の使用に関する負担の分散化であった。この運営の枠組みは1860年代末の民間電信システムの国有化によって大きく転換し,1870年には逓信省が時報転送に電線を使用することを埋め合わせるために課金制へ移行する。この有料サービスの普及には明確な限界があったものの,時報は鉄道会社の運行システム,都市自治体が管理する報時球と午砲の操作方法,海軍の航海術などの領域に採用され,イギリス社会における時間通知の様式の改変とグリニッジ標準時の普及を促進するものとなった。
著者
林道春
出版者

6巻。神道。林羅山著。全国各地の主要な神社153社について、祭神・由来・霊験などを考証したもの。上2巻に22社、中2巻に諸社の有名社、下2巻に霊異方術の事を記す。『旧事記』『古事記』『日本書紀』『延喜式』等の典籍を始め、諸書の記述を拾い、古老の言を聞き、本格的な神社研究となっており、後世に与えた影響も大きい。著者には本書の記述を簡略にした『神社考詳節』がある。根岸武香「冑山文庫」の印記あり。(岡雅彦)
著者
伊藤 文人
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.28-39, 2020-11-30 (Released:2021-02-09)
参考文献数
50

小論の目的は,二木立から故高島進へ提起された政策研究の分析枠組(analytical framework)に関する批判に応答することである.小論では,二木の政策研究の有効性を検証するため両者の政策研究の方法論的特質をその射程とダイナミズム―分析枠組・イデオロギー批判・対案―に焦点を当てつつ批判的に再検討した.高島は社会福祉の全体性=歴史(理論)を踏まえた,中長期的展望に価値を見いだすコミュニストとしての政策研究を行い,二木は政策の前提条件を原則的に問わない,短期的な実用主義に価値を見いだすプラグマティストとしての政策研究を実施したといえる.新自由主義の席巻する文脈で今日の社会福祉政策を捉えるには,二木の研究上の貢献を尊重しつつ,高島の政策研究への再評価が必要になるだろう.
著者
山田 万太郎 汪 雪婷 山崎 俊彦 相澤 清晴
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第33回全国大会(2019)
巻号頁・発行日
pp.3N4J1003, 2019 (Released:2019-06-01)

本研究の目的は,不動産間取り図をその間取りを反映したグラフ構造に自動で変換することである.それには,深層学習によるsemantic segmentationを行うことで画像中の各部屋やドアを認識し,それらの隣接関係をもとにグラフ構造を作成するという手法でグラフ化を行う.この提案手法により,正解グラフと81%の類似度を持つグラフに変換できることを確認した.さらには,自動変換したグラフを用いて実際に類似間取り検索への応用を示した.間取り図をグラフ構造という構造化された表現に変換することで,間取りの比較や評価,さらには検索が容易になり,間取りを扱うあらゆるシステムへの応用が期待される.
著者
植松 康祐 高橋 泰代 ウエマツ コウユウ タカハシ ヤスヨ Koyu Uematsu Takahashi Yasuyo
雑誌
国際研究論叢 : 大阪国際大学紀要 = OIU journal of international studies
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.1-12, 2017-03-31

The mass media and people related to education have argued about the results of the Japanese national survey of academic performance which the Ministry of Education, Culture, Sports, Science, and Technology administered; paying attention to the low scores in Osaka prefecture. This paper, does not discuss countermeasures by prefectures, but analyzes the available quantitative data. By using multi regression analysis when letting academic performance be an objective variable, we find some effective explanatory variables. Also by factor analysis with factor loading amount, we can clarify the position of each prefecture and reveal the factors that affect the scores of students. We believe that this research can enable our compulsory education system to achieve higher scores in future.
著者
西山 忠男 西 右京 原田 和輝 大藤 弘明 福庭 巧祐
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

九州西端に位置する白亜紀沈み込み帯の長崎変成岩西彼杵ユニット(85-60 Ma: Miyazaki et al., 2017)の雪浦蛇紋岩メランジェから,泥質片岩基質中にマイクロダイヤモンド集合体を発見した.西彼杵ユニットは緑簾石青色片岩相に属し,結晶片岩類(泥質砂質片岩を主とし,少量の塩基性片岩を伴う)に少量の蛇紋岩ならびに蛇紋岩―塩基性岩複合岩体を伴う.後者は蛇紋岩メランジュの性格を有する.蛇紋岩メランジュはアクチノ閃石片岩の基質中に種々の大きさと岩質の構造岩塊を含む(Nishiyama et al., 2017a).構造岩塊の変成度は1.5 GPa, 450 C(含石英ヒスイ輝石岩:Shigeno et al., 2011)から1.8 GPa, 650 Cまで(ザクロ石‐緑簾石-バロワ閃石岩:ザクロ石中に単斜輝石,フェンジャイトの包有物を含む)幅広い温度圧力条件を示す.雪浦メランジュは西彼杵ユニットの最西端に位置し,西彼杵ユニットとその西方の大瀬戸花崗閃緑岩(100 Ma)を境する呼子の瀬戸断層沿いに発達する.また大瀬戸花崗閃緑岩は第三紀堆積岩類(松島層群・西彼杵層群)に不整合に覆われ,西彼杵ユニットに接触変成作用を与えていない(服部ほか,1993). われわれはこれまで雪浦メランジュからいくつかの産状のマイクロダイヤモンドを報告してきた.それらは,クロミタイト中の包有物,石英-炭酸塩岩中のシュードタキライト様脈中のもの,そして泥質片岩の強く変形した黄鉄鉱中の包有物などである(Nishiyama et al., 2017b).今回われわれは,新たに泥質片岩の基質中にマイクロダイヤモンド集合体を発見した.それらはフェンジャイトと緑泥石の粒間に常に炭酸塩鉱物を伴って産する.炭酸塩鉱物はドロマイト,マグネサイト,方解石でこの順に頻度が高い.マイクロダイヤモンド集合体は径10-50 ミクロンで,Siに富む鉱物(同定不可)の基質中に多数のマイクロダイヤモンド結晶が集合している.個々のマイクロダイヤモンド結晶は自形ないし半自形結晶で,径0.3-0.6 ミクロン程度である.同定はSEM-EDS,ラマン分光法,ならびに透過電顕による電子線回折法によって行った.マイクロダイヤモンドを含む泥質片岩は蛇紋岩メランジュ中の構造岩塊で,石墨+緑泥石+フェンジャイト+アルバイト+石英+黄鉄鉱+チタナイト仮像(アナテーズ+石英+炭酸塩鉱物)からなり,石墨のラマンスペクトルからその形成温度は450 C程度と見積もられる.緑簾石もローソン石も含まない.この泥質片岩は,ドロマイト層が片理(S1)に平行に発達し,片理とともに非対称に褶曲(F2)しているという特徴がある.またドロマイト脈がこれらの構造を切って発達している.蛇紋岩メランジュ以外の場所に発達する泥質片岩にはドロマイトもマイクロダイヤモンドも見られないが,鉱物組合せはザクロ石と緑簾石が加わることを除けば同じである.この発見は,泥質片岩の基質中に産するマイクロダイヤモンドの世界最初の報告である.また島弧-海溝系の沈み込み帯からの最初のマイクロダイヤモンドの発見でもあり,冷たい沈み込み帯においては付加体がダイヤモンドの安定領域まで沈み込んでいることを示唆している.このマイクロダイヤモンドは世界最低温の形成条件(450 C)を示すことでも注目される.この低温条件こそが,西彼杵ユニットの上昇過程において,泥質片岩の基質中でマイクロダイヤモンドが石墨に転移せずに保存される要因であったと考えられる.地球物理学的には,大陸衝突帯のみならず,島弧-海溝系の沈み込み帯においてもダイヤモンド安定領域に達する超高圧変成作用が実現されている点を示した点が特記される.服部仁・井上英二・松井和典,1993,地域地質研究報告 神浦地域の地質,地質調査所.Miyazaki, et al., 2017, Terra Nova, 00:1-7. https://doi.org/10.1111/ter.12322Nishiyama et al., 2017a, JMPS, 112, 197-216.Nishiyama et al., 2017b, JpGU Ann. Meeting AbstractShigeno et al., 2012, Eur. Mineral, 24, 289-311.
著者
星井 達彦 紙谷 義孝 喜多 学之 山口 征吾 大橋 さとみ 関口 博史 西山 勉
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 = Niigata medical journal (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.131, no.8, pp.501-508, 2017-08

前立腺癌疑い患者に対して前立腺生検が行われるが,全身麻酔または腰椎麻酔管理による前立腺生検では通常1~2泊の入院管理で行うことが多い.また日帰り前立腺生検では局所麻酔で行われることが多く,局所麻酔時や穿刺時に患者の苦痛が伴う.我々は2016年1月から全身麻酔管理による日帰り前立腺生検を行っている.全身麻酔管理による日帰り前立腺生検を行うにあたり「全身麻酔管理による日帰り前立腺生検クリニカルパス」を作成し行っている.前日夕食後は禁食とし,生検当日は水分を朝6時まで可とし,午前中に全身麻酔管理による日帰り前立腺生検を行う.前立腺生検はReal-time Virtual Sonography (RVS)を用いたMRI-経直腸的超音波検査同期狙撃生検3-6か所,系統生検左右各5か所の計13~16か所の経会陰的前立腺生検を行う.前立腺生検後3~4時間経過観察し,帰宅時チェックリストを用いてすべての項目で問題がないことを確認後帰宅する.2016年12月までの12ヶ月間に67例に全身麻酔管理による日帰り前立腺生検を施行した.1例で術後膀胱タンポナーデを,1例で術後尿閉を経験したが,再入院を必要とした症例はなく,そのほか周術期に問題となった症例はなかった.全身麻酔管理による日帰り前立腺生検は患者の苦痛が少なく,有用な方法と考えられる.
著者
小野 知洋 高木 百合香
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.325-330, 2006 (Released:2007-02-06)
参考文献数
10
被引用文献数
2 12

The pill bug Armadillidium vulgare shows clear turn alternation behavior. As the mechanism underlying the behavior, the bilateral asymmetrical leg movement (BALM) hypothesis has been proposed. Pill bugs, however, showed a longer following when in a zigzag pathway than in a straight pathway, suggesting the presence of an innate turning pattern in their neural system. On the other hand, they showed clear thigmotaxis: they walked a similar distance along a single side-wall as along a straight pathway. The adaptive significance of this behavior was analyzed in an artificial arena. The turn alternation was more frequent in an escaping situation than in voluntary walking, and also the walking speed was faster when escaping than voluntary walking. These results suggest that the turn alternation of the pill bug functions as a behavior for effective escape from natural enemies.

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著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1944年11月17日, 1944-11-17