著者
峯松 信明 西村 多寿子 西成 活裕 櫻庭 京子
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SP, 音声 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.105, no.98, pp.1-8, 2005-05-20
被引用文献数
14

『音声知覚の容易性と音声物理の多様性』音声研究者を長年悩ませ続けてきた古典的問題である[1]。音声科学は, 音素に対する音響的不変量の不在から, 調音運動にその答えを求めている(運動理論)[2]。その一方で音声工学は, 膨大なる音声データの収集とその統計的モデリングにその答えを求めている(隠れマルコフモデル)[3]。問題は解かれたのか?否である。本研究は, これらとは全く異なる方法で一つの解答を与える。その際, 「構造不変の定理」と呼ぶ数学定理を導入する。この数学定理の上で, 「何故言語(記号とその操作体系)は空気振動に宿ったのか?」「言語が宿るということは, 空気振動に如何なる物理特性を要求するのか?」という問題を意識して音声モデリングを再考し, 上記問題に対する解答, 音声ゲシュタルト, を導出する。本稿では, この導出が, 認知心理学, 生態心理学, 認知言語学, 障害学, 及び, 複雑系研究を通して音声言語コミュニケーションを捉え直すことと等価であることを示す。更に, 音声研究史に対する一つの提言を行なうと同時に, 言語の獲得, 及び, 言語の起源についても考察する。
著者
Sachie Kanada Hidenori Aiki Kazuhisa Tsuboki Izuru Takayabu
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
SOLA (ISSN:13496476)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.244-249, 2019 (Released:2019-12-05)
参考文献数
36
被引用文献数
8

From 16 to 23 August 2016, typhoons T1607, T1609, and T1611 hit eastern Hokkaido in northern Japan and caused heavy rainfall that resulted in severe disasters. To understand future changes in typhoon-related precipitation (TRP) in midlatitude regions, climate change experiments on these three typhoons were conducted using a high-resolution three-dimensional atmosphere–ocean coupled regional model in current and pseudo-global warming (PGW) climates. All PGW simulations projected decreases in precipitation frequency with an increased frequency of strong TRP and decreased frequency of weak TRP in eastern Hokkaido. In the current climate, snow-dominant precipitation systems start to cause precipitation in eastern Hokkaido about 24 hours before landfall. In the PGW climate, increases in convective available potential energy (CAPE) developed tall and intense updrafts and the snow-dominant precipitation systems turned to have more convective property with less snow mixing ratio (QS). Decreased QS reduced precipitation area, although strong precipitation increased or remained almost the same. Only TRP of T1607 increased the amounts before landfall. In contrast, all typhoons projected to increase TRP amount associated with landfall, because in addition to increased CAPE, the PGW typhoon and thereby its circulations intensified, and a large amount of rain was produced in the core region.
著者
鈴木 勉
出版者
星薬科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では比較的選択的NR2Bサブユニット構築型N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗薬であるイフェンプロジルおよび新規κオピオイド受容体作動薬であるTRK-820の覚せい剤依存症治療薬としての可能性を検討した。覚せい剤であるメタンフェタミンを慢性処置し、その後休薬期間を設けると、通常では精神依存を示さない用量のメタンフェタミンにより有意な精神依存の増強、すなわちヒトにおけるフラッシュバック現象を一部反映した逆耐性現象が認められる。そこで、こうした現象に対するイフェンプロジルならびにTRK-820の影響について検討したところ、それぞれの皮下あるいは脳室内へ慢性併用処置することにより、メタンフェタミン慢性処置による精神依存の逆耐性形成は著明かつ有意に抑制された。また、TRK-820の前処置においてはメタンフェタミン慢性投与による側坐核でのドパミン遊離に対する逆耐性形成を有意に抑制した。これらのことから、NMDA受容体拮抗薬イフェンプロジルと新規κオピオイド受容体作動薬TRK-820は、覚せい剤依存症の治療薬として有用である可能性が示唆された。一方本研究では、メタンフェタミン慢性処置による逆耐性形成の分子機構として、側坐核におけるドパミン神経終末のプレシナプス側において、PKCによる促進的なドパミン放出機構の修飾とポストシナプス側におけるNR2Bサブユニット構築型NMDA受容体の増加に伴う細胞内情報伝達機構の変化によって引き起こされている可能性を明らかにした。さらに本研究では、メタンフェタミンが単に神経だけでなく、グリア細胞の中でも特にアストロサイトに対しても作用していることが明らかとなり、これに伴い、メタンフェタミンの逆耐性形成時には、側坐核および帯状回のアストロサイトの形態変化を伴う活性化が顕著であり、アストロサイトの活性化はPKC依存的に引き起こされ、長期に持続することも明らかとなった。以上の結果は、今後、薬物依存患者の治療や乱用の撲滅に繋がる治療薬の開発と治療法の確立に貢献できるものと考えられる。
著者
藤澤 和子
出版者
大和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、公共図書館において知的障害者の図書館利用や読書支援を進めるための合理的配慮のあり方について、公共図書館で実証的に検証し、具体的内容と方法を明らかにすることである。本研究の2年目にあたる平成29年度は、スウェーデンの公共図書館等で取り組まれている知的障害者への読書支援サービスについての先行事例を収集した。さらに、28年度に調査した図書館利用についての当事者のニーズ調査をもとに検討した合理的配慮の事項を協力図書館4館において検証を進めながら実践した。①図書館利用のためのわかりやすい配慮については、知的障害のある利用者が声が出たり落ち着けないときや代読に利用できる個室の設置、ピクトグラムによる配架表示、わかりやすい利用案内の制作、図書館に来館する知的障害者に対する一般利用者の理解を促すためのポスター制作を行っている。②わかりやすい図書や視聴覚メディア資料については、LLブック等を収集したわかりやすい図書コーナーを設置して、利用状況の調査等を実施した。コーナーの設置によりLLブック等の貸し出し件数の増加が示され、コーナーの効果が明らかになった。③職員によるわかりやすい対応やサービスについては、読書サポート講座を実施して参加者へのアンケート調査を行った。講座は、図書館、福祉施設や事業所、学校、一般市民を対象に、知的障害者の読書支援のための基礎的知識と代読や読み聞かせの技能を学ぶ内容で、大阪と奈良の3館、東京1館で開催し、1館につき6講座を設けた。講座を受講して知的障害者への読書支援についての関心が深まったという参加者の回答が99%に及び、講座の必要性が明らかになった。知的障害者に図書館見学と読み聞かせ等のサービスを行う図書館体験ツアーを実施し、当事者から好評を得た。
著者
乾 康代
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.968-973, 2015-10-25 (Released:2015-11-05)
参考文献数
17
被引用文献数
2

本研究は,わが国の原子力開発黎明期の原子炉の立地規制と周辺開発規制の枠組みがつくられた経緯と背後の事情を検討した。主な結果は,1)わが国の原子炉立地審査指針は,アメリカの立地基準をほぼ引き写して作成され,周辺開発規制は不要という考えも継承した。2)わが国初の原子炉受け入れ自治体となった茨城県は,国の「原子力センター」構想を率先することを表明,東海村を工業地帯化することを開発目標とした。3)その結果,地元の茨城県でも,原子力委員会が提案した原子炉周辺のグリーンベルトと人口抑制区域の設定を受け付けず,県が策定した原子力施設地帯整備基本計画では,わずかな公園と緑地が設定されるにとどまった。4)東海村では原発の周辺開発がすすむとともに,東海村につづくその後の全国の原発立地地域にも周辺の開発規制なしの原発立地が定着した。
著者
竹内 史郎
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.2-17, 2005-01

本稿は,中世室町期を下限とし,サニ構文の成立,その意味タイプの拡張および接続助詞サニ等について論じる。以下具体的に示す。1サニ構文は,上代語のサ語法や,キニ(形容詞準体句+ニ)やクニ(ク語法+ニ)といった接続形式等を考慮すれば,「名詞節+主節の背景を提示する助詞ニ」という方法で成立したと説明でき,接続部サニは別個の形態素の連続と考えられる。2 10世紀以前のサニ構文は,「内的徴証-有意志文」という意味タイプ(以下原タイプ)に集中する。当初のサニ構文は意味類型の対応によって原因理由文であることが特徴づけられていた。3ところが,11世紀以降時代を下るにつれて,10世紀以前の意味タイプにおける制約が緩んでくる。すなわち,原タイプの勢力が維持されつつも,「外的徴証-有意志文」などの種々の意味タイプへの拡張が例外的に生じた。また,形容詞語幹のみならず形容動詞語幹にサニが下接するようになった。4 15世紀には,原タイプと拮抗する形で「外的徴証-有意志文」という意味類型の対応を表すタイプが定着した。主にこのことを要件として,別個の形態素の連続であったサニは単一形態として再分析され,形態素間の境界が消失した結果,原因理由の接続助詞になったと認められる。ここにおいて,サニ構文は原因理由の意味をもつ接続形式による原因理由文となった。
著者
瀧山 和志 武田 志乃 内川 拓也 小久保 年章 島田 義也
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第40回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.1002024, 2013 (Released:2013-08-14)

【はじめに】原子力発電で利用されるウランは腎毒性物質として知られている。ウランは地殻成分として環境中に広く分布し、原発事故で飛散した多くの放射性核種と同様に、その内部被ばく影響に関心が高まっている。劣化ウラン弾汚染や鉱山乱開発による環境負荷の懸念、あるいは地下水汚染地域での健康調査報告などを背景に、放射線防護の観点から早急な対応が求められている。緑藻の一種であるクロレラは、鉛、カドミウム、メチル水銀といった有害金属の吸着作用あるいは排泄促進作用が報告されている。そこで、本研究ではクロレラのウラン腎臓蓄積低減効果を調べることを目的とし、ウラン吸収および排泄へのクロレラの効果について検討を行った。【実験】動物の処置:Wistar系雄性ラット(10週齢)に胃ゾンデにより酢酸ウラン(天然型)を単独(0.5 mg/kg)あるいはクロレラ(1 g/kg)を併用一回投与した。個別に代謝ケージに移し3日間飼育し、摂食、摂水、尿、および糞量を測定した。ウランの分析:腎臓、血液、尿、糞は高純度硝酸を加えて湿式灰化し、ウラン濃度を誘導結合プラズマ質量分析により測定した。【結果および考察】観察期間中、クロレラ併用群の腎臓中ウラン濃度はウラン単独群に比べ50-60%低値となった。投与後初期の血漿へのウラン移行がクロレラ併用群で減少しており、腸管でのウラン取り込みが低下していたものと考えられた。糞・尿代謝への影響についても併せて報告する。
著者
GAO Meiling CHEN Fei SHEN Huanfeng BARLAGE Michael LI Huifang TAN Zhenyu ZHANG Liangpei
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
pp.2019-060, (Released:2019-08-18)
被引用文献数
10

Summer heat waves pose a great threat to public health in China. This paper took Wuhan (one of the four hottest furnaces cities in China) as an example to explore several strategies for mitigating the surface urban heat island (UHI) measured by the land surface temperature, including the use of green roofs, cool roofs, bright pavements, and alternations in urban building patterns. The offline urbanized High-Resolution Land Data Assimilation System (u-HRLDAS) was employed to conduct 1-km resolution numerical simulations, which also accounts for the effects of abundant lakes in Wuhan on UHI evolution with a dynamic lake model. The diurnal cycle and spatial distribution of simulated UHI were analyzed under different mitigation strategies. Results show that considering lake effects reduces the daytime (nighttime) UHI intensity by about 1.0 K (0.5 K). Employing green roofs and cool roofs are more effective in mitigating daytime UHI than the use of bright pavements. The maximum UHI reduction is about 2.1 K at 13:00 local time by replacing 80% of conventional roofs with green roofs. The UHI mitigation efficiency increases with larger fractions of green roofs, and increased albedo of roofs and roads. In contrast to the green roofs, cool roofs and bright pavements which are ineffective in nighttime, changing urban building pattern to mitigate the UHI is effective throughout the day. “Height-driven building structure changing” (raising the building height, and meanwhile changing the fraction of impervious surface in each grid to keep the total building volume intact) can reduce the surface UHI intensity by 0.4-0.9 K, and “density-driven building structure changing” (distributing building density uniformly and the building height are modified to make the total building volume unchanged) reduces UHI by 1.2-2.6 K. These results showed new insights in mitigating the urban heat islands for a mega city like Wuhan and provides a practical guideline for policymakers to offer a more habitable city.
著者
原田 幸一
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.16-31, 2015-07

本稿は,若年層による日常会話をデータとし,「トイウカ」の使用を分析した。分析の結果,「トイウカ」の用法は発言改正用法(<暫定提示><言い換え><譲歩補足>)と話題調整用法(<話題導入><話題維持>)に分類できること,種々の形式のうち縮約形「てか」が出現数と使用者数が最多であること,テ系では発言改正用法より話題調整用法のほうが「てか」の割合が高く,ツ系でも発言改正用法より話題調整用法のほうが「つか」の割合が高いことを明らかにした。分析結果にもとづき,縮約形「てか・つか」の使用に関して「単純化(simplification)」の傾向を指摘した。また,広義文法化の立場から「トイウカ」が文法化の一事例として位置付けられることを主張した。
著者
辻 加代子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-16, 2007-01-01

近世上方において勢力をもっていた待遇表現形式の一つである動詞テ形に指定辞が付加された形式(以下「テ指定」と呼ぶ)の形態変化に関して以下のことを報告する。天保7年刊京都板洒落本『興斗月』に「テ指定」の過去形として上方板洒落本資料としては特異なチャッタの形が多数出現している。このチャッタ形に注目してその音価,意味,および活用の諸側面から検討した結果,次のことが明らかになった。(1)天保年間の頃京都で「テ指定」過去形はテデアッタの縮約形テジャッタがさらに縮まったチャッタの形へと変化した可能性がある。(2)『興斗月』に現れるテチャッタ形は先行研究では同じ頃の他の洒落本に現れるテジャッタ形と同価とみなされてきたが,音声的には表記のとおり「テチャッタ」であり,「テ指定」表現の過去形にアスペクト形式が付加された形式である。

3 0 0 0 OA 日向国史

著者
喜田貞吉 著
出版者
史誌出版社
巻号頁・発行日
vol.上巻, 1930