著者
千代原 亮一
出版者
大阪成蹊大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13489208)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.213-223, 2006-03-25

インターネットに代表される情報通信技術の発達は、国民の表現の自由をめぐる状況に劇的な変化をもたらしたが、その反面、重大な社会問題を惹起している。特に近年、インターネット上での悪質な犯罪行為や違法行為が顕在化しており、その原因としてインターネットの匿名性が挙げられる。その為に政府は、「インターネット実名制」の導入を検討し始めているが、拙速な実名制の導入はインターネットの更なる発展を阻害するだけでなく、「自由で開かれた公開討論の場」としてのインターネットの機能を奪いかねない。日本国憲法第21条で保障された表現の自由の制度趣旨の一つとして、いわゆる「思想の自由市場」が論じられるが、仮にインターネットが、思想の自由市場ないし公開市場であるとするならば、インターネット上での言論に匿名性が担保されていることは、表現の自由の保障に大きく寄与することになる。
著者
佐藤 岳詩
出版者
北海道大学大学院文学研究科応用倫理研究教育センター
雑誌
応用倫理 (ISSN:18830110)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.45-62, 2010-03

本稿では気分明朗剤(mood-brighteners)の服用の是非とそれを通して快楽主義的功利主義の是非について論じる。快楽主義とは快や幸福のみが善であると主張する道徳的な立場であり、経験機械の議論をはじめ様々な批判にさらされながらも一定の支持を集めてきた。しかし近年開発された気分明朗剤という薬がもたらす倫理的問題は、快楽主義に対して新たな疑義を呈しうるように思われる。気分明朗剤とは簡単に言えば不安を緩和し気分を明るくする薬物であり、服用者の快につながるものである。そのため気分明朗剤の使用は快楽主義的に見て肯定されるものである。しかし一方で我々の間にはこの薬物に対する否定的な感情、道徳的な直観がある。この直観が妥当なものであるならば、気分明朗剤の服用は否定されるべきであり、また気分明朗剤の服用を肯定する快楽主義もまた否定されるべきということになるだろう。そこで本稿では主に気分明朗剤の服用を批判する言説を検討し、それが妥当であるか否かを検討する。筆者の考えるところでは、L. カスらが呈示する偽物と本物の区別、適切な感情などに基づく批判は誤りであり、気分明朗剤および功利主義に対する決定的な批判とはならない。しかし苦痛とその受容が持つ価値にかかわる議論は快楽主義にとって直接的な疑義を投げかけうる。
著者
松田 安弘 定廣 和香子 舟島 なをみ
出版者
日本看護教育学学会
雑誌
看護教育学研究 (ISSN:09176314)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.9-22, 2004
被引用文献数
1

本研究の目的は、男性看護師の職業経験の説明概念を創出することにより、その総体を明らかにし、看護職集団における少数者である男性看護師の職業経験の特徴を考察することである。研究方法論には、看護概念創出法を適用し、病院に就業する男性看護師23名を対象とした半構造化面接によりデータを収集した。持続比較分析の結果は、男性看護師の職業経験が次の6概念により説明できることを示した。その6概念とは、【I.他者関係の円滑化による孤立回避】【II.期待・関心の享受と喪失による存在意義の模索】【III.付加価値獲得の試みと失敗】【IV.職業選択への迷いと価値づけ】【V.問題克服による看護職者としての自立と役割の拡大】【VI.職業活動と私的活動の均衡維持】である。この内、I、II、IIIは、男性看護師が、大多数の女性看護師とは異なる存在であることを自覚し、自己の異質性の抹消や特異性の発揮に翻弄されるという「看護職集団における性の異なる少数者ゆえの職業経験」をすることを示す。また、IV、Vは、男性看護師が、職業活動を通し、改めて看護職を選択すると共に、様々な問題を克服しながら看護職を価値づけ、自立していくという「性差に関わらない看護師に共通する職業経験」をすることを示す。さらに、VIは、男性看護師が、どのような状況にあっても職業を続けていくことを第一に考え、それを中心に職業活動と私的活動の充実を目指し、安定した生活を築いていくという「成人期の就業男性に共通する職業経験」をすることを示す。
著者
石川 敬史 中岡 貴裕
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
no.51, pp.159-171, 2021-03-28

埼玉県立浦和図書館は1972年1 月18日に一日図書館「むさしの号」の巡回を開始した。大型バスを改造して約4,500冊積載の書架を装備し,大規模団地を対象に2 時間から5 時間半に及んだ活動は,新聞などにおいて大きく報道された。本研究では,一日図書館の成立と最盛期の活動内容を実証的に明らかにするため,当時,一日図書館の活動に関わった元図書館員へのインタビュー記録に基づきながら,関係資料も用いて分析した。その結果,一日図書館の巡回の背景には,団地建設や人口増による図書館利用への要求や,市町村の図書館設置への機運の醸成があった。同時に,一日図書館の成立と活動を遡ると,巡回先を調整し,住民の中へ入り込み巡回を重ねる過程において,一日図書館を媒介としながら人と人との関係性を積み重ね,個々の地域との結びつきを深めていたことが明らかになった。1970年代の一日図書館は,単に大規模団地へ大量の本を運んでいたのではなく,埼玉県立図書館を核とする「図書館」ネットワークを運んでいた。
著者
村越 貴代美
出版者
慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会
雑誌
人文科学 (ISSN:09117210)
巻号頁・発行日
no.35, pp.301-326, 2020

はじめに一 琵琶の源流二 秦漢から魏晋の琵琶三 南北朝から唐代の琵琶おわりに
著者
伯野 元彦
出版者
公益社団法人 日本地震工学会
雑誌
日本地震工学会論文集 (ISSN:18846246)
巻号頁・発行日
vol.16, no.5, pp.5_177-5_182, 2016

近い将来、関東南部に、M7クラスの直下地震が予想され、特に都心にひどい被害を与える仮想の地震、都心南部直下地震を想定し、その被害が内閣府によって発表された。それによると、都心の一部は、震度7, 6強という激しい揺れに襲われ、山手線の外側ドーナツ状地域の北側半分は老朽木造家屋密集地のため、倒壊、火災が多く、火災による死者は16000人に達し、家屋倒壊などによるものを含めると全体としての死者は23000人となるという。そして地震翌日でも、帰宅困難者は800万人にのぼり、交通は新幹線、地下鉄が1週間、JR在来線、私鉄が1か月ストップと大変な被害となる。一方、2020年には東京オリンピックが開かれるが、この開催中に地震が起こっても外国人観光客の安全を特に考えなければならない。また、開催の3年前より後に起こると、オリンピックの開催そのものが地震災害のため不可能となるのではないかと心配される。地震慣れした日本人すら23000人も死ぬのである。地震の経験のない外国人観光客の安全を図るには大いに頑張らなければならない。
著者
根本 順吉
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.433-434, 1999
著者
名倉 秀子
雑誌
十文字学園女子大学紀要 = Bulletin of Jumonji University (ISSN:24240591)
巻号頁・発行日
no.51, pp.71-79, 2021-03-28

鶏卵は,奈良・平安時代に食べられた記録は見られず,時を告げる鶏の卵を食べることは罰があたるとされ,畏敬の念があったといわれている。安土桃山時代には,ポルトガルからの菓子に鶏卵を使ったカステラなどの料理がみられるが,鶏卵を積極的に料理にもちいていたとは考えられない。また,江戸時代中期以降には豆腐百珍をはじめに,鯛百珍,玉子百珍,甘藷百珍など100種類の料理を材料別に紹介する料理本が刊行された。ここでは,萬寳料理秘密箱にある玉子百珍の理103品について,調理学的,食文化的な視点から分析し,食生活や卵料理の嗜好性を把握することを目的とした。 卵料理の材料は,鶏卵が97%を占め,全卵使用が全料理の84%となり,貴重な鶏卵を大切に扱う調理法の記載があった。調理法は殻付きゆで卵が21%出現し,これは「煎貫」という調理法であることが明らかになった。ゆで卵は,卵白を染色した料理や,花型に変形させ「花卵」などのように,見栄えの良い料理の調理法が多く掲載され,器のなかの料理について視覚を重視していた。また,卵白は,泡立て後に蒸し,汁の具や平皿の一品とする調理法が紹介され,フワフワなどの食感も大切にされていることが散見された。調味料は,醤油や塩,白砂糖の他,煎酒を利用する料理もあり,旨味や酸味の味のバランスを考えた料理も出現していた。卵料理には,砂糖で調味するカステラや冷たい羊羹などの菓子職人の扱う珍しい菓子類も記され,レシピ本と同時に料理の読み物として掲載されていた。また,卵に生薬を加えた料理は効能の紹介があり,料理が健康維持のために利用されていた。視覚,味覚,嗅覚,触覚を楽しむ卵料理から,食生活文化の広がりを把握できた。