著者
臼田 信光 深澤 元晶 森山 陽介 厚沢 季美江 橋本 隆 山口 清次 深尾 敏幸 田中 雅嗣 下村 敦司
出版者
藤田保健衛生大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

高脂血症による引き起こされる動脈硬化と脂肪肝は、虚血心疾患や肝硬変などの重篤な生活習慣病のリスクファクターとなる。細胞内における脂質代謝の改善により、高脂血症の予防と治療が行える可能性がある。ミトコンドリア脂肪酸β酸化系は全ての脂肪酸を異化し、エネルギー産生で中心的な役割を演ずるが、未解明の部分が多い。全身臓器・培養細胞を材料として、分布とPPARを介する代謝制御について調べ、生理的な意義を研究した。
著者
石黒 澄衞
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

花粉の飛散をコントロールすることは、遺伝子組換え植物の花粉が環境に放出されるのを防ぐために必須の技術であるとともに、現代病ともいえる花粉症を防ぐためにも欠かせない技術である。本研究では次の3つの研究を行い、それぞれ成果を挙げた。1.葯の裂開に異常を示し、花粉の飛散が起きないようなシロイヌナズナの突然変異体をスクリーニングし、15個の突然変異体を単離することができた。そのうち6個について原因遺伝子を同定した。原因遺伝子はDAD1,AOS, OPR3,COI1で、いずれもジャスモン酸の生合成・シグナル伝達に関与する既知の遺伝子座であったが、異なるエコタイプをバックグラウンドに持つアリルを手に入れることができた。これらのアリルは、今後サプレッサー変異等のスクリーニングを行うのに有用なツールである。2.dad1突然変異体と野生型の蕾を用い、蕾の成熟に伴ってDAD1依存的に発現が上昇する遺伝子の検索をDNAマイクロアレイを用いて行った。91個の遺伝子を同定した。3.ジャスモン酸は、リパーゼの働きで生成したリノレン酸を出発物質として生合成される。シロイヌナズナの蕾ではDAD1がリパーゼとして働いて満の裂開に必要なジャスモン酸を供給するが、ジャスモン酸の傷害誘導に関与するリパーゼは未同定である。これを同定することを目的として、DAD1類似遺伝子の解析を行った。その結果、DAD1自身が、DAL6とともに傷害誘導時のジャスモン酸生成にも大きく寄与しているらしいことがわかった。一方、DAL2,DAL3,DAL4の関与も疑われ、この点に関してはさらに解析が必要である。
著者
門脇 大
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2017年度は、「近世怪異文芸を学問・思想・宗教との関係から捉え直し、通史的な読解を行うことにより、従来とは異なる視座から文学史・文化史の再編を行う」という本研究の主目的に沿って、2本の論文を公表した。以下に、公表した2点の研究実績を記す。1)「心学「鬼の相」をめぐって」(鈴木健一ほか編『江戸の学問と文藝世界』、森話社、2018年、pp.273―296)を執筆した。18世紀中頃に興った石門心学の中に表象される「鬼の相」に関する考察を通して、18・19世紀における心学伝播の一端と化物の教訓的な役割を明らかにした。心学資料の中に散見される「鬼の相」に関して、「鬼の相」と題された絵像と、関連する道歌を具体的に検証した。そして、心学の「鬼の相」と、その元となったと考えられる大津絵の「鬼の念仏」との関係を考察した。両者の比較を通して、18・19世紀の大衆的な教養の広がりを具体的に明らかにした。2)「怪火の究明」(堤邦彦・鈴木堅弘編『俗化する宗教表象と明治時代』、三弥井書店、2018年、pp.131―156)を執筆した。「怪火・火の化物」に関する言説を検証して、18・19世紀における怪異認識の変遷の一端を明らかにした。まず、18世紀中期における「怪火・火の化物」の一般的な認識を当時の百科事典をはじめとした諸資料によって整理した。そして、18世紀以降に出版された怪異現象を理知的に説く弁惑物に認められる関連記事を検証した。さらに、明治期以降の教訓書に散見される「怪火・火の化物」に関する記事を具体的に読み解いた。これらの検証によって、前近代から近代へという時代の変節期における怪異認識の変遷の一端を具体的に明らかにした。上記の1)、2)に加えて、刊行には至らなかったものの、18・19世紀を中心とした近世怪談と、その周辺分野(心学、在地伝承など)に関する基礎研究を行った。
著者
則 のぞみ
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

本年度特別研究員は、ICU入室患者が有する複数の疾病の組合せを反映する患者に個別化されたリスク予測手法を開発した。特別研究員はこれまでの研究で、疾病をタスクの単位とするマルチタスク学習手法により、疾病に個別化された予測モデルを構築した。しかし、患者は通常複数の疾病を有するため、これら複数の疾病の組合せを考慮することで、患者の個別性をより捉えたモデル構築が可能になると期待される。一方、患者の有する疾病の組合せは多くの場合、当該患者に固有の組合せとなるため、疾病の組合せごとにタスクを明示的に構築するようなナイーブな手法は有効ではない。特別研究員は患者の個別性を捉えたモデリングのため、患者が有する複数の疾病群から患者の潜在的なタスクを学習するマルチタスク学習手法を開発した。また、実データを用いた実験により、提案手法の有用性を予測精度や予測モデルに基づく知見抽出等の観点から評価した。提案手法により、患者に個別化されたリスク予測および学習モデルの分析等を通じた患者の個別性に対する知見抽出が期待された。更に、その他のこれまでの研究テーマについても、より網羅的な評価実験等を行い研究を進めた。
著者
永田 晴紀
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

著者らは、軸方向に多数の微小ポートを有する固体燃料のポート出口端面で微小拡散火炎群を保持する「端面燃焼式ハイブリッドロケット」を提案してきたが、燃料の製作が困難なため実証実験を見送って来た。近年の3Dプリンタの発展により複雑な燃料形状が製作可能となり、世界で初めて端面燃焼式ハイブリッドロケットの実証実験を実施した。燃焼実験の結果、初期の非定常期間を経て、燃焼中に燃料-酸化剤比が一定に保たれる定常燃焼への移行が確認された。ポート内径が0.2~0.5 mmの単ポート燃料試料を用いた燃焼実験も実施した。燃え広がり燃焼と安定燃焼の2つのモードが観察され、両モードを分ける臨界摩擦速度が確認された。
著者
末石 直也
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、経験尤度をベイズ推定の尤度として用いるベイズ推定の方法を提案し、モーメント不等式モデルの推定に応用した。事後分布の漸近的な性質を明らかにするとともに、経験尤度をベイズの尤度として用いることの有限標本での妥当性について検証した。また、本研究では、条件付モーメント制約モデルのleast favorableモデルを求めた。さらに、この結果を用いて、モデルの効率性の限界を導出するとともに、漸近的に効率的な推定量を提案した。この推定量は条件付モーメント制約モデルの経験尤度推定量として解釈することができる。
著者
土屋 晴文 榎戸 輝陽 湯浅 考行
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、雷の発生や雷雲が上空を通過する時に、ガンマ線のみならず中性子や電子の反物質である陽電子がどのようにして生成されるのかを明かすことを目的としていた。そのため、冬に雷が頻発する日本海沿岸の柏崎刈羽原子力発電所構内において、雷や雷雲からの放射線の観測を実施してきた。2017年2月に発生した雷に伴い、発電所の構内に備えたわれわれの検出器が雷の発生から100 ms ほど続く強烈なガンマ線と陽電子の兆候を示す信号を捉えた。詳細な解析により、雷の中でガンマ線と大気中の窒素との間で光核反応と呼ばれる核反応が発生し、中性子や陽電子の起源となることを世界で初めて実証した。
著者
神山 真一
出版者
神戸市立星和台小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

教師がアーギュメント構成能力の育成に自信をもって取り組むには, 自らアーギュメントの指導法を具体的に立案したり実践したりする活動が必要である(McNeillら, 2016)。山本・神山(2017)の研究によって, アーギュメントを構成, 評価する教師の能力向上が報告されているが, そのプログラムは主に講義とワークショップで構成されており, 授業実践を伴う教師教育方略は未開発であった。そこで, 本研究では, アーギュメントを小学校理科授業に導入するための授業実践を伴う教師教育方略を開発した。対象は, アーギュメントを指導した経験のない現職小学校教員Mの1名であった。プログラムの概要は, 以下の通りであった。授業準備段階では, 4つの活動を設定した。まず, アーギュメントに関する研修会(90分)を行い, ①理科教育におけるアーギュメントの定義や意義が理解できるような講義とワークショップ(90分)を行った。次に, 単元の検討会(90分)において, ②指導するアーギュメント構造を決定した。構造は, 主張・証拠・理由付けからなる単純なバリエーションとした。その際は, ③アーギュメント各構成要素の内容を決定した。具体的には, 「主張」に対する適切な学習問題, 「証拠」で児童が収集するデータの量や質, 「理由付け」として位置付く科学的原理をそれぞれ学習内容と具体的に照らし合わせて検討することであった。単元の検討会では, さらに, ④アーギュメントを単元や1時間の授業の中に導入するタイミングの吟味を行った。授業実施段階では, 授業(45分)についてリフレクション(120分)を行った。その際は, 3つの活動を設定した。活動は, ⑤授業の動画記録を視聴してアーギュメントの指導場面を特定し, ⑥考察場面でなされた児童の発言をアーギュメントの構成要素に分類することであった。さらに, リフレクションでは, ⑦授業記録を基に, 板書やワークシートでの支援方法の吟味を行った。
著者
能美 佳央
出版者
秋田県教育庁高校教育課
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

本研究の主目的は, システム思考力の育成である。生徒の学習過程と成果について, 形成的アセスメント視点もって評価を行った。今年度を, 平成27年度から29年度の3カ年研究の最終年次と位置付けた。対象教科科目は高等学校「生物」および「総合的な学習の時間」で, 単元は「生態系と生物の多様性」である。総合的な学習の時間の内容と連動させ, 教科横断的な教材となるようにした。システム思考力の育成を図るアセスメントツールとして, 因果ループ図(CLD)を取り入れた。個人による活動, グループによるピア・アセスメント, さらにグループによるCLDの作成活動がアセスメントサイクルである。学習過程における自己・相互評価は学習意欲の向上に大きく影響を及ぼしていることが事後の質問紙調査, インタビューの内容から確認された。CLDを学習に取り入れることで, 現在学校現場に求められている「深い学び」に繋がる可能性があると考える。今後も他教科でも活用できるような汎用性の高い本質的な問いの設定及びCLDの活用方法の改善に取り組んでいく必要がある。
著者
金子 俊明
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

聴覚障害生徒を対象とした聴こえと音声について考える学習において、生徒が主体的に音声ペンを活用するための授業デザインについて実践を通した検討を行った。音声ペンの利点は学習の題材とする音声を容易に録音できること、録音から音声の聴き取りまでの学習をアクティブラーニングの要素を加えて展開できること等である。実践では、はじめに生徒2人1組で音声ペンを活用して音声を録音し、ドットコードのシールとリンクさせ、さらに聴き取りのヒントも加えて実習用の音声カードを作成した。ワークシートにイラストやヒントの文を書き、音声ペンにリンクするシールを貼った上で切り抜き、ラミネートして音声カードを作る作業への生徒の取り組みは良好であった。次に、このカードを用いて音声の特徴を考える学習を展開した。録音した音声は、音声ペンの外部出力端子から外部スピーカーを通して再生し、発話者の特徴・音声の内容等について推測する学習を行った。学習後には、興味・関心、取り組みの態度、音声の区別、部分的把握、内容の推測等の評価項目について、生徒の主観的評価を調べた。その結果、音声ペンを用いて音声について考える学習に対する生徒の評価は良好であった。また、音声ペンを活用した主体的な学習と従来のサンプル音を用いた学習とで、客観テストに対する聴取正答率を比較した。その結果、5%水準で有意差が認められ、音声ペンを用いた学習には効果が見込めることがわかった。生徒の補聴の実態には個人差が大きいが、音声ペンを用いたアクティブラーニングのデザインを検討することで、聴こえと音声について考える学習をさらに推進できる可能性があることが示唆された。
著者
堀部 要子
出版者
春日井市立西山小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

本研究は、校長のマネジメントのもとに児童の学習面及び行動面の困難さへの支援方法を検討し、効果的な学校経営モデルを作成することを目的とした。米国のRTIモデルを応用した3層の支援システムを組み、全校児童を対象とする支援を実施した。学習面では、①ステップ1 : 授業のユニバーサルデザイン化による授業内での学習支援、②ステップ2 : 対象児童を絞り込みながらの読み書き計算の取り出し学習支援、③ステップ3 : 通級指導教室における個別の教科の補充指導を実施した。行動面では、①ステップ1 : クラスワイドのソーシャルスキル・トレーニング(以後、SST)、②ステップ2 : 取り出し少人数SST、③ステップ3 : 通級指導教室における個別のSSTを実施した。全校スクリーニングテスト、アンケートQ-U(以後、Q-U)(河村, 1999)、行動観察、児童・教員アンケートから効果の検証を行った。学習面のステップ1では、教員が学級児童のアセスメントに基づいた焦点化・視覚化・共有化を意識した授業づくりに取り組むようになるとともに、児童の授業への参加度が高まった。ステップ2では、在籍数の約10%の児童を対象に学習支援を実施した結果、対象児童の基礎的な学力が向上した。行動面のステップ1では、児童全体のソーシャルスキルの向上が観察され、Q-U得点のt検定による分析の結果、教育的な効果のある有意差が認められた。ステップ2では、在籍数の約3%の児童を対象に少人数SSTを実施した結果、学級での般化がみられるようになった。その後、学習面・行動面で改善の少ない児童が、ステップ3で個別の集中的な指導を受け、課題の改善に向かっている。本研究実践により、対象を絞り込みながら段階的に支援を進める多層指導モデルを導入した校内支援システムの有効性が示された。今後は、校長の機能的な関わり方を見直し、学校経営モデルとして整理していきたい。
著者
卯川 久美
出版者
社会医療法人生長会府中病院
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

目的 : プロアクティブ行動は先行研究において適応に影響することが明らかになっている。看護学分野において、職場適応に関連した研究は蓄積されつつあるが、プロアクティブ行動のように新人看護師を積極的に自身の適応を促す主体としてとらえた研究は少ない。したがって、本研究では新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動が職場適応に及ぼす影響を検討する。方法 : 全国の病床数200床以上の病院に勤務する、就職後一部署にとどまっている社会人経験のない新人看護師1349名を対象に、①新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度、②職場適応状態尺度、③個人属性からなる質問紙調査を実施した(2017年9月~2017年10月)。新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度は信頼性・妥当性の確保が検討されており、〈看護技術習熟行動〉〈人間関係構築行動〉〈積極的学習行動〉〈他者からのフィードバック探索行動〉の4つの構成要素、20項目からなる。職場適応状態尺度は〈看護実践への効力感〉〈仕事への肯定感〉〈チームへの所属感〉〈独り立ちした自覚〉の4つの構成要素、26項目からなる信頼性・妥当性が検討された尺度である。倫理的配慮 : 大阪府立大学看護学研究科研究倫理委員会の承認を受けて実施した。結果 : 293名(回収率21.7%)から回収し、272名(有効回答率20.2%)を分析対象とした。新人看護師のプロアクティブ行動が職場適応に影響を及ぼすという概念枠組みに基づき、共分散構造モデルを構成し分析を行った。結果、1回目の分析ではRMSEAが基準値を超えていたため、修正指数と改善度を参考に[職場適応]の〈看護実践への効力感〉と〈チームへの所属感〉および〈看護実践への効力感〉と〈独り立ちした自覚〉の誤差変数間にそれぞれ共分散を設定し再分析を行った。結果、モデルの適合度は、GFI=0.963、AGFI=0.922、CFI=0.965、RMSEA=0.074であった。[プロアクティブ行動]から[職場適応]へのパス係数は0.77、決定係数は0.59を示した。考察 : 新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動は職場適応に影響を及ぼすことが確認された。新人看護師のプロアクティブ行動を育成することは、新人看護師の職場適応を促進することに繋がるのではないかと考える。
著者
松塚 ゆかり 水田 健輔 佐藤 由利子 米澤 彰純
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29年度の研究目的は、マクロデータを用いて学生と高度人材の国家間移動と移動を規定する要因を分析することであり、課題中心的観点から理論、定量、定性研究を組み合わせて以下を遂行した。1.理論研究: モビリティーを軸に、公共財政論、人的資本論、規模の経済性理論、国際流動化論、移民論等の基礎文献を収集・整理し、共用ドライブ上で研究メンバー間で共有するとともに、定量研究のための仮説を整えた。2.定量研究: (1) 学生と高学歴者の国家間移動データをUNESCO:UISとOECD移民データベース(DB)等から、(2) 経済力、雇用、所得格差等の経済指標をWorld Development Indicators等から、(3) 就学歴、大卒収益率、高等教育費公私負担率等の教育指標をEducation at Glance等から収集、統合・加工した後、各国が提供するデータで補強し、高等教育をめぐるモビリティーとその規定要因を分析するためのデータベース(Database for Higher Education Mobility〈DHEM〉)を構築した。DHEMは研究メンバーの専門と関心を軸に複数にデータセット化し、専用ドライブで共有して分担分析した。さらに、平成30年度の計画研究である個票データの収集を試行し、DBの具体的設計を終えた。3.定性研究: 平成30年度の米国現地調査に向けて上記の定量及び理論研究の成果を参考に、訪問候補の政府機関と大学の情報収集、調査プロトコールと質問項目の作成を進めた。4.研究成果の公開: 全米比較国際学会でのパネル会議開催の申請が採択され、同学会で上記の理論研究、定量研究の成果を発表した。 発表件数: 7件、研究論文: 1件、図書: 1件
著者
吉田 仁美
出版者
岩手県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29年度は、第一に、主に内外の文献収集につとめた。その際には統計情報も収集し、現在、文献を整理し分析を行っている。また、統計情報に関しては国連統計委員会などの情報がウェブ上に掲出されており、常に動向をチェックする必要があったので、インターネット上の情報も参考にした。第二に、障害統計やデータに関して重要だと思われる関連文書、国際的文書、データを収集して分析・考察を行った。中でも、障害統計の整備に向けて重要だと思われる「ワシントン・グループ」の活動に着目して研究を進めた。同時に国連統計委員会を支える「シティ・グループ」への理解を深めることも意識的に行った。第三に、障害測定に関してワシントン・グループが開発した「短い質問セット」が世界各国でどのように使用されているか(国勢調査、全国調査、障害モジュール、事前テスト等)文献資料やインターネットからの情報をもとに調べた。このことと関連して、障害測定の枠組みの基礎となるWHOのICF(国際生活機能分類)の形式について検討を行った。第四に、これらの研究に関して、自主的な研究会や英語文献学習会を開催するなどして継続的に研究を続けられるように工夫をした。本研究は外国語文献に依拠することが多く、専門用語の翻訳等は注意深く行う必要があった。その場合は適宜、専門家の指導・助言を受けながら進めた。第五に、日本の高等教育の障害者のニーズを把握するために先進的な取り組みをしている大学数校にヒアリングを実施することができた。なお、今年度の成果の一部は岩手県立大学社会福祉学部紀要に投稿し、掲載された。
著者
伊藤 崇達
出版者
京都教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

日本の高等教育では,アクティブ・ラーニングが理念として掲げられてきており,その実証的な検討が求められている。本研究は,「自己調整学習(self-regulated learning)」と「社会的に共有された学びの調整(socially shared regulation of learning)」をグランドセオリーとし,「I」「You」「We」の学び手の3視点から「真正なる学びあい」がいかに成立するかについて,心理尺度をもとに実証的に検討を行った。尺度の作成にあたっては,「I」視点が,「自己調整学習」,「You」視点が「共調整された学習(co-regulated learning)」,「We」視点が「社会的に共有された学びの調整」によるものと捉え,調整を支えている中核的な心理的要素として,「動機づけ」と「動機づけ調整方略」に焦点をあてることとした。動機づけの自己調整に関する研究では,内発的な動機づけ,すなわち,興味や関心を高めるような自己調整がパフォーマンスの向上において重要であることが明らかにされている。グループ活動において,自分自身,グループのメンバー,グループの全体のそれぞれの動機づけをいかに調整しているかについて,新たに尺度を作成し,検討を行った。学びあいの真正性は,実社会での学びあいとの接続を考慮することで検討することとした。具体的には,すでに職を得ている社会人にも同様の調査を行い,大学生との比較検証によって明らかにした。グループ活動への自律的動機づけ,グループ活動のパフォーマンス指標,期待,価値といった変数との関連について検証を行い,高等教育における実践への示唆を得たところである。
著者
天野 由貴
出版者
椙山女学園大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

本研究の目的は、高大を接続する「確かな学力」における知識・技能を活用して、自ら課題を発見しその解決に向けて探究するために必要な思考力の育成と、その探究過程で学生が主体的に取り組むために重要な学習意欲を引き出す学習支援モデルの枠組みを設計することによって、学生の深い学びを促進することにある。本研究ではまず、1)ARCSモデルとそれに関連するインストラクショナルデザインに関する文献調査を行う。そのうえで、2)問いをつくるスパイラルモデルを基に、ARCSモデルを用いてインストラクショナルデザインを試みる。そして、3)2)の試作結果について、IFLA大会でのポスター参加、日本図書館情報学会などへの報告を行うことで、専門的な知見からの意見やアドバイスをもらい、モチベーション(学習意欲)を引き出し維持するための学習モデルとその枠組みへの改良を試みる。本研究は、図書館における情報リテラシー教育や学習支援において、モチベーション(学習意欲)という視点から現行の「問いをつくるスパイラル」モデルの再構成を行うと共に、高校では探究学習のテキストとして、大学では、大学に入学した学生のためのテキストとして使用されていることから、学習者が学習の意欲を向上させるためのカリキュラムを設計する枠組みを検討した。そこで、ARCSモデルアプローチ(John M. Keller)でのインストラクショナルデザインを行った結果、スパイラルモデルをカリキュラムに統合し、学習のモチベーションを向上させるための新しいフレームワークを試作した。このモデルでは、学習のモチベーションを設計するためのワークシート10枚と動機づけチェックリストを新たに追加し、そのフレームワークを8月20日、21日にポーランド、ブロツワフで開催されたIFLA World Library and Information Congress : 83rd IFLA General Conference and Assemblyでポスター発表した。ここで各国の図書館員や大学教員、図書館情報学に関連する専門職約30名から、枠組みを改良するための意見を収集し、その結果を反映した「深い学びを促進する学習支援フレームワーク」を再構築した。新しいフレームワークでは、学習意欲をひき出すために重要な、注意を引きつけ、関連性を理解し、満足感を自信につなげることに特化したワークシートの作成や授業設計を行うことを可能とした。
著者
篠田 隆行
出版者
國學院大學
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

【研究目的】学校法人会計基準の過渡期となる平成26年度(旧会計基準)と平成27年度(新会計基準)において、内部留保と収益性の開示による各大学の財務面における経営行動の変化を比較検証し、その影響を明らかにすることは、大学の財務運営研究における喫緊の課題である。そこで本研究では、「予算編成プロセス」という財務的側面にアプローチした。【研究方法】文部科学省による「学校法人の財務情報等の公開状況に関する調査結果について」を基に、大学を設置している学校法人合計666法人のうち660法人のHPを参照し、そこから得られる平成26年度と平成27年度の予算・決算数値を調査し、データ化して検証を行った。【研究成果】会計基準の変更という政策の影響と各学校法人が財務的視点においてどのように意思決定を変化させたかを事業活動収支計算書をもとに分析した。その中で以下の3点が主な成果として得られた。①666法人の財務データを調査するなかで、開示フォーマットを統一化すべきであることがわかった。これは、本研究の対象とできる法人数が303法人と約50%にしか至らなかった点から明白である。②予算に対して、決算の数値が好転する学校法人が多くあるが、一方で大幅に乖離していることもわかった。本来、予算は計画機能・統制機能・調整機能の3つの機能を有しており、その「計画機能」が著しく機能していないことがわかった。今後の経営を行う上で、改めて予算の「計画機能」を有効化する必要性が判明した。③会計基準の様式や学校の商慣行の関係で決算数値の経年検証が著しく欠如していることがわかった。これは、予算の視点が単年度となり、中長期的な計画との連関性が低くなり整合性がとれていないことも判明した。中期的視点での計画を予算に反映させ、単年度での財務コントロールをし、決算において大きな乖離を生じさせないように運営することが結果として安定した運営に繋がることが検証できた。
著者
鈴木 弘道
出版者
駒澤大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

【研究目的】2016年度、岩崎保道氏(高知大学)と共同で、IR組織の活動状況や成果等を問うアンケート調査を実施し、「どのような要素が、教育・研究・社会貢献・経営それぞれに対する貢献度向上に寄与し得るのか」を、私立大学の調査結果(79/116大学、回答率68.1%)から分析したところ、一部の業務や実態が複合的に影響を与えていることが明らかとなった。ただし、同調査では、「IR」の名称を冠する組織のみを対象にしていたため、IRを取り巻く環境の全容解明にまで至らなかったことが課題として残された。そこで、本研究では、(1)IR組織の貢献に繋がる規定要因を明らかにすること、(2)各大学のIR組織の整備に寄与すること、(3)大学職員の立場から実践的研究を行うこと、以上3つの目的を掲げ、IR名称の有無に関わらず、調査対象を全国の国公私立大学に拡大したアンケート調査の実施、及び分析を行った。【研究方法】全国の国公私立779大学のIR組織・部門等を対象に文書で依頼を行い、Web(Googleフォーム)回答方式によるアンケート調査を実施した。【研究成果】今回の調査では、257大学(回答率33.0%)から回答を得ることができた。その結果、①規模や地域によって、IR活動の実施状況に差がある点、②設置形態(国公私立)によって、貢献領域(教育・研究・社会貢献・経営)のみならず、IRの名称を関する組織の設置状況や、業務の取り組み状況が異なる傾向を示す点、などが明らかになった。さらに、本研究の柱となる貢献度の規定要因に目を向けると、IR活動としての“執行部への情報提供”“教員の研究状況に係る分析”“自己点検・評価におけるデータ活用”などの取り組みが、複数の貢献領域に渡って寄与し得る傾向が認められた。他方、IR組織が貢献するためには活動状況のみならず、本調査の項目に含まない、担当者個人のスキル向上なども重要であることから、他の研究者と連携しながら本研究をさらに掘り下げていきたい。